高校生は残業できないってほんと?
定時制の高校生です。平日に6時間仕事してから学校に行ってるんですけど,この前,職場から「あれ,高校生って残業させちゃいけないんだっけ?」と聞かれて,俺に言われてもわかんないよと思ったんですけど,実際どうなんですか?
「高校生は残業できない」というのは,「半分イエスで,半分ノー」です。
労働基準法は,
「原則,1日8時間/週40時間を超えて働かせてはいけない」
として,働く人を守っています【★1】。
例外として,それ以上長く働かせるなら,
職場と働く人たちとの間で,「どういう時に最大何十何時間まで働かせてもOKか」という約束をして,
それを労働基準監督署という役所に届け出なければいけません【★2】。
労働基準法の36条にそう書いてあるので,
この約束のことを,「36協定(さぶろくきょうてい)」と言います。
36協定がないのに1日8時間/週40時間以上の残業をさせたら,犯罪として職場が処罰されます【★3】。
この「36協定があれば残業させられる」というルールは,
未成年には,あてはまりません【★4】。
国のおおもとのルールである憲法は,「子どもを酷使(こくし)してはいけない」としているので【★5】,
労働基準法も,「子どもは原則どおり1日8時間/週40時間まで。残業をさせてはいけない」としているのです。
だから,そういう意味で「高校生は残業できない」というのは,正解です。
(もっとも,これは高校生に限った話ではなく,高校に通っていない人も18歳になるまでは同じですし,逆に,高校生でも18歳になれば大人と同じ扱いです)。
しかし,「高校生は残業できない」というのは,ある意味では,不正解です。
法律が言っているのは,「1日8時間以上働かせるのはNG」ということです。
たとえば,あなたのように「1日6時間働く」という約束ならば【★6】,
約束より1時間多く働いて,7時間勤務になった日があっても,
「8時間以上」ではないので,労働基準法には違反しません。
なので,そういう意味での残業ならばOKです【★7】 。
また,労働基準法は,未成年には36条があてはまらない代わりに,
「1日4時間かそれよりも短い日があって,1週間トータルで40時間を超えないなら,
他の日を1日10時間まで延ばしてもいい」
としています【★8】。
たとえば,「月曜日は4時間,火曜日から木曜日は6時間,金曜