5_犯罪のこと,やってはいけないこと

2017年6月 1日 (木)

小学生も刑務所や少年院に行くの?

 

 小学生でも刑務所や少年院に行くことってあるんですか?

 


 刑務所は,罰を受ける場所です。

 仕事をさせられる「懲役(ちょうえき)」や,部屋の中で過ごす「禁錮(きんこ)」が,その罰です
【★1】


 刑法には,「14歳未満の子どもがしたことは罰しない」と,はっきり書かれています【★2】【★3】

 「14歳未満」というのは,「まだ14歳になっていない,13歳以下」ということです。


 だから,小学生が犯罪をしても,刑務所に入れられることは,100%ありません




 少年院は,教育を受けるための場所です。

 少年院と刑務所のちがいは,「少年院ってどんなところ?」の記事にくわしく書いたので,読んでみてください。



 10年前までは,14歳未満の子どもが少年院に入れられることは,100%ありませんでした【★4】


 ところが,2003年(平成15年)に,中学1年生(13歳)が4歳児を殺した事件が起きたり,

 翌年の2004年(平成16年)にも,小学6年生が同級生を殺した事件が起きたりして,

 社会の中では,「法律が甘い。もっと厳しくするべきだ」という意見が強くなっていました。



 それで,10年前の2007年(平成19年)に法律が変わり,

 14歳未満の子どもも,少年院に入れられるようになりました。


 だいたい12歳くらいになっていれば,少年院に入れてもかまわない,ということになったのです【★5】

 だから,
今の法律では,小学生も少年院に入ることはありえます


 ただ,14歳未満の子どもは,特別に必要なときしか,少年院に入れられません【★6】

 なので,少年院に入る14歳未満は,毎年10人くらいしかいません。

 しかもそのうち12歳以下は,この10年の間で,たった2人だけです
【★7】

 この2人が小学生か中学生かは,統計ではわかりません。





 14歳未満の子どもは罰せられないので,

 警察が逮捕することも,100%できません
【★8】

 (14歳以上なら逮捕されることがあります。「逮捕された!早く外に出たい」の記事も読んでみてください。)




 でも,「14歳未満なら,犯罪をしても必ず自由でいられる」というわけでもありません。




 警察は,児童相談所に連絡をします
【★9】

 児童相談所は,親から虐待を受けている子どもや,病気・障害を持っている子どもなど,

 いろんな子どもたちを,守り,サポートする役所です。

 その児童相談所が,「一時保護」という手続で,あなたを家に返さずにとめ置くことがありえます
【★10】


 また,重い犯罪のときには,

 児童相談所が,さらに家庭裁判所に連絡します
【★11】

 そうすると,その子は,14歳以上の子どもと同じように「審判(しんぱん)」という裁判を受けます
【★12】

 その審判までの間,「あなたがどういう人かを見きわめる必要がある」,と裁判官が考えると,少年鑑別所(かんべつしょ)というところにとめ置かれます。

 これを,「観護措置(かんごそち)」と言います
【★13】




 児童相談所や家庭裁判所が,いろんなことを調べて,

 「家に帰すのは,この子のためにならない。犯罪をしたこの子がきちんと立ち直るためには,生活をしっかり見守っていかないといけない」と考えたら,

 
14歳未満なら,児童福祉という社会のしくみの中で,暮らすことになるのがほとんどです


 児童福祉というしくみで暮らす場所として,「児童養護施設」や,「児童自立支援施設」があります。


 「児童養護施設」では,親がいない子どもたちや,虐待から保護された子どもたちなどと,みんなでいっしょに生活します
【★14】【★15】


 「児童自立支援施設」は,非行が進んでいる子ども向けの,児童養護施設よりも生活のワクがきっちりしている施設です
【★16】【★17】

 児童自立支援施設は,中学生の子どもが多いですが,小学生ももちろんいます
【★18】

 「施設の中に小学校・中学校がある」という児童自立支援施設も多いです
【★19】



 児童養護施設や児童自立支援施設は,

 刑務所や少年院のように閉じ込めて厳しく扱うための場所ではありません
【★20】

 生活するための場所,育っていくための場所です
【★21】



 「人は,若ければ若いほど,良い方向に大きく変わっていく力を持っている。

 だから,小さな子どもは,刑罰でこらしめるのではなく,

 刑罰以外の方法で,良い方向に変わっていけるようにしよう」。


 それが,

 14歳未満の子どもを罰しない理由
【★22】

 児童福祉のしくみにつなげる理由です。




 若ければ若いほど,自分で生きていく力がまだ強くないので,

 そのぶん,周りの大人たちからの影響を,強く受けて育ちます。


 周りの大人たちから自分が大切に扱われていなければ,

 自分が他の人を大切にするのは,難しいことです。



 だから,小さいときに,大きな犯罪をしてしまった子どもには,

 刑務所や少年院に閉じ込めて厳しくするよりも,

 児童福祉のしくみの中で,お互いを大切にすることを学びながら生活し,育っていけるようにしよう。


 法律は,そう考えています。



 大切な存在として扱われ,安心・安全な毎日を送れるということ。

 それは,けっして「甘やかし」などではなく,

 人が人として生きていく上で,誰もが小さいときから必要な,だいじなことなのです。

 

 

【★1】 刑法9条 「死刑,懲役(ちょうえき),禁錮(きんこ),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
 同法12条2項 「懲役は,刑事施設に拘置(こうち)して所定(しょてい)の作業を行わせる」
 同法13条2項 「禁錮は,刑事施設に拘置する」
【★2】 刑法41条 「14歳に満たない者の行為(こうい)は,罰しない」
【★3】 少年法3条 「次に掲(かか)げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付(ふ)する。…二 14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年…」
 犯罪をした14歳未満の子どもは,「触法(しょくほう)少年」と呼ばれます。罰せられないけれど,「法に触(ふ)れることをした」,という意味です。
【★4】 旧少年院法2条2項 「初等少年院は,心身に著(いちじる)しい故障のない,14歳以上おおむね16歳未満の者を収容する」
 同条5項 「医療少年院は,心身に著しい故障のある,14歳以上26歳未満の者を収容する」
 「少年院法制定当初は,送致年齢の下限は『おおむね14歳』とされていたが,同少年院法施行数ヶ月後には少年院法の昭和24年改正がなされ,下限を14歳とした。その際,『その運用を検討した結果,14歳に満たない少年は,これを14歳以上の少年と同一に取り扱うことは適切でなく,もしこれに収容保護を加える必要のあるときは,すべてこれを児童福祉法による施設に入れるのが妥当』と説明された(1949年4月23日・衆議院法務委員会)。以来,50年以上にわたって,少年院送致の下限年齢は14歳とされてきた。これは,児童福祉法と少年法との領域を基本的に14歳で区切りをつけたことを反映しており,14歳以上と14歳未満とでは,原則として異なる理念,異なる制度で取扱うことのあらわれである。また,刑事責任能力と論理必然ではないとしても,これに符合(ふごう)する形で峻別(しゅんべつ)されてきた。」2005年3月17日日本弁護士連合会「『少年法等の一部を改正する法律案』に対する意見」(https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2005_16.pdf
【★5】 改正後の旧少年院法2条2項 「初等少年院は,心身に著しい故障のない,おおむね12歳以上おおむね16歳未満の者を収容する」
 同条5項 「医療少年院は,心身に著しい故障のある,おおむね12歳以上26歳未満の者を収容する」
 現少年院法4条1項1号 「第1種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害がないおおむね12歳以上23歳未満のもの(略)」
 同条同項3号 「第3種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満のもの」
【★6】 少年法24条1項 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもって,次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし,決定の時に14歳に満たない少年に係る事件については,特に必要と認める場合に限(かぎ)り,第三号の保護処分をすることができる。(略) 三 少年院に送致すること」
【★7】 少年矯正統計少年院2009年,2012年,2015年「9 少年院別 新収容者の年齢」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001065800
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001112236
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001155256
 平成20年の総数3971人のうち,12歳以下:0人,13歳:2人
 平成21年の総数3962人のうち,12歳以下:0人,13歳:3人
 平成22年の総数3619人のうち,12歳以下:0人,13歳:13人
 平成23年の総数3486人のうち,12歳以下:0人,13歳:7人
 平成24年の総数3498人のうち,12歳以下:0人,13歳:9人
 平成25年の総数3193人のうち,12歳以下:1人,13歳:10人
 平成26年の総数2872人のうち,12歳以下:1人,13歳:8人
 平成27年の総数2743人のうち,12歳以下:0人,13歳:10人
【★8】 「14歳未満の少年を逮捕することはできない。『罪を犯した』(刑訴199条1項本文・210条1項第1段)又は『罪を行い』『罪を行い終わった』(刑訴212条)ということがいえない以上,当然である」(平野龍一・松尾浩也編「新実例刑事訴訟法Ⅰ」232頁)
 「2007年『改正』少年法で警察に認められた触法調査権限には,押収・捜索,検証,鑑定嘱託(法6条の5)の対物強制が含まれる。逮捕・勾留・鑑定留置等の対人強制は認められない」(川村百合「弁護人・付添人のための少年事件実務の手引き」65頁)
 少年法6条の5第1項 「警察官は,第3条第1項第二号に掲げる少年〔注:触法少年〕に係る事件の調査をするについて必要があるときは,押収,捜索,検証又は鑑定の嘱託をすることができる」
【★9】 警察から児童相談所に連絡するのは2つの方法があります。一つは,もともとあった制度で,児童福祉法25条に基づいて,要保護児童として通告する方法です。もう一つは,2007年(平成19年)の改正で設けられた事件の送致の方法です。一定の重大事件の場合は,この二つが重複することになります(川村百合「弁護人・付添人のための少年事件実務の手引き」70頁)。
 児童福祉法25条1項 「要保護児童を発見した者は,これを市町村,都道府県の設置する福祉事務所若(も)しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。ただし,罪を犯した満14歳以上の児童については,この限りでない。この場合においては,これを家庭裁判所に通告しなければならない」
 同法6条の3第8項 「…保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童(以下「要保護児童」という。)…」
 少年法6条の6 「警察官は,調査の結果,次の各号のいずれかに該当するときは,当該調査に係る書類とともに事件を児童相談所長に送致しなければならない。
 一 第3条第1項第二号に掲(かか)げる少年〔注:触法少年〕に係(かか)る事件について,その少年の行為が次に掲げる罪に係る刑罰法令に触れるものであると思料(しりょう)するとき。
  イ 故意(こい)の犯罪行為により被害者を死亡させた罪
  ロ イに掲げるもののほか,死刑又は無期若しくは短期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪
 二 前号に掲げるもののほか,第3条第1項第二号に掲げる少年〔注:触法少年〕に係る事件について,家庭裁判所の審判に付(ふ)することが適当であると思料するとき」
【★10】 児童福祉法33条1項 「児童相談所長は,必要があると認めるときは,第26条第1項の措置を採るに至るまで,児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため,又は児童の心身の状況,その置かれている環境その他の状況を把握するため,児童の一時保護を行い,又は適当な者に委託して,当該一時保護を行わせることができる」
 同条2項 「都道府県知事は,必要があると認めるときは,第27条第1項又は第2項の措置を採るに至るまで,児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため,又は児童の心身の状況,その置かれている環境その他の状況を把握するため,児童相談所長をして,児童の一時保護を行わせ,又は適当な者に当該一時保護を行うことを委託させることができる」
【★12】 少年法6条の7第1項 「都道府県知事又は児童相談所長は,前条第1項(第一号に係る部分に限る。)の規定により送致を受けた事件については,児童福祉法第27条第1項第四号の措置をとらなければならない。ただし,調査の結果,その必要がないと認められるときは,この限りでない」
 児童福祉法27条1項四号 「家庭裁判所の審判に付することが適当であると認める児童は,これを家庭裁判所に送致すること」
 少年法3条2項 「家庭裁判所は,前項第二号に掲げる少年〔注:触法少年〕及び同項第三号に掲げる少年〔注:ぐ犯少年〕で14歳に満たない者については,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り,これを審判に付することができる」
【★13】 少年法17条1項 「家庭裁判所は,審判を行うため必要があるときは,決定をもって,次に掲(かか)げる観護の措置をとることができる。
 一 家庭裁判所調査官の観護に付すること
 二 少年鑑別所に送致すること」
【★14】 児童福祉法27条1項 「都道府県は,前条第1項第一号の規定による報告又は少年法第18条第2項の規定による送致のあった児童につき,次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。 … 三 児童を…児童養護施設…に入所させること…」
 少年法24条 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもって,次に掲げる保護処分をしなければならない。… 二 …児童養護施設に送致すること」
【★15】 児童福祉法41条 「児童養護施設は,保護者のない児童(乳児を除く。ただし,安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には,乳児を含む。以下この条において同じ。),虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて,これを養護し,あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設とする」
【★16】 児童福祉法27条1項 「都道府県は,前条第1項第一号の規定による報告又は少年法第18条第2項の規定による送致のあった児童につき,次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。 … 三 児童を…児童自立支援施設に入所させること…」
 少年法24条 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもって,次に掲げる保護処分をしなければならない。… 二 児童自立支援施設…に送致すること」
【★17】 児童福祉法44条 「児童自立支援施設は,不良行為をなし,又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ,又は保護者の下から通わせて,個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い,その自立を支援し,あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする」
【★18】 「現状では,10歳から15歳位の児童が多く,中でも中学生年齢の児童が多くを占めている。近年では,次のような特徴を持った児童が少なくない。 ①虐待など不適切な養育を行った家庭や多くの問題を抱える養育環境で育った子ども ②乳幼児期の発達課題である基本的信頼関係の形成が達成できていない子ども ③トラウマを抱えている子ども ④知的障害やADHD・広汎性発達障害などの発達障害を抱えている子ども ④反社会的問題行動といった外在化の問題ばかりでなく,抑うつ・不安といった内在化の問題も併せて抱えている子ども」(安倍嘉人・西岡清一郎監修「子どものための法律と実務」298頁)
【★19】 「平成24年4月現在47カ所で施設内に小・中学校を設置し,入所児童に義務教育を実施している。全国児童自立支援施設協議会調べ」(安倍嘉人・西岡清一郎監修「子どものための法律と実務」302頁)
【★20】 ただし,その子の性格や行いなどから,児童自立支援施設でも行動の自由を制限しなければならない場合があります。その場合は,必ず家庭裁判所が判断しなければなりません。現在,この強制的措置をとることができる施設は,国立の施設2か所だけです(男子は武蔵野学院,女子はきぬ川学院)。
 児童福祉法27条の3 「都道府県知事は,たまたま児童の行動の自由を制限し,又はその自由を奪うような強制的措置を必要とするときは,…事件を家庭裁判所に送致しなければならない」
 少年法18条2項 「第6条の7第2項の規定により,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けた少年については,決定をもって,期限を付して,これに対してとるべき保護の方法その他の措置を指示して,事件を権限を有する都道府県知事又は児童相談所長に送致することができる」
【★21】 刑務所と少年院は法務省の管轄(かんかつ)ですが,児童養護施設と児童自立支援施設は厚生労働省の管轄です。
【★22】 「人の精神的発育にはかなりの個人差が存(そん)するといえよう。しかし,刑法は満14歳未満の者を画一的に責任無能力とした。もちろん,41条は,14歳に満たなければ,是非善悪の判断ができず,またそれに従った行動ができないとしているわけでもない。年少者の可塑性(かそせい)を考慮し,政策的に刑罰を科すことを控(ひか)えたものと考えられる」(前田雅英「刑法総論講義第3版」271頁)

2016年7月 1日 (金)

合法だって聞いてるクスリで捕まる?

 

 以前友だちに「合法だから大丈夫」って勧められたクスリを,今も時々一人で使っちゃうんだけど,やっぱり見つかったら捕まりますか?

 

 

 覚せい剤や麻薬は犯罪だと,あなたも知っていますよね【★1】

 だからなおさら,「これは合法なクスリだから大丈夫」と,思いたいのですよね。



 人を処罰する法律は,内容がはっきりしている必要があります【★2】

 もし,人を処罰する法律が,あいまいでいいかげんな内容だと,

 予想外のことで,突然捕まるかもしれず,

 誰もが,安心して暮らすことができなくなってしまうからです。



 だから,「どんな薬物がダメなのか」も,法律にはっきり書かれています。


 でも,「みんなが安心して暮らせるように」と法律がはっきりさせていることを逆手(さかて)にとって,

 その規制にひっかからないようにした薬物が,世の中に出回ります。

 新しい法律を作って,それを取り締まっても,

 今度はまた,少しだけ成分を変えた,似たような薬物が,新しく出回ります。

 そういうことが,いたちごっこのように繰り返されてきました。



 そんなふうに,法律のすきまをねらった薬物のことを,

 「危険ドラッグ」と呼んでいます。

 (「合法ドラッグ」や「脱法ドラッグ」と呼んでいたこともありました。)




