はじめて給料から税金が引かれてた
先月はバイトのシフトをがっつり入れてたんで,10万円とまではいかなくてもそのくらいは稼(かせ)げたなーと思って給料明細を見たら,税金が数百円引かれてて,「は?なんだよこれ?」って驚いたんですけど,いつもはこんなの引かれてなかったし,「親の扶養(ふよう)に入ってたら税金取られない」って誰かから聞いてたのに,一体どうなってんですか?
いままでとちがって,今回,突然に税金が引かれていて,びっくりしましたよね。
私たちには,税金を納める義務があります【★1】。
税金のしくみも,法律で決められています【★2】。
1ヶ月の給料が8万8000円以上になると,税金が差し引かれます【★3】。
所得税(しょとくぜい)という,国の税金です【★4】。
(今から12年後の2037年までは,所得税にプラスして,東日本大震災の復興のための税金も差し引かれています【★5】。)
そして,その差し引かれた税金は,職場があなたの代わりに国に納めます【★6】。
このしくみを,「源泉徴収(げんせんちょうしゅう)」といいます。
あなたがいままで源泉徴収されていなかった理由は,
1ヶ月の給料が8万8000円よりも少なかったからです。
「親に養(やしな)われているから源泉徴収されていなかった」,というわけではありません。
この源泉徴収されたお金は,あとで,その一部があなたの手元に戻ってくることが多いです。
あなたがほんらい納めなければいけない所得税の額は,
1年間に稼いだお金をもとに計算して,確定します。
源泉徴収は,そうやって1年間が終わって税金の額が確定する前に,
とりあえず,毎月の給料の中から税金を「先取り」しておくしくみです。
しかも,やや多めに先取りしています。
だから,ほとんどの人は,
源泉徴収されていたお金が,確定した税金の額より多いので,
多く納めすぎていたぶんが戻ってくるのです。
源泉徴収されたお金が,一部ではなく,全部戻ってくることもあります。
親に養ってもらっている10代の人のほとんどは,
1年間の給料が160万円以下なら,所得税はゼロです【★7】。
だから,源泉徴収されたお金の全部が戻ります。
(ただし,あなたの1年間の給料が123万円を超えると,今度は,あなたの親が払う税金が高くなってしまうので,注意が必要です。【★9】)
源泉徴収で多く納めすぎていたお金は,どうやったら戻るのでしょうか。
ほとんどの人は,自分で何もしなくても,自動的に戻ってきます。
あなたが年末の時点でも働いていれば,
職場が計算して,あなたに戻してくれるのです。
これを,「年末調整」といいます【★10】。
あなた自身が役所に書類を出さないですみますから【★11】【★12】,
とてもラクです。
ただし,人によっては,自動的には戻ってきません。
例えば,あなたが職場を辞め,年末の時点で別の職場でも働いていなければ,
年末調整はありません【★13】【★14】。
そのときは,あなた自身で役所に手続きをとって,お金を戻してもらいます。
1年間の税金が確定したので,その額を払います(源泉徴収で多く納めすぎていたぶんは返してください),という手続きです。
これを,「確定申告(かくていしんこく)」といいます。
2か所以上職場をかけもちしている人は,
確定申告をしなければいけない人と,する必要がない人とがいますが【★15】,
する必要がない人でも,確定申告をすれば,お金がさらに戻ってくることがあります。
確定申告は,
職場がくれる源泉徴収票という紙をもって,次の年の3月15日までに税務署に申告をします。
くわしいやり方は,税務署や,その時期に税理士が開催している相談会で,教えてもらうことができます。
年末までまだ時間がありますから,
年末調整や確定申告のことを,忘れずに覚えておいてください。
源泉徴収と年末調整のしくみは,
多くの会社員やアルバイト・パートの人にとって,
自分で確定申告をしないですむのでラクですし,
年末にお金が返ってくるので,まるで「トクしてラッキー」という錯覚(さっかく)さえあります。
国にとっても,
取りっぱぐれがなく,確実にお金を集めることができます【★16】。
納める人にとっても,お金を集める国にとっても,おたがいに便利な制度ではあるのですが【★17】【★18】,
ひとつ,とても大きな問題があります。
いままで私はあなたに,
「ほとんどの人は,源泉徴収で毎月税金が引かれて,年末調整でお金が返ってくる,
だけど,一部の人は,自分で確定申告をしないといけない」,
というニュアンスで,説明をしてきました。
ところが,じつは法律では,
自分で確定申告をして税金を納めるほうが原則で,
職場が代わりに全部手続をしてくれる源泉徴収と年末調整は,あくまで特別な納め方です。
この特別な納め方は,職場がすべて代わりに手続をしてしまうので,
税金を納めているはずの本人が,
「自分は税金を納めている」という納税者としての自覚を持ちづらくなります。
それが,とても大きな問題なのです【★19】。
あなたは今回,初めて源泉徴収をされたので驚いてくれましたが,
これが何年・何十年と続いて,しだいに当たり前のようになっていき,
やがて,税金の額をそれほど気にしなくなってしまう,
そんな大人たちが,たくさんいます。
自分が納める額すら気にしないので,
納めた先,その税金がどう使われているかも,まったく気にしない人が多いのです。
世の中には,税金を「取られる」,という言い方をする人が,多くいますね。
私は,その表現はおかしいと思っています。
税金は,
むかしの年貢(ねんぐ)のように「お上(かみ)から取られるもの」ではありませんし,
むかしの年貢のように「取られたら,あとはお上が勝手に使うもの,自分たちには関係ない」というものではありません。
税金は,
私たちの社会をみんなで作っていくために「自分たちで出し合うもの」,
私たちの社会をみんなで作っていくために「使い方を自分たちできちんとチェックするもの」です。
自分のお金を使うときには,なるべく安くていい物を買えるように気をつけますよね。
そうでない人は,親からむだづかいをしないように注意されることも多いでしょう。
それと同じように,
自分たちで出し合った税金が,
