2026年1月 1日 (木)

親の宗教で苦しい思いをしている

 私の母親は,ある宗教の熱心な信者です。私は小さい頃からお祈りや集会に連れて行かれていました。学校行事で参加できないものがあったり,友だちと遊べなかったりしましたが,小学校の頃までは,親や宗教の人の言うとおりにしていました。でも,次第にそういうことがしんどくなってきました。集会や活動で勉強の時間を取れなくなったり,好きな人との恋愛まで禁じられたりするのもつらくて,宗教の教えそのものに疑問を感じるようになりました。宗教と距離を置きたいと思っていますが,親に逆らうのは怖いし,親を悲しませたくない思いもあって,どうすればいいのかわかりません。




 その宗教と距離を置きたいというあなたの気持ちは,まったく自然なものです。

 今のあなたと宗教との関係をどうしていくか,

 今の親との関係をどうしていくか,

 これからのあなたの人生をあなた自身がどう歩んでいくか,

 一人で抱え込まず,みんなで一緒に考えていきましょう。

 


 2022(令和4)年7月,元首相(元総理大臣)が街頭演説中に銃で撃たれて亡くなるという事件が起きました。

 その事件の犯人は,親がある宗教を熱心に信じていて,そのために家族がとても苦しい生活・人生を送っていたと報じられました。

 殺害された元首相は,その宗教の行事にビデオメッセージを送っていました。

 


 事件が起きた3か月後の10月,国(厚生労働省)は,「宗教が背景にあっても,児童虐待(ぎゃくたい)にきちんと対応する」という通知を出しました【★1】

 さらに2ヶ月後の12月には,どんなことが虐待に当たるかを具体的に示したガイドラインを公表しました【★2】

 

 国のガイドラインでは,例えば次のようなことが,宗教が理由であっても虐待に当たる可能性がある,としています。

 

 宗教の行事で真面目に話を聞いていなかったなどという理由で,叩(たた)いたり,ムチで打ったりすること【★3】

 「地獄に落ちる」「罰が当たる」などと言ったり動画を見せたりして,恐怖をあおったり脅(おど)したりすること【★4】

 宗教活動を優先して,きちんと子育てをしないこと【★5】

 宗教に多額の寄付をして,子どもに十分な食事や服を与えないこと【★6】【★7】

 子どものアルバイト代や奨学金を取り上げて,宗教に寄付すること【★8】【★9】

 病院に行かせなかったり,必要な治療をさせなかったりすること【★10】【★11】

 学校行事の参加を制限すること【★12】

 高校・大学への進学や就職を制限すること【★13】

 子どもの友だちを「敵」「サタン」などと呼んだり,友だち付き合いを制限したりすること【★14】

 アニメやマンガやゲームを一切禁止して,宗教が認めたものしか許さないこと【★15】

 性経験を宗教関係者に話すよう強制すること【★16】

 

 

 参加したい学校行事に,宗教が理由で参加できなかったり,

 勉強したいのに,宗教活動のために勉強の時間がなかったりするのは,

 あなたの学ぶ権利が傷つけられている状態です【★17】

 

 友だちと遊びたいのに,宗教が理由で許されないのは,

 あなたの育つ権利や遊ぶ権利が傷つけられている状態です【★18】

 

 好きな人との恋愛を禁じられていることも含めて,

 あなたの生活と人生が,疑問に感じている宗教から縛(しば)られているのは,

 あなたの幸せに生きる権利が傷つけられている状態です【★19】

 

 あなたのケースは,国のガイドラインに照らして,虐待に当たる可能性が高いです。

 私たちの社会は,そのようなあなたの力になりたいと思っています。

 



 どんな人にも,宗教を信じる・信じないの自由があります【★20】

 それは,子どもも同じです。

 世界の約束である子どもの権利条約も,

 子どもに宗教の自由があることをはっきりと認めています【★21】

 どの宗教を信じるか/信じないかは,

 親が決めることではなく,子ども自身が決めることです。

 

 以前,私はこのブログで,「『そのサークルは宗教だからダメ』と親が言ってくる」という記事を書きました。

 その記事に書いたように,親は,悪質な宗教から子どもを守る立場にあります。

 

 子どもの権利条約は,

 「子どもにも宗教を信じる自由がある」としながらも,

 「年齢や判断する力に応じて,親が子どもを見守ろう」と言っています。

 もう少し正確に紹介すると,

 親には,子どもの「発達しつつある能力」に合うかたちで「指示を与える権利と義務」がある,という条文です【★22】

 

 親が自分の信仰に基(もと)づいて子どもを育てることは尊重されますが【★23】

 この条文は,親が自分の宗教を子どもに無理やり信じさせたり,強制したりすることまで認めるものではありません。

 

 条約が親に認めているのは,

 子どもに「指示を与える」権利と義務であって,

 子どもに「親の宗教を信じさせる」権利ではありません。

 

 たとえ幼い子どもであっても,

 親の宗教を無理やり信じさせるのではなく,

 子どもが自分の「宗教を信じる自由/信じない自由」をしっかり身につけられるように,

 親がきちんと意識して,子どもと接しなければなりません【★24】

 

 そして,

 子どもが成長するにつれて,自分で判断する力がついてくれば,

 親は,子ども自身の信じる/信じない自由を,よりいっそう尊重しなければならないのです【★25】

 

 虐待に当たるケースはもちろんのこと,

 そこまで明確に虐待とは言えないケースであっても,

 宗教を信じる/信じないは,子ども自身が決めることです。

 

 子どもは,親の付属物ではありません。

 子どもも,一人の独立した人間です。

 親が子どもに自分の宗教を強制することはできません。

 




 「親は親,あなたはあなた。あなたは好きなように生きていい」,

 そう言われても,簡単には割り切れない人のほうが多いと思います。

 

 「宗教から離れたら,親は自分を愛してくれなくなるかもしれない」,

 「宗教から離れたら,天罰が下るかもしれない」,

 いろんな不安があると思います
【★26】

 

 宗教から離れられるようになったあとも,

 子どもの頃に教えられてきた宗教がずっと影響して,

 不安定な気持ちになったり,生活が難しかったり,ひとりぼっちに感じたりする人もいます【★27】

 


 今,さまざまな宗教の2世の当事者の人たちが,声を上げています【★28】【★29】

 菊池真理子さんがその声を描いた漫画の最後にある,

 「神や仏に愛されるよりも 私たち 親に愛されたかった」という言葉は【★30】

 きっと,あなたの言葉でもあると思います。

 


 私たちの社会は,親の宗教で苦しんでいる子どもたちの力になりたいと,強く思っています。

 


 あなたはひとりぼっちではありません。

 ぜひ,あなたの話と気持ちを受け止めてくれる,あなたが信頼できる身近な大人に相談してください。

 学校や児童相談所やいろんな役所の大人,そして私たち弁護士も,あなたの力になります。

 一人で抱え込まず,みんなで一緒に考えていきましょう。

 




【★1】 2022(令和4)年10月6日厚生労働省子ども家庭局長「市町村及び児童相談所における虐待相談対応について」(子発1006第3号)
「1.基本的考え方
 児童虐待防止法第2条各号に該当(がいとう)する行為(こうい)を保護者が行った場合には,宗教の信仰等保護者の意図にかかわらず児童虐待に該当しうるものであること。
 2.具体例
児童虐待の定義の具体的内容については,子ども虐待対応の手引き第1章の1(2)子ども虐待の定義においてお示ししているところであるが,保護者の宗教の信仰といったことを理由とするものであっても,例えば,
①身体的暴行を加える
②適切な食事を与えない
③重大な病気になっても適切に医療を受けさせない
④言葉による脅迫,子どもの心・自尊心を傷つけるような言動を繰り返し行う
といったことは,児童虐待に該当しうるものであること。
 3.その他
個別の事例に関して,児童虐待であるかどうかの判断は,子どもの状況,保護者の状況,生活環境等に照らし,総合的に判断されたいこと。また,その際には,保護者の信仰に関連することのみをもって消極的な対応を取らず,また,子どもの側に立って判断すべきであること。」
【★2】 2022(令和4)年12月27日厚生労働省子ども家庭局長「『宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A』について」
【★3】 ガイドライン(【★2】)「問2-2 教義に関する講義などの宗教的行事に参加している中で,まじめに話を聞いていなかった,居眠りをしていたなどの理由により,保護者が児童を平手で叩く,鞭(むち)で打つといったことは,児童虐待に当たるか。」「(答)理由の如何(いかん)にかかわらず,児童を叩く,鞭で打つなど暴行を加えることは身体的虐待に該当(がいとう)する。」
【★4】 ガイドライン(【★2】)「問3-1 宗教活動や布教活動への参加強制や人生選択の強制,激しい言葉での叱責(しっせき)や霊感的な言葉を用いての脅(おど)し等により幼少期からの継続的な恐怖の刷(す)り込み等は児童虐待に当たるか。また,児童を宗教活動等に参加させることを目的として,あるいは,児童が参加に消極的(しょうきょくてき)であるといったことを原因・きっかけとして,無視する行為(こうい),常(つね)に拒絶的(きょぜつてき)・差別的な態度をとることについてはどうか。」「(答)『~をしなければ/すれば地獄に落ちる』,『滅(ほろ)ぼされる』などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童を脅すこと,恐怖の刷り込みを行うこと,児童を無視する・嫌がらせをする等拒否的な態度を継続的に示すことで,宗教活動等への参加を強制することや進路や就労先等に関する児童本人の自由な決定を阻害(そがい)すること(保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入の拒否等を含む。)は,いずれも心理的虐待又はネグレクトに該当する。」
【★5】 ガイドライン(【★2】)「問4-7 児童の養育を著(いちじる)しく怠(おこた)る場合にはネグレクトに該当(がいとう)するものであるが,背景として奉仕活動や宣教(せんきょう)活動といった宗教等に関する活動(修練会,セミナー,聖地巡礼等)がある場合には,児童虐待に当たるか。」「(答)奉仕活動や宣教活動といった宗教等に関する活動(修練会,セミナー,聖地巡礼等)への参加などにより,児童の養育を著しく怠る行為は,背景に宗教団体等による勧誘等がある場合であってもネグレクトに該当する。」
【★6】 ガイドライン(【★2】)「問4-2 宗教等の信仰活動等を通じた金銭の使い込み(寄附,寄(きしん)等の呼称(こしょう)の如何(いかん)を問わない。)により家庭生活に大きな支障(ししょう)が生じ,養育環境の観点から適切な住環境,衣類,食事等が提供(ていきょう))されていない場合や,児童の小学・中学・高校・大学への登校や進学等の教育機会の提供に支障が生じているような場合については,児童虐待に当たるか。」「(答)宗教等の信仰活動等を通じた金銭の使い込みの結果家庭生活に支障が生じる場合も含め,児童に対し,養育環境の観点から適切な住環境,衣類,食事等を提供しない行為(こうい))はネグレクトに該当(がいとう)する。同様の行為により,義務教育である小学校・中学校への就学,登校,進学を困難とさせることもネグレクトに該当する。高等学校への就学・進学に関しても,児童本人が就学・進学を希望しており,合理的な理由なく信仰する宗教等の教義を理由として就学・進学を認めない行為は,児童の自立を損(そこ)ねその心情を傷つける行為としてネグレクト又は心理的虐待に該当する。大学への就学・進学に関しては,問4―3(答)のとおりである。(以下略)」
【★7】 この記事の最初に書いた殺人事件が起きたあと,「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」ができました。この法律で,親の寄付を子どもが取り消して取り戻すことができることにはなりましたが(債権者代位権の行使による扶養請求権の確保。同法10条),未成年の子どもがこのしくみを使うにはハードルがたくさんあるため,使いやすいようにすべきだと弁護士会が意見を出しています(2023(令和5)年12月14日日本弁護士連合会「宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書」15頁)
【★8】 ガイドライン(【★2】)「問4-4 児童がアルバイト等により得た収入について,児童の意思(いし)に反(はん)する形で,保護者が宗教等の信仰活動等に消費(寄附,寄進(きしん)等の呼称(こしょう)の如何(いかん)を問わない。)した場合については,児童虐待に当たるか。また,どのような支援が考えられるか。」「(答)児童の財産管理権を有(ゆう)することに乗(じょう)じ,児童のアルバイト等により得た収入(高等学校や大学等への就学,進学に関し,児童に対して貸与(たいよ)もしくは支給された奨学金等を含む。)を取り上げ,児童本人の意思に反し,客観的に見て明らかに児童の現在の生活や将来につながらない目的に消費する行為は,児童からの信頼を裏切ることなどにより児童の心情を著しく傷つける行為として心理的虐待に該当(がいとう)する。児童がアルバイト等により得た収入は,児童の財産であるから,児童の意思に反する形で,これを児童の現在の生活や将来につながらない目的の下で保護者が消費したような場合には,保護者の児童に対する不法行為が成立し得(う)る。また,保護者が宗教団体に唆(そそのか)されて児童の財産を無断で寄附したような場合には,宗教団体の児童に対する不法行為が成立するものとして,児童が宗教団体に対して直接損害賠償を請求し得る。さらに,児童相談所長が管理権喪失の審判の申立…を行い,管理権喪失の審判を得た上で未成年後見人選任の申立…を行い,未成年後見人が,児童の法定代理人として保護者に対して扶養(ふよう)請求をして扶養義務に係(かか)る債権(さいけん)を確定した上で,法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律第8条の規定に基づく取消権等を行使(こうし)することも考えられる。」
【★9】 児童虐待防止法は児童虐待として①身体的虐待,②性的虐待,③ネグレクト,④心理的虐待の4つを上げていますが(同法2条),この4つに加えて高齢者虐待防止法や障害者虐待防止法が虐待としている⑤経済的虐待が,今の児童虐待防止法では児童虐待に含まれていません。児童虐待防止法にいう児童虐待に,この経済的虐待も含める改正が必要です(2023(令和5)年12月14日日本弁護士連合会「宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書」13頁,紀藤正樹「宗教2世問題の解決への課題-法律家から見た視点」塚田穂高他「だから知ってほしい『宗教2世』問題」161頁)
【★10】 ガイドライン(【★2】)「問4-5 信仰する宗教の教え・決まり等を理由として,児童に対する治療として必要となる行為(こうい)(輸血等)を行わないといった行為は児童虐待に当たるか。」「(答)理由の如何(いかん)に関わらず,医療機関の受診を合理的な理由無く認めない行為や,医師が必要と判断する医療行為(手術,投薬,輸血等)を受けさせないこと(輸血を拒否する旨の意思表示カード等を携帯することを強制することを含む。)はネグレクトに該当する。必要に応じて,一時保護による緊急対応や児童相談所長による親権停止申立…を検討すること。」
【★11】 「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」(2008(平成20)年2月28日)は,親が宗教的理由で子どもへの輸血に反対している場合でも,子どもが15歳以上で医療についての判断能力があれば子ども自身の同意で輸血するとしています。また,子どもが15歳未満または医療についての判断能力がない場合は,児童相談所に虐待通告をして対応するとしています。
【★12】 ガイドライン(【★2】)「問4-6 信仰する宗教の教え・決まり等を理由として,児童が様々な学校行事等に参加することを制限するような行為(こうい)については児童虐待に当たるか。」「(答)児童本人が学校行事等に参加することを希望しているにもかかわらず,児童に対する適切な養育の確保や教育機会の確保等を考慮せず参加を制限する行為は,宗教の信仰(しんこう)等を理由とするものであっても,心理的虐待又はネグレクトに該当する。」
【★13】 ガイドライン(【★2】)「問4-3 宗教の信仰等を背景として児童が高校や大学等に進学することを認めないような事例について児童虐待に当たるか。」「(答)高等学校への就学,進学については問4―2(答)に記載するものと同様である。また,大学に進学することを認めない行為(こうい)(保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入等の手続の拒否のほか,学費等の必要経費に充(あ)てる金銭を得るためのアルバイトを認めないことを含む。)について,それ自体が直(ただ)ちに児童虐待に該当(がいとう)するものではないが,児童本人が進学を希望し,世帯の経済的状況等に鑑みて進学が可能である(奨学金等の支援を活用する場合も含む。)にもかかわらず,宗教上の教義等を理由とし,
・ 『~をしなければ/すれば地獄に落ちる』など児童を脅(おど)すこと
・ 『世界は破滅するので,学校に行くことは無駄である』など諦(あきら)めさせようとすること
・ 児童を無視する,経済的な援助を拒(こば)む等拒否的(きょひてき)な態度を継続的に示すこと
により進学を禁止するような行為は心理的虐待に該当する。」
「問4-8 児童の進学や就職のタイミングの際(さい)に,宗教の教義等を理由として,児童本人の希望や選択を顧(かえり)みることなく宗教上の教義等の理由により,進路を強制することは児童虐待に当たるか。」「(答)宗教上の教義等を理由とし,『~をしなければ/すれば地獄に落ちる』などの言葉を用いて児童を脅したり,児童を無視する等拒否的な態度を継続的に示したりすること,保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入の拒否等により,児童の進学や就職を実質的に制限するような行為は心理的虐待に該当する。」
【★14】 ガイドライン(【★2】)「問3-2 児童に対し,特定の宗教を信仰しない者との交友や結婚を一律(いちりつ)に制限するような行為(こうい)(誕生日会等の一般的な行事への参加を一律に制限する行為を含(ふく)む。)は児童虐待に当たるか。また,日常生活上常時,そうした者を批判(ひはん)する言動を児童に対して繰(く)り返す行為はどうか。」「(答)児童に対し,その年齢や発達の程度からみて,社会通念上一般的であると認められる交友を一律に制限し,児童の社会性を損(そこ)なうような場合には,ネグレクトに該当(がいとう)する。また,交友や結婚を制限するための手段として,問3-1(答)に記載する脅迫や拒否的(きょひてき)な態度を継続的に示すことや,児童の友人や教師など児童と交友関係を持つ者を『敵』,『サタン』その他これらに類(るい)する名を称(しょう)すること等により,児童に対して強い恐怖心を与えることは心理的虐待に該当する。」
【★15】 ガイドライン(【★2】)「問3-3 宗教の教義等を理由とし,児童に対し,童話やアニメ,漫画,ゲームといった娯楽(ごらく)を一切禁止することは児童虐待に当たるか。宗教団体等が認めたもののみに限定するといった行為(こうい)はどうか。」「(答)児童の監護教育に資(し)するため娯楽等を禁止する行為については直ちに児童虐待に当たるものではないが,社会通念に照らして児童の年齢相応だと認められる娯楽等について,宗教等を理由に一律に禁止することは心理的虐待に該当する。また,宗教団体等が認めたもののみに限定する行為についても,それが教育上の配慮等に基づく合理的な制限と認められるものでなければ,宗教の信仰等を理由とするものであっても,児童の自由意思を損ねる行為として心理的虐待に該当する。」
【★16】 ガイドライン(【★2】)「問5-2 宗教活動の一環と称し,宗教団体の職員その他の関係者に対して児童本人の性に関する経験等を話すことを児童に強制する行為(こうい)は児童虐待に該当するか。」「(答)児童に対して自身の性に関する経験を他者に開示することを強制する行為は性的虐待に該当する。また,保護者が直接的にこうした行為をせずとも,そうした行為を児童に対して行わせる場と知りながらそれを防止するための特段の手立てを取らないことは性的虐待又はネグレクトに該当する。」
【★17】 憲法26条1項「すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する。」
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)28条1項「締約国(ていやくこく)は,教育についての児童の権利を認める…(略)」
【★18】児童の権利に関する条約6条2項「締約国は,児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する。」
 同条約31条1項「締約国は,休息及び余暇(よか)についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める。」
【★19】 憲法13条「すべて国民は,個人として尊重(そんちょう)される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」
【★20】 憲法20条1項 「信教の自由は,何人(なんぴと)に対してもこれを保障する。…」
【★21】 児童の権利に関する条約14条1項「締約国は,思想,良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する」
【★22】 児童の権利に関する条約14条2項「締約国は,児童が1の権利を行使するに当たり,父母及び場合により法定保護者が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重する。」
【★23】 2023(令和5)年12月14日日本弁護士連合会「宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書」4頁
【★24】 児童の権利に関する条約5条「締約国は,児童がこの条約において認められる権利を行使するに当たり,父母若しくは場合により地方の慣習により定められている大家族若しくは共同体の構成員,法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者がその児童の発達しつつある能力に適合する方法で適当な指示及び指導を与える責任,権利及び義務を尊重する。」
 国連子どもの権利委員会・一般的意見7号(2005年)「乳幼児期における子どもの権利の実施」パラグラフ17「親(および他の者)は,子ども中心の方法で,対話することおよび模範を示すことを通じ,参加権(第12条)ならびに思想,良心および宗教の自由に対する権利(第14条)を含む自己の権利を行使する乳幼児の能力を増進させるようなやり方で『指示および指導』を与えるよう,奨励されるべきである。」
【★25】 国連子どもの権利委員会・一般的意見20号「思春期における子どもの権利の実施」パラグラフ43「委員会は,締約国に対し,条約第14条に付したいかなる留保も撤回するよう促す。同条は,子どもには宗教の自由に対する権利があることを強調するとともに,子どもに対し,その発達しつつある能力と一致する方法で指示を与える親および保護者の権利および義務を認めたもの(第5条も参照)である。すなわち,宗教の自由に対する権利を行使するのは親ではなく子どもであって,親の役割は,子どもが選択権の行使に関して思春期全体を通じてますます主体的な役割を果たしていくようになるにつれて,必然的に後退する。(以下略)」
【★26】 菊池真理子「『神様』のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~」6頁
【★27】 2023(令和5)年12月14日日本弁護士連合会「宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書」20頁
【★28】 菊池真理子「『神様』のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~」,塚田穂高他「だから知ってほしい『宗教2世』問題」,横道誠「みんなの宗教2世問題」など
【★29】 2025(令和7)年7月24日に宗教2世の8人が,同年12月18日に宗教2世の9人が,教団を相手に,教団の教えで人生を自由に選べなかったことや将来をあきらめなければならなかったことについて違法性を問う裁判を起こしました。裁判の相手方の教団は,この記事の最初に書いた,殺害された元首相がビデオメッセージを送っていた宗教です。
【★30】 菊池真理子「『神様』のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~」134頁

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2025年11月 1日 (土)

はじめて給料から税金が引かれてた

 

 先月はバイトのシフトをがっつり入れてたんで,10万円とまではいかなくてもそのくらいは稼(かせ)げたなーと思って給料明細を見たら,税金が数百円引かれてて,「は?なんだよこれ?」って驚いたんですけど,いつもはこんなの引かれてなかったし,「親の扶養(ふよう)に入ってたら税金取られない」って誰かから聞いてたのに,一体どうなってんですか?

 

 

 いままでとちがって,今回,突然に税金が引かれていて,びっくりしましたよね。



 私たちには,税金を納める義務があります
【★1】

 税金のしくみも,法律で決められています
【★2】


 1ヶ月の給料が8万8000円以上になると,税金が差し引かれます【★3】

 所得税(しょとくぜい)という,国の税金です
【★4】

(今から12年後の2037年までは,所得税にプラスして,東日本大震災の復興のための税金も差し引かれています
【★5】。)

 そして,
その差し引かれた税金は,職場があなたの代わりに国に納めます【★6】


 このしくみを,「源泉徴収(げんせんちょうしゅう)」といいます。



 あなたがいままで源泉徴収されていなかった理由は,

 1ヶ月の給料が8万8000円よりも少なかったからです。

 「親に養(やしな)われているから源泉徴収されていなかった」,というわけではありません。




 この源泉徴収されたお金は,あとで,その一部があなたの手元に戻ってくることが多いです。


 あなたがほんらい納めなければいけない所得税の額は,

 1年間に稼いだお金をもとに計算して,確定します。

 源泉徴収は,そうやって1年間が終わって税金の額が確定する前に,

 とりあえず,毎月の給料の中から税金を「先取り」しておくしくみです。

 しかも,やや多めに先取りしています。

 だから,ほとんどの人は,

 源泉徴収されていたお金が,確定した税金の額より多いので,

 多く納めすぎていたぶんが戻ってくるのです。




 源泉徴収されたお金が,一部ではなく,全部戻ってくることもあります。


 親に養ってもらっている10代の人のほとんどは,

 1年間の給料が160万円以下なら,所得税はゼロです
【★7】

 だから,源泉徴収されたお金の全部が戻ります。


(ただし,あなたの1年間の給料が123万円を超えると,今度は,あなたの親が払う税金が高くなってしまうので,注意が必要です。【★9】




 源泉徴収で多く納めすぎていたお金は,どうやったら戻るのでしょうか。


 ほとんどの人は,自分で何もしなくても,自動的に戻ってきます。


 あなたが年末の時点でも働いていれば,

 職場が計算して,あなたに戻してくれるのです。

 
これを,「年末調整」といいます【★10】


 あなた自身が役所に書類を出さないですみますから【★11】【★12】

 とてもラクです。




 ただし,人によっては,自動的には戻ってきません。


 例えば,あなたが職場を辞め,年末の時点で別の職場でも働いていなければ,

 年末調整はありません
【★13】【★14】

 そのときは,あなた自身で役所に手続きをとって,お金を戻してもらいます。

 1年間の税金が確定したので,その額を払います(源泉徴収で多く納めすぎていたぶんは返してください),という手続きです。

 
これを,「確定申告(かくていしんこく)」といいます。


 2か所以上職場をかけもちしている人は,

 確定申告をしなければいけない人と,する必要がない人とがいますが
【★15】

 する必要がない人でも,確定申告をすれば,お金がさらに戻ってくることがあります。



 確定申告は,

 職場がくれる源泉徴収票という紙をもって,次の年の3月15日までに税務署に申告をします。

 くわしいやり方は,税務署や,その時期に税理士が開催している相談会で,教えてもらうことができます。




 年末までまだ時間がありますから,

 年末調整や確定申告のことを,忘れずに覚えておいてください。





 源泉徴収と年末調整のしくみは,

 多くの会社員やアルバイト・パートの人にとって,

 自分で確定申告をしないですむのでラクですし,

 年末にお金が返ってくるので,まるで「トクしてラッキー」という錯覚(さっかく)さえあります。



 国にとっても,

 取りっぱぐれがなく,確実にお金を集めることができます
【★16】


 納める人にとっても,お金を集める国にとっても,おたがいに便利な制度ではあるのですが【★17】【★18】

 ひとつ,とても大きな問題があります。



 いままで私はあなたに,

 「ほとんどの人は,源泉徴収で毎月税金が引かれて,年末調整でお金が返ってくる,

 だけど,一部の人は,自分で確定申告をしないといけない」,

 というニュアンスで,説明をしてきました。


 ところが,じつは法律では,

 
自分で確定申告をして税金を納めるほうが原則で,

 
職場が代わりに全部手続をしてくれる源泉徴収と年末調整は,あくまで特別な納め方です。



 この特別な納め方は,職場がすべて代わりに手続をしてしまうので,

 
税金を納めているはずの本人が,

 「自分は税金を納めている」という納税者としての自覚を持ちづらくなります。

 それが,とても大きな問題なのです
【★19】



 あなたは今回,初めて源泉徴収をされたので驚いてくれましたが,

 これが何年・何十年と続いて,しだいに当たり前のようになっていき,

 やがて,税金の額をそれほど気にしなくなってしまう,

 そんな大人たちが,たくさんいます。

 自分が納める額すら気にしないので,

 納めた先,その税金がどう使われているかも,まったく気にしない人が多いのです。




 世の中には,税金を「取られる」,という言い方をする人が,多くいますね。

 私は,その表現はおかしいと思っています。



 税金は,

 むかしの年貢(ねんぐ)のように「お上(かみ)から取られるもの」ではありませんし,

 むかしの年貢のように「取られたら,あとはお上が勝手に使うもの,自分たちには関係ない」というものではありません。



 税金は,

 私たちの社会をみんなで作っていくために「自分たちで出し合うもの」,

 私たちの社会をみんなで作っていくために「使い方を自分たちできちんとチェックするもの」です。



 自分のお金を使うときには,なるべく安くていい物を買えるように気をつけますよね。

 そうでない人は,親からむだづかいをしないように注意されることも多いでしょう。



 それと同じように,

 自分たちで出し合った税金が,

 きちんと自分たちの社会のために使われているか,

 むだづかいがされていないかどうか,

 納めた先の税金の使われ方を,いつも注意してみてください。

 そして,使われ方がおかしいときには,「おかしい」と声をあげてください。



 人々が税金に関心を持たないほうが,

 税金を集めて使う側にとっては,都合がいいのです。



 だからこそ,源泉徴収と年末調整のしくみで「ラクだ,ラッキーだ」と考えずに,

 今回税金を引かれて驚いた気持ちをいつまでも忘れることなく,

 納税者としての自覚をもって,税金の使われ方をいつもきちんとチェックする,

 社会のきちんとしたメンバーの一人になってほしい,と,私は強く願っています。

 

 

 

【★1】 憲法30条 「国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負ふ(う)」
 憲法の定める納税の義務は,普通教育を受けさせる義務(憲法26条2項),勤労の義務(憲法27条1項),と合わせて三大義務と言われますが,憲法で義務を定めていること自体に特別な意義があるというわけではありません。
 「納税義務は,法律によって具体化されない限りは実現されえないものであり,これを定める憲法30条は,法律によらない限(かぎ)り課税されない権利を逆に保障していることになる。他方,法律として具体化されてしまえば,納税義務は一種の法律服従(ふくじゅう)義務に他ならず,他の法律と異(こと)なり,とりわけ税法に服従すべき根拠があるとも考えにくい。総(そう)じて,憲法上の国民の義務を定める規定には,格別の意義は見いだしがたい。むしろ,国民の義務の主要な問題は,国民に国法への服従義務があるか否(いな)かであろう」(長谷部恭男「憲法」104頁)
 普通教育を受けさせる義務,義務教育については,「義務教育の『義務』って?」の記事を読んでみてください。
【★2】 租税(そぜい)法律主義といいます。
 憲法84条 「あらたに租税を課し,又(また)は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要とする」
【★3】 あなたは,今回初めて税金を引かれたということですから,職場は1か所だけですね。もし2か所以上の職場で働いていたら,メインでない職場のほうは,給料が8万8000円未満であっても,源泉徴収されます。メインの職場は次の表の「甲(こう)欄」,サブの職場は「乙(おつ)欄」の金額です。
 所得税法185条1項 「次条に規定する賞与以外の給与等について第183条第1項(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は,次の各号に掲げる給与等の区分に応じ当該各号に定める税額とする。 一 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者に対し,その提出の際に経由した給与等の支払者が支払う給与等 次に掲げる場合の区分に応じ,その給与等の金額(略) イ 給与等の支給期が毎月と定められている場合 別表第二の甲欄に掲げる税額」
国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(平成30年分)」http://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2017/data/01-07.pdf
【★4】 所得税法5条1項 「居住者は,この法律により,所得税を納める義務がある」
 同法7条 「所得税は,次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について課する。 一 非永住者以外の居住者 全ての所得 (以下略)」
 同法28条1項 「給与所得とは,俸給(ほうきゅう),給料,賃金,歳費及(およ)び賞与並(なら)びにこれらの性質を有する給与…に係る所得をいう」
【★5】 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法8条1項 「所得税法第5条の規定その他の所得税に関する法令の規定により所得税を納める義務がある居住者,非居住者,内国法人又は外国法人は,基準所得税額につき,この法律により,復興特別所得税を納める義務がある」
 同条2項 「所得税法第6条の規定その他の所得税に関する法令の規定により所得税を徴収して納付する義務がある者は,その徴収して納付する所得税の額につき,この法律により,源泉徴収をする義務がある」
 同法9条1項 「居住者又は非居住者に対して課される平成25年から平成49年までの各年分の所得税に係る基準所得税額には,この法律により,復興特別所得税を課する」
【★6】 所得税法6条 「第28条第1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者…は,この法律により,その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある」
 同法183条1項 「居住者に対し国内において第28条第1項(給与所得)に規定する給与等…の支払をする者は,その支払の際,その給与等について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない」
【★7】 税金は,実際の給料の額から,いろんな「控除(こうじょ)」の金額を差し引いた「所得(しょとく)」という計算上の金額にもとづいて決まります。
 給料には最低でも65万円の「給与所得控除」があり,また,どんな人にも58万円,年収の低い人には最大95万円の「基礎(きそ)控除」があります。なので,実際の給料から65万円+95万円=160万円を差し引いた残りの額(所得)に税金がかかる,つまり,160万円以下なら所得税がかからない,ということになります(令和7年の税制改正から。それまでは所得税がかからないのは103万円以下でした)。
 ただし,給料のほかにも収入があれば,給料が160万円以下でも所得税が発生することがありますし,逆に,養っている人がいるとか,障害をもっているなど,特別な事情があれば,控除が増えますので,160万円を超えていても所得税がかからない場合もあります。
 所得税法28条2項 「給与所得の金額は,その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする」
 同条3項 「前項に規定する給与所得控除額は,次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。 一 前項に規定する収入金額が190万円以下である場合 65万円」
 同法86条1項 「合計所得金額が2500万円以下である居住者については,その者のその年分の総所得金額…から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。 一 その居住者の合計所得金額が2350万円以下である場合 58万円」
 同条2項 「前項の規定による控除は,基礎控除という」
 租税特別措置法41条の16の2 「令和7年分以後の各年分において,居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額…が655万円(令和9年分以後の各年分にあつては,132万円)以下である場合における同法第86条第2項に規定する基礎控除の額は、同条第1項の規定にかかわらず,同項第一号に定める金額に次の各号に掲げる年分の区分に応じ当該各号に定める金額を加算した額とする。
一 令和7年分及び令和8年分 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
 イ その居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額が132万円以下である場合 37万円
 ロ その居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額が132万円を超え336万円以下である場合 30万円
 ハ その居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額が336万円を超え489万円以下である場合 10万円
 ニ その居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額が489万円を超える場合 5万円
二 令和9年分以後の各年分 37万円」
【★9】 親は,あなたを養っていることで「扶養控除」を受けるので,そのぶん「所得」が低くなり,税金が安くなっています。しかし,養われているあなたの給料が1年間で123万円を超えると,あなたが18歳以下の場合,親が「扶養控除」を受けられなくなるので,その分「所得」が多くなり,税金が多くなるのです。あなたが19歳以上23歳未満の場合(大学生の年代),あなたの給料が123万円を超えると,親の「扶養控除」はいきなりゼロになるのではなく,あなたの収入に応じて扶養控除額が徐々に減ります(親の税金が徐々に多くなる)。
 所得税法84条1項 「居住者が控除対象扶養親族を有する場合には,その居住者のその年分の総所得金額…から,その控除対象扶養親族1人につき38万円(その者が特定扶養親族である場合には63万円…とする。)を控除する」
 同条2項 「前項の規定による控除は,扶養控除という」
 同法84条の2 「居住者が生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族…で控除対象扶養親族に該当しないもの(以下この項及び次項において「特定親族」という。)を有する場合には,その居住者のその年分の総所得金額…から,その特定親族1人につきその特定親族の次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
 一 合計所得金額が85万円以下である特定親族 63万円
 二 合計所得金額が85万円を超え115万円以下である特定親族 63万円からその特定親族の合計所得金額のうち84万1円を超える部分の金額に2を乗じた金額(当該乗じた金額が10万円の整数倍の金額から8万円を控除した金額でないときは,10万円の整数倍の金額から8万円を控除した金額で当該乗じた金額に満たないもののうち最も多い金額とする。)を控除した金額
 三 合計所得金額が115万円を超え120万円以下である特定親族 6万円
 四 合計所得金額が120万円を超える特定親族 3万円」
 同条3項 「第1項の規定による控除は,特定親族特別控除という」
【★10】 所得税法190条 「給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で,第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が2000万円以下であるものに対し,その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合…において,同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは,その超過額は,その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当(じゅうとう)し,その不足額は,その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならない (以下略)」
【★11】 あなたが働き始める時,職場に「扶養控除等申告書」という書類を出していると思います。この書類を職場に出してあれば,職場が年末調整をしてくれます(所得税法190条【★10】)。
 あなたが職場を2か所以上かけもちしている場合は,この「扶養控除等申告書」は,メインの職場にしか出すことができません。メインでないほうの職場は,源泉徴収の金額もちがってきますし(【★3】の乙欄の額が引かれます),年末調整も行いません。
【★12】 所得税法121条1項 「その年において給与所得を有する居住者で,その年中に支払を受けるべき第28条第1項(給与所得)に規定する給与等…の金額が2000万円以下であるものは,次の各号のいずれかに該当する場合には,前条第1項の規定にかかわらず,その年分の課税総所得金額…に係る所得税については,同項の規定による申告書を提出することを要しない。 一 一の給与等の支払者から給与等の支払を受け,かつ,当該給与等の全部について第183条(給与所得に係る源泉徴収義務)又は第190条(年末調整)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において,その年分の利子所得の金額,配当所得の金額,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額,譲渡所得の金額,一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額…が20万円以下であるとき」
【★13】 職場を辞めても,年末までに新しい職場で働き始めていれば,年末の時点での職場で年末調整がなされます。
 所得税法190条【★10】第一号 「その年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等(その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には,当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む。…)につき第183条第1項(源泉徴収義務)の規定により徴収された又は徴収されるべき所得税の額の合計額」
【★14】 1年間の給料が2000万円を超える人も,年末調整はされず,自分で確定申告が必要です(所得税法190条【★10】「給与等の金額が2000万円以下であるもの」,同法121条1項【★12】「給与等…の金額が2000万円以下であるもの」)。
【★15】 2か所以上で働いている人は,メインでない職場の給料が1年間で20万円以下か,そうでなくても全ての職場の給料の合計が1年間で150万円以下なら,確定申告をする必要はありません。しかし,記事本文で書いたとおり,する必要がなくても,確定申告をすれば,多く納めすぎていたぶんが戻ってくることがあります。
 所得税法121条1項【★12】第二号 「二以上の給与等の支払者から給与等の支払を受け,かつ,当該給与等の全部について第183条又は第190条の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において,イ又はロに該当するとき。 イ 第195条第1項…に規定する従たる給与等の支払者から支払を受けるその年分の給与所得に係る給与等の金額とその年分の給与所得及び退職所得以外の所得金額との合計額が20万円以下であるとき。 ロ イに該当する場合を除き,その年分の給与所得に係る給与等の金額が150万円と社会保険料控除の額,小規模企業共済等掛金控除の額,生命保険料控除の額,地震保険料控除の額,障害者控除の額,寡婦控除の額,ひとり親控除の額,勤労学生控除の額,配偶者控除の額,配偶者特別控除の額,扶養控除の額,及び特定親族特別控除の額との合計額以下で,かつ,その年分の給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下であるとき。」
【★16】 平成30年度の所得税の予算額は17兆9480億円ですが,そのうち約83%にあたる14兆8740億円が,源泉徴収で納められる予定です(財務省「平成29年度30年3月末租税及び印紙収入,収入額調」)
【★17】 最高裁大法廷昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁 「給与所得者に対する源泉徴収制度は,これによって国は税収を確保し,徴税手続を簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず,担税者(たんぜいしゃ)の側においても申告,納付等に関する煩雑な事務から免(まぬか)れることができる。また徴収義務者にしても,給与の支払いをなす際所得税を天引きしその翌月10日までにこれを国に納付すればよいのであるから,利するところ全くなしとはいえない。されば源泉徴収制度は,給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり,効率的であって,公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない」
【★18】 源泉徴収・年末調整は,雇われている側にも,税金を集める側にも便利な制度ですが,職場にとっては事務手続が負担です。「どうして職場が国などの代わりにその負担を負わないといけないのか」という問題もあります。それが争われた裁判もありましたが,最高裁は,源泉徴収制度は憲法に違反しないと言っています(最高裁大法廷昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁)。
【★19】 「徴収確保の観点からは,わが国の源泉徴収制度はきわめて進歩した制度であり,また,それは,源泉徴収の対象となる所得の支払者に租税徴収機構の一翼(いちよく)をになわせることによって,行政コストの節約にも大きく寄与している。それは,特に給与所得の源泉徴収について著(いちじる)しい。では,わが国の源泉徴収制度は,民主主義的税制ないし民主主義的租税思想の観点から見て,果たして進歩した制度であるといえるであろうか。民主主義的租税制度の観点からは,国家は主権者である国民自身によって財政的に支えられるべきものであるから,国民が自(みずか)らの責任において自らの税額を計算し,自らの責任においてそれを納付する制度が好ましい。申告納税制度が自己賦課(じこふか)(self-assesment)の制度と呼ばれるのは,そのためである。この見地からは,給与所得について原則として年末調整によってすべての課税関係を終了させる制度は,どんなに行政効率の観点からはメリットがあるとしても,決して好ましいものではない」(金子宏「わが国の所得税と源泉徴収制度」,『所得課税の法と政策』172頁)

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2025年6月 1日 (日)

障害があったら修学旅行に親も来ないとダメなの?


 小学6年生です。車椅子で,酸素の吸入(きゅうにゅう)と,痰(たん)の吸引(きゅういん)が必要な障害があるけど,特別支援学校ではなく自分の町の小学校で,毎日楽しく過ごせています。ただ,3ヶ月後の修学旅行のことで今,困っています。「ふだん学校にいる看護師さんが修学旅行には行けないので,親が付いてきてほしい」と学校から言われていて,親も「看護師がいないなら自分が行かないと」と言っています。みんなと同じように親と離れて泊まれるのを楽しみにしていたけど,無理を言ってわがままだと思われるのもいやだし,やっぱり親が来るのはしかたないんですか。




 「しかたがない」とあきらめることはありません。

 学校や教育委員会とぜひ話し合ってください。

 役所の相談窓口や私たち弁護士もお手伝いします。




 修学旅行で「みんなと同じように親と離れて泊まるのを楽しみにしていた」というあなたの気持ちは,

 わがままでも何でもありません。


 むしろ,法律的にまったく正しいことです。

 

 「学校の教育は,自主・自律(じりつ)の精神を身につけるためのもの」。

 教育基本法学校教育法という法律は,学校の教育について,そう言っています【★1】


 修学旅行は,そういった大切な学校教育の一環(いっかん)として,

 家族と離れていつもとはちがう世界に出かけて学ぶための,だいじな行事です。


 だから,ほかの子には親が付いてこないのに,あなたにだけ親が付かないといけないというのは,おかしなことです。



 酸素吸入や痰の吸引という医療的ケアをする人がいるかどうかは,あなたの命にかかわる重要な問題です。

 でも,だからといって,「修学旅行に看護師さんがいないなら,親が行くのはしかたがない」ということにはなりません。

 

 文部科学省は,2019(平成31)年に,

 「泊まりがけの校外学習でも,看護師などが医療的ケアをできるように,教育委員会と学校がきちんと体制をつくること」

 という通知を出しました【★2】


 そして,2021(令和3)年には「医療的ケア児支援法」という法律ができ,

 「親が付き添わなくてよいように,医療的ケアをする看護師などが学校にいること」とはっきり書かれました【★3】


 同じ年,文部科学省も「子どもの自立のために,親に付き添いを求めるのは,本当に必要なときだけにするように」と言っています【★4】



 もし,あなたがこの学校に転校してきたばかりで,すぐに修学旅行の日が来る,

 だから学校が看護師さんを急に探せない,というのなら,

 親に来てもらうのもしかたないかもしれません。


 でも,あなたはずっとこの学校で学んできたのですよね。


 6年生になったら修学旅行があるということは,だいぶ前からわかっていたのですから,

 ほんらい,学校が前もって準備しておくべきことです。


 しかも,修学旅行は3ヶ月も先なのですから,今からでも準備の時間は十分にあります。


 ふだん学校にいる看護師さんが修学旅行に行けないなら,

 代わりに訪問看護ステーションや病院から別の看護師さんに来てもらうなど,学校が努力しなければならないのです。



 あきらめることなく,学校や教育委員会とよく話し合ってみてください。

 話し合いがうまく進まないなら,市役所・区役所の障害者担当の窓口や,私たち弁護士に相談してください






 1989(平成元)年,世界は「子どもの権利条約」という約束ごとを作り,

 障害のあり/なしで子どもを差別することを禁止しました【★5】


 そして,障害のある子どもの尊厳(そんげん)が守られ,

 障害のある子どもが自立して社会に参加しながら暮らせるように,


 子どもの権利と,大人・社会の義務を,条約で確認しました【★6】




 さらに,世界は2006(平成18)年に「障害者権利条約」を作り,

 障害のある子どもの権利についても,くわしく確認しました【★7】【★8】



 この障害者権利条約のとても素敵なところは,

 「私たちのことを,私たち抜きに決めないで(Nothing About Us Without Us)」という合い言葉のもと,

 当事者である障害者団体が世界中から参加して,みんなでいっしょに作りあげたことです。



 ものごとを決めるときには,主人公抜きに他の人たちで勝手に決めるのではなく,

 主人公である本人・当事者の意見をきちんと聞かなければいけないということ。


 たとえば,子どもに関する決まりやルールを,当の子ども本人の意見を聞かずに大人だけで勝手に決めてしまうのも,おかしなことですよね【★9】



 この「私たちのことを,私たち抜きに決めないで」という合い言葉は,

 障害のあり/なしや,子ども/大人,そのほかにも,いろんな場面に必ずあてはまる,とても大事な考え方です。




 「障害」という言葉は,長い間ずっと,一人ひとりの体や心の機能障害という個人のがわのことだけを意味していました。

 しかし今は,障害のある人たちが暮らしづらい社会のがわの問題を,「障害」としてとらえるようになっています【★10】


 そういう考え方に立って作られた障害者権利条約は,

 障害のある人もない人もこの社会の中でともに分け隔(へだ)てなく暮らすことを,とてもだいじにしています【★11】


 このことを「インクルージョン」と言います。


 教育の場面では「インクルーシブ教育」という言葉も使われます【★12】




 そして,世界が作った障害者権利条約【★13】

 その条約をベースにして改正した障害者基本法,新しく作った障害者差別解消法という日本の法律は【★14】【★15】


 障害のある人が他の人と平等に,障害のない人と同じように社会で暮らせるように,


 一人ひとりのニーズに合わせて,社会のバリアを取り除くようにしないといけない,と決めています。


 これを「合理的配慮(ごうりてきはいりょ)」と言います。



 合理的配慮は,学校・職場・お店など,社会のいろんな場面にあてはまることですが,

 学校での合理的配慮なら,たとえば,

 車椅子の子が教室に入りやすいように,スロープを作って段差をなくす,

 ものが飲み込みづらい子のために,その子の給食にはとろみをつけて飲み込みやすくする,

 音に敏感な子のために,教室みんなの机や椅子の足にカバーをつけて雑音を少なくする,

 視力がとても弱い子のために,その子のテストの時間は他の人よりも長くする,

 そのほかにも,障害のある子一人ひとりのニーズに合わせたさまざまな合理的配慮の例があります。

 

 障害のある人の希望が,いつも必ず実現されるとはかぎらず,

 相手にとってあまりに大きな負担になる時は,実現できないこともあります【★16】

 しかし,合理的配慮については,

 希望がいつも必ず実現されるかどうかよりも,もっと重要なことがあります。

 

 これまでずっと,学校・職場・お店などの社会のがわは,

 「前例がありません」


 「あなただけ特別扱いできません」


 「もし何か事故があったらまずいので対応できません」


などと言って,障害のある人の希望をきちんと受け止めてきませんでした。

 

 合理的配慮は,そういったこれまでの社会のあり方を変えて,

 障害のある人の希望を相手がきちんと受け止め,建設的な対話をしっかり積み重ねることを,重視しているのです【★17】




 合理的配慮は,とてもだいじな法律の言葉です。

 ところが,配慮という表現が使われているために,


 まるで「思いやり」や「恩恵(おんけい)」であるかのような誤解があったり,


 そこからさらに,障害のある人を「わがまま」「クレーマー」などと非難する人さえいます。


 こういった誤解や非難は,まったくの間違いです。

 