 あなたが友だちからもらったクスリは,「合法だ」と聞いているのですね。

 でも,本当にそうなのかどうかは,クスリの外見からは,わかりません。

 「成分を調べてみたら,実は規制されているものだった」ということも,じゅうぶんあるでしょう。



 そういったとき,「合法だ」と信じていたなら,罪に問われなくて済むのでしょうか。


 そんなことはありません。



 たしかに法律は,「犯罪をするつもりがなかったら,処罰しない」としています【★3】

 でも,友だちから「合法」と言われたのを,あなたが信じただけなら,

 「犯罪をするつもりがなかった」とは認められないのが,ほとんどです。

 薬局で堂々と売っている薬ではない。

 コンビニなどで堂々と売っているサプリでもない
【★4】

 使うと特別な気分になれて,また使いたくなるもの。

 そして,勧めるほうが,わざわざ「合法だから」と説明するくらい,あやしいもの。

 そういうものは,「合法だ」という言葉を信じただけでは,そう簡単には許されません
【★5】【★6】

 「あぶない」と感じて,そこで踏みとどまらないといけないのです。




 では,成分を調べてみた結果,友だちが言うとおり,規制されているものでなかったら。



 たしかに,その場合は犯罪にはなりません。



 でも,あなたが19歳以下なら,

 たとえ犯罪をしていなくても,

 「このままでは犯罪をするかもしれない」という理由で,

 警察に捕まって,家庭裁判所に送られることがあります。


 これを,「ぐ犯(ぐはん)」と言います
【★7】



 「たばことお酒はなんでダメなの?」の記事に書いたように,

 たばこやお酒は,

 吸ったり飲んだりした子どもが,犯罪として処罰されるわけではありませんし,

 大人になれば,吸ったり飲んだりしても,法律上は問題になりません。



 そのようなたばこやお酒とちがい,

 
薬物が犯罪として処罰される理由は,

 私たちの健康を守るためということに加えて,

 他の人々や私たちの社会を傷つける危険が,とても高いからです
【★8】


 頭がすっきりし,体が軽くなったり,

 とても気持ちがよくなったりする薬物。

 1回使ってみただけでは,いきなり人生がダメになるようには感じないので,

 「もう1回使ってみたい,もう1回だけなら大丈夫だろう」,と思ってしまいます。



 そうやって繰り返していくうちに,薬物を使うペースが,どんどん早まっていきます。

 やがて,頭の中は薬物のことを考えるのでいっぱいになり,

 生活がどんどんと崩(くず)れていきます。

 そして,家族,学校,職場などの,周りの人たちとのトラブルが,増えていきます。



 薬物を買うお金がなくなり,

 借金を繰り返したり,

 誰かにお金をせびったり,

 お金を手に入れるために,何かの犯罪に手をそめてしまったりします。

 薬物の売り買いで動くお金は,暴力団などの資金源になります。



 薬物を使ったときの幻覚(げんかく)や妄想(もうそう)などのせいで,

 人を殺してしまったり,車で人をはねてしまったりする悲惨(ひさん)な事件まで,起きてしまいます。



 だから,法律は,他の人々や私たちの社会を傷つけないよう,

 薬物を使うことを,犯罪として厳しく取り締まっているのです。




 でも,本当は誰よりも,薬物を使っているその人自身が,一番傷ついています。



 何かにハマって,生活がおかしくなることを,「依存(いぞん)」と言います。


 薬物依存は,病気です【★9】

 自分で自分自身をコントロールできなくなる,病気なのです。


 だから,

 犯罪者として責(せ)められ,こらしめられたり
【★10】

 「今後一切やりません」と,無理をして張り切って裁判所で誓(ちか)ったりしても,

 それで薬物依存から抜け出すことは,とても難しい。

 
薬物依存から抜け出すためには,

 
病気としてきちんとお医者さんの治療を受け【★11】

 
薬物を使いたくなる自分と向き合いながら,

 「今日一日,薬物をやらずに過ごせた」と,毎日を少しずつ積み重ねていくことのほうが
【★12】

 何倍もだいじなのです。



 薬物依存は,「人間関係の病気」とも言われます【★13】


 「気分がよくなるよ」

 「嫌なことを忘れられるよ」

 「勉強がはかどるよ」

 「だるさがとれて,すっきりするよ」

 「ダイエットに効くよ」

 「セックスのときに気持ちよくなるよ」



 その薬物の誘いを断ったら一人ぼっちになってしまうという不安,

 すでに一人ぼっちに感じていたというさみしさ,

 薬物は,そういった心の痛みを,紛(まぎ)らせます。



 でも,そうやって薬物にハマるほど,人々がどんどん離れていき,

 むしろ,ますます一人ぼっちになっていきます
【★14】


 だからこそ,薬物依存から抜けるためには,

 「一人ぼっちではない」と実感できることが大切なのです。


 薬物依存の人たちで集まって語り合う「自助(じじょ)グループ」がありますし,

 人間関係の問題を解決するために,私たち弁護士もサポートすることができます。




 法律は,どんな人も,一人ひとりを大切にしています。

 今,一人で時々薬物を使っているというあなたも,大切な存在です。




 日本ダルク(03-5369-2595,
http://darc-ic.com/)や,

 各都道府県の精神保健福祉センターが,あなたの相談に乗ってくれます。

 (これらに相談をしても,警察に通報されることはありませんから,安心してください。)



 その薬物が合法かどうか,捕まってしまうのか,と不安になるよりも,

 それを使わなくてすむようにするための一歩を,ぜひ今,踏み出してみてください。

 私はあなたに,それを強く願っています。

 

 

【★1】 覚せい剤取締法19条 「左の各号に掲(かか)げる場合の外(ほか)は,何人(なんぴと)も,覚せい剤を使用してはならない。
 一 覚せい剤製造業者が製造のため使用する場合
 二 覚せい剤施用機関において診療に従事する医師又は覚せい剤研究者が施用する場合
 三 覚せい剤研究者が研究のため使用する場合
 四 覚せい剤施用機関において診療に従事する医師又は覚せい剤研究者から施用のため交付を受けた者が施用する場合
 五 法令に基(もとづ)いてする行為につき使用する場合」
 同法41条の3 「次の各号の一に該当する者は,10年以下の懲役(ちょうえき)に処(しょ)する。
 一 第19条(使用の禁止)の規定に違反した者 (以下略)」
 麻薬及び向精神薬取締法12条1項 「ジアセチルモルヒネ,その塩類又はこれらのいずれかを含有(がんゆう)する麻薬…は,何人も,…施用し…てはならない。(以下略)」
 同法27条1項 「麻薬施用者でなければ,麻薬を施用し…てはならない。(以下略)」
 同法64条の3第1項 「第12条第1項…の規定に違反して,ジアセチルモルヒネ等を施用し…た者は,10年以下の懲役に処する。」
 同法66条の2第1項 「第27条第1項…の規定に違反した者は,7年以下の懲役に処する。」
【★2】 「罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ)」の「明確性の理論」と言います。
 「犯罪と刑罰は明確に定められていなければならないという明確性の理論が主張されている。罪刑法定主義は,あらかじめ明確な条文により犯罪行為を国民に明示することにより,(イ)何が犯罪行為であるかと告知して,国民に行動の予測可能性を与え,(ロ)同時に法執行機関の刑罰権の濫用を防止するとされる。…国民は刑罰法規を認識して行動するのであり,それ故に,『国民から見て不明確な文言を含む刑罰規定は,憲法31条に違反し無効である』と考えるのである。この明確性の理論を,わが国の最高裁判例は正面から認めている。」(前田雅英「刑法総論講義第3版」77頁)
【★3】 刑法38条1項 「罪を犯す意思がない行為は,罰しない。ただし,法律に特別の規定がある場合は,この限りでない。」
【★4】 もっとも,薬局で売っている市販薬や,コンビニなどで売っているお酒などでも,依存症になることがあります。
【★5】 東京高等裁判所平成23年8月18日判決(高等裁判所刑事裁判速報集(平23)号126頁) 「被告人(ひこくにん)は,このような経緯(けいい)により,白人に確認した上で合法ドラッグと信じて購入したのであり,違法な薬物であるとは全く思わなかったなどというのである。しかし,相手の言をそのまま信じることができるのは,相応の相手,場所,状況の下で納得できる説明があるからであるが,本件はこれに全く当たらない。被告人の供述(きょうじゅつ)によれば,本件の薬物は,見知らぬ外国人がバーで密(ひそ)かに売ろうとしていたというのであり,被告人が違法であれば買わないと言ったとすれば,それは正(まさ)に自身が違法な薬物である可能性を認識していたからこそ確認したにほかならない。そして,被告人が違法であれば買わないと言った場合に,これを売ろうとしている売主が敢(あ)えて違法であるなどという由(よし)もなく,いくらその外国人が合法と言ったからといって,被告人においてその言を信用するような相手,場所,状況の下には全くなく,説明も何もないのであって,違法薬物であるとの疑いが払拭(ふっしょく)されないことは火を見るより明らかである。そのような状況等の下(もと)で,被告人は,実際にはケタミンであった粉末を購入したのであって,被告人には,その粉末が,通常では入手し難い違法薬物であるかも知れないとの認識があったことは明らかであり,その認識を全く欠くに至(いた)った旨の被告人の供述は信用できない。…本件各犯行につき被告人の故意(こい)を認めた原判断は相当である。」
【★6】 もちろん,りくつからいえば合法ドラッグだと思っていたとして無罪になることはありますが(大阪地方裁判所平成21年3月3日判決,裁判所ウェブサイト掲載判例),数は少ないです。
【★7】 子どもの場合は,犯罪をしていなくても,「犯罪をするかもしれない」というときには,裁判になることもあるのです。
少年法3条「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。…
3.次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞(おそれ)のある少年
 イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
 ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附かないこと
 ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること
 ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」
【★8】 金尚均教授は,「薬物事犯は『国民の健康』を保護法益(ほごほうえき)とし,社会的法益として位置づけられるが,罪質(ざいしつ)としては抽象的危険犯である。薬物問題は,社会的不安の要因として厳しい刑罰の対象とされてきたのであり,古くて新しい問題である」と鋭く指摘し,薬物依存に刑罰を科すことの理論的な問題とその限界を示しています(金尚均「ドラッグの刑事規制 薬物問題への新たな法的アプローチ」)。
【★9】 WHO(世界保健機構)の「ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン」 F1x.2 依存症候群 「ある物質あるいはある種の物質使用が,その人にとって以前にはより大きな価値をもっていた他の行動より,はるかに優先するようになる一群の生理的,行動的,認知的現象。依存症候群の中心となる記述的特徴は,精神作用物質(医学的に処方されたものであってもなくても),アルコールあるいはタバコを使用したいという欲望(しばしば強く,時に抵抗できない)である。ある期間物質を禁断したあと再使用すると,非依存者よりも早くこの症候群の他の特徴が再出現するという証拠がある。」
【★10】 薬物で長い期間刑務所に入れるだけでは再犯を繰り返してしまうので,「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」という新しい法律ができ,先月(2016年6月)から施行されています。刑務所から出たあとも,保護観察所の監督を受けながら,更生プログラムを受けたり,自助グループに参加したりするという制度です。
 同法律1条 「この法律は,薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため,刑事施設における処遇(しょぐう)に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することが有用であることに鑑(かんが)み,薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関し,その言渡しをすることができる者の範囲及び猶予の期間中の保護観察その他の事項について,刑法…の特則を定めるものとする。」
【★11】 「院長は私にこう言った。私はこの言葉を一生忘れることができない。『水谷先生,彼を殺したのは君だよ。いいかい,シンナーや覚せい剤は簡単にやめさせることができない。それは”依存症”という病気だからだ。あなたはその病気を”愛”の力で治そうとした。しかし病気を”愛”や”罰”の力で治せますか?高熱で苦しむ生徒を,愛情をこめて抱きしめたら熱が下がりますか?『お前の根性がたるんでるからだ』と叱って,熱が下がりますか?病気を治すのは私たち医者の仕事です。無理をしましたね』 そう言われて,私は返す言葉もなくうなだれた。(略)これが私とドラッグの闘いの出発点だった。」(水谷修「夜回り先生」64頁)
【★12】 「私たちダルクの仲間たちが合言葉にしている一つのキーワードを紹介しよう。それは『ジャスト・フォー・トゥディ(今日一日)』という言葉である。この言葉をわかりやすく説明するなら,薬物依存者が薬物をやめようとするときに,これから先二度と手を出さないと決意するのではなく,とりあえず今日一日は使わないようにしようとする考え方,と言うことができるだろう。すなわち,先のことは先のこととして,いまはとにかくクスリを使わない,そうした時間を少しずつ積み重ねていくことによって,結果的に薬物をストップしようという考え方である。私自身,そして多くの仲間たちの経験からも,これが薬物をやめるためにとても効果のある,重要な方法論であることは間違いない。」(近藤恒夫「薬物依存を越えて 回復と再生のプログラム」46頁)
【★13】 「私は,薬物依存とは『痛み』と『寂しさの痛み』の表現だと受けとめている。『痛み』とは身体的な痛みで,『寂しさの痛み』とは自分は学校や社会の中で必要とされていない,役に立たないという気分の悪さ,疎外感(そがいかん),虚(むな)しさ……という心の痛みである。(略)もう一つ,薬物依存を理解するうえでキーワードとなるのは『恨(うら)み』の感情だ。薬物依存者の心の中は,自分ではコントロールできない恨みの感情で満ちている。薬物依存者は家庭や学校,職場で,自分の思い通りにならなかった体験をたくさん抱えている。コンプレックスと言い換えてもいい。(略)薬物依存は”人間関係性の病”とも呼ばれるが,それは恨みの感情からきているのだと思う。」(近藤恒夫「薬物依存を越えて 回復と再生のプログラム」2頁)
【★14】 「一般に,薬物乱用は青少年期に始まることが多いわけですが,ドナルド・イアン・マクドナルド(Donald Ian Macdonald)は薬物乱用の重症度を4つの段階に区分しております。…①気分変化を学ぶ段階 青少年はとくに仲間の影響(peer pressure)を受けやすく,たいていは仲間から誘われて薬物を使い始めます。また,好奇心や冒険心からも依存性薬物を試します。さらに親や社会への反抗として薬物を使ったり,虐待やいじめなど不当な扱いへの反応として使うこともあります。あるいは疎外感,孤独感,不全感,低い自己評価や自身のなさなどによる情緒障害を紛らすためにも,薬物を試します。ひとたび薬物を経験すると,薬物は『こころの痛み』や『からだの痛み』を和らげてくれ,『快の体験』をもたらす効果を持つので,その気分の変化を進んで学ぼうとします。この段階では,薬物は友人を介して入手し,主にグループで使用しています。徐々に使い方も慣れてうまくなり,週末ごとの使用にまで進行します。…②気分変化を求める段階 薬物の味をしめてくると,週末だけの使用から週数回使用頻度となり,薬物を入手するのに金を出して買うようになり,自宅で単独で使用することも見られます。…③気分変化に熱中する段階 薬物使用の頻度はほとんど毎日となり,いわゆる薬物にはまり込んだ状態です。…④正常を保つために使う段階 この段階は,強迫的に使用する状態に該当すると思われます。自分で止めようと思っても止められないものですから,そのみじめさを直視することが苦しくて,ひとたび使い出すと薬物がなくなるまで,集中的に使う段階に入ります」(小森榮「もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術」第19章「対談 薬物依存の治療と回復」小沼杏坪医師・小森榮弁護士)

2016年1月 1日 (金)

少年院ってどんなところ?

 

 少年院ってどんなところですか? 刑務所とどうちがうんですか?

 

 

 少年院は,犯罪をした子どもや,犯罪をするかもしれない子どもを,立ち直らせるための施設です【★1】。


 12歳や13歳の子どもでも,少年院に入ることは,ありえます【★2】

 しかし実際は,少年院に入る時の子どもの年齢は,16歳から19歳が,ほとんどです
【★3】【★4】


 少年院にいる期間は,1年くらいが基本です【★5】【★6】

 でも,本人の立ち直りが遅ければ,2年くらいまで伸びることもあります
【★7】

 (最初から半年以内を目安として少年院に送られるケースもあります
【★8】。)


 なので,18歳や19歳で少年院に入り,少年院の中で成人式を迎える,という人が,たくさんいます【★9】

 つまり,少年院の中には,20歳以上の人も多くいるのです。

 少年院にいられる上限は,22歳の最後の日までです
【★10】

 ただ,そのぎりぎりまで少年院にいることは,まずありません。



 病気などで医療が必要な人には,そのための少年院があり,

 そこは,25歳の最後の日までが,上限です
【★11】


 少年院も,刑務所と同じように,

 中のルールがとても厳しく,自由はとても少ないです。

 1日の生活の流れが決まっていて
【★12】

 他の人との私語もダメですし,

 号令にしたがって,きびきびと動かなければいけません
【★13】


 しかし,少年院は,刑務所とは,とても大きなちがいがあります。


 刑務所で受けるのは,仕事をさせられる「懲役(ちょうえき)」や,部屋の中で過ごす「禁錮(きんこ)」という,「刑罰」です【★14】

 でも,少年院で受けるのは,「刑罰」ではありません【★15】

 少年院で行われるのは,「教育」です
【★16】


 きちんとした社会のメンバーとなるための知識や態度を身につける生活指導では,

 職員と面接したり,日記・作文を書いたりして,自分自身と向き合います
【★17】

 働こうという気持ちを高めて,働くための知識や技術を身につける職業指導では,

 溶接や機械運転,パソコンなどの資格を取る人もいます
【★18】

 教科指導では,生活を送るうえで必要になる学力を身につけることができ,高卒認定試験を通る人もいます
【★19】


 そういった教育が,集団生活の中で行われます【★20】


 少年院の職員の人たちは,厳しく,そして熱く,子どもたちと向き合います【★21】


 家や学校,地域の中で,大人たちから大切な存在として扱われず,居場所がなかった子どもたち。

 その多くが,少年院での「教育」,職員との出会いとかかわりを通して,立ち直っていきます
【★22】

 そして,社会に戻るためのサポートを受けて,少年院から巣立っていきます
【★23】


 私たち弁護士は,犯罪をしてしまった子どもが,少年院に行かなくても社会の中で立ち直れるようにと,活動することが多いです。

 「少年院は,子どもが立ち直るための,一番最後の場所であって,

 かんたんに子どもを少年院に入れてはいけない」,

 世界も,そう確認しています
【★24】

 でも,少年院は,そういう一番最後のだいじな施設だからこそ,

 そこに入った子どもたちに,本当に真剣に向き合っています
【★25】


 少年院での「教育」が,刑務所の「刑罰」よりもラクだ,などということはありません。

 刑務所の「刑罰」は,その人をこらしめるためのもの,その人の外から押し付けられるものです。

 でも,少年院での「教育」は,その人が立ち直るよう,その人が自分自身の中から変わっていくことを,厳しく求められます
【★26】

 そこに甘やかしはありませんし,けっしてラクなものなどではありません。



 先日,私の引率で少年院を見学した大学1年生が,こう話してくれました。

 「たしかに厳しい環境だけれど,それより前に見学した刑務所とちがって,

  少年院は,全寮制の学校のような印象が,深く心に残った。

  ここで子どもたちが『育て直し』をされているのだと思った」。

 それは,18年前,私が大学1年生のときに,初めて刑務所と少年院の両方を見学して受けた印象と,同じです。



 ところが,

 そうやって少年院の現場を実際に訪れることもなく,

 少年院にいた人たちや,少年院の職員たちの話を知ろうともしないで,

 「大人とちがい,1年や2年のあいだ少年院にいるだけで社会に戻れるなんて,犯罪をおかした子どもに,法律は甘い。もっと厳しくするべきだ」,

 そう考える人がいます。



 もともとむかしから,事件によっては,20歳になっていない人でも,少年院ではなく刑務所に送られることは,ありました【★27】

 しかし,「法律が甘い」という声を受けて,子どもたちが刑務所に送られやすい方向に,これまでも少年法は変えられていました
【★28】


 そして,最近,選挙で投票できる年齢が20歳から18歳に引き下げられたのに合わせて,

 「少年法も改正して,少年院に入れる年齢の上限を下げて,

 犯罪をした18歳・19歳は,大人と同じ責任を負わせるべきだ」,

 そういう議論が出てくるようになりました。



 今の少年法なら,18歳・19歳に,少年院での最後の「育て直し」のチャンスがあります。

 でも,もし,そんなふうに少年法が改正され,少年院に入れる年齢の上限が下がってしまうと,

 犯罪をしても,裁判にかけられないままで終わってしまったり
【★29】

 裁判さえ終われば,あとはそのまま社会に放り出されるだけになってしまったり
【★30】

 刑務所で刑罰を押し付けられるだけになってしまったりして,

 最後の「育て直し」のチャンスがなくなってしまいます。



 そんな法改正が,はたして,

 それまで家・学校・地域できちんと大切にされず,居場所のなかった18歳・19歳にとって,良いことなのかどうか,

 私たちのこの社会にとって,本当に良いことなのかどうか,

 それを,実際に多くの18歳・19歳を「育て直し」ている少年院をよく見て,皆さんに考えてみてほしいと思います
【★31】

 

 