きちんと自分たちの社会のために使われているか,
むだづかいがされていないかどうか,
納めた先の税金の使われ方を,いつも注意してみてください。
そして,使われ方がおかしいときには,「おかしい」と声をあげてください。
人々が税金に関心を持たないほうが,
税金を集めて使う側にとっては,都合がいいのです。
だからこそ,源泉徴収と年末調整のしくみで「ラクだ,ラッキーだ」と考えずに,
今回税金を引かれて驚いた気持ちをいつまでも忘れることなく,
納税者としての自覚をもって,税金の使われ方をいつもきちんとチェックする,
社会のきちんとしたメンバーの一人になってほしい,と,私は強く願っています。
【★1】 憲法30条 「国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負ふ(う)」
憲法の定める納税の義務は,普通教育を受けさせる義務(憲法26条2項),勤労の義務(憲法27条1項),と合わせて三大義務と言われますが,憲法で義務を定めていること自体に特別な意義があるというわけではありません。
「納税義務は,法律によって具体化されない限りは実現されえないものであり,これを定める憲法30条は,法律によらない限(かぎ)り課税されない権利を逆に保障していることになる。他方,法律として具体化されてしまえば,納税義務は一種の法律服従(ふくじゅう)義務に他ならず,他の法律と異(こと)なり,とりわけ税法に服従すべき根拠があるとも考えにくい。総(そう)じて,憲法上の国民の義務を定める規定には,格別の意義は見いだしがたい。むしろ,国民の義務の主要な問題は,国民に国法への服従義務があるか否(いな)かであろう」(長谷部恭男「憲法」104頁)
普通教育を受けさせる義務,義務教育については,「義務教育の『義務』って?」の記事を読んでみてください。
【★2】 租税(そぜい)法律主義といいます。
憲法84条 「あらたに租税を課し,又(また)は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要とする」
【★3】 あなたは,今回初めて税金を引かれたということですから,職場は1か所だけですね。もし2か所以上の職場で働いていたら,メインでない職場のほうは,給料が8万8000円未満であっても,源泉徴収されます。メインの職場は次の表の「甲(こう)欄」,サブの職場は「乙(おつ)欄」の金額です。
所得税法185条1項 「次条に規定する賞与以外の給与等について第183条第1項(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は,次の各号に掲げる給与等の区分に応じ当該各号に定める税額とする。 一 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者に対し,その提出の際に経由した給与等の支払者が支払う給与等 次に掲げる場合の区分に応じ,その給与等の金額(略) イ 給与等の支給期が毎月と定められている場合 別表第二の甲欄に掲げる税額」
国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(平成30年分)」http://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2017/data/01-07.pdf
【★4】 所得税法5条1項 「居住者は,この法律により,所得税を納める義務がある」
同法7条 「所得税は,次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について課する。 一 非永住者以外の居住者 全ての所得 (以下略)」
同法28条1項 「給与所得とは,俸給(ほうきゅう),給料,賃金,歳費及(およ)び賞与並(なら)びにこれらの性質を有する給与…に係る所得をいう」
【★5】 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法8条1項 「所得税法第5条の規定その他の所得税に関する法令の規定により所得税を納める義務がある居住者,非居住者,内国法人又は外国法人は,基準所得税額につき,この法律により,復興特別所得税を納める義務がある」
同条2項 「所得税法第6条の規定その他の所得税に関する法令の規定により所得税を徴収して納付する義務がある者は,その徴収して納付する所得税の額につき,この法律により,源泉徴収をする義務がある」
同法9条1項 「居住者又は非居住者に対して課される平成25年から平成49年までの各年分の所得税に係る基準所得税額には,この法律により,復興特別所得税を課する」
【★6】 所得税法6条 「第28条第1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者…は,この法律により,その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある」
同法183条1項 「居住者に対し国内において第28条第1項(給与所得)に規定する給与等…の支払をする者は,その支払の際,その給与等について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない」
【★7】 税金は,実際の給料の額から,いろんな「控除(こうじょ)」の金額を差し引いた「所得(しょとく)」という計算上の金額にもとづいて決まります。
給料には最低でも65万円の「給与所得控除」があり,また,どんな人にも58万円,年収の低い人には最大95万円の「基礎(きそ)控除」があります。なので,実際の給料から65万円+95万円=160万円を差し引いた残りの額(所得)に税金がかかる,つまり,160万円以下なら所得税がかからない,ということになります(令和7年の税制改正から。それまでは所得税がかからないのは103万円以下でした)。
ただし,給料のほかにも収入があれば,給料が160万円以下でも所得税が発生することがありますし,逆に,養っている人がいるとか,障害をもっているなど,特別な事情があれば,控除が増えますので,160万円を超えていても所得税がかからない場合もあります。