 障害のある人が障害のない人と同じように暮らせるために社会が対応するのは,

 けっして思いやりや恩恵などではありませんし,


 障害のある人が障害のない人と同じように暮したいと望むことは,


 けっしてわがままでもおかしなクレームでもありません。




 どんな人も,障害のある人もない人も,

 一人ひとりが大切にされ,安心した毎日と幸せな人生を送れること。


 法律は,そのことを一番大切にしています【★18】



 今から48年前,有名な障害者運動家の横塚晃一さんは,

 車椅子の人のバス利用に関するバス会社の労働組合との交渉のときに,こう言いました。

 「この問題は,車イスの障害者を乗せるか乗せないか,どうやったら乗せられるかが問題ではない。

 車イスの障害者が当然乗るものという発想の転換こそ必要なのだ。」【★19】



 「どうしたら社会が障害のある人を受け入れられるか」という考え方ではなく,

 「障害のある人も障害のない人と同じように暮らせるのが当然だ」という「発想の転換」が,私たちの社会には必要です【★20】




 今回の修学旅行のことだけでなく,これから先もさまざまな場面で,ぜひ声を上げてください。

 そして,みんなでいっしょに社会をより良いものにしていきましょう。


 条約や法律は,そのための大きな力になります【★21】





【★1】 教育基本法2条「教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,次に掲(かか)げる目標を達成するよう行われるものとする。 …二 個人の価値を尊重して,その能力を伸ばし,創造性を培(つちか)い,自主及び自律の精神を養うとともに,職業及び生活との関連を重視し,勤労を重んずる態度を養うこと。」
 学校教育法21条 「義務教育として行われる普通教育は,教育基本法…第5条第2項に規定する目的を実現するため,次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。 一 学校内外における社会的活動を促進(そくしん)し,自主,自律及び協同の精神,規範(きはん)意識,公正な判断力並(なら)びに公共の精神に基(もと)づき主体的に社会の形成に参画(さんかく)し,その発展に寄与(きよ)する態度を養うこと。」
【★2】 文部科学省初等中等教育局長平成31年3月20日「学校における医療的ケアの今後の対応について(通知)」(30文科初第1769号)「9.校外における医療的ケア」「(1)校外学習(宿泊学習を含む。)」「①校外学習における医療的ケアの実施については,教育委員会及び学校は,児童生徒の状況に応じ,看護師等又は認定特定行為業務従事者による体制を構築すること。なお,小・中学校等については,原則として看護師等を配置又は活用しながら,主として看護師等が医療的ケアに当たり,教職員等がバックアップする体制を構築すること。②校外学習のうち,泊を伴うものについては,看護師等や認定特定行為業務従事者の勤務時間等も考慮した人員確保とともに,緊急の事態に備(そな)え,医療機関等との連携(れんけい)協力体制を構築(こうちく)すること。その際には,泊を伴う勤務に対応できるよう,必要に応じ各自治体における勤務に関する規則の整備をすること」
【★3】 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律10条2項「学校の設置者は,その設置する学校に在籍する医療的ケア児が保護者の付添いがなくても適切な医療的ケアその他の支援を受けられるようにするため,看護師等の配置その他の必要な措置(そち)を講(こう)ずるものとする」
【★4】 令和3年6月文部科学省初等中等教育局特別支援教育課「小学校等における医療的ケア実施支援資料~医療的ケア児を安心・安全に受け入れるために~」「保護者に付添いの協力を得ることについては,本人の自立を促(うなが)す観点からも,真に必要と考えられる場合に限るよう努めるべきである。真に必要と考えられる場合としては,例えば,医療安全を確保する観点から,入学や転入学時のほか,夏休みなどの長期休業や長期の入院の後はじめて登校する際などに,医療的ケア児の健康状態に応じて必要な情報を引き継ぐ場合などが考えられる。また,やむを得ず保護者の協力を求める場合には,代替案(だいたいあん)などを十分に検討した上で,真に必要な理由や付添いが不要になるまでの見通しなどを丁寧(ていねい)に説明することが必要である」
【★5】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)2条1項「締約国(ていやくこく)は,その管轄(かんかつ)の下にある児童に対し,児童又はその父母若(も)しくは法定保護者の人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的,種族的若しくは社会的出身,財産,心身障害,出生又は他の地位にかかわらず,いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し,及び確保する」
【★6】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)23条1項「締約国は,精神的又は身体的な障害を有(ゆう)する児童が,その尊厳を確保し,自立を促進し及び社会への積極的な参加を容易にする条件の下で十分かつ相応(そうおう)な生活を享受(きょうじゅ)すべきであることを認める」
 同条2項「締約国は,障害を有する児童が特別の養護についての権利を有することを認めるものとし,利用可能な手段の下で,申込みに応じた,かつ,当該児童の状況及び父母又は当該児童を養護している他の者の事情に適した援助を,これを受ける資格を有する児童及びこのような児童の養護について責任を有する者に与えることを奨励(しょうれい)し,かつ,確保する」
 同条3項「障害を有する児童の特別な必要を認めて,2の規定に従って与えられる援助は,父母又は当該児童を養護している他の者の資力を考慮して可能な限り無償(むしょう)で与えられるものとし,かつ,障害を有する児童が可能な限り社会への統合及び個人の発達(文化的及び精神的な発達を含む。)を達成することに資する方法で当該児童が教育,訓練,保健サービス,リハビリテーション・サービス,雇用(こよう)のための準備及びレクリエーションの機会を実質的に利用し及び享受することができるように行われるものとする」
 同条4項「締約国は,国際協力の精神により,予防的な保健並びに障害を有する児童の医学的,心理学的及び機能的治療の分野における適当な情報の交換(リハビリテーション,教育及び職業サービスの方法に関する情報の普及及び利用を含む。)であってこれらの分野における自国の能力及び技術を向上させ並びに自国の経験を広げることができるようにすることを目的とするものを促進する。これに関しては,特に,開発途上国の必要を考慮する」
【★7】 障害者権利条約7条1項「締約国は,障害のある児童が他の児童との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を完全に享有することを確保するための全ての必要な措置をとる」
 同条2項「障害のある児童に関する全ての措置をとるに当たっては,児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」
 同条3項「締約国は,障害のある児童が,自己に影響を及ぼす全ての事項について自由に自己の意見を表明する権利並びにこの権利を実現するための障害及び年齢に適した支援を提供される権利を有することを確保する。この場合において,障害のある児童の意見は,他の児童との平等を基礎として,その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする」
【★8】 障害者権利条約24条1項「締約国は,教育についての障害者の権利を認める。締約国は,この権利を差別なしに,かつ,機会の均等(きんとう)を基礎として実現するため,障害者を包容(ほうよう)するあらゆる段階の教育制度及び生涯(しょうがい)学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は,次のことを目的とする。
(a)人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ,並びに人権,基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
(b)障害者が,その人格,才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(c)障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること」
 同条2項「締約国は,1の権利の実現に当たり,次のことを確保する。
(a)障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除(はいじょ)されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと。
(b)障害者が,他の者との平等を基礎として,自己の生活する地域社会において,障害者を包容し,質が高く,かつ,無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること。
(c)個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。
(d)障害者が,その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること。
(e)学問的及び社会的な発達を最大にする環境において,完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること」
 同条3項「締約国は,障害者が教育に完全かつ平等に参加し,及び地域社会の構成員として完全かつ平等に参加することを容易にするため,障害者が生活する上での技能及び社会的な発達のための技能を習得することを可能とする。このため,締約国は,次のことを含む適当な措置をとる。
(a)点字,代替的(だいたいてき)な文字,意思疎通(そつう)の補助的及び代替的な形態,手段及び様式並びに定位及び移動のための技能の習得並びに障害者相互による支援及び助言を容易にすること。
(b)手話の習得及び聾(ろう)社会の言語的な同一性の促進を容易にすること。
(c)盲人,聾者又は盲聾者(特に盲人,聾者又は盲聾者である児童)の教育が,その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で,かつ,学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること」
 同条4項「締約国は,1の権利の実現の確保を助長することを目的として,手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し,並びに教育に従事(じゅうじ)する専門家及び職員(教育のいずれの段階において従事するかを問わない。)に対する研修を行うための適当な措置をとる。この研修には,障害についての意識の向上を組み入れ,また,適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態,手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れるものとする」
 同条5項「締約国は,障害者が,差別なしに,かつ,他の者との平等を基礎として,一般的な高等教育,職業訓練,成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。このため,締約国は,合理的配慮が障害者に提供されることを確保する」
【★9】 子どものことは,最後は大人が「子どもにとって最もよいこと(児童の最善の利益)」(子どもの権利条約3条)を判断して決めますが,その判断のためにも,子どもの意見をきちんと聞くというプロセスが必要です(意見表明権。子どもの権利条約12条)。これを,「子どもの最善の利益は,子どもの意見表明の先にある」と言ったりします。
 2009年国連子どもの委員会一般的意見12号「意見を聴かれる子どもの権利」パラグラフ74「第3条〔最善の利益〕と第12条〔意見表明権〕との間に緊張関係はなく,2つの一般原則の補完的役割が存在するのみである。一方が子どもの最善の利益を達成するという目的を定め,他方が子ども(たち)の意見を聴くという目標を達成するための方法論を用意している。実のところ,第12条の要素が尊重されなければ第3条の正しい適用はありえない。(略)」
【★10】 障害を個人の疾患(しっかん)や機能障害とする考え方を「医療モデル(医学モデル)」,社会との関係で生じる不利益(ふりえき)であるとする考え方を「社会モデル」,医療モデル(医学モデル)に社会モデルを加えた考え方を「相互モデル」と言います。
【★11】 障害者権利条約3条 「この条約の原則は,次のとおりとする。 …(c)社会への完全かつ効果的な参加及び包容…」
【★12】 2016年国連障害者権利委員会「インクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見第4号」(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センター訳)パラグラフ10「インクルーシブ教育は,以下のように理解される。
(a)すべての学習者の基本的人権。特に,教育は個々の学習者の権利であり,児童の場合,親や養育者の権利ではない。この点において,親の責任は児童の権利に従属(じゅうぞく)する。
(b)すべての生徒の福祉を重視し,彼らの固有の尊厳と自律を尊重し,個人のニーズと,効果的に社会に参加し,貢献(こうけん)する能力を認めるという原則。
(c)他の人権を実現する一手段。障害のある人が貧困(ひんこん)から脱(だっ)し,地域社会に完全に参加する手段を得,搾取(さくしゅ)から保護されることを可能にするために主要な手段。また,インクルーシブな社会を実現するために主要な手段。
(d)教育を受ける権利を妨(さまた)げる障壁(しょうへき)の撤廃(てっぱい)に対する継続的かつ積極的なコミットメントのプロセスの結果で,すべての生徒に配慮し,効果的にインクルージョンするために,通常学校の文化,方針及び実践(じっせん)を変革(へんかく)することを伴(ともな)う。」
【★13】 障害者権利条約2条 「この条約の適用上,…『合理的配慮』とは,障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有(きょうゆう)し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡(きんこう)を失(しっ)した又は過度の負担を課さないものをいう」
【★14】 2011(平成23)年改正 障害者基本法4条2項「社会的障壁(しょうへき)の除去(じょきょ)は,それを必要としている障害者が現(げん)に存(そん)し,かつ,その実施に伴(ともな)う負担が過重でないときは,それを怠(おこた)ることによつて前項の規定に違反することとならないよう,その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」
【★15】 2013(平成25)年成立・2016(平成28)年施行 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)7条2項 「行政機関等は,その事務又は事業を行うに当たり,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨(むね)の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」
 民間事業者は当初,「努めなければならない」という努力義務でしたが,2021(令和3)年改正・2024(令和6)年施行からは,行政機関と同様に法的義務になりました。
 2021(令和3)年改正後の同法8条2項「事業者は,その事業を行うに当たり,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」
【★16】 障害者権利条約2条 「この条約の適用上,…『合理的配慮』とは,障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有(きょうゆう)し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡(きんこう)を失(しっ)した又は過度の負担を課さないものをいう」
 障害者基本法4条2項「社会的障壁(しょうへき)の除去(じょきょ)は,それを必要としている障害者が現(げん)に存(そん)し,かつ,その実施に伴(ともな)う負担が過重でないときは,それを怠(おこた)ることによつて前項の規定に違反することとならないよう,その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」
 障害者差別解消法)7条2項「行政機関等は,その事務又は事業を行うに当たり,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨(むね)の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」
 同法8条2項「事業者は,その事業を行うに当たり,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」
【★17】 内閣府リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/gouriteki_hairyo2/print.pdf)「『合理的配慮』には対話が必要です! ・合理的配慮の提供に当たっては,社会的なバリアを取り除くために必要な対応について,障害のある人と事業者等が対話を重ね,共に解決策を検討していくことが重要です。このような双方のやり取りを『建設的対話』と言います。 ・障害のある人からの申出への対応が難しい場合でも,障害のある人と事業者等の双方が持っている情報や意見を伝え合い,建設的対話に努めることで,目的に応じて代わりの手段を見つけていくことができます」
【★18】 憲法13条「すべて国民は,個人として尊重(そんちょう)される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
 憲法14条1項「すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」
【★19】 横塚晃一「母よ!殺すな」第2版336頁。1977(昭和52)年に「青い芝の会」が行動を起こした「川崎バス闘争」と言います。
【★20】 「青い芝の会が起こした一連の『バス闘争』とは何であったのか。横塚晃一によれば,それは<発想の転換>を求める闘いでした。運輸省・交通局・バス会社・バス労組は,無条件でバスに乗りたいという青い芝の会の主張を,<恩恵を施す慈善的態度>でしか捉えることができていませんでした。(略)こうした態度は,必ず相手に対して制約を求めてきます。また,そうした制約は,必ずエスカレートしていきます。障害者もバスに『乗ってもよい』→『乗せてあげてもよい』→『遠慮がちに乗るべきだ』→『乗ることを遠慮すべきだ』→『なるべく街に出てくるな』といった具合にです。(略)青い芝の会は,ただ『バスに乗る』というだけのことに,他の人々が求められない条件や制約を課されることに反対しました。こうした条件や制約が,障害者の生きる幅を削り取っていくことを肌感覚で知っていたのだと思われます」(荒井裕樹「障害者差別を問い直す」172頁)
 「私が本法(山下注:障害者差別解消法)について話す際,この『発想の転換』について触れることが多い。例えば,ある人が『どうしたら社会は障害者をより広く受け入れるようになるか』と考えたとする。どこにも問題がない問いのようだが,本当にそれで良いのか。(略)(この問いでは)障害者が同じ社会の対応な構成員とは認識されていない。(略)本法を機に議論したいのも,障害者に対して『どのくらい丁寧に遇(ぐう)するか』ではない。『どうしたら,このような『発想の転換』に至れるか』についてだ」(朝日新聞2024年5月21日荒井裕樹教授寄稿記事「障害者への合理的配慮 公平な社会目指すため」「対等な構成員と認識されぬ構図 『発想の転換』を」)
【★21】 痰の吸引が必要な小学生の校外学習に親が付添うよう学校が求めたことが違法かどうかが争われた裁判で,名古屋地方裁判所令和2年8月19日判決(判例時報2478号24頁)と名古屋高等裁判所令和3年9月3日判決(D1-Law.com判例体系)は,学校が親の付き添いを求めたのは違法ではないとして,原告である子どもと親からの請求を認めませんでした。しかし,本文で説明したように,今は「医療的ケア児支援法」という新しい法律があります。この法律が施行された日は2025(令和3)年9月18日で,名古屋高裁の判決の日の2週間後です。


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2024年11月 1日 (金)

自分の男の体がいやで性別を変えたい

 中学1年生です。ずっと前から,自分は女の子だと思っていて,自分の体が男なのがいやでした。最近は声が低くなったりしてきていて,いままで以上につらいです。親や先生からは「もっと男らしくしなさい」と言われるし,クラスでは「おかま」とからかわれたりするので,誰にも相談できません。性別を変える法律があるってテレビで聞いたことがあるんですが,どうやったら変えられるんですか。

 


 性別の取扱いを変える法律が,2003(平成15)年にできました。

 しかし,大人にならないとその法律は使えませんし,いろいろな条件があります。

 でも,法律で性別を変えていなくても,あなたらしく暮らし,あなたらしく生きていくために,まわりと話し合いをしていくことができます。




 子どもが生まれると,お父さん・お母さんなどが,役所に「生まれました」という届出をします
【★1】

 その届出に,「男の子か,女の子か」が書かれます
【★2】

 どちらの性別かは,赤ちゃんの体,特に外性器を見て判断されています


 そして,その届出をもとに,「戸籍(こせき)」に生まれてきた子どもの性別が書かれます
【★3】

 「戸籍」は,一人ひとりの情報を家族単位で役所が管理しているものです。

 生まれてから亡くなるまでの間,この「戸籍」に書かれた性別で社会生活を送っていきます。


 でも,赤ちゃんがだんだんと成長し,物心がついてきたときに,

 体が男の子でも,「自分は女の子だ,女の子として暮らしたい」という強い気持ちがずっと続く子どもや,

 体が女の子でも,「自分は男の子だ,男の子として暮らしたい」という強い気持ちがずっと続く子ども,

 そして,「自分の体の性別にずっと違和感(いわかん)がある,自分の体がいやでたまらない」という苦しさを抱える子ども,

 そういう子どもたちが,必ずいます。

 10代になると,体が大人の仲間入りを始めたり,社会の中で性別による役割の違いを実感し始めたりします。

 そのころになると,苦しさはますます大きくなっていきます。



 「女の子として暮らしたいのにそうできない」,

 「自分の男の子の体に違和感がある」。

 そういうあなたも,これまで苦しい思いをしてきたと思います。

 そのことだけでもつらいのに,

 家族にも先生にも相談できず,友だちからからかわれたりもしていて,

 一人ぼっちに感じる,二重に苦しい毎日を送っているのですよね。




 あなたのように,心と体の性別のちがいのために苦しさをかかえている人を,「トランスジェンダー」といいます


 「トランスジェンダー」をより正確にいうと,<生まれたときに割り当てられた性別>と,<自分で認識している性別>が違う人のことです。

 また,「性同一性障害(せいどういつせいしょうがい)」という言葉も,聞いたことがあるかもしれません。

 これは,医学の言葉です。

 世界中のお医者さんが使っている共通の基準があります。

 その基準を満たしていると,「性同一性障害」と診断されます
【★4】

 今では,「障害ではない」という理解が広まって,お医者さんが使っている基準も新しくなり,「性別違和」「性別不合」という言葉が使われ始めています【★5】




 あなたが質問した「性別を変える法律」は,2003(平成15)年にできました
【★6】

 お医者さんから性同一性障害と診断されている人で,一定の条件を満たしていれば,この法律で戸籍に書かれている性別の取扱いを変えることができるようになりました。

 社会生活のあらゆる場面で,その人にとっての「自分ほんらいの性別」として,生きることができるようになったのです
【★7】

 これまでこの家庭裁判所の手続をとって認められた人は,1万2000人以上います
【★8】



 ただ,この手続を使えるのは,大人になってから後です
【★9】【★10】

 性別は,その人の存在そのものと深くかかわっていることだし,一度変えたら元にもどすことはほぼできません。

 だから,大人になってから慎重に自分で考えて手続をとる必要がある。

 そういうことなどが,「大人にならなければできない」とされる理由です
【★11】

 なので,あなたが今この法律を使って性別の取扱いを変える手続をとることはできません。




 日本の法律では,家庭裁判所で性別を変える手続をするには,手術をすることが条件になっていました
【★12】【★13】

 しかし,トランスジェンダーの人すべてが,生きていくうえで「手術が必要」というわけではありません

 必ず手術をしないといけないというのはおかしい,とみんなが声を上げたことで,今は,手術なしで性別の取扱いを変えることが認められ始めています【★14】【★15】


 また,法律上の性別の取扱いを変えなくても,自分らしく暮らしている,

 そういうトランスジェンダーの人たちも,たくさんいます。

 そして,そういう人たちに配慮した取り組みも,この社会の中で広がり始めています
【★16】

 そういうことも知っていてください。



 法律で性別の取扱いを変えられなくても,

 自分らしく,暮らしていき,生きていくこと。

 これは,とても大切なことです。

 大人だけでなく,大人になる前の子どものときだって同じです。




 学校では,トランスジェンダーの子どもたちにきめ細やかな対応をするようになってきました。

 文部科学省も,「こういう子どもたちにきちんと配慮するように」という通知を出しています
【★17】

 学校の中で,呼び方をどうするか,服装をどうするか,男女別の活動をどうするか,トイレや着替えはどうするか,他の生徒たちへの説明はどうするか。

 そういったこと一つひとつを,あなたの気持ちをだいじにしながら,学校や教育委員会と話し合っていく取り組みが,実際に行われています




 ただ,そうはいっても,あなたがすぐに親や先生に相談することはなかなか難しいかもしれません。

 「もっと男らしくしなさい」などと言われていたら,その親や先生が自分の苦しみをきちんと聞いて受け止めてもらえるかどうか,不安ですよね。




 でも,性別は,自分が一体何者なのかということと深く結びついている,そしてあなたの人生にかかわってくる,とてもだいじなことです
【★18】

 最近は,大人たちに対してトランスジェンダーについての理解を深めるための情報も,増えてきています。



 だから,あなたのその苦しみを,親や先生に伝えていきましょう。

 直接言いづらければ,まず最初に保健室の養護の先生やスクールカウンセラーの人に相談してみるのも,一つの方法です。

 養護の先生やスクールカウンセラーへの相談をきっかけにして,親や担任,そしてトランスジェンダーにくわしいお医者さんにもつながっていけると思います。

 もし,親や学校,教育委員会などの話し合いがスムーズにいかないようであれば,私たち弁護士がそのお手伝いをすることもできます。




 あなたは一人ではありません。

 あなたと同じような苦しみをかかえている仲間や,乗り越えてきた先輩たちが,たくさんいます。

 あなたがあなたらしく暮らし,あなたらしく生きていけるようにサポートしたい,そう考えている大人たちもたくさんいます。



 あなたが一人ぼっちではないと実感できること,

 そして,

 あなたがあなたらしく生きていけること。

 それが,法律がだいじにしていることなのです。




【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法49条2項 「届書には,次の事項(じこう)を記載しなければならない。 一 子の男女の別…(以下略)」
【★3】 戸籍には,「男/女」と書く部分はなく,「長男」「二男」「長女」「二女」・・・などの書き方で,性別がわかるようにしています。
 戸籍法13条 「戸籍には,本籍の外(ほか),戸籍内の各人について,左の事項を記載しなければならない。 …四  実父母の氏名及び実父母との続柄…(以下略)」
《2023(令和5)年戸籍法改正,2025(令和7)年5月施行》
 戸籍法13条1項 「戸籍には,本籍のほか,戸籍内の各人について,次に掲げる事項を記載しなければならない。 …五 実父母の氏名及び実父母との続柄…(以下略)」
【★4】 WHO(世界保健機関)が作っている「ICD-10」という基準と,アメリカ精神医学会が作っている「DSM-IV-TR」という基準があり,それぞれの中に,性同一性障害の診断基準が載っていました。
【★5】 DSM-V「性別違和」=「その人が体験し,または表出するジェンダーと,指定されたジェンダーとの間の著しい不一致」,ICD-11「性別不合」=「実感する性(experienced gender)と出生時に割り当てられた性(assigned sex)とが一致しない状態」
【★6】 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「性同一性障害者特例法」といいます)。2003(平成15)年7月に国会で成立し,翌2004(平成16)年7月から施行されました。
【★7】 性同一性障害者特例法4条1項 「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法…その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす」
【★8】 裁判所の司法統計「家事審判事件の受理,記載,未済手続別事件別件数-全家庭裁判所」の2004(平成16)年度から2023(令和5)年度までの認容件数の合計。
【★9】 改正前の性同一性障害者特例法3条1項 「家庭裁判所は,性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて,その者の請求により,性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 … 一 20歳以上であること」
【★10】 改正後の性同一性障害者特例法3条1項 「家庭裁判所は,性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて,その者の請求により,性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 … 一 18歳以上であること」
【★11】 南野千恵子監修「解説 性同一性障害者性別取扱特例法」129頁「『20歳以上であること』を要件としたのは,①民法上,人の自然的精神能力が十分に備わる年齢は20歳以上とされていること,②性別はその人の人格そのものにかかわる重大な事柄であり,また,その変更は不可逆的なものとなることから,本人に慎重に判断させる必要があること,③日本精神神経学会がまとめた『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン』でも第3段階の治療(性器に関する手術)へ移行するための条件として20歳以上であることが求められていること,などが考慮されたものです」
【★12】 「性別適合手術」と言います。一般的に「性転換手術」と言われることもあります。
【★13】 性同一性障害者特例法3条1項 「家庭裁判所は,性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて,その者の請求により,性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 … 四  生殖腺(せいしょくせん)がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。 五  その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」
【★14】 最高裁判所は,生殖能力喪失要件(特例法3条1項四号)を憲法違反で無効と判断しました。最高裁大法廷2023(令和5)年10月25日決定(民集77巻7号1792頁)
【★15】 外観要件(特例法3条1項五号)については,手術をしなくても「要件を満たしている」として性別変更が認められ始めています。共同通信2024年11月3日「手術せずに性別変更,33人 生殖能力要件,違憲判断から1年」
【★16】 たとえば,身分証明としても使われる国民健康保険の保険証には,表面に性別が書かれます。性別の取扱いの変更をしていない人について,表面の性別欄に「裏面参照」と書いて,裏面に「戸籍上の性別は男(又は女)」と書くなどの工夫をすることが認められるようになったことなどがあります(厚生労働省保険局国民健康保険課長平成24年9月21日保国発0921第1号「国民健康保険被保険者証の性別表記について(回答)」)。
 また,最高裁は,男性から女性に法律上の性別の取扱いの変更をしていない経済産業省職員が,女性用トイレの使用を制限され続けていることを,違法を判断しました(最高裁第三小法廷2023(令和5)年7月11日判決・民集77巻5号1171頁)。
【★17】 平成22年4月23日初等中等教育局児童生徒課,スポーツ・青少年局学校健康教育課事務連絡「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について(通知)」
 「先日,性同一性障害のある児童生徒に係(かか)る対応も報道等で取り上げられました。性同一性障害のある児童生徒は,生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず,心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち,かつ,自己(じこ)を身体的及(およ)び社会的に他の性別に適合させようとする意思(いし)を有(ゆう)する者であり,学校での活動を含め日常の活動に悩みを抱え,心身への負担が過大なものとなることが懸念(けねん)されます。こうした問題に関しては,個別の事案に応じたきめ細やかな対応が必要であり,学校関係者においては,児童生徒の不安や悩みをしっかり受け止め,児童生徒の立場から教育相談を行うことが求められております。
 したがって,各学校においては,学級担任や管理職を始めとして,養護教諭,スクールカウンセラーなど教職員等が協力して,保護者の意向にも配慮しつつ,児童生徒の実情を把握した上で相談に応じるとともに,必要に応じて関係医療機関とも連携するなど,児童生徒の心情に十分配慮した対応をお願いいたします。
 また,都道府県・指定都市教育委員会にあっては所管(しょかん)の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対して,都道府県知事にあっては所轄の私立学校に対して,この趣旨について周知徹底を図るとともに,性同一性障害を始めとする新たな課題についても学校において適切に対応ができるよう,必要な情報提供を行うことを含め指導・助言をお願いします」
 さらにその5年後にも文部科学省は通知を出しています(平成27年4月30日文部科学省初等中等教育局児童生徒課長「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」)。
【★18】 自分がいったい何者なのか,ということを,難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。特に子どものときは,このアイデンティティをかたちづくっていくための,とてもだいじな時期です。

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2023年10月 1日 (日)

性的関係もある年上の彼氏を親が訴えると騒いでる

 

 高校2年生です。ネットで知り合った30代の彼氏と1年くらい付き合っていて,エッチもしていました。そのことが最近親にバレて,かんかんに怒っている父親は,彼氏を警察に訴えると言って騒いでいます。前から「自分がまだ18歳になってないからヤバいかな」と思ってはいたけど,今こうやって父親が騒いでいるのは止められないですか。

 

 

 あなたとその彼氏の関係が,

 お互いを人として大切にし合う,しっかりした関係だったなら,

 あなたのお父さんが彼氏を訴えようとするのを,止めることができます。



 都道府県のルールである条例(じょうれい)では,

 18歳になっていない子どもとのあいだで,セックスなど性的なことをしたら,

 犯罪として処罰する,とされています。



 どんなセックスや性的なことをすると,処罰されるのでしょうか。


 多くの条例では,「淫行(いんこう)」,「みだらな性行為(せいこうい)」,「わいせつ行為」という言葉を使っています【★1】【★2】

 わかりづらい言葉ですが,一見,セックスなど性的なことのほとんどすべてがNGのように読めますね。



 でも,たとえ子どもであっても,

 自分がだれとどんな心と体の関係をつくるか/つくらないかについて,

 自分自身で決める自由があります
【★3】【★4】



 刑法という法律(国のルール)では,

 16歳になっていない子どもにセックスなど性的なことをすると,

 「不同意わいせつ罪」「不同意性交等罪」 という犯罪になります
【★5】

 たとえその子がセックスなど性的なことにOK(同意)していたとしても,相手は犯罪になります。

 (ただし,その子が13歳以上なら,5歳以上年が離れていない相手は,犯罪にならない場合もあります。【★5】


 16歳以上の人は,

 相手が暴力を使ってきたり,おどしてきたり,お酒や薬物を使ってきたり,そのほかいろんな事情から,


 その人がセックスなど性的なことをOK(同意)しないという考えを持ちづらい/OKしていないことを示せない/OKしていないと示したけどその通りにならない,という状態でセックスなど性的なことをされたときに,相手は犯罪に問われます【★5】【★6】


 逆にいうと,16歳以上なら,

 その人がセックスなど性的なことにOK(同意)していれば,相手にはこれらの犯罪は成り立ちません。

 この16歳を,「自分で判断できる年齢」という意味で,「性交同意年齢」と言います。


 この性交同意年齢は,これまでずっと13歳でした。

 13歳からというのは,世界的に見て低すぎで,「日本は性交同意年齢を引き上げるべきだ」と,世界から指摘されてきました
【★7】

 そして,2023(令和5)年7月に,性交同意年齢は16歳に引き上げられました。



 この性交同意年齢を超えていれば,未成年であっても,

 セックスなど性的なことを自分自身で決めることが,法律では重視されています。




 子どもにも,だれとどんな心と体の関係をつくるか/つくらないかについての自由があって,

 刑法が16歳を性交同意年齢としていることからすれば,

 18歳になっていない子どもとの間のセックスなど性的なことを,

 条例がすべて犯罪にするのは,規制のしすぎです。




 他方で,

 10代は,心と体が大人の仲間入りをしたばかりの,とてもだいじな時期です。

 あなたの心と体は,これから死ぬまでの何十年という間,あなた自身がずっと付き合い続けていくものです。

 だから,最初のころは,

 大人の仲間入りを始めたばかりの自分の心と体との付き合い方を,

 じっくりと身につけていってほしいと願っています。


 「性」というのは,セックスのことだけではありません。

 自分の心と体を大切にし,そして,相手の心と体を大切にすること。

 それが,ほんとうの意味の「性」です。



 でも,大人の中には,

 心と体が大人の仲間入りを始めたばかりの大事な時期にある10代を,

 ひとりの人間として大切に扱わず,まるで物や人形のように扱う人がいます。

 私たちは,そういう大人から子どもたちを守りたいと,強く思っています。




 条例の「淫行」の意味が争われた事件で,最高裁は,こう言っています。


 「淫行」は,子どもとのセックスなど性的なことすべてをさすのではない。

 子どもを,さそいこんだり,おどしたり,だましたり,とまどわせたりして,

 心や体がまだ成長を続けている途中であることにつけいった不当なやり方や,

 子どもを単に自分の性欲を満足させるための対象(たいしょう)として扱っているとしかいえないようなものを,

 子どもを守るために,「淫行」として処罰するのだ,と
【★8】



 セックスなど性的なことは,もともと「自分の性欲を満足させるため」にするものなのだから,

 最高裁が言っているのは,結局,セックスなど性的なことすべてを指しているのと変わりないじゃないか,という批判もあります
【★9】


 でも,私はそう思いません。


 最高裁が言っているのは,子どもを「対象」として扱うことがダメなのだ,ということです
【★10】

 相手をまるで物や人形のように扱うのではなく,

 ひとりの人間として大切に扱っているか,

 お互いがお互いをきちんと尊重しているか,ということが,だいじなのです。



 あなたが,その30代の彼氏との間で,お互いを人として大切にし合うしっかりした関係だったかどうかを,振り返ってみてください。



 周りの人たちは,こういうふうに言うでしょう。 


 「知識や経験,そしてお金の面でも差があるのだから,

 心と体が大人の仲間入りを始めたばかりのあなたのことを,

 30代の彼氏は,ゆっくりと見守り,性的な関係を持たずに待つ,ということも必要だったのではないか。」



 そういう意見をふまえてしっかり振り返ってみても,

 「彼氏との間で,お互いを人として大切にし合っていた」と,あなた自身が実感できているのであれば,

 それを,お父さんにきちんと伝えてください。


 もしお父さんが聞き入れてくれなくても,

 あなたが警察にありのままを話したり,

 警察に話すこと自体を拒否(きょひ)したりすれば,

 警察が彼氏を立件(りっけん)することは,難しいでしょう。




 刑法が性交同意年齢を16歳にしているのにもかかわらず,

 この社会は,

 子どもが16歳になる前に,性についてきちんと教えていません。


 条例で18歳までの子どもを守ろうとしているのにもかかわらず,

 この社会は,

 相手の大人を処罰することには一生懸命でも,

 主人公であるはずの子どもたちに,きちんと向き合って性を教えようとせず,ほったらかしにしています。


 これは,まったくおかしなことです。



 お父さんは,あなたを守ろうとして,彼氏を警察に訴えようとしているのですよね。

 でも,あなたを守るためにお父さんが本当にしなければならないことは,

 自分の心と体を大切にし,相手の心と体を大切にするということがどういうことなのか,

 セックスという限られたことだけでなく,広く「性」について,

 ふだんからきちんと親子で話し合うことです。

 東京都や長野県の条例では,その話し合いの大切さにも,きちんと触れています【★11】【★12】



 あなたの彼氏が処罰されないように,というだけでなく,

 あなたがこれから先ずっと,自分と相手の心と体を大切にできる素敵な人になれるように,

 今までの彼氏との関係について振り返り,お父さんとよく話し合ってみてください。

 その話し合いがうまくいかないようであれば,私たち弁護士がサポートします。

 

 

 

 

 

【★1】 「淫行」または「いん行」という言葉を使っている条例:北海道青少年健全育成条例38条,青森県青少年健全育成条例22条,栃木県青少年健全育成条例42条,静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例14条の2,愛知県青少年保護育成条例14条,滋賀県青少年の健全育成に関する条例24条,和歌山県青少年健全育成条例26条,岡山県青少年健全育成条例20条,広島県青少年健全育成条例39条,徳島県青少年健全育成条例14条,香川県青少年保護育成条例16条,福岡県青少年健全育成条例31条,(大分県)青少年の健全な育成に関する条例37条,鹿児島県青少年保護育成条例22条
 「淫らな性行為」または「みだらな性行為」という言葉を使っている条例:(岩手県)青少年のための環境浄化に関する条例18条,(宮城県)青少年健全育成条例31条,秋田県青少年の健全育成と環境浄化に関する条例14条,山形県青少年健全育成条例13条,福島県青少年健全育成条例24条,茨城県青少年の健全育成等に関する条例35条,群馬県青少年健全育成条例35条,埼玉県青少年健全育成条例19条,神奈川県青少年保護育成条例31条,新潟県青少年健全育成条例20条,富山県青少年健全育成条例15条,いしかわ子ども総合条例52条,福井県青少年愛護条例35条,(山梨県)青少年保護育成のための環境浄化に関する条例12条,岐阜県青少年健全育成条例23条,(兵庫県)青少年愛護条例21条,奈良県青少年の健全育成に関する条例34条,鳥取県青少年健全育成条例18条,島根県青少年の健全な育成に関する条例21条,高知県青少年保護育成条例18条,佐賀県青少年健全育成条例22条,長崎県少年保護育成条例16条,熊本県少年保護育成条例13条,宮崎県における青少年の健全な育成に関する条例19条,沖縄県青少年保護育成条例17条の2
 「わいせつな行為」,「わいせつ行為」,または「猥せつの行為」という言葉を使っている条例:北海道青少年健全育成条例38条,青森県青少年健全育成条例22条,(岩手県)青少年のための環境浄化に関する条例18条,(宮城県)青少年健全育成条例31条,秋田県青少年の健全育成と環境浄化に関する条例14条,山形県青少年健全育成条例13条,福島県青少年健全育成条例24条,茨城県青少年の健全育成等に関する条例35条,栃木県青少年健全育成条例42条,群馬県青少年健全育成条例35条,埼玉県青少年健全育成条例19条,神奈川県青少年保護育成条例31条,新潟県青少年健全育成条例20条,富山県青少年健全育成条例15条,いしかわ子ども総合条例52条,福井県青少年愛護条例35条,(山梨県)青少年保護育成のための環境浄化に関する条例12条,岐阜県青少年健全育成条例23条,静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例14条の2,愛知県青少年保護育成条例14条,滋賀県青少年の健全育成に関する条例24条,(兵庫県)青少年愛護条例21条,奈良県青少年の健全育成に関する条例34条,和歌山県青少年健全育成条例26条,鳥取県青少年健全育成条例18条,島根県青少年の健全な育成に関する条例21条,岡山県青少年健全育成条例20条,広島県青少年健全育成条例39条,徳島県青少年健全育成条例14条,香川県青少年保護育成条例16条,愛媛県青少年保護条例9条の2,高知県青少年保護育成条例18条,福岡県青少年健全育成条例31条,佐賀県青少年健全育成条例22条,長崎県少年保護育成条例16条,熊本県少年保護育成条例13条,(大分県)青少年の健全な育成に関する条例37条,宮崎県における青少年の健全な育成に関する条例19条,鹿児島県青少年保護育成条例22条,沖縄県青少年保護育成条例17条の2
 「みだらな性交又は性交類似行為」という言葉を使っている条例:東京都青少年の健全な育成に関する条例18条の6
 「不純な性行為」という言葉を使っている条例:愛媛県青少年保護条例9条の2
【★2】 条例によっては,条件が付いていたり,くわしく定義が書かれているものもあります。
 千葉県青少年健全育成条例20条1項 「何人(なんぴと)も,青少年に対し,威迫(いはく)し,欺(あざむ)き,又は困惑(こんわく)させる等青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段によるほか単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為又はわいせつな行為をしてはならない」
 長野県子どもを性被害から守るための条例17条1項 「何人も,子どもに対し,威迫し,欺き若しくは困惑させ,又はその困惑に乗じて,性行為又はわいせつな行為を行ってはならない」
 三重県青少年健全育成条例23条1項 「何人も,青少年に対し,いん行(青少年を威迫し,欺き,又は困惑させる等不当な手段を用いて行う性交又は性交類似行為及び青少年を単に自己の性欲を満足させるための対象として行う性交又は性交類似行為をいう。次条において同じ。)又はわいせつな行為(いたずらに性欲を興奮させ,若しくは刺激し,又は性的な言動により性的羞恥心(しゅうちしん)を害し,若(も)しくは嫌悪(けんお)の情(じょう)を催(もよお)させる行為をいう。次条において同じ。)をしてはならない」
 (京都府)青少年の健全な育成に関する条例21条1項 「何人も,青少年に対し,金品その他財産上利益若しくは職務を供与(きょうよ)し,若しくはそれらの供与を約束することにより,又は精神的知未熟若しくは情緒的不安定に乗じて,淫行又はわいせつ行為をしてはならない」
 大阪府青少年健全育成条例39条 「何人も,次に掲げる行為を行ってはならない。
(1)青少年に金品その他の財産上の利益,役務(えきむ)若しくは職務を供与し,又はこれらを供与する約束で,当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと(児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第2項に該当するものを除く。)
(2)専(もっぱ)ら性的欲望を満足させる目的で,青少年を威迫し,欺き,又は困惑させて,当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。
(3)性行為又はわいせつな行為を行うことの周旋(しゅうせん)を受け,青少年に対し当該周旋に係る性行為又はわいせつな行為を行うこと。
(4)青少年に売春若しくは刑罰法令に触れる行為を行わせる目的又は青少年にこれらの行為を行わせるおそれのある者に引き渡す目的で,当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと」
 山口県青少年健全育成条例12条 「何人も,青少年に対し,次に掲げる行為をしてはならない。
一 金品その他の財産上の利益を供与し,若しくは役務を提供し,又はこれらの供与若しくは提供を約束して性行為又はわいせつの行為をすること。
二 相手方を欺き,若しくは困惑させ,又はその困惑に乗じて性行為又はわいせつの行為をすること。
三 あっせんを受けて性行為又はわいせつの行為をすること。」
【★3】 自己決定権と言います。憲法13条が保障する人格権(人格権)から導かれます。
 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及(およ)び幸福追求(ついきゅう)に対する国民の権利については,公共の福祉(ふくし)に反(はん)しない限(かぎ)り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★4】 最高裁大法廷昭和60年10月23日判決・刑集39巻6号413頁(福岡県青少年保護育成条例違反事件)谷口正孝裁判官反対意見 「本条例にいう青少年のうち年長者(例えば,16歳以上の者。便宜(べんぎ)これを『年長青少年』という)に対する性交又は性交類似行為については年少少年に対する場合と同一に扱うわけにはいかない。身体の発育が向上し,性的知見においてもかなりの程度に達しているこれら現代の年長青少年に対する両者の自由意思に基づく性的行為の一切(いっさい)を罰則を以(もっ)て一律に禁止するが如(ごと)きは,まさに公権力を以てこれらの者の性的自由に対し不当な干渉(かんしょう)を加えるものであり,とうてい適正な処罰規定というわけにはいかないであろう」
【★5】 刑法176条1項 「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により,同意しない意思を形成し,表明し若(も)しくは全(まっと)うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗(じょう)じて,わいせつな行為をした者は,婚姻関係の有無にかかわらず,6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭(めいりょう)でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し,表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ,若しくは驚愕(きょうがく)させること又はその事態に直面して恐怖し,若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮(ゆうりょ)させること又はそれを憂慮していること。」
 同条3項 「16歳未満の者に対し,わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については,その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も,第1項と同様とする」
 刑法177条1項 「前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により,同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて,性交,肛門性交,口腔(こうくう)性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの…をした者は,婚姻関係の有無にかかわらず,5年以上の有期拘禁刑に処する」
 同条3項 「16歳未満の者に対し,性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については,その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も,第1項と同様とする」
【★6】 「Q4 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪における『同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態』とは,どんな状態ですか。」「A4 『同意しない意思を形成することが困難な状態』とは,性的行為をするかどうかを考えたり,決めたりするきっかけや能力が不足していて,性的行為をしない,したくないという意思を持つこと自体が難しい状態をいいます。『同意しない意思を表明することが困難な状態』とは,性的行為をしない,したくないという意思を持つことはできたものの,それを外部に表すことが難しい状態をいいます。『同意しない意思を全うすることが困難な状態』とは,性的行為をしない,したくないという意思を外部に表すことはできたものの,その意思のとおりになることが難しい状態をいいます」(法務省:性犯罪関係の法改正等 Q&A (moj.go.jp))
【★7】 国連・児童の権利委員会の最終見解:日本 2004年2月26日 CRC/C/15/Add.231(最終見解/コメント)https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/0402/pdfs/0402_j.pdf
パラグラフ22 「委員会は,婚姻最低年齢が少年(18歳)と少女(16歳)とで異なること及び性交同意最低年齢(13歳)が低いことについて懸念する」
 パラグラフ23 「委員会は,締約国が,(a)少女の婚姻最低年齢を少年の最低年齢にまで引き上げること,(b)性交同意最低年齢を引き上げること,を勧告する」
【★8】 最高裁大法廷昭和60年10月23日判決・刑集39巻6号413頁(福岡県青少年保護育成条例違反事件) 「本件各規定…の趣旨は,一般に青少年が,その心身の未成熟や発育程度の不均衡(ふきんこう)から,精神的に未(いま)だ十分に安定していないため,性行為等によって精神的な痛手を受け易(やす)く,また,その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ,青少年の健全な育成を図るため,青少年を対象としてなされる性行為等のうち,その育成を阻害(そがい)するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであって,右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴(ちょう)すると,本条例10条1項の規定にいう『淫行』とは,広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく,青少年を誘惑し,威迫(いはく)し,欺罔(ぎもう)し又は困惑(こんわく)させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である」
【★9】 最高裁大法廷昭和60年10月23日判決・刑集39巻6号413頁(福岡県青少年保護育成条例違反事件)伊藤正己裁判官反対意見 「性行為そのものは,自己の性欲を満足させるために行われるのが通常であるから,それはほとんど限定の作用をいとなまず,結婚を前提としない青少年を相手方とする性行為のすべてを包含(ほうがん)することに近いと考えられ,適当と考えられる限定とはいえないであろう」
【★10】 児童福祉法という法律でも,18歳未満の児童に「淫行させる行為」が処罰の対象となっていて,条例よりも重い刑罰があります。親族や教師など,子どもに影響力のある大人によるセックスなど性的なことが罰せられます。この「淫行」の解釈にあたって,最高裁は,「児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者」という表現を使っています。
 児童福祉法34条1項 「何人も,次に掲げる行為をしてはならない。 … 六 児童に淫行をさせる行為」
 同法60条1項 「第34条第1項第六号の規定に違反した者は,10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 同法60条1項 「第34条第1項第六号の規定に違反したときは,当該違反行為をした者は,10年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する」
 最高裁判所第一小法廷平成28年6月21日決定・刑集70巻5号369頁 「児童福祉法34条1項6号にいう『淫行』とは,同法の趣旨(同法1条1項)に照らし,児童の心身の健全な育成を阻害(そがい)するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当であり,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,同号にいう『淫行』に含まれる。そして,同号にいう『させる行為』とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否(いな)かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である」
 なお,親など,子どもを監護している立場の人が,その影響力を使って子ども(18歳未満)に性的なことをした場合には,その子がセックスなど性的なことをOK(同意)しないという考えを持ちづらい/OKしていないことを示せない/OKしていないと示したけどその通りにならない,という状態でなくとも,「監護者性交等罪」「監護者わいせつ罪」が成立します。
 刑法179
条1項 「18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は,第176条第1項の例による」
 同条2項 「18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は,第177条第1項の例による」
【★11】 東京都青少年の健全な育成に関する条例18条の3第1項 「保護者及び青少年の育成にかかわる者(以下「保護者等」という。)は,異性との交友が相互の豊かな人格のかん養に資(し)することを伝えるため並びに青少年が男女の性の特性に配慮し,安易な性行動により,自己及び他人の尊厳を傷つけ,若しくは心身の健康を損ね,調和の取れた人間形成が阻害され,又は自ら対処できない責任を負うことのないよう,慎重な行動をとることを促すため,青少年に対する啓発及び教育に努めるとともに,これらに反する社会的風潮を改めるように努めなければならない」
 同条2項 「保護者等は,青少年のうち特に心身の変化が著しく,かつ,人格が形成途上である者に対しては,性行動について特に慎重であるよう配慮を促すように努めなければならない」
 同条3項 「保護者は,青少年の性的関心の高まり,心身の変化等に十分な注意を払うとともに,青少年と性に関する対話を深めるように努めなければならない」
【★12】 長野県子どもを性被害から守るための条例6条 「保護者は,その監護する子どもを守る第一義的責任を有することを認識し,子どもを性被害から守るために必要な教育並びに子どもが性被害を受けたときの保護及び支援を行うよう努めるものとする」

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2023年3月 1日 (水)

権利を主張するなら義務を果たしてから?



 学校の先生に「権利を主張するなら義務を果たしてからにしろ」って言われたんですが,そうなんですか?