【★1】 子どもの場合は,犯罪をしていなくても,「犯罪をするかもしれない」というときには,少年院に送られることもあります。これを「ぐ犯」と言います。
少年法3条「次に掲(かか)げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。…
3.次に掲げる事由(じゆう)があって,その性格又(また)は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為(こうい)をする虞(おそれ)のある少年
 イ 保護者の正当な監督に服しない性癖(せいへき)のあること
 ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附(つ)かないこと
 ハ 犯罪性のある人若(も)しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること
 ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」
【★2】 少年法の厳罰化(げんばつか)の流れを受けて,平成19年(2007年)5月成立・同年11月施行の改正少年法で,少年院に送られる子どもの年齢が,12歳に引き下げられました。ただし,12歳,13歳は,特に必要がある場合だけ,少年院に送られることになっています。
 同法24条1項 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもって,次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし,決定の時に14歳に満たない少年に係る事件については,特に必要と認める場合に限(かぎ)り,第三号の保護処分をすることができる。(略) 三 少年院に送致すること」
【★3】 少年院に送る判断がされるのは,家庭裁判所の審判という手続の中です。この審判は,20歳を超えてしまうとできません。
 少年法2条1項 「この法律で『少年』とは,20歳に満たない者をいい…(略)」
 同法3条1項 「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に処する。(略)」
 同法19条2項 「家庭裁判所は,調査の結果,本人が20歳以上であることが判明したときは,……決定をもって,事件を管轄(かんかつ)地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致(そうち)しなければならない」
 同法23条3項 「第19条第2項の規定は,家庭裁判所の審判の結果,本人が20歳以上であることが判明した場合に準用(じゅんよう)する」
【★4】 少年矯正統計少年院2014年「9 少年院別 新収容者の年齢」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001136827
 平成26年の総数2872人のうち,12歳以下:1人,13歳:8人,14歳:171人,15歳:310人,16歳:566人,17歳:608人,18歳:602人,19歳:605人,20歳以上:1人
【★5】 平成26年の長期処遇(しょぐう)対象者のうち,仮退院までの平均在院日数は,397日でした(少年矯正(きょうせい)統計少年院2014年「40 少年院別 仮退院者の在院期間(長期処遇対象者)」)。http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001136827
【★6】 以前は,「長期処遇」「一般短期処遇」「特修短期処遇」という処遇区分がありましたが,平成26年(2014年)に成立し,平成27年(2015年)6月から施行されている新しい少年院法では,どのような矯正教育の内容を重点的に行うのか,その程度の期間を標準として矯正教育を行うのか,を規定した「矯正教育課程」のわくぐみに変わりました(少年院法30条。法務省矯正局編「新しい少年院法と少年鑑別所法」69頁)。
【★7】 法務大臣平成27年5月14日付「矯正教育課程に関する訓令(くんれい)」(法務省矯少訓第2号)の別表1の矯正教育課程の「標準的な期間」は,短期義務教育課程(SE)と短期社会適応課程(SA)以外,どれも「2年以内の期間」となっています。
 http://www.moj.go.jp/content/001151845.pdf
【★8】 〔★7〕の短期義務教育課程(SE)と短期社会適応課程(SA)の「標準的な期間」は,「6月以内」です。
 法務省矯正局長平成27年5月14日付「矯正教育課程に関する訓令の運用について(依命通達)」(法務省矯少第92号)「2 第1種少年院における在院者の矯正教育課程の指定」「(1)短期義務教育課程又は短期社会適応課程」「ア 一般的な取扱い 家庭裁判所において,送致すべき少年院として第1種が指定され,かつ,短期義務教育課程又は短期社会適応課程を履修(りしゅう)させるべき特性を考慮して,これらの矯正教育課程の標準的な期間(6月以内)を矯正教育の期間として設定することが適当であるとする旨の勧告が付された場合は,短期義務教育課程又は短期社会適応課程を指定すること。なお,少年院送致の保護処分歴がある場合には,短期義務教育課程又は短期社会適応課程の在院者の類型である『その者の持つ問題性が単純又は比較的軽く,早期改善の可能性が大きいもの』には該当しないこと」「イ 14歳未満の在院者について 14歳未満の在院者については,義務教育を終了しない者ではあるものの,原則として短期義務教育課程は指定しないが,次のいずれにも該当する場合において,相当と認めるときは,同課程を指定することができること。(ア)中学校2年生に該当する年齢であること。(イ)心身の発達の程度を考慮して14歳以上の在院者との同一の集団での矯正教育の実施に著しい支障が認められないこと」 http://www.moj.go.jp/content/001151846.pdf
【★9】 少年院法137条1項 「少年院の長は,保護処分在院者が20歳に達したときは退院させるものとし,20歳に達した日の翌日にその者を出院させなければならない。ただし,少年法第24条第1項第三号〔★10〕の保護処分に係る同項の決定のあった日から起算して1年を経過していないときは,その日から起算して1年間に限り,その収容を継続することができる」
 少年院送致決定から1年以上さらに収容する場合には,家庭裁判所が,収容継続審判をします。
 同法138条1項 「少年院の長は,次の各号に掲げる保護処分在院者について,その者の心身に著しい障害があり,又はその犯罪的傾向が矯正されていないため,それぞれ当該各号に定める日を超えてその収容を継続することが相当であると認めるときは,その者を送致した家庭裁判所に対し,その収容を継続する旨の決定の申請をしなければならない。 一 前条第1項本文の規定により退院させるものとされる者 20歳に達した日 二 前条第1項ただし書の規定により少年院に収容することができる期間…が満了する者 当該期間の末日」
 同条2項 「前項の申請を受けた家庭裁判所は,当該申請に係る保護処分在院者について,その申請に理由があると認めるときは,その収容を継続する旨の決定をしなければならない。この場合においては,当該決定と同時に,その者が23歳を超えない期間の範囲内で,少年院に収容する期間を定めなければならない」
【★10】 少年院法4条1項 「少年院の種類は,次の各号に掲げるとおりとし,それぞれ当該各号に定める者を収容するものとする。
 一 第1種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著(いちじる)しい障害がないおおむね12歳以上23歳未満のもの(次号に定める者を除く。)
 二 第2種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね16歳以上23歳未満のもの
 三 第3種 保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満のもの
 四 第4種 少年院において刑の執行を受ける者」
【★11】 以前は「医療少年院」と呼んでいたもので,今は「第3種」の少年院です(少年法4条1項三号。〔★10〕)。
 少年院法139条1項 「少年院の長は,次の各号に掲げる保護処分在院者について,その者の精神に著(いちじる)しい障害があり,医療に関する専門的知識及び技術を踏(ふ)まえて矯正教育を継続して行うことが特に必要であるため,それぞれ当該各号に定める日を超えてその収容を継続することが相当であると認めるときは,その者を送致した家庭裁判所に対し,その収容を継続する旨(むね)の決定の申請をしなければならない。 一 家庭裁判所が前条第2項…の規定により定めた少年院に収容する期間が23歳に達した日に満了する者 23歳に達した日 二 家庭裁判所が次項…の規定により定めた少年院に収容する期間(当該期間の末日が26歳に達した日である場合を除く。)が満了する者 当該期間の末日」
 同条2項 「前項の申請を受けた家庭裁判所は,当該申請に係る保護処分在院者について,その申請に理由があると認めるときは,その収容を継続する旨の決定をしなければならない。この場合においては,当該決定と同時に,その者が26歳を超えない期間の範囲内で,少年院に収容する期間を定めなければならない」
【★12】 多摩少年院の場合の一日の流れは次のとおりです(同院パンフレット)。
  7:00 起床
  7:30 洗面,身辺整理,朝食,役割活動
  9:00 朝礼
  9:15 教育活動
 12:00 昼食
 13:30 教育活動
 17:00 夕食
 18:00 集会,教養講話
 19:00 自己計画学習,日記記入
 20:00 テレビ視聴
 21:00 1日の反省
 21:15 就寝
【★13】 「僕が入っていた当時の少年院はどんな場所だったのかというと。
 一,少年院の中では基本的に私語厳禁。『あつい』『きつい』などの独り言もダメ。
 一,院生同士での手紙のやり取り,目で合図を送るなどの通信は禁止。
 一,廊下を歩く際には,スリッパをペタペタさせない。また,よその部屋を覗(のぞ)かない。
 一,集団トイレの使用は,各部屋ごとに決められた時間で用を済ますこと。
 一,テレビ鑑賞の時間は,大きな声で笑わない。
 一,就寝時は,眠りに入るまで天井を向いて目を閉じること。
 生活面の規則は,他にもまだたくさんあった。その上,院内では部屋から一歩外へ出ると,次のような集団行動を行わなければならなかった。
 一,『気をつけ』の姿勢は背筋をピンと張って,両手の中指をズボン横の縫(ぬ)い目に沿わせる。
 一,『前へならえ』の姿勢は,ならえの『な』の号令が聞えると同時に,素早く両手を前へ出す。この時,親指は曲げて,手の平にくっ付けておく。
 一,『礼』の姿勢は,背筋を張ったまま上半身を斜め45度に倒す。視線は3歩先を見るようにし,心の中で『1,2,3』と数えた後,サッと頭を上げる。
 規則を数えればきりがないが,このような生活を日々実践(じっせん)させられるわけだ。
 だが,少年院はこればかりではない。『ハイ!』『有難うございます!』『失礼します!』『すみません!』と力いっぱい大きな声で返事をしなければならず,教官は僕たちに徹底して躾(しつけ)を教え込んだ」(「セカンドチャンス!人生が変わった少年院出院者たち」(新科学出版社)126頁,吉永拓哉「少年院卒元ヤンブラジル新聞記者の人生」)
【★14】 刑法9条 「死刑,懲役(ちょうえき),禁錮(きんこ),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
 同法12条2項 「懲役は,刑事施設に拘置(こうち)して所定(しょてい)の作業を行わせる」
 同法13条2項 「禁錮は,刑事施設に拘置する」
【★15】 ただし,一応法律上は,少年院で刑の執行を受けることも,ありうることになってはいます。これは,少年法の厳罰化の流れを受けて,平成12年(2000年)11月改正・平成13年(2001年)4月施行の改正少年法で,14歳・15歳も大人と同じ刑事裁判を受けて刑罰を受けることがありうるとされたことに関連します。いままでも16歳以上の子どもが大人と同じ刑罰を受けることはありました。その場合,少年刑務所という,大人とは違う刑務所で,刑の執行を受けます。しかし,14歳・15歳の子どもは,刑の執行を受けるとはいっても,まだ教育が必要な年齢です。なので,16歳にまるまでは少年院で刑の執行を受けることとし,その間は「矯正教育を授ける」ということになったのです。少年院法4条1項〔★10〕の第4種の少年院が,これにあたります。ただし,この記事を書いている現時点で,この規定に基づいて少年院で刑の執行を受けている人はいません。
 少年法56条1項 「懲役又は禁錮の言渡しを受けた少年…に対しては,特に設けた刑事施設又は刑事施設若しくは留置施設内の特に分界を設けた場所において,その刑を執行する」
 同条3項 「懲役又は禁錮の言渡しを受けた16歳に満たない少年に対しては,…16歳に達するまでの間,少年院において,その刑を執行することができる。この場合において,その少年には,矯正教育を授ける」
【★16】 少年院法3条 「少年院は,次に掲げる者を収容し,これらの者に対し矯正教育その他の必要な処遇を行う施設とする。(略)」
【★17】 少年院法24条1項 「少年院の長は,在院者に対し,善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる知識及び生活態度を習得させるため必要な生活指導を行うものとする」
【★18】 少年院法25条1項 「少年院の長は,在院者に対し,勤労意欲を高め,職業上有用な知識及び技能を習得させるため必要な職業指導を行うものとする」
【★19】 少年院法26条1項 「少年院の長は,学校教育法…に定める義務教育を終了しない在院者その他の社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる在院者に対しては、教科指導(同法による学校教育の内容に準ずる内容の指導をいう。…)を行うものとする」
【★20】 少年院法38条1項 「矯正教育は,その効果的な実施を図るため,在院者が履修すべき矯正教育課程,第16条に規定する処遇の段階その他の事情を考慮し,在院者を適切な集団に編成して行うものとする」
【★21】 少年院の職員である「法務教官」の皆さんの具体的な話が,毛利甚八著「少年院のかたち」(現代人文社)で読むことができます。
【★22】 少年院を出た人たちが,互いの経験や未来を共有したりして語り合う場として,「NPO法人セカンドチャンス!」を立ち上げています(http://secondchance-tokyo.jimdo.com/)。少年院を出た人たち一人ひとりの話が,「セカンドチャンス!人生が変わった少年院出院者たち」(新科学出版社)で読むことができます。
【★23】 少年院法44条1項 「少年院の長は,在院者の円滑な社会復帰を図るため,出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者に対しては,その意向を尊重しつつ,次に掲げる支援を行うものとする。(略)」
【★24】 少年司法運営に関する国連最低基準規則(1985年,通称「北京ルールズ」)18条1 「権限を有(ゆう)する機関にとって,きわめて多様な処遇方法が利用できなければならない。可能なかぎり最大限,施設収容をさけるために,柔軟性が認められなければならない」
 同規則19条 「少年の施設収容処分は,常に,最後の手段であり,かつ,その期間は必要最小限度にとどめられなければならない」
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)40条1項 「締約国(ていやくこく)は,刑法を犯したと申し立てられ,訴追(そつい)され又は認定されたすべての児童が尊厳(そんげん)及(およ)び価値についての当該児童の意識を促進(そくしん)させるような方法であって,当該児童が他の者の人権及び基本的自由を尊重することを強化し,かつ,当該児童の年齢を考慮し,更(さら)に,当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める」
 同条4項 「児童がその福祉に適合し,かつ,その事情及び犯罪の双方に応じた方法で取り扱われることを確保するため,保護,指導及び監督命令,カウンセリング,保護観察,里親委託,教育及び職業訓練計画,施設における他の措置等の種々の処置が利用し得るものとする」
【★25】 しかし,平成21年(2009年),広島少年院で法務教官たちが少年院に入っている人たちに暴力をふるっていたことが明らかになりました。少年院法という法律は,もともとは,条文の数が少ない法律で,昭和24年(1949年)に施行されてからこれまで,大幅な改正が一度もされずにいたのですが,広島の事件がきっかけとなって,平成26年(2014年)に少年院法が大きく変わりました(平成27年(2015年)6月から施行)。報道では,「初等少年院/中等少年院」「特別少年院」「医療少年院」という名前を「第1種」「第2種」「第3種」に変えたことのほうが取り上げられていますが(「特別少年院」という名前が子どもたちの間で一種のステータスになっていたから,という事情もありました),広島少年院の事件が法改正のきっかけだったことからすれば,少年院にいる人たちの取り扱いについて法律できちんとルールが決められたこと,処遇に不満がある場合の救済のしくみや,外部の人が少年院の状況をチェックするしくみができたことのほうが,重要です。
【★26】 「少年院や保護観察などの教育方法は,少年の生活意識や態度を根本から改めさせるために,少年自身の努力によって非行性を克服させようとするものであり,少年自身にとって非常に厳しい自己錬磨が要求されるのです。そこには甘やかしの要素はほとんど入ってきません。刑罰が,その懲罰的な性格により他律的改善を図る手段であるとすると,保護処分は,自律的改善を少年に強制する手段だということになります」(澤登俊雄「少年法」8頁)
【★27】 大人と同じ裁判にかけるために,事件を家庭裁判所が検察官に送るので,「検察官送致(けんさつかんそうち)」と言います。事件はもともと検察官から家庭裁判所に来ていたもので,それを家庭裁判所が検察官に戻すため,「逆送(ぎゃくそう)」という言い方もします。そして,逆送を受けた検察官が,刑事訴訟を起こします。
 少年法20条1項 「家庭裁判所は,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」
 同法45条 「家庭裁判所が,第20条の規定によって事件を検察官に送致したときは,次の例による。…… 五 検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,公訴(こうそ)を提起(ていき)するに足りる犯罪の嫌疑(けんぎ)があると思料(しりょう)するときは,公訴を提起しなければならない。…(以下略)」
【★28】 むかしは,16歳以上の子どもでなければ逆送はできませんでした。また,16歳以上の非常に重い犯罪でも,事情によっては,必ずしも逆送されるとはかぎりませんでした。
 しかし,大人たちが「少年法は甘い,厳しくするべきだ」と考えた結果,2000年(平成12年)に法律が変えられ,14歳・15歳の子どもでも逆送されうることになり,また,16歳以上の子どもで故意に(わざと)人を死なせた犯罪のときには,必ず逆送しなければならない,というように,厳しくなりました。
 少年法20条2項「前項の規定にかかわらず,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係(かか)るものについては,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない」
【★29】 20歳になっていない人の刑事事件については,犯罪をした疑いがないかぎり,すべて家庭裁判所に送られます(「全件送致主義」と言います)。
 少年法42条1項 「検察官は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,…これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも,家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは,同様である」
 ところが,20歳以上の人の刑事事件については,検察官は,必ず裁判にかけなければいけないわけではありません。これを「起訴便宜主義(きそべんぎしゅぎ)」と言います。
 刑事訴訟法248条 「犯人の性格,年齢及(およ)び境遇(きょうぐう),犯罪の軽重(けいちょう)及び情状並(なら)びに犯罪後の情況により訴追(そつい)を必要としないときは,公訴を提起しないことができる」
【★30】 少年事件では,家庭裁判所の審判で,少年院には送られずに社会に戻ってよいとされる場合でも,定期的に地元の保護司のところに通う「保護観察処分」となることがほとんどです。
 少年法24条1項 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもって,次に掲げる保護処分をしなければならない。… 一 保護観察所の保護観察に付すること。(略)」
 しかし,大人の裁判では,「これから数年間まじめに暮らしていれば刑務所に行かなくてもよい」という執行猶予(しっこうゆうよ)の判決であれば,それで終わりです。大人の裁判でも「保護観察」を付けることはありますが,そういう判決になることはとても少ないのが実際です。
 刑法25条1項 「次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その執行を猶予することができる。 一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者 二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」
 同条2項 「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。(略)」
 同法25条の2第1項 「前条第1項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ,同条第2項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する」
【★31】 日弁連2015年(平成27年)2月20日「少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2015/opinion_150220_2.pdf

2015年8月 1日 (土)

彼女が電車で痴漢に遭った

 

 付き合っている彼女が,昨日,電車で痴漢(ちかん)に遭(あ)いました。その場で叫(さけ)んだので,犯人は捕まったみたいです。彼女は警察で長時間事情を聞かれたのに,また明日も警察に呼ばれてるそうで,「ほんとうは行きたくない」と悩んでます。行かなくても特に問題はないんですか。あと,僕からは彼女に,これからは,電車に乗る時間を変えるとか,女性専用車を使うようにとか,スカートを少し長めにしたら,とアドバイスしたんですが,僕が彼女のためにほかにできることはありますか。

 