所得税法28条2項 「給与所得の金額は,その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする」
同条3項 「前項に規定する給与所得控除額は,次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。 一 前項に規定する収入金額が190万円以下である場合 65万円」
同法86条1項 「合計所得金額が2500万円以下である居住者については,その者のその年分の総所得金額…から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。 一 その居住者の合計所得金額が2350万円以下である場合 58万円」
同条2項 「前項の規定による控除は,基礎控除という」
租税特別措置法41条の16の2 「令和7年分以後の各年分において,居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額…が655万円(令和9年分以後の各年分にあつては,132万円)以下である場合における同法第86条第2項に規定する基礎控除の額は、同条第1項の規定にかかわらず,同項第一号に定める金額に次の各号に掲げる年分の区分に応じ当該各号に定める金額を加算した額とする。
一 令和7年分及び令和8年分 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
イ その居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額が132万円以下である場合 37万円
ロ その居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額が132万円を超え336万円以下である場合 30万円
ハ その居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額が336万円を超え489万円以下である場合 10万円
ニ その居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額が489万円を超える場合 5万円
二 令和9年分以後の各年分 37万円」
【★9】 親は,あなたを養っていることで「扶養控除」を受けるので,そのぶん「所得」が低くなり,税金が安くなっています。しかし,養われているあなたの給料が1年間で123万円を超えると,あなたが18歳以下の場合,親が「扶養控除」を受けられなくなるので,その分「所得」が多くなり,税金が多くなるのです。あなたが19歳以上23歳未満の場合(大学生の年代),あなたの給料が123万円を超えると,親の「扶養控除」はいきなりゼロになるのではなく,あなたの収入に応じて扶養控除額が徐々に減ります(親の税金が徐々に多くなる)。
所得税法84条1項 「居住者が控除対象扶養親族を有する場合には,その居住者のその年分の総所得金額…から,その控除対象扶養親族1人につき38万円(その者が特定扶養親族である場合には63万円…とする。)を控除する」
同条2項 「前項の規定による控除は,扶養控除という」
同法84条の2 「居住者が生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族…で控除対象扶養親族に該当しないもの(以下この項及び次項において「特定親族」という。)を有する場合には,その居住者のその年分の総所得金額…から,その特定親族1人につきその特定親族の次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
一 合計所得金額が85万円以下である特定親族 63万円
二 合計所得金額が85万円を超え115万円以下である特定親族 63万円からその特定親族の合計所得金額のうち84万1円を超える部分の金額に2を乗じた金額(当該乗じた金額が10万円の整数倍の金額から8万円を控除した金額でないときは,10万円の整数倍の金額から8万円を控除した金額で当該乗じた金額に満たないもののうち最も多い金額とする。)を控除した金額
三 合計所得金額が115万円を超え120万円以下である特定親族 6万円
四 合計所得金額が120万円を超える特定親族 3万円」
同条3項 「第1項の規定による控除は,特定親族特別控除という」
【★10】 所得税法190条 「給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で,第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が2000万円以下であるものに対し,その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合…において,同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは,その超過額は,その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当(じゅうとう)し,その不足額は,その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならない (以下略)」
【★11】 あなたが働き始める時,職場に「扶養控除等申告書」という書類を出していると思います。この書類を職場に出してあれば,職場が年末調整をしてくれます(所得税法190条【★10】)。
あなたが職場を2か所以上かけもちしている場合は,この「扶養控除等申告書」は,メインの職場にしか出すことができません。メインでないほうの職場は,源泉徴収の金額もちがってきますし(【★3】の乙欄の額が引かれます),年末調整も行いません。