 いいえ,ちがいます。

 「権利を主張するなら義務を果たしてから」という考え方は,間違いです。



 どんな人も,一人ひとりが大切な人間として扱われる,尊重(そんちょう)されること。

 それを,法律の世界では「人権」という言葉で表現します。


 その人権という権利は,すべての人が生まれながらにして持っています【★1】

 「何かの義務を果せなければ,その人は大切な人間として扱われない,尊重されない」などというおかしなことは,ありえません。



 「子どもの権利条約」(児童の権利に関する条約)という,1989年にできた世界の約束ごとがあります。

 日本は,1994(平成6)年にその約束の輪の中に加わりました。

 「一人ひとりが大切な人間として扱われる,尊重される」という人権は,大人だけでなく,子どもも持っています。

 子どもの権利条約は,そのだいじなことを,世界中で確認したものです【★2】


 子どもの権利条約には,

 生きる権利や育つ権利,差別されないこと,意見を表す権利,表現の自由,暴力からの保護,教育を受ける権利,休んだり遊んだりする権利など,

 子どもの大切な権利が,いくつも並んでいます。

 条約の条文を,日本ユニセフ協会が子どもたちに向けてわかりやすく訳してくれたウェブサイトがありますので,ぜひ見てみてください【★3】


 そして,「権利を主張するなら義務を果たしてから」と言う大人には,条約の条文そのものをきちんと全部読むように伝えて下さい【★4】

 条約には,子どもに「義務を果たせ」などとは,どこにも書かれていません。

 むしろ,条約に書かれているのは,大人たちが子どもたちに対して負っている義務のほうです【★5】



 国のおおもとのルールである憲法にも,

 第3章の「国民の権利及び義務」に,

 差別されないことや,表現の自由,教育を受ける権利など,

 大切な権利がいくつも並んでいます。

 そして憲法は,それらの権利を「基本的人権」と言っています【★6】


 憲法は,「義務」も,3つだけ挙げています。

 教育の義務と,働く義務と,税金を納める義務の3つです【★7】

 しかし,「これらの義務を果たさなければ基本的人権が守られない」などとは,憲法はまったく言っていません。

 教育の義務は,大人が子どもに対して負っている義務であって,子どもが学校に行く義務ではありませんし【★8】

 「働けない人や税金を納められない人は,人として大切にされなくてもよい,尊重されなくてもよい」などと,憲法は言っていません。

 憲法学者たちも,「憲法にこれらの義務が書かれていても,そこに特に意味はない」と,はっきり指摘しています【★9】


 むしろ,あなたの学校が公立なら,

 公務員である先生は,この憲法を尊重して守る「義務」があると,

 憲法の中に,はっきり書かれています【★10】



 人権は,「いつも全く制限されない,絶対に保障される」というわけではありません。

 それぞれの人の人権がぶつかりあうときには,どちらも大切だからこそ,

 調整したり,バランスをとったりする必要が出てきます【★11】

 そのために,法律などのルールがあります。

 私たちは法律に従(したが)う「義務」があるので【★12】

 法律に対して「自分たちを縛(しば)ってくるもの」というイメージを持つ人も多いですが,

 法律はむしろ,私たち一人ひとりの人権を守るためにこそ,あるのです。



 法律は,なんでもかんでも人々に義務を課せるわけではありません。

 法律は,憲法という土台の上に作られるルールです。

 そして,法律よりも憲法のほうが,強い力をもっています。

 だから,人権をきちんと守らず人を縛りすぎるような,憲法に反する法律は,作れません【★13】

 万一,そのようなおかしい法律があったら,

 「義務だから」とただ黙って従うのではなく,

 「おかしい」と声を上げて,法律のほうを変えていく必要があります。


 こういったことは,法律というルールに限らず,学校の中のルールや,家の中でのルールでも,同じです。

 学校の先生や親は,自分たちで勝手にルールを作り,子どものあなたに「守る義務がある」と言うかもしれません。

 でも,そのルールが,

 あなたを大切な存在として扱うもの,あなたの人権を守るためのものではなくて,

 大人があなたを支配したり管理したりするためのものならば,

 「義務だから」とただ黙って従うのではなく,

 「おかしい」と声を上げて,ルールを変えていく必要があるのです。



 人権という大切な権利は,人が生まれながらにして持っている。

 その基本的なことを,きちんと学んでいる大人であれば,

 子どもに向かって「権利を主張するなら義務を果たしてから」などと間違ったことは,言えないはずです。




 いままで,人権という大切な権利について話してきましたが,

 「権利と義務」という言葉は,契約という法律的な約束ごとの場面でも使われます。


 たとえば,あなたが友だちとの間で,「明日マンガの本を100円で譲(ゆず)ってもらう」という約束をしたら,

 それは,売買(ばいばい)契約という,りっぱな契約です【★14】


 あなたは,「明日友だちからマンガを受け取る」という権利を持ち【★15】,

 「明日友だちに100円を渡す」という義務を負っています【★16】

 裏返せば,

 友だちは,「明日あなたにマンガを渡す」という義務を負い,

 「明日あなたから100円を受け取る」という権利を持っています。


 権利と義務がセットになっているのは,こういう場面のときです【★17】


 でも,上に書いたように,人として大切にされる・尊重されるという人権は,

 こういったお金や物やサービスなどのやりとりでお互いに約束し,お互いに権利と義務がある話とは,まったくちがいます。

 人権という権利は,義務とセットではありません。

 人権という権利を持つために,その人が果たさなければならない義務は,ありません。

 そして,「人として大切にされる権利を持っている」ということは,

 裏返せば,「社会のがわが,一人ひとりを大切にする義務を負っている」,ということなのです。



 なお,「権利を主張するなら義務を果たしてから」と間違ったことを言う大人のために,

 契約で出てくる権利と義務について,もう少し説明を付け加えておきます。


 マンガを100円で売り買いする例え話では,

 お互いが同時に,マンガと100円を交換します。

 「権利と義務のどちらが先」という話は,出てきません【★18】


 また,お互いの約束のしかたによっては,義務を先に果たさないといけない契約もありますが,

 逆に,義務のほうが後,という契約も,たくさんあります。

 例えば,外食をするときに,代金を先払いするお店もありますが,食べた後で最後に代金を支払う店もたくさんありますね。


 また,売り買いではなく,あげる・もらうという贈与(ぞうよ)契約なら,

 もらう側は,「もらう権利」を持っているだけで,義務は負っていません【★19】


 こういった,契約で出てくる権利・義務についてもきちんと学んでいる大人であれば,

 子どもに向かって「権利を主張するなら義務を果たしてから」などと間違ったことは,やはり言えないはずです。




 「権利を主張するなら義務を果たしてから」という大人たちは,

 人権や法律についてきちんと学んだうえで,そう言っているのではありません。

 「子どもに権利を認めたらワガママになる」という感覚がまず先にあって,

 子どもにワガママをさせないようにするために,

 権利・義務という難しい法律用語を使って,

 子どもたちを言いくるめようとしているのです。


 私は,そのような大人の態度はおかしいと,強く思っています。


 大人たちは,子どもたちに,

 「義務を果たせ」というぼんやりした難しい言葉でごまかさずに,

 「他の人の権利とぶつかるから調整する必要がある」とか,

 「子どもが安心・安全に育つように,大人が義務を負っている」(お酒やタバコ,門限など)というように,

 すべての人が権利を持っていることを前提にしたうえで,

 その権利が制限される理由を,一つひとつきちんとていねいに説明するべきなのです。



 権利を主張するのは,ワガママではありません。

 納得できないときに,がまんせずに「おかしい」と声を上げるのは,

 ワガママではなく,自分を守るための大切なことです。


 むしろ,
大人が,人権を傷つけられている子どもにがまんをさせるのは,

 大人たちが子どもたちを都合良く支配する方法,つまり,大人のワガママです。


 子どもの頃に,まわりの人たちからきちんと人権を尊重されていないと,

 自分がまわりの人たちの人権をどうやって尊重すればよいのかは,わからないままです。

 そうやって育ってしまったのが,今のワガママな大人たちだ,とも言えます。



 私はこのブログを10年続けてきましたが,

 人権という言葉は,「このブログをつくったわけ」の記事1つだけで説明し,

 たくさんある他のQ&Aの記事の中では,人権という言葉そのものは使わずに,

 人権の中身がしっかり伝わるよう,子どもの権利を,根拠となる条約や憲法の条文も示しながら説明してきました。


 他方で,「権利を主張するなら義務を果たしてから」と話す大人たちが,

 その「義務」がどんな義務なのかを,条約や憲法の条文を示しながらきちんと説明しているのを,

 私は,見たことも聞いたこともありません。


 「子どもに権利を教えるなら義務も教えるべきだ」という大人ほど,

 「子どもの権利を保障するために,大人が子どもに対して負っている義務」を,きちんと学んでいないのです。




 一人ひとりが大切にされるという人権という権利は,

 みんながいつもきちんと意識していなければ,

 いつか守られなくなり,そして,失われてしまいかねないものです。


 1872年,ドイツの法学者イェーリングは,

 「権利のための闘争は,権利者の自分自身に対する義務であり,国家共同体に対する義務である」

 という,とても有名な言葉を残しました【★20】


 今の日本の憲法も,

 私たちが不断(ふだん)の努力をして権利を保持(ほじ)しなければいけないと,

 条文に,はっきり書いています【★21】


 あなたにはぜひ,

 自分の権利も,まわりの人の権利も,しっかりと大切にできる大人,

 そして,義務という言葉でごまかさずに,子どもたちにきちんと向き合える大人,

 そういう素敵な大人になってほしいと,強く願っています。





【★1】 世界人権宣言1条前段 「すべての人間は,生れながらにして自由であり,かつ,尊厳と権利とについて平等である」
 「人権は人が人であることに基づいて当然に有するとされる権利であり,君主(天皇)から恩恵的に与えられたもの,憲法によってはじめて認められたものではない。憲法11条にいう『与へられる』というのは,人権が永久不可侵の権利であることと合わせて考えれば,18世紀自然権思想が『天』『神』『創造主』『自然』から付与されたものだと説いたのと同じ趣旨であり…それは結局,人権が人間の尊厳に由来し,人間であることに固有するものであることを意味する」(芦部信喜「憲法学Ⅱ人権総論」56頁)
【★2】 「従来の人権の保障が男性に偏(かたよ)っていて,男性の権利は政治参加ないし国の政治意思決定をするにまで及び,その結果,従来の戦争は,すべて男性だけの遺志決定によって行われ,つねに女性と子どもがその犠牲となってきたという反省に立って,20世紀の後半はとくに女性と子どもの人権保障を優先することが課題となった。国際連合は,1979年に,同じ人間としての男性との従来からの差別をなくす目的の『女性差別撤廃条約』を制定し,次いで1989年に,同じ人間としてのおとなとの差別をなくす趣意の『子どもの権利条約』を制定したのである」(永井憲一他編「新解説子どもの権利条約」4頁)
【★3】 子どもの権利条約 日本ユニセフ協会抄訳 https://www.unicef.or.jp/kodomo/kenri/syouyaku.html
【★4】 外務省ウェブサイト https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html
【★5】 子どもの権利条約は,条約がそれぞれの国に課している「義務」がきちんと果たされているかをチェックする委員会を設ける,としています。
 子どもの権利条約43条1項 「この条約において負う義務の履行の達成に関する締約国(ていやくこく)による進捗(しんちょく)の状況を審査するため、児童の権利に関する委員会…を設置する。委員会は、この部に定める任務を行う」
【★6】 憲法11条 「国民は,すべての基本的人権の享有(きょうゆう)を妨(さまた)げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵(おか)すことのできない永久の権利として,現在及び将来の国民に与へ(え)られる」
 憲法97条 「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって,これらの権利は,過去幾多(いくた)の試錬に堪へ(たえ),現在及び将来の国民に対し,侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」
【★7】 教育の義務は憲法26条2項,勤労の義務は憲法27条1項,納税の義務は憲法30条にそれぞれ書かれています。
 憲法26条2項 「すべて国民は,法律の定めるところにより,その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ(う)。義務教育は,これを無償とする」
 憲法27条1項 「すべて国民は,勤労の権利を有し,義務を負ふ(う)」
 憲法30条 「国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負ふ(う)」
【★8】 「義務教育の『義務』って?」の記事も読んでみてください。
【★9】 「憲法における義務の規定は…例示にすぎない。また憲法に一定の義務が定められても,それが法律によって具体化されないかぎり,憲法規定だけで直(ただ)ちに実効性をもつことはできない。とすれば,憲法にどれだけの義務が定められているかは,とくに重要な意味をもたないであろう」(芦部信喜「憲法学Ⅱ人権総論」104頁)
 「憲法27条1項は国民の勤労義務を定める。これは,人が労働にいそしむべき道徳的義務を負うことを宣言しているにとどまる。…納税義務は,法律によって具体化されない限りは実現されえないものであり,これを定める憲法30条は,法律によらない限り課税されない権利を逆に保障していることになる。…総じて,憲法上の国民の義務を定める規定には,格別の意義は見いだしがたい」(長谷部恭男「憲法第7版」99頁)
 「憲法第3章が権利条項を数多く含むのに対し,義務の条項が数少ないことを,憲法の欠点のひとつとし,社会一般の倫理意識の低下の責任をそこに負わせようとする主張がある。しかし,言うまでもなく,近代憲法にとっては,権力を制約し国民の側の権利を保障することこそがその眼目だったのであり,道徳的義務の問題についていえば,そもそも近代法は,法と道徳の分離というところに,その基本性格があることからして,そのような議論はあたらない」(樋口陽一「憲法第4版」309頁)
【★10】 憲法99条 「天皇又は摂政及び国務大臣,国会議員,裁判官その他の公務員は,この憲法を尊重し擁護(ようご)する義務を負ふ(う)」
【★11】 憲法12条と13条に「公共の福祉」という言葉が出てきます。この「公共の福祉」は,「人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理」で,この意味での公共の福祉は憲法規定にかかわらず全ての人権に論理必然的に内在している,と説明されます(一元的内在制約説。宮沢俊義「憲法Ⅱ」218頁)。
 憲法12条後段 「国民は,これを濫用(らんよう)してはならないのであって,常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ(う)」
 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★12】 「そもそも国民は一般的に国権に服する地位に立ち,その所属する国家の法令に包括的に支配される立場にあるからで,その強制を受忍する義務を負うことは,当然視されている」(大石眞「憲法概論Ⅱ基本的保障」70頁)
 「国家が存在する限り,国民は国家の支配に服さなければならない。国家の支配に服従する国民の状態が,イェリネクのいう『受動的地位』である。『義務』はこの受動的地位に対応する。国家はその主権…に基づき法律を制定することで国民にさまざまな義務を課すことができる。国民には法律に従う義務がある以上,国民の義務は憲法典に明文で規定されているものに限られるものではない。…しかし,法律で無制限に義務が作り出されるならば,国民の自由は失われてしまう。そうならないために憲法に基本権規定が必要なのである」(渡辺康行他著「憲法Ⅰ基本権」25頁)
【★13】 憲法98条1項 「この憲法は,国の最高法規であって,その条規に反する法律,命令,詔勅(しょうちょく)及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有(ゆう)しない」
【★14】 民法555条 「売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる」
【★15】 契約などの場面では,このように権利を持っていることを,「債権(さいけん)」を持っている,という言い方もします。
【★16】 契約などの場面では,このように義務を負っていることを,「債務(さいむ)」を負っている,という言い方もします。
【★17】 お互いが権利・義務を持つ契約のことを,「双務(そうむ)契約」と言います。
【★18】 「同時履行(どうじりこう)」と言います。
 民法533条前段 「双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行…を提供するまでは,自己の債務の履行を拒(こば)むことができる。…」
【★19】 「片務(へんむ)契約」と言います。
【★20】 「人格そのものに挑戦する無礼な不法,権利を無視し人格を侮蔑するようなしかたでの権利侵害に対して抵抗することは,義務である。それは,まず,権利者の自分自身に対する義務である,--それは自己を倫理的存在として保存せよという命令に従うことにほかならないから。それは,また,国家共同体に対する義務である,--それは法が実現されるために必要なのだから」(イェーリング著,村上淳一訳「権利のための闘争」49頁)
【★21】 憲法12条前段 「この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によって,これを保持しなければならない」
 「私は,今の日本に必要なのは,権力者の都合による恣意的(しいてき)な義務や道徳ではなく,憲法12条だと考える。…権利は,きちんと主張していかなければ失われてしまう。自己責任論を甘受(かんじゅ)して,生存権の主張を諦(あきら)めれば,将来の国民が生存権を享受(きょうじゅ)できなくなるだろう。表現の自由を規制する法律を放置すれば,さらに強い規制ができるだろう。生活保護の切り下げや,テロ等準備罪への国民の無関心を見ていると,「権利を行使する義務」への意識は,まだまだ弱いと感じる。後の世代のためにも,国民は持っている権利を行使する義務を負うはずだ。憲法施行70年という節目で,いま一度,そのことを思い出してほしい」(木村草太「主張しないと権利失う 視標『憲法施行70年』」共同通信2017年6月17日配信)

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2022年11月 1日 (火)

黙秘権って子どもにもあるの?


 黙秘権って子どもにもあるんですか? 悪いことをしてないなら説明して疑いをはらせばいいし,悪いことをしているなら正直に話して謝るべきだと思うんですけど,黙秘権ってどうしてあるんですか?




「あなたには,黙秘権という権利があります。

 話したくないことは話さなくてかまいません。

 質問に対して,最初から最後まで答えずに黙っていることもできますし,ある質問には答えて,ある質問には答えない,ということもできます。

 黙秘したことで,あなたが不利に扱われることはありません。

 ただし,あなたがこの法廷で話したことは,あなたの有利にも不利にも扱われますので,気をつけてください」



 刑事裁判は,公開の法廷で行われます【★1】

 裁判は,子どものあなたも,傍聴(ぼうちょう)することができます。



 裁判が始まると,まず裁判官は,裁判にかけられている被告人(ひこくにん)が本人であることを確かめます【★2】

 つぎに検察官が,「この人がこういう犯罪をした」と書かれた起訴状(きそじょう)を読み上げます【★3】

 そして裁判官は,「今,検察官が読み上げたことが,間違っているか,その通りか」を被告人に尋(たず)ねますが,その直前に,最初に書いた黙秘権の説明をします【★4】【★5】



 この「話したくないことは話さなくて良い」という黙秘権は,

 裁判のときだけでなく,

 裁判になる前の,警察官や検察官が本人を取り調べるときにもあります【★6】


 そして,この黙秘権は,

 大人だけでなく,子どもにもあります。


 警察官や検察官が子どもを取り調べるとき,その子どもに黙秘権がありますし,

 大人とちがって非公開になっている少年審判でも,最初に書いた黙秘権の説明が,裁判官からされます【★7】




 国のおおもとのルールである憲法は,

 「どんな人も,自分にとってマイナスなことを,むりやり話させられることはない」,としています【★8】

 そして,刑事手続のルールである刑事訴訟法は,そこからさらに広げて【★9】

 犯罪をしたと疑われている本人は,マイナスなことだけに限らず,「話したくないことは話さなくてよい」としています。

 これが黙秘権です。


 そして,子どもにも黙秘権があることは,世界の約束ごとです【★10】




 どうして黙秘権という権利があるのでしょうか。



 人類の歴史では長いあいだ,犯罪をした人を処罰するとき,「本人が犯罪をやったと認めること」,つまり,自白(じはく)があることが重要だとされてきました。

 なので,捜査するがわは,本人にむりやり犯罪を認めさせるために,

 体や心に苦痛を与える「拷問(ごうもん)」を繰り返してきました【★11】


 日本も,大きな戦争に負ける前,

 法律上のたてまえでは「拷問は禁止」としていたのに,

 実際には,取り調べのときに拷問が広くおこなわれていたのです【★12】


 なので,日本が大きな戦争に負けて,一人ひとりを大切にする社会に大きく変わるとき,憲法も大きく変わりました。

 拷問は「絶対に」禁止になり【★13】

 拷問などでむりやりとられた自白は裁判で証拠にできなくなり【★14】

 本人の自白以外に証拠がないときは,裁判で有罪にしたり処罰したりできないことになったのです【★15】



 このように,黙秘権は,捜査するがわが自白をむりやり取ろうとしてくることを防ぐのと関係しています【★16】



 しかし,黙秘権が認められる理由は,単にそれだけではありません【★17】



 憲法は,「どんな人も,一人ひとりが大切にされる,人として尊重される」ということを,一番大切にしています。

 「一人ひとりが大切にされる,尊重される」ということは,

 「自分のことは自分で決める,他の人から何かを強制されない」ということにつながります。

 そしてそれは,取り調べを受けている場面にも当てはまります。

 一人ひとりが尊重されるからこそ,

 何を話し,何を話さないかは,自分で決める。

 他の人から強制されるのはおかしい。

 だから,黙秘権があるのです【★18】【★19】




 「悪いことをしていないなら,していないと言えばいい」,という人がいます。

 しかしそれは,犯罪を捜査するがわを甘く見ています。


 あなたを疑い,あなたを処罰しようとしているがわは,

 圧倒的に力を持っている,取り調べのプロです。

 あなたの話を,かんたんには信用してくれません。


 むしろ,

 あなたが前に話したことと今話したことの間に少しだけ違いがあったり,

 あなたがあやふやな記憶で話したことが,他の証拠と食い違っていたりすると,

 それをとらえて,「あなたはウソをついている」と厳しくせまってきます。

 あなたが話したとおりに供述調書が作られず,気づかないうちに犯罪を認めたかのような供述調書にサインさせられてしまうこともあります。

 ひどい場合には,あなたが説明したアリバイをつぶすために他の人の証言が取られてしまったりします【★20】


 悪いことをしていないなら,

 自分を疑うがわの人に話すよりも,

 真っ先に,自分の味方である弁護人と作戦を立てる必要があるのです。




 「悪いことをしたなら,黙っているのは人としてまちがっている。正直に話すべきだ」,という人がいます。


 しかし,ウソをつくのならば「人としてまちがっている」と言えますが【★21】

 ウソをつくことと,黙って答えないことは,全くちがいます【★22】


 人としての生き方が正しいかどうかは,法律が決めることではありません。

 どんな生き方をするかは,外から押しつけられるものではなく,自分で選んで決めるものです。

 そして,人としての生き方がどうであれ,刑事事件という法律の問題になっている以上,

 正直に話すのが法律的にプラスなのか,

 正直に話さないと法律的にマイナスになるのか,

 話すとしたら何をどこまで話すのか,ということを,

 まずは,自分の味方の法律家である弁護士に相談することが必要なのです。




 最高裁は,「憲法が黙秘を認めているのは,刑事事件でマイナスになることについてだけ」と言っています【★23】

 でも私は,その解釈はおかしいと考えています。

 上に書いたように,「自分のことは自分で決める,他の人から強制されない」のですから,

 刑事事件以外の場面,たとえば親や先生から何かを聞かれたときも,

 答えたくないことは答えない,話したくないことは話さない,ということは認められなければならないはずです。



 「怒らないから正直に話しなさい」と親や先生に言われて,正直に話したらこっぴどく怒られた。

 そんな理不尽(りふじん)な思いをしたことのある人も,多いのではないでしょうか。


 私が担当したケースの中には,

 学校のテストでカンニングを疑われて,やっていないと一生懸命説明しているのに先生たちに信じてもらえず,

 長時間にわたる事情聴取を受けたあと,自ら命を絶った生徒もいます【★24】


 力を持っている相手,しかも,自分を罰しようとしてくる相手が,あなたの話をきちんと聞いてしっかり受け止めてくれるとは限りません。

 むしろ,そうでないことのほうが,とても多いのです。

 だからこそ,そういう力を持っている相手に話し始める前に,

 まずは,あなたの話にしっかり耳を傾ける立場の人に相談することが大切です。



 まわりの大人や,ニュースでみかける偉(えら)い人たちを,よく観察してみてください。

 「お答えを差し控(ひか)えさせていただきます」というフレーズを,よく耳にしませんか。

 ほかにも,ごにょごにょと何かを答えているようでいて,実際には,聞かれたことに正面から何も答えずにはぐらかして終わっている,

 そんな大人が多いことにも,気がつくと思います。

 人としての生き方がどうであれ,責任ある立場ならきちんと答えなければいけないはずの場面でも,

 力を持っている大人たちは,質問に正面からきちんと答えません。

 それなのに,子どもだと,力を持っている大人にむりやり答えさせられ,黙っていることが許されない,というのではおかしいと,私は思います。




【★1】 憲法82条1項 「裁判の対審(たいしん)及び判決は,公開法廷でこれを行ふ(う)」
【★2】 人定質問(じんていしつもん)と言います。
 刑事訴訟規則196条 「裁判長は,検察官の起訴状の朗読(ろうどく)に先だち,被告人に対し,その人違(ひとちがい)でないことを確かめるに足りる事項を問わなければならない」
【★3】 起訴状朗読と言います。
 刑事訴訟法291条1項 「検察官は,まず,起訴状を朗読しなければならない」
【★4】 黙秘権の説明を,権利告知(けんりこくち)と言います。
 刑事訴訟法291条4項 「裁判長は,起訴状の朗読が終った後,被告人に対し,終始(しゅうし)沈黙(ちんもく)し,又は個々の質問に対し陳述(ちんじゅつ)を拒(こば)むことができる旨(むね)その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上,被告人及び弁護人に対し,被告事件について陳述する機会を与えなければならない」
 刑事訴訟規則197条1項 「裁判長は,起訴状の朗読が終った後,被告人に対し,終始沈黙し又個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨の外(ほか),陳述をすることもできる旨及び陳述をすれば自己に不利益な証拠ともなり又利益な証拠ともなるべき旨を告げなければならない」
【★5】 権利告知のあと,被告人・弁護人の陳述があります(【★4】の刑事訴訟法291条4項参照)。人定質問,起訴状朗読,権利告知,被告人・弁護人の陳述の4つの手続を,あわせて「冒頭手続(ぼうとうてつづき)」と言います。
【★6】 刑事訴訟法198条1項 「検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者(ひぎしゃ)の出頭を求め,これを取り調べることができる。…(略)」
 同条2項 「前項の取調に際しては,被疑者に対し,あらかじめ,自己の意思(いし)に反(はん)して供述(きょうじゅつ)をする必要がない旨を告げなければならない」
 犯罪捜査規範169条1項 「被疑者の取調べを行うに当たっては,あらかじめ,自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない」
 同条2項 「前項の告知は,取調べが相当期間中断した後再びこれを開始する場合又は取調べ警察官が交代した場合には,改めて行わなければならない」
【★7】 少年審判規則29条の2 「裁判長は,第1回の審判期日の冒頭において,少年に対し,供述を強(し)いられることはないことを分かりやすく説明した上,審判に付すべき事由の要旨を告げ,これについて陳述する機会を与えなければならない」
【★8】 憲法38条1項 「何人(なんぴと)も,自己に不利益な供述を強要されない」
 (注;憲法38条1項は)「アメリカ合衆国憲法修正5条の自己負罪拒否(じこふざいきょひ)の特権に由来する」(芦部信喜「憲法第6版」252頁)
【★9】 「憲法38条1項は『何人も,自己に不利益な供述を強要されない』とする。(略)刑事訴訟法は,より広く『自己の意思に反して供述する必要がない』旨,あるいは『質問に対して陳述を拒むことができる』旨が定められている」(長谷部恭男「憲法」256頁)
【★10】 子どもの権利条約40条1項 「締約国(ていやくこく)は,刑法を犯したと申し立てられ,訴追(そつい)され又は認定されたすべての児童が尊厳(そんげん)及び価値についての当該児童の意識を促進(そくしん)させるような方法であって,当該児童が他の者の人権及び基本的自由を尊重することを強化し,かつ,当該児童の年齢を考慮し,」更(さら)に,当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担(にな)うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める」
 同条2項 「このため,締約国は,国際文書の関連する規定を考慮して,特に次のことを確保する。 (略) (b) 刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童は,少なくとも次の保障を受けること。 (略) (iv) 供述又は有罪の自白を強要されないこと。 (略)」
 国連子どもの委員会一般的意見10号「少年司法における子どもの権利」パラグラフ44「刑法に違反したとして申立てられ,罪を問われ,または認定された子どもにとって,意見を聴かれる権利が公正な審判のために基本的重要性を有することは明らかである。同様に,子どもには,それがその最善の利益に合致するのであれば,代理人または適切な機関を通じてのみならず直接に意見を聴かれる権利があることも,また明らかである。この権利は,手続のすべての段階において遵守されなければならない。それは審判前の段階から始まり,この段階において子どもは,黙秘権ならびに警察,検察官および予審判事から意見を聴かれる権利を有する。しかしこのことは,裁決の段階および科された措置の実施段階にも適用される。(略)」
 少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)7.1 「無罪の推定,犯罪事実の告知を受ける権利,黙秘権,弁護人依頼権,親や保護者の立会権,証人尋問権(証人と相対し反対尋問する権利),上級の機関に不服を申し立てる権利などの基本的な手続的保障は,手続のあらゆる段階で保障されなければならない」
【★11】 例えば日本でも,江戸時代は,有罪にするには自白が必要だったので,自白を得るための拷問が行われていました。
 「『吟味詰り之口書』は,書面に轉換された被疑者の自白である。これが原則として有罪判決に必要であるということは,拷問による自白强制が不可避であったことを意味する」(平松義郎「近世刑事訴訟法の研究」775頁)
【★12】 「戦前の刑事手続においては,『絶対主義』・『必罰主義』を内容とする実体的真実主義の原理の故もあって,自白取得のため拷問・脅迫等が絶えなかった。…旧憲法下においても,法律上,拷問・脅迫は禁止されていたが,黙秘権や自白の証拠能力・証明力の制限は保障されていなかった。それ故,『自白は証拠の王である』として,自白取得のために禁止されている拷問等が絶えなかった」(芦部信喜「憲法Ⅲ人権(2)」208頁)。
 「大正刑訴法は,捜査機関の権限を拡大・強化することによって,人権蹂躙(じゅうりん)の発生を防止しようとしたものであった。しかし,大正刑訴法の施行後においても,政府の意図とは裏腹に,人権蹂躙事件が頻発することになる。…検挙された者に対する取調べに際しては,かなりの拷問が用いられている。たとえば,竹刀で悶絶(もんぜつ)するまで殴る,指の間に鉛筆を挟んで縛めつける,三角柱の柱の上に座らせて膝の上に石を置く,生爪を剥(は)ぐ,熱湯に手を入れさせる,天井から逆様に吊るし鼻の穴に唐辛子を入れる等々である」(多田辰也「被疑者取調べとその適正化」103頁)
【★13】 憲法36条 「公務員による拷問及び残虐(ざんぎゃく)な刑罰は,絶対にこれを禁ずる」
【★14】 憲法38条2項 「強制,拷問若(も)しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留(よくりゅう)若しくは拘禁(こうきん)された後の自白は,これを証拠とすることができない」
【★15】 憲法38条3項 「何人も,自己に不利益な唯一(ゆいいつ)の証拠が本人の自白である場合には,有罪とされ,又は刑罰を科せられない」
【★16】 「黙秘すなわち,供述拒否が憲法上の適正手続権として保障されなければならない理由は…第三に,黙秘権を保障しないと,取調べが糾問的(きゅうもんてき)で過酷なものになり,被疑者の身体の安全や自由に危険が生じたり,虚偽(きょぎ)の自白がなされたりするおそれが高まるという,歴史的な要求という側面もある」(渕野貴生「黙秘する被疑者・被告人の黙秘権保障」季刊刑事弁護79号11頁)
【★17】 (注:旧刑事訴訟法の下でも自白義務がなかったことを指摘し,それでも実際に敗戦まで黙秘権が尊重されず時に拷問がなされていた,という佐伯千仭博士の問題提起を紹介したうえで)「旧刑事訴訟法の下でも(規範的,倫理的には)黙秘権が保障されていたことを指摘するのは,黙秘権の普遍的(ふへんてき)な正確を理解するうえで,正しい議論の仕方だと思います。ただし他方で,そのような指摘や議論の仕方は,『黙秘権を保障するかどうかは,被疑者・被告人に法律上・事実上の供述義務…を課さないことを認めるかどうかであり,それに尽きる』という理解を伴いがちです。…そのような黙秘権の理解は,戦後の日本国憲法…の下では,不十分・不適切なものになるといわねばなりません。すなわち,黙秘権という権利の意義ないし機能として,供述義務を課さない…という消極的なものだけを考えてしまうのは不十分・不適切であって,現在ではむしろ,克服(こくふく)されなければならないものだと思うのです」(高田昭正「黙秘権について 歴史的意義と現代的意義」季刊刑事弁護38号64頁)
【★18】 「黙秘権の本質は,個人の人格の尊厳に対する刑事訴訟の譲歩(じょうほ)にある。人格は自律を生命とする。自己保存の本能を克服(こくふく)して,自己を進んで刑罰に服させるのは崇高(すうこう)な善であり,人はそのように行為する道徳的義務を持つ。それは極めて崇高な道徳的義務である。しかし正(まさ)にその故に他からの強制を許さない。ただ各自の自発的行為にまつだけである。この故に,積極的に自己を有罪に導く行為をとることを法律的に強制しない。まして国家は,個人を保護するためにのみ存在するものである。その目的達成のための手段として,個人の人格を侵害するというのは,自己矛盾である。黙秘権とは,このような人格の尊厳に対して刑事訴訟が譲歩した『証拠禁止』である。その供述が信憑性(しんぴょうせい)に乏しく,誤判に導く虞(おそれ)があるためにつくられた『証拠法則』ではない」(平野龍一「刑事法研究第3巻 捜査と人権」94頁)
 「黙秘権は人間の尊厳に由来する。被疑者は,拷問によって供述を強要されないというにとどまらず,供述するか供述しないかの自由な自己決定権をもっている」(田口守一「刑事訴訟法第7版」139頁)
 (注:黙秘権の現代的意義について)「一つは,田宮博士が明確に述べられた,黙秘権の絶対的性格です。被疑者・被告人の黙秘権は他の何ものかによってその存在を条件づけられたり,制約を受けたりする権利ではないこと…が確認されねばなりません。すなわち,個人の尊厳や自律性,人格の不可侵性の…現れとして黙秘権は(その存在と内容を)正当化されるのです。ですから,黙秘権を確立しなさいという要求は,そのような『個人の尊厳と自律性を根拠とする論理構造(絶対的性格)』をもつ被疑者・被告人の権利を保障しなさいという要求をすることなのです」(高田昭正「黙秘権について 歴史的意義と現代的意義」季刊刑事弁護38号67頁)
 「黙秘すなわち,供述拒否が憲法上の適正手続権として保障されなければならない理由は,第一に,それが自己防衛本能ともいうべき,人間の,というより生物の本質に根ざしたものであることにある。…自己を破壊するような行動をするように迫ることは,人間の尊厳を踏みにじることになる。だから,そうしなくても済むように供述の提供を拒否できることを権利として保障する必要があるのである」(渕野貴生「黙秘する被疑者・被告人の黙秘権保障」季刊刑事弁護79号11頁)
【★19】 「黙秘権を保障するということは,自分が何を話すのかについて少年の自己決定を尊重するということであり,少年を一個の独立した人格として認めることにほかならない。そうであるとすれば,弁護人・付添人が黙秘することの意味と必要性について少年に十分に説明し,その説明により,少年が自分には供述するか否かを自分の判断で決める権利があるのだと認識し,理解したうえで黙秘を選択したとすれば,それは少年が自ら選び取った決断である。少年が自己の人生に関わる出来事について,そのような決断の経験を経ることは,少年の人格と発達を促進することになる」(村中貴之「少年事件と黙秘」季刊刑事弁護79号31頁)
【★20】 後藤貞人「黙秘権行使の戦略」季刊刑事弁護79号19頁
【★21】 「ウソをつくのは犯罪?」の記事も見てください。
【★22】 「被疑者に黙秘権を与えるのは,道徳に反する--罪を犯したのであれば,いさぎよく告白すべきであるし,無実であれば,真実を述べて疑いを解くべきである--という主張がある。法律家でない一般の国民には,むしろ根強い考え方であるかも知れない。しかし,これは,ともすれば自白の追及に傾きやすい捜査の現実に対する認識の不足に基づいている。そして,黙秘権は,供述しないことを許すだけであって,『虚言(きょげん)の自由』を認めるものではないから,不道徳でもない」(松尾浩也「刑事訴訟法上・新版」119頁)
【★23】 最高裁大法廷昭和32年2月20日判決・刑集11巻2号802頁 「いわゆる黙秘権を規定した憲法38条1項の法文では,単に『何人も自己に不利益な供述を強要されない。』とあるに過ぎないけれども,その法意は何人も自己が刑事上の責任を問われる虞(おそれ)ある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべきであることは,この制度発達の沿革に徴して明らかである」
 「黙秘しうる事実は,刑事責任を負わせ又は過重するような事実に限られる。…わが憲法はただ『不利益な供述』として,何らの限定をも設けていないから,刑事責任に限定する理由はない,という反対論がある。しかし,わが法も規定の位置からいって刑事に関するものであることは明らかであ(る)」(平野龍一「刑事法研究第3巻 捜査と人権」98頁)
 なお,最高裁は,憲法38条1項について,「純然たる刑事事件においてばかりではなく,それ以外の手続においても,実質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には,ひとしく及ぶ」としています(川崎民商税務検査拒否事件。最高裁大法廷昭和47年11月22日判決・刑集26巻9号554頁)。
【★24】 「先生の指導を受けて死にたいほどつらい」の記事を見てください。
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2022年9月12日 (月)

「こども労働法」の本ができました

「こども労働法 未来の自分を守るために知っておきたいワークルール」を出版しました。

 小学生が読んでわかる労働法の本を作りたいと出版社から声がかかり,労働事件でとても活躍している笠置裕亮弁護士にも著者に加わっていただきました。
 私はいままで中学生・高校生対象の文章は多く書いてきましたが,小学生向けは初めてで,小学生にも伝わるように内容と表現をかなり議論し,修正を続けて,ようやく完成しました。
 小学生向けとうたっていますが,中学生・高校生・大学生にも,そして現に今働いている大人たちにも,ぜひ手に取ってほしいと思っています。
 一人でも多くの子どもたちにメッセージが届きますように。

「こども労働法 未来の自分を守るために知っておきたいワークルール」
山下 敏雅, 笠置 裕亮 著
日本法令,1540円
https://www.amazon.co.jp/o/ASIN/453972908X/pgbl-22

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◆未来の自分を守るために知っておきたいワークルール
 これからの時代を担うこども達に向け、やさしい日本語とイラストを使って、「働き方にまつわる法律」を解説。
 身近な大人の働き方を見て疑問を抱いた児童、「早くからこども達に法律を学ばせたい」という保護者、ワークルール教育の充実化を願う教育者は必読の1冊。
 身近な大人たちが働くなかで遭遇する、さまざまな「?」に弁護士が法的視点から回答していく。

目次

第1章 「働く」とは
Q1 働くってどういうこと?
コラム1 働くことは義務か、権利か
Q2 働けないときはどうなる?

第2章 「働くこと」に関する法律
Q3 働くときのルールって?
Q4 もらえるお金の額はなにで決まる?
Q5 給料を払うときのルールって?
コラム2 給料を親に取られてしまう

第3章 さまざまな働き方
Q6 子どもでも働ける?
Q7 YouTuberの働き方って?
Q8 正社員ってなに?
コラム3 みんなで進める働き方改革

第4章 「働くこと」を支える制度
Q9 病気になってしまった!
Q10 赤ちゃんが生まれる!
Q11 仕事を辞めることになった!
Q12 仕事中にケガをしてしまった!
Q13 定年退職ってなに?

第5章 働く権利とルール
Q14 働く場所を探すには?
Q15 女性が働き続けるのは大変?
Q16 障害があると働けない?
Q17 LGBTでも楽しく働ける?
Q18 たまには仕事を休みたい!
コラム4 働きすぎで起こる過労死
Q19 転勤って断れない?
Q20 会社からの罰って?

第6章 働くうえでのトラブル
Q21 セクハラ、パワハラってなに?
Q22 突然「クビだ」といわれた!
Q23 辞めたいときに辞められる?
Q24 サービス残業ってなに?
コラム5 法律を守らないブラック企業
Q25 ミスをしたら罰金を払わないとダメ?

第7章 困ったときは…
Q26 ルールが守られないときは?
Q27 労働組合ってなに?
Q28 弁護士ってどんな仕事?

著者プロフィール
■山下 敏雅
 弁護士(永野・山下・平本法律事務所)。
 1978年高知県南国市生まれ、千葉市育ち。2003年東京弁護士会に弁護士登録。
 過労死・過労自死事件、労災事件、子どもの事件(児童虐待、少年非行、未成年後見等)、脱北者支援、セクシュアルマイノリティ支援、HIV陽性者支援などに取り組んでいる。
 2013年よりブログ「どうなってるんだろう?子どもの法律」(http://ymlaw.txt-nifty.com)を更新中。
 趣味は音楽と旅と筋トレ。
■笠置 裕亮
 弁護士(横浜法律事務所)。
 1986年埼玉県所沢市生まれ。さいたま市(旧大宮市)育ち。
 2012年神奈川県弁護士会に弁護士登録。
 解雇・残業代請求事件、過労死・過労自死事件、労災事件などの労働事件を専門的に扱いつつ、子どもや社会人に対して、労働トラブルに巻き込まれた場合にどのように対処すればよいかについての啓発活動に日々取り組んでいる。
 趣味は子どもと遊ぶこと。

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はじめに

 皆さんの将来の夢は,何でしょうか?
 世界一周,幸せな家庭を作る……どれもとても素敵な答えですね。でも,小学生の皆さんから一番多く返ってくる答えは,「大人になったときにしたい仕事」ではないでしょうか。
 まだ働いたことのない皆さんが,”夢”と聞かれてすぐに仕事を思い浮かべるのは,仕事が人生でとてもだいじなことだと,周りの大人たちを見て感じているからだと思います。
 仕事は,一人ひとりの人生を充実したものにしてくれます。そして,私たちの社会も明るく豊かなものにしてくれます。
 でも,皆さんの周りには,仕事で疲れたり,つらい思いをしたりしている大人もいるのではないかと思います。
 仕事は,趣味やボランティアとは違って,生きていくのに必要なお金をかせぐためのものです。楽しいもの,うれしいこと,おいしいもの,ラクなこと。そういったことは,お金を払って手に入れます。逆に,お金が手に入るのは,つらくて,大変で,しんどいことだから,ともいえます。
 仕事がとても大切で,つらいことでもあるからこそ,一人ひとりが安心して働けるように,”法律”という国のルールがあります。この本では,そうした働くときのルールを,小学生の皆さんに向けてわかりやすく説明しています。
 法律をはじめとして,学校や家の中の決まりごとなど,社会にはさまざまなルールがあります。そういうルールは,「自分よりも上の立場の人たちが勝手に決めて,自分たちをしばってくるもの,やぶったら罰があるもの」だと考えている人も,多くいるのではないでしょうか。
 でも,ルールは本来,一人ひとりを大切に守るためにあるものです。そして,ルールはみんなで作るものであって,おかしいルールにはおかしいと声を上げて,よりよく変えていくべきものです。

 どんな人も,一人ひとりが大切な存在として扱われ,尊重されること。誰かの物や人形,ロボットや奴隷のように扱われるのではなく,大切な人間として扱われること。そして,毎日の暮らしを安心して過ごし,幸せな人生を送れること。それらを,法律の世界では”人権”という言葉で表します。
 人は,誰かに雇われて働くとき,雇う側の会社や職場よりも弱い立場にあります。だからこそ法律は,いろんなルールで働く人の人権を大切に守っています。

 皆さんがやがて大人になり,誰かに雇われて働き始めるとき。さらに遠い将来,上司になって部下を持つとき。会社を作って誰かを雇う立場になるとき。どんなときにでも,働くルールをきちんと知っておく必要があります。
 法律がどうやって働く人たちを守っているのか。それをこれから一緒に,この本で見ていきましょう。

2022年8月 4日 (木)

ブログが本になりました!(パート1の新版)

「新版 どうなってるんだろう? 子どもの法律」ができました。

 ブログ「どうなってるんだろう? 子どもの法律」,5年前に書籍化されたパート1に,成人年齢の引下げの説明を加え,引下げに合わせてこれまでの内容を多く修正し,そしてネット上で評判がよかった「山下さんは包茎ですか?」の記事を加えた新版です。
 成人年齢引下げに対応済みのパート2と共に,多くの子ども達に届くことを願っています。

 「新版 どうなってるんだろう? 子どもの法律」
 山下敏雅,渡辺雅之著
 高文研,2200円+税
 https://honto.jp/netstore/pd-book_31748857.html

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子どもたちを取り巻く環境は日々変わり、困難さも増しています。

一人ひとりが大切な存在・大切な人間として尊重され、毎日を安心して暮らせるためにも、知っておきたい人権のことを。
好評だった初版を、2022年4月の成人年齢引き下げに対応して改訂し、「山下さんは包茎ですか?」のQ&Aを追加。
いじめ、体罰、虐待、親の離婚、妊娠、LGBT、補導、犯罪…etc
学校、バイト、家庭などで子どもが直面したとき、知っておきたい法律40本!

【目次】
新版の刊行にあたって
はじめに
成人年齢の引き下げについて
第1章 学校
1 :いじめは犯罪? どうして法律ではダメなのか
2 :先生が体罰をやめない
3 :義務教育の「義務」って?
4 :部活動の連帯責任
5 :生活保護を受けている家でも奨学金で大学に行ける?
6 :子どもの選挙運動・政治活動
7 :夜間中学
解説
第2章 家庭
1 :親の虐待から逃げてきて家に帰れない
2 :親が裁判所で離婚の話し合いをしている
3 :母親の再婚相手との養子縁組したくない
4 :父親が日本人なので日本国籍をとりたい
5 :在日コリアンの身分証と通称
6 :お金がなくて住む場所がなくなりそう
7 :離れている親のこと
8 :親子の縁を切ると言われた
9 :名前を変えたい
解説
第3章 性
1 :妊娠してしまってどうすればいいかわからない
2 :自分の男の体がいやで性別を変えたい
3 :「ゲイだとばらす」とおどされている
4 :裸の画像を元彼にネットに流された
5 :アダルトサイト
6 :HIV・エイズ
7 :山下さんは包茎ですか?
解説
第4章 犯罪
1 :酒・タバコ・薬物
2 :逮捕された! 早く外に出たい
3 :補導って何?
4 :殴り返すのは正当防衛?
5 :彼女が電車で痴漢に遭った
6 :路上ライブを警察に止められた
7 :少年院ってどんなところ?
8 :死刑
9 :実名報道
解説
第5章 労働
1 :バイトの給料の入る口座から親がお金を抜いていく
2 :アルバイトしたら生活保護の不正受給と言われた
3 :18 歳になった高校生の深夜バイト
4 :バイト先でミスすると給料から引かれてしまう
5 :「クビだ、明日から来るな」とバイト先から言われた
6 :正社員ってどういう働き方?
解説
弁護士に相談するには
あとがき

2022年7月 1日 (金)

高校生は残業できないってほんと?


 定時制の高校生です。平日に6時間仕事してから学校に行ってるんですけど,この前,職場から「あれ,高校生って残業させちゃいけないんだっけ?」と聞かれて,俺に言われてもわかんないよと思ったんですけど,実際どうなんですか?

 



 「高校生は残業できない」というのは,「半分イエスで,半分ノー」です。

 


 労働基準法は,

 「原則,1日8時間/週40時間を超えて働かせてはいけない」

として,働く人を守っています【★1】

 

 例外として,それ以上長く働かせるなら,

 職場と働く人たちとの間で,「どういう時に最大何十何時間まで働かせてもOKか」という約束をして,

 それを労働基準監督署という役所に届け出なければいけません【★2】

 労働基準法の36条にそう書いてあるので,

 この約束のことを,「36協定(さぶろくきょうてい)」と言います。

 36協定がないのに1日8時間/週40時間以上の残業をさせたら,犯罪として職場が処罰されます【★3】



 この「36協定があれば残業させられる」というルールは,

 未成年には,あてはまりません【★4】

 国のおおもとのルールである憲法は,「子どもを酷使(こくし)してはいけない」としているので【★5】

 労働基準法も,「子どもは原則どおり1日8時間/週40時間まで。残業をさせてはいけない」としているのです。


 だから,そういう意味で「高校生は残業できない」というのは,正解です。

(もっとも,これは高校生に限った話ではなく,高校に通っていない人も18歳になるまでは同じですし,逆に,高校生でも18歳になれば大人と同じ扱いです)。




 しかし,「高校生は残業できない」というのは,ある意味では,不正解です。



 法律が言っているのは,「1日8時間以上働かせるのはNG」ということです。

 たとえば,あなたのように「1日6時間働く」という約束ならば【★6】

 約束より1時間多く働いて,7時間勤務になった日があっても,

 「8時間以上」ではないので,労働基準法には違反しません。

 なので,そういう意味での残業ならばOKです【★7】



 また,労働基準法は,未成年には36条があてはまらない代わりに,

 「1日4時間かそれよりも短い日があって,1週間トータルで40時間を超えないなら,

 他の日を1日10時間まで延ばしてもいい」

としています【★8】

 たとえば,「月曜日は4時間,火曜日から木曜日は6時間,金曜日は10時間,1週間トータルで32時間」というようなシフトです。

 こういった場合の金曜日のように,1日8時間以上働くこともOKです。

(ただし厳密には,これを法律的には「残業」とは呼びません。【★9】




 「あれ? 大人は36協定がなければ1日8時間以上はダメなのに,子どもは36協定がなくても1日8時間以上がOKになるのは変じゃない?」と思った人も,いるかもしれません。

 しかし,やはり子どもは大人と比べて,働く時間が長くならないように厳しく制限されています。

 36協定は,ほとんどすべての職場で結ばれています。

 そして,36協定では,「1ヶ月最大45時間まで残業OK」としていることが多いです(むかしはもっと長い時間がふつうでした)【★10】

 他方で未成年は,上に書いたように,1日10時間の日があったとしても,1週間では40時間を超えないように調整がされます。

 だから,大人が36協定で認められるような長い残業は,子どもにはありません。

 (細かい話ですが,未成年の人が変形労働制という特別なシフトを使うと,1週間で8時間延ばした,週48時間までOKになります。しかし,そうすると今度は1日のほうが8時間を超えてはいけなくなります【★11】


 また,裁判所も,「8時間以上働かせるなら,前もって子どもと話し合って計画を立てるなど,きちんと準備をしておかなければダメだ」と言っています【★12】

 なので,雇うがわの勝手な都合で急に一方的に8時間以上働かされることがない,という点でも,子どもはしっかりと守られています【★13】



 未成年の人は,

 深夜労働がNGだったり(「18歳になった高校生の深夜アルバイト」【★14】

 給料を本人の代わりに親が受け取ることを禁止していたり(「バイトの給料の入る口座から親がお金を抜いていく」【★15】

 危険な仕事はNGだったりと【★16】

 労働基準法によって,しっかりと守られています。

 今ではほとんど使われない条文ですが,

 「未成年の人が解雇(クビ)になったとき,ふるさとに帰るための旅費を職場が払わないといけない」というものもあります【★17】


 こうした法律があるのは,

 むかしは子どもたちが奴隷(どれい)のように働かされていて,

 その反省のもと,子どもたちを守るために社会が約束しているからです【★18】


 あなたの仕事と学業の両立を,私は心から応援しています。

 



【★1】 労働基準法32条1項 「使用者は,労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間を超えて,労働させてはならない」
 同条2項 「使用者は,1週間の各日については,労働者に,休憩時間を除き1日について8時間を超えて,労働させてはならない」
【★2】 労働基準法36条1項 「使用者は,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし,厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては,第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間…又は前条の休日…に関する規定にかかわらず,その協定で定めるところによって労働時間を延長し,又は休日に労働させることができる」
【★3】 労働基準法119条 「次の各号のいずれかに該当する者は,6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。 一 …第32条…の規定に違反した者」
《2022(令和4)年労働基準法改正,2025(令和7)年6月施行》
 労働基準法119条 「次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する。 一 …第32条…の規定に違反した者」
【★4】 労働基準法60条1項 「…第36条…の規定は,満18才に満たない者については,これを適用しない」
【★5】 憲法27条3項 「児童は,これを酷使してはならない」
【★6】 この場合の6時間を「所定労働時間」と言います。
【★7】 こうした,労働基準法の「1日8時間/週40時間」は超えていないけれども,職場との取り決めの労働時間(所定労働時間)を超えた残業のことを,「法定内残業」と言います。
【★8】 労働基準法60条3項 「使用者は,第32条の規定にかかわらず,満15歳以上で満18歳に満たない者については,満18歳に達するまでの間(満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの間を除く。),次に定めるところにより,労働させることができる。 一 1週間の労働時間が第32条第1項の労働時間を超えない範囲内において,1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合において,他の日の労働時間を10時間まで延長すること」
 「労働基準法第60条は,満18才に満たない者の労働時間,休憩,休日を定めた。これは,その発育途上の肉体を守り,それを教育する時間的余裕を与えるためである。それは,米・ソなど先進国の水準を目標に,従来の満16才を18才にまで引上げた(1項)。…日本の劣悪な働く条件を考慮して,満18才未満の者に,8時間制を厳格に適用することにしたが,実情を考慮し,満15才以上18才未満の者について,1週1回半休を条件として1日2時間以内の延長を認めることとした(3項)」(松岡三郎「労働法実務体系14 婦人・年少労働者」71頁)
【★9】 「『延長』という字句を用いているが,もとより,第33条,第36条等の『時間外労働』の意味ではない」(厚生労働省労働基準局「平成22年版 労働基準法 下」684頁)
【★10】 昔は36協定で結べる時間数に制限がなかったので,1ヶ月100時間まで残業ができるような36協定も多くありました。しかし,月100時間もの残業は過労死の原因となるものです。そのため,1992(平成4)年に36協定で1か月45時間を目安とするようにと厚生労働省が通達を出し,1998(平成10)年の通達では1か月45時間を労使が遵守しなければならない「基準」にし,2002(平成14)年の通達では月45時間遵守を労基署が指導することとし,さらに働き方改革の一環として,2018(平成30)年の労働基準法改正で,36協定で月45時間を上限とすることが法律にはっきりと書かれることとなりました(労働基準法36条4項)。
【★11】 労働基準法60条3項 「使用者は,第32条の規定にかかわらず,満15歳以上で満18歳に満たない者については,満18歳に達するまでの間(満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの間を除く。),次に定めるところにより,労働させることができる。 … 二 1週間について48時間以下の範囲内で厚生労働省令で定める時間,1日について8時間を超えない範囲内において,第32条の2又は第32条の4及び第32条の4の2の規定の例により労働させること」
 労働基準法施行規則34条の2の4 「法第60条第3項第二号の厚生労働省令で定める時間は,48時間とする」
 「Q52 当社は,パート・アルバイトに1ヶ月単位の変形労働時間制を適用しています。学生アルバイトなどの年少者ですが,例えば『週48時間の範囲内で1日10時間』のシフトで働いてもらうことは可能でしょうか」「A …週48時間以下(2号)とできるのは,『1日8時間を超えない範囲内において』という条件があります。したがって,例えば,月曜日から木曜日を10時間,金曜日を8時間の計48時間と設定するような『いいとこ取り』はできません」(労働新聞社「労働実務事例研究2021年度版」86頁)
【★12】 東京高裁昭和42年6月5日判決(判例タイムズ214号244頁) 「成人労働者の労働時間につき同法第32条第2項(注:現行法32条の2)は就業規則その他により定めた場合に,また,同法第36条は労使双方が書面により協定してこれを行政官庁に届けた場合に同法第32条第1項の規制と異る態様を許容することとしていて,同条項と異る態様の労働時間を許容するについてはその条件の明確化を厳に要求していること,第60条第3項は,心身が未(いま)だ発育の途上にある年少労働者の健全な育成のため,これに休養,勉学の機会を与えるなどその労働生活について成人労働者に比(ひ)し厚く保護する必要があるので,使用者の事業運営上の便宜(べんぎ)をも考慮しながら,労働時間の緩和を認める条件を成人労働者に比し厳格にしたものであるから,その条件については成人労働者の場合と同様或いはそれにも増してその明確化が要求されて然(しか)るべきであること,そして第60条第3項は1日の労働時間の延長については,1週間の労働時間の制限のほか,『1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合においては』という表現を用いてこれを条件にしていることに鑑(かんが)みると,年少労働者についてもその秩序ある労働生活を維持させるため,右の延長の際には既(すで)に短縮措置の条件が確定,明示されていなければならないと解(かい)するのが相当である。従って,右の労働時間の短縮,延長については,就業規則,使用者と年少労働者との話合い等により予(あらかじ)め各週の就業計画を定め,これにより難(がた)い事情のあるときは週の初めにその週の就業計画を定め,週の途中において計画の変更を余儀(よぎ)なくする事情が生じたときは速(すみや)かに爾後(じご)におけるその週の就業計画を定めるなどして,年少労働者に対しそれが予め明示されている場合に限り,労働時間の延長が許され,遅くとも延長の際までに短縮の計画が明示されていない場合は,使用者にその週のうちに短縮措置をとる意思があると否(いな)とに拘(かかわ)らず,1日8時間を超える労働をさせ,外形的に違法な状態が成立した限り,その時点において第60条第3項違反の罪が成立するというべきであ(る)」
【★13】 なお,細かいため本文では触れていませんが,年少者であっても時間外労働が認められる例外的な場合があります。
 「第33条及び第41条は年少者にも適用されるから,災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合において,行政官庁の許可を得たときは,年少者であっても時間外労働又は休日労働をさせることができるし,官公署の事業(別表第1に掲げる事業を除く。)において,公務のため臨時の必要がある場合は,年少者についても時間外労働又は休日労働をさせることができるわけである。また,第41条各号に掲げる事業(農,水産,畜産,養蚕)や業務(監視又は断続的労働,及び年少者が該当する場合はほとんどないであろうが監督若しくは管理の地位にある者の業務又は機密の事務)については,年少者であっても労働時間,休憩及び休日に関する規定の拘束は受けないことになる」(厚生労働省労働基準局「平成22年版 労働基準法 下」683頁)
【★14】 労働基準法61条1項 「使用者は,満18才に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない」
【★15】 労働基準法59条 「未成年者は,独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は,未成年者の賃金を代(かわ)って受け取ってはならない」
【★16】 労働基準法62条1項 「使用者は,満18才に満たない者に,運転中の機械若(も)しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除,注油,検査若しくは修繕をさせ,運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ,動力によるクレーンの運転をさせ,その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせ,又は厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない」
 同条2項 「使用者は,満18才に満たない者を,毒劇薬,毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性,発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務,著(いちじる)しくじんあい若しくは粉末を飛散し,若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全,衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない」
 同条3項 「前項に規定する業務の範囲は,厚生労働省令で定める」
 労働基準法63条 「使用者は,満18才に満たない者を坑内(こうない)で労働させてはならない」
【★17】 労働基準法64条 「満18才に満たない者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合においては,使用者は,必要な旅費を負担しなければならない。ただし,満18才に満たない者がその責(せ)めに帰(き)すべき事由に基づいて解雇され,使用者がその事由について行政官庁の認定を受けたときは,この限りでない」
 「労働基準法68条(注:現行法64条)は,満18才に満たない者,婦人の解雇による帰郷旅費の支給を規定した。足止めや身売りなどを防止せんためである。婦人・年少者は,解雇された場合帰郷したいがその旅費がない為(ため)に寄宿舎に居残っていると,事実上労働を強制されたり,商売女などに身売りされる危険がある。そこで本条は,従来の工場法(施行令27条)の趣旨をうけついでこれらの者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合において,使用者は必要な旅費を負担しなければならないこととした」(松岡三郎「労働法実務体系14 婦人・年少労働者」160頁)
【★18】 「先進諸国における労働保護法は,年少者や女性を過重な労働時間・深夜業・危険有害業務から保護することから出発し,わが国の工場法もそのような年少者(「保護職工」)・女性の保護を主要な内容としていた。わが国の労働保護法が労働者一般の労働基準を定める労働基準法に発展した際にも,年少者や女性は,当時の社会通念においてその生理的機能的特性と考えられたものに相応する特別の保護を維持・強化された」(菅野和夫「労働法第12版」608頁)

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2022年5月 1日 (日)

18歳になったらネット副業で稼ぎたい


 高3です。今のアルバイトだと稼(かせ)げる金額がどうしても限られるんで,18歳で成人したらバイトだけでなくネット副業もやって,効率的に稼ぎたいと思ってます。調べてみたら,簡単にけっこう稼げそうな副業がいろいろあるみたいですけど,弁護士から見て,やっぱりヤバそうですか?