 自分の大切なパートナーが痴漢の被害に遭ったと聞いて,

 びっくりし,腹立たしい気持ちになりましたよね。



 きっと彼女も,

 気持ち悪さや戸惑(とまど)い,怒りや悔しさなど,

 いろんな気持ちがわきあがっただろうと思います。



 痴漢の被害を受けた人は,なかなか声を上ることができません。

 そして,それをいいことに,犯人たちは痴漢をくりかえしています。

 多くの10代の女性が,痴漢の被害に遭っています
【★1】

 今回,彼女が勇気を出して声を上げたことは,

 彼女自身を守るだけでなく,

 ほかの人たちを守ることにもつながる,すごいことです。



 痴漢の被害に遭ったことに,「それはいやだったよね」と,彼女の気持ちに寄り添うこと。

 そして,勇気を出して声を上げたことに,「すごいね,大変だったね」と言葉をかけること。

 それが,あなたが彼女のためにできること,彼女のためにしてほしいことです。


 そういった共感は,

 法律の手続のアドバイスと同じくらい,あるいはそれ以上に,

 被害を受けた人の心の支えになります。

 私たち弁護士も,犯罪の被害に遭った人の相談を受けるときには,

 「共感すること」を,とてもだいじにしています。



 電車に乗る時間を変えるとか,

 女性専用車を使うようにするとか,

 そういうアドバイスは,今後痴漢に遭わないようにするためには,たしかに意味のある対策かもしれません。



 でも,今回彼女が痴漢に遭ったのは,彼女のせいではありません。

 悪いのは,痴漢をした犯人のほうです。



 相手に共感する言葉がないままのアドバイスだと,

 それを言われたほうは,

 「痴漢に遭ったのは,そうしなかった自分の落ち度だ」と,

 責(せ)められているように感じられることがあります。

 被害じたいで傷ついているのに,身近な人の言葉で,さらに傷ついてしまうのです。



 「女性のがわにも,落ち度があったんじゃないの」。

 この社会では,女性が受けた性的な被害について,そういう根拠のない偏見(へんけん)を言う人が,たくさんいます。

 その偏見に傷ついている人が多くいるということを,ぜひ,心にとめておいてください。

 そして,あなたの思いが,そういった偏見と同じと誤解されないように,

 「アドバイス」よりも,彼女に共感する言葉のほうを,かけるようにしてください。




 痴漢の犯人と疑われた人の,その後の処分には,いろんなパターンがあります。

 その人が20歳以上なら,次のようなパターンがあります。




 「人ちがいだった」とか「証拠が足りない」という理由で裁判にかけられずに終わったり
【★2】

 「痴漢をしたけども,十分に反省しているし,被害者にも謝っている」という理由で,裁判にかけられずに終わることもあります
【★3】


 痴漢をしたことを認めている場合には,

 書類だけの簡単な裁判で,罰金を払って釈放される手続もあります
【★4】

 簡単な裁判ではあっても,罰金も刑罰ですから,前科として扱われます
【★5】


 「痴漢の程度がひどい」,「犯罪をくりかえしている」,「痴漢をしたことがはっきりしているのに,いろいろ弁解して反省していない」など,

 いろんな事情から,ふつうの刑事裁判を受けることもあります
【★6】



 あなたの彼女は,長い時間警察から事情を聞かれたのに,また警察に呼ばれている,ということでしたね。



 裁判で犯人を処罰するためには,

 「この人がこんな犯罪をした」ということが,しっかり証明できていないといけません。

 その証明のハードルは,とても高いのです
【★7】

 痴漢は,証拠が残りにくい犯罪です。

 そして,混んでいる電車では,犯人の取り違えが起きてしまうこともあります。

 やってもいない犯罪で処罰される「冤罪(えんざい)」は,あってはならないことです
【★8】

 だから,警察は,犯人と疑われている人と,被害を受けた人,それぞれの言い分を,慎重に調べなければいけません。

 あなたの彼女が,また警察に呼ばれているのも,そのためです。



 でも,被害を受けたときのことを何度も長い時間聞かれるのは,とてもつらいことですよね。

 被害を受けた人が,警察に話をするかどうかは,あくまで自由です。

 彼女が「話したくない」ということであれば,警察に断ってもかまいません。

 また,話すとしても,こちらの事情を説明して,警察にいろいろ配慮してもらうように求めてもかまいません
【★9】


 もしかしたら,犯人についた弁護士から,彼女や彼女の親に連絡があるかもしれません。

 犯人が,痴漢をしたことを認めていて,お金を払うことで謝りたい,という連絡です。

 そういう話し合いを,「示談(じだん)」と言います。

 示談は,法律的な約束ごとですから,

 彼女がまだ20歳でなければ,相手の弁護士との話し合いは,彼女一人でするのではなく,彼女の親といっしょに進めていくことになります
【★10】


 これから先,いろんな場面で,彼女がどのように対応していけばよいかについて,

 犯罪の被害に詳しい弁護士からアドバイスを受けたり,その弁護士に依頼したりすることもできます。

 あなたから彼女に,そういった窓口を伝えるのも,よいと思います
【★11】


 被害を受けてつらい思いをしているパートナーの気持ちに,ぜひ,しっかりと寄り添ってください。



 私は,痴漢をなくしていかなければならない,と思うとともに,

 皆さんが,学校を卒業し働き始めてこれから先何十年もずっと,満員電車に乗らなければならない社会であってはいけないとも,思っています。



 見知らぬ人どうしが,ぎゅうぎゅうにくっつくことに耐えなければいけない満員電車は,それじたいが,人間の暮らしとして,異常なことです【★12】【★13】

 ましてや,その中で,

 痴漢というひきょうな犯罪が起きやすくなり,

 その被害でつらい思いをする人々が,たくさんいて,

 時には,痴漢の犯人に間違われて大変な思いをする人もいます。

 混んでいる駅の中で,駅員に対する暴力や,人身事故も,多く起きています。

 満員電車での通勤の負担が,過労死の原因になっているケースも,多くあります。



 今回のことをきっかけにして,

 満員電車が当たり前の風景になってしまっていてよいのか,

 一人ひとりが大切にされる社会のありかたについても,

 考えてみてほしいと思っています。

 

【★1】 平成22年1月8日から15日,4月15日から21日,9月6日から10日に,首都圏で検挙された痴漢のケースで,被害者は15~19歳が全体の約半分(49.7%)にも及んでいました。(平成23年3月警察庁・痴漢防止に係る研究会「電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書」)
【★2】 裁判にかけるかどうかを判断する人は,「検察官(けんさつかん)」です。「警察官」と発音が似ているのでややこしいですが,別の人です。検察官は,弁護士や裁判官と同じように,法律家です。警察と協力しながら事件を捜査し,ずっとつかまえるか外に出すかを決めたり,犯人の処分を求めて裁判所の手続をとったりします。裁判にかけないことを「不起訴処分(ふきそしょぶん)」と言います。その人が犯人でないとはっきりしたなら「嫌疑なし」,証拠が足りないなら「嫌疑不十分(けんぎふじゅうぶん)」による不起訴処分です。
【★3】 検察官は,必ず犯人を裁判にかけなければいけないわけではありません。これを「起訴便宜主義(きそべんぎしゅぎ)」と言います。
 刑事訴訟法248条 「犯人の性格,年齢及(およ)び境遇(きょうぐう),犯罪の軽重(けいちょう)及び情状並(なら)びに犯罪後の情況により訴追(そつい)を必要としないときは,公訴を提起しないことができる」
 本文のような不起訴処分を,「起訴猶予(きそゆうよ)」と言います。
【★4】 「略式手続(りゃくしきてつづき)」と言います。
 刑事訴訟法461条 「簡易裁判所は,検察官の請求により,その管轄(かんかつ)に属する事件について,公判前,略式命令で,100万円以下の罰金又は科料(かりょう)を科(か)することができる。…」
 同法461条の2第1項 「検察官は,略式命令の請求に際し,被疑者に対し,あらかじめ,略式手続を理解させるために必要な事項(じこう)を説明し,通常の規定に従(したが)い審判を受けることができる旨を告げた上,略式手続によることについて異議(いぎ)がないかどうかを確めなければならない」
【★5】 刑事訴訟法470条 「略式命令は,正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により,確定判決と同一の効力を生ずる。…」
 刑法9条 「死刑,懲役(ちょうえき),禁錮(きんこ),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
【★6】 痴漢は,多くの場合,都道府県の条例(迷惑防止条例)に違反したとして処罰されます。条例違反の場合,罰金刑があるので,略式手続をとることができます。しかし,痴漢の程度がひどければ,刑法の「強制わいせつ罪」で処罰されます。強制わいせつ罪には罰金刑がないので,略式手続がとれず,ふつうの刑事裁判を受けることになります。なお,強制わいせつ罪は,被害者から「犯人を処罰してください」という「告訴(こくそ)」がなければ,刑事裁判をすることはできません(「親告罪(しんこくざい)」と言います。被害者が未成年の場合は親が告訴することもできます)。
 (東京都)公衆に著(いちじる)しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例5条1項 「何人(なんぴと)も,正当な理由なく,人を著しく羞恥(しゅうち)させ,又は人に不安を覚えさせるような行為(こうい)であって,次に掲(かか)げるものをしてはならない。 一 公共の場所又は公共の乗物において,衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。…」
 同条例8条1項 「次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。… 二 第5条第1項…の規定に違反した者」
 刑法176条 「13歳以上の男女に対し,暴行又は脅迫(きょうはく)を用いてわいせつな行為をした者は,6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し,わいせつな行為をした者も,同様とする」
 同法180条 「第176条から第178条までの罪及びこれらの罪の未遂罪(みすいざい)は,告訴がなければ公訴(こうそ)を提起(ていき)することができない」
 刑事訴訟法230条 「犯罪により害を被(こうむ)った者は,告訴をすることができる」
 同法231条1項 「被害者の法定代理人は,独立して告訴をすることができる」
【★7】 最高裁判所第一小法廷昭和23年8月5日判決・刑集2巻9号1123頁 「元来(がんらい)訴訟上の証明は,自然科学者の用いるような実験に基(もとづ)くいわゆる論理的証明ではなくして,いわゆる歴史的証明である。論理的証明は『真実』そのものを目標とするに反し,歴史的証明は『真実の高度な蓋然性(がいぜんせい)』をもって満足する。言いかえれば,通常人なら誰でも疑(うたがい)を差挾(さしはさ)まない程度に真実らしいとの確信を得ることで証明ができたとするものである」
【★8】 実際に痴漢冤罪(えんざい)が問題になったケースとして,矢田部孝司・あつ子「お父さんはやってない」(2006年,太田出版)と,その実話をベースとした映画「それでも僕はやってない」(2007年,周防正行監督)があります。
【★9】 犯罪捜査規範10条の2第1項 「捜査を行うに当たっては,被害者又はその親族…の心情を理解し,その人格を尊重しなければならない」
 同条2項 「捜査を行うに当たっては,被害者等の取調べにふさわしい場所の利用その他の被害者等にできる限り不安又は迷惑を覚えさせないようにするための措置を講じなければならない」
【★10】 親にチェックしてもらい,親のOK(=同意)をもらったうえで示談をするか,または,親に代わりに(=代理人として)示談してもらうことが必要です。
 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
 同法824条「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。…」
【★11】 各弁護士会の犯罪被害者法律相談窓口 http://www.nichibenren.or.jp/contact/crime_victims/whole_country.html
 法テラス犯罪被害者支援 0570-079714 (http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/index.html
【★12】 法律は,一人ひとりが,大切な人間として尊重されること,物や人形や奴隷ではなく,人間として大切にされることを,だいじにしています。
 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
 憲法18条 「何人(なんぴと)も,いかなる奴隷的拘束(どれいてきこうそく)も受けない。…」
 1987年(昭和62年)に過労死で亡くなった八木俊亜さんは,亡くなる前のノートに,次のように書いていました(八木光恵「さよならも言わないで 『過労死』したクリエーターの妻の記録」45頁,双葉社)。
 「人はただ奴隷的に存在する安逸(あんいつ)さになれてしまう。人間の奴隷的存在について考えてみよう。かつての奴隷たちは奴隷船につながれて新大陸へと運ばれた。超満員の通勤電車のほうがもっと非人間的でないのか。現代の無数のサラリーマンたちはあらゆる意味で,奴隷的である。金にかわれている。時間で縛られている。上司に逆らえない。賃金もだいたい一方的に決められる。ほとんどわずかの金しかもらえない。それも欲望すらも広告によってコントロールされている。肉体労働の奴隷たちはそれでも家族と食事をする時間がもてたはずなのに。」
【★13】 宮尾節子さんの詩「明日戦争がはじまる」は,「まいにち 満員電車に乗って 人を人とも 思わなくなった」という出だしで始まっています。 https://twitter.com/sechanco/status/425897118599901184/photo/1

2015年2月 1日 (日)

少年事件で実名報道されないのはどうして

 

 子どもがやった犯罪だと,新聞やテレビのニュースで,犯人の名前や顔が出ないのは,どうしてですか?

 

 

 新聞やテレビのニュースでは,

 犯罪をしたときに20歳になっていない人の,名前や顔が,出てきませんね。


 少年法という法律が,「その子がだれかわかるような記事や写真を載せてはいけない」と,決めています【★1】

 「犯罪をした子どもの情報を流さないようにしよう」というのは,

 日本だけではなく,世界の国々とのあいだで確認していることです【★2】


 子どもでも,大人でも,

 犯罪をしてしまったら,

 きちんと罪をつぐなって,

 立ち直っていくことが必要です。


 でも,立ち直ろうとしても,

 どこに行っても,だれもが,その人の名前や顔を知っていて,

 「この人は犯罪をした人だ」と,かんたんにわかってしまうと,

 その人が仕事や家を探すときに,断られてしまったり,

 いろんな人たちと知り合っていくときに,避(さ)けられてしまったりします。

 きちんとした仕事や家や人間関係を持てない,自分の「居場所」がない暮らしでは,

 立ち直っていくことが,難しくなります。


 犯罪をしてしまい,ニュースで名前が出てしまった大人たちに,

 私は弁護士として,たくさん接しています。

 その人たちは,きちんと自分の罪をつぐなっても,

 名前をインターネットで検索すると,いつまでも事件の記事が出てしまうので【★3】

 仕事や家を探したり,人と出会ったりするときに,いろんな壁にあたってしまい,

 立ち直っていくのが,ほんとうに大変です。


 居場所のない,つらい暮らしが続いて,

 立ち直ることが難しいと,

 また犯罪に手をそめてしまうことにも,なりかねません。

 もし,そんなことになれば,

 新たな被害者が傷つき,

 立ち直れなかったその人もまた傷つき,

 そして,一人ひとりが大切にされるはずの,私たちのこの社会じたいが,傷ついてしまうのです。


 大人ですら,名前や顔がニュースに出てしまうと,そういう大変さがあります。

 ましてや,子どもは,

 大人よりも傷つきやすいし,

 これから先,良い方向に人間が変わっていける力を,大人よりも持っている。

 だから,子どもが犯罪をしてしまったとき,

 その子の名前や顔を,ニュースに出さないようにしよう。

 法律は,そう考えています【★4】


 なので,新聞や雑誌,テレビやラジオはもちろん,インターネットでも,

 犯罪をしてしまった子どもの名前や顔などを載せることは,してはいけません【★5】


 この,「子どもの名前や顔を載せてはいけない」というルールを破っても,

 そのことじたいは,犯罪にはなりません。


 しかし,まったく責任を負わなくてよいわけではありません。

 「名前や顔を載せた」という理由ではなく,

 「その子どもの名誉(めいよ)を傷つけた」という理由で,犯罪として処罰されることはありえますし
【★6】

 「名誉やプライバシーを傷つけた」という理由で,損害賠償(そんがいばいしょう)というお金を支払わないといけなくなることもありえます【★7】


 ただ,実際(じっさい)には,

 そのような処罰や損害賠償を,裁判所は,そんなにかんたんに認めません。


 「子どもが起こしてしまった犯罪に,私たちの社会が,どう向き合うか」。

 「二度とこのような不幸な事件が起きないように,私たちの社会が,どう取り組むか」。

 それらを考えるためには,私たちが真実を知ることが必要です。

 そして,私たちが真実を知るためには,

 新聞,雑誌,テレビなどのマスコミが,できるかぎり自由に,ニュースを流せることが大切です。

 「知る権利」や「報道の自由」は,とても大切なものとして,守られています
【★8】


 なので,

 「犯罪をした子どもが立ち直っていけるようにすること」と,

 「私たちが真実を知るために,マスコミが自由にニュースを流せること」,

 その,どちらもだいじなふたつのバランスを,どうやってとるか。

 それを,裁判所は,

 事件のなかみや,ニュースの流されかたなど,いろんなことを考えて,

 子どもの名前や顔が出てしまった一つひとつのケースごとに,判断しています【★9】


 でも,

 「知る権利」や「報道の自由」がだいじな理由は,

 ものごとを知ったり,考えたり,話し合ったりすることが,

 「どんな人も,一人ひとりが,大切な存在(そんざい)として扱(あつか)われ,尊重(そんちょう)される」,

 そういう社会を,築き,守っていくために,必要だからです
【★10】

 それなのに,その「知る権利」や「報道の自由」のために,

 立ち直っていくべき人が,大切な存在として扱われない,尊重されない,というのでは,ちぐはぐなことです。



 「私たち社会が,事件にどう向き合い,これからどう取り組んでいくべきか」,

 それをみんながまじめに考えるときに,

 犯罪をした人の名前や顔を知ることまで,ほんとうに必要でしょうか。

 名前や顔がわからなければ,まじめに考えたり議論したりすることが,できないのでしょうか。


 そんなことはないはずです。

 私は,弁護士として,実際に起きた事件をもとに,この社会のありかたを議論する仕事も,しています。

 そういう活動をしていく中で,


 「名前や顔がわからなくても,事件の中身をきちんと知ることで,みんなで一生懸命考えていくことはできる」,

 そう実感しています。

 みなさんにも,同じように,実際に議論してみてほしいと思うのです。


 私は,犯罪の被害を受けた人のがわに立って仕事をすることも,多くあります。

 犯罪の被害を受けた人は,

 「自分の苦しみはずっと先も続いていくのに,

 犯罪をしたがわが,ふつうに暮らしていけるのは,おかしい。

 自分と同じように,ずっと苦しみ悩むべきだ」,

 そう考えるほど,つらい思いをしています。

 その被害者の思いを伝え,加害者にずっと事件に向き合わせるためには,

 名前や顔をみんなに知らせて,社会の中の居場所をなくす,というやり方ではなくて,

 話し合いや裁判という方法を通して,きちんと責任をとらせ,罪をつぐなわせることが,だいじだと思います。


 犯罪をした子ども,被害を受けた人,私たちの社会,

 それらについて一生懸命考えようとするのではなく,

 たんなる興味本位(きょうみほんい)で犯人の名前や顔を知りたいだけ,という人が,

 残念ながら,たくさんいます。


 そういう人が多い中では,

 犯罪をしてしまった人は,居場所のないままで,立ち直っていくことが難しいですし,

 社会のありかたもまじめに議論されないままで,また別の悲しい事件が起きてしまいます。



 事件を起こした子どもの名前や顔を知ることよりも,

 「なぜその子どもが犯罪をしてしまったのか」を知り,

 それをふまえて,「どうしたら子どもたちが犯罪をしない社会にできるのか」をまじめに考えること,

 それこそが,この社会にとって一番必要なことだと,私は思います【★11】【★12】

 

 