【★12】 所得税法121条1項 「その年において給与所得を有する居住者で,その年中に支払を受けるべき第28条第1項(給与所得)に規定する給与等…の金額が2000万円以下であるものは,次の各号のいずれかに該当する場合には,前条第1項の規定にかかわらず,その年分の課税総所得金額…に係る所得税については,同項の規定による申告書を提出することを要しない。 一 一の給与等の支払者から給与等の支払を受け,かつ,当該給与等の全部について第183条(給与所得に係る源泉徴収義務)又は第190条(年末調整)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において,その年分の利子所得の金額,配当所得の金額,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額,譲渡所得の金額,一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額…が20万円以下であるとき」
【★13】 職場を辞めても,年末までに新しい職場で働き始めていれば,年末の時点での職場で年末調整がなされます。
所得税法190条【★10】第一号 「その年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等(その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には,当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む。…)につき第183条第1項(源泉徴収義務)の規定により徴収された又は徴収されるべき所得税の額の合計額」
【★14】 1年間の給料が2000万円を超える人も,年末調整はされず,自分で確定申告が必要です(所得税法190条【★10】「給与等の金額が2000万円以下であるもの」,同法121条1項【★12】「給与等…の金額が2000万円以下であるもの」)。
【★15】 2か所以上で働いている人は,メインでない職場の給料が1年間で20万円以下か,そうでなくても全ての職場の給料の合計が1年間で150万円以下なら,確定申告をする必要はありません。しかし,記事本文で書いたとおり,する必要がなくても,確定申告をすれば,多く納めすぎていたぶんが戻ってくることがあります。
所得税法121条1項【★12】第二号 「二以上の給与等の支払者から給与等の支払を受け,かつ,当該給与等の全部について第183条又は第190条の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において,イ又はロに該当するとき。 イ 第195条第1項…に規定する従たる給与等の支払者から支払を受けるその年分の給与所得に係る給与等の金額とその年分の給与所得及び退職所得以外の所得金額との合計額が20万円以下であるとき。 ロ イに該当する場合を除き,その年分の給与所得に係る給与等の金額が150万円と社会保険料控除の額,小規模企業共済等掛金控除の額,生命保険料控除の額,地震保険料控除の額,障害者控除の額,寡婦控除の額,ひとり親控除の額,勤労学生控除の額,配偶者控除の額,配偶者特別控除の額,扶養控除の額,及び特定親族特別控除の額との合計額以下で,かつ,その年分の給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下であるとき。」
【★16】 平成30年度の所得税の予算額は17兆9480億円ですが,そのうち約83%にあたる14兆8740億円が,源泉徴収で納められる予定です(財務省「平成29年度30年3月末租税及び印紙収入,収入額調」)
【★17】 最高裁大法廷昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁 「給与所得者に対する源泉徴収制度は,これによって国は税収を確保し,徴税手続を簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず,担税者(たんぜいしゃ)の側においても申告,納付等に関する煩雑な事務から免(まぬか)れることができる。また徴収義務者にしても,給与の支払いをなす際所得税を天引きしその翌月10日までにこれを国に納付すればよいのであるから,利するところ全くなしとはいえない。されば源泉徴収制度は,給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり,効率的であって,公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない」
【★18】 源泉徴収・年末調整は,雇われている側にも,税金を集める側にも便利な制度ですが,職場にとっては事務手続が負担です。「どうして職場が国などの代わりにその負担を負わないといけないのか」という問題もあります。それが争われた裁判もありましたが,最高裁は,源泉徴収制度は憲法に違反しないと言っています(最高裁大法廷昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁)。
【★19】 「徴収確保の観点からは,わが国の源泉徴収制度はきわめて進歩した制度であり,また,それは,源泉徴収の対象となる所得の支払者に租税徴収機構の一翼(いちよく)をになわせることによって,行政コストの節約にも大きく寄与している。それは,特に給与所得の源泉徴収について著(いちじる)しい。では,わが国の源泉徴収制度は,民主主義的税制ないし民主主義的租税思想の観点から見て,果たして進歩した制度であるといえるであろうか。民主主義的租税制度の観点からは,国家は主権者である国民自身によって財政的に支えられるべきものであるから,国民が自(みずか)らの責任において自らの税額を計算し,自らの責任においてそれを納付する制度が好ましい。申告納税制度が自己賦課(じこふか)(self-assesment)の制度と呼ばれるのは,そのためである。この見地からは,給与所得について原則として年末調整によってすべての課税関係を終了させる制度は,どんなに行政効率の観点からはメリットがあるとしても,決して好ましいものではない」(金子宏「わが国の所得税と源泉徴収制度」,『所得課税の法と政策』172頁)