 はい。ヤバいです。



 「ヤバい」という言葉は,最近では良い意味にも使われることがありますが,

 ここでの答えは,「危ない」という,本来の意味の「ヤバい」です。




 チャットで相談に乗るだけで報酬がもらえる。

 レンタル彼氏/彼女に登録して,申し込みがあれば報酬がもらえる。

 広告動画を見るだけで報酬がもらえる。


 他にもいろいろなネット副業がありますが,


 もし本当なら,ラクにお金が稼げるそういう「仕事」は,とても魅力的ですね。



 でも実態は,お金をもうけるどころか,あなたが損をすることがとても多いのです。



 業者はあなたに,その「仕事」を始めるために必要ですと言って,先にお金を払わせます。

 個人情報の「登録料」や,専用サイトの「利用料」を毎月払わせたり,

 「仕事」の「マニュアル・情報商材」や「システム」を数十万円で買わせたりします。

 そして初めの頃は,あなたに少し報酬が入ってくるようになっていて,

 「このまま続ければもっと稼げる」とあなたを信じさせて,あなたにさらにお金を払わせます。

 でも,結局その後は思ったように報酬は入らず,あなたが業者にお金を払い続けるだけです【★1】




 楽しいもの,嬉しいもの,おいしいもの,ラクなこと。

 そういったことは,お金を払って手に入れます。

 逆に仕事でお金が手に入るのは,つらくて,大変で,しんどいことだからです。



 あなたが今,「稼げるお金が限られている」というアルバイトも,きっと大変だろうと思います。

 あなたがこれから知識や技術や経験を身につけて活かすことで,稼げるお金も増えていきます。

 お金をかせぐというのは,それだけ大変なことなのです。

 そう考えると,

 逆に,努力もせず,知識や技術や経験もなく,「ラクしてお金が手に入る」などというのは,本来ありえない,おかしな話です。


 もちろん,法律的に問題のないネット副業もあることは確かですが,

 それらは,かなり努力をしたり,知識や技術や経験を活かしたりしなければうまくいかないもので,

 「ラクしてお金が手に入る」ものではありません。




 法律的な約束ごとを,契約(けいやく)と言います。


 売り買い【★2】,貸し借り【★3】,雇われて働く【★4】,頼まれた仕事を完成させてお金をもらう【★5】,その他にもいろんな契約がありますが,

 どんな契約も,おたがいそれぞれにとってプラスがあります。

 例えば,物の売り買いなら,

 買い主には「欲しいものが手に入る」というプラスがありますし,

 売り主には「お金が入ってもうかった」というプラスがあります。

 そういう契約がたくさんあることで,私たちの社会は豊かなものになります。



 そして,契約は,お互いにきちんと守らなければいけません。

 いったん結んだ契約も,お互いが納得してナシにすることはもちろんできますが(合意解除と言います),

 お互いの納得ではなく,片方から勝手気ままに約束がナシにされてしまうのが許される社会だと,

 だれも安心して契約できなくなってしまいます。

 なので,いったん結んだ契約を一方的にナシにできるのは,きちんとした理由があるときだけです。

 そして,契約が守られなかったときのために裁判のしくみがあり,私たち弁護士はそういう民事裁判の仕事を多くしています。

 契約は,相手だけでなく自分自身も縛(しば)ってしまうものですから,慎重にしなければいけません。




 ところで,スポーツの試合を思い浮かべてみてください。

 初心者と,プロの選手とでは,あまりに力の差がありすぎて,

 初心者が一方的に負け,プロが一方的に勝つだけですね。

 また,中には,相手がルールをよく知らないことを逆手にとって,わざと反則までして試合に勝とうとする,ひどい競技者もいます。



 社会の中の契約も,それと同じことが言えます。



 複雑な経済のしくみをまだ学んでいる途中の未成年の人が,

 とても力のある業者を相手に契約をしたら,

 自分にはマイナスしかなかった,ということも,じゅうぶんありえます。

 だから,未成年の人の契約は,親や未成年後見人などの親権者(しんけんしゃ)がチェックしてOKすることになっています【★6】【★7】


 さきほど,「契約は守られるもの,契約を一方的にナシにできるのは理由があるときだけ」と言いましたが,

 もし親権者のOKがないまま契約をしてしまったら,

 「親権者のOKがなかった」という理由だけで,契約を一方的に取り消してナシにすることができます【★8】

 18歳で成人するまで契約が自分一人でできず,自由がなくてきゅうくつだと感じてきたかもしれませんが,

 未成年の人は,それだけとても強力なバリアで守られているのです。




 成人すると,自分のことをすべて自分で自由に決められます。

 他方で,未成年のときのような強力なバリアがなく,

 マイナスをかぶってしまうことも,基本的には自己責任です。




 ただ,成人だとまったく無防備になる,というわけではありません。

 成人でも,力が強い相手との契約では,一方的におかしな約束を押しつけられてしまう危険があります。

 たとえば,雇(やと)われて働く人と,雇うがわの職場・会社の関係や【★9】

 住む家の借り手と貸し手(大家さん)の関係【★10】 などが,それです。

 なので,法律は,そういう場面で,働く人や借り手などの弱い立場の人を,特別のルールで守っています。



 そして,業者から物やサービスを買うという場面でも,

 消費者契約法という法律が,弱い立場の消費者を守っています。



 「契約は守られるもの,契約を一方的にナシにできるのは理由があるときだけ」ですが,

 業者に一方的に有利で,消費者に一方的に不利な内容は,その部分が無効(むこう)になります【★11】

 また,業者が反則技を使ってきていたときには,消費者はそれを理由にして,契約じたいを一方的にナシにすることができます。

 たとえば,

 業者にウソを言われた,必ず値上がりすると言われた【★12】

 マイナスの説明がなかった【★13】

 お願いしても店から帰してくれなかった,家から帰ってくれなかった【★14】

 必要以上に多く売られた【★15】

 このままでは就職できないと不安にさせられた【★16】

 悪霊を取り除くのに必要だと言われた【★17】

 好きになった相手から「勤務先の店の宝石を買わないと別れる」と言われた【★18】

 その他にも,契約をナシにできるいろんなケースがあります。




 さらに,消費者と業者との間で特にトラブルが起きやすい契約では,

 特定商取引法という法律が,消費者をよりいっそう強く守っています。



 あなたが今回関心をもったネット副業は,

 難しい言葉で「業務提供誘引(ゆういん)販売取引」というものにあたることが多いです【★19】


 「契約は守られるもの,契約を一方的にナシにできるのは理由があるときだけ」ですが,

 業務提供誘引販売取引は,20日以内なら理由なく無条件で一方的にナシにできる,という強力な武器が消費者にあります【★20】

 これを「クーリング・オフ」と言います。



 業務提供誘引販売取引のほかにも,

 街を歩いていて声をかけられるキャッチセールスや(クーリング・オフ期間は8日間)【★21】

 販売員になった自分が,友だちにも販売員になるように誘うことで紹介料が入るというマルチ商法・ネットワークビジネスなど(クーリング・オフ期間は20日間)【★22】

 特定商取引法は,特にトラブルが起きやすい契約から消費者を守っています。



 クーリング・オフは,「頭を冷やす」という意味です。

 「冷静に考え直して,やっぱり契約をやめたい」と思っても,ふつうの契約では,簡単にナシにできません。

 それが,クーリング・オフならば,無条件で簡単にナシにできます。


 また,クーリング・オフの期間を過ぎてしまったり,クーリング・オフじたいができない契約であっても,

 上に書いた消費者契約法の条件を満たしていれば,それを理由に契約をナシにできます。




 ただ,いろんな方法で契約をナシにできたとしても,いったん業者に払ってしまったお金を取り戻すのは大変です。

 また,悪質な業者のやり方は上に並べたもの以外にもたくさんあって,新しい手口も次々現れています【★23】


 お金についての甘い話は,「ヤバい」と判断して,そもそも近寄らないようにしましょう。

 もしうっかり契約をしてしまったら,一人で抱え込まずに,

 すぐに弁護士や消費者ホットライン「188」(全国共通ダイヤル) に相談してください【★24】




 未成年のときに強力なバリアがあるのも,

 成人すると自分で自由に契約ができるのも,

 力の強い相手に丸め込まれないように守られているのも,

 すべては,法律が一人ひとりを大切にし,だれもが安心した毎日と幸せな人生を送れるようにしているからです。


 成人したあとに自分自身を守っていくためにも,

 法律があなたを守るためにあるということを,
これをきっかけに,ぜひ覚えておいてください。


 


【★1】 独立行政法人国民生活センター「怪しい副業・アルバイトのトラブル-簡単に稼げて高収入?!うまい話には裏がある…-」 https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20210916_1.pdf
【★2】 民法555条 「売買(ばいばい)は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約(やく)し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。」
【★3】 民法587条 「消費貸借(しょうひたいしゃく)は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。」
 民法593条 「使用貸借(しようたいしゃく)は,当事者の一方がある物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物について無償(むしょう)で使用及び収益(しゅうえき)をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって,その効力を生ずる。」
 民法601条 「賃貸借(ちんたいしゃく)は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる。」
【★4】 民法623条 「雇用(こよう)は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事(じゅうじ)することを約し,相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって,その効力を生ずる。」
【★5】 民法632条 「請負(うけおい)は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。」
【★6】 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
【★7】 民法818条1項 「成年に達しない子は,父母の親権に服する。」
《2024(令和6)年民法改正,2026(令和8)年4月施行》
 民法818条1項 「親権は,成年に達しない子について,その子の利益のために行使しなければならない。」
 同法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有し,義務を負う。」
 同法857条 「未成年後見人は,第820条から第823条までに規定する事項について,親権を行う者と同一の権利義務を有(ゆう)する。…」
 未成年後見については,「後見人の弁護士がつくってどういうこと?」の記事も見て下さい。
【★8】 民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
 民法121条 「取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす」
【★9】 労働基準法,労働契約法などで,会社などでやとわれて働いている人が保護されています。
【★10】 借地借家法で,アパートや建物,土地の借り手のがわが保護されています。
【★11】 たとえば,業者に責任がある場合でも「損害賠償責任はない」とする条項や,消費者が負う損害金やキャンセル料が高すぎる条項などは,消費者契約法でその部分が無効になります。
 消費者契約法8条1項 「次に掲(かか)げる消費者契約の条項は,無効とする。
 一 事業者の債務不履行(さいむふりこう)により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し,又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
 二 事業者の債務不履行(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し,又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
 三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し,又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
 四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し,又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項」
 同法9条1項 「次の各号に掲げる消費者契約の条項は,当該各号に定める部分について,無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴(ともな)う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分」
【★12】 消費者契約法4条1項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結(ていけつ)について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認(ごにん)をし,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾(しょうだく)の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 一 重要事項について事実と異なることを告(つ)げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
 二 物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し,将来におけるその価額,将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認」
【★13】 消費者契約法4条2項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ,かつ,当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実…を故意(こい)又は重大な過失によって告げなかったことにより,当該事実が存在しないとの誤認をし,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。ただし,当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず,当該消費者がこれを拒(こば)んだときは,この限りでない。」
【★14】 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑(こんわく)し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 一 当該事業者に対し,当該消費者が,その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず,それらの場所から退去しないこと。
 二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず,その場所から当該消費者を退去させないこと。」
【★15】 消費者契約法4条4項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量,回数又は期間…が当該消費者にとっての通常の分量等…を著しく超えるものであることを知っていた場合において,その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,消費者が既に当該消費者契約の目的となるものと同種のものを目的とする消費者契約…を締結し,当該同種契約の目的となるものの分量等と当該消費者契約の目的となるものの分量等とを合算した分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において,その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときも,同様とする。」
【★16】 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 三 当該消費者が,社会生活上の経験が乏(とぼ)しいことから,次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら,その不安をあおり,裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに,物品,権利,役務(えきむ)その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。
 イ 進学,就職,結婚,生計その他の社会生活上の重要な事項」
《2022(令和4)年消費者契約法改正,2023(令和5)年6月施行》
 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 五 当該消費者が,社会生活上の経験が乏(とぼ)しいことから,次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら,その不安をあおり,裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに,物品,権利,役務(えきむ)その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。
 イ 進学,就職,結婚,生計その他の社会生活上の重要な事項」
【★17】 一般的に「霊感商法」と言われます。
 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 六 当該消費者に対し,霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として,そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり,当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。」
《2022(令和4)年消費者契約法改正,2023(令和5)年6月施行》
 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 八 当該消費者に対し,霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として,そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり,当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。」
【★18】 一般的に「デート商法」と言われます。
 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 四 当該消費者が,社会生活上の経験が乏しいことから,当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き,かつ,当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら,これに乗じ,当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻(はたん)することになる旨を告げること。」
《2022(令和4)年消費者契約法改正,2023(令和5)年6月施行》
 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 六 当該消費者が,社会生活上の経験が乏しいことから,当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き,かつ,当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら,これに乗じ,当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻(はたん)することになる旨を告げること。」
【★19】 特定商取引に関する法律51条1項 「…『業務提供誘引販売業』とは,物品の販売…又は有償(ゆうしょう)で行う役務の提供…の事業であって,その販売の目的物たる物品…又はその提供される役務を利用する業務…に従事することにより得られる利益…を収受し得ることをもって相手方を誘引し,その者と特定負担…を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんに係る取引…をするものをいう。」
【★20】 20日間は,契約した日ではなく,業者があなたに法律上決められた書面を文書やメールなどで渡した日からスタートします。例えば,5月1日に書面が届いたとしたら,5月20日までクーリング・オフができます。
 特定商取引に関する法律58条1項 「業務提供誘引販売業を行う者がその業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売契約を締結した場合におけるその業務提供誘引販売契約の相手方…は,第55条第2項の書面を受領した日から起算して20日を経過したとき…を除き,書面又は電磁的記録によりその業務提供誘引販売契約の解除を行うことができる。この場合において,その業務提供誘引販売業を行う者は,その業務提供誘引販売契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。」
 同法55条2項 「業務提供誘引販売業を行う者は,その業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引についての契約…を締結した場合において,その業務提供誘引販売契約の相手方がその業務提供誘引販売業に関して提供され,又はあっせんされる業務を事業所等によらないで行う個人であるときは,遅滞なく,主務省令で定めるところにより,次の事項についてその業務提供誘引販売契約の内容を明らかにする書面をその者に交付しなければならない。
 一 商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容に関する事項
 二 商品若しくは提供される役務を利用する業務の提供又はあっせんについての条件に関する事項
 三 当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項
 四 当該業務提供誘引販売契約の解除に関する事項(第58条第1項から第3項までの規定に関する事項を含む。)
 五 前各号に掲げるもののほか,主務省令で定める事項」
【★21】 キャッチセールスは,訪問販売の一つです。
 特定商取引に関する法律2条1項 「…『訪問販売』とは,次に掲げるものをいう。
 一 販売業者又は役務の提供の事業を営む者…が営業所,代理店その他の主務省令で定める場所…以外の場所において,売買契約の申込みを受け,若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は役務を有償で提供する契約…の申込みを受け,若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供
 二 販売業者又は役務提供事業者が,営業所等において,営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者…から売買契約の申込みを受け,若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申込みを受け,若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供」
 同法9条1項 「販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合…若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者…は,書面又は電磁的記録によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除…を行うことができる。ただし,申込者等が第5条第1項又は第2項の書面を受領した日…から起算して8日を経過した場合…においては,この限りでない。」
【★22】 連鎖(れんさ)販売取引と言います。
 特定商取引に関する法律33条1項 「…『連鎖販売業』とは,物品…の販売…又は有償で行う役務の提供…の事業であつて,販売の目的物たる物品…の再販売…,受託販売…若しくは販売のあっせんをする者又は同種役務の提供…若しくはその役務の提供のあっせんをする者を特定利益…を収受し得ることをもって誘引し,その者と特定負担…を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんに係る取引…をするものをいう。」
 同法40条1項 「連鎖販売業を行う者がその連鎖販売業に係る連鎖販売契約を締結した場合におけるその連鎖販売契約の相手方…は,第37条第2項の書面を受領した日…から起算して20日を経過したとき…を除き,書面又は電磁的記録によりその連鎖販売契約の解除を行うことができる。この場合において,その連鎖販売業を行う者は,その連鎖販売契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。」
【★23】 「マンガでわかる あなたを狙う消費者トラブル40例」(佐伯利華,北原尚,工藤寛泰,よねまる,弘文堂)が,たくさんの消費者トラブルをとてもわかりやすく説明しています。
【★24】 独立行政法人国民生活センターのサイト https://www.kokusen.go.jp/map/index.html



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2022年4月 1日 (金)

成人年齢の引下げで少年法はどうなったの?


 成人年齢の引下げで,少年法はどうなったんですか? 18歳・19歳も,犯罪をしたら大人と同じように処罰されることになったんですか?




 成人年齢が18歳に引き下げられましたが,

 犯罪をした18歳・19歳は,引き続き少年法の対象のままとなりました。

 なので,18歳・19歳の人が刑務所ではなく少年院に行くことがあるのは,変わりません。

 ただ,これまでとちがって,18歳・19歳が大人の扱いに近づいたことが,いくつかあります。




 大人になる歳(成人年齢)は,「民法」という法律で決められています。


 その民法は,いままでずっと「20歳で大人」としていました。

 それが改正されて,2022(令和4)年4月1日から,「18歳で大人」になりました【★1】

 民法で大人として扱われるというのは,「法律的なことを自分一人でする」という意味です。

 くわしくは,「成人年齢が18歳になると何が変わるの?」の記事に書いていますので,読んでみてください。



 犯罪をした子どもの裁判の手続は,「少年法」という法律で決められています。

 その手続は,大人とは大きくちがいます。


 大人の刑事裁判は,公開の手続です【★2】

 裁判所が判決で言い渡すのは「罰金を払いなさい」「刑務所に行きなさい」などの刑罰です【★3】


 これに対して,子どもの裁判は,少年審判という非公開の手続です【★4】

 裁判所が言い渡すのも,「保護司さんのところに通いなさい」「少年院に行って教育を受けなさい」という処分です【★5】

 ただ,重い犯罪の場合には,子どもであっても,大人と同じ裁判で刑罰を受けることがあります(あとでお話しする「逆送(ぎゃくそう)」)【★6】

 そして,犯罪をしたときに18歳以上だと,死刑が言い渡されることもあります【★7】


 少年審判,少年院,死刑については,それぞれ次の記事にくわしく書いていますので,読んでみてください。

 「子どもの犯罪の裁判に国選の弁護士は付くの?」

 「少年院ってどんなところ?」

 「子どもでも死刑になるの?」




 少年法という名前のとおり,犯罪をした人の裁判の手続は,「大人かどうか」で大きくちがいます。

 そして,民法が「18歳で大人」と変わるのに合わせて,少年法についても,

 「大人でなくなるのだから,少年法の対象から外すべきではないか」

 「悪いことをした18歳・19歳を子ども扱いせず,厳しく責任を負わせるべきではないか」

 と,ずっと議論されてきました。


 しかし,「少年院ってどんなところ?」の記事に書いたように,

 これまで実際に少年院に入るのは,18歳・19歳の人がとても多く【★8】

 家・学校・地域できちんと大切にされず,居場所のなかった18歳・19歳にとって,少年院が最後の「育て直し」のチャンスになってきました。

 たとえ犯罪自体は軽くても,少年院で育て直しを受けることがありましたし,

 犯罪をしていなくても,(あとでお話しする,このままでは犯罪をするかもしれない「ぐ犯」として)少年院で育て直しを受けることもありました。


 もし,少年法の対象の年齢が下がり,18歳・19歳が少年院に入れなくなってしまうと,

 犯罪をしても,軽い犯罪だと裁判にかけられないままだったり【★9】

 「執行猶予(しっこうゆうよ)」の判決だと,裁判さえ終わればあとはそのまま社会に放り出されるだけだったり【★10】

 刑務所で刑罰を押しつけられるだけだったりします。

 それでは,最後の「育て直し」のチャンスがなくなってしまいます。

 それは,その人自身にとっても,社会にとっても,マイナスです。


 だから,民法で「18歳で大人」となったあとも,

 犯罪をした18歳・19歳は,引き続き少年法の対象のままで,少年院で「育て直し」が受けられることになりました【★11】




 もっとも,少年法が全く変わらなかったわけではありません。

 2022(令和4)年4月に民法が「18歳で大人」にするのに合わせて,

 少年法も,18歳・19歳の人の扱いを変えました。

 18歳・19歳を「特定少年」と呼んで,17歳以下の子どもと区別し,大人の扱いに近づけられたことが,いくつかできたのです【★12】



 たとえば,18歳・19歳が大人の扱いに近づけられたことの1つめに,大人と同じ刑事裁判を受けて刑罰を受ける事件の範囲が広くなったことがあります。


 子どものときにした犯罪でも,大人と同じ刑事裁判を受けることは,これまでもありました。

 これを,「逆送」と言います。

 「この子には,保護や教育よりも刑罰が必要だ」と家庭裁判所が考えると,そうなります。

 逆送は,やってしまったことの中身や,その子の反省の深さ・浅さ,性格や年齢,その子の周りのことなど,いろんなことをもとに判断されます。

 なかでも,16歳以上の子どもで,故意に(わざと)人を死なせた非常に重い犯罪のときには,逆送して,大人と同じ刑事裁判に「しなければならない」ということになっています。例えば,殺人罪や傷害致死(しょうがいちし)罪などです【★6】


 これに加えて,18歳・19歳の特定少年は,「逆送しなければならない」範囲が広がりました。

 18歳・19歳は,故意に人を死なせた非常に重い犯罪だけでなく,強盗(ごうとう)罪や強制性交等罪,放火罪などの一定の重い犯罪も,「逆送して,大人と同じ刑事裁判にしなければならない」ということになったのです【★13】



 18歳・19歳が大人の扱いに近づけられたことの2つめに,実名報道があります。


 少年法は,犯罪をした子どもについて,「それがだれかわかるような記事や写真を載せてはいけない」と決めています【★14】

 なぜそう決めているかは,「少年事件で実名報道されないのはどうして」の記事を読んでみてください。


 これが,これからは,18歳・19歳の特定少年は,逆送されて大人と同じ刑事裁判が始まった後は,実名報道が認められることになりました【★15】



 18歳・19歳が大人の扱いに近づけられたことの3つめに,「ぐ犯」がなくなったことがあります。


 少年法は,子どもが犯罪をしていなくても,「このままでは犯罪をするかもしれない」という理由で警察から家庭裁判所に送られ,少年審判を受け,場合によっては少年院に送られることもあります。

 これを,「ぐ犯」と言います。

 保護者の正しい指示に従わない,無断外泊をくりかえす,悪い人たちと付き合っている,そういう子どもたちに,犯罪を犯さない人に育ってもらいたい。

 少年法はそういう考えから,「ぐ犯」も対象としています【★16】


 しかしこれからは,18歳・19歳の特定少年は,「ぐ犯」では,家庭裁判所で送られて少年審判を受けたり,少年院に送られたりすることはなくなりました【★17】



 いままで挙げた3つのほかにも,18歳・19歳の特定少年の扱いがいろいろと変えられました。



 18歳・19歳も少年法の対象のままとなったのは,とても良かったと私は思います。

 しかし,「特定少年」として扱いを変えたところの議論は不十分なままでしたし,

 大人の扱いに近づけられたことで,本人の育て直し・立ち直りの機会が奪われ,社会にとってもマイナスにならないかと心配しています。

 そして,一番問題なのは,「少年法は,10代の人たちのルールの話なのに,そのルールをどう変えるかについて,当の10代の人たちときちんと話をしていないこと」だと,私は思っています。



 新しい少年法は,5年後に見直すことになっています【★18】

 そのときには,きちんと10代の人たちと一緒に,法律がどうあるべきかを話し合うべきだと思います。




【★1】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★2】 憲法82条1項 「裁判の対審(たいしん)及び判決は,公開法廷でこれを行ふ(う)」
【★3】 刑法9条 「死刑,懲役(ちょうえき),禁錮(きんこ),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
 同法12条2項 「懲役は,刑事施設に拘置(こうち)して所定(しょてい)の作業を行わせる」
 同法13条2項 「禁錮は,刑事施設に拘置する」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法9条 「死刑,拘禁刑(こうきんけい),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料(かりょう)を主刑とし、没収を付加刑とする」
 同法12条2項 「拘禁刑は,刑事施設に拘置(こうち)する」
 同法12条3項 「拘禁刑に処せられた者には,改善更生を図るため,必要な作業を行わせ,又は必要な指導を行うことができる」

【★4】 少年法22条2項 「審判は,これを公開しない」
【★5】 少年法24条1項 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもつて,次に掲げる保護処分をしなければならない。…
一 保護観察所の保護観察に付すること。
二 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
三 少年院に送致すること。」
【★6】 少年法20条1項 「家庭裁判所は,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」
《2022(令和4)年少年法改正,2025(令和7)年6月施行》
 少年法20条1項「家庭裁判所は,拘禁刑以上の刑に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」

 同条2項 「前項の規定にかかわらず,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係(かか)るものについては,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない」
 少年法45条「家庭裁判所が,第20条第1項の規定によって事件を検察官に送致したときは,次の例による。…… 五 検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,公訴(こうそ)を提起(ていき)するに足りる犯罪の嫌疑(けんぎ)があると思料(しりょう)するときは,公訴を提起しなければならない。…(以下略)」
【★7】 少年法51条1項「罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては,死刑をもって処断(しょだん)すべきときは,無期刑(むきけい)を科する」
《2022(令和4)年少年法改正,2025(令和7)年6月施行》
 少年法51条1項 「罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては,死刑をもって処断(しょだん)すべきときは,無期拘禁刑を科する」
 国際人権規約B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)6条5項 「死刑は,18歳未満の者が行った犯罪について科しては……ならない」
 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)37条 「締約国(ていやくこく)は,次のことを確保する。(a)いかなる児童も,拷問(ごうもん)又は他の残虐(ざんぎゃく)な,非人道的な若(も)しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けないこと。死刑又は釈放(しゃくほう)の可能性がない終身刑は,18歳未満の者が行った犯罪について科さないこと。(以下略)」
【★8】 少年矯正統計少年院2020年「9 少年院別 新収容者の年齢」 2020(令和2)年の総数1624人のうち,12歳以下:1人,13歳:2人,14歳:42人,15歳:96人,16歳:218人,17歳:365人,18歳:407人,19歳:492人,20歳以上:1人
【★9】 検察官は,必ず犯人を裁判にかけなければいけないわけではありません。これを「起訴便宜主義(きそべんぎしゅぎ)」と言います。
 刑事訴訟法248条 「犯人の性格,年齢及(およ)び境遇(きょうぐう),犯罪の軽重(けいちょう)及び情状並(なら)びに犯罪後の情況により訴追(そつい)を必要としないときは,公訴を提起しないことができる」
 本文のような不起訴処分を,「起訴猶予(きそゆうよ)」と言います。
【★10】 大人の刑事裁判では,「執行猶予(しっこうゆうよ)」と言って,「本来は刑務所に行かないといけないが,ある期間中,何も犯罪をしなければ刑務所に行かなくて良い。逆に,その期間に新しい犯罪をしたら,今回の事件の分と,新しい犯罪の事件の分を合わせて刑務所に行かないといけない」,という判決が言い渡されることがあります。少年審判では,少年院に行かない子でも,「保護観察」といって,一定の期間,保護司さんのサポートを受けることになります。大人の刑事裁判の「執行猶予」にも「保護観察」をつけることができますが,保護観察がつく実際の数は少ないです。
 刑法25条1項 「次に掲げる者が3年以下の懲役若(も)しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」
 同条2項 「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。ただし,次条第1項の規定により保護観察に付せられ,その期間内に更に罪を犯した者については,この限りでない。」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法25条1項 「次に掲げる者が3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
二 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者」

 同条2項 「前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が2年以下の拘禁刑の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。(略)」
 同法25条の2第1項 「前条第1項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第2項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する」
【★11】 少年法2条 「この法律において『少年』とは,20歳に満たない者をいう。」
【★12】 少年法第5章「特定少年の特例」。同法62条1項に「特定少年(18歳以上の少年をいう」)と定義されています。
【★13】 少年法62条2項 「…家庭裁判所は,特定少年に係る次に掲げる事件については,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機,態様及び結果,犯行後の情況,特定少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない。
一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの
二 死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であって,その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)」
《2022(令和4)年少年法改正,2025(令和7)年6月施行》
 少年法62条2項 「…家庭裁判所は,特定少年に係る次に掲げる事件については,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機,態様及び結果,犯行後の情況,特定少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない。
一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの
二 死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪の事件であって,その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)」
【★14】 少年法61条 「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」
【★15】 少年法68条 「第61条の規定は,特定少年のとき犯した罪により公訴を提起された場合における同条の記事又は写真については,適用しない。…」
【★16】 少年法3条1項「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。…
三 次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞(おそれ)のある少年
 イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
 ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附かないこと
 ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること
 ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」
【★17】 少年法65条1項 「第3条第1項(第三号に係る部分に限る。)の規定は,特定少年については,適用しない」
【★18】 少年法附則(令和3年5月28日法律第47号)8条 「政府は,この法律の施行後5年を経過した場合において,この法律による改正後の規定及び民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)による改正後の規定の施行の状況並びにこれらの規定の施行後の社会情勢及び国民の意識の変化等を踏まえ,罪を犯した18歳以上20歳未満の者に係る事件の手続及び処分並びにその者に対する処遇に関する制度の在り方等について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」

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2022年3月26日 (土)

「少年のための少年法入門」の本ができました

 少年法はまさしく子どもの法律なのに,子どもたちに向けてわかりやすく書かれた本がない。それなら作ろう。
 ということで,東京弁護士会の子どもの委員会・少年事件部会の牧田史弁護士・西野優花弁護士に加わっていただいて,完成しました。

 「少年のための少年法入門」
 山下敏雅・牧田史・西野優花 監修
 旬報社 1,700円+税

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人を殺してしまったら、僕は死刑になりますか?
-------僕たちの法律を、僕たちは知るべきだと思う

2022年4月からの「18歳成人」に合わせ、少年法も大きく変わります。
少年事件がセンセーショナルに報道されるたびに注目を集める少年法とは、どんな法律なのか?
知識ゼロからでもわかるよう、ストーリー仕立てにしながら
基本的な考え、しくみ、問題点などをやさしく伝えます。
少年法に関心のある人、そしてなにより当事者(少年)のための入門書です。少年法全文付き

[目次]
第1章 少年法ってなに?

第2章 ストーリーで学ぶ 少年法のしくみ
少年事件の主な流れ
STORY1 保護観察 家に帰りたくない ケイタの場合
STORY2 少年院送致 不良グループの中で コウスケの場合
STORY3 児童自立支援施設等送致 夜の街へ ハルミの場合
STORY4 逆送(検察官送致) 殺すつもりなんかなかった… ケンジの場合

第3章 少年法 Q&A
万引きは犯罪ですか?/いじめは犯罪ですか?/友だちを殴ってケガをさせたら捕まりますか?/
警察に捕まったら家族や友人に知られてしまいますか? 学校は退学ですか?/
小学生も、罪を犯せば刑務所や少年院に入りますか?/犯罪をしたときに、20歳ぎりぎりだとどうなりますか?/
「少年犯罪は年々増加し、凶悪化している」という話を聞きます。本当でしょうか? 他

少年法全文

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【はじめに】

 自分はたまたま親子関係に恵まれている家庭で暮らせているので,少年犯罪などで「親殺し」とか,他人に対する暴力に関するニュースなどを見ると,じょうだんにせよ,「こいつ死刑だよ,死刑」とか言っていました。今回のこの授業を受けて,自分がいかに恵まれているかを改めて実感して,また,犯罪者として世間から白い目で見られている少年たちにも,普段から感じているさびしさ,悲しさという物があるということを理解しました。
 私が高校で少年事件の授業をしたときに,ある生徒からいただいた感想です。
 テレビやネットは毎日,犯罪のニュースを報じています。その中には,皆さんと同じ世代の子どもが起こした犯罪もあります。しかし,画面を通して見る少年事件が,自分とはどこか違う世界で起きている,遠いできごとのように感じてはいませんか。
 そして,その子がどんな裁判を受け,どんな扱いを受けるのかについて,少年法という法律の存在を聞いたことはあっても,その法律の中身を知っている人はとても少ないのではないでしょうか(そう言う私自身も,少年法をきちんと勉強したのは大学の法学部に入ってからです)。
 犯罪が自分と違う世界で起きているイメージと,法律は難しくてわからないし自分とは関係なさそうというイメージの2つが掛け合わさって,「少年法が甘いから少年犯罪が凶悪化している」という誤ったイメージまでもがあります。さらに,そのイメージに合わせるように,少年法は何度も改正されてきました。
 私はいつも,子どもたちのための法律がどうなっているかが当の子どもたちに知らされていないのを,とても問題だと思っています。大人は子どもにきちんと法律のしくみを伝えるべきですし,子どもの法律を作ったり変えたりする時には,子どもたちの意見をきちんと聞かなければいけないと思っています(それは私だけが考えていることではなく,子どもの権利条約という世界での約束ごとです)。
 私はそういう思いで,2013年に子どもの法律を解説するブログを始め(「どうなってるんだろう?子どもの法律」http://ymlaw.txt-nifty.com),その中で,まさに10代の皆さんのための法律である少年法についての記事も,いくつか書いていました。
 そうしたところ,旬報社の熊谷満さんから,10代の皆さんに読んでもらえる少年法の入門書を作りたいとお声がけいただきました。たしかに,少年法を知りたいと思ったとき,書店や図書館に並んでいるのは,多くが大人向けの難しい本です。そこで,東京弁護士会「子どもの人権と少年法に関する特別委員会」の少年事件部会の牧田史さんと西野優花さんの両弁護士に心強いメンバーとして加わってもらい,議論を重ねて,この本ができました。
 少年法がどういう法律なのか,これからこの本で一緒に見ていきましょう。そして,読み終えたときに,冒頭の生徒のように新しい発見や気づきが得られることと,今後も一緒に社会のあり方を考えていけることを,心から願っています。

 

 2022年1月 山下 敏雅

 

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2021年9月 1日 (水)

ネット予約をキャンセルしたのにお金を請求されてる

 

 高3の17歳です。友だち8人のGW旅行の計画で,4月初めに旅館をネット予約しました。サイトには住所と名前と電話番号を入力しました。親には後で言おうと思ってたら,数日後には旅行が取りやめになったんで,結局話しませんでした。旅館には直接キャンセルの電話をかけて,「わかりました,大丈夫です」って言われてたんですが,GWの夜に旅館から「まだ来ないのか」って電話がきて,僕が「え?前に電話でキャンセルしましたよ」って言っても,「そんな連絡は来てない。ネット予約はキャンセルもネットですることになっている。無断キャンセルのお金を払え」って言われました。納得できないでいたら,最近,5万円払えって手紙が届いたんですけど,どうすればいいですか?

 

 

 

 ちゃんとキャンセルしたはずなのに,お金を請求されて,びっくりしましたよね。


 「キャンセルもネットですることになっている」,と旅館が言っているのですね。

 でも,たとえそういうルールがあったとしても,

 あなたの話のとおり,電話で連絡して旅館の人が「わかりました,大丈夫です」と答えたのなら,

 キャンセルはきちんとできています
【★1】


 問題は,

 あなたと旅館の人との,その電話のやりとりを,

 あなたが証明しなければいけない,ということです
【★2】



 電話の履歴が残っていたり,

 旅館の人の名前を覚えていたりしていればプラスではあるものの,

 「その時に電話でその人と話をした」ということの証明まではできても,

 「キャンセルの話をした」ことまでの証明は,難しいかもしれません。




 旅館の予約も,そのキャンセルも,どちらも法律的なことがらです。


 法律的なこと,お金がからむ話のときには,

 いつも,手紙やメールなどでやりとりが残るようにして,

 あとでトラブルになったときに証明できるようにあらかじめ備えておくことが,だいじなのです
【★3】




 では,キャンセルの電話をしたことを証明できなければ,

 お金を払わないといけないのでしょうか。



 あなたの場合,

 キャンセルの電話をしたことを証明できなくても,

 未成年だという理由で,お金を払わずに済むことができます。





 未成年の子どもが,法律的な約束をするときには,

 親のOKが必要です
【★4】

 そのOKのことを,「同意(どうい)」と言います。




 あなたは,親には後で言うつもりだったのですよね。



 なので,「親のOKのないまま,旅館の予約をしていた」という理由で,

 予約そのものを取り消して,初めからなかったことにすることができます
【★5】【★6】

 そうすれば,キャンセル料を払う必要はありません。




 あなたが「自分は成人だ」とウソをついていたら,取り消すことはできません
【★7】

 でも,あなたが予約したサイトには,生年月日や年齢を入力するところがなかったのですから,

 ウソをついてはいないので,予約を取り消すことができます。





 キャンセルの連絡をきちんとしていたこと,

 そうでなくても,未成年の自分が親のOKなしにした予約だったので,取り消すこと,

 それらを手紙に書いて,旅館に送ってください
【★8】


 そして,その手紙のコピーも,忘れずに持っていてください。


 手紙は,あなた自身で書くのでも,あなたの親が書くのでも,どちらでもOKです【★9】

 書き方がわからなければ,弁護士に相談してください。






 経済や法律のしくみには,難しいことがたくさんあります。



 だから,そのしくみを学んでいる子どものときには,

 おかしな約束を押しつけられたり,手順を失敗したりして,困ったことにならないよう,

 親が子どもを守ることになっています。




 今回も,5万円という大きなお金がからむ法律の話だったのに,

 「キャンセルするときにやりとりを残す」という手順を,ふんでいなかったのですよね。



 大人だったら,お金を払わないといけなくなるところでした。


 子どもは,そういう手順を学ぶだいじな時期にあるからこそ,

 法律は「親からOKをもらわなければいけない」としていますし,

 親のOKをもらわないまま手順を失敗した子どもも,守られているのです。




 「キャンセル料が払われないのは,旅館にとって厳しいんじゃないか」,と思う人もいるかもしれません。

 でも,私はそう思いません。

 予約サイトに,お客さんの生年月日や年齢を入力してもらい,

 未成年であれば親にも確認する,というしくみにすれば済むことです。

 それは,子どもと比べて経済や法律を知っているべき業者にとっては,難しいことではありません。




 あなたは今高校3年生で17歳ということで,これまで未成年取消の話をしてきました。

 しかし,高校3年生には,17歳の人もいれば,18歳以上の人もいます。

 法律が改正されて,2022年4月から,成人年齢は20歳から18歳に引き下げられます【★10】

 今後は,もし18歳になっていたなら,

 今回のようなケースでは,未成年を理由に取り消せなくなります。




 インターネットでは,今回のケースのようなトラブルだけでなく,

 例えば,とても高いキャンセル料が一方的に決められていて,そのことが小さい字でしか説明されていなかったり
【★11】

 アダルトサイトなどで,その気がないのにいつの間にか何かを申し込んだことにされて,お金を請求されたりなど
【★12】

 子どもたちが経済や法律を知らないことにつけ込んだ悪質な業者による被害のトラブルが,たくさんあります。

 今後,18歳・19歳の人たちの被害が増えてしまうのではないかと,私たち弁護士は心配しています
【★13】



 成人するまでの今のだいじな時期に,

 親に守られながら,経済や法律のしくみを学んでいってください。


 そして,子どものときはもちろん,大人になってからも,

 法律のことやお金のことで困ったら,

 大きなトラブルになる前に,早めに弁護士に相談するようにしてください。

 

 

 

【★1】 電話で宿泊する契約をナシにすることをあなたがお願いし(法律の言葉で「申込(もうしこみ)」といいます),それを旅館がOKしたのですから(「承諾(しょうだく)」といいます),合意解除(ごういかいじょ)が成り立っています。旅館が承諾したのなら,申込がネットだったのか電話だったのかにかかわらず,合意解除は成立しています。
【★2】 証明責任(しょうめいせきにん)と言います。「証明責任とは,法令適用の前提として必要な事実について,訴訟上(そしょうじょう)真偽(しんぎ)不明の状態が生じたときに,その法令適用にもとづく法律効果が発生しないとされる当事者の負担をいう」(伊藤眞「民事訴訟法第4版補訂版」356頁)
【★3】 ただし,トラブルになったあとは,メールでやりとりするのは,かえってトラブルが大きくなることになるので,避けたほうがよいです。「既読スルーしてケンカになった」の記事も読んでみてください。
【★4】 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。…」
【★5】 民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★6】 民法121条 「取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす」
【★7】 民法21条 「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術(さじゅつ)を用(もち)いたときは,その行為を取り消すことができない。」
【★8】 旅館が「受け取っていない」と言わないように,書留や特定郵便(受取のサインはありませんが,相手のポストに入れたことは郵便局が記録してくれます)など,受け取ったことが証明できる手紙で送りましょう。内容証明郵便であれば「手紙は受け取ったけれど中身がちがっている」と言われることも防げますが,書式にルールがありますし,費用もかかります。
【★9】 民法120条1項 「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,制限行為能力者…又はその代理人,承継人若(も)しくは同意をすることができる者に限り,取り消すことができる」
【★10】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★11】 社会の中での一般的なキャンセル料と比べて高いなら,消費者契約法という法律で,そのキャンセル料のルールが無効だと主張できます。
 消費者契約法9条 「次の各号に掲げる消費者契約の条項は,当該各号に定める部分について,無効とする。 一 当該消費者契約の解除に伴(ともな)う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分」
【★12】 いわゆる「ワンクリック詐欺」を防ぐために,ネットでは,本人が間違いなく契約することを確認できるように画面表示していなければ,「その気がなかったのにうっかり入力してしまっていた」という理由(錯誤(さくご)と言います)で,無効にすることができます。民法では,「うっかり」の度合いがひどければ無効にすることはできない,と決まっているのですが,ネットの契約では,たとえ「うっかり」の度合いがひどくても,業者の側がきちんと確認の表示をしていなければ,無効にできる特別な法律が作られています。
 電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律3条 「民法第95条第3項の規定は,消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について,その意思表示が同条第1項第一号に掲げる錯誤(さくご)に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであり,かつ,次のいずれかに該当するときは,適用しない。ただし,当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が,当該申込み又はその承諾の意思表示に際して,電磁的方法によりその映像面を介して,その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置(そち)を講(こう)じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は,この限りでない。
 一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
 二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。」
 民法95条1項 「意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」
 同条2項 「前項第二号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる」
 同条3項 「錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。 一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。 二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき」
 同条4項 「第一項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」
【★13】 日本弁護士連合会2017年2月16日「民法の成年年齢引下げに伴う消費者被害に関する意見書」
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2017/170216_6.html

 

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今の二重国籍のまま大人になったら?