【★1】 少年法61条「家庭裁判所の審判に付(ふ)された少年又(また)は少年のとき犯した罪により公訴(こうそ)を提起(ていき)された者については,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等によりその者が当該(とうがい)事件の本人であることを推知(すいち)することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載(けいさい)してはならない」
 条文をそのまま見ると,警察に逮捕されてから家庭裁判所に送られるまでの間の捜査(そうさ)の段階では掲載してもいいように読めますね。しかし,それではこの条文がまったく無意味になってしまうので,捜査の段階でも,名前などを掲載してはいけません(田宮裕・廣瀬健二「注釈少年法(改訂版)」432頁)。
 警察も,自分たちのルールで,「捜査の段階でも,子どもの名前などをマスコミに流してはいけない」としています。
 犯罪捜査規範209条「少年事件について,新聞その他の報道機関に発表する場合においても,当該少年の氏名又は住居を告(つ)げ,その他その者を推知することができるようなことはしてはならない」
【★2】 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)40条1項「締約国(ていやくこく)は,刑法を犯したと申し立てられ,訴追(そつい)され又は認定されたすべての児童が尊厳(そんげん)及び価値についての当該児童の意識を促進(そくしん)させるような方法であって,当該児童が他の者の人権及(およ)び基本的自由を尊重することを強化し,かつ,当該児童の年齢を考慮し,更(さら)に,当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担(にな)うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める」
 同条2項「このため,締約国は,国際文書の関連する規定を考慮して,特に次のことを確保する。 (略) (b) 刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童は,少なくとも次の保障(ほしょう)を受けること。 (略) (vii) 手続のすべての段階において当該児童の私生活が十分に尊重されること」
 また,「少年司法運営に関する国連最低基準原則」(通称「北京ルールズ」。条約ではなく,国連での決議です)でも,8条で,「1.少年のプライバシーの権利は,不当な公表やラベリングによって生(しょう)ずる害を避(さ)けるために,あらゆる段階で尊重されなければならない。2.原則として,少年犯罪者の特定に結びつきうるいかなる情報も公表してはならない」(訳:比較少年法研究会)としています。
【★3】 新聞や雑誌のすべての記事を,社会のほとんどの人がいつまでも覚えている,ということは,とても難しいことですから,これまでは,それでもよかったかもしれません。そういうふうに裁判所が言った判決もあります(大阪高等裁判所平成12年2月29日・判例時報1710号121頁。「被控訴人(ひこうそにん)を知らない一般市民が被控訴人の実名を永遠に記憶しているとも思えないし,仮に一部の市民が被控訴人の名前を記憶していたとしても,そのことによって直ちに被控訴人の更正が妨げられることになるとは考え難(がた)い。」)
 しかし,今は,インターネットが広がり,どんな小さな報道も,いつまでもすぐに検索ができるような時代になってしまいました。このため,特にヨーロッパを中心にして,「忘れられる権利」という考え方が出てきていて,自分の記事が検索されないようにすることを認める判決も出ています(EU司法裁判所2014年5月13日判決)。日本では,京都地方裁判所平成26年8月7日判決が,インターネットの検索結果に記事が出ないように求めた原告の訴えを認めませんでした。ただ,京都の裁判のケースは,事件からまだ1年半程度しか経過していなかったということも,判決の理由の一つになっています(EU司法裁判所のケースは,もとの事件から16年も経っていました)。
【★4】 「この原則は,少年及びその家族の名誉・プライバシーを保護するとともに,そのことを通じて過(あやま)ちを犯した少年の更生(こうせい)を図ろうとするもので,広く刑事政策的な観点に立った規定である。犯罪者を特定した犯罪報道は,それによる社会的偏見がその後の本人の更正の妨(さまた)げになり得ることは,成人の場合も同様であるが(ラベリングの弊害(へいがい)),とりわけ,傷つきやすく,可塑性(かそせい)に富(と)み,将来のある少年に対して,『非公開の原則』を定めたのである」(田宮裕・廣瀬健二「注釈少年法(改訂版)」431頁)
 大阪高等裁判所平成12年2月29日・判例時報1710号121頁「この規定〔注:少年法61条〕は,少年の健全な育成を期(き)し,非行のある少年に対して性格の矯正(きょうせい)及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的とする少年法の目的に沿って,将来性のある少年の名誉・プライバシーを保護し,将来の改善更正を阻害(そがい)しないようにとの配慮に基づくものであるとともに,記事等の掲載を禁止することが再犯を予防する上からも効果的であるという見地(けんち)から,公共の福祉や社会正義を守ろうとするものである。すなわち,少年法61条は,少年の健全育成を図るという少年法の目的を達成するという公益目的と少年の社会復帰を容易にし,特別予防の実効性を確保するという刑事政策的配慮に根拠を置く規定であると解(かい)すべきである」
【★5】 「報道媒体(ばいたい)は,『新聞紙その他の出版物』と規定されているが,要するに,不特定多数の者が知り得る媒体を意味する。今日の通信手段の発達を考えると,新聞,雑誌など『出版物』のほか,テレビ,ラジオ,更に,コンピュータを使った各種の通信等を含(ふく)むと解すべきであろう」(田宮裕・廣瀬健二「注釈少年法(改訂版)」433頁)
【★6】 刑法230条1項「公然(こうぜん)と事実を摘示(てきじ)し,人の名誉を毀損(きそん)した者は,その事実の有無にかかわらず,3年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは禁錮(きんこ)又は50万円以下の罰金に処する」
【★7】 民法709条「故意(こい)又は過失(かしつ)によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害(しんがい)した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
 民法710条「他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれかであるかを問わず,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない」
【★8】 私たちの「知る権利」も,マスコミなどの「報道の自由」も,憲法21条が保障する表現の自由に含まれます。
 憲法21条1項「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する」
【★9】 大阪高等裁判所平成12年2月29日判決(判例時報1710号121頁・堺通り魔殺人事件名誉毀損訴訟)は,「表現の自由とプライバシー権等の侵害との調整においては,表現行為が社会の正当な関心事であり,かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には,その表現行為は違法性を欠き,違法なプライバシー権等の侵害とはならないと解するのが相当である」としました。そして,名前や顔を月刊誌に出されてしまった子どものがわの訴えを,認めませんでした。
 また,子どもの実名そのものではなく,にかよった名前で週刊誌に記事が書かれたケース(長良川事件報道訴訟)で,名古屋高等裁判所平成12年6月29日判決(判例時報1736号35頁)は,少年法全体の意識・目的や少年法61条の趣旨から,子どもの側の訴えを認めて出版社に賠償を命じましたが,これに対して最高裁第二小法廷平成15年3月14日判決(民集57巻3号229頁)は,次のように述べて,その子どものことを知らない多くの人たちは記事を見てもその子がだれかはわからないから少年法61条に違反していない,として,審理のやり直しを命じました。その結果やり直された裁判では,結局,子どもの側の訴えは認められませんでした(名古屋高等裁判所平成16年5月12日判決・判例時報1870号29頁)。
 (最高裁判決)「少年法61条に違反する推知報道かどうかは,その記事等により,不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべきところ,本件記事は,被上告人について,当時の実名と類似する仮名が用いられ,その経歴等が記載されているものの,被上告人と特定するに足りる事項の記載はないから,被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が,本件記事により,被上告人が当該事件の本人であることを推知することができるとはいえない。したがって,本件記事は,少年法61条の規定に違反するものではない。…本件記事が被上告人の名誉を毀損し,プライバシーを侵害する内容を含むものとしても,本件記事の掲載によって上告人に不法行為が成立するか否かは,被侵害利益ごとに違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)の有無等を審理し,個別具体的に判断すべきものである。…原審は,これと異なり,本件記事が少年法61条に違反するものであることを前提とし,同条によって保護されるべき少年の権利ないし法的利益よりも,明らかに社会的利益を擁護(ようご)する要請が強く優先されるべきであるなどの特段の事情が存する場合に限(かぎ)って違法性が阻却されると解すべきであるが,本件についてはこの特段の事情を認めることはできないとして,…個別具体的な事情を何ら審理判断することなく,上告人の不法行為責任を肯定した。この原審の判断には,審理不尽(しんりふじん)の結果,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」
【★10】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★11】 日弁連も,2007年11月21日に,「少年事件の実名・顔写真報道に関する意見書」を出しています。
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/071121.pdf
【★12】 「子どもの名前や顔を載せてはいけない理由は,子どもが立ち直っていくのにマイナスだからだ」という考え方からいくと,その人が死刑判決を言い渡されたのなら(「子どもでも死刑になるの?」の記事を見てください),「社会に戻って立ち直ることはないのだから,名前や顔を載せてもいいじゃないか」とも考えられそうですね。実際,そのように考えて,名前や顔を載せるマスコミがほとんどです(載せない新聞社も一部あります)。「死刑というだいじな問題をみんなが考えるためにも,その人の名前などを知るべきだ」,とも,言われることがあります。
 でも,私は,死刑判決を言い渡された場合でも,名前や顔は載せてはいけない,と考えます。少年法61条は,「死刑判決を受けたら名前や顔を載せてもいい」とは書いていません。また,事件が起きた理由,犯罪を防ぐための対策,そして死刑の問題など,この社会のことを私たちが考えるのに,名前や顔を知らなければ議論することができないというわけではないことも,死刑であろうとなかろうと,変わりません。さらに,死刑判決を受けても,再審(さいしん)や恩赦(おんしゃ),あるいは将来的に死刑制度そのものがなくなって,社会に戻ることがまったくないというわけでもありません。
 日弁連2012年2月24日「少年の実名報道を受けての会長声明」
 http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120224_2.html
 もし,「死刑判決を受けた場合には名前や顔を載せてもよいようにすべきだ」,と考えるならば,そういうふうに少年法61条を変えるかどうかということじたいを,国会できちんと議論するべきです。その手順をふまずに,法律に違反して名前や顔を載せることは,問題だと思います。

2014年10月 1日 (水)

殴り返すのは正当防衛?

 


 自分が殴(なぐ)られたら,そいつを殴り返しても,正当防衛(せいとうぼうえい)で,罪にはならないんですよね?

 


 ちがいます。


 あなたが殴り返したら,犯罪です。


 「自分の身を守るために,しかたなくやったことなら,許される」。

 「正当防衛」という言葉は,ふだん,そんな意味で使われていますね。


 その「正当防衛」は,刑法では,かなり限(かぎ)られた場面でしか,成り立ちません【★1】


 今,相手のこぶしが,まさに自分の顔や体に,おそいかかろうとしてきている。

 そういう時でなければ,「正当防衛」は認められません【★2】

 だから,

 相手があなたを殴り終わってしまったのなら,

 その直後であっても,あなたが殴り返してはいけないのです。


 そこであなたが殴り返してしまうと,あなたも罪に問われます。

 あなたが相手に殴りかかれば,相手にこぶしが当たっても当たらなくても,暴行罪(ぼうこうざい)ですし【★3】

 その結果,相手がけがをすれば,傷害罪(しょうがいざい)です【★4】


 法律は,こう考えています。

 「相手から殴りかかられている,まさにその時は,

 それを防(ふせ)ぐために,あなたが反撃(はんげき)しても,しかたがない。

 でも,相手があなたを殴り終わってしまったら,

 あなたが,どんなに腹が立って,やり返したいと思っても,

 ぐっとがまんをすること。

 そして,その腹立たしさは,

 警察にきちんと対応してもらったり,

 弁護士や裁判所の力を使って,損害賠償(そんがいばいしょう)を払わせたりして,

 法律できちんと解決すること。」

 それが,法律のだいじなルールなのです。


 もし,相手が,まさに今,殴りかかってきていて,

 それにあなたが反撃するのが「正当防衛」として認められそうなときでも,

 バランスが取れている反撃でなければいけません【★5】

 たとえば,相手が素手(すで)で殴りかかってきているのに,

 あなたがナイフで刺し返して,相手が大けがをしたり,亡くなったりすれば,

 犯罪になります【★6】


 また,相手から,まさに今,殴りかかられているとしても,

 もともとは,あなた自身が相手を挑発(ちょうはつ)していて,

 わざと殴りかかられる原因を作っていたとしたら,

 あなたが反撃しても,

 それは「正当防衛」ではなく,やはり,犯罪になります【★7】



 この「正当防衛」の質問は,


 少しやんちゃな子どもたちと雑談をしているときに聞かれることが,けっこう多いです。

 「殴る力で,相手をやっつけられれば,

 自分の強さがわかって,かっこいい。」

 心の中でそんなふうに思いながら,私に質問してくれるのだろうと思います。


 でも,法律は,

 どんな人であっても,一人ひとりが大切な存在として扱(あつか)われ,尊重されること,

 毎日の暮らしを安心して過ごし,幸せな人生を送れること,

 そのことをだいじにしています。


 もし,トラブルが起きたときに,殴る力で解決する世の中だったとしたら,

 殴る力の強いほうが,いつも勝ってしまいます。

 強い人のほうがまちがっていても,そうなってしまいます。

 だれもが,「いつ殴り合いになるかわからない」という不安な毎日を過ごさなければいけませんし,

 力が弱い人は,いつも負けるのですから,幸せな人生を送ることもできません。


 だから,


 そんなふうに力で解決する世の中ではなく,

 みんなで決めた「法律」というルールで解決する社会であること。

 もし,「殴る」という間違ったことをした人がいたら,

 殴り返して「しかえし」をするのではなく,

 「法律」でその人に責任を取らせる社会であること。


 それが,とてもだいじなのです。


 もし,万一,あなたが,自分よりも弱い人に向かって力を使っているのなら,

 それは,強くないどころか,とてもひきょうなことです。

 今,思春期のあなたは,

 大人たちや,社会のしくみの,まちがったところや,おかしなところに,気がつき始めていると思います。

 そういう,あなたよりも,もっと強くて大きなものに向かって,たたかっていくこと。

 それも,殴ったりする暴力という「力」ではなく,

 法律のルールに則(のっと)ってたたかっていくための「力」や,

 あるいは,法律そのものがまちがっている時には,みんなで話し合って法律を良い方向に変えていくための「力」,

 そういう「力」を,あなたが発揮(はっき)していくのなら,

 あなたは,本当の意味での「強さ」がある,「かっこいい」人だと思います。

 そして,そういう「力」を発揮することこそが,

 あなたやこの社会を,「正当」に「防衛」する,とてもだいじなことだ,と,

 私は心から思います。

 

【★1】 刑法36条1項 「急迫不正(きゅうはくふせい)の侵害(しんがい)に対して,自己(じこ)又(また)は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為(こうい)は,罰しない。」
【★2】 急迫性(きゅうはくせい)の要件といいます。
 最高裁判所第三小法廷昭和46年11月16日判決・刑集25巻8号996頁 「刑法36条にいう『急迫』とは,法益(ほうえき)の侵害が現に存在しているか,または間近に押し迫(せま)っていることを意味(する)」
 「より具体的には,過去の侵害と将来の侵害を正当防衛の領域(りょういき)から排除(はいじょ)する点に,急迫性の実践的な意義がある。」(前田雅英「刑法総論講義第3版」226頁)
【★3】 刑法208条 「暴行を加(くわ)えた者が人を傷害するに至(いた)らなかったときは,2年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは30万円以下の罰金又は拘留(こうりゅう)若しくは科料(かりょう)に処(しょ)する。」
【★4】 刑法204条 「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
【★5】 バランスが取れていない,やりすぎの反撃のことを,「過剰防衛(かじょうぼうえい)」と言います。
 刑法36条2項 「防衛の程度(ていど)を超(こ)えた行為は,情状により,その刑を軽減し,又は免除(めんじょ)することができる」
【★6】 ただし,「素手対ナイフならば必ず罰せられる」というような簡単な話ではなく,その事件をトータルで見て,判断されます。
 「素手や棒などの攻撃に対し兇器(きょうき)を用(もち)いて防衛する場合には,防衛の程度を超えたとされることが多いが,攻撃者・防衛者の年齢・体力などを勘案(かんあん)して具体的に判定されなければならない。」(前田雅英「刑法総論講義第3版」250頁)
【★7】 東京高裁平成8年2月7日判決・判例時報1568号145頁 「正当防衛の成否(せいひ)についてみると,Sが…被告人(ひこくにん)の左右顔面を平手でたたいて反撃したのは,若干(じゃっかん)行き過ぎであるが,これに対し,被告人が…ポロシャツをつかんで引っ張るなどした行為(こうい)についても,暴行罪が成立するものといわざるを得ない。前記認定の事実経過によれば、被告人がSに対し違法な暴行を開始して継続中,これから逃(のが)れるためSが防衛の程度をわずかに超えて素手で反撃したが,被告人が違法な暴行を中止しさえすればSによる反撃が直(ただ)ちに止(や)むという関係のあったことが明らかである。このような場合には,更(さら)に反撃に出なくても被告人が暴行を中止しさえすればSによる反撃は直ちに止むのであるから,被告人がSに新たな暴行を加える行為は,防衛のためやむを得ずにした行為とは認められないばかりでなく,Sによる反撃は,自(みずか)ら違法に招いたもので通常予想される範囲内にとどまるから,急迫性にも欠けると解するのが相当である。したがって,被告人が…暴行に及んだ行為は,正当防衛に当たらず,また過剰防衛にも当たらないというべきである。」

2014年7月 1日 (火)

子どもの犯罪の裁判に国選の弁護士は付くの?


 大人の犯罪の裁判のときには「国選(こくせん)弁護人」が付くって話を聞いたことがあるんですが,子どもにも国選で弁護士は付くんですか?