 

 父親がフランス人,母親が日本人の高校生です。物心がついたときから日本で暮らしていて,将来は,日本を生活のベースにしながら,フランスとの架(か)け橋になれるような仕事をしたいと思っています。私は,フランスと日本の両方の国籍を持っていて,大人になったらどちらか1つを選ばないといけない,と親から聞いています。どうして国籍を1つにしないといけないんですか。もし国籍を2つ持ったまま大人になったら,どうなりますか。

 

 


 国籍は,「この国のメンバーだ」という資格のことです
【★1】


 日本国籍については,国籍法という法律がルールを決めています【★2】


 日本国籍になるのは,お父さんかお母さんが日本国籍であることが,基本的な条件です【★3】



 じつは,今から30年余り前の1984(昭和59)年までは,お父さんが日本国籍でなければ,子どもは日本国籍になれませんでした。

 外国籍のお
父さんと日本国籍のお母さんの夫婦の子どもは,日本国籍になれなかったのです【★4】

 でも,それは男性と女性を平等にあつかわない,おかしなことでした。

 国籍法が変わって,1985(昭和60)年からは,お父さんかお母さんのどちらかが日本国籍なら,その子どもは日本国籍になれるようになりました
【★5】



 どういう条件で子どもに国籍を認めるかは,国によってちがいます。

 日本やフランスのように,両親のどちらかが国籍を持っていればOKという国もあれば
【★6】

 むかしの日本のように,父親が国籍を持っていることで認める国
【★7】

 アメリカのように,国内で生まれればOKという国もあります
【★8】【★9】



 あなたの場合,お父さんがフランス国籍,お母さんが日本国籍なので,

 子どものあなたは,フランスと日本の2つの国籍を持っているのですね
【★10】

 (もし,あなたがアメリカで生まれていたなら,フランスと日本とアメリカの3つの国籍を持つことになります。)




 日本の国籍法は,こう言っています
【★11】

 「子どもの時から日本の国籍と外国の国籍を持っている人は,成人してから2年経つ前に,国籍をどれか1つに選ばないといけない」。


(これまでは成人年齢が20歳だったので国籍選択は22歳になる前まででしたが,2022(令和4)年4月に成人年齢が18歳に下がるのにあわせて,国籍選択も20歳になる前までになります)


 もし,あなたがフランス国籍を選ぶなら,

 日本国籍をやめる手続を,日本の役所でとります
【★12】【★13】


 もし,あなたが日本国籍を選ぶなら,次の2つの方法のどちらかをとります。

 1つめは,フランス国籍をやめる手続を,フランスの役所でとる方法。

 2つめは,「日本国籍を選びます。フランス国籍をやめます」と,日本の役所で宣言する方法です
【★14】


 どうして2つめの宣言の方法があるかというと,

 外国の国籍をやめられるかどうかは,その国が決めることなので,

 1つめの方法が必ずとれるとはかぎらないし,

 日本からその国に口出しはできないからです。



 そして,2つめの方法で,「フランス国籍をやめます」と日本に向かって宣言しても,

 それで自動的にフランス国籍がなくなるわけではありません。

 外国の国籍をやめられるかどうかは,その国が決めることだからです
【★15】


 その宣言をしたあと,その人が本当に外国の国籍をやめたかどうかまで,日本にはわかりません。

 
両方の国籍を持ち続けることは,日本の国籍法のしくみからすると,じゅうぶんありうることです【★16~18】

 
なので,その宣言をした後も,両方の国籍を持ったままの人は,たくさんいます。


 なお,成人してから2年経つ前に日本国籍を選ぶための方法をまったくとらないままでいると(つまり,1つめ・2つめのどちらの方法もとらないでいると),

 日本から「国籍を選択するように」という連絡が来て,

 そこから1か月以内に何もしないでいたら,日本国籍を失う,と,法律には書かれています
【★19】

 もっとも,実際には,そのルールで日本国籍を失った人はいません
【★20】【★21】



 この,「成人してから2年経つ前に,国籍をどれか1つに選ばないといけない」という日本のルールは,1985(昭和60)年に始まりました。

 上に書いたように,この年から,お父さんかお母さんのどちらかが日本国籍であれば,子どもが日本国籍を持てるようになりました。

 そのため,国籍を2つ持つ子どもが,たくさん増えることになります。

 だから,日本は,国籍を1つに選ばせる制度を,このときいっしょに作ったのです。




 でも,そもそもどうして,国籍を1つにしないといけないのでしょうか。




 国籍がいくつもあったら,その人にどこの国の法律をあてはめるのか混乱する,とか,

 別の国でトラブルが起きたときに,どこの国がその人を守ることになるのかわからない,とか,

 投票できる国がふたつ以上あるのはおかしいし不公平だ,とか,

 いろんな理由が言われます。



 でも,そのひとつひとつを法律的によく見ていくと,

 どれも,国籍を1つにしないといけない理由には,なっていないのです
【★22】


 実際,国籍を2つ以上持っている人は,世界中にたくさんいますし,

 この日本にも68万人もいるのですが
【★23】

 それで特に大きなトラブルは起きていません
【★24】


 「国籍は1人1つにするべき。二重国籍はなくしていこう」。

 今から80年以上も前に,世界がそう確認し合っていたこともありました
【★25】

 でも,今は,国をまたいで行き来する人々が多くなり,国際結婚がとても増えています。

 ヨーロッパは,1997年,「国籍が2つ以上あってもOK」と確認し合いました
【★26】

 それ以外の国々でも,二重国籍をOKにするところが増えています。




 自分がどの国のメンバーなのか。

 それは,「自分が一体どんな人間なのか」という,自分をかたちづくるうえで,とてもだいじなことです。

 お父さんから受け継いだ国籍も,お母さんから受け継いだ国籍も,どちらも大切なもの。

 それなのに,どちらか1つを選び,もう1つを捨てなければならないのは,おかしなことです
【★27】

 2つの国のメンバーをかけもちしたところで,特に問題は起きませんし,

 むしろ,あなたのように,「日本と外国の架け橋になる仕事をしたい」という夢を持っている人たちが活躍できることは,

 その人自身にとっても,私たちの社会にとっても,素晴らしいこと,必要なことです。




 「国籍は1人1つ」というたてまえの,今の日本の国籍法は,

 すでに現実に合わなくなっています。

 あなたが大人になるころまでには,

 今の国籍法を,いろんなルーツを持つ一人ひとりを大切にした,今の社会に合ったものに変えていく必要がある,

 私はそう思っています。




【★1】 「国籍は特定の国家に所属することを表す資格であ(る)」(芦部信喜著・高橋和之補訂「憲法第6版」232頁)
【★2】 憲法10条 「日本国民たる要件は,法律でこれを定める」
【★3】 国籍法2条 「子は,次の場合には,日本国民とする。 一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。…」
【★4】 1985(昭和60)年より前の国籍法2条 「子は左の場合には,日本国民とする。
 一 出生の時に父が日本国民であるとき。
 二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき。
 三  父が知れない場合又は国籍を有しない場合において,母が日本国民であるとき。
 四  日本で生れた場合において,父母がともに知れないとき,又は国籍を有しないとき。」
【★5】 昭和59年5月18日成立,昭和60年1月1日施行「国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律」(昭和59年法律45号)。
 1979(昭和54)年に国連総会で「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃(てっぱい)に関する条約」が採択されて日本も翌年に署名したことや,米軍基地がある沖縄でアメリカ人男性と日本人女性との間に生まれた子どもが無国籍になるケースがたくさんいたことが,改正の背景でした。
【★6】 父母両系血統主義と言います。
【★7】 父系血統主義と言います。
【★8】 生地主義と言います。
 アメリカ合衆国憲法修正14条1項 「合衆国内で生まれ…,かつ,合衆国の管轄(かんかつ)に服する者は,合衆国の市民であ(る)…」
【★9】 フランスにも,生地主義の規定があります。両親がフランス国籍でなくても,フランス国内で生まれて一定の居住要件を満たした子は,フランスの成人年齢である18歳になったときに,フランス国籍を取得します。
【★10】 あなたが日本以外の国で生まれていたなら,親が出生届を出すときに,「国籍を日本にするかフランスにするかは,今決めないで,判断を先に延ばします」ということもいっしょに届けていたのだと思います。これを「国籍留保(りゅうほ)」と言います。もし生まれてから3か月以内にこの届出をしていないと,最初から日本の国籍を持っていなかったことに自動的にされてしまいます。もっとも,もしそのせいで自動的に日本の国籍を失っても,18歳になる前に日本に住んでいれば,法務局に届け出ることによって,日本の国籍をふたたび持つことができます。(法改正により2022(令和4)年4月から「18歳になる前に」に変更)
 国籍法12条 「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは,戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保(りゅうほ)する意思を表示しなければ,その出生の時にさかのぼって日本の国籍を失う」
 戸籍法104条1項 「国籍法第12条に規定する国籍の留保の意思の表示は,出生の届出をすることができる者…が,出生の日から3箇(か)月以内に,日本の国籍を留保する旨(むね)を届け出ることによって,これをしなければならない」
 同条2項 「前項の届出は,出生の届出とともにこれをしなければならない」
 国籍法17条1項 「第12条の規定により日本の国籍を失った者で18歳未満のものは,日本に住所を有するときは,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる」
【★11】 国籍法14条1項 「外国の国籍を有する日本国民は,外国及び日本の国籍を有することとなった時が18歳に達する以前であるときは20歳に達するまでに…いずれかの国籍を選択しなければならない」(法改正により2022(令和4)年4月から年齢について変更)
【★12】 憲法22条2項 「何人(なんぴと)も,…国籍を離脱(りだつ)する自由を侵されない」
 国籍法13条1項 「外国の国籍を有する日本国民は,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を離脱することができる」
 同条2項 「前項の規定による届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を失う」
【★13】 もし,もう一方の外国が日本と同じように国籍を選択する制度【★10】を作っている国なら,その制度に基づいて外国の国籍を選択すれば,当然に日本国籍を失います。
 国籍法11条2項 「外国の国籍を有する日本国民は,その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは,日本の国籍を失う」
【★14】 国籍法14条2項 「日本の国籍の選択は,外国の国籍を離脱することによるほかは,戸籍法の定めるところにより,日本の国籍を選択し,かつ,外国の国籍を放棄(ほうき)する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによってする」
【★15】 「日本国籍選択の宣言は,日本国籍を維持・確保し,併有(へいゆう)する外国国籍を一方的に放棄するとともに以後外国国籍に伴(ともな)う権利・特権を行使しないこと等の意思があることを,我が国に対して宣明(せんめい)することである。この選択宣言によって,日本と外国との重国籍者が現実に当該外国の国籍を喪失(そうしつ)するか否(いな)かは,当該外国の法令の定めるところによる。当該外国の法制上,我が国国籍法第11条第2項と同様な制度があれば選択宣言によってその国の国籍を喪失することになるが,そのような法制がない国の場合は,選択宣言によって重国籍は解消されない。現行国籍法が,日本国籍選択の一方法としてこのような選択の宣言の制度を設けたのは,重国籍を解消して日本国籍単一となるためには外国国籍を離脱(喪失)することが望ましいが,当該外国の法制上自国国籍の離脱を禁止したり,許可,認可等何らかの制限を設けている国がかなりあることから,一律に一定期限内に外国国籍の離脱を義務づけることは不可能な場合があり,また,実際上本人に過重な負担を負わせることになる場合もあり,結果的に事実上日本国籍選択の途(みち)がなくなることとなって適当でないことを考慮したものである」(法務省民事局法務研究会編「国籍実務解説-各国別主要先例・判例付-」86頁)
【★16】 選択の宣言は,外国の国籍をやめるよう「努力」しなければいけないだけで,実際に外国の国籍をやめないといけない「義務」ではありません。
 国籍法16条1項 「選択の宣言をした日本国民は,外国の国籍の離脱に努めなければならない」
【★17】 「重国籍者が,日本国籍の選択宣言をした場合に,前述のように当該外国の国籍を喪失するかどうかはその外国の法令の定めるところによる。…たとえ外国国籍を喪失しない場合でも,既(すで)に選択義務は履行(りこう)しているので,法務大臣から改めて選択の催告(国籍法15条1・2項)を受けることはないし,また,催告に基(もと)づく日本国籍の喪失(同法15条3項)ということもない」(法務省民事局法務研究会編「国籍実務解説-各国別主要先例・判例付-」87頁)
【★18】 選択の宣言をした後,その外国の公務員になった場合には,日本国籍を失うことになっています。しかし,実際にこの規定で日本国籍を失ったケースはありません(日本弁護士連合会2008年11月19日「国籍選択制度に関する意見書」11頁)。
 国籍法16条2項 「法務大臣は,選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失っていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であっても就任することができる職を除く。)に就任した場合において,その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著(いちじる)しく反すると認めるときは,その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる」
【★19】 国籍法15条1項 「法務大臣は,外国の国籍を有する日本国民で前条第1項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して,書面により,国籍の選択をすべきことを催告(さいこく)することができる」
 同条3項 「前2項の規定による催告を受けた者は,催告を受けた日から1月以内に日本の国籍の選択をしなければ,その期間が経過した時に日本の国籍を失う。(略)」
【★20】 平成20年11月27日第170回参議院法務委員会会議録第5号23頁
 「丸山和也君 実際の運用で少しお聞きしたいんですけれども,二重国籍に関する問題なんですけれども,15条で,法務大臣は,外国の国籍を有する日本国民で前条第1項に定める期限内に日本の国籍を選択しないものに対して,書面により,国籍の選択すべきことを催告できる,そしてこれを,催告を受けても選択しなかったら国籍を失うと,こういうふうになっているように思うんですけれども,こういう催告なんてやっているんでしょうか」
 (略)
 「政府参考人(倉吉敬君) 催告をしているかどうかという御質問でございます。しておりません」
 (略)
 「政府参考人(倉吉敬君) 実は今の下でだれが重国籍者なのかというのをもう把握できないわけでございます。そのような状況の中で,たまたま把握した人に催告をするのがいいのかと。もちろん,催告を受ける側は追い詰められるわけですから,どっちかを選択しなければならない,それが本当にいいのかという問題はございます。いや,そんな生ぬるいことでいいのかとか,いろんな御意見はあるわけですけれども,今のところはそういったもろもろの事情を考えて催告をしないということにしております」
【★21】 「この催告についての実務上の取扱いであるが,これまで催告を行った例はない。法務省は,その理由として,『国籍を喪失するということは,その人にとって非常に大きな意味がありますし,家族関係等にも大きな影響を及ぼすというようなことから,これは相当慎重に行うべき事柄である』こと,『国籍選択の履行は,複数国籍者の自発的な意志に基づいてされるのが望ましい』ということを挙げている。法務省は,周知活動の一環として,複数国籍であると把握できた者に対し,『国籍選択について』と題する文書を送付していた時期もあったが,現在はこれも行われていない」(日本弁護士連合会2008年11月19日「国籍選択制度に関する意見書」10頁。https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2008/081119_3.html)
【★22】 日本弁護士連合会2008年11月19日「国籍選択制度に関する意見書」16頁では,複数国籍禁止制度の根拠として「一人の人間に対する対人主権を複数の国が持つということの問題」「二つの国の主権者として行使するということ自身の矛盾(むじゅん)」「法制度の抵触(ていしょく)」「外交保護権の問題」「犯罪人の引き渡し」「参政権の問題」「就職の際などに,国籍を明示する義務の範囲をめぐる問題」「鉱業権のように日本国民に限定する法律などの適用の問題」「一方の国籍国が忠誠義務を課した場合の問題」「公務員の就任についての問題」「他国の兵役に服するということは,日本のあり方として問題」を列挙したうえで,詳細に現代的検討を加え,「複数国籍を認めるべきでないとして挙げられる理由は,いずれも合理的な理由とはいえない」と結論づけています(https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2008/081119_3.html)。
【★23】 法務省2014年推計(朝日新聞2014年7月6日記事)。
【★24】 二重国籍の人が海外を行き来するときのパスポートの問題について国際結婚を考える会「二重国籍」(時事通信社)94頁参照。
【★25】 「国籍唯一の原則」と言います。1930(昭和5)年に国際連盟で採択された「国籍法の抵触に関連するある種の問題に関する条約」にうたわれていますが,日本はこの条約に署名はしたものの批准はしていません(岡村美保子「重国籍-わが国の法制と各国の動向」レファレンス2003年11月号)。
【★26】 1997年に採択され,2000年に発効した「ヨーロッパ国籍条約」は,複数の国籍を認めることを締約国(ていやくこく)に義務づけています。
 同条約14条1項 「締約国は,左のことを許容しなければならない。 a 出生により当然に相異なる国籍を取得した子どもが,これらの国籍を保持すること。(略)」
 同条約7条1項 「締約国は,左に掲げる場合を除き,国内法において,法律上当然の又は締約国主導の国籍喪失(そうしつ)を規定してはならない。(略)」
奥田安弘・館田晶子「1997年のヨーロッパ国籍条約」(北大法学論集2000年50巻5号)
【★27】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)8条1項 「締約国は,児童が法律によって認められた国籍,氏名及び家族関係を含むその身元関係事項について不法に干渉(かんしょう)されることなく保持する権利を尊重することを約束する」

Part2_1

性病をうつされた…相手を訴えたい

 

 

 17歳です。彼氏から性病をうつされて,この前別れました。彼氏を警察に訴えたり,治療費や慰謝料(いしゃりょう)を払うよう請求したりすることはできるんですか。

 


 りくつからいえば,

 彼氏が犯罪として処罰されることはありえますし,

 彼氏があなたに治療費や慰謝料を払わなければいけないこともありえます。

 でも実際には,とても難しいです。




 性病のことを,この記事では,性感染症(せいかんせんしょう)と言います。




 りくつからいえば,

 性感染症をうつすことは,犯罪になる場合があります。



 彼氏が自分の性感染症を知っていて,

 あなたにわざとうつすつもりでセックスをしたなら,

 傷害罪(しょうがいざい)という犯罪です
【★1】

 「ひょっとしたらうつるかもしれないけど,そうなってもいいや」,

 そう思っていたなら,やはり傷害罪です
【★2】

 「うつすつもりはなかったけど,うっかりうつしてしまった」,というときは,

 過失傷害罪(かしつしょうがいざい)という犯罪です
【★3】


 でも,犯罪として処罰されるのは,実際には,よほどひどい場合でしか,ありません。



 今から60年以上も前の古い刑事裁判で,性感染症をうつしたことが犯罪として処罰されたものが,いくつかあります。

 でも,それらは,

 セックスじたいが暴行といえるようなものや
【★4】

 「占い」を装(よそお)って,だます形で相手に性感染症をうつしたというものでした
【★5】

 ふつうにセックスして性感染症をうつした,というケースではありませんでした。



 刑事裁判では,

 「この人がこんな犯罪をした」ということが,しっかり証明できていないといけません。

 その証明のハードルは,とても高いのです
【★6】


 本当にその人から性感染症をうつされたのか,

 他の人からうつされた可能性がないか,

 それをはっきりさせるために,

 セックスという,とてもプライベートなことが,慎重(しんちょう)に調べられます。

 被害を受けた人は,警察官や検察官にくりかえし話をしなければいけないので,とても大変です。

 そういういろんなハードルがあるので,

 実際には,刑事裁判にまではならないことが,ほとんどなのです。




 わざと,または,うっかり,やってはいけないことをして,誰かに迷惑をかけてしまったら,「損害賠償(そんがいばいしょう)」というお金を払わないといけません【★7】

 治療費や慰謝料は,損害賠償として払うお金の一例です。



 裁判所が,性感染症をうつした人に,「損害賠償を払いなさい」という判決を言い渡したことがあります。

 しかしその民事裁判では,訴えられた人が,

 「自分が相手に性感染症をうつしてしまったことじたいは,そのとおりです」,

 と認めていました
【★8】


 もし,そのケースとはちがって,

 訴えられたがわが「自分はうつしていない」と争ってきたら,

 その人から性感染症をうつされたということを,被害者が証明しないといけないので,とても大変です。

 また,がんばって証明できても,

 損害賠償で認められる金額がそれほど大きくなく,

 裁判にかかる費用と見合わない,ということも多いでしょう。

 さらには,「被害者のがわも,性感染症をうつされないように安全なセックスを心がけなかった」,という落ち度を理由に,

 損害賠償の金額を裁判所に低くされてしまう,ということもありえます
【★9】


 そういういろんなハードルがあるので,

 実際には,白黒の決着をつける裁判にまではならずに,

 話し合いで解決していることが多いです。

 裁判所の中で話し合う「調停(ちょうてい)」というやりかたもあります。

 ただ,話し合いにしても,裁判所の調停にしても,

 法律的なことですから,

 あなたがまだ成人していなければ,親にないしょで進めることはできません
【★10】


 いろんなハードルがありますが,あなたの場合にどんな見通しになるか,弁護士に相談してみてください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。





 性感染症をうつした人の,法律的な責任のことについて,今まで書きました。


 でも,

 「性感染症は,この社会をつくっている私たち一人ひとりみんなが,広い意味での責任を負っている」,

 私は,そう思っています。




 性感染症をうつされたあなたも,うつした彼氏も,

 性感染症がどういうものか,とか,

 性感染症がうつりづらい,より安全なセックス(セーファーセックス)をどうすればいいか,について,

 大人たちから,きちんと教えてもらえていなかったのだと思います。



 性とは,自分の体と心を大切にし,相手の体と心を大切にすること。

 性感染症の菌やウイルスは,愛情や信頼では,防ぐことも治すこともできない,ということ。

 自分と相手を大切にするためにこそ,いつもセーファーセックスを心がける必要がある,ということ。

 そういうメッセージを,大人たちは子どもたちにきちんと伝える責任がある,と私は思っています。




 性感染症は,いろんなものがあります。

 早めに治療を受ければ,数週間や数ヶ月で治るものが多いです。



 しかし,完全に治すことができない性感染症もあります。

 HIV(エイチ・アイ・ヴイ),AIDS(エイズ)は,その一つです。




 私は,弁護士として,HIVをもっている人たちのサポートをしています。




 HIVは,ウイルスの名前です
【★11】

 HIVに感染しても,他の性感染症のような,自覚症状(じかくしょうじょう)がありません。

 自分で意識して血液検査を受けなければ,感染しているかどうかはわかりません
【★12】

 HIVに感染すると,体の免疫力(めんえきりょく)が,少しずつ下がっていきます。

 健康な体ではふつう起きない病気に,かかりやすくなるのです。

 そうやって,HIVに感染し,免疫力が下がってかかる病気のことを,AIDS(エイズ)といいます
【★13】



 30年以上前は,薬の開発が今ほど進んでいなかったので,

 HIV・エイズは,「死の病気」としておそれられ,

 日本や他の国で,大きなパニックになりました。

 HIVをもっている人に,とても強い差別や偏見(へんけん)が起きました。




 今は,医療がだいぶ進みました。

 HIVのウイルスを体の中から完全になくすことは,まだできませんが,

 きちんと薬を飲めば,エイズを発症することをおさえて,感染していない人と変わらない生活を送り,長生きもできるようになっています。



 しかし,そのように医療が進んでも,

 HIVやエイズに対する差別・偏見は,社会の中に,今も根強く残っています。

 特に,職場でHIVを理由にクビにされてしまうことが,多く起きています
【★14】


 あなたの相談のような,「うつした・うつされた」という当事者どうしのトラブルも,

 HIVだと,他の性感染症よりもいっそう,深刻なものになりがちです。

 それも,社会に差別・偏見があるせいだと,私は実感しています。




 今,日本では,2万5000人くらいの人が,HIVをもっています。



 HIVをもっている人も,もっていない人も,

 すでに,みんながいっしょに,この社会の中で暮らしているのです。



 一人ひとりが大切にされる社会。

 HIVをもっている人への差別や偏見がない社会。

 そういう社会であることが大切だと,強く思っています。



 日本で,新たにHIVに感染したり,エイズを発症したりするのがわかる人は,

 1年間に,1500人くらいいます。

 じつは,そのうちの4分の1が,10代・20代の人たちです。



 HIV・エイズについての,とてもわかりやすいパンフレットを,ネットで読むことができます。

 10代のみなさんに,ぜひ読んでほしいと思います。

 「もっと自分のカラダのことを知ってみよう」(NPO法人akta)

 
https://www.akta.jp/karada/


 また,HIV・エイズについてもっとくわしく知りたいときや,

 感染しているか不安,感染して困っている,などの相談をしたいときには,

 「NPO法人ぷれいす東京」のウェブサイトに,アクセスしてみてください。

 
https://www.ptokyo.org/

 

 

 

【★1】 刑法204条 「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役(ちょうえき)又(また)は50万円以下の罰金に処(しょ)する」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法204条 「人の身体を傷害した者は,15年以下の拘禁刑(こうきんけい)又は50万円以下の罰金に処する」

【★2】 このような場合を「未必(みひつ)の故意(こい)」と言い,わざとやったことと同じように処罰されます。
【★3】 刑法209条 「過失(かしつ)により人を傷害した者は,30万円以下の罰金又は科料(かりょう)に処する」
【★4】 大分地方裁判所昭和29年12月8日判決・刑集11巻6号1727頁 「罪となるべき事実 被告人(ひこくにん)は…隣室の妻子の動静を気にしながらVのズロースを引きぬいて同女の身体にのしかからう(のしかかろう)としたところ,…同女が…余り強く抵抗(ていこう)しないのに乗(じょう)じて『静かにしろ』と押強くいって同女の身体にのしかかり,同女の明示的な承諾(しょうだく)がないのに勝手に自己の陰茎(いんけい)を同女の陰部(いんぶ)に押しつけてその膣口附近に射精する等の暴行を加え,因(よ)って自己の保有する淋菌(りんきん)含有(がんゆう)精液を同女の膣口内に滲透(しんとう)させて同女に治療日数約15日を要する淋菌性子宮周囲炎を感染せしめ以(もっ)て傷害を与え…たものである」「法令の適用 …なお検察官は被告人Aの…所為(しょい)は強姦致傷罪(ごうかんちしょうざい)を構成すると主張するが強姦罪の構成要件(こうせいようけん)である暴行脅迫はその程度が相手方の意思の自由を奪うか又は抵抗を排除(はいじょ)するに足(た)るものであることを要すると介すべきところ本件被告人Aのなした暴行は判示の通りであって右の程度に至(いた)らないものと認められるので同罪は成立しないものといわなければならない。然(しか)しながらかかる場合にも手段たる暴行,目的たる性交は一連の行為として暴行罪の構成要件である暴行に当ることは勿論(もちろん)であるから右被告人が判示…の如(ごと)き暴行を加えて自己の病毒をVに感染せしめた以上素(もと)より傷害罪の罪責(ざいせき)を免(まぬが)れることはできない」 
【★5】 前橋地方裁判所昭和24年12月15日判決・刑集6巻6号799頁 「被告人は,…易占(えきうらない)を業(ぎょう)としているものであって急性りん菌尿道炎にかかっているものでこれは自覚症であるのに,…6回にわたり,…易を占って貰(もら)いに来たV(注:20歳女性)に対して,あなたは処女性を失っている,小学校当時陰部をいたづらしたことがあるのなら将来立派な処女として結婚できるように自分がよけをしてあげる,と云(い)って同女の外陰部に被告人の陰茎を押し当て,このために同女をして淋菌性子宮内膜炎の疾病(しっぺい)を生(しょう)ぜさせたものである」
 同事案の上告審判決:最高裁判所第二小法廷昭和27年6月6日判決・刑集6巻6号795頁 「傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損(きそん)するものである以上,その手段が何であるかを問わないのであり,本件のごとく暴行によらずに病毒を他人に感染させる場合にも成立するのである。従(したが)って,これと見解を異(こと)にする論旨(ろんし)は採用できない」
【★6】 最高裁判所第一小法廷昭和23年8月5日判決・刑集2巻9号1123頁 「元来(がんらい)訴訟上の証明は,自然科学者の用いるような実験に基(もとづ)くいわゆる論理的証明ではなくして,いわゆる歴史的証明である。論理的証明は『真実』そのものを目標とするに反し,歴史的証明は『真実の高度な蓋然性(がいぜんせい)』をもって満足する。言いかえれば,通常人なら誰でも疑(うたがい)を差挾(さしはさ)まない程度に真実らしいとの確信を得ることで証明ができたとするものである」 
【★7】 民法709条 「故意(こい)又(また)は過失(かしつ)によって他人の権利又は法律上保護される権利を侵害(しんがい)した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
【★8】 東京地方裁判所平成14年10月24日判決・LLI/DB判例秘書登載 「第2 事実の概要」「2 争いのない事実 …原告がヘルペスに感染したのは,被告と性交渉したためである」「4 被告の主張 被告は,原告との性交渉をする以前から現在に至るまでの間,ヘルペスの自覚症状や他覚症状は一切なく,自己がヘルペスに感染しているという認識は全くなかった。したがって,被告は,原告にヘルペスを感染させたことについて,故意,過失がない」「第3 当裁判所の判断 …被告は,原告との性交渉をした時までに,他の複数の女性と性交渉を持ったことがあったことが認められる。そして,この事実に前記ヘルペスういるすの感染,発症に関するメカニズムを併(あわ)せ考えると,被告は,原告との性交渉の当時,ヘルペスが発症していた可能性が極めて高いといわざるを得ない。そうすると,…被告は,原告の性交渉の当時,自分がヘルペスに感染していることを知っていたか,又は少なくとも自己の身体を注意していればヘルペスに感染していることを知ることができたということができる。したがって,被告は,原告にヘルペスを感染させたことについて,故意又は過失があるから,原告に対し,不法行為による損害賠償責任を負う」
【★9】 「過失相殺(かしつそうさい)」といいます。
 民法722条2項 「被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる」
【★10】 民法5条1項 「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。…」
 民法824条 「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。…」
 民事調停法22条 「特別の定めがある場合を除いて,調停に関しては,その性質に反しない限り,非訟(ひしょう)事件手続法第2編の規定を準用する。…」
 非訟事件手続法16条1項 「当事者能力,非訟事件の手続における手続上の行為…をすることができる能力…,手続行為能力を欠く者の法定代理及び手続行為をするのに必要な授権については,民事訴訟法…第31条…の規定を準用する」
 民事訴訟法31条 「未成年者…は,法定代理人によらなければ,訴訟行為(そしょうこうい)をすることができない。…」
【★11】 Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)
【★12】 血液検査は,病院だけでなく,保健所など,いろんなところで受けられます。「HIV検査相談マップ」https://www.mhlw.go.jp/hivkensa/ 感染初期は,ウインドウ期間と言って,検査をしてもわからない時期なので,不安なことがあったら,その2~3か月後に検査を受けるようにしましょう。
【★13】 Acquired Immuno-Deficiency Syndrome(後天性免疫不全症候群)。代表的な23の病気があり,それを発症した時点でエイズと診断されます。
【★14】 ・ 東京地方裁判所平成7年3月30日判決・労働判例667号14頁(タイの現地法人に派遣(はけん)された労働者が,無断でなされたHIV抗体(こうたい)検査で判明した陽性の事実を本社に通知され,感染を理由に解雇(かいこ)されたことが違法とされた事例)
・ 千葉地方裁判所平成12年6月12日判決・労働判例785号10頁(会社が外国人従業員を排除(はいじょ)しようという不当な意図の下に,定期健康診断の際に無断でHIV検査を依頼し,その検査結果表を受け取り,感染を実質的な理由として解雇をなしたことが違法とされた事例)
・ 東京地方裁判所平成15年5月28日判決・労働判例852号11頁(警視庁警察官に採用された者に対し採用時に同意なくして合理的必要性も認められないHIV抗体検査を実施したこと及び陽性との結果を示して辞職を勧奨(かんしょう)したことが違法な公権力の行使であるとして国家賠償責任が認められた事例)
・ 福岡地裁久留米支部平成26年8月8日判決・判例時報2239号88頁,福岡高裁平成27年1月29日判決・判例時報2251号57頁(看護師の本人の同意無くHIV陽性の情報を病院医師や職員らに情報共有されたことが個人情報保護法に違反し本人のプライバシー侵害であること,その後病院が本人との面談でHIV感染を理由に就労制限をしたことが働く権利を侵害するものであるとして損害賠償請求が認容された事例)

Part2_1

2021年8月 1日 (日)

お金がなくて住む場所がなくなりそう

 

 今17歳で,2週間後に18歳になります。 高校を中退して家を追い出され,ネットで知り合った人に,その人の家の部屋の一つを月4万で間借りさせてもらって,バイトして暮らしてきました。でも,時々メンタルが落ちてシフトに入れないので,いつもお金が足りません。先月と今月,家賃が払えなくて,知り合いから「来週にでも出て行ってくれ」と言われました。これからどうしたらいいか,その不安でまたメンタルが落ちてバイトに行けず,ますますお金がなくなっています。




 住む場所,自分の居場所がきちんとある,ということは,とてもだいじです。

 未成年のうちは,親の協力がなければ,アパートを借りるのが本当に難しいので,

 あなたが今の知り合いの部屋から追い出されるのは,とても不安だと思います。



 その知り合いから,「来週に」出て行くように言われているのですね。

 でも,いきなり来週に,あなたが部屋を出る必要は,ありません。




 あなたが知り合いから部屋を借り,家賃として4万円を払っているのは,

 「賃貸借(ちんたいしゃく)」という契約(けいやく),つまり,法律的な約束ごとです
【★1】


 契約書という紙を作っていなくても,

 未成年のあなたが親のOKをもらっていなくても
【★2】

 契約として,きちんと成り立っています。



 借り手のあなたが,「家賃を払う」という約束を守れなかったら,どうなるか。


 住む場所がなくなるのは,生活・人生の中で,とても大きなことです。

 借り手は,貸し手よりも立場が弱いので,

 法律は,部屋を借りる人のことを守っています。



 家賃を払うのが少し遅れていたり,1,2回払えていなかったりしても,

 それだけでは,貸し手は,「約束違反だから,部屋から出て行け」とは言えません。

 貸し手と借り手のあいだの信頼関係がこわれるほどの,大きな約束違反があって,

 はじめて,「部屋から出るように」という話になるのです
【★4】【★5】


 あなたは,家賃が払えていないのが2ヶ月ぶんですし,

 払えない理由も,心の調子をくずして働くことができないからですよね。

 そのほかに,その知り合いとの信頼関係がこわれるような特段のことがないのなら,

 あなたが今,あわてて部屋を出る必要はありません。



 その知り合いと,ゆっくりきちんと話し合って下さい。

 話し合いがまとまらないまま,あなたを出て行かせるには,

 その知り合いが裁判の手続きをとる必要がありますし,それには時間がかかります。

 裁判所の手続きをとらないで,知り合いが,あなたの荷物を勝手に外に出したり,部屋の鍵を変えたりして追い出すことは,

 「自力救済(じりききゅうさい)」と言って,法律上,許されません。

 もし,知り合いがそういうことをしたら,すぐに弁護士に相談してください。




 「家賃を払うために,どこかからお金を借りよう」,と考えたかもしれません。

 「親のOKがなくても未成年の人にお金を貸します」という業者も,中にはあります。

 でも,そういった業者からお金を借りることは,しないでください。

 利息が高いので,あっという間に借金の額が増えていき,ますます苦しくなります。

 未成年の人が,親のOKなくお金を借りたら,「親のOKがなかった」という理由で,そのお金の貸し借りをナシにできるのですが
【★2】

 たとえ貸し借りをナシにしても,生活費として使ったぶんは,結局,業者に返さないといけないのです
【★6】


 もし,すでに業者からお金を借りてしまっているなら,すぐに弁護士に相談してください。

 弁護士が業者との話し合いに立って,借金の額を減らす交渉をしたり,分割して返す約束をし直したり,

 裁判所で借金をナシにしてもらう,「破産(はさん)」の手続きをとったりすることができます。

 親の協力がなければ,成人するまで待たないといけない手続もありますが,

 未成年の今のうちから弁護士がサポートできることを,ぜひ確認してください。




 大人であれば,「一時的に緊急にお金が必要」というときに,きちんとしたところからお金を借りることができます。

 社会福祉協議会という,困っている人をサポートするところが貸してくれる,「緊急小口資金貸付」という制度です
【★7】

 ところが,この制度も,未成年だと,親の協力がなければ使えません
【★8】

 もともと,「未成年が契約するときに親のOKが必要」と法律が決めているのは,子どもを守るためです。

 それなのに,親に家から追い出されたあなたのようなケースで,

 親のOKがないことを理由に,困っている子どもが,きちんとしたところからお金を借りられないのでは,

 ほんとうにおかしい,本末転倒(ほんまつてんとう)だと,私は思っています。



 17歳までは,児童相談所という役所があなたをサポートしてくれます。

 「189」に電話をかけて,相談してみてください。



 あなたは,2週間後に18歳になるということでしたね。

 18歳になったから児童相談所のサポートが受けられない,と,あきらめることはありません。

 あなたが生活を立て直すまでのあいだ,人としてきちんとした暮らしを送れるようにするために,生活保護という制度があります【★9】【★10】

 あなたの給料で暮らしていくのに足りないぶんを,生活保護がカバーします
【★11】

 市役所や区役所に申請をしてから実際に生活保護が始まるまでの期間は,原則2週間ですが,伸びると30日かかります【★12】【★13】

 それを待っている間にお金の余裕がなくなってしまわないよう,申請は早めにするようにしてください。

(市区町村によっては,実際の生活保護が始まる前に,お金を「緊急払い」してくれるところもあります。)

 生活保護の申請が自分ひとりではなかなかうまくいかないなら,弁護士があなたといっしょに役所と話をすることもできます
【★14】



 少なくとも生活保護が認められるまでは,引き続き今の部屋にいさせてもらえるように,あなたの知り合いに話をしてみましょう。

 どうしても難しいようなら,事情を役所に話し,部屋を出て当面の間寝泊まりできるところを,役所に確保してもらいましょう
【★15】

 生活保護を受けられるようになったら,自分でアパートを借りたり,自立をサポートする施設に入ったりして,これからの生活を立て直していくことができます。




 お金は,生きていくうえでとても大事なものですが,

 そのお金のせいで,生活や人生がおしつぶされることのないように,

 そのための法律があり,制度があります。

 住む場所をきちんと確保して,不安を減らし,心の健康を取り戻せるよう,

 ぜひ,すぐに弁護士に相談してください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。

 

 

 

【★1】 民法601条 「賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益(しゅうえき)を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる」
【★2】 未成年のときに親のOK(同意)がないまま契約をしたら,「親のOKをもらっていなかった」ということを理由に契約をそのナシにすること(取消し)ができます。逆に言えば,取り消されるまでは,有効な契約として扱われます(内田貴「民法Ⅰ」246頁)。
 民法5条1項 「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない…」
 同条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★3】 借地借家法という特別な法律で,借り手が守られています。
【★4】 「信頼関係破壊理論」,または,「信頼関係の法理」と呼ばれています。
 最高裁判所第三小法廷昭和39年7月28日判決・民集18巻6号1220頁 「同被上告人にはいまだ本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至(いた)る程度の不誠意があると断定することはできないとして,上告人の本件解除権の行使を信義則に反し許されないと判断しているのであって,右判断は正当として是認(ぜにん)するに足りる」
 「 (民法)541条によると僅(わず)かな債務不履行(さいむふりこう)でも催告(さいこく)期間内に履行(りこう)がなければ解除できることになりそうであるが,不動産賃貸借が些細(ささい)な債務不履行で解除されてしまうと,賃借人は居住や営業の拠点(きょてん)を失うことになって,余りに不均衡(ふきんこう)な損失が発生する…そこでこれを制限する解釈論が展開した」「(最高裁で)採用された理論は信頼関係破壊理論(あるいは信頼関係の法理)などと呼ばれる。この理論には2つの側面がある。一方で,賃借の債務の不履行があっても,信頼関係を破壊しない些細な不履行では解除できないが,他方で,厳密には賃貸借契約上の債務の不履行といえなくても信頼関係が破壊されるに至(いた)れば,解除可能となる」(内田貴「民法Ⅱ」229~230頁)
【★5】 あなたの知り合いの家が,その人の持ち家ではなく,賃貸で借りている部屋なら,大家さんにOKをもらわずにあなたが住んでいるのは「又貸し(またがし)」になりますから,民法上の「無断転貸(むだんてんたい)」にあたります(民法612条)。また,大家さんと知り合いの間で結んでいる契約でも,ふつうは「誰が住むか」ということも含めて約束していますから,その約束違反にもなります。ただ,そういった違反があっても,それだけで大家さんが知り合いに対して「部屋を出て行くように」と言えるのではなく,やはり,又貸しによって大家さんと知り合いとの間の信頼関係がこわされているかどうかが重要になります。法律上は,又貸ししてもらっているあなたも,大家さんに直接義務を負うことになってはいますが(民法613条1項),又貸しによる大家さんとのトラブルは,第一には直接の借り手であるその知り合いが大家さんと対応するものです。あなたは,あなた自身の生活の場所・お金のことを第一に考えて動いてください。
【★6】 未成年の人が,「親のOKがなかった」という理由で契約をナシにした場合,お金がむだづかいでなくなってしまっているときには,「すでに利益が残っていないから,返さなくてもよい」とされます(民法121条の2第3項「第1項の規定にかかわらず,行為のときに意思能力を有しなかった者は,その行為によって現(げん)に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても,同様とする」)。
 他方で,裁判所は,「むだづかいをしていれば返す必要がないけれども,生活費にあてていれば返す必要がある」,と言っています(大審院昭和7年10月26日判決・民集11巻1920頁)。「むだづかいされていたら,もう『利益は残っていない』。でも,生活費は,生きていれば必ず出さないといけないものだから,借りたお金を生活費に使ったのなら,そのぶん他の財産が減らずに済(す)んでいるから,『利益が残っている』。なので,生活費ぶんのお金は返さないといけない」,というのが裁判所のりくつです。
 未成年の人にお金を貸す業者は,その裁判例を利用するために,「生活費として使うためにお金を借ります」という書面を,未成年の人に書かせていることが多いです。
【★7】 5日くらいの審査で,最大10万円まで,連帯保証人なしで,無利子で借りることができます。
 https://www.tcsw.tvac.or.jp/shikin/documents/kinkyuukoguchishikinnogoannai.pdf
【★8】 2016年4月22日,東京都社会福祉協議会の福祉資金部福祉資金貸付担当に電話で確認済み
【★9】 憲法25条1項「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営(いとな)む権利を有(ゆう)する」
【★10】 生活保護法1条「この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基(もとづ)き,国が生活に困窮(こんきゅう)するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長(じょちょう)することを目的とする」
【★11】 生活保護法8条1項「保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要(じゅよう)を基(もと)とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補(おぎな)う程度において行うものとする」
【★12 生活保護法24条3項「保護の実施機関は,保護の開始の申請があったときは,保護の要否,種類,程度及び方法を決定し,申請者に対して書面をもって,これを通知しなければならない」
 同条5項「第3項の通知は,申請のあった日から14日以内にしなければならない。ただし,扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には,これを30日まで延ばすことができる」
【★13】 その期間に,あなたにお金がないのかどうか,他にあなたを援助する家族がいないかどうかを,役所が調べます。役所から家族に連絡が行きます(役所から家族に連絡しなくていい例外もあるにはあるのですが,特別な場合にしか認められないのが現状です)。それを嫌がって生活保護申請をためらう人も多いです。しかし,あなたを助けてくれない家族に生活保護申請が知られることの嫌な気持ちのマイナスより,生活保護を受けて安心・安定した暮らしを得られるプラスのほうが大きいことがほとんどです。不安な人は,そのことも含めて,一度,弁護士と相談するとよいでしょう。
【★14】 弁護士費用も心配する必要はありません。日本全国の弁護士がお金を出し合い,生活保護申請に協力する弁護士に,費用を出しています。
 http://www.nichibenren.or.jp/activity/justice/houterasu/hourituenjyojigyou.html
【★15】 親から家を出されたことや,病気がちのあなたを親がきちんと面倒を見ないということが,虐待になるようなら,子どものシェルターを利用することも考えられます。詳しくは,「親の虐待から逃げてきて家に帰れない」の記事を見て下さい。もっとも,あなたの場合は,記事本文で書いたように,いますぐ知り合いの家から出る必要まではないので,シェルターを使わずに次の居場所を見つけていくことができる可能性が,十分あります。まずは,弁護士に相談してみてください。

Part1_2

 

少年院ってどんなところ?

 

 少年院ってどんなところですか? 刑務所とどうちがうんですか?

 

 

 

 少年院は,犯罪をした子どもや,犯罪をするかもしれない子どもを,立ち直らせるための施設です【★1】。


 12歳や13歳の子どもでも,少年院に入ることは,ありえます【★2】

 しかし実際は,少年院に入る時の子どもの年齢は,16歳から19歳が,ほとんどです
【★3】【★4】


 少年院にいる期間は,1年くらいが基本です【★5】【★6】

 でも,本人の立ち直りが遅かったり,少年院を出た後の受け入れ先がなかったりすると,2年くらいまで伸びることもあります
【★7】

 (最初から半年以内を目安として少年院に送られるケースもあります
【★8】。)


 なので,18歳や19歳で少年院に入り,少年院の中で20歳の誕生日を迎える,という人が,たくさんいます【★9】

 つまり,少年院の中には,20歳以上の人も多くいるのです。

 少年院にいられる上限は,22歳の最後の日までです
【★10】

 ただ,そのぎりぎりまで少年院にいることは,まずありません。



 病気などで医療が必要な人には,そのための少年院があり,

 そこは,25歳の最後の日までが,上限です
【★11】


 少年院も,刑務所と同じように,

 中のルールがとても厳しく,自由はとても少ないです。

 1日の生活の流れが決まっていて
【★12】

 他の人との私語もダメですし,

 号令にしたがって,きびきびと動かなければいけません
【★13】


 しかし,少年院は,刑務所とは,とても大きなちがいがあります。


 刑務所で受けるのは,仕事をさせられる「懲役(ちょうえき)」や,部屋の中で過ごす「禁錮(きんこ)」という,「刑罰」です【★14】

 刑務所で受けるのは,「拘禁刑(こうきんけい)」という「刑罰」です【★14】

(※それまでは「懲役(ちょうえき)」と「禁錮(きんこ)」の2つでしたが,2025(令和7)年6月,刑務所に閉じ込められる罰は「拘禁刑(こうきんけい)」というものに一本化されました。)

 でも,少年院で受けるのは,「刑罰」ではありません【★15】

 少年院で行われるのは,「教育」です
【★16】


 きちんとした社会のメンバーとなるための知識や態度を身につける生活指導では,

 職員と面接したり,日記・作文を書いたりして,自分自身と向き合います
【★17】

 働こうという気持ちを高めて,働くための知識や技術を身につける職業指導では,

 溶接や機械運転,パソコンなどの資格を取る人もいます
【★18】

 教科指導では,生活を送るうえで必要になる学力を身につけることができ,高卒認定試験を通る人もいます
【★19】


 そういった教育が,集団生活の中で行われます【★20】


 少年院の職員の人たちは,厳しく,そして熱く,子どもたちと向き合います【★21】


 家や学校,地域の中で,大人たちから大切な存在として扱われず,居場所がなかった子どもたち。

 その多くが,少年院での「教育」,職員との出会いとかかわりを通して,立ち直っていきます
【★22】

 そして,社会に戻るためのサポートを受けて,少年院から巣立っていきます
【★23】


 私たち弁護士は,犯罪をしてしまった子どもが,少年院に行かなくても社会の中で立ち直れるようにと,活動することが多いです。

 「少年院は,子どもが立ち直るための,一番最後の場所であって,

 かんたんに子どもを少年院に入れてはいけない」,

 世界も,そう確認しています
【★24】

 でも,少年院は,そういう一番最後のだいじな施設だからこそ,

 そこに入った子どもたちに,本当に真剣に向き合っています
【★25】


 少年院での「教育」が,刑務所の「刑罰」よりもラクだ,などということはありません。

 刑務所の「刑罰」は,その人をこらしめるためのもの,その人の外から押し付けられるものです。

 刑務所の「刑罰」は,今までずっと,その人をこらしめるためのもの,その人の外から押しつけられるものでした。

(※刑務所は,2025(令和7)年6月から「こらしめ」よりも「立ち直り」に軸足を移すことになりましたが,「刑罰」であることに変わりはありません。)

 でも,少年院での「教育」は,その人が立ち直るよう,その人が自分自身の中から変わっていくことを,厳しく求められます
【★26】

 そこに甘やかしはありませんし,けっしてラクなものなどではありません。



 先日,私の引率で少年院を見学した大学1年生が,こう話してくれました。

 「たしかに厳しい環境だけれど,それより前に見学した刑務所とちがって,

  少年院は,全寮制の学校のような印象が,深く心に残った。

  ここで子どもたちが『育て直し』をされているのだと思った」。

 それは,18年前,私が大学1年生のときに,初めて刑務所と少年院の両方を見学して受けた印象と,同じです。



 ところが,

 そうやって少年院の現場を実際に訪れることもなく,

 少年院にいた人たちや,少年院の職員たちの話を知ろうともしないで,

 「大人とちがい,1年や2年のあいだ少年院にいるだけで社会に戻れるなんて,犯罪をおかした子どもに,法律は甘い。もっと厳しくするべきだ」,

 そう考える人がいます。



 もともとむかしから,事件によっては,20歳になっていない人でも,少年院ではなく刑務所に送られることは,ありました【★27】

 しかし,「法律が甘い」という声を受けて,子どもたちが刑務所に送られやすい方向に,これまでも少年法は変えられていました
【★28】


 そして,最近,選挙で投票できる年齢が20歳から18歳に引き下げられ,

 さらに,成人年齢も20歳から18歳に引き下げられたのに合わせて,

 「少年法も改正して,少年院に入れる年齢の上限を下げて,

 犯罪をした18歳・19歳は,大人と同じ責任を負わせるべきだ」,

 そういう議論が出てくるようになりました。



 今の少年法なら,18歳・19歳に,少年院での最後の「育て直し」のチャンスがあります。

 でも,もし,そんなふうに少年法が改正され,少年院に入れる年齢の上限が下がってしまうと,

 犯罪をしても,裁判にかけられないままで終わってしまったり
【★29】

 裁判さえ終われば,あとはそのまま社会に放り出されるだけになってしまったり
【★30】

 刑務所で刑罰を押し付けられるだけになってしまったりして,

 最後の「育て直し」のチャンスがなくなってしまいます。



 そんな法改正が,はたして,

 それまで家・学校・地域できちんと大切にされず,居場所のなかった18歳・19歳にとって,良いことなのかどうか,

 私たちのこの社会にとって,本当に良いことなのかどうか,

 それを,実際に多くの18歳・19歳を「育て直し」ている少年院をよく見て,皆さんに考えてみてほしいと思います
【★31】


 (※2021(令和3)年5月の少年法改正では,18歳・19歳も引き続き少年法の対象になりましたが,18歳未満の子どもと比べて「育て直し」のチャンスが薄くなる問題があります。詳しくは,「成人年齢の引下げで少年法はどうなったの?」の記事を見てください。【★32】)

 

 

 

【★1】 子どもの場合は,犯罪をしていなくても,「犯罪をするかもしれない」というときには,少年院に送られることもあります。これを「ぐ犯」と言います。
少年法3条1項「次に掲(かか)げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。…
 三 次に掲げる事由(じゆう)があって,その性格又(また)は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為(こうい)をする虞(おそれ)のある少年
 イ 保護者の正当な監督に服しない性癖(せいへき)のあること
 ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附(つ)かないこと
 ハ 犯罪性のある人若(も)しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること
 ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」
【★2】 少年法の厳罰化(げんばつか)の流れを受けて,平成19(2007)年5月成立・同年11月施行の改正少年法で,少年院に送られる子どもの年齢が,12歳に引き下げられました。ただし,12歳,13歳は,特に必要がある場合だけ,少年院に送られることになっています。
 同法24条1項 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもって,次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし,決定の時に14歳に満たない少年に係る事件については,特に必要と認める場合に限(かぎ)り,第三号の保護処分をすることができる。(略) 三 少年院に送致すること」
【★3】 少年院に送る判断がされるのは,家庭裁判所の審判という手続の中です。この審判は,20歳を超えてしまうとできません。
 少年法2条1項 「この法律で『少年』とは,20歳に満たない者をいい…(略)」
《2021(令和3)年少年法改正,2022(令和4)年4月施行》
 少年法2条1項 「この法律で『少年』とは,20歳に満たない者をいう」
 同法3条1項 「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に処する。(略)」
 同法19条2項 「家庭裁判所は,調査の結果,本人が20歳以上であることが判明したときは,……決定をもって,事件を管轄(かんかつ)地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致(そうち)しなければならない」
 同法23条3項 「第19条第2項の規定は,家庭裁判所の審判の結果,本人が20歳以上であることが判明した場合に準用(じゅんよう)する」
【★4】 少年矯正統計少年院2014年「9 少年院別 新収容者の年齢」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001136827
 平成26年の総数2872人のうち,12歳以下:1人,13歳:8人,14歳:171人,15歳:310人,16歳:566人,17歳:608人,18歳:602人,19歳:605人,20歳以上:1人
【★5】 平成26年の長期処遇(しょぐう)対象者のうち,仮退院までの平均在院日数は,397日でした(少年矯正(きょうせい)統計少年院2014年「40 少年院別 仮退院者の在院期間(長期処遇対象者)」)。http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001136827
【★6】 以前は,「長期処遇」「一般短期処遇」「特修短期処遇」という処遇区分がありましたが,平成26(2014)年に成立し,平成27(2015)年6月から施行されている新しい少年院法では,どのような矯正教育の内容を重点的に行うのか,その程度の期間を標準として矯正教育を行うのか,を規定した「矯正教育課程」のわくぐみに変わりました(少年院法30条。法務省矯正局編「新しい少年院法と少年鑑別所法」69頁)。
【★7】 法務大臣平成27年5月14日付「矯正教育課程に関する訓令(くんれい)」(法務省矯少訓第2号)の別表1の矯正教育課程の「標準的な期間」は,短期義務教育課程(SE)と短期社会適応課程(SA)以外,どれも「2年以内の期間」となっています。
【★8】 〔★7〕の短期義務教育課程(SE)と短期社会適応課程(SA)の「標準的な期間」は,「6月以内」です。
 法務省矯正局長平成27年5月14日付「矯正教育課程に関する訓令の運用について(依命通達)」(法務省矯少第92号)「2 第1種少年院における在院者の矯正教育課程の指定」「(1)短期義務教育課程又は短期社会適応課程」「ア 一般的な取扱い 家庭裁判所において,送致すべき少年院として第1種が指定され,かつ,短期義務教育課程又は短期社会適応課程を履修(りしゅう)させるべき特性を考慮して,これらの矯正教育課程の標準的な期間(6月以内)を矯正教育の期間として設定することが適当であるとする旨の勧告が付された場合は,短期義務教育課程又は短期社会適応課程を指定すること。なお,少年院送致の保護処分歴がある場合には,短期義務教育課程又は短期社会適応課程の在院者の類型である『その者の持つ問題性が単純又は比較的軽く,早期改善の可能性が大きいもの』には該当しないこと」「イ 14歳未満の在院者について 14歳未満の在院者については,義務教育を終了しない者ではあるものの,原則として短期義務教育課程は指定しないが,次のいずれにも該当する場合において,相当と認めるときは,同課程を指定することができること。(ア)中学校2年生に該当する年齢であること。(イ)心身の発達の程度を考慮して14歳以上の在院者との同一の集団での矯正教育の実施に著しい支障が認められないこと」
【★9】 少年院法137条1項 「少年院の長は,保護処分在院者が20歳に達したときは退院させるものとし,20歳に達した日の翌日にその者を出院させなければならない。ただし,少年法第24条第1項第三号〔★10〕の保護処分に係る同項の決定のあった日から起算して1年を経過していないときは,その日から起算して1年間に限り,その収容を継続することができる」
《2021(令和3)年少年院法改正,2022(令和4)年4月施行》
 少年院法137条1項 「少年院の長は,少年法第24条第1項第三号の保護処分(更生保護法第72条第1項の規定による措置を含む。)の執行を受けるため少年院に収容されている保護処分在院者が20歳に達したときは退院させるものとし,20歳に達した日の翌日にその者を出院させなければならない。ただし,少年法第24条第1項第三号〔★10〕の保護処分に係る同項の決定のあった日から起算して1年を経過していないときは,その日から起算して1年間に限り,その収容を継続することができる」
 少年院送致決定から1年以上さらに収容する場合には,家庭裁判所が,収容継続審判をします。
 同法138条1項 「少年院の長は,次の各号に掲げる保護処分在院者について,その者の心身に著しい障害があり,又はその犯罪的傾向が矯正されていないため,それぞれ当該各号に定める日を超えてその収容を継続することが相当であると認めるときは,その者を送致した家庭裁判所に対し,その収容を継続する旨の決定の申請をしなければならない。 一 前条第1項本文の規定により退院させるものとされる者 20歳に達した日 二 前条第1項ただし書の規定により少年院に収容することができる期間…が満了する者 当該期間の末日」
 同条2項 「前項の申請を受けた家庭裁判所は,当該申請に係る保護処分在院者について,その申請に理由があると認めるときは,その収容を継続する旨の決定をしなければならない。この場合においては,当該決定と同時に,その者が23歳を超えない期間の範囲内で,少年院に収容する期間を定めなければならない」
【★10】 少年院法4条1項 「少年院の種類は,次の各号に掲げるとおりとし,それぞれ当該各号に定める者を収容するものとする。
 一 第1種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著(いちじる)しい障害がないおおむね12歳以上23歳未満のもの(次号に定める者を除く。)
 二 第2種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね16歳以上23歳未満のもの
 三 第3種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満のもの
 四 第4種 少年院において刑の執行を受ける者」
《2021(令和3)年少年院法改正,2022(令和4)年4月施行》
 少年院法4条1項 「少年院の種類は,次の各号に掲げるとおりとし,それぞれ当該各号に定める者を収容するものとする。
 一 第1種 保護処分の執行を受ける者(第五号に定める者を除く。次号及び第三号において同じ。)であって,心身に著しい障害がないおおむね12歳以上23歳未満のもの(次号に定める者を除く。)
 二 第2種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著(いちじる)しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね16歳以上23歳未満のもの
 三 第3種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満のもの
 四 第4種 少年院において刑の執行を受ける者
 五 第5種 少年法第64条第1項第二号の保護処分の執行を受け,かつ,同法第66条第1項の規定による決定を受けた者」
【★11】 以前は「医療少年院」と呼んでいたもので,今は「第3種」の少年院です(少年法4条1項三号。〔★10〕)。
 少年院法139条1項 「少年院の長は,次の各号に掲げる保護処分在院者について,その者の精神に著(いちじる)しい障害があり,医療に関する専門的知識及び技術を踏(ふ)まえて矯正教育を継続して行うことが特に必要であるため,それぞれ当該各号に定める日を超えてその収容を継続することが相当であると認めるときは,その者を送致した家庭裁判所に対し,その収容を継続する旨(むね)の決定の申請をしなければならない。 一 家庭裁判所が前条第2項…の規定により定めた少年院に収容する期間が23歳に達した日に満了する者 23歳に達した日 二 家庭裁判所が次項…の規定により定めた少年院に収容する期間(当該期間の末日が26歳に達した日である場合を除く。)が満了する者 当該期間の末日」
 同条2項 「前項の申請を受けた家庭裁判所は,当該申請に係る保護処分在院者について,その申請に理由があると認めるときは,その収容を継続する旨の決定をしなければならない。この場合においては,当該決定と同時に,その者が26歳を超えない期間の範囲内で,少年院に収容する期間を定めなければならない」
【★12】 多摩少年院の場合の一日の流れは次のとおりです(同院パンフレット)。
  7:00 起床
  7:30 洗面,身辺整理,朝食,役割活動
  9:00 朝礼
  9:15 教育活動
 12:00 昼食
 13:30 教育活動
 17:00 夕食
 18:00 集会,教養講話
 19:00 自己計画学習,日記記入
 20:00 テレビ視聴
 21:00 1日の反省
 21:15 就寝
【★13】 「僕が入っていた当時の少年院はどんな場所だったのかというと。
 一,少年院の中では基本的に私語厳禁。『あつい』『きつい』などの独り言もダメ。
 一,院生同士での手紙のやり取り,目で合図を送るなどの通信は禁止。
 一,廊下を歩く際には,スリッパをペタペタさせない。また,よその部屋を覗(のぞ)かない。
 一,集団トイレの使用は,各部屋ごとに決められた時間で用を済ますこと。
 一,テレビ鑑賞の時間は,大きな声で笑わない。
 一,就寝時は,眠りに入るまで天井を向いて目を閉じること。
 生活面の規則は,他にもまだたくさんあった。その上,院内では部屋から一歩外へ出ると,次のような集団行動を行わなければならなかった。
 一,『気をつけ』の姿勢は背筋をピンと張って,両手の中指をズボン横の縫(ぬ)い目に沿わせる。
 一,『前へならえ』の姿勢は,ならえの『な』の号令が聞えると同時に,素早く両手を前へ出す。この時,親指は曲げて,手の平にくっ付けておく。
 一,『礼』の姿勢は,背筋を張ったまま上半身を斜め45度に倒す。視線は3歩先を見るようにし,心の中で『1,2,3』と数えた後,サッと頭を上げる。
 規則を数えればきりがないが,このような生活を日々実践(じっせん)させられるわけだ。
 だが,少年院はこればかりではない。『ハイ!』『有難うございます!』『失礼します!』『すみません!』と力いっぱい大きな声で返事をしなければならず,教官は僕たちに徹底して躾(しつけ)を教え込んだ」(「セカンドチャンス!人生が変わった少年院出院者たち」(新科学出版社)126頁,吉永拓哉「少年院卒元ヤンブラジル新聞記者の人生」)
【★14】 刑法9条 「死刑,懲役(ちょうえき),禁錮(きんこ),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
 同法12条2項 「懲役は,刑事施設に拘置(こうち)して所定(しょてい)の作業を行わせる」
 同法13条2項 「禁錮は,刑事施設に拘置する」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法9条 「
死刑,拘禁刑(こうきんけい),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料(かりょう)を主刑とし、没収を付加刑とする」
 同法12条2項 「拘禁刑は,刑事施設に拘置(こうち)する」
 同法12条3項 「拘禁刑に処せられた者には,改善更生を図るため,必要な作業を行わせ,又は必要な指導を行うことができる」

【★15】 ただし,一応法律上は,少年院で刑の執行を受けることも,ありうることになってはいます。これは,少年法の厳罰化の流れを受けて,平成12(2000)年11月改正・平成13(2001)年4月施行の改正少年法で,14歳・15歳も大人と同じ刑事裁判を受けて刑罰を受けることがありうるとされたことに関連します。いままでも16歳以上の子どもが大人と同じ刑罰を受けることはありました。その場合,少年刑務所という,大人とは違う刑務所で,刑の執行を受けます。しかし,14歳・15歳の子どもは,刑の執行を受けるとはいっても,まだ教育が必要な年齢です。なので,16歳にまるまでは少年院で刑の執行を受けることとし,その間は「矯正教育を授ける」ということになったのです。少年院法4条1項〔★10〕の第4種の少年院が,これにあたります。ただし,この記事を書いている現時点で,この規定に基づいて少年院で刑の執行を受けている人はいません。
 少年法56条1項 「懲役又は禁錮の言渡しを受けた少年…に対しては,特に設けた刑事施設又は刑事施設若しくは留置施設内の特に分界を設けた場所において,その刑を執行する」
 同条3項 「懲役又は禁錮の言渡しを受けた16歳に満たない少年に対しては,…16歳に達するまでの間,少年院において,その刑を執行することができる。この場合において,その少年には,矯正教育を授ける」
《2022(令和4)年少年法改正,2025(令和7)年6月施行》
 少年法56条1項 「拘禁刑の言渡しを受けた少年…に対しては,特に設けた刑事施設又は刑事施設若しくは留置施設内の特に分界を設けた場所において,その刑を執行する」
 同条3項 「拘禁刑の言渡しを受けた16歳に満たない少年に対しては,…16歳に達するまでの間,少年院において,その刑を執行することができる。この場合において,その少年には,矯正教育を授ける」
【★16】 少年院法3条 「少年院は,次に掲げる者を収容し,これらの者に対し矯正教育その他の必要な処遇を行う施設とする。(略)」
【★17】 少年院法24条1項 「少年院の長は,在院者に対し,善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる知識及び生活態度を習得させるため必要な生活指導を行うものとする」
【★18】 少年院法25条1項 「少年院の長は,在院者に対し,勤労意欲を高め,職業上有用な知識及び技能を習得させるため必要な職業指導を行うものとする」
【★19】 少年院法26条1項 「少年院の長は,学校教育法…に定める義務教育を終了しない在院者その他の社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる在院者に対しては、教科指導(同法による学校教育の内容に準ずる内容の指導をいう。…)を行うものとする」
【★20】 少年院法38条1項 「矯正教育は,その効果的な実施を図るため,在院者が履修すべき矯正教育課程,第16条に規定する処遇の段階その他の事情を考慮し,在院者を適切な集団に編成して行うものとする」
【★21】 少年院の職員である「法務教官」の皆さんの具体的な話が,毛利甚八著「少年院のかたち」(現代人文社)で読むことができます。
【★22】 少年院を出た人たちが,互いの経験や未来を共有したりして語り合う場として,「NPO法人セカンドチャンス!」を立ち上げています。少年院を出た人たち一人ひとりの話が,「セカンドチャンス!人生が変わった少年院出院者たち」(新科学出版社)で読むことができます。
【★23】 少年院法44条1項 「少年院の長は,在院者の円滑な社会復帰を図るため,出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者に対しては,その意向を尊重しつつ,次に掲げる支援を行うものとする。(略)」
【★24】 少年司法運営に関する国連最低基準規則(1985年,通称「北京ルールズ」)18条1 「権限を有(ゆう)する機関にとって,きわめて多様な処遇方法が利用できなければならない。可能なかぎり最大限,施設収容をさけるために,柔軟性が認められなければならない」
 同規則19条 「少年の施設収容処分は,常に,最後の手段であり,かつ,その期間は必要最小限度にとどめられなければならない」
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)40条1項 「締約国(ていやくこく)は,刑法を犯したと申し立てられ,訴追(そつい)され又は認定されたすべての児童が尊厳(そんげん)及(およ)び価値についての当該児童の意識を促進(そくしん)させるような方法であって,当該児童が他の者の人権及び基本的自由を尊重することを強化し,かつ,当該児童の年齢を考慮し,更(さら)に,当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める」
 同条4項 「児童がその福祉に適合し,かつ,その事情及び犯罪の双方に応じた方法で取り扱われることを確保するため,保護,指導及び監督命令,カウンセリング,保護観察,里親委託,教育及び職業訓練計画,施設における他の措置等の種々の処置が利用し得るものとする」
【★25】 しかし,平成21(2009)年,広島少年院で法務教官たちが少年院に入っている人たちに暴力をふるっていたことが明らかになりました。少年院法という法律は,もともとは,条文の数が少ない法律で,昭和24(1949)年に施行されてからこれまで,大幅な改正が一度もされずにいたのですが,広島の事件がきっかけとなって,平成26(2014)年に少年院法が大きく変わりました(平成27(2015)年6月から施行)。報道では,「初等少年院/中等少年院」「特別少年院」「医療少年院」という名前を「第1種」「第2種」「第3種」に変えたことのほうが取り上げられていますが(「特別少年院」という名前が子どもたちの間で一種のステータスになっていたから,という事情もありました),広島少年院の事件が法改正のきっかけだったことからすれば,少年院にいる人たちの取り扱いについて法律できちんとルールが決められたこと,処遇に不満がある場合の救済のしくみや,外部の人が少年院の状況をチェックするしくみができたことのほうが,重要です。
【★26】 「少年院や保護観察などの教育方法は,少年の生活意識や態度を根本から改めさせるために,少年自身の努力によって非行性を克服させようとするものであり,少年自身にとって非常に厳しい自己錬磨が要求されるのです。そこには甘やかしの要素はほとんど入ってきません。刑罰が,その懲罰的な性格により他律的改善を図る手段であるとすると,保護処分は,自律的改善を少年に強制する手段だということになります」(澤登俊雄「少年法」8頁)
【★27】 大人と同じ裁判にかけるために,事件を家庭裁判所が検察官に送るので,「検察官送致(けんさつかんそうち)」と言います。事件はもともと検察官から家庭裁判所に来ていたもので,それを家庭裁判所が検察官に戻すため,「逆送(ぎゃくそう)」という言い方もします。そして,逆送を受けた検察官が,刑事訴訟を起こします。
 少年法20条1項 「家庭裁判所は,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」
《2022(令和4)年少年法改正,2025(令和7)年6月施行》
 少年法20条1項「家庭裁判所は,拘禁刑以上の刑に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」

 同法45条 「家庭裁判所が,第20条の規定によって事件を検察官に送致したときは,次の例による。…… 五 検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,公訴(こうそ)を提起(ていき)するに足りる犯罪の嫌疑(けんぎ)があると思料(しりょう)するときは,公訴を提起しなければならない。…(以下略)」
《2021(令和3)年少年法改正,2022(令和4)年4月施行》
 同法45条「家庭裁判所が,第20条第1項の規定によって事件を検察官に送致したときは,次の例による。…… 五 検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,公訴(こうそ)を提起(ていき)するに足りる犯罪の嫌疑(けんぎ)があると思料(しりょう)するときは,公訴を提起しなければならない。…(以下略)」
【★28】 むかしは,16歳以上の子どもでなければ逆送はできませんでした。また,16歳以上の非常に重い犯罪でも,事情によっては,必ずしも逆送されるとはかぎりませんでした。
 しかし,大人たちが「少年法は甘い,厳しくするべきだ」と考えた結果,2000(平成12)年に法律が変えられ,14歳・15歳の子どもでも逆送されうることになり,また,16歳以上の子どもで故意に(わざと)人を死なせた犯罪のときには,必ず逆送しなければならない,というように,厳しくなりました。
 少年法20条2項「前項の規定にかかわらず,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係(かか)るものについては,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない」
【★29】 20歳になっていない人の刑事事件については,犯罪をした疑いがないかぎり,すべて家庭裁判所に送られます(「全件送致主義」と言います)。
 少年法42条1項 「検察官は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,…これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも,家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは,同様である」
 ところが,20歳以上の人の刑事事件については,検察官は,必ず裁判にかけなければいけないわけではありません。これを「起訴便宜主義(きそべんぎしゅぎ)」と言います。
 刑事訴訟法248条 「犯人の性格,年齢及(およ)び境遇(きょうぐう),犯罪の軽重(けいちょう)及び情状並(なら)びに犯罪後の情況により訴追(そつい)を必要としないときは,公訴を提起しないことができる」
【★30】 少年事件では,家庭裁判所の審判で,少年院には送られずに社会に戻ってよいとされる場合でも,定期的に地元の保護司のところに通う「保護観察処分」となることがほとんどです。
 少年法24条1項 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもって,次に掲げる保護処分をしなければならない。… 一 保護観察所の保護観察に付すること。(略)」
 しかし,大人の裁判では,「これから数年間まじめに暮らしていれば刑務所に行かなくてもよい」という執行猶予(しっこうゆうよ)の判決であれば,それで終わりです。大人の裁判でも「保護観察」を付けることはありますが,そういう判決になることはとても少ないのが実際です。
 刑法25条1項 「次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その執行を猶予することができる。 一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者 二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」
 同条2項 「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。(略)」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法25条1項 「次に掲げる者が3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その刑の全部の執行を猶予することができる。 一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者 二 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者」
 同条2項 「前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が2年以下の拘禁刑の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。(略)」
 同法25条の2第1項 「前条第1項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ,同条第2項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する」
【★31】 日弁連2015(平成27)年2月20日「少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2015/150220_2.html
【★32】 日弁連2021(令和3)年5月21日「18歳及び19歳の者に関する少年法改正に対する会長声明」
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210521.html

Part1_2

 

 

 

亡くなった親が借金をしていた

 

 17歳で,きょうだいはいません。両親は私が幼いころに離婚しました。父は今どこで何をしているかわかりません。今年,母が亡くなり,何十万円かの預金と,私を受取人にしている200万円の生命保険を残していました。預金と生命保険の手続きはまだできないらしいので,それまで待つことにしていました。ところが最近,母にかなりの額の借金があったことがわかり,業者から「返せ」という手紙が来て,とても困っています。

 

 

 ほんとうにその借金があったとしても,相続放棄の手続をすれば,あなたがその借金を払う必要はありません。

 また,相続放棄をしても,生命保険金は受け取ることができます。





 業者から突然「返せ」と連絡が来て,驚きましたよね。

 もしかして,お母さんが残した財産以上の借金を払わなくてはいけなくなるのかと,とても不安になったと思います。




 亡くなった人の財産を他の人が引き継ぐことを,「相続」と言います
【★1】


 あなたのお母さんは,「この財産をこの人に引き継がせたい」という「遺言(いごん)」を,書いてはいなかったのですね
【★2】

 遺言がなければ,法律に書かれている順番・割合で,家族が財産を引き継ぎます。



 あなたのお母さんが離婚していて,子どもがあなた一人だけなら,

 あなたがお母さんの財産を全部引き継ぐことになります
【★3】


 相続では,預金や土地・建物などのプラスの財産も,借金などのマイナスの財産も,両方とも引き継ぎます。


 でも,プラスの財産の額よりも,マイナスの額のほうが多かったら,それを引き継いで返していくのは,大変です。


 法律は,一人ひとりを大切な存在としてあつかっています。

 あなた自身が作った借金ではないのに,「家族だから」という理由だけで,必ず引き継がなければならないというのでは,おかしなことです。

 だから,借金などのマイナスの財産のほうが大きいときなど,引き継ぎたくない場合は,相続しないことができます。

 これを,「相続放棄(そうぞくほうき)」と言います
【★4】


 相続放棄は,亡くなった人の最後の住所の地域の家庭裁判所で,手続をします【★5】

 亡くなったことを知ったときから3か月以内に,手続をするのが原則です
【★6】

 3か月以内では財産を全部調べるのが間に合わないときには,

 「放棄するかどうか調べて考える期間を伸ばしてほしい」と裁判所に連絡します
【★7】


 あなたの場合,まだ未成年なので,今はまだ,この相続放棄の手続をとることができません【★8】

 成人してから3ヶ月以内に手続をとれば大丈夫です。

 成人する年齢はいままでは20歳でしたが,2022(令和4)年4月からは18歳に引き下げられています
【★9】



 お母さんにあったという多額の借金が,ほんとうにあなたが払わなければならないものなのかどうか,よく確かめてみてください。

 むかしの借金なら,もう「時効(じこう)」で消えていて,払わなくてよくなっているかもしれません
【★10】

 利息が高かったときの借金なら,利息制限法という法律で計算しなおせば,借金の額が減っているかもしれません
【★11】

 成人する前に,弁護士に相談してみてください。



 相続放棄の手続きが終わると,裁判所が証明書を出してくれます。

 それを業者に見せれば,「お金を払え」と求められることは,なくなります。



 きちんと調べるまでは,業者に一部でもお金を返さないようにしてください。

 でも,もし,うっかり相続放棄の前にいくらか返してしまったとしても,

 お母さんの残したお金からではなく,自分のお金から払ったのなら,

 その後でも相続を放棄することはできますから,安心してください
【★12】



 相続放棄をすると,プラスの財産も引き継ぎません。

 なので,お母さんの残した数十万円の預金は,あなたが受け取ることはできません
【★13】


 でも,生命保険のお金は,相続放棄をしても,あなたが受け取ることができます。


 相続は,亡くなった時に,亡くなった人が持っていた財産を引き継ぐものです。

 あなたが受取人として指定されている生命保険のお金は,

 お母さんが亡くなったことによってはじめて,あなたに発生するお金です。

 お母さんが亡くなった時に,お母さん自身が持っていたものではありません。

 だから,相続放棄をしても,受け取ることができるのです
【★14】【★15】


 お母さんが,あなたのために残してくれた生命保険のお金です。

 ぜひ大切にして,今後のあなたの生活のために役立ててください。




 日本が大きな戦争に負ける前までは,一家の主(あるじ)が亡くなると,財産は全て家族のうちの一人が引き継ぎ,それも,長男が優先されていました
【★16】

 子どもが何人かいても,「年下だから」「女性だから」という理由で,子どもどうしが平等に扱われてこなかったのです。



 戦争に負けた後,日本は,一人ひとりを大切にする社会にしようと変わりました。

 相続も,子どもどうしなら,年や男女に関係なく平等に相続するようになりました。



 ところが,不平等は,まだ別のところで残りました。

 例えば,男性が,結婚している女性との間に子どもをもうけ,さらに結婚していない別の女性との間にも子どもをもうけていたとき,

 その男性が亡くなると,

 結婚していない女性のほうの子どもは,結婚している女性のほうの子どもの2分の1しか,相続することができなかったのです
【★17】


 子どもは,親を自分で選んで生まれてくることは,できません。

 お父さんが同じなのに,お母さんが結婚していたかどうかで,子どもどうしを違うあつかいにするのは,全くおかしなことでした。

 そして,ようやく2013年(平成25年)に,最高裁は,

 「親が結婚していたかどうかで子どもが相続できる割合が違うのは,憲法が保障している平等原則に違反している」,

 そう言って,今後は同じ割合で相続するという判決を出しました
【★18】


 相続というしくみが,なぜあるのか。

 いろんな説明が試されていますが,

 はっきりとした理屈で,すっきりと説明することは,実は難しいのです
【★19】

 そのためもあって,実際,いろんな不都合が,あちこちで起きています。

 私は,弁護士として,相続の事件を多くあつかっていますが,

 今の相続のしくみが理不尽(りふじん)だと思うことが,たくさんあります。

 裁判での争いや,国会での議論によって,相続についての法律を,より良いものに変えていく必要があると思っています。
 



 「子どもは,親を自分で選んで生まれてくることができない」。

 それは,財産が多くある親のもとに生まれてきた子どもと,そうでない子どもとの間でも,同じことが言えます。

 相続のしくみのことだけでなく,

 親が元気な時も,親が病気になった時も,そして,親が亡くなった後も,

 子どもたちが,その生まれてくる家庭によって,理不尽な違ったあつかいを受けることなく,

 一人ひとりが大切にされる社会であることが必要だと,私は強く思っています。

 

 

 

【★1】 民法882条 「相続は,死亡によって開始する」
 民法896条 「相続人は,相続開始の時から,被相続人(ひそうぞくにん)の財産に属(ぞく)した一切の権利義務を承継(しょうけい)する。ただし,被相続人の一身に専属(せんぞく)したものは,この限(かぎ)りでない」
 「被相続人」は亡くなった人のこと,「相続人」は亡くなった人の財産を引き継ぐ人のことです。
【★2】 民法964条 「遺言者(いごんしゃ)は,包括(ほうかつ)又(また)は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる」
 「遺言」は,日常用語では「ゆいごん」と読みますが,法律用語では「いごん」と読みます。
【★3】 民法887条1項 「被相続人の子は,相続人となる」
 お母さんが離婚していなければ,お父さんも相続人になります(民法890条「被相続人の配偶者(はいぐうしゃ)は,常に相続人となる。(略)」,民法900条「同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。 一 子及(およ)び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とする(略)」)。
 あなたが一人っ子でなければ,きょうだいで均等に相続します(民法900条「… 四 子…が数人あるときは,各自の相続分は,相等(あいひと)しいものとする。(略)」)。
【★4】 民法939条 「相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす」
【★5】 民法938条 「相続の放棄をしようとする者は,その旨(むね)を家庭裁判所に申述(しんじゅつ)しなければならない」
 家事事件手続法201条1項 「相続の…放棄に関する審判事件…は,相続が開始した地を管轄(かんかつ)する家庭裁判所の管轄に属する」
 民法883条 「相続は,被相続人の住所において開始する」
【★6】 民法915条1項 「相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇(か)月以内に,相続について,単純若(も)しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。(略)」
【★7】 民法915条1項但書 「…ただし,この期間は,利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所において伸長(しんちょう)することができる」
【★8】 民法917条 「相続人が未成年者…であるときは,第915条1項の期間は,その法定代理人が未成年者…のために相続の開始があったことを知った時から起算する」
 あなたの場合,親権者であったお母さんが亡くなったので,法定代理人がいない状態です。親権者変更の手続をとってお父さんに親権者になってもらうのも,相続放棄のためだけに未成年後見人を家庭裁判所に選任してもらうのも,現実的ではないということも多いと思います。その場合は,あなたが成人するまで待ってから手続をとるのでも十分です。
【★9】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★10】 最後の取引から5年で時効になることがほとんどです。「時効を援用(えんよう)します」という通知を出せばOKです。
 旧民法167条1項 「債権(さいけん)は,10年間行使しないときは,消滅する」
 民法145条 「時効は,当事者…が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない」
 改正後(2020(令和2)年4月以降)の民法166条1項「債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。」
【★11】 利息制限法1条 「金銭を目的とする消費貸借(しょうひたいしゃく)における利息の契約は,その利息が次の各号に掲(かか)げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは,その超過部分について,無効とする。 一 元本(がんぽん)の額が10万円未満の場合 年2割 二 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年1割8分 三 元本の額が100万円以上の場合 年1割5分」
【★12】 福岡高裁宮崎支部平成10年12月22日決定・家月51巻5号49頁 「抗告人らのした熟慮期間中の被相続人の相続債務の一部弁済行為は,自らの固有財産…をもってしたものであるから,これが相続財産の一部を処分したことにあたらないことは明らかである」
【★13】 あなたが相続放棄をして引き継がれなかった預金と借金は,法律で決まっている次の順位の人に引き継がれます。次はお母さんの両親や祖父母で(民法889条1項1号),亡くなっていたり相続放棄をしたりすれば,その次はお母さんのきょうだい(同項2号),きょうだいが先に亡くなっていれば甥(おい)や姪(めい)です(同条2項,民法887条2項)。相続する人が誰もいなければ,相続財産管理人という人が選ばれて清算します(民法952条,953条)。清算後に残った財産があれば,相続人ではなかったけれども特別の縁故(えんこ)があったという人が引き継ぐか(民法958条の3),国が引き継ぎます(民法959条)。
【★14】 「特定の相続人を指名を表示して受取人と指定している場合であるが,これは,第三者のためにする契約であって,受取人として指定された相続人は,保険契約の効果として当然に保険金請求権を取得する。相続による取得と解する余地はない。この点に異論はない」(松原正明「全訂判例先例相続法Ⅰ」246頁)。
 受取人が具体的な氏名ではなく「相続人」と指定されていた場合も,同じです(最高裁第三小法廷昭和40年2月2日判決・民集19巻1号1頁)。
 受取人が被相続人本人に指定されていた場合については,判例がありません。ウェブサイトでは,当然のように「この場合は相続財産になるので,相続放棄をしたら保険金を受け取れない」と断言しているものが多いようです。しかし,以下のように反対論(相続の対象ではないので放棄しても保険金を受け取れるという見解)も多くあります。
 「保険金受取人が被保険者本人(被相続人)とされている場合については,判例は存在しない。被相続人に保険金請求権が発生し,それが相続人に相続されるという見解が多数説であるが,保険金請求権が発生した時点で被保険者たる被相続人は死亡しているという点では,矛盾は否めない」(梶村太市他「家族法実務講義」388頁),「保険契約者が被保険者及び保険金受取人の資格を兼(か)ねる場合…保険事故による保険金請求権については,保険契約者の意思を合理的に解釈すれば,相続人を受取人と指定する黙示(もくじ)の意思表示があったと解するのが相当である。少なくとも,受取人の指定がない場合と同視すべきであろう。したがって,被相続人死亡の場合については,保険金請求権は相続人の固有財産となる」(司法研修所編「遺産分割事件の処理をめぐる諸問題」248頁),「保険契約者が自分自身を被保険者かつ受取人としている場合 この場合も,受取人の相続人となるべき物のためにする保険契約であって,同人が保険金請求権を固有の権利として取得すると解すべきである。これに対し,保険金請求権は保険契約者に帰属し,その相続人はこれを相続によって取得すると解するのが通説的見解である」(松原正明「全訂判例先例相続法Ⅰ」263頁)
【★15】 生命保険金は遺産ではないのですが,相続税の計算の中では,生命保険金は「みなし相続財産」として,相続税の対象になります(相続税法3条1項1号)。ただし,生命保険金は一定額までは非課税ですし(同法12条1項5号),基礎控除など様々な計算がありますから,相続税が発生しないことも多いです。相続税については,税務署や税理士に相談するとよいでしょう。
【★16】 むかしの民法では,一家の主のことを「戸主(こしゅ)」と呼んで,戸主が亡くなったり,隠居(いんきょ)したときに,家の財産をすべて一人が引き継ぐことになっていて,多くの場合長男が単独相続していました。これを「家督相続(かとくそうぞく)」と言います(なお,戸主以外の人が亡くなったときは,家督相続とは違い,共同相続でした)。
 明治民法970条 「被相続人の家族たる直系卑属(ちょっけいひぞく)は左の規定に従い家督相続人と為(な)る 一 親等の異なりたる者の間に在(あ)りては其(その)近き者を先にす 二 親等の同じき者の間に在りては男を先にす 三 親等の同じき男又は女の間に在りては嫡出子(ちゃくしゅつし)を先にす 四 親等の同じき嫡出子,庶子(しょし)及び私生子の間に在りては嫡出子及び庶子は女と雖(いえど)も之を私生子より先にす 五 前四号に掲げたる事項に付き相同(あいおな)じき者の間に在りては年長者を先にす」
【★17】 結婚している夫婦の間の子どもを「嫡出子(ちゃくしゅつし)」,結婚していない男女の間の子どもを「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」と言い,非嫡出子の相続分は,嫡出子の半分とされてきました。
 改正前の民法900条4号但書 「ただし,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし…」
【★18】 最高裁判所大法廷平成25年9月4日判決・民集67巻6号1320頁 「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准(ひじゅん)した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更(さら)にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権(さいりょうけん)を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである」
 憲法14条1項 「すべて国民は,法の下(もと)に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」
【★19】 「民法典に定めている相続法は,歴史的な産物であって,様々な社会的・思想的背景のもとに成立した制度が結合してできたものである。このため,相続制度全体をひとつの根拠によって一元的に説明することは困難である。社会学的な観点から相続の根拠を考える限り,必然的にそれは多元的な説明になる。そして,どんなに多元的であっても,また,たとえ併存する根拠が相互に矛盾するものであっても,社会学的な説明としては差し支えない。しかし,法解釈学の観点はこれとは異なる。…伝統的な学説は,多元的説明をしつつ,①潜在的(せんざいてき)持分の払戻し,②生活保障,③権利安定の確保を相続の根拠として挙げている」(内田貴「民法Ⅳ」322頁)

Part2

2021年7月 1日 (木)

彼女が電車で痴漢に遭った

 

 付き合っている彼女が,昨日,電車で痴漢(ちかん)に遭(あ)いました。その場で叫(さけ)んだので,犯人は捕まったみたいです。彼女は警察で長時間事情を聞かれたのに,また明日も警察に呼ばれてるそうで,「ほんとうは行きたくない」と悩んでます。行かなくても特に問題はないんですか。あと,僕からは彼女に,これからは,電車に乗る時間を変えるとか,女性専用車を使うようにとか,スカートを少し長めにしたら,とアドバイスしたんですが,僕が彼女のためにほかにできることはありますか。

 

 


 自分の大切なパートナーが痴漢の被害に遭ったと聞いて,

 びっくりし,腹立たしい気持ちになりましたよね。



 きっと彼女も,

 気持ち悪さや戸惑(とまど)い,怒りや悔しさなど,

 いろんな気持ちがわきあがっただろうと思います。



 痴漢の被害を受けた人は,なかなか声を上ることができません。

 そして,それをいいことに,犯人たちは痴漢をくりかえしています。

 多くの10代の女性が,痴漢の被害に遭っています
【★1】

 今回,彼女が勇気を出して声を上げたことは,

 彼女自身を守るだけでなく,

 ほかの人たちを守ることにもつながる,すごいことです。



 痴漢の被害に遭ったことに,「それはいやだったよね」と,彼女の気持ちに寄り添うこと。

 そして,勇気を出して声を上げたことに,「すごいね,大変だったね」と言葉をかけること。

 それが,あなたが彼女のためにできること,彼女のためにしてほしいことです。


 そういった共感は,

 法律の手続のアドバイスと同じくらい,あるいはそれ以上に,

 被害を受けた人の心の支えになります。

 私たち弁護士も,犯罪の被害に遭った人の相談を受けるときには,

 「共感すること」を,とてもだいじにしています。



 電車に乗る時間を変えるとか,

 女性専用車を使うようにするとか,

 そういうアドバイスは,今後痴漢に遭わないようにするためには,たしかに意味のある対策かもしれません。



 でも,今回彼女が痴漢に遭ったのは,彼女のせいではありません。

 悪いのは,痴漢をした犯人のほうです。



 相手に共感する言葉がないままのアドバイスだと,

 それを言われたほうは,

 「痴漢に遭ったのは,そうしなかった自分の落ち度だ」と,

 責(せ)められているように感じられることがあります。

 被害じたいで傷ついているのに,身近な人の言葉で,さらに傷ついてしまうのです。



 「女性のがわにも,落ち度があったんじゃないの」。

 この社会では,女性が受けた性的な被害について,そういう根拠のない偏見(へんけん)を言う人が,たくさんいます。

 その偏見に傷ついている人が多くいるということを,ぜひ,心にとめておいてください。

 そして,あなたの思いが,そういった偏見と同じと誤解されないように,

 「アドバイス」よりも,彼女に共感する言葉のほうを,かけるようにしてください。




 痴漢の犯人と疑われた人の,その後の処分には,いろんなパターンがあります。

 その人が20歳以上なら,次のようなパターンがあります。




 「人ちがいだった」とか「証拠が足りない」という理由で裁判にかけられずに終わったり
【★2】

 「痴漢をしたけども,十分に反省しているし,被害者にも謝っている」という理由で,裁判にかけられずに終わることもあります
【★3】


 痴漢をしたことを認めている場合には,

 書類だけの簡単な裁判で,罰金を払って釈放される手続もあります
【★4】

 簡単な裁判ではあっても,罰金も刑罰ですから,前科として扱われます
【★5】


 「痴漢の程度がひどい」,「犯罪をくりかえしている」,「痴漢をしたことがはっきりしているのに,いろいろ弁解して反省していない」など,

 いろんな事情から,ふつうの刑事裁判を受けることもあります
【★6】



 あなたの彼女は,長い時間警察から事情を聞かれたのに,また警察に呼ばれている,ということでしたね。



 裁判で犯人を処罰するためには,

 「この人がこんな犯罪をした」ということが,しっかり証明できていないといけません。

 その証明のハードルは,とても高いのです
【★7】

 痴漢は,証拠が残りにくい犯罪です。

 そして,混んでいる電車では,犯人の取り違えが起きてしまうこともあります。

 やってもいない犯罪で処罰される「冤罪(えんざい)」は,あってはならないことです
【★8】

 だから,警察は,犯人と疑われている人と,被害を受けた人,それぞれの言い分を,慎重に調べなければいけません。

 あなたの彼女が,また警察に呼ばれているのも,そのためです。



 でも,被害を受けたときのことを何度も長い時間聞かれるのは,とてもつらいことですよね。

 被害を受けた人が,警察に話をするかどうかは,あくまで自由です。

 彼女が「話したくない」ということであれば,警察に断ってもかまいません。

 また,話すとしても,こちらの事情を説明して,警察にいろいろ配慮してもらうように求めてもかまいません
【★9】


 もしかしたら,犯人についた弁護士から,彼女や彼女の親に連絡があるかもしれません。

 犯人が,痴漢をしたことを認めていて,お金を払うことで謝りたい,という連絡です。

 そういう話し合いを,「示談(じだん)」と言います。

 示談は,法律的な約束ごとですから,

 彼女がまだ未成年なら,相手の弁護士との話し合いは,彼女一人でするのではなく,彼女の親といっしょに進めていくことになります
【★10】【★11】


 これから先,いろんな場面で,彼女がどのように対応していけばよいかについて,

 犯罪の被害に詳しい弁護士からアドバイスを受けたり,その弁護士に依頼したりすることもできます。

 あなたから彼女に,そういった窓口を伝えるのも,よいと思います
【★12】


 被害を受けてつらい思いをしているパートナーの気持ちに,ぜひ,しっかりと寄り添ってください。



 私は,痴漢をなくしていかなければならない,と思うとともに,

 皆さんが,学校を卒業し働き始めてこれから先何十年もずっと,満員電車に乗らなければならない社会であってはいけないとも,思っています。



 見知らぬ人どうしが,ぎゅうぎゅうにくっつくことに耐えなければいけない満員電車は,それじたいが,人間の暮らしとして,異常なことです【★13】【★14】

 ましてや,その中で,

 痴漢というひきょうな犯罪が起きやすくなり,

 その被害でつらい思いをする人々が,たくさんいて,

 時には,痴漢の犯人に間違われて大変な思いをする人もいます。

 混んでいる駅の中で,駅員に対する暴力や,人身事故も,多く起きています。

 満員電車での通勤の負担が,過労死の原因になっているケースも,多くあります。



 今回のことをきっかけにして,

 満員電車が当たり前の風景になってしまっていてよいのか,

 一人ひとりが大切にされる社会のありかたについても,

 考えてみてほしいと思っています。




【★1】 平成22年1月8日から15日,4月15日から21日,9月6日から10日に,首都圏で検挙された痴漢のケースで,被害者は15~19歳が全体の約半分(49.7%)にも及んでいました。(平成23年3月警察庁・痴漢防止に係る研究会「電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書」)
【★2】 裁判にかけるかどうかを判断する人は,「検察官(けんさつかん)」です。「警察官」と発音が似ているのでややこしいですが,別の人です。検察官は,弁護士や裁判官と同じように,法律家です。警察と協力しながら事件を捜査し,ずっとつかまえるか外に出すかを決めたり,犯人の処分を求めて裁判所の手続をとったりします。裁判にかけないことを「不起訴処分(ふきそしょぶん)」と言います。その人が犯人でないとはっきりしたなら「嫌疑なし」,証拠が足りないなら「嫌疑不十分(けんぎふじゅうぶん)」による不起訴処分です。
【★3】 検察官は,必ず犯人を裁判にかけなければいけないわけではありません。これを「起訴便宜主義(きそべんぎしゅぎ)」と言います。
 刑事訴訟法248条 「犯人の性格,年齢及(およ)び境遇(きょうぐう),犯罪の軽重(けいちょう)及び情状並(なら)びに犯罪後の情況により訴追(そつい)を必要としないときは,公訴を提起しないことができる」
 本文のような不起訴処分を,「起訴猶予(きそゆうよ)」と言います。
【★4】 「略式手続(りゃくしきてつづき)」と言います。
 刑事訴訟法461条 「簡易裁判所は,検察官の請求により,その管轄(かんかつ)に属する事件について,公判前,略式命令で,100万円以下の罰金又は科料(かりょう)を科(か)することができる。…」
 同法461条の2第1項 「検察官は,略式命令の請求に際し,被疑者に対し,あらかじめ,略式手続を理解させるために必要な事項(じこう)を説明し,通常の規定に従(したが)い審判を受けることができる旨を告げた上,略式手続によることについて異議(いぎ)がないかどうかを確めなければならない」
【★5】 刑事訴訟法470条 「略式命令は,正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により,確定判決と同一の効力を生ずる。…」
 刑法9条 「死刑,懲役(ちょうえき),禁錮(きんこ),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法9条 「
死刑,拘禁刑(こうきんけい),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料(かりょう)を主刑とし、没収を付加刑とする」
【★6】 痴漢は,多くの場合,都道府県の条例(迷惑防止条例)に違反したとして処罰されます。条例違反の場合,罰金刑があるので,略式手続をとることができます。しかし,痴漢の程度がひどければ,刑法の「強制わいせつ罪」「不同意わいせつ罪」で処罰されます。強制わいせつ罪不同意わいせつ罪には罰金刑がないので,略式手続がとれず,ふつうの刑事裁判を受けることになります。
 (東京都)公衆に著(いちじる)しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例5条1項 「何人(なんぴと)も,正当な理由なく,人を著しく羞恥(しゅうち)させ,又は人に不安を覚えさせるような行為(こうい)であって,次に掲(かか)げるものをしてはならない。 一 公共の場所又は公共の乗物において,衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。…」
 同条例8条1項 「次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。… 二 第5条第1項…の規定に違反した者」
《2024(令和6)年同条例改正,2025(令和7)年6月施行》
 同条例8条1項 「次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。… 二 第5条第1項…の規定に違反した者」
 刑法176条 「13歳以上の男女に対し,暴行又は脅迫(きょうはく)を用いてわいせつな行為をした者は,6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し,わいせつな行為をした者も,同様とする」
《2023(令和5)年刑法改正,同年7月施行》
 刑法176条1項 「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により,同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて,わいせつな行為をした者は,婚姻関係の有無にかかわらず,6月以上10年以下の拘禁刑に処する。(略)」
【★7】 最高裁判所第一小法廷昭和23年8月5日判決・刑集2巻9号1123頁 「元来(がんらい)訴訟上の証明は,自然科学者の用いるような実験に基(もとづ)くいわゆる論理的証明ではなくして,いわゆる歴史的証明である。論理的証明は『真実』そのものを目標とするに反し,歴史的証明は『真実の高度な蓋然性(がいぜんせい)』をもって満足する。言いかえれば,通常人なら誰でも疑(うたがい)を差挾(さしはさ)まない程度に真実らしいとの確信を得ることで証明ができたとするものである」
【★8】 実際に痴漢冤罪(えんざい)が問題になったケースとして,矢田部孝司・あつ子「お父さんはやってない」(2006年,太田出版)と,その実話をベースとした映画「それでも僕はやってない」(2007年,周防正行監督)があります。
【★9】 犯罪捜査規範10条の2第1項 「捜査を行うに当たっては,被害者又はその親族…の心情を理解し,その人格を尊重しなければならない」
 同条2項 「捜査を行うに当たっては,被害者等の取調べにふさわしい場所の利用その他の被害者等にできる限り不安又は迷惑を覚えさせないようにするための措置を講じなければならない」
【★10】 親にチェックしてもらい,親のOK(=同意)をもらったうえで示談をするか,または,親に代わりに(=代理人として)示談してもらうことが必要です。
 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。…」
 同法824条「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。…」
【★11】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★12】 各弁護士会の犯罪被害者法律相談窓口 https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/victim/whole_country.html
 法テラス犯罪被害者支援 0120-079714 (https://www.houterasu.or.jp/site/higaishashien/
【★13】 法律は,一人ひとりが,大切な人間として尊重されること,物や人形や奴隷ではなく,人間として大切にされることを,だいじにしています。
 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
 憲法18条 「何人(なんぴと)も,いかなる奴隷的拘束(どれいてきこうそく)も受けない。…」
 1987年(昭和62年)に過労死で亡くなった八木俊亜さんは,亡くなる前のノートに,次のように書いていました(八木光恵「さよならも言わないで 『過労死』したクリエーターの妻の記録」45頁,双葉社)。
 「人はただ奴隷的に存在する安逸(あんいつ)さになれてしまう。人間の奴隷的存在について考えてみよう。かつての奴隷たちは奴隷船につながれて新大陸へと運ばれた。超満員の通勤電車のほうがもっと非人間的でないのか。現代の無数のサラリーマンたちはあらゆる意味で,奴隷的である。金にかわれている。時間で縛られている。上司に逆らえない。賃金もだいたい一方的に決められる。ほとんどわずかの金しかもらえない。それも欲望すらも広告によってコントロールされている。肉体労働の奴隷たちはそれでも家族と食事をする時間がもてたはずなのに。」
【★14】 宮尾節子さんの詩「明日戦争がはじまる」は,「まいにち 満員電車に乗って 人を人とも 思わなくなった」という出だしで始まっています。 https://twitter.com/sechanco/status/425897118599901184/photo/1

Part1_2

大学に行かないなら予備校代を返せと言われてる

 

 高校3年生です。親から「大学に行け」と言われて,高1のときから予備校に通わされてきました。でも,勉強が好きではなく,成績もよくありません。ほんとは,小さい頃から美容師になりたいと思っていて,今はその夢がどんどん強くなっています。親に,「大学に行きたくない。専門学校に行って美容師の資格を取りたい」と言ったんですが,認めてくれず,「大学に行かないなら,これまで払った予備校代を返せ」と言われています。私は,予備校代を親に返さないといけないんですか。

 

 

 いいえ。

 予備校代について,「返す・返さない」の話になることじたいが,おかしなことです。



 お金を借りたのなら,

 貸してくれた人に,返さなくてはいけません
【★1】

 自分でどこかに払わないといけないお金を,ほかの人に立て替えてもらったなら,

 立て替えてくれた人に,返さなくてはいけません
【★2】


 でも,あなたの予備校代は,

 親から借りたものでもなければ,

 立て替えてもらったものでもありません。

 あなたが親に返すものではありません。



 法律は,「家族をきちんと養(やしな)わないといけない」,としています【★3】

 法律の言葉で,「扶養(ふよう)」と言います。

 特に,親には,子どもを育てる義務があります
【★4】

 いろんなことを学んで成長している子どものうちは,

 自分で働いてかせぐことができないのですから,

 そういう子どもを育てるためのお金は,

 親が自分で出さなければいけません
【★5】

 着ること,食べること,住むことにかかるお金はもちろん,

 子どもが学ぶためのお金だって,そうです。



 あなたの親は,「大学に行くことがあなたが育つために必要だ」と考えて,予備校に通わせていたのですから,

 その予備校代は,そう考えた親が,自分で出すものです。

 あとで,いろんな事情で,子どもが大学に行かない,行けないことになったからといって,

 予備校代を子どもに払わせるのは,おかしなことです。



 親が子どもに,

 「大学に行かなかったら,予備校代を親に返します」,と,

 はっきり約束までさせてしまっているケースを見かけます。



 おこづかい程度の小さな金額であれば【★6】

 友だちや,きょうだいとのあいだで,貸し借りなどをすることもあるでしょうし,

 その約束をきちんと守ることも,大切でしょう。



 法律は,

 「子どもがお金の貸し借りなどをするときには,

 親がきちんとチェックしないといけない」,としています
【★7】

 子どもがお金の話をするときには,

 その子が自分に不利な約束をしてしまわないよう,

 親が子どもを守らなければいけないのです。



 ところが,

 お金の貸し借りの相手が親だと,

 親が,子どもに不利な内容を押し付けてきたとき,

 子どもを守る立場の人がいません。



 こういう場面を,法律の言葉で,「利益相反(りえきそうはん)」と言います。


 利益相反のときには,子どもを親から守るために,

 裁判所が「特別代理人」という別の人を選んで,子どもにつけなければいけないことになっています
【★8】

 特別代理人に選ばれた人は,

 子どもに不利にならないかどうかをきちんと考えて,

 親とのあいだで貸し借りなどの約束をするのです。



 特別代理人がいないままの約束を,子どもが守る必要はありません。

 成人したあとで,自分できちんと納得してその約束をOKしたら,払わなければいけませんが
【★9】【★10】

 そうでないかぎり,払う必要はありません。


 予備校代は,

 遊びや趣味のためのお金ではなく,教育にかかわるお金です。

 金額だって,おこづかい程度のレベルではなく,何十万円やそれ以上という,とても大きなお金です。

 もともとあなた自身が積極的に望んで行きたいと思っていたわけでもない,その予備校のお金を,

 「大学に行かないなら親に返せ」などというのは,法律からみて,明らかにまちがっています。


 「大学に進むよう,子どもに考え直させるために,

 法律的にどうなのかはともかく,子どもの教育のためにそう言ったんだ。

 弁護士が『払わなくていい』などと子どもに吹き込むのは迷惑だ」。

 そう言う親もいます。

 しかし,

 法律的にまちがったウソをついて子どもを騙(だま)し,

 「大学に行かないなら金を払え」と子どもを脅(おど)し,

 子ども本人が望んでいない,親の思うとおりの道に進ませようと,子どもを支配することなど,

 「教育」だとは,到底(とうてい)言えません。


 「こういうことを学びたい,こういう仕事に就きたい」。

 子どもの夢がはっきりしてくると,

 その意見が,親と衝突(しょうとつ)することもあるでしょう。

 一度決めた夢が途中で変わることだって,ふつうにあることですが,

 そういうときもやはり,親と衝突するかもしれません。


 でも,あなたの人生は,親のものではありません。

 あなたが自分で選んで,進んでいくべきものです。


 いままできちんと育ててくれたこと,

 自分のためを思ってくれているからこそ,安くはない予備校代を出してくれていたことについて,

 親への感謝の気持ちを,きちんと伝えてみてください。

 そのうえで,「美容師になりたい」という自分の強い気持ちを,親に受け止めてもらえるように,じっくりと話し合ってください。


 結局,親が理解してくれず,

 これから必要になる専門学校のお金は,

 アルバイトや奨学金などで,自分で工面(くめん)しなければいけないかもしれません。

 でも,これまでかかった予備校代は,あなたが親に返す必要は,ないのです。


 自分の人生を自分で選んで進んでいくときには,お金の問題は,とても重要です。

 お金のことについての,まちがった情報や,情報不足のせいで,

 将来後悔するような選択をしないためにも,

 親との話し合いがうまく進まないときには,

 ぜひ,周りの大人や,私たち弁護士に相談してください。

 

 

【★1】 お金の貸し借りのことを,法律の言葉では,「金銭消費貸借(きんせんしょうひたいしゃく)」と言います。
 民法587条 「消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及(およ)び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生(しょう)ずる」
【★2】 「立替払(たてかえばらい)契約」と言います。
【★3】 民法877条1項 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及(およ)び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養(ふよう)をする義務がある」
【★4】 民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う」
【★5】 内田貴「民法Ⅳ」294頁 「親族扶養の中の最も重要な類型のひとつである親の子に対する扶養に関してはどこに規定があるのだろうか。…実定法上の根拠としては,文言からも877条1項に含まれていると解してよいだろう」
 同295頁 「828条但書は,子の財産の収益を養育費に充(あ)ててよい旨(むね)規定している。言い換えれば,子の財産の元本(がんぽん)を養育費に充当(じゅうとう)することは原則として許されないのである。したがって,収益で不足する限(かぎ)り,親は自(みずか)らの資産・労力で子を養育しなければならない」
【★6】 民法5条3項 「…法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未成年者が自由に処分することができる。…」
【★7】 民法5条1項 「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない…」
 民法824条 「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する…」
【★8】 民法826条1項 「親権を行う父又は母とその子との利益が相反(そうはん)する行為(こうい)については,親権を行う者は,その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」
 「親権者が,その親権に服する子どもとの間で直接契約を行う行為は,一般に契約が『相対立する契約当事者間』で行われることから,民法826条の利益相反行為に該当(がいとう)するのが通常です。もっとも,民法826条は未成年者の保護を目的とするものですので,例えば単純贈与のように,単に未成年者が利益のみを享受(きょうじゅ)し,債務その他の負担を一切負わないような場合には利益相反には該当しません」(新日本法規「Q&A子どもをめぐる法律相談」503頁)
【★9】 内田貴「民法Ⅳ」233頁 「利益相反行為は無権代理と同じであり,その効果は本人に帰属(きぞく)しない。ただし,子が能力者となった後に追認(ついにん)する余地はある」
 民法113条1項 「代理権を有(ゆう)しない者が他人の代理人としてした契約は,本人がその追認をしなければ,本人に対してその効力を生じない」
 最高裁判所第三小法廷昭和46年4月20日判決(最高裁判所裁判集民事102号519頁) 「上告人〔注:未成年者,のち成人〕…は,…事件の係属中,被上告人またはその訴訟代理人に対し,上告人〔親権者〕…による本件土地の売買予約に関する無権代理行為を追認したものであり,これにより,右売買予約中右4名の共有持分に関する部分は,その成立の時に遡(さかのぼ)って効力を生じたものである旨,および親権者が民法826条に違反して,親権者と子の利益相反行為につき法定代理人としてなした行為は民法113条所定の無権代理行為にあたる旨の原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯(しゅこう)できる」
【★10】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」

Part2

18歳になった高校生の深夜アルバイト

 

 高校3年生です。先月,18歳になりました。コンビニでバイトしているんですが,店長から,「夜10時以降もシフトに入ってほしい」と言われてます。「高校生は深夜にバイトできないんじゃないんですか?」って聞いたら,「18歳になれば大丈夫」って店長が言ってます。この前他の人が辞めて人手不足になってて,店もこまってるし,僕も深夜に働けば時給が高くてバイト代をかせげるから,深夜のシフトに入りたいと思ってるんですが,親は「高校生だからダメだ」と,許可してくれません。やっぱり深夜バイトはできないんですか?