 先月(2014年6月)から,子どもの裁判でも,多くの事件で,国選で弁護士が付くようになりました【★1】


 「弁護士が必要だけど,弁護士の知り合いもいないし,お金もない。

 そういう人に,国が弁護士を選んだり,その費用(ひよう)を国が出したりする」。

 それが,「国選」のしくみです。



 「弁護士の知り合いがいてお金もある」,という人は,自分で弁護士を選んで,費用も自分で出します。

 そのときは,「私選(しせん)」と言います。


 大人が犯罪をしたときの裁判では,ほとんどの事件で,「弁護士がいなければ,裁判じたいを開いてはいけない」,ということになっています【★2】【★3】

 だから,うったえられた被告人(ひこくにん)に,国選で弁護士が付くことが,とても多いです【★4】


 ところが,子どもが犯罪をしたときの裁判は,大人の裁判とはちがいます。

 家庭裁判所で開かれる,「少年審判(しょうねんしんぱん)」という裁判です。


 じつは,この少年審判は,基本的に,「弁護士がいなくても開いていい」という裁判なのです。


 大人よりも子どものほうが,弁護士のサポートが必要なはずなのに,ちぐはぐで,おかしなことですよね。


 大人の裁判では,「この人は犯罪をした」とうったえる「検察官(けんさつかん)」という法律家がいます。

 ふつうの人が,その検察官を相手にしながら,自分の言い分を裁判官にわかってもらうのは,とても難しいことです。

 しかも,大人の裁判では,もし「犯罪をした」と判断されたら,マイナスがあります。

 判決で言いわたされるのは,

 命をうばわれる「死刑」や,

 刑務所に閉じ込められて働く「懲役(ちょうえき)」や,

 お金を払う「罰金(ばっきん)」などの,

 「刑罰(けいばつ)」というマイナスです。


 検察官もいるし,刑罰というマイナスもあるから,

 裁判をフェアなものにするために,

 うったえられたがわにも,弁護士という法律家が,必ず付かないといけない。

 それが,大人の裁判のしくみです。



 子どもの裁判である「少年審判」は,大人の裁判とはちがいます。

 検察官は,部屋にいません。


 裁判官が子どもに言いわたす「審判」も,大人のときの「判決」とはちがいます。

 「少年院に行きなさい」「地元の保護司(ほごし)さんのところに通いなさい」という処分(しょぶん)です。


 「そういう処分は,子どもにとって,マイナスなものでなく,子どもを守る(保護する)プラスのもの」。

 法律は,そう考えています。


 だから,「子どもの裁判では,検察官もいないし,プラスなことをするのだから,弁護士がいなくても特にかまわないでしょう」,というたてまえになっています。


 でも,私たち弁護士は,「それはおかしい」と考えてきました。

 子どもが,自分の気持ちをまとめて,裁判官や親などの大人たちに伝えること。

 どうやって被害者(ひがいしゃ)に謝り,反省したらいいかを,考えること。

 そのためには,弁護士のサポートが必要です。

 そして,

 その子が,これまで,家や学校や地域の中で,大切な存在として扱(あつか)われてこなかったこと。

 居場所がどこにもなく,一人ぼっちだったこと。

 そんないままでのことをいっしょにふりかえり,これからのことをいっしょに考えていくこと。

 そのためにも,弁護士のサポートが必要なのです【★5】


 少年審判で弁護士が子どもに付くことじたいは,むかしから,できることにはなっていました【★6】

 少年審判の中では,弁護士は,「付添人(つきそいにん)」という名前で活動します。


 でも,「弁護士を付けられる」とはいっても,

 子どもが,自分で付添人になってくれる弁護士を探してくることはできないし,ましてや,費用を払うことなどできません。



 だから,弁護士会は,これまで,裁判所に,「子どもに弁護士が付けられることをきちんと説明してほしい」と,はたらきかけてきました【★7】

 全国の弁護士全員でお金を出し合って,付添人になる弁護士に,費用を出すようにも,してきました【★8】

 そして,「はやく,きちんと国選のしくみをつくるべきだ」と,国にうったえてきました。


 しかし,国選の制度は,なかなかできませんでした。


 むしろ,今から14年前の2000年(平成12年),法律が厳(きび)しくなりました。

 「少年法が甘(あま)いから,ひどい少年事件が増えている。だから,法律を厳しくするべきだ」,と,社会が考えるようになったからでした。

 このときに,「重い犯罪のケースでは,検察官が裁判にくわわることもある」,ということが決められました【★9】

 そうすると,大人のときと同じように,弁護士も付かなければ,フェアな裁判とはいえません。

 だから,「検察官が裁判にくわわるときは,国選で弁護士の付添人を付けなければいけない」,というルールになりました【★10】

 でも,検察官が裁判にくわわるケースはとても少ないので,国選で弁護士の付添人が付くケースは,ほとんどない,と言ってもいいほどでした。

 私が弁護士になったのは,11年前の2003年(平成15年)です。

 その年に,国選で弁護士の付添人がついたケースは,たったの9件しかありませんでした。

 その年,裁判所から「少年院に行きなさい」と言われた子どもは,ぜんぶで5241人いました。

 そのうち,裁判で弁護士がついていた子どもは,私選・国選あわせて,たった1413人しかいなかったのです【★11】

 3828人,つまり7割以上もの子どもたちが,弁護士がいないまま裁判を受けて,少年院に行かされていたのは,ほんとうにおかしなことでした。


 少年法は,その後も,いろいろと厳しく変えられてきました。

 ただ,その中で,2007年(平成19年)に,国選で弁護士の付添人が付くことができるケースが,少し増えました。

 「殺人や強盗などの重い犯罪のときには,検察官が裁判にくわわっていなくても,国選で弁護士に付添人を付けることができる」,ということになったのです【★12】

 それでもやはり,国選で弁護士の付添人がついたケースは少ないままでした。

 2年前の2012年(平成24年),国選で弁護士の付添人がついたケースは,319件しかありませんでした。

 この年,裁判所から「少年院に行きなさい」と言われた子どもは3229人いました。

 このうち弁護士がついた子どもの数は,弁護士たちのとりくみによって増えたので,国選・私選あわせて2727人になりましたが,

 それでもやはり,502人もの子どもたちが,弁護士がいないまま裁判を受けて,少年院に行きました【★13】【★14】


 そして今年,また少年法が変わり,国選で弁護士の付添人が付くケースが大きく増えました【★15】

 これからは,8割くらいの子どもたちに,国選で弁護士の付添人が付くだろうと考えられています。

 でも,同時に,法律が変えられたことで,検察官が裁判にくわわることができるようになる事件も,広がってしまいました。

 子どもの裁判が,どんどん厳しくなって,大人の裁判に近づいているのです。



 子どもに,弁護士の付添人がつくことは,とてもプラスです。

 でも,少年法は,全体として,どんどんと厳しい方向に変えられていっています。

 どうして厳しくなっていくのか,ほんとうに「少年法が甘い」のか,

 そのことも,とてもだいじなことなので,また別の記事で書こうと思います。


 なお,すべての事件で国選で弁護士の付添人が付く,というわけではありません。

 裁判所が「必要ない」と考えると,国選では弁護士は付きません。

 また,軽い犯罪の裁判や,「犯罪はしていないけれどもこのままだと犯罪をしそうだ」という「ぐ犯(ぐはん)」の裁判のときにも,国選では弁護士は付きません。

 でも,そういう時でも,やはり,子どもに弁護士のサポートは必要です。

 国選ではなくても,上に書いたように,弁護士全員で出し合っているお金で,弁護士が付くことができますから,すぐに弁護士会に連絡してください。


【★1】 少年法 平成26年4月18日改正,同年6月18日施行
 附則(ふそく)(平成26年4月18日法律第23号)1条但書(ただしがき)「第22条の2第1項及(およ)び第22条の3第2項の改正規定は,公布の日から起算して2月を経過した日から施行する。」
【★2】 刑事訴訟法289条1項「死刑又(また)は無期若(も)しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮(きんこ)にあたる事件を審理する場合には,弁護人がなければ開廷することはできない。」
【★3】 子どもでも,大人と同じ裁判を受けることがあります。家庭裁判所が事件を検察官に送るので,「検察官送致(けんさつかんそうち)」と言います。事件はもともと検察官から家庭裁判所に来ていたもので,それを家庭裁判所が検察官に戻すため,「逆送(ぎゃくそう)」という言い方もします。そして,逆送を受けた検察官が,裁判を起こします。そうして起こされる裁判は,大人の裁判と同じですから,弁護士がついていなければ裁判は開けません。
 少年法20条1項「家庭裁判所は,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」
 同条2項「前項の規定にかかわらず,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係(かか)るものについては,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない」
 少年法45条「家庭裁判所が,第20条の規定によって事件を検察官に送致したときは,次の例による。…… 五 検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,公訴(こうそ)を提起(ていき)するに足りる犯罪の嫌疑(けんぎ)があると思料(しりょう)するときは,公訴を提起しなければならない。…(以下略)」
【★4】 たとえば,平成24年に地方裁判所でおこなわれた大人の裁判は5万6734件ありましたが,このうち5万6393件に弁護士がついていて(弁護士がついていないのは341件,わずか0.6%です),うち,国選弁護人は4万8275件もありました。
 司法統計 刑事事件 第23表 通常第一審事件の終局総人員,弁護関係別,地方裁判所管内全地方裁判所別 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B24DKEI23~24.pdf
【★5】 そのことは,日本を含む世界の国々が,子どもの権利条約で確認しています。
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)37条「締約国(ていやくこく)は,次のことを確保する。 …(d) 自由を奪(うば)われたすべての児童は,弁護人その他適当な援助を行う者と速(すみ)やかに接触する権利を有(ゆう)し,裁判所その他の権限のある,独立の,かつ,公平な当局においてその自由の剥奪(はくだつ)の合法性を争(あらそ)い並(なら)びにこれについての決定を速やかに受ける権利を有すること。」
 同条約40条1項「締約国は,刑法を犯(おか)したと申し立てられ,訴追(そつい)され又は認定(にんてい)されたすべての児童が尊厳(そんげん)及び価値についての当該(とうがい)児童の意識を促進(そくしん)させるような方法であって,当該児童が他の者の人権及び基本的自由を尊重することを強化し,かつ,当該児童の年齢を考慮し,更(さら)に,当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める。」
 同条2項「このため,締約国は,国際文書の関連する規定を考慮して,特に次のことを確保する。
(略)
(b) 刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたされたすべての児童は,少なくとも次の保障を受けること。
(略)
(ii) …防御(ぼうぎょ)の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと。
(iii) 事案が権限のある,独立の,かつ,公平な当局又は司法機関により法律に基(もと)づく公正な審理において,弁護人その他適当な援助を行う者の立会い…の下(もと)に遅滞(ちたい)なく決定されること。」
【★6】 少年法10条1項「少年及び保護者は,家庭裁判所の許可を受けて,付添人を選任することができる。ただし,弁護士を付添人に選任するには,家庭裁判所の許可を要しない。」
【★7】 福岡県弁護士会がさきがけて「すべての子どもに弁護士をつける」という取り組みを始め,それが全国に広がりました(「少年審判制度が変わる-全件付添人制度の実証的研究-」福岡県弁護士会子どもの権利委員会編,商事法務)。
【★8】 日本弁護士連合会(日弁連)が行っている,少年保護事件付添援助制度です。
【★9】 旧少年法22の2第1項「家庭裁判所は,…次に掲げる罪のものにおいて,その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは,決定をもって,審判に検察官を出席させることができる。
 1 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪
 2 前号に掲げるもののほか,死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」
【★10】 少年法22の3第1項「家庭裁判所は,前条第1項の決定をした場合において,少年に弁護士である付添人がいないときは,弁護士である付添人を付(ふ)さなければならない。」
【★11】 司法統計 平成15年 少年事件 第32表 一般保護事件の終局総人員,付添人の種類別終局決定別,全家庭裁判所 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/E5C3DA6C309BF50149256ED9002C7D45.pdf
【★12】 少年法22条の3第2項「家庭裁判所は,…前条第1項各号に掲げる罪のもの…について,…事案の内容,保護者の有無その他の事情を考慮し,審判の手続に弁護士である付添人が関与する必要があると認めるときは,弁護士である付添人を付することができる。」
 「前条第1項各号」というのは,【★9】にある,旧少年法22の2第1項の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」「死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」のことです。
【★13】 司法統計 平成24年 少年事件 第29表 一般保護事件の終局総人員,付添人の種類別終局決定別,全家庭裁判所 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B24DSYO28~29.pdf
【★14】 大人の事件でも,つい最近まで,「国選」の弁護士は,裁判になってから後しか付いていませんでした。でも,逮捕・勾留(こうりゅう)されて警察などから取り調べを受けているとき,つまり,裁判になる前のときも,弁護士のサポートは必要です。弁護士たちのはらたきかけの結果,ようやく,2006年(平成18年)に,この裁判になる前の時期にも,国選弁護として国がきちんと費用を出すということが決まりました。これを「被疑者国選(ひぎしゃこくせん)」と言います。それでも,スタートしたときは,殺人や強盗などにしか被疑者国選は付きませんでした。2009年(平成21年)から,長期3年を超える懲役若しくは禁固(きんこ)にあたる事件も対象となり,窃盗事件や傷害事件など,多くの事件で被疑者国選が付くようになりました。子どもの犯罪の事件でも,裁判所に事件が行く前の,逮捕・勾留されて警察などから取り調べを受ける期間の手続の流れは同じです。2009年(平成21年)からは,ほとんどの事件で,裁判になる前は,子どもにも国選の弁護士が付くようになり,弁護士費用も国から出るようになりました。ところが,記事本文で書いたように,先月までは,子どもの事件では裁判(少年審判)になったとたんに弁護士は国選ではなくなってしまう(=弁護士全員で出し合っているお金の中から弁護士費用を出さないといけない)という,まったくおかしなことが続いていたのです。
【★15】 少年法22の2第1項「家庭裁判所は,第3条第1項第1号に掲げる少年に係る事件であって,死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪のものにおいて,その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは,決定をもって,審判に検察官を出席させることができる。」
 検察官関与の対象の事件がこのように広がったうえで,国選付添人の対象の事件がこれと同じになっています(【★12】の少年法22条の3第2項)。
    

2014年1月 1日 (水)

子どもでも死刑になるの?

 

 子どもでも死刑になることはあるんですか?

 

 犯罪をしたときに18歳・19歳だと,死刑になることはあります。

 17歳までだと,死刑にはなりませんが,重い刑罰はあります



 犯罪をした人に科(か)される刑罰には,いろんな種類があります【★1】

 命を絶たれる「死刑」のほかに
【★2】

 刑務所に閉じ込められて働かされる「懲役(ちょうえき)」や
【★3】

 お金を払わされる「罰金」など
【★4】

 ほかにもいろいろな刑罰があります。



 人を殺したり【★5】,人がいる建物に火を付けたり【★6】などの,重い犯罪には,死刑が科されることがあります。

 でも,
死刑は,命を奪う,もっともきびしい刑罰です。

 だから,裁判所が,いろんなことを考えて「やむをえない(しかたがない)」と判断したときにだけ,死刑が科されます
【★7】【★8】


 刑罰は,基本的には,大人に科されるものです。

 大人だと,刑事訴訟(けいじそしょう)という裁判を受けます。

 テレビドラマで見るような法廷(ほうてい)という部屋で,公開の審理で行われます
【★9】

 そして,有罪であれば,判決で,「死刑」「懲役」「罰金」などの刑罰が言い渡されます
【★10】


 でも,19歳までの場合は,基本的には,大人と違う裁判を受けます。

 少年審判(しょうねんしんぱん)という裁判です
【★11】

 家庭裁判所の審判廷(しんぱんてい)という部屋で,関係者しか入れないところで,行われます
【★12】

 そして,決定で言い渡されるのは,「死刑」「懲役」「罰金」などの刑罰ではありません。

 「少年院に行きなさい」とか,「地元の保護司(ほごし)さんのところに通いなさい」,などの処分が言い渡されます
【★13】

 「犯罪をしてしまった子どもには,

 大人と同じような罰を加えるのではなく,

 その子どもを保護して教育しよう。」


 それが,法律の基本的な考え方です。



 ところが,19歳までにした犯罪でも,大人と同じような裁判を受けることがあります。

 「この子には,保護や教育よりも,刑罰が必要だ」と家庭裁判所が考えると,そうなります。

 やってしまったことの中身や,その子の反省の深さ・浅さ,性格や年齢,その子の周りのことなど,いろんなことをもとに,判断されます
【★14】【★15】


 実際に,犯罪をしたときにまだ18歳・19歳だった事件で,死刑判決が言い渡されたケースはあります【★16】


 ただ,犯罪をしたときに18歳になっていなかった場合は,死刑判決を言い渡すことはできません【★17】

 これは,日本だけでなく,世界中で約束していることです
【★18】

 若いうちは,これから先まだ良い方向に人間が変わっていくこともありえるし,

 若いほど,本人の責任だけでなく,周りや社会のがわの責任も大きい。

 それが,18歳になっていない子どもの犯罪で,死刑にしてはいけないとされる理由です
【★19】


 ひょっとしたら,「18歳未満なら,死刑にならないから,刑が軽い」,などと考える人もいるかもしれません。

 でも,それはまちがいです。

 普通なら死刑が言い渡されるような事件なら,犯罪のときに18歳未満だと,無期刑(むきけい)が言い渡されることになっています
【★17】

 文字通り,刑務所にずっと閉じ込められたままです。

 「いつになったら刑務所から出られる」という終わりがありません。

 ただ,外に出られることが,絶対にない,というわけではありません。

 きちんと反省し,刑務所の中でまじめに暮らしていれば,外に出られる場合もあります。

 これを,「仮釈放(かりしゃくほう)」と言います。

 法律上は,無期刑なら,10年が経てば仮釈放ができる,とされています
【★20】

 でも,実際には,10年で外に出られることは,ほとんどありません。

 今,およそ1800人以上の人が,
無期刑で刑務所の中にいます。

 そのうち,平成24年に仮釈放になったのはわずか6人で,仮釈放までの期間は平均して31年と8ヶ月でした。

 50年以上刑務所の中にいる人もいますし,亡くなるまで刑務所の中にいた人も多くいます
【★21】

 「死刑ではないから刑が軽い」,ということではないのです。



 日本には死刑がありますが,

 世界では,死刑がある国は,少なくなっています。

 今から24年前,世界の国々が,死刑をやめよう,と確認しました
【★22】

 そして,世界の中の3分の2を超える国々が,死刑をやめています
【★23】

 しかし,日本は,その24年前の確認の輪の中に入っていません。

 先進国の中で,今も国として統一して死刑を続けているのは,日本だけです
【★24】

 でも,世界の大きな流れとは逆に,日本では,死刑が必要だと考える人が,とても多いです。

 日本では,死刑をめぐって,いつも大きな議論になります。



 どんな人でも,一人ひとりが,大切な存在として扱(あつか)われる,尊重されるということ。

 それが,法律が一番大切にしていることです
【★25】

 殺人などの犯罪は,まさに,そのだいじなことを奪う,絶対に許されないことです。

 だからこそ,法律は,人を殺してはいけない,としていますし,

 重い犯罪をしてしまった人に,厳しい罰を科すことも,もちろん必要です。



 他方で,

 犯罪をしてしまった人たちが,それまで,この社会の中で,大切な存在として扱われてきたのだろうか,ということ。

 そのことについても,この社会のメンバーである私たち一人ひとりが,よく考えなければいけません。

 自分自身が大切にされていなければ,他の人を大切にすることの本当の意味を理解するのは,難しいことです。

 そのことを,私は,犯罪をしてしまった人たちの弁護をする中で,実感しています。

 子どもには,大人とはちがって,刑罰を科すのではなく,保護と教育するための別の手続が作られていることも,

 18歳になっていない子に死刑がないのも,

 これまで大切にされてこなかったその子どもに,「あなたも大切な存在なんだよ」という,この社会が出しているだいじなメッセージのあらわれです。

 そしてそのだいじなメッセージは,犯罪をしてしまった大人にも,きちんと届く必要があると思います。



 私は,弁護士として,人が亡くなる事件の裁判を,多く担当しています。

 殺人をしてしまった人の弁護をすることもありますし,

 殺された被害者の家族のがわで裁判をすることもあります。

 殺人事件だけでなく,事件・事故・災害などで命を失った事件に接することも,ほかの弁護士と比べて,とても多いです。

 命を失う事件,命を奪われる事件に,日々の仕事で向き合い,いろんな立場の人たちの話を受け止めています。



 だから,

 子どもたちが,じょうだんであっても,「死ね」「殺す」「死刑」などと気軽に話しているのを聞くと,

 私は,とても悲しくなり,

 そして,自分が担当した事件の話をしながら,その子どもたちに注意をします。



 以前,ある進学校で,少年事件をテーマに,授業をさせてもらう機会がありました。

 そのときに,ある高校生が書いてくれた感想を,みなさんにも読んでもらいたいと思います(一部修正しています)。



 「自分はたまたま親子関係でこまることのない家で暮らしているので,

 これまで,少年犯罪などで,『親殺し』とか他の人への暴力などのニュースを見て,

 じょうだんにせよ,『こいつ,死刑だよ,死刑』とか言っていました。

 でも,今回のこの授業を受けて,

 自分がいかに恵まれているのかを,あらためて実感して,

 また,犯罪者として世間から白い目で見られている少年たちに,

 普段から感じている,さみしさやかなしさがある,ということを知りました。」



 死刑の制度を続けるか,なくすかは,いろんな考え方があります。

 「どんな人でも,一人ひとりが,大切な存在として扱われるということ」。

 法律の一番大切なそのメッセージをふまえて,

 犯罪をしてしまった人,犯罪の被害を受けた人,

 死刑制度に賛成の人,反対の人,

 いろんな立場の人の話や意見をよく聞き,

 あなたなりに,しっかりと考えてみてほしいと思います。

 