 法律上は,18歳になっていれば,深夜に働いてもよいことになっています。

 しかし,親が,あなたのことを考えて,深夜に働くことに反対しているのなら,親とよく話し合うことが大切です。




 むかし,子どもは,小さなときから,大人と同じように働かなければなりませんでした。

 今でも,世界の中には,そういう地域が残っています。

 「小さな子どものうちは,仕事をさせないで,教育を受けられるようにしよう」。

 日本をふくむ,世界の国々が,そう約束しています
【★1】

 だから,義務教育を受け終えなければ,働くことはできません。

 日本の法律は,以前は,「15歳になっていない子どもを働かせてはいけない」としてましたが
【★2】

 これでは,「15歳になれば,中学校を卒業していなくても,働かせてよい」とも,読めてしまいますね。

 なので,1998(平成10)年に,法律が直されました。

 「15歳になったあとに最初にくる3月31日」,つまり,中学校3年生の年度末までは,働かせてはいけない,となりました
【★3】


 でも,義務教育を終えたら働いていい,とはいっても,

 18歳になるまでは,大人とはちがったルールがあります。

 まだ体も心も成長を続けている時期なので,

 法律は,働く子どもたちを,いろんなルールで守っています。




 「18歳になるまでは,深夜に働かせてはいけない」,というのも,そのひとつです
【★4】



 18歳になっていない子どもを,夜10時から朝5時までの間に働かせると,雇(やと)っているがわが,犯罪として処罰(しょばつ)されてしまいます【★5】

 (子どもを守るためのルールですから,深夜に働いた子どもが処罰されるのではありません。)



 ただ,このルールは,「18歳になったあとに最初にくる3月31日」までは深夜に働かせてはいけない,という書き方はしていません。

 だから,高校を卒業していなくても,18歳になっていれば,深夜に働くことはできます。

 言いかえれば,「18歳になったあなたが深夜に働いても,店長は処罰されない」,ということです。



 これまでは,18歳になったとしても,親が,「そういう職場で働くのはダメだ」と反対したら,深夜に働くことはできませんでした。


 働き始めるときに,お店との間で,「働きます」「給料をもらいます」という約束をしますね【★6】

 こういった法律的な約束のことを,契約(けいやく)と言います。

 何ヶ月間働くか,1週間に何日働くか,何時から何時まで働くか,給料はいくらか,どんな内容の仕事をするか。

 そういったことを,契約を結ぶときに決めます。

 この契約をお店と結ぶのは,あなたの親ではなく,あなた自身です
【★7】

 でも,未成年のときは,契約のなかみを,親が納得して,親がOKしなければなりません
【★8】

 この,親が「OKすること」を,「同意(どうい)」と言います。


 いままでは大人になる年齢が20歳でしたから,18歳・19歳の人が夜10時以降も働くことにするなら,

 契約の内容が変わるのですから,

 あらためて,親からOK(=同意)をもらわなければいけませんでした。

 親がOKしないまま,あなたが契約のなかみを変えたら,

 親は,その新しい取り決めを,ナシにする(=取り消す)ことができますし
【★9】

 それだけでなく,

 「そんな職場で働くことは,あなたにとってよくない」,と親が考えたら,

 あなたがその店で働くことそのものを,やめさせることもできました
【★10】


 しかし,2022(令和4)年4月に,成人年齢が18歳に下がることになったので
【★11】

 18歳になれば,これまで必要だった親のOKが,今後はなくても,夜10以降働くことは法律的にはできるようになりました。


 ただ,それでも私は,深夜に仕事をするのを反対する親の話を,あなたにしっかりと受け止めて欲しいと思います。
 



 あなたの親が,「高校生だから深夜に仕事をするのはダメだ」と考える理由を,よく聞いてみましょう。



 「卒業するまでは,勉強のほうにきちんと力をそそいでほしい。深夜に働いて昼の勉強がおろそかになるのは本末転倒(ほんまつてんとう)だ」,とか,

 「深夜だと,事件・事故に巻き込まれてしまう危険があって不安だ」,など,

 きっと,あなたのことを心配してくれているはずです
【★12】


 だから,あなたも,そういう親の気持ちを受け止めて,

 「定期試験が終わって卒業が確実になるまで待つ」,とか,

 「仕事が終わったらすぐに親に連絡をして,寄り道せずにまっすぐ帰る」,など,

 そういった前向きな提案をすることも必要だと思います。





 私からは,勉強・卒業のことや,事件・事故の心配のほかに,もう一つ,だいじな話をしようと思います。


 夜という時間の大切さです。



 夜という時間は,子どもにとって,体が成長するための,だいじな時間です。

 子どもが18歳になるまで深夜に働かせてはいけないのは,そのためです
【★13】

 18歳になったあとだって,体の中では,まだまだ成長を続けています。



 お金は,将来大人になってからでも,かせいでいくことができます。

 でも,体が成長するのは,今の時期しかありません。

 お金に代えることのできない,そのだいじな時期にある自分を,ぜひ,大切にしてほしいと思います。



 そして,それだけなく,これから先の,大人になってからの自分の働き方についても,

 今,じっくりと考えてみてほしいと思います。



 たしかに18歳以上になれば,深夜に働いてもよくなりますし,深夜に働けば,給料も高いので,よりかせぐことができます。

 深夜の仕事の給料が必ず高いのは,「昼間とくらべて高くしないといけない」と,法律がきびしく決めているからです
【★14】


 夜という時間は,ほんらい,家でゆっくりくつろいで,一日の疲れをとり,明日のためのエネルギーを貯める,だいじな時間です。


 だから,法律は,なるべく深夜に人を働かせないようにするために,

 高い給料を,雇うがわから従業員に払わせるように,きびしく決めているのです




 日本は,世界の他の国とくらべて,働く時間がとても長い国です。

 働きすぎで突然命を失う「過労死(かろうし)」が,たくさん起きています。

 そのまま「karoshi」という言葉で,世界に通じてしまうほどです。



 毎日遅くまで仕事に追われて,体も心も,とても疲れ切ってしまう。

 ゆっくり寝る時間もなくて,その疲れがとれないまま,また仕事に出かける。

 仕事に追われる生活で,家族や友だちと楽しく過ごしたり,趣味にあてたりする時間もない。

 そして,ある日突然亡くなり,人生そのものが終わってしまう
【★15】

 残された家族も,だいじな人を突然なくした悲しみと,生活するためのお金がなくなる苦しさに,こまりはててしまう。



 私たちは,生きるために仕事をしてお金を得ているのに,

 仕事のせいで,生きることそのものが奪(うば)われてしまうことは,絶対にあってはならないことです
【★16】



 過労死の事件に,私が弁護士として多く取り組んでいる中で,

 その1件1件のケースを通して,

 「夜に仕事をすることが,体にどれほど負担になるか」を,いつも実感します。




 夜に働くということがどういうことなのか,

 どうして18歳になるまで深夜に仕事をしてはいけないことになっていて,

 どうして深夜の仕事の給料が高くなっているのか,

 そのことを,今回のことをきっかけに,


 ぜひ,親といっしょに考え,話し合ってみてください。



【★1】 ILO(国際労働機関)就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)2条1項 「この条約を批准(ひじゅん)する加盟国(かめいこく)は,その批准に際(さい)して付する宣言において,自国の領域(りょういき)内…における就業(しゅうぎょう)が認められるための最低年齢を明示する。…」
 同条3項 「1の規定に従(したが)って明示する最低年齢は,義務教育が終了する年齢を下回ってはならず…」
【★2】 労働基準法旧56条1項 「満15才に満たない児童は,労働者として使用してはならない」
【★3】 労働基準法現56条1項(平成10年改正) 「使用者は,児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで,これを使用してはならない」
【★4】 労働基準法61条1項 「使用者は,満18才に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない。…」
【★5】 労働基準法119条 「次の各号の一に該当(がいとう)する者は,これを6箇月以下の懲役(ちょうえき)又は30万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 …第61条…の規定に違反した者」
《2022(令和4)年労働基準法改正,2025(令和7)年6月施行》
 労働基準法119条 「次の各号のいずれかに該当(がいとう)する者は,6月以下の拘禁刑(こうきんけい)又は30万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 …第61条…の規定に違反した者」
【★6】 民法623条 「雇用は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事(じゅうじ)することを約(やく)し,相手方がこれに対してその報酬(ほうしゅう)を与えることを約することによって,その効力を生(しょう)ずる」
 労働契約法6条 「労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金(ちんぎん)を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する」
【★7】 労働基準法58条1項 「親権者(しんけんしゃ)又は後見人は,未成年者に代って労働契約を締結(ていけつ)してはならない」
【★8】 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
 「未成年者が労働契約を締結するには法定代理人の同意を要する。」(菅野和夫「労働法第10版」421頁)
【★9】 民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★10】 労働基準法58条2項 「親権者若(も)しくは後見人又は行政官庁は,労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては,将来に向(むか)ってこれを解除(かいじょ)することができる」
【★11】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★12】 親権(しんけん)は,子どものために使われなければなりません。
 民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有(ゆう)し,義務を負う」
 親が,雇い主のことを嫌いだからとか,子どもやその友だちと考え方がちがうから,という親の都合で,子どもが働くのをやめさせた(=【★10】の解除をした)というケースで,裁判所は,「子どものためにしたものではないから,親権の濫用(らんよう)で,解除は無効だ」としたものがあります(名古屋地方裁判所昭和37年2月12日判決・労働関係民事裁判例集13巻1号76頁)。
【★13】 大阪高等裁判所昭和33年12月2日判決(判例時報179号24頁) 「労働基準法62条は年少労働者…の健康の保護向上をはかるためにこれ等(ら)の者を一日のうち健康に有害な労働時間である同条所定(しょてい)の時間に使用すること(いわゆる深夜業)を禁止し,もって年少…労働者の各自の福祉を保障しようとする規定である」
【★14】 労働基準法37条4項 「使用者が,午後10時から午前5時まで…の間において労働させた場合においては,その時間の労働については,通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
 「2割5分」というのは,25%のことです。たとえば,もし昼の時給が1000円ならば,深夜は1250円以上にしなければいけません。
 ちなみに,昼に仕事をする人が残業で深夜まで働いたら,雇っているがわは,残業ぶんの割増し(25%やそれ以上)に加えて,さらにこの深夜ぶんの割増しも払わなければなりません。
 なお,18歳未満の子どもに対しては,残業をさせること自体が禁止されています。「高校生は残業できないってほんと?」の記事も読んでみてください。
 労働基準法60条1項 「…第36条…の規定は,満18才に満たない者については,これを適用しない」(36条は残業についての条文です。)
【★15】 過労死は,脳や心臓の病気で突然亡くなるケースや,うつ病などの精神的な病気から自殺で突然亡くなるケースが多いですが(「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発第1063号),「心理的負荷による精神疾患の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第1号)),それ以外の病気で亡くなるケースもあります。
【★16】 一件でも不幸な過労死事件をなくそうと,過労死遺族(いぞく)の人たちが国会に対して一生懸命はたらきかけました。その結果,2014(平成26)年6月20日に「過労死等防止対策基本法」という法律ができ,11月1日から施行されています。 

Part1_2

後見人の弁護士がつくってどういうこと?

 

 中学1年生です。お父さんとおばあちゃんの3人で暮らしてたんですが,この前,お父さんが事故で亡くなりました。今,おばあちゃんと2人で生活してます。最近,裁判所の人との面接があって,「おばあちゃんと,弁護士の人が,あなたの後見人(こうけんにん)になります」って言われたんですが,説明がよくわかりませんでした。弁護士の後見人がつくって,どういうことですか。

 


 「後見人」というのは,文字どおり,あなたを後ろから見守ってくれる,親代わりの人のことです。


 親が亡くなってしまった。

 親が行方不明になってしまった。

 裁判所が「親としてふさわしくない」と判断した
【★1】


 そんないろんな事情で,子どもに親がいなくなってしまうと,

 子どもの生活を見たり,子どもの財産をきちんと見る人が,いなくなってしまいます。



 だから,そういう時に,家庭裁判所が,親代わりの人を選びます。

 それが,「未成年後見人」です
【★2~4】



 「後見」という言葉は,明治時代に今の民法という法律ができるよりもずっと前から,日本にありました。

 室町時代に観阿弥(かんあみ)・世阿弥(ぜあみ)が始めた,「能」という伝統的な舞いがあります。

 その舞台の奥のほうで,役者が舞うのをしっかりと見守っている人が,「後見」です。

 舞いで役者の服がみだれてきたら,後見の人が,さっと服を整えてくれます。

 もし役者が舞えなくなったときには,後見の人が前に出てきて,本人の代わりに舞います
【★5】


 法律の「後見」も,それと似たような役割をします。

 子ども本人がきちんと生活できているかどうかを,未成年後見人が見守り,サポートします。

 子ども本人では難しい法律的な手続があれば,未成年後見人が,本人に代わってします。




 法律上,成人したら,自分のことを全部自分でしなければならなくなります
【★6】

 その成人するまでの間,親がいない子どもに,未成年後見人が付いてサポートをすることは,とてもだいじなことです。



 誰が,子どもの未成年後見人になるか。

 それは,家庭裁判所が,いろんなことを考えて,決めています
【★7】


 そして,家庭裁判所は,「未成年後見人がきちんと子どもをサポートしているかどうか」を,きちんとチェックしています【★8】


 以前は,未成年後見人は,たった1人しかなれませんでした【★9】

 未成年後見人は,親族の中から選ばれることが多いのですが,

 たとえば,亡くなった親が残した財産がたくさんあって,その管理が複雑だったりすると,親族の未成年後見人1人では,とても大変です。



 だから,2012(平成24)年に法律が変わりました【★10】

 1人だけでなく,複数で未成年後見人になることが,認められるようになりました。



 たぶん,あなたの場合,

 「日々の生活のことは,いっしょに暮らしているおばあちゃんが親代わりとしてメインで担当し,

 お父さんが残した財産の管理のことは,法律の専門的な知識が必要だから,弁護士がメインで担当するのがいい」,

 と,裁判官が考えたのだと思います
【★11】

 裁判所が,信頼できる弁護士たちのリストの中から選んできて,

 その弁護士が,あなたのおばあちゃんとタッグを組んで,あなたを支えてゆくのです。



 これまで,弁護士が子どもとかかわる場面といえば,

 犯罪のこと,学校のこと,親子のことなど,

 何らかのトラブルがきっかけとなって出会い,

 そのトラブルの解決のためにかかわる,というのが,ほとんどでした。

 だから,

 弁護士と子どもが話す内容は,そのトラブルにかかわることが中心ですし,

 そのトラブルが解決すれば,弁護士と子どものつきあいも,基本的にはそこで終わってしまいます。


 でも,この未成年後見人としての弁護士とのかかわりは,ちがいます。

 あなたの生活全般について広く弁護士がサポートできますし,

 あなたが成人するまでの,とても長い間,あなたとつきあうことができます。

 ずっとあなたをサポートする,力強い味方の弁護士が,あなたのそばにいます。

 しかも,その弁護士のさらに後ろで,裁判所も,あなたを守っています。



 親を亡くして,とてもつらかったと思います。

 そして,親を亡くしたことで,いままで知らなかった弁護士と,新たに出会うこととなったのも,ほんとうに不思議な縁だと思います。

 その弁護士のサポートをうまく受けながら,ぜひ,自分らしい生き方を見つけていってください。

 

 

 

【★1】 「親権喪失(そうしつ)」と「親権停止」の手続があります。
民法834条 「父又は母による虐待(ぎゃくたい)又(また)は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著(いちじる)しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでない」
民法834条の2第1項 「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権停止の審判をすることができる」
【★2】 民法838条 「後見は,次に掲(かか)げる場合に開始する。
 一  未成年者に対して親権を行う者がないとき,又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
 二  後見開始の審判があったとき。」
 民法839条1項 「未成年者に対して最後に親権を行う者は,遺言(いごん)で,未成年後見人を指定することができる。…」
 民法840条1項 「前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは,家庭裁判所は,未成年被後見人(みせいねんひこうけんにん)又(また)はその親族その他の利害関係人の請求によって,未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも,同様とする。」
 認知症(にんちしょう)などでも,「成年後見」の制度があります。本人に必要なサポートの度合いによって,「後見」「保佐」「補助」というバリエーションがあります(民法7条~18条)。成年後見では,裁判所が「始めます」という「開始の審判」をして,はじめて,サポートをする人(後見人・保佐人・補助人)を誰にするかを選びます。しかし,子どもにつける未成年後見の場合は,親権者がいなければ,当然に後見がスタートすることになっていて(民法838条1号),裁判所は,誰を未成年後見人に選ぶかを決めるだけです。
 大人の場合には,自分のことを自分でするのが基本なので,誰かがサポートに入るのはあくまで例外です。ですから,その例外にあたるのかどうかを,裁判所がきちんと判断する必要があります。ぎゃくに,子どもの場合には,まだ法律的なことを自分ではできないのが基本なので(民法5条),親権者がいなければ,自動的に後見がスタートするのです。
【★3】 民法第857条 「未成年後見人は,第820条から第823条までに規定する事項について,親権を行う者と同一の権利義務を有(ゆう)する。…」
  民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有し,義務を負う。」
 民法821条 「子は,親権を行う者が指定した場所に,その居所を定めなければならない。」
 民法822条 「親権を行う者は,第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒(ちょうかい)することができる。」
《2022(令和4)年民法改正,2024(令和6)年4月施行》
 民法821条 「親権を行う者は,前条の規定による監護及び教育をするに当たっては,子の人格を尊重するとともに,その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず,かつ,体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。」
 民法822条 「子は,親権を行う者が指定した場所に,その居所を定めなければならない。」
 民法823条1項 「子は,親権を行う者の許可を得なければ,職業を営(いとな)むことができない。」
【★4】 あなたが15歳以上なら,おばあちゃんと養子縁組の届出をして,おばあちゃんが「養親」として法律上の親になることができます。
 民法797条1項 「養子となる者が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,縁組の承諾(しょうだく)をすることができる」
 これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても養子縁組をするかどうかは自分で決める,ということです。
 民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
《2024(令和6)年民法改正,2026(令和8)年4月施行》
 民法818条3項「子が養子であるときは,次に掲げる者を親権者とする。 一 養親(当該子を養子とする縁組が2以上あるときは,直近の縁組により養親となった者に限る。 二 子の父母であって,前号に掲げる養親の配偶者であるもの」
 民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者(はいぐうしゃ)の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」(「自己」は自分のこと,「配偶者」は,夫から見た妻,妻から見た夫のこと,「直系卑属」は,子ども・孫・ひ孫・・・のことです。)
 しかし,15歳になっていない子どもが養子縁組をするには,「法定代理人」という人(親や,親代わりの人)が手続きをする必要があります。でも,あなたの場合,お父さんが亡くなったことで,法定代理人がいません。だから,今の時点では養子縁組をすることができなくて,未成年後見人が選ばれることになるのです。
 その後,未成年後見人の判断で,おばあちゃんと養子縁組をすることもありえますし,あなたが15歳になって養子縁組を自分ですることもできます。そうすると,おばあちゃんが親権者になり,未成年後見も,そこで終わります。
【★5】 「the能ドットコム」能楽用語事典「後見」
 http://db2.the-noh.com/jdic/2008/05/post_18.html
【★6】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★7】 民法840条3項 「未成年後見人を選任するには,未成年被後見人の年齢,心身の状態並(なら)びに生活及び財産の状況,未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無),未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。」
【★8】 民法863条1項 「後見監督人又は家庭裁判所は,いつでも,後見人に対し後見の事務の報告若(も)しくは財産の目録の提出を求め,又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。」
 同条2項 「家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で,被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。」
【★9】 改正前の民法842条(改正によって今はこの条文はなくなりました) 「未成年後見人は,1人でなければならない。」
【★10】 改正後の民法は,平成24年4月1日から施行されています。
【★11】 民法857条の2第1項 「未成年後見人が数人あるときは,共同してその権限を行使する。」
 同条2項 「未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,その一部の者について,財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる。」
 同条3項 「未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,財産に関する権限について,各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌(ぶんしょう)して,その権限を行使すべきことを定めることができる。」

 

Part2

2021年6月 1日 (火)

「親子の縁を切る」「戸籍から抜く」と言われた

 

 親から,「お前とは親子の縁(えん)を切る,戸籍(こせき)から抜(ぬ)く」と言われました。親子の縁を切られたり,戸籍から抜かれたりすると,いったいどうなるんですか。

 


 親から「親子の縁を切る」とか「戸籍から抜く」と言われるのは,とてもさみしい,悲しいことですよね。



 でも,法律的に親子の関係を切ったり,子どもを戸籍から抜いたりすることは,よほど特別なことがないかぎり,できません。

 あなたの親が言っていることは,ほとんど無理なことだと思ってもらってまちがいありません。




 そもそも,「親子の縁を切る」というのは,法律の世界にはない言葉です。




 子どもが生まれると,役所に「生まれました」という届出をします
【★1】

 このときに,父親がだれで母親がだれか,ということも届け出ます
【★2】

 いったんこの届出をしたら,後になって「やっぱり親子の関係をやめます」ということはできません。

 「この人が親で,この人が子どもだ」ということ。

 「法律上の親子のつながりがある」ということ。

 そのことは,これから先もずっと変わらないのです
【★3~5】

 将来あなたが結婚して,その家を出ても,

 あなたがどこかに養子に行って,その家を出ても,

 あなたか親の,どちらかが死んだとしても,

 法律上親子のつながりがあるということは,ずっと変わりません。

 親子の関係を切ることはできないのです。




 あなたが大人になるまでの間,親としてあなたに責任をもつ人のことを,「親権者(しんけんしゃ)」と言います
【★6】【★7】

 この「親権者」をやめますということも,裁判所が認めなければできません
【★8】

 裁判所は,よほどの事情がなければ,勝手に「親権者」をやめることなど認めないのです
【★9】

 もし,いろんな事情で親が「親権者」でなくなっても
【★10】,上に書いたとおり,法律上親子のつながりがあるということじたいは,やはり変わりません。



 「戸籍」は,一人ひとりの情報を家族単位で役所が管理しているものです。

 お父さん・お母さん,そして子どももいっしょに,戸籍にまとめて載っています。

 子どもが親の戸籍から抜けるのは,ふつうは,子どもが,だれかと結婚したときか,どこかの家に養子に行ったときです。

 でも,結婚にしても,養子にしても,相手のいることですから親だけで勝手にすることはできません。



 結婚や養子縁組をしなくても,大人になれば,親の戸籍から抜けて一人で新しい戸籍を作ることができます。

 これを「分籍(ぶんせき)」と言います。

 でも,子どものときには,分籍はできません
【★11】


 戸籍は,一人ひとりの情報を管理するための,単なる道具にすぎません。

 だから,たとえ戸籍が別々になったとしても,法律上の親子のつながりは,まったく切れないのです。

 あなたが親の戸籍から抜けたとしても,

 親の戸籍では「子どものあなたがいる」という情報がわかるようになっていますし,

 あなたの戸籍には「親がだれか」という情報が書かれます。




 これまで書いてきたとおり,法律では,「親子の縁を切る」ということも,戸籍から抜くことも,ほとんどできません。



 あなたの親は,「それが法律でできるのかどうか」ということまで,きちんと考えて言っているのではありません。

 「あなたをこれ以上自分の子どもとして育てていくことがいやになった」,

 親は,そんな気持ちになって,その時のいきおいで「縁を切る」「戸籍を抜く」と言ってしまっているのだと思います。



 だから,あなたのほうは,

 「親子の縁を切ったり,戸籍から抜かれたりしたらどうなるか」ということを心配するよりも,

 「どうして親は,私のことを自分の子どもとして育てていくのがいやになっているのだろう」ということを,考えてみてください。

 それを考えていく中で,親がほんとうはあなたを大切に思ってくれている,ということに,あなた自身が気づくかもしれません。

 「大切なあなたに,きちんとした人に育っていってもらいたい。それなのに,あなたにそうしてもらえない」。

 親は,そういうことへの怒(いか)りから,いきおいで言ってしまっていることも多いと思います。

 本当は,大人のがわも,子どものことを大切に思っているなら,たとえ怒っているときであっても,「縁を切る」,「戸籍を抜く」という言葉で,子どもにさみしく悲しい気持ちにさせるようなことはしてはいけない,と私は思います。

 でも,大人でも,自分の気持ちを相手に伝えるのが,ちょっとうまくないときもあります。

 おたがいが気持ちを分かりあえるように,話ができるとよいと思います。



 一方で,親が,子どものことを大切に思っていないケース,自分の子どもとして育てるのが本当にいやだと思っているケースも,残念ながらやはりあります。

 私がこれまでかかわってきた虐待のケースでも,親から心ない言葉を言われて傷ついてきた子どもたちが,何人もいました
【★12】

 もし,あなたが親の言葉で深く傷つき,家の中にまったく居場所がないと感じているようなら,ぜひ,まわりの大人や,私たち弁護士に相談してください。

 

 

 

【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法49条2項 「届出には,次の事項(じこう)を記載しなければならない。
(略)
 三 父母の氏名及び本籍,父又は母が外国人であるときは,その氏名及び国籍」
【★3】 「ほんとうは最初から親子ではなかった」という,かなり特別な場合に親子関係がなくなることはありますが,これも,裁判所が判断します。
 お母さんは,「出産した人イコール母親」です(最高裁昭和37年4月27日判決・民集16巻7号1247頁)。出生の届出のときには,出産の証明書が付けられますから,ウソの届出を作って出さないかぎり,「最初から母親ではありませんでした」ということはありえません(ウソの届出を作って出すのは犯罪です)。
 お父さんは,「自分の子どもではない」「血のつながりがない」と思ったら,1年以内に3年以内に裁判所に言わなければなりません(これを「嫡出否認(ちゃくしゅつひにん)」と言います)。1年を過ぎれば,3年を過ぎれば,たとえ血のつながりがなくても,父親と子どもの関係をやめることは許されません。(この記事を書いた後の2022年の民法改正で,2024年12月からは子どものがわやお母さんからも嫡出否認の訴えを起こせるようになりました。)
民法772条1項 「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する」
民法774条 「第772条の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる」
民法775条 「前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。…」
民法777条 「嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない」
《2022(令和4)年民法改正,2024(令和6)年4月施行》
民法772条1項 「妻が婚姻中に懐胎した子は,当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって,婚姻が成立した後に生まれたものも,同様とする」
民法774条1項 「第772条の規定により子の父が定められる場合において,夫又は子は,子が嫡出であることを否認することができる」
同条2項 「前項の規定による子の否認権は,親権を行う母,親権を行う養親又は未成年後見人が,子のために行使することができる」
同条3項 「第1項に規定する場合において,母は,子が嫡出であることを否認することができる。ただし,その否認権の行使がこの利益を害することが明らかなときは,この限りでない」
民法775条 「次の各号に掲げる否認権は,それぞれ当該各号に定める者に対する嫡出否認の訴えによって行う。 一 父の否認権 子又は親権を行う母 二 子の否認権 父 三 母の否認権 父…」
民法777条 「次の各号に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは,…3年以内に提起しなければならない(略)」
 とても例外的に,1年を過ぎても3年を過ぎても「最初から父親ではありませんでした」ということが認められることもあります。しかし,「親子関係不存在確認訴訟」という裁判を起こして,親子の血のつながりがないということと,子どもが生まれるときに夫婦としての見かけがなかったということ,というかなり高いハードルをクリアしなければ,裁判所は「親子でない」とは認めません(「外観説」と言います。最高裁第一小法廷昭和44年5月29日判決・民集23巻6号1064頁,最高裁第三小法廷平成12年3月14日判決・家月52巻9号85頁,最高裁第二小法廷平成10年8月31日判決・家月51巻4号75頁)。
【★4】 法律上の親子の関係が終わるものとして,特別養子縁組という,とても特殊な手続があります。
 特別養子縁組は,子どもを生んだけれども育てられないとか,子どもを虐待してしまう,という親と関係を切って,養子に行った先の家で,養子というよりもほんとうの子どものように親子関係を作るための,特別な養子縁組です。ふつうの養子縁組では,この記事の本文で書いたように,もとの親との関係は切れませんが,特別養子縁組では,もとの親との関係が切れることになります。
 この特別養子縁組は,家庭裁判所がとても慎重に判断しますし,子どもが15歳以上ならできません(例外的に,すでに引き取られる先にずっと育てられてきていれば18歳になるときまで)。
 「特別養子縁組って何?」の記事もぜひ読んでみてください。
民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方(じっかた)の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款(かん)において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる」
民法817条の5第1項 「第817条の2に規定する請求の時に15歳に達している者は,養子となることができない。特別養子縁組が成立するまでに18歳に達した者についても,同様とする」
同条第2項 「前項前段の規定は,養子となる者が15歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合において,15歳に達するまでに第817条の2に規定する請求がされなかったことについてやむを得ない事由があるときは,適用しない」
民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」
民法817条の9 「養子と実方の父母及びその血族との親族関係は,特別養子縁組によって終了する。…」
【★5】 法律上の親子関係が続くので,将来,親が年を重ねたとき子どもが親を養(やしな)う立場になりますし(これを扶養(ふよう)といいます),親子としてどちらかが亡(な)くなれば,財産を引き継ぐこと(相続)も起きます。
民法877条1項 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養をする義務がある」
(直系血族とは,親・おじいちゃん・おばあちゃん・ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん…という直接の上の世代の人と,子・孫・ひ孫…という直接の下の世代の人のことです)
民法887条1項 「被相続人の子は,相続人となる」
民法889条1項 「次に掲(かか)げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従(したが)って相続人となる。 一 被相続人の直系尊属(ちょっけいそんぞく)。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする(略)」
(直系尊属とは,親・おじいちゃん・おばあちゃん・ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん…という直接の上の世代の人のことです)
【★6】 民法818条1項 「成年に達しない子は,父母の親権に服する」
《2024(令和6)年民法改正,2026(令和8)年4月施行》
民法818条1項 「親権は,成年に達しない子について,その子の利益のために行使しなければならない」
民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育する権利を有し,義務を負う」
【★7】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★8】 親権の辞任(じにん)と言います。
民法837条1項 「親権を行う父又は母は,やむを得ない事由(じゆう)があるときは,家庭裁判所の許可を得て,親権又は管理権を辞(じ)することができる」
【★9】 親権の辞任が認められる「やむを得ない事由」とは,たとえば,親が重病になったり,刑務所に行ったり,長い間いなくなったりなどして,親として責任を果たせないというときです(中川淳「改訂親族法逐条解説」486頁参照)。
【★10】 あなたが大人になるまでの間に,「親権辞任」以外の方法で,あなたの親が「親権者」でなくなるのは,次の方法しかありません。
(1)あなたが養子としてほかの家に行く。
(2)あなたの両親が離婚していたなら(2024年5月の民法改正により,2026年4月からは,「離婚して親権者が一人になっていれば」),別れていたもう一人の親に親権者を変える。
(3)親権が喪失(そうしつ)させられたり,停止されたりする。
 でも,(1)の養子縁組,(2)の親権者の変更,のどれにしても,相手がいる話ですから,親が一人で勝手に決めることは,結局できません。(1)の養子縁組は,おじいちゃん・おばあちゃん以外の人の家に行くなら,家庭裁判所の許可が必要です。(2)の親権者変更も,裁判所が認めなければできません。また,(3)の親権喪失や親権停止は,親以外の誰かが,「親としてふさわしくない」と裁判所に訴えることが必要ですし,それが認められるためのハードルはとても高いです。
 結局,どの方法も,簡単でないどころか,とても大変なのです。
(1)養子縁組
民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
《2024(令和6)年民法改正,2026(令和8)年4月施行》
民法818条3項 「子が養子であるときは,次に掲げる者を親権者とする。 一 養親(当該子を養子とする縁組が2以上あるときは,直近の縁組により養親となった者に限る。 二 子の父母であって,前号に掲げる養親の配偶者であるもの
民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」
(直系卑属とは,子・孫・ひ孫…という直接の下の世代の人のことです)
(2)親権者変更
民法819条6項 「子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができる」
《2024(令和6)年民法改正,2026(令和8)年4月施行》
民法819条6項 「子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子又はその親族の請求によって,親権者を変更することができる」
(3)親権喪失・親権停止
民法834条 「父又は母による虐待又は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著(いちじる)しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでない」
民法834条の2第1項 「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権停止の審判をすることができる」
【★11】 戸籍法21条1項 「成年に達した者は,分籍をすることができる…」
【★12】 「心理的虐待」という児童虐待にあたる場合もあります。
児童虐待の防止等に関する法律2条 「この法律において,『児童虐待』とは,保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,児童を現に監護するものをいう。…)がその監護する児童(18歳に満たない者という。…)について行う次に掲げる行為(こうい)をいう。
(略)
 四 児童に対する著(いちじる)しい暴言又は著しく拒絶的(きょぜつてき)な対応…その他の児童に著しい心理的外傷(しんりてきがいしょう)を与(あた)える言動を行うこと」

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自分の男の体がいやで性別を変えたい

【最高裁判決が出たこと等により,記事を修正しました。修正後の記事は★こちら★

 

 中学1年生です。ずっと前から,自分は女の子だと思っていて,自分の体が男なのがいやでした。最近は声が低くなったりしてきていて,いままで以上につらいです。親や先生からは「もっと男らしくしなさい」と言われるし,クラスでは「おかま」とからかわれたりするので,誰にも相談できません。性別を変える法律があるってテレビで聞いたことがあるんですが,どうやったら変えられるんですか。

 


 性別の取扱いを変える法律が,2003(平成15)年にできました。

 しかし,大人にならないとその法律は使えませんし,いろいろな条件があります。

 でも,法律で性別を変えていなくても,あなたらしく暮らし,あなたらしく生きていくために,まわりと話し合いをしていくことができます。




 子どもが生まれると,お父さん・お母さんなどが,役所に「生まれました」という届出をします
【★1】

 その届出に,「男の子か,女の子か」が書かれます
【★2】

 どちらの性別かは,赤ちゃんの体,特に外性器を見て判断されています
【★3】

 そして,その届出をもとに,「戸籍(こせき)」に生まれてきた子どもの性別が書かれます
【★4】

 「戸籍」は,一人ひとりの情報を家族単位で役所が管理しているものです。

 生まれてから亡くなるまでの間,この「戸籍」に書かれた性別で社会生活を送っていきます。


 でも,赤ちゃんがだんだんと成長し,物心がついてきたときに,

 体が男の子でも,「自分は女の子だ,女の子として暮らしたい」という強い気持ちがずっと続く子どもや,

 体が女の子でも,「自分は男の子だ,男の子として暮らしたい」という強い気持ちがずっと続く子ども,

 そして,「自分の体の性別にずっと違和感(いわかん)がある,自分の体がいやでたまらない」という苦しさを抱える子ども,

 そういう子どもたちが,必ずいます。

 10代になると,体が大人の仲間入りを始めたり,社会の中で性別による役割の違いを実感し始めたりします。

 そのころになると,苦しさはますます大きくなっていきます。



 「女の子として暮らしたいのにそうできない」,

 「自分の男の子の体に違和感がある」。

 そういうあなたも,これまで苦しい思いをしてきたと思います。

 そのことだけでもつらいのに,

 家族にも先生にも相談できず,友だちからからかわれたりもしていて,

 一人ぼっちに感じる,二重に苦しい毎日を送っているのですよね。




 あなたのように,心と体の性別のちがいのために苦しさをかかえている人を,「トランスジェンダー」といいます
【★5】

 「トランスジェンダー」をより正確にいうと,<生まれたときに割り当てられた性別>と,<自分で認識している性別>が違う人のことです。

 また,「性同一性障害(せいどういつせいしょうがい)」という言葉も,聞いたことがあるかもしれません。

 これは,医学の言葉です。

 世界中のお医者さんが使っている共通の基準があります。

 その基準を満たしていると,「性同一性障害」と診断されます
【★6】

 今では,「障害」ではないという理解が広まって,お医者さんが使っている基準も新しくなり,「性別違和」「性別不合」という言葉が使われ始めています。




 あなたが質問した「性別を変える法律」は,2003(平成15)年にできました
【★7】

 お医者さんから「性同一性障害」と診断されている人で,一定の条件を満たしていれば,この法律で戸籍に書かれている性別の取扱いを変えることができるようになりました。

 社会生活のあらゆる場面で,その人にとっての「自分ほんらいの性別」として,生きることができるようになったのです
【★8】

 これまでこの家庭裁判所の手続をとって認められた人は,9624人1万2000人以上います
【★9】



 ただ,この手続を使えるのは,大人になってから後です
【★10】【★11】

 性別は,その人の存在そのものと深くかかわっていることだし,一度変えたら元にもどすことはほぼできません。

 だから,大人になってから慎重に自分で考えて手続をとる必要がある。

 そういうことなどが,「大人にならなければできない」とされる理由です
【★12】

 なので,あなたが今この法律を使って性別の取扱いを変える手続をとることはできません。




 また,今の日本の法律では,この家庭裁判所での手続をするには,性別を変える手術をすることが条件になっていましたいます
【★13】【★14】

 (手術をしなければ性別を変えられないのはおかしなことで,実際にも,世界では手術をしなくても性別を変えられる国がとても多いです
【★15】。)

 この手術も,「大人に対してする」ということになっているので,子どものときにはできません【★16】



 なおしかし,トランスジェンダーの人すべてが,生きていくうえで「性別を変える手術が絶対に必要」というわけではありません
【★17】

 手術をしなければ性別を変えられないのはおかしい,とみんなが声を上げたことで,今は,手術をしなくても性別を変えられることが認められ始めています。

 性別を変える手術をせず,また,法律で性別の取扱いを変えなくても,自分らしく暮らしている,

 そういうトランスジェンダーの人たちも,たくさんいます。

 そして,そういう人たちに配慮した取り組みも,この社会の中で広がり始めています
【★18】

 そういうことも知っていてください。

 将来あなたが手術まで必要とするかどうかは,これからじっくりとお医者さんとよく相談していってください。

 あなたが大人になるまでの間に,法律もまた変わっているかもしれません
【★19】



 法律で性別の取扱いを変えられなくても,

 自分らしく,暮らしていき,生きていくこと。

 これは,とても大切なことです。

 大人だけでなく,大人になる前の子どものときだって同じです。




 学校では,トランスジェンダーの子どもたちにきめ細やかな対応をするようになってきました。

 文部科学省も,「こういう子どもたちにきちんと配慮するように」という通知を出しています
【★20】

 学校の中で,呼び方をどうするか,服装をどうするか,男女別の活動をどうするか,トイレや着替えはどうするか,他の生徒たちへの説明はどうするか。

 そういったこと一つひとつを,あなたの気持ちをだいじにしながら,学校や教育委員会と話し合っていく取り組みが,実際に行われています
【★21】



 ただ,そうはいっても,あなたがすぐに親や先生に相談することはなかなか難しいかもしれません。

 「もっと男らしくしなさい」などと言われていたら,その親や先生が自分の苦しみをきちんと聞いて受け止めてもらえるかどうか,不安ですよね。




 でも,性別は,自分が一体何者なのかということと深く結びついている,そしてあなたの人生にかかわってくる,とてもだいじなことです
【★22】

 最近は,大人たちに対してトランスジェンダーについての理解を深めるための情報も,増えてきています。



 だから,あなたのその苦しみを,親や先生に伝えていきましょう。

 直接言いづらければ,まず最初に保健室の養護の先生やスクールカウンセラーの人に相談してみるのも,一つの方法です。

 養護の先生やスクールカウンセラーへの相談をきっかけにして,親や担任,そしてトランスジェンダーにくわしいお医者さんにもつながっていけると思います。

 もし,親や学校,教育委員会などの話し合いがスムーズにいかないようであれば,私たち弁護士がそのお手伝いをすることもできます。




 あなたは一人ではありません。

 あなたと同じような苦しみをかかえている仲間や,乗り越えてきた先輩たちが,たくさんいます。

 あなたがあなたらしく暮らし,あなたらしく生きていけるようにサポートしたい,そう考えている大人たちもたくさんいます。



 あなたが一人ぼっちではないと実感できること,

 そして,

 あなたがあなたらしく生きていけること。

 それが,法律がだいじにしていることなのです。

 

【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法49条2項 「届書には,次の事項(じこう)を記載しなければならない。 一 子の男女の別…(以下略)」
【★3】 外性器からは男の子か女の子かがすぐにわからないケースも,一定程度あります。「性分化疾患(せいぶんかしっかん)」,「インターセクシュアル」と言います。この場合は,血液検査などをして,男の子か女の子かを判断します。この性分化疾患についても,だいじなことですから,別の記事で書こうと思います。
【★4】 戸籍には,「男/女」と書く部分はなく,「長男」「二男」「長女」「二女」・・・などの書き方で,性別がわかるようにしています。
 戸籍法13条 「戸籍には,本籍の外(ほか),戸籍内の各人について,左の事項を記載しなければならない。 …四  実父母の氏名及び実父母との続柄…(以下略)」
【★5】 「トランス」というのは,「超える」,「別のがわへ」,という意味です。「ジェンダー」というのは,性別のことです。「生物としての男/女」という意味よりももっと広く,「社会の中での男とは/女とは」というイメージです。
 「トランスジェンダー」に似た言葉で,「トランスセクシュアル」という言葉もあります。「トランスセクシュアル」は,もともと医学の世界の言葉です。人によって「トランスジェンダー」と「トランスセクシュアル」の言葉の使い分けがちがうので難しいのですが,体を変える手術まで必要とする人のことを「トランスセクシュアル」ということが多いです。
【★6】 WHO(世界保健機関)が作っている「ICD-10」という基準と,アメリカ精神医学会が作っている「DSM-IV-TR」という基準があり,それぞれの中に,性同一性障害の診断基準が載っていますいました
【★7】 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「性同一性障害者特例法」といいます)。2003(平成15)年7月に国会で成立し,翌2004(平成16)年7月から施行されました。
【★8】 性同一性障害者特例法4条1項 「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法…その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす」
【★9】 裁判所の司法統計「家事審判事件の受理,記載,未済手続別事件別件数-全家庭裁判所」の2004(平成16)年度から2019(令和元)2023(令和5)年度までの認容件数の合計。
【★10】 改正前の性同一性障害者特例法3条1項 「家庭裁判所は,性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて,その者の請求により,性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 … 一 20歳以上であること」
【★11】 改正後の性同一性障害者特例法3条1項 「家庭裁判所は,性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて,その者の請求により,性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 … 一 18歳以上であること」
【★12】 南野千恵子監修「解説 性同一性障害者性別取扱特例法」129頁「『20歳以上であること』を要件としたのは,①民法上,人の自然的精神能力が十分に備わる年齢は20歳以上とされていること,②性別はその人の人格そのものにかかわる重大な事柄であり,また,その変更は不可逆的なものとなることから,本人に慎重に判断させる必要があること,③日本精神神経学会がまとめた『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン』でも第3段階の治療(性器に関する手術)へ移行するための条件として20歳以上であることが求められていること,などが考慮されたものです」
【★13】 「性別適合手術」と言います。一般的に「性転換手術」と言われることもあります。
【★14】 性同一性障害者特例法3条1項 「家庭裁判所は,性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて,その者の請求により,性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 … 四  生殖腺(せいしょくせん)がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。 五  その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」
【★15】 2014年5月30日,WHOなどの機関が共同で「強制・強要された,または不本意な断種手術の撤廃を求める共同声明」を出し,性別変更に生殖腺切除を強制すべきでないとしています。日本でも,この手術要件の合憲性が裁判で争われ,最高裁第二小法廷は,2019(平成31)年1月23日決定・判例時報2421号4頁で,結論として「現時点では憲法13条,14条1項に違反するものとはいえない」としつつも,「このような規定の憲法適合性については不断の検討を要するものというべき」とも判示し,2人の裁判官は「憲法13条に違反するとまではいえないものの,その疑いが生じていることは否定できない」と補足意見を述べています。
【★16】 性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版)14頁。
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/gid_guideline/files/journal_114_11_gid_guideline_no4.pdf
【★17】 「トランスジェンダーなら性別適合手術をしなければいけない」「トランスジェンダーなら性別適合手術をしたほうがよい」という誤解が,時々みられます(トランスジェンダーの当事者でない人に,その誤解が多いようです)。
 でも,トランスジェンダーの人たちが,どうやって心と体とのバランスをとるかは,人によってまちまちです。
 カウンセリングを通して人間関係や環境を変えることで苦しみがやわらぐ人もいますし,ホルモン療法で体つきを変えることで苦しみがやわらぐ人もいます。
 顔つきを変える手術を受けたり,法律上の名前を変える手続きを取ったりすることで,苦しみがやわらぐという人もいるでしょう。
 性別適合手術は,体にも負担をかけるし,お金もかかります。そのような手術をすることで苦しみをやわらげる必要のある人もいれば,そこまでする必要のない人もいる,ということです。
 「法律で性別の取扱いを変えるために,手術をする」と考えるのではなく,「自分が心と体のバランスをとるために手術が必要かどうか」ということをお医者さんと相談しながら考えることが大切です。
【★18】 たとえば,身分証明としても使われる国民健康保険の保険証には,表面に性別が書かれます。性別の取扱いの変更をしていない人について,表面の性別欄に「裏面参照」と書いて,裏面に「戸籍上の性別は男(又は女)」と書くなどの工夫をすることが認められるようになったことなどがあります(厚生労働省保険局国民健康保険課長平成24年9月21日保国発0921第1号「国民健康保険被保険者証の性別表記について(回答)」)。
【★19】 性同一性障害者特例法附則2条で,「性同一性障害者の範囲…については,この法律の施行後3年を目途(めど)として,この法律の施行の状況,性同一性障害者等を取り巻く社会的環境の変化等を勘案(かんあん)して検討が加えられ,必要があると認めるときは,その結果に基(もと)づいて所要(しょよう)の措置(そち)が講(こう)ぜられるものとする」とされていました。
 実際に,平成20年に,法律が一部改正されています(3条1項3号「現に子がいないこと」が「現に未成年の子がいないこと」に改められて,性別の取扱いの変更が認められる人が広がりました)。
 その平成20年の改正のときにも,附則3条で,今後も法律の改善について検討するように,と書かれています。
 日本の法律で,性別の取り扱いを変えるために性別適合手術をすることが条件になっているのはおかしい,という意見もあります。他の国では,性別の取り扱いを変えるために手術をすることまでは必要ない,というところもあります(たとえばイギリスなど。山下敏雅・田巻帝子「性同一性障がい者の婚姻と嫡出推定」ジェンダー法学会『ジェンダーと法No10』126頁「イギリス法の主たる要件は,出生時の性と自身が信じる性とが食い違っていて,自分が信じる性で一生生きていくという本人の意思確認が大前提となっている。その意思があることの証明として,身体の特徴をその性に近づけるための手術を要求していない」)。
【★20】 平成22年4月23日初等中等教育局児童生徒課,スポーツ・青少年局学校健康教育課事務連絡「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について(通知)」
http://www.pref.osaka.jp/attach/4475/00051736/220426kyouikusoudantaisei.pdf (大阪府ウェブサイト)
 「先日,性同一性障害のある児童生徒に係(かか)る対応も報道等で取り上げられました。性同一性障害のある児童生徒は,生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず,心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち,かつ,自己(じこ)を身体的及(およ)び社会的に他の性別に適合させようとする意思(いし)を有(ゆう)する者であり,学校での活動を含め日常の活動に悩みを抱え,心身への負担が過大なものとなることが懸念(けねん)されます。こうした問題に関しては,個別の事案に応じたきめ細やかな対応が必要であり,学校関係者においては,児童生徒の不安や悩みをしっかり受け止め,児童生徒の立場から教育相談を行うことが求められております。
 したがって,各学校においては,学級担任や管理職を始めとして,養護教諭,スクールカウンセラーなど教職員等が協力して,保護者の意向にも配慮しつつ,児童生徒の実情を把握した上で相談に応じるとともに,必要に応じて関係医療機関とも連携するなど,児童生徒の心情に十分配慮した対応をお願いいたします。
 また,都道府県・指定都市教育委員会にあっては所管(しょかん)の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対して,都道府県知事にあっては所轄の私立学校に対して,この趣旨について周知徹底を図るとともに,性同一性障害を始めとする新たな課題についても学校において適切に対応ができるよう,必要な情報提供を行うことを含め指導・助言をお願いします」
 さらにその5年後にも文部科学省は通知を出しています(平成27年4月30日文部科学省初等中等教育局児童生徒課長「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」)。
【★21】 NHK・Eテレ「ハートネットTV シリーズ 多様な“性”と生きている」第2回「セクシュアルマイノリティーの子どもたち~成長を支える~」(2013年6月4日)で,その具体的な取り組みが紹介されています。
【★22】 自分がいったい何者なのか,ということを,難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。特に子どものときは,このアイデンティティをかたちづくっていくための,とてもだいじな時期です。

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父親が日本人なので日本国籍をとりたい

 

 高校生です。母は外国籍です。でも,父が日本国籍で,私も生まれてからずっと日本で育ってきたし,自分の名前も日本風なので,自分の国籍は日本だと,ずっと思ってました。だけど,最近になって,じつは,両親が結婚していなかったこと,そして,自分の国籍が日本ではなく,本名もいままでずっと使ってきた名前とはちがっていたということを知りました。私が日本国籍になることはできますか。



 あなたがお父さんから認知(にんち)されていれば,届出をすることで,日本国籍になることができます。



 自分の国籍や名前がちがっていたと知って,とてもおどろきましたよね。


 自分が一体どんな人間なのか。

 そのことを,難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。

 アイデンティティは,人が人であるために欠かせないものです。

 特に,子どもから大人になるころは,自分がどんな人間なのかを考える,自分さがしをする時期です。

 そして,国籍や名前は,アイデンティティをかたちづくるうえで,大切なものの中の一つです。


 本当のことを知っておどろき,自分のアイデンティティがゆらぐことは,苦しいことだと思います。

 そして,大人から本当のことをきちんと教えてもらえていなかったことに対する,悲しさやさみしさも,きっと感じたのではないかと思います。


 日本の国籍になるのは,お父さんかお母さんが日本国籍であることが,基本的な条件です。


 「お母さんがだれか」ということは,産んだ人がだれかで決まるので,わかりやすいですよね【★1】

 それにくらべて,「お父さんがだれか」ということは,わかりづらいときがあります。

 お父さんとお母さんが結婚しているなら,法律上は,自動的に,「夫が,その子のお父さん」,となります
【★2】

 あなたのお父さんとお母さんは,結婚していないのですよね。

 こういうときには,お父さんが,役所に,「この子は自分の子です」と届出をします。

 これを,「認知(にんち)」と言います
【★3】

 日本国籍を持っている人についての情報は,市役所や区役所が,「戸籍(こせき)」というもので管理しています。

 お父さんの戸籍を取り寄せてみてください。

 お父さんがあなたを「認知」していれば,お父さんの戸籍の情報の中に,そのことが書かれています。


 あなたがお父さんから「認知」されていれば,成人する前に法務局に届出をすれば,日本国籍をとることができます【★4】【★5】【★6】

 あなたは高校生で,15歳以上ですから,自分で届出をします
【★7】

 14歳以下の子どもであれば,お母さんに代わりに届出をしてもらいます。

 成人した後でも日本国籍を取るための手続はありますが,成人する前に届出をするほうが確実です
【★8】

 届出が受け付けられれば,日本国民として,あなたの戸籍ができます。

 その戸籍に,あなたがいままで使っていた名前を載せてもらうことで,これからはその名前をあなたの「本名」として使っていくことができます。


 「認知」されていなければ,お父さんに,「認知」をするよう話をしてください。

 お父さんが応じてくれなければ,裁判所でお父さんと話し合います(「調停(ちょうてい)」と言います)。

 それでもお父さんが応じてくれなければ,裁判をして判決を出してもらいます(「認知の訴え」と言います)
【★9】

 そして,「認知」されたうえで,上に書いた届出の手続をします。


 国籍が日本かどうかは,

 選挙権があるか,

 どこの国のパスポートを使うのか,

 就職のときに公務員になれるか,

 これからやがて出会う人と家族になるときに,家族内の問題にどこの国の法律があてはまることになるか,など,

 人生のいろんなところにかかわってくる,法律的にとてもだいじなことです。


 いままで自分のことをきちんと大人から教えてもらえていなかったことを知って,つらかったと思います。

 これからのあなたの人生は
,ぜひ,あなた自身で切り開いていってください。




【★1】母と子の関係は,認知は必要なく,「分娩(ぶんべん)の事実」,つまり出産したということで,当然に認められる,とされています(最高裁昭和37年4月27日判決・民集16巻7号1247頁)。
【★2】民法772条1項「妻が婚姻(こんいん)中に懐胎(かいたい)した子は,夫の子と推定(すいてい)する」
《2022(令和4)年民法改正,2024(令和6)年4月施行》
 民法772条1項 「妻が婚姻(こんいん)中に懐胎(かいたい)した子は,当該婚姻における夫の子と推定(すいてい)する。女が婚姻前に懐胎した子であって,婚姻が成立した後に生まれたものも,同様とする」
【★3】民法779条「嫡出(ちゃくしゅつ)でない子は,その父…がこれを認知することができる」
 「嫡出」というのは,法律的に結婚している男女の間の子ども,という意味です。
【★4】国籍法2条「子は,次の場合には,日本国民とする。
 一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。…」
 改正後の国籍法3条1項 「父又は母が認知した子で18歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる」
【★5】じつは,つい最近まで,お父さんとお母さんが結婚しなければ日本国籍はとれない,認知だけでは日本国籍がとれない,ということになっていました。でも,最近では,法律的に結婚していない,いろんな家族の形が増えてきています。両親が結婚しているからその子が日本との結びつきが強くて,両親が結婚していないからその子が日本との結びつきが弱い,などというのは,もう現在では通用しない考え方です。最高裁判所は,そのような考え方に立って,以前の法律が「法の下(もと)の平等」を定(さだ)めている憲法にてらしてまちがっている,とする違憲判決(いけんはんけつ)を出しました(最高裁大法廷平成20年6月4日判決・民集62巻6号1367頁)。この判決をふまえて平成21年から新しくなった法律が,記事の本文で説明したものです。
 憲法14条1項「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条(しんじょう),性別,社会的身分又は門地(もんち)により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」
【★6】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★7】国籍法18条「第3条第1項…による国籍取得の届出…は,国籍の取得…をしようとする者が15歳未満のときは,法定代理人が代わってする」
【★8】成人すると,「帰化(きか)」という手続になり,帰化は法務大臣が「許可することができる」,つまり,「許可しないこともできる」ということにもなるので,成人する前に届出をしたほうがよいのです(国籍法8条)。
【★9】民法787条「子…は,認知の訴えを提起(ていき)することができる」
 もしお父さんが亡くなっている場合は,3年以内に,検察官を相手に,認知の訴えをおこす必要があります。
 民法787条但書「ただし,父…の死亡の日から3年を経過したときは,この限りでない」
 人事訴訟法42条1項「認知の訴えにおいては…その者が死亡した後は,検察官を被告とする」
《2022(令和4)年人事訴訟法改正,2024(令和6)年4月施行》
 人事訴訟法44条1項「認知の訴えにおいては…その者が死亡した後は,検察官を被告とする。」

Part1_2

親が離婚して自分の名字が変わるのがいや

 

 中学1年生です。親が離婚の話し合いをしていて,これからはお母さんと一緒に暮らすことになりそうです。名字(みょうじ)は,いままで「鈴木」でしたが,これからは私もお母さんも「斉藤」になる,と言われました。でも,クラスの友だちの渡辺さんは,親が離婚してお母さんと一緒に暮らしているけど,名字は変わっていません。どうして私は名字が変わっちゃうんですか。

 

 

 親が離婚してあなたの名字が変わるかどうかは,一緒に暮らすことになるほうの親が考えて決めていることがほとんどです。

 でも,あなた自身の名字のことですから,あなたの気持ちをお母さんにきちんと伝え,話し合うことが大切です。




 結婚するとき,二人の名字がいっしょになる,ということは知っていますよね。

 夫(おっと)の名字か,妻(つま)の名字の,どちらか一つを選んで,二人の名字をいっしょにすることになっています
【★1】【★2】


 たぶん,あなたの場合,お父さんの名字が「鈴木」で,お母さんの名字が「斉藤」だったのですね。

 そして結婚して,お父さんの名字である「鈴木」に合わせた,ということだと思います。

 その2人のあいだに生まれた子ども,つまりあなたの名字も,「鈴木」になります
【★3】


 お父さんとお母さんが離婚したときに,2人の名字がどうなるか。

 離婚すると,「結婚のときに名字を変えた人が,もとの名字にもどる」,ということになっています
【★4】

 だから,あなたの場合,両親が離婚すると,お母さんの名字が,結婚前の「斉藤」にもどります。



 親が離婚するとき,「子どもはどちらの親と暮らすか」,ということも決めます【★5】

 あなたの場合,お母さんのほうになりそうなのですね。



 ところが,子どもの名字は,親が離婚しただけでは,変わりません。

 いっしょに暮らす親の名字が変わったとしても,そうなのです。

 お母さんの「斉藤」さんと,子どもの「鈴木」さんがいっしょに暮らすのでも,本人たちがそれでよいのならかまわない,というのが法律のたてまえです。



 親と子どもの名字がちがうのがいやであれば,子どもの名字を親の名字に合わせることができます【★6】

 15歳以上であれば,自分でその手続きをします。

 14歳以下であれば,親が代わりにその手続きをします
【★7】

 家庭裁判所に手続きを取りますが,大変なことではありません。

 すぐに終わります。

 あなたの場合,まだ15歳になっていないので,あなたの名字をお母さんの「斉藤」に合わせたいのであれば,お母さんが手続きをとることになります。




 友だちの渡辺さんは,あなたと同じように両親が離婚して,お母さんと一緒に暮らしているけれども,名字が変わっていないのですね。



 さっき,「結婚のときに名字を変えた人が,離婚したときに,もとの名字にもどる」,と書きました。

 でも,「離婚したあとも,結婚していたときの名字をそのまま使いたい」と思えば,そうすることもできるのです
【★8】

 渡辺さんのお母さんは,「もとは別の名字だったけど,離婚しても,もとの名字にもどさずに,そのまま渡辺でいたい」,と思って,役所にその手続きをとったのだろうと思います
【★9】

 子どもの名字は,親が離婚しただけでは変わらないので,そのまま「渡辺」なのです。




 お母さんが,もとの名字に戻るか,結婚していたときの名字をそのまま使うかは,いろんなことを悩んで,決めています。

 「新しい気持ちと名前で今後の人生を生きていきたい」,とか,

 「別れた人と同じ名字を使い続ける気持ちになれない」,という理由で,

 もとの名字にもどす,ということもあるでしょう。

 「この名前でずっと暮らしてきたので,離婚でまた名字が変わると,役所,銀行,職場など,いろんな手続きが大変だ」,とか,

 「名字が変わって,離婚したことがほかの人たちに分かるのがいやだ」,という理由で,

 離婚したあとも結婚していたときの名字を使う,ということもあるでしょう。

 お母さんは,自分自身のことを,一生懸命に考えているのです。




 そして,お母さんが「もとの名字にもどす」と決めたときには,「一緒に暮らすこどもたちと名字がちがうのでは,子どもたちがかわいそうだ」と考えて,名字を合わせる手続きをとることが多いと思います。

 お母さんは,子どものことも,一生懸命に考えているのです。




 でも,子どものがわから見たら,両親が離婚することじたいで傷つき,悲しい思いをしています。

 それなのに,自分の名字まで変わってしまうことは,さらにつらく,悲しいことです。

 友だちは親が離婚しても名字が変わっていないのに,自分は大人から何の説明もないままに「名字が変わる」と言われたら,なおのこと,つらいですよね。

 大人の中には,「名前が変わっても,あなたという人そのものが変わるわけではないんだから,大人の言うとおりがまんしなさい」,という人もいるかもしれません。

 でも,名前は,「自分が誰なのか」,という,人間としてとても大事なことがらにかかわる,重要なものです
【★10】

 だから,その名字を使うあなた自身の気持ちが,大切にされなければなりません。



 「ずっと使ってきた名前でこれからも暮らして生きたい」,とか,

 「名字が変わって親が離婚したことを他の人に知られたくない」,とか,

 あなたなりの気持ちがあると思います。

 お母さんがあなたをどんなふうに一生懸命考えてくれているのか,そして,自分がどう考えているのか,それを,お母さんとよく話し合ってみてください。



 その結果,あなたが納得して,お母さんと同じ「斉藤」になるのでもいいですし,

 お母さんのほうの気持ちが変わって,お母さんが「鈴木」の名前を使い続けようということになるかもしれません。

 実際には少ないですが,お母さんとあなたが納得すれば,お母さんが「斉藤」,あなたが「鈴木」で,いっしょに暮らしていくこともありえます。

 あるいは,あなたの法律上の名前が「斉藤」に変わっても,日常生活の中では,できるかぎり「鈴木」のままで暮らせるように,学校にお願いをする,ということも考えられます。

 どんな結論になるにしても,あなたがお母さんときちんと話をし,一生懸命考えることが大切です。




 あなたの名字をここで「斉藤」に変えたとしても,大人になってから「鈴木」にもどすことができます。

 大人になって1年以内に役所に手続きをすれば,また「鈴木」にもどることができます
【★11】


 もしその手続きをしていなくても,「鈴木」の名字で何年もずっと日常生活を続けていて,裁判所がOKしてくれれば,「鈴木」に変えられる場合もあります
【★12】

 また,将来,あなた自身が誰かと結婚してパートナーのほうの名字を選んだり,誰かの養子になったりしたら,名字が変わります。




 名字は,あなた自身の生き方に深く結びついている,大事なものです。

 でも,誰もが自由気ままに自分の名字を変えられるとしたら,誰が誰だかわからなくなって,社会が混乱(こんらん)してしまいます。

 だから,人生の大事な節目(ふしめ)のときに,その人自身の気持ちを第一に,そしてまわりの人のことも考えて,名字が変わったり,変わらなかったりしているのです。



 あなたがどう考え,お母さんがどう思っているのかを,この機会に,よく話し合ってみてください。

 

 

【★1】 民法750条 「夫婦は,婚姻(こんいん)の際(さい)に定(さだ)めるところに従(したが)い,夫又(また)は妻の氏(うじ)を称(しょう)する」
 「婚姻」は結婚のこと,「氏」は名字のことです。
【★2】 「結婚するときに名字をかならずいっしょにしないといけないのか,名字が変わらないまま結婚したい夫婦はそれでもいいじゃないか」という反対意見もあります。選択的夫婦別姓(せんたくてきふうふべっせい)という意見です。結婚して名字が変わるかどうかは,国によって決まりが違います。今の日本の法律では,結婚すると名字は一緒になります。
【★3】 民法790条1項 「嫡出(ちゃくしゅつ)である子は,父母の氏を称する。…」
 「嫡出」は,結婚している夫婦のあいだに生まれた子どものことです。
【★4】 民法767条 「婚姻によって氏を改(あらた)めた夫又は妻は,協議上(きょうぎじょう)の離婚によって婚姻前の氏に復(ふく)する」
【★5】 民法766条1項 「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者…その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。…」
《2024(令和6)年民法改正,2026(令和8)年4月施行》
 民法766条1項 「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者又は子の監護の分掌(ぶんしょう)…その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。…」
【★6】 民法791条1項 「子が父又は母と氏を異(こと)にする場合には,子は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その父又は母の氏を称することができる」
【★7】 民法791条3項 「子が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,前2項の行為(こうい)をすることができる」
【★8】 民法767条2項 「前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は,離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離婚の際に称していた氏を称することができる」
 戸籍法77条の2 「民法第767条2項…の規定によって離婚の際に称していた氏を称しようとする者は,離婚の年月日を届書に記載(きさい)して,その旨(むね)を届け出なければならない」
【★9】 ひょっとしたら,両親が結婚したときに,お父さんのほうがお母さんの名字に合わせて変えていたのかもしれません。そうであれば,離婚のときに,渡辺さんのお母さんが何も手続きをとらなくても,お母さんも友だちも「渡辺」のままです。だから,本文で書いたことは,あくまで推測(すいそく)です。
【★10】 「自分がどういう人間なのか」ということを,難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。アイデンティティは,人が人として生きていくために大切なものです。子どもの時期は,そのアイデンティティをかたちづくっていくための,特に大切な時期です。
【★11】 民法791条4項 「前3項の規定により氏を改めた未成年の子は,成年に達した時から1年以内に,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,従前(じゅうぜん)の氏に復することができる。」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★12】 あなたが18歳になったあと,お母さんの戸籍から抜けて(分籍(ぶんせき)と言います),自分ひとりの戸籍を作ったうえで,「氏の変更」という裁判所での手続きをとります。
 戸籍法21条1項 「成年に達した者は,分籍をすることができる。…」
 戸籍法107条1項 「やむを得ない事由(じゆう)によって氏を変更しようとするときは,戸籍の筆頭(ひっとう)に記載(きさい)した者及びその配偶者(はいぐうしゃ)は,家庭裁判所の許可を得て,その旨(むね)を届け出なければならない」
《2023(令和5)年戸籍法改正,2025(令和7)年5月施行》
 戸籍法107条1項 「やむを得ない事由(じゆう)によって氏を変更しようとするときは,戸籍の筆頭(ひっとう)に記載(きさい)した者及びその配偶者(はいぐうしゃ)は,氏及び氏の振り仮名を変更することについて家庭裁判所の許可を得て,その許可を得た氏及び氏の振り仮名を届け出なければならない」

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お年玉を親に使われてしまった

 

 お正月に,おじからお年玉をもらいました。そのときに,お父さんが「お母さんに預(あず)けなさい」というので預けたんですが,あとになって,お母さんから「冷蔵庫を買うために使ってしまった」と言われました。有名な弁護士さんが,親がお年玉を使っても全く問題ないって言っていたんですが,ほんとうなんですか。



 私はその弁護士さんがどのように言ったのか知りませんが,法律上,お母さんがあなたのお年玉を勝手に使うことは,してはいけないことです。



 大人になるまでは,子どもの財産は,「親権(しんけん)」を行う人が管理します【★1】

 大人になる歳は,以前は20歳でしたが,2022(令和4)年4月からは18歳です
【★2】


 あなたの場合,お父さんとお母さんが親権者(しんけんしゃ)です【★3】



 人は本来,自分の財産は自分で管理し,自分で好きなように使っていい,という自由があります。


 でも,経済のしくみはとても複雑(ふくざつ)です。

 経済のしくみがわかるようになるまでの子どものときや,

 お年寄りになって判断する力が弱くなってきたときなどは,

 他の人にだまされて,財産を失ったり,大きな借金を背負わされたりする危険があります。

 だからそういう人には,その人に代わって,その人のために財産を管理したり使ったりするサポーターを,法律ではつけているのです。

 子どもの場合は,そのサポーターが「親権」を行う人です。



 ですから,お父さんがお年玉を預けなさいと言ったのは,法律的に正しいことです。


 あなたがせっかくもらったお年玉をむだ遣いしないよう,あなたを守る義務が,親にはあるのです。


 ただ,ふだんのお小遣いは,自分で管理して自分で使っていますね。

 また,中学生・高校生・大学生にもなってくると,自分で管理して自分で使うことを親から許される金額も,大きくなってきます。

 法律は,親が許した分については子どもが自由に使っていい,としています
【★4】

 「子どもがだまされてお金を失うことはないだろう」,「お金の使い方をここで学んでもらおう」,ということを,金額の大きさや子どもの年齢に応じて,親が考えていくしくみになっているのです。




 でも,お母さんが,冷蔵庫を買うためにあなたのお年玉を勝手に使ったのは,法律的にまちがっていることです。



 親が子どもの財産を管理するのは,あくまで,その子どものためです【★5】

 管理を任(まか)されている人は,その人の財産と自分の財産とを,ごちゃごちゃにしてはいけないのです。

 おじさんはお年玉を,あなたが自分のために使ってほしいというつもりであげたはずです。

 もらったあなたも,そのお年玉を自分のために使いたいと思って,実際に使うまでの間,親に預けていただけのはずです。



 お母さんは,「冷蔵庫はあなたも使うんだから,あなたのためでもあるじゃない」と言うかもしれません。

 でも,冷蔵庫はふつう,お父さんとお母さんが家計の中でやりくりして買うものです。

 もし万一,家計に余裕(よゆう)がなくて,親があなたのお年玉からもお金を出してもらいたいと思うなら,少なくとも,きちんと話し合って,あなたのためでもあるんだということあなた自身が納得してから,出すようにしなければなりません。




 インターネットを見ると,こんな記事を見ることがあります。

 「親は,子どもを育てるのに必要なお金と,子どもから預かっているお金とを差し引きできると法律に書いてある。だから,親が子どものお年玉を使ってもいい」。

 でも,それは間違いです。

 差し引きしていいのは,たとえば,お年玉を銀行に預けたときの利子分などだけです。

 お年玉そのものを子どもを育てるのに必要なお金と差し引きすることまで,法律は認めていません
【★6】



 親が子どもの財産を勝手に使ってしまったら,親は,その分を子どもに返さなければいけません
【★7】

 お年玉程度の金額であればまだしも,子どもにもっと大きなお金があって,それを親が勝手に使ってしまったら…
【★8】

 そんなときには,裁判所が,子どもの財産の管理を親に禁止したり
【★9】,親から親権そのものをうばったりすることさえあります【★10】



 今回,使われてしまったお金を返してほしいと親と話すのは,そう簡単ではないかもしれません。

 自分にお金をかけて育ててもらっている親に,なかなか言いづらいですよね。

 「弁護士がこう言っていた」という言い方は,かえって親の気分を悪くするかもしれません。

 こういうときには,お年玉をくれたおじさんを味方につけるほうが良いと思います。

 そして次の年からは,おじさんがお年玉をわたすときに,「このお年玉は,おじの私が管理しておきます」とお父さんやお母さんに言ってもらうことも,一つの手です
【★11】

 そう言ってもらうと,そのお年玉は親が管理することができませんから,勝手に冷蔵庫代に使われる心配はありません。

 いつか自分が自分のために使いたいときに,おじさんに言えば良いのです。




 自分の財産をきちんと大切にできる人が,

 他の人の財産もきちんと大切にできるようになります。

 お金の話を細かくするのはいやらしい,と言う人もいますが,

 お金をきちんと大切にする姿勢は,人として大事なことです。

 それは,子どもであっても,大人であっても,同じだと思います。



【★1】 民法824条「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし,その子の行為を目的とする債務(さいむ)を生(しょう)ずべき場合には,本人の同意を得なければならない。」
【★2】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★3】 民法818条1項「成年に達しない子は,父母の親権に服する」
《2024(令和6)年民法改正,2026(令和8)年4月施行》
 民法818条1項「親権は,成年に達しない子について,その子の利益のために行使しなければならない」
【★4】 民法820条「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育する権利を有し,義務を負う」
【★5】 民法5条3項「…法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも,同様とする」
【★6】 民法828条には,「子が成年に達したときは,親権を行った者は,遅滞(ちたい)なくその管理の計算をしなければならない。ただし,その子の養育及び財産の管理の費用は,その子の財産の収益(しゅうえき)と相殺(そうさい)したものとみなす」,とあります。この後半の部分を誤解(ごかい)している人が多いようです。東京大学の内田教授も,「828条但書(ただしがき)は,子の財産の収益を養育費に充(あ)ててよい旨(むね)規定している。言い換えれば,子の財産の元本(がんぽん)を養育費に充当(じゅうとう)することは原則して許されないのである。したがって,収益で不足する限(かぎ)り,親は自ら(みずから)の資産・労力で子を養育しなければならない」と言っています(内田貴「民法Ⅳ」295ページ)。
【★7】 「きちんと注意して管理をしなければならないのにしていなかったから,その分をきちんと返してください」(民法827条),と言うか,「やってはいけないことをしてこちらに損(そん)をさせた分を元にもどしてください」(民法709条。不法行為といいます),という言い方になります。
【★8】 実際に,親戚が亡くなって,その遺産(いさん)から,子どもが大きなお金や土地・建物を手にすることがあります。
【★9】 管理権喪失(そうしつ)の審判(しんぱん)といいます。民法835条「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,管理権喪失の審判をすることができる」
【★10】 親権喪失の審判といいます。民法834条「父又は母による虐待又は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著(いちじる)しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限(かぎ)りでない」
【★11】 民法830条1項「無償(むしょう)で子に財産を与(あた)える第三者が,親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは,その財産は,父又は母の管理に属(ぞく)しないものとする」。誰が管理するかをはっきりさせないと,管理する人をわざわざ裁判所に選んでもらわないといけなくなりますから(同条3項),誰が管理するのかを,きちんとおじさんに言ってもらう必要があります。

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2021年5月 1日 (土)

妊娠してしまってどうすればいいかわからない

★質問部分のマンガはこちらをクリック★

 

 高校2年生のA美とB太です。コンドームを使っていなかったので,先日,A美が妊娠(にんしん)してしまいました。自分たちがどうすればいいのか,親にも誰にも相談できません。



 子どもを産むか,中絶(ちゅうぜつ)するか,どちらも大事な選択です。

 いろんなことを理解したうえで,二人でよく話し合い,そして最後は必ず親とも話し合って,決めて下さい。





 子どもを産むと決めたら,法律ではどうなるか。




 二人は結婚していませんから【★1】,生まれてくる子どもは,A美さんの子どもとして,A美さんの戸籍(こせき)に入ります。

 その子の父がB太君に間違いないのであれば,役所に,「自分が父です」という届出をします。

 これを「認知(にんち)」といいます。

 生まれてくる前に認知をすることもできますし,生まれた後ですることもできます
【★2】

 この認知には,B太君の両親の了解も,A美さんの両親の了解も必要ありません。

(生まれてくる前に認知するときは,A美さんの了解が必要です。)




 でも,その子に対して,親としての法律上の権利や義務【★3】を持つのは,A美さんでもB太君でもなく,A美さんの両親です【★4】

 A美さんが成人し,大人になるときまでは,そうなります
【★5】

 ですから,A美さんの両親にないしょで産むと,いろんな問題を起こします。




 父であるB太君は,生まれてくる子に,きちんと責任を負う必要があります。

 たとえA美さんと結婚していないとか,A美さんや子どもと一緒に暮らしていないとかいう場合でも,子どもが育っていくために必要なお金をずっと払っていかなければなりません。

 これを「養育費(よういくひ)」といいます。

 養育費を払いたくないから,認知をしないとか,養育費の話し合いをしない,とB太君が逃げても,むりです。

 A美さんや,子どものほうから,B太君に対して認知をするよう裁判所に訴(うった)えることができます
【★6】

 養育費について話し合いがまとまらなければ,裁判所が金額を決めます
【★7】

 それでもB太君が養育費を払わなければ,アルバイトの給料や貯金などの財産が強制的(きょうせいてき)に差し押さえられます。




 子どもが生まれれば,A美さんの家族にとっても,B太君の家族にとっても,新しい「親族」が増えることになります。

 家族のうち誰が誰の面倒をみるのか,ということもかかわってきます
【★8】

 遠い将来,親族のうち誰かが亡くなったときの,遺産の分け方にもかかわってきます
【★9】





 子どもを産まないと決めたら,法律ではどうなるか。



 みなさんは,「子どもを堕(お)ろす」という言い方をよくしますが,私はその言い方はしたくありません。

 人工妊娠中絶,あるいは単に中絶,といいます。

 中絶をすることは,犯罪とされています
【★10】

 でも,経済的なことなど,いろんな事情があるときには,中絶をすることが認められています
【★11】



 法律的には,A美さんの判断だけで中絶ができます
【★12】

 しかし,実際には,病院は,A美さんの親や,B太君,B太君の親にも,中絶手術についての同意(どうい)をもとめてくるところがほとんどです。

 何かトラブルになったときに病院がまきこまれないように,法律では必要とされていない人の意見まで確認しておく病院がほとんどなのです。

 このことは逆にいえば,それだけ,中絶について家族ときちんと話をしておかなければ,トラブルが起きることが実際に多い,ということです。

 また,妊娠22週(=妊娠6ヶ月)を超えると,中絶をすることは法律上できません
【★13】




 実際に中絶をしたら,胎児はどうなるか。

 妊娠12週(=妊娠4ヶ月)以降のときは,「死産」として届け出て,きちんと埋葬(まいそう)しなければいけません
【★14】

 それ以前の中絶の胎児は,地域によっては火葬するところもありますが,現状では,医療廃棄物として取り扱われるところが多いです
【★15】



 中絶にかかる費用を,男性が全部払うのか,二人で半分ずつ払うのかは,話し合って決めます。

 話し合いがまとまらず裁判になったケースで,支払いをしなかった男性に対して,2分の1を支払うようにはっきりと命じた判決も出ています
【★16】





 産む場合と,中絶する場合の,それぞれの法律的なことだけを,上に書きました。



 しかし,実際には,それだけでなく,もっとたくさんのことを考えなければいけません。



 A美さんのお腹の中に宿(やど)っている命は,小さいけれども,大切な命です。

 「だから,命を大切にしたいからこそ,産むんだ」,という考えも,ありうると思います。

 けれど,命を大事にするということは,産むことだけで終わるのではありません。

 その子が大人になるまで,ずっとずっと長い間,その命を大切にしていかなければならないことについても,じっくりと考えなければいけません。



 二人はまだ高校生で,自分探しをしている時期です。

 やがて自分探しが落ち着いて,その自分自身を心から大切にできること,

 そして,相手のことも,同じように心から大切にできるようになること。

 あなたは,「そんなこと,今でもできています」,そう思うかもしれません。

 でも,これから学校の中でもっと学び,そして働いてお金をかせいでいく中で,それらの意味を,もっと深く分かることが多くなってきます。

 そういうふうにして,自分と相手とをもっと大切にできるようになってから,新しく迎え入れる命を大事にしていく,という生き方にも,じっくりと思いをめぐらせてみてください。

 残念ながら,お父さんもお母さんも若すぎて,まだ自分と相手のことも大事にできず,生まれてきた子どもをきちんと育てられなくて,保護しなければならないというケースを,私自身がたくさん見ています。




 子育ては,二人だけではできません。

 どんな夫婦でも,それぞれの家族,地域,いろんな人たちに支えられながら,子育てにがんばっています。

 子育てをまわりから支えてもらうことは,恥ずかしいことなどではありません。

 むしろ,絶対に必要なことなのです。

 二人はまだ高校生ですから,他の夫婦以上に,みんなに子育てを支えてもらわなければなりません。

 だからこそ,もし産むのであれば,家族にきちんと話して,協力してもらう必要があります。

 私がむかしかかわったケースで,当時は二人ともほんとうにまだ若かったですが,まわりの大人たちとよく話し合い,そして子どもを産んだ,ということもありました。

 二人はずっとみんなに支えられながら,今も立派にお父さん・お母さんをしています。

 私は二人のことがとても誇り(ほこり)です。

 ただ,他の子どもたちも,その二人と同じようにまわりから支えられながらがんばれるかというと,そんなに簡単なことではない,と感じています。



 他方で,中絶をすることも,軽い気持ちで決めてほしくありません。

 中絶は,A美さんの体に負担をかけるだけでなく,心を深く傷つけます。

 もし,中絶を選ぶこととなったとしても,その苦しみをA美さん一人だけが背負うのではなく,B太君もきちんと分かち合わなければいけません。



 もし,悩んでいるあいだに,中絶できる時期を過ぎてしまっても,

 誰にも相談できないまま,子どもを産んで死なせてしまうことだけは,絶対にしないでください
【★16】

 あなたたち自身で育てられなくても,

 その子を,他の夫婦の子どもとして育ててもらう,「特別養子縁組」というしくみもあります
【★18】




 産むとしても,中絶するとしても,どちらにしても大事なことです。

 今まで私が書いてきたことを,二人でよく確認してみてください。

 そして,今は話しにくいかもしれませんが,早いうちに必ず,親と一緒に話し合って下さい。




 今回のことをきっかけにして,

 自分が家族から大切にされているか,

 自分が自分を大切にしているか,

 そして,自分がパートナーを大切にしているか,

 そのことを,あらためて見つめ直してみてください。




 セックスは,人間として大切なコミュニケーションの一つです。

 だからこそ,これからは,そのコミュニケーションの結果で自分自身や相手が苦しみ悩んでしまうことのないようにしてほしい,と私は願っています。

 そして,ほんらい,大人の私たちには,そのメッセージをきちんと子どものみなさんに伝えていく責任がある,と,私は思っています。





【★1】 2022(令和4)年4月からは,男女ともに結婚できるのは18歳からです。
 改正後の民法731条 「婚姻は,18歳にならなければ,することができない」
【★2】 民法779条「嫡出(ちゃくしゅつ)でない子は,その父又は母がこれを認知することができる」(嫡出でない子,というのは,結婚していない男女の間に生まれた子どものことです)
 民法783条1項「父は,胎内(たいない)に在(あ)る子でも,認知することができる。この場合においては,母の承諾(しょうだく)を得(え)なければならない」
【★3】 これを「親権(しんけん)」といいます。民法820条「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有(ゆう)し,義務を負う」
【★4】 民法833条「親権を行う者は,その親権に服する子に代わって親権を行う」
《2024(令和6)年民法改正,2026(令和8)年4月施行》
 民法833条「父又は母が成年に達しない子であるときは,当該子について親権を行う者が当該子に代わって親権を行う」
【★5】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★6】 民法787条「子,その直系卑属(ちょっけいひぞく)又はこれらの者の法定代理人は,認知の訴えを提起(ていき)することができる。(略)」
【★7】 民法877条~880条(扶養の請求)または民法788条・766条(子の監護に関する処分の請求)
【★8】 「扶養(ふよう)」という規定があります。
民法877条1項 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養をする義務がある」
同条2項 「家庭裁判所は,特別の事情があるときは,前項に規定する場合のほか,3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる」
【★9】 相続(そうぞく),遺産分割(いさんぶんかつ)。民法886条~
【★10】 刑法212条 「妊娠中の女子が薬物を用い,又はその他の方法により,堕胎(だたい)したときは,1年以下の懲役(ちょうえき)に処(しょ)する」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法212条 「妊娠中の女子が薬物を用い,又はその他の方法により,堕胎(だたい)したときは,1年以下の拘禁刑(こうきんけい)に処する」
【★11】 母体保護法14条 「…指定医師…は,次の各号の一に該当(がいとう)する者に対して,本人及び配偶者(はいぐうしゃ)の同意を得て,人工妊娠中絶を行うことができる。
一  妊娠の継続又は分娩(ぶんべん)が身体的又は経済的理由により母体の健康を著(いちじる)しく害するおそれのあるもの
二  暴行若(も)しくは脅迫(きょうはく)によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫(かんいん)されて妊娠したもの」
【★12】 未成年者なので手術に親の同意がいるようにも思えますが,母体保護法で親の同意について規定がないこと,15歳以上であれば遺言(いごん)を書く能力もあり(民法961条),臓器提供の意思表示もできることも参考にして,妊娠した未成年の女性本人の同意だけで足りる(親の同意は不要)とするのが法律上の解釈(かいしゃく)です。
 また,妊娠させた男性の側についても,母体保護法3条で,「配偶者」を,「届出をしていないが,事実上婚姻(こんいん)関係と同様な事情にある者を含む」と説明していますので,事実上夫婦のような関係にまでなっていなければ,男性の同意は不要,というのが法律の定めです。
【★13】 母体保護法2条2項「この法律で人工妊娠中絶とは,胎児が,母体外において,生命を保続(ほぞく)することのできない時期に,人工的に,胎児及びその附属物(ふぞくぶつ)を母体外に排出(はいしゅつ)することをいう。」
 平成2年3月20日付厚生省発健医第55号「優生保護法第2条第2項の『胎児が,母体外において生命を保続することのできない時期』の基準は,通常妊娠満22週未満であること」
【★14】昭和21年厚生省令第42号(死産の届出に関する規程),墓地埋葬等に関する法律2条1項「この法律で『埋葬』とは,死体(妊娠4箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬(ほうむ)ることをいう。」
【★15】平成16年9月24日環境省「妊娠4か月(12週)未満の中絶胎児の取扱いに関するアンケート調査結果及び今後の対応について」
【★16】東京高裁平成21年10月15日判決,判例時報2108号57頁。妊娠した女性のがわは,体も心も苦痛にさらされるし,経済的な負担も負うことになるけれども,そもそもそうなったのは二人がセックスをしたことから始まっているのだから,女性一人だけが苦痛や負担を負うのではなく,二人で分担しなければいけない,と述べています。
【★17】 保護責任者遺棄(いき)致死(ちし)罪や,殺人罪などになります。
 刑法218条 「老年者,幼年者,身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄(いき)し,又はその生存に必要な保護をしなかったときは,3月以上5年以下の懲役に処する」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法218条 「老年者,幼年者,身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄(いき)し,又はその生存に必要な保護をしなかったときは,3月以上5年以下の拘禁刑に処する」
 刑法219条 「前2条の罪を犯し,よって人を死傷させた者は,障害の罪と比較して,重い刑により処断する」
 刑法199条 「人を殺した者は,死刑又は無期若(も)しくは5年以上の懲役に処する」
《2022(令和4)年刑法改正,2025(令和7)年6月施行》
 刑法199条 「人を殺した者は,死刑又は無期若(も)しくは5年以上の拘禁刑に処する」
【★18】 民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方の血族との親族関係が終了する縁組…を成立させることができる」
 民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著(いちじる)しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」

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たばことお酒はなんでダメなの?


 子どもがたばこを吸ったりお酒を飲んだりしてはダメって法律で決まっているのは知ってるけど,どうして大人はよくて子どもはダメなんですか。
 吸ったり飲んだりしたら,法律ではどうなりますか。

 


 子どもは,たばこを吸ったり,お酒を飲んだりしてはダメ【★1】

 耳にタコができるほど聞いていますよね。


 法律は,たばこやお酒は20歳になるまでダメだ,としています。

 これまでは「大人になるまではダメ」という言い方をしていましたが,

 2022(令和4)年4月に成人年齢が20歳から18歳に引き下げられても,たばこやお酒がOKなのは20歳のまま変わらないので,注意が必要です
【★2】

 


 人は,他の人に迷惑(めいわく)をかけない限り,好きなことをしていいという自由があります。

 だから,たばこもお酒も,ほんらいは自由です。

 でも,大人でも,たばこやお酒で他の人に迷惑をかける場合には,法律で制限(せいげん)されます
【★3】


 「だったら,子どもだって,他の人に迷惑をかけなければ,吸ったり飲んだりしてもいいじゃん。誰にも迷惑かけてないでしょ?なんでダメなの?」



 それは,
あなたに自分自身を大切にしてほしいからです。


 知っているとおり,たばこもお酒も,健康によくありません。




 「人は,ほんらい自由です」,と言いました。

 でも,健康に悪いことを「自由」にやり続けた結果,何十年も後になって苦しんでいる大人が,とても多いのです。

 突然死んでしまう危険も高いし,ずっと苦しみ続けることだってある。

 たばこやお酒をやめるようにお医者さんに注意されても,なかなかやめられなくて苦しんでいる大人が,たくさんいます。

 健康に悪いという統計・データや,真っ黒になった肺(はい)の写真などを見せられるよりも,実際の大人たちの話を聞くほうが,その大変さをきちんと感じることができます。

 だけど,
子どもは,そういう大人たちの話を聞く機会が,なかなかありません。

 大人のほうも,プライドやはずかしさから,自分たちの話をきちんと子どもたちにしようとしません。


 大人だったら,「自由」の結果苦しんでも,それはそれで「自己責任」,自分でやったことなんだから仕方がない,ということかもしれません。


 だけれど,子どものみなさんにまで,そんな「自己責任」をおってもらいたくないのです。

 私たち大人は,子どものみなさんのことを,大切に思っています。

 子どものみなさんが,大人になるまでの間,そして大人になったあとも,健康で幸せなくらしを送れるように,と願っています。

 ひとの体は,大人になるまで,成長を続けています。

 身長が伸びるのは高校生くらいで止まりますが,その後も,体の中ではまだまだ成長を続けています。

 すくなくとも,そのように体が成長している間は,たばことお酒の悪い影響(えいきょう)を受けてほしくないのです。

 成長を続けている自分自身を,大切にしてほしいのです。


 体が成長する間に悪い影響を受けて,遠い先につらい思いをするのは,あなた自身だけではありません。

 あなたのまわりには,今も,そしてこれからも,ずっとあなたのことを大切に思ってくれる人たちがいます。

 そして,これからやがて最愛の人とも出会うでしょうし,大切な家族もできるでしょう。

 子どものころからのたばことお酒の影響で,あなた自身が苦しめば,そんな人たちをも悲しませます。




 「人に迷惑をかけないんだから,吸ったり飲んだりしてもいい」。

 そんな子どもの言葉を聞くと,「自分のことを大切に思えないような,さみしい毎日を過ごしているのかな」と,心配します。

 「たばこやお酒に害があるから」,「ルールだから」,という大人の一方的な説教も,時には必要かもしれません。

 でもそれよりも,たばこやお酒の話をひとつのきっかけとして,「自分自身のことを大切に思えているかどうか」を,いろんな人とじっくり話し合うことのほうが,もっと大切だと思っています。




 みなさんも知っているとおり,子どもがたばこを吸ったりお酒を飲んだりすることは,法律で禁止されています。

 でも,その子どもに,「刑務所に行きなさい」とか,「罰金(ばっきん)を払いなさい」という刑罰(けいばつ)がくだされることはありません。

 そのような処罰(しょばつ)がされるのは,止めなかった親や,子どもであることを知っていたのにたばこやお酒を売った大人のほうです
【★4】

 法律のしくみがそうなっているのも,「私たち大人が子どもたちを大切にしないといけない」という考え方のあらわれです。




 でも,吸ったり飲んだりした子どもがなにも処分(しょぶん)を受けないかというと,ちがいます。

 「補導(ほどう)」されるということは聞いたことがあると思います。

 警察から注意を受け,場合によっては親や学校,職場に連絡がいきます。

 この「補導」は,法律(国会で決めたルール)や条例(都道府県や市区町村で決めたルール)ではなく,警察の内部で決めたやりかたです
【★5】

 「補導」がなんどもくりかえされるような子どもだと,なんの犯罪もしていなくても,「将来犯罪を起こすかもしれない」という理由で,裁判所に呼び出されて注意を受けたり,場合によっては「少年院に行って自分自身を見つめなおしてきなさい」と言われることさえあります
【★6】

 また,学校のルールでは,たばこやお酒に手を出したときの,学校としての罰(ばつ)が決まっていることがほとんどです。

 この,学校としての罰のことを,懲戒処分(ちょうかいしょぶん)といいます。

 出席停止の処分を受けたり,私立学校や高校だと退学処分を受けたりすることだってあります。




 たばこが吸えたり,お酒が飲めたりすると,なんとなく大人になった気分がして「かっこいい」と思うかもしれません。

 でも,大人どうしの世界では,正直なところ,そんなイメージはありません。

 人としての「かっこよさ」は,たばこやお酒のような「物」で身につけるものではなく,もっとちがうところで見られるものです。

 自分自身を大切にできる人,まわりからたばこやお酒をすすめられても,「いやなものはいやです」ときっぱり断れる人こそ,「かっこいい」と私は思います。

 

 

 

【★1】 未成年者喫煙禁止法1条「満20年に至(いた)らざる者は煙草を喫することを得ず」,未成年者飲酒禁止法1条「満20年に至(いた)らざる者は酒類を飲用することを得ず」
 2022(令和4)年4月の成人年齢の引下げにともない,これからは「20歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」「20歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」に変わります。
【★2】 「各種の法律における年齢要件は,それぞれの法律の趣旨(しゅし)に基づいて,様々な要素を総合的に考慮して定められています。そして,民法の成年年齢の引き下げを行った場合に,その他の法律の年齢要件をどうするかについては,それぞれの法律の趣旨に基づき,それぞれの所管官庁において個別に引下げの要否(ようひ)を検討したものであり,必ずしも一律の基準があるわけではありません。…健康被害の防止や青少年の保護の観点から定められた年齢要件については,必ずしも民法上の成年年齢と一致させる必要はないため,20歳を維持することとしているものがあります。例えば,飲酒・喫煙に関する年齢要件については,健康面への影響や非行防止の観点から20歳以上という年齢要件を維持することとされました。」(笹井朋昭,木村太郎著「一問一答 成年年齢引下げ」83頁)
【★3】 平成15年から,健康増進法という法律で,他の人がたばこの煙(けむり)を受けないようにしましょうとされています。平成16年からは,航空法という法律が変わり,飛行機の中でたばこを吸うと,場合によっては処罰されることになりました。お酒についても,飲酒運転は昔から犯罪ですし,最近ではその刑罰がとても重くなっています。また,若い学生さんたちが友達にイッキ飲みをむりやりさせて,急性アルコール中毒で亡くなってしまうという事件も多くありますが,強要罪(きょうようざい)という犯罪になります。
【★4】 たばこやお酒を止めなかった親には「科料」という罰金に似た(罰金よりも安い)刑罰,子どもにたばこやお酒を売った人には50万円以下の罰金が科せられます(未成年者喫煙禁止法3条1項,5条,未成年者飲酒禁止法3条,1条2項・3項)。
【★5】 少年警察活動規則2条「この規則において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。…六  不良行為少年 非行少年には該当しないが,飲酒,喫煙,深夜はいかいその他自己又は他人の徳性を害する行為…をしている少年をいう」
《2022(令和4)年4月施行》
少年警察活動規則2条「この規則において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。…七  不良行為少年 非行少年には該当しないが,飲酒,喫煙,深夜はいかいその他自己又は他人の徳性を害する行為…をしている少年をいう」
 少年警察活動規則14条「不良行為少年を発見したときは,当該不良行為についての注意,その後の非行を防止するための助言又は指導その他の補導を行い,必要に応じ,保護者(学校又は職場の関係者に連絡することが特に必要であると認めるときは,保護者及び当該関係者)に連絡するものとする」
【★6】 「ぐ犯(ぐはん)」といいます。
少年法3条1項「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。…
 三 次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
 イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
 ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附かないこと
 ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること
 ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」

Part1_2

 

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