【★1】 刑法9条「死刑,懲役,禁錮,罰金,拘留及び科料を主刑(しゅけい)とし,没収を付加刑(ふかけい)とする」
【★2】 刑法11条1項「死刑は,刑事施設内において,絞首(こうしゅ)して執行(しっこう)する。」
 同条2項「死刑の言渡しを受けた者は,その執行に至(いた)るまで刑事施設に拘置(こうち)する。」
 憲法は,残虐な刑罰は絶対に禁止する,と定めています。しかし,最高裁は,絞首刑は残虐な刑罰にはあたらない,などと述べています。
 憲法36条「公務員による拷問(ごうもん)及(およ)び残虐な刑罰は,絶対にこれを禁ずる」
 最高裁昭和23年3月12日判決・刑集2巻3号191頁「死刑は,……まさに窮極(きゅうきょく)の刑罰であり,また冷厳な刑罰ではあるが,刑罰としての死刑そのものが,一般に直ちに同条にいわゆる残虐な刑罰に該当(がいとう)するとは考えられない。ただ死刑といえども,他の刑罰の場合におけると同様に,その執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には,勿論(もちろん)これを残虐な刑罰といわねばならぬから,将来若(も)し死刑について火あぶり,はりつけ,さらし首,釜ゆでの刑のごとき残虐な執行方法を定める法律が制定されたとするならば,その法律こそは,まさに憲法第36条に違反するものというべきである。前述のごとくであるから,死刑そのものをもって残虐な刑罰と解し,刑法死刑の規定を憲法違反とする弁護人の論旨は,理由なきものといわねばならぬ」
 最高裁昭和30年4月6日・刑集9巻4号663頁「刑罰としての死刑は,その執行方法が人道上の見地から特に残虐性を有すると認められないかぎり,死刑そのものをもって直ちに一般に憲法36条にいわゆる残虐な刑罰に当るといえないという趣旨は,すでに当裁判所大法廷の判示するところである。そして現在各国において採用している死刑執行方法は,絞殺(こうさつ),斬殺(ざんさつ),銃殺,電気殺,瓦斯(ガス)殺等であるが,これらの比較考量において一長一短の批判があるけれども,現在わが国の採用している絞首方法が他の方法に比して特に人道上残虐であるとする理由は認められない。従(したが)って絞首刑は憲法36条に違反するとの論旨は理由がない」
【★3】 刑法12条2項「懲役は,刑事施設に拘置(こうち)して所定(しょてい)の作業を行わせる」
 刑務所に閉じ込められるけれども,働かされるのではない,「禁錮(きんこ)」と「拘留(こうりゅう)」というものもあります。
 刑法13条1項「禁錮は,無期及び有期とし,有期禁錮は,1月以上20年以下とする」
 同条2項「禁錮は,刑事施設に拘置する」
 刑法16条「拘留は,1日以上30日未満とし,刑事施設に拘置する」
【★4】 刑法15条「罰金は,1万円以上とする。……」
 同じようにお金を払わされるもので,金額の低い,「科料(かりょう)」というものもあります。
 刑法17条「科料は,千円以上1万円未満とする」
【★5】 殺人罪です。刑法199条「人を殺した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」
【★6】 現住建造物等放火罪(げんじゅうけんぞうぶつとうほうかざい)です。刑法108条「放火して,現(げん)に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物,汽車,電車,艦船(かんせん)又は鉱坑(こうこう)を焼損(しょうそん)した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」
【★7】 とても例外なものとして,外患誘致罪(がいかんゆうちざい)という犯罪は,死刑以外の刑罰がなく,死刑しかあり得ないというきまりになっています。もっとも,これが実際に適用されたケースはありません。
 刑法81条「外国と通謀(つうぼう)して日本国に対し武力を行使させた者は,死刑に処する」
【★8】 最高裁昭和58年7月8日判決・刑集37巻6号609頁(永山事件)「死刑が人間在の根元(こんげん)である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠(まこと)にやむをえない場合における窮極(きゅうきょく)の刑罰であるこにかんがみると,その適用が慎重(しんちょう)に行われなければならないことは原判決(げんはんけつ)の判示するとおりである。そして,裁判所が死刑を選択できる場合として原判決が判示した前記見解の趣旨は,死刑を選択するにつきほとんど異論の余地がない程度に極めて情状が悪い場合をいうものとして理解することができないものではない。結局,死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質(ざいしつ),動機,態様(たいよう)ことに殺害の手段方法の執拗性(しつようせい)・残虐性(ざんぎゃくせい),結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併(あわ)せ考察したとき,その罪責(ざいせき)が誠に重大あって,罪刑の均衡(きんこう)の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものといわなければならない」
【★9】 憲法37条1項「すべて刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速(じんそく)な公開裁判を受ける権利を有する」
 憲法82条1項「裁判の対審(たいしん)及び判決は,公開法廷でこれを行う」
【★10】 刑事訴訟法342条「判決は,公判廷において,宣告によりこれを告知する」
【★11】 少年法2条1項「この法律で『少年』とは,20歳に満たない者を……いう」
 同法3条1項「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。 一 罪を犯した少年(以下略)」
【★12】 少年法22条1項「審判は,懇切(こんせつ)を旨(むね)として,和(なご)やかに行うとともに,非行のある少年に対し自己の非行について内省(ないせい)を促(うなが)すものとしなければならない」
 同条2項「審判は,これを公開しない」
【★13】 このような処分を,「保護処分(ほごしょぶん)」といいます。
 少年法24条1項「家庭裁判所は,……審判を開始した事件につき,決定をもって,次に掲げる保護処分をしなければならない。……
 一 保護観察所の保護観察に付すること。
 二 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
 三 少年院に送致すること。」
【★14】 大人と同じ裁判にかけるために,事件を家庭裁判所が検察官に送るので,「検察官送致(けんさつかんそうち)」と言います。事件はもともと検察官から家庭裁判所に来ていたもので,それを家庭裁判所が検察官に戻すため,「逆送(ぎゃくそう)」という言い方もします。そして,逆送を受けた検察官が,刑事訴訟を起こします。
 むかしは,16歳以上の子どもでなければ逆送はできませんでした。また,16歳以上の非常に重い犯罪でも,事情によっては,必ずしも逆送されるとはかぎりませんでした。
 しかし,大人たちが「少年法は甘い,厳しくするべきだ」と考えた結果,2000年(平成12年)に法律が変えられ,14歳・15歳の子どもでも逆送されうることになり,また,16歳以上の子どもで故意に(わざと)人を死なせた犯罪のときには,必ず逆送しなければならない,というように,厳しくなりました。
 少年法20条1項「家庭裁判所は,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」
 同条2項「前項の規定にかかわらず,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係(かか)るものについては,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない」
 少年法45条「家庭裁判所が,第20条の規定によって事件を検察官に送致したときは,次の例による。…… 五 検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,公訴(こうそ)を提起(ていき)するに足りる犯罪の嫌疑(けんぎ)があると思料(しりょう)するときは,公訴を提起しなければならない。…(以下略)」
【★15】 その場合だけでなく,手続中に20歳になってしまったときにも,形式的に大人と同じ手続になります。そのようなケースでは,実際には,「年齢切迫(ねんれいせっぱく)事案」として,20歳になる前に少年審判の手続が終わるように扱(あつか)われていることが多いです。
 少年法19条2項「家庭裁判所は,調査の結果,本人が20歳以上であることが判明したときは,……決定をもって,事件を管轄(かんかつ)地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」
 同法23条3項「第19条第2項の規定は,家庭裁判所の審判の結果,本人が20歳以上であることが判明した場合に準用(じゅんよう)する」
【★16】 最高裁昭和58年7月8日判決・刑集37号7巻609頁(永山事件)も,最高裁平成18年6月20日判決・判例時報1941号38頁(光市母子殺害事件)も,事件当時20歳になっていないケースで,原審の高等裁判所は,死刑ではなく無期懲役を言い渡していましたが,最高裁は,それらの高等裁判所の判決を破棄(はき)しました。そして,その後,どちらのケースも,死刑判決が確定しています(最高裁平成2年4月17日判決・判例時報1348号15頁,最高裁平成24年2月20日判決・判例時報2167号118頁)。
【★17】 少年法51条1項「罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては,死刑をもって処断(しょだん)すべきときは,無期刑(むきけい)を科する」
【★18】 国際人権規約B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)6条5項 「死刑は,18歳未満の者が行った犯罪について科しては……ならない」
 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)37条 「締約国(ていやくこく)は,次のことを確保する。(a)いかなる児童も,拷問(ごうもん)又は他の残虐(ざんぎゃく)な,非人道的な若(も)しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けないこと。死刑又は釈放(しゃくほう)の可能性がない終身刑は,18歳未満の者が行った犯罪について科さないこと。(以下略)」
【★19】 「成人に対する刑罰においても,現在では教育・社会復帰が目指されている。可塑性(かそせい)に富み,教育可能性のより高い少年に対しては,より以上に教育的な処遇(しょぐう)が必要・有効であること,人格の未熟さから責任も成人よりも低いと考えられること,年少者に対する社会の寛容(かんよう)が期待できること,その情操(じょうそう)保護の必要性も高いことなどの観点から,少年に対する刑の緩和(かんわ)は少年法制に共通する傾向である」(田宮裕・廣瀬健二「注釈少年法(改訂版)」409頁)
【★20】 刑法28条「懲役又は禁錮に処せられた者に改悛(かいしゅん)の状(じょう)があるときは,有期刑についてはその刑期の3分の1を,無期刑については10年を経過した後,行政官庁の処分によって仮に釈放することができる」
【★21】 法務省「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について(平成25年10月更新)」http://www.moj.go.jp/content/000114951.pdf
【★22】 死刑廃止議定書(死刑廃止にむけての市民的および政治的権利に関する国際規約第二選択議定書)1989年12月15日採択。「すべての人間は,生命に対する固有の権利を有する。この権利は,法律によって保護される。何人(なんぴと)も,恣意的(しいてき)にその生命を奪われない」などを定めた国際人権規約B規約6条を踏まえた議定書ですが,日本はこの議定書の締約国にはなっていません。
【★23】 アムネスティ・インターナショナル日本 死刑廃止ネットワークセンター ウェブサイト  http://homepage2.nifty.com/shihai/shiryou/death_penalty/abolitions&retentions.html
【★24】 たとえば,OECD(経済協力開発機構)加盟国(34か国)の中で,死刑があるのは日本・韓国・アメリカの3か国だけですが,韓国とアメリカの18州は,死刑を廃止したり停止したりしています(アメリカは州ごとに法律がちがうので,アメリカという国全体で死刑が統一して行われていないということです)。日本弁護士連合会2013年12月12日「死刑執行に強く抗議し,改めて死刑執行を停止し死刑廃止について全社会的議論を開始することを求める会長声明」(http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/131212.html
【★25】 憲法13条「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及(およ)び幸福追求(ついきゅう)に対する国民の権利については,公共の福祉(ふくし)に反(はん)しない限(かぎ)り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」

 

2013年8月 1日 (木)

補導って何?

 

 夜,家に帰らずに友だちと街で遊んでいたら,警察に補導されました。よく考えたら,補導って,いったい何ですか?


 補導は,子どもたちが悪い道に進まないようにするために,警察が,子どもに注意をしたり,親や学校などに連絡をしたりすることです。


 補導は,細かく見れば,いろんな種類があります【★1】

 万引きに対する補導も,多くあります
【★2】

 しかし,一番多いのは,「不良行為少年」に対する補導です。



 「犯罪にあたることは,していない。犯罪をするかもしれない,ということでもない。でも,このまま放っておくと,悪い道に進んでしまうかもしれないようなことをしている」。

 そういう子どものことを,警察は,「不良行為少年(ふりょうこういしょうねん)」と呼んでいます
【★3】【★4】


 どんなことが「不良行為」にあたるか,という例を,警察は,17個挙げています【★4】

 その中で,補導の数がとりわけ多いのは,夜中に出歩くこと(深夜はいかい)と,たばこを吸うこと(喫煙)です。

 平成23年に「不良行為少年」として補導された子どもは100万人いますが,このうち,「深夜はいかい」が56万人,「喫煙」が35万人ですから,この2つが補導のほとんどだということになります
【★5】


 補導というのは,警察が,その子に対して,「そういうことをしないように」と注意をしたり,アドバイスをしたり,親に連絡をしたりすることです【★6】

 特に必要があるときには,警察は,学校や職場にも連絡します。



 警察は,「不良行為少年」だということで親などに連絡をしたら,その補導の記録を残します【★7】

 その後,「実際に犯罪をした」,とか,「このままだと犯罪をするかもしれない」,という理由で,家庭裁判所での審判(しんぱん)を受けることになったら,裁判官は,それまでの補導の記録を,あなたの処分を決めるための資料の一つにします。

 なお,警察から子どもへのその場の注意だけで,親などに連絡をしなかったときには,記録は残りません。

 また,この「不良行為少年」の補導の記録は,20歳になったら,捨てられてなくなります
【★8】【★9】


 じつは,この「補導」は,法律で決められていることではありません。

 国会で国会議員たちが話し合って決めたルールではないのです。

 補導は,警察が作ったルールです
【★10】


 夜に出歩いている子どもや,たばこで自分の体を傷つけている子どもに,声をかける大人たちの中の一人として,警察官も,たしかに大切な役割をはたしています。

 けれど,警察は,犯罪をとりしまる,強い力を持っています。

 そんな警察が,法律というわくぐみのないまま,その強い力で子どもに向き合うと,どうでしょう。

 子どもが守られるというよりも,かえって,子どもを追い詰めることにもなりかねません。

 だから,補導については,きちんと法律のわくぐみを作って,警察ができることと,警察がしてはいけないこととを,はっきりさせる必要があります。



 犯罪をしたわけでもない,犯罪をするかもしれないというわけでもない。

 だけれど,夜に出歩いたり,たばこで自分の体を傷つけたりしている。

 そういう子どもたちに必要なのは,犯罪をとりしまる警察の力ではありません。

 子どもたちに必要なのは,その子どもの話をきちんと受け止めてくれる大人と,「ここにいていいんだ」と子どもたちが思える居場所です。



 警察が,子どもたちを,まるで危ない存在や犯罪者のようにあつかう。

 警察が,子どもを注意をするだけで,子どもの話をきちんと受け止めない。

 警察が,子どもにとって居場所になっていないかもしれない「家」や「学校」に,連絡をするだけ。

 そんなことでは,子どもたちの心のすきまが埋まることにはつながりません。

 かえって,子どもたちの立場から見れば,警察をはじめとするまわりの大人たちや,この社会のしくみに対して,不満や不信をつのらせてしまうのではないかと思います。



 私は,補導は,その子どもにいろんな大人がかかわることができるきっかけになるものであってほしい,と思っています。

 そして,大人が子どもの話を受け止め,その子どもにちゃんとした居場所ができる,そのためのしくみであるべきだ,と思っています。

 

 

【★1】 大きくわけて,「街頭補導(がいとうほどう)」と「継続補導(けいぞくほどう)」の2つがありますが,一般的にみなさんが「補導」と呼んでいるものは,「街頭補導」のほうです。
 「街頭補導」は,道路などの公共の場所,駅など多くの客が集まるところ,風俗(ふうぞく)の営業所など,子どもの犯罪が行われやすい場所で,子どもたちを発見し,必要に応じてその場で対応する活動です(少年警察活動規則7条)。
 「継続補導」は,警察が相談に乗っている子どもや,不良行為少年について,犯罪を防ぐために特に必要なときに,親のOKをもらったうえで,家,学校,友だち関係などについて,相当の改善(かいぜん)が認められるまでの間,アドバイスや指導などを続けることです(8条2項)。
【★2】 補導は,記事にメインで書いた「不良行為少年」だけではなく,「非行少年」,つまり,犯罪をした14歳以上の子ども(犯罪少年)や,犯罪にあたることをした13歳以下の子ども(触法少年),犯罪じたいはしていないけれども犯罪をするかもしれない子ども(ぐ犯少年)にもおこなわれます(少年警察活動規則7条,2条5号)。
 このうち,「非行少年」の補導というのは,事件の捜査(そうさ)をするだけでなく,早めに子どもや親にアドバイスをすることや,学校などへの連絡をすることをさします(同規則13条1項)。
 「14歳に満たない者の行為は罰しない」とされています(刑法41条)。だから,犯罪にあたることをした13歳以下の子どもは,「法に触(ふ)れることをした子ども」という意味で,「触法少年(しょくほうしょうねん)」と呼ばれます。この触法少年として平成23年に補導された子どもは,1万6616人でした。このうち,万引きで補導されたのが7498人,自転車を盗んで補導されたのが1586人でした(警察庁生活安全局少年課「平成23年中における少年の補導及び保護の状況」http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hodouhogo_gaiyou_H23.pdf)。
 14歳以上の子どもの万引きの場合は,事件として「検挙(けんきょ)」され,警察から家庭裁判所に文書で連絡がいきます(簡易送致(かんいそうち)と言います)。14歳以上の「犯罪少年」も,補導の対象にはなっているので,少しややこしいですね。
 万引きのことや,簡易送致については,また別の記事で詳しく書こうと思います。
【★3】 少年警察活動規則2条「この規則において,次の各号(かくごう)に掲(かか)げる用語の意義(いぎ)は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
(略)
六  不良行為少年 非行少年には該当しないが,飲酒,喫煙,深夜はいかいその他自己又は他人の徳性を害する行為(以下「不良行為」という。)をしている少年をいう。」
【★4】 「不良行為少年の補導について」(警察庁生活安全局長平成20年10月17日警察庁丙少発第33号)は,「不良行為の種別及び態様」で,不良行為を,「以下の行為であって,犯罪の構成要件(こうせいようけん)又はぐ犯要件に該当しないものの,そのまま放置すれば,非行その他健全育成上の支障が生じるおそれのあるもの」として,17個挙げています。
 (1)飲酒,(2)喫煙,(3)薬物乱用,(4)粗暴行為(そぼうこうい),(5)刃物等所持,(6)金品不正要求,(7)金品持ち出し,(8)性的いたずら,(9)暴走行為,(10)家出,(11)無断外泊,(12)深夜はいかい,(13)怠学(たいがく),(14)不健全性的行為,(15)不良交友,(16)不健全娯楽(ごらく),(17)その他(上記の行為以外の非行その他健全育成上支障が生じるおそれのある行為で,警視総監又は都道府県警察本部長が指定するもの)
【★5】警察庁生活安全局少年課「平成23年中における少年の補導及び保護の状況」http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hodouhogo_gaiyou_H23.pdf
 平成23年の不良行為少年の補導数は101万3167人,うち,深夜はいかい(56万4575人)と喫煙(35万3258人)を合わせると90%以上になります。
【★6】 少年警察活動規則14条1項 「不良行為少年を発見したときは,当該不良行為についての注意,その後の非行を防止するための助言又は指導その他の補導を行い,必要に応じ,保護者(学校又は職場の関係者に連絡することが特に必要であると認めるときは,保護者及び当該関係者)に連絡するものとする」
【★7】 「不良行為少年の補導について」(警察庁生活安全局長平成20年10月17日警察庁丙少発第33号)「第4 少年補導票の作成及び不良行為少年に係(かか)る報告等」「警察職員は,不良行為少年…を発見した場合において,第3の3の連絡〔注:保護者等に対する連絡のこと〕を行うことが必要であると認めるときは,…少年補導票を…作成し,所属の長に速やかに報告するものとする…」,「第5 1 少年補導票の保管」「少年補導票は,当該少年補導票に記載された不良行為少年の住居地を管轄(かんかつ)する警察署において保管するものとする…」
【★8】 「不良行為少年の補導について」(警察庁生活安全局長平成20年10月17日警察庁丙少発第33号)「第5 2 少年補導票の廃棄」「少年補導票は次の場合に廃棄するものとする。(1)第3の3の連絡〔注:保護者等に対する連絡のこと〕を行わなかったとき…。(2)当該少年補導票に記載された不良行為少年が成人となったとき。(3)その他保管の必要がなくなったとき。」
【★9】 20歳になったら廃棄されるのは,「不良行為少年」の補導の記録です。14歳以上の万引きなどの「犯罪少年」の補導は,「非行歴」として,その後もずっと記録が残ります。ただ,補導歴,非行歴のどちらにしても,普通の人がその記録を見ることはできませんし,「前科(ぜんか)」とは違いますから,進学や就職など,その後の人生にマイナスになるかも,と必要以上に心配することはありません。ただし,悪いことをくり返すと,それまでの補導歴や非行歴があなたの処分にかかわってきますから,そういう意味で,生活には注意をしなければいけません。
【★10】 「補導」は,昔は「少年警察活動要綱」という名前の警察内部のルールで決められていました。平成15年から今は,「少年警察活動規則」という国家公安委員会の規則で決められています。
 記事に書いたように,「補導について法律できちんとルールを決めるべきだ」という議論はありますが,問題が多く,今も法律はできていません。
 そうしたところ,平成18年3月,奈良県が,「奈良県少年補導に関する条例」という条例を作りました(同年7月施行)。「法律」は国会で作る国のルールですが,この「条例」は地方の議会で作る地方のルールです。奈良県だけ,議会で補導のルールが決められたわけです。しかし,奈良県の条例では,警察が「できること」をメインにして決めていて,警察が「してはいけないこと」をはっきりさせようとしていないことや,何が「不良行為」かについての決め方が広くてあいまいで,ふつうの不登校までもふくんでいたりすることなどに,批判もあります。

 

2013年4月 1日 (月)

逮捕された!早く外に出たい

 

 今日,警察に逮捕されてしまいました。一日も早く家に帰りたいんですが,いつ外に出られますか。

 

 ケースによります。その日のうちに出られることもあれば,ずっと出られないこともあります。


 外に出られるかどうかについての,いくつか重要なタイミングがあります。

 ① 逮捕から72時間(3日)

 ② 勾留請求から20日

 ③ 家庭裁判所送致から4週間



 このうち,この記事では,①を中心にお話しします。


①逮捕から72時間(3日)



 逮捕されたときから72時間(3日間)は,ひとりぼっちです【★1】

 この3日間は,家族でさえ,あなたと会って話をすることができません。



 警察署に閉じこめられ,取り調べが始まります。

 自分の言い分をどうやって警察に言えばいいのかは,大人でも難しいことです。

 まして,子どもであれば,もっと難しいことです。



 この先自分がどうなるのか,いつ外に出られるかわからない。

 たまらなく不安になります。

 そんな中,「警察の言うことにしたがえば早く外に出られる」,そんなふうに思わされます。

 そして,警察に言われるがままに,本当ではないことを,言わされたり,書かされたりする人が,とても多いのです。

 だけど,一度そんなふうに本当ではないことを言ったり書いたりすると,あとの裁判でひっくり返すことは,簡単ではありません。



 この3日間,あなたに会えるのは,弁護士だけです。

 でも,この3日間は,「国選(こくせん)弁護」
【★2】という制度がありません。

 あなたや家族が何もしないと,弁護士は来てくれません。

 弁護士は,警察につかまった人たちのために,毎日当番で待機しています。

 呼ばれたら,すぐに会いに行くことができます。

 お金の心配もいりません。

 ですから,
できるだけ早く弁護士を呼んでください。

 弁護士を呼ぶように,警察官に強く言ってください。

 取り調べる警察官に言ってもいいですし,留置場(りゅうちじょう)にいる警察官に言ってもかまいません。

 そうすると,警察官が,弁護士会に連絡しなければいけないことになっています。

 また,あなたの家族が弁護士会に連絡するのでもかまいません。

 東京の場合は 03-3580-0082 です。

 そのほかの都道府県の場合は,それぞれの弁護士会の連絡先を調べてください。



 弁護士は,早く外に出られるようにいろんな活動をします。

 また,あなたの処分(しょぶん)が不当に重くならないように,いろんな活動をします。

 弁護士としての,とても大切な活動です。



 
 「犯罪をしていない」,

 「犯罪はしたけれど,被害者や警察が言っているようなひどいことまではしていない」,

 「犯罪はしたけれど,自分にも言い分がある」,

 あなたの言い分を,警察官,検察官,裁判官などに,しっかりと伝えます。



 「自分は犯罪をしてしまったんだから,弁護士なんてつけても意味がない」,

 そんなふうには考えないでください。



 犯罪をしてしまったのであれば,

 どうして犯罪をしてしまったのか,

 被害者にどう謝ればいいのか,

 自分の家族とこれからどういう関係を築(きず)いていけばいいのか,

 今後犯罪をしないようにするためにどうすればいいのか,

 それを,あなたと一緒に考えます。



 まちがったことをした人でも,一人ひとりが大切な存在です。

 逮捕されたことをきっかけにして,「これからしっかりと暮らし,生きていくために,どうすればいいのか」を,弁護士と一緒に考えること。

 それが,とても大切なのです。



 「弁護士をつけると反省していないと思われるぞ」,と警察が言うかもしれません。

 でも,それは間違いです。

 弁護士はむしろ,どうやって反省すればいいのかを,あなたと一緒に考えるのです。



 「弁護士は金がかかるから親に迷惑をかけるぞ」,と警察が言うかもしれません。

 それも間違いです。

 お金のことも,心配いりません。

 あなた自身に大きなお金がなく,親もお金を出せない。

 そして,この3日間には「国選弁護」がないので,国も弁護士の費用を出してくれない。

 そんなときのために,日本中の弁護士全員がお金を出し合い,担当する弁護士に,そこからお金を出すしくみを作っています。



 お金がなくて犯罪をしてしまう環境(かんきょう)にいる人ほど,自分自身を見つめ直し,立ち直っていくために,弁護士のサポートが必要なはずです。

 それなのに,「お金がないから弁護士のサポートが受けられない」
,というのでは,おかしいのです。

 だから,弁護士全員でお金を出し合っています。



 「こんな子に弁護士なんかつけなくていい」,と親が言うかもしれません。

 でも,逮捕という大事なときに,そんなことを親が言うのは,さみしいことです。

 警察につかまるよりも前から,あなたにとって,家は,さみしい場所だったのではないですか。

 ひとりぼっちだったのではないですか。

 そんな子どもほど,弁護士がサポートしていく必要があります。

 親が弁護士を付けることに反対していても,あなた自身が弁護士をつけたいと思えば,付けることができます。

 そして,弁護士は,そんな親とも,あなたの立場に立って話をします。




 警察が捜査した結果,あなたが「犯罪をしていない」とか,「犯罪をしそうではない」【★3】,ということが警察官にわかったときには,そのときに外に出られます。


 軽い犯罪であれば,3日間で捜査が終わることもあります。

 捜査が終わって,「あとで家庭裁判所から呼び出しがあったとしても,自分でちゃんと裁判所に行けるだろう」と思ってもらえれば,外に出られます。

 ただし,実際には,3日間で捜査が終わることは少ないです。



 捜査が終わっていないけれども,外に出られる,ということもあります。

 
「あとで警察などが呼び出したとしても,自分でちゃんと来るだろう。返す家もあるし,逃げてしまう危険もないし,証拠を隠(かく)したり他の人と口裏(くちうら)合わせをすることもないだろう」と思ってもらえれば,外に出られます【★4】


 早く出られるかどうかは,「起きた事件がどんな内容か」ということはもちろん,「あなたがどれだけ深く反省しているか」,「あなたの家がどんな状況(じょうきょう)か」,「被害者と話し合いができているか」,など,いろんなことを見て決まります。

 ですから,一つ一つの事件で進み方が違うので,このブログでは,その全部を説明することができません。

 ぜひ,すぐに弁護士を呼んで,あなたの事件の場合の見通しを聞いてください。




 もし3日以内に外に出られなかった場合の,その後のことを,簡単に説明します。

 ただし,一般的なことだけをわかりやすく書きますので,ここに書いたのとはちがう流れになることもありますから,注意してください。

 くわしくは,また別の記事で書きます。



②勾留請求から20日


 逮捕後72時間のうちに,検察官(けんさつかん【★5】)が,「捜査を続けるためにもっと長くつかまえておきたい」と裁判官に連絡し【★1】,裁判官がこれを認めると,長くつかまったままになります。

 この,長くつかまることを,「勾留(こうりゅう)」と言います。

 「返す家がない」「逃げてしまうかもしれない」「証拠を隠したり他の人と口裏合わせをするかもしれない」と思われたときに,そうなります
【★4】

 ただし,子どもの場合は,大人の場合とちがって,本当に必要なときにしか勾留をしてはいけないことになっています
【★6】


 場所は,そのまま警察署にとめおかれることがほとんどです。

 本当は警察署にとめおくことには問題があるのですが,実際はそうされています
【★7】【★8】


 原則10日間とめおかれ,捜査が終わらなければ,さらに最大10日間延ばされます【★9】

 しかし,実際には,「延ばすのが当たり前,20日間とめおいて当たり前」というような,不当な取扱いが多いです。

 日にちの計算は,検察官が裁判官に連絡した日(勾留請求の日)を1日目として数えます。



 この期間は,平日の昼間であれば,家族や友だちも,面会や差し入れができます【★10】

 でも,共犯者(きょうはんしゃ)がいたりして,面会や差し入れができないときもあります。

 そのときは,弁護士だけが面会や差し入れができます
【★11】

 最近,法律が変わって,ほとんどの事件で,この「勾留」のときから「国選弁護」が付くようになりました
【★12】

 でも,上に書いたように,「勾留」よりも前の,最初の72時間が大事ですから,逮捕のときに弁護士を呼んでください。



③家庭裁判所送致から4週間


 捜査が終わると,検察官が家庭裁判所に事件を送ります。

 そして,家庭裁判所での判断をするまでの間,「あなたがどういう人かを見極(みきわ)める必要がある」,と裁判官が考えると,さらに長くつかまったままになります。

 これを,「観護措置(かんごそち)」と言います
【★13】

 場所は,少年鑑別所(かんべつしょ)にとめおかれます。

 鑑別所は,少年院とはちがい,あなたがどんな人なのかを見るための場所です。



 4週間後に,裁判所での「審判(しんぱん)」が開かれます(ちょうど4週間後のときもありますが,それよりも少し早い日のほうが多いです)【★14】

 その審判で,「家に帰っていい」,と言われることもあれば,「施設(少年院など)に行きなさい」,と言われることもあります。

 いろんなパターンがあるので,くわしくは,また別の記事で書きます。



 この4週間,弁護士は,「付添人(つきそいにん)」という名前で活動します。

 「国選付添人」という制度がありますが,警察署にいたときの「国選弁護」よりも,弁護士がつけられる事件の範囲がせまい,という問題があります。

 でも,捜査のあいだあなたについてくれていた弁護士に,必ず,そのまま「付添人」として活動を続けてもらってください。

 その弁護士の費用も,お金のない人の事件であれば,弁護士全員でお金を出し合った中から出してもらえますから,心配する必要はありません。



 平成23年に少年院に行きなさいと裁判所から言われた子どもは,3187人でした。

 そのうち,弁護士がついていたのは2518人です
【★15】

 669人もの子どもたちが,弁護士がいないまま裁判がされて,少年院に行くように言われているのは,おかしなことです。

 大人であれば,ほぼすべての事件で,弁護士がついていないと,裁判じたいが開けないことになっています
【★16】

 子どものほうが大人よりも弁護士のサポートが必要なはずなのに,ちぐはぐで,おかしなことですよね。

 そのことも,
また別の記事で書こうと思います。


(注:この記事を書いた後の,2014年6月,法律が変わって,子どもの裁判でもほとんどの事件で弁護士が国選で付くようになりました。くわしくは,「子どもの犯罪の裁判に国選の弁護士は付くの?」の記事を見てください。)

 

【★1】 72時間というのは,本文でも書いたように,検察官(けんさつかん)が裁判官に「もっと長くつかまえておきたい」と求める(勾留請求)までのタイムリミットです。
刑事訴訟法205条1項 「検察官は,…被疑者(ひぎしゃ)を受け取ったときは,弁解(べんかい)の機会を与え,留置(りゅうち)の必要がないと思料(しりょう)するときは直(ただ)ちにこれを釈放(しゃくほう)し,留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。」
同条2項 「前項の時間の制限は,被疑者が身体を拘束(こうそく)された時から72時間を超えることができない。」
【★2】 お金がない人,弁護士のツテのない人には,国が弁護士を選んで付けてくれる制度です。お金がない人は,弁護士の費用(ひよう)も,国が出してくれます。
 でも,本文で書いたとおり,逮捕されてからの72時間(3日間)は,この国選弁護のしくみがありません。
【★3】 「ぐ犯(ぐはん)」と言います。子どもの場合は,犯罪をしていなくても,犯罪をするかもしれない,というときには,裁判になることもあるのです。
少年法3条「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。…
3.次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
 イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
 ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附かないこと
 ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること
 ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」
【★4】 引き続き長くとめおく「勾留(こうりゅう)」をすることができるのは,刑事訴訟法60条1項に書かれている場合です。
刑事訴訟法207条1項 「前3条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は,その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。…」
刑事訴訟法60条1項 「裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証(ざいしょう)を隠滅(いんめつ)すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」
【★5】 「警察官」と発音が似ているのでややこしいですが,別の人です。検察官は,弁護士や裁判官と同じように,法律家です。警察と協力しながら事件を捜査し,ずっとつかまえるか外に出すかを決めたり,犯人の処分を求めて裁判所の手続をとったりします。
【★6】 少年法43条3項 「検察官は,少年の被疑事件については,やむを得ない場合でなければ,裁判官に対して,勾留を請求することはできない」
 少年法48条1項 「勾留状は,やむを得ない場合でなければ,少年に対して,これを発することはできない」
【★7】 本当は,警察署の中にとめおくのは,おかしいのです。捜査をする警察署の中にずっといさせられるのは,とても苦痛ですし,フェアではありません。そのため,外国では,警察以外の場所でつかまえておくことになっています。日本でも,法律の建前では,そうなっていて,あくまで例外的に警察署でもいい,となっています。しかし,その原則と例外が逆になって,警察署にとめおかれることのほうがふつうになってしまっています。これを「代用監獄(だいようかんごく)」と言います。
刑事訴訟法64条1項「…勾留状には…勾留すべき刑事施設…を記載(きさい)し…なければならない。」
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律15条「第3条各号に掲(かか)げる者は,…刑事施設に収容(しゅうよう)することに代えて,留置施設に留置することができる。」
【★8】 子どもの場合,大人の勾留とは違う形で,鑑別所にとめおくこともできる規定があります。これらの規定がちゃんと活用されるべきなのですが,実際にはほとんど活用されず,大人と同じように警察にとめおかれています。
少年法43条1項 「検察官は,少年の被疑事件においては,裁判官に対して,勾留の請求に代え,第17条第1項の措置を請求することができる。」
少年法48条2項 「少年を勾留する場合には,少年鑑別所にこれを拘禁(こうきん)することができる。」
【★9】 刑事訴訟法208条1項 「前条の規定により被疑者を勾留した事件につき,勾留の請求をした日から10日以内に公訴(こうそ)を提起しないときは,検察官は,直ちに被疑者を釈放しなければならない。」
同条2項 「裁判官は,やむを得ない事由があると認めるときは,検察官の請求により,前項の期間を延長することができる。この期間の延長は,通じて10日を超えることができない。」
【★10】 刑事訴訟法80条 「勾留されている被告人は,第39条第1項に規定する者以外の者と,法令の範囲内で,接見(せっけん)し,又は書類若しくは物の授受(じゅじゅ)をすることができる…」
 「第39条第1項に規定する者」というのは,弁護士のことです。
 刑事訴訟法39条1項 「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は,弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者…と立会人なくして接見し,又は書類若しくは物の授受をすることができる。」
【★11】 刑事訴訟法81条 「裁判所は,逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは,検察官の請求により又は職権で,勾留されている被告人と第39条第1項に規定する者以外の者との接見を禁じ,又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲(けんえつ)し,その授受(じゅじゅ)を禁じ,若(も)しくはこれを差し押えることができる…」
【★12】 被疑者国選(ひぎしゃこくせん)と言います。実は,この被疑者国選のしくみが始まったのは,最近のことです。以前は,警察が捜査している間は国選弁護がなく,大人の刑事裁判が始まってからしか国選弁護はありませんでした。だから,自分で弁護士を頼まなければならなかったのです。
 それがおかしい,と弁護士の先輩たちが活動を続け,当番弁護のしくみをつくり,お金も自分たちで出し合いながら続けてきた結果,ようやく,2006年(平成18年)に国選弁護として国がきちんと費用を出すということが決まりました。それでも,スタートしたときは,殺人や強盗などにしか被疑者国選は付きませんでした。2009年(平成21年)から,長期3年を超える懲役若しくは禁固(きんこ)にあたる事件も対象となり,窃盗事件や傷害事件など,多くの事件で被疑者国選が付くようになりました。
 お金が50万円もない人には,国が弁護士の費用を払ってくれます(刑事訴訟法37の3第2項,36条の2,刑事訴訟法第36条の2の資産及び同法36条の3第1項の基準額を定める政令2条)。この50万円は,現金と預貯金の合計で,それ以外のことは関係ありません。また,つかまった子ども本人のお金の額で見ますので,親にお金があっても関係ありません。
【★13】 少年法17条1項 「家庭裁判所は,審判を行うため必要があるときは,決定をもって,次に掲(かか)げる観護の措置をとることができる。
1.家庭裁判所調査官の観護に付すること
2.少年鑑別所に送致すること」
【★14】 法律では,原則2週間,特に必要があるときに1回更新,となっていますが,2週間ではその子がどんな子かを見極めきれないので,更新されることのほうがふつうです。
少年法17条3項 「…少年鑑別所に収容する期間は,2週間を超えることができない。ただし,特に継続の必要があるときは,決定をもって,これを更新することができる」
同条4項 「前項ただし書の規定による更新は,1回を超えて行うことができない」
【★15】 裁判所のウェブサイトの司法統計で確認することができます。
http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B23DSYO28~29.pdf
【★16】 刑事訴訟法289条1項 「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件を審理する場合には,弁護人がなければ開廷することはできない」

 

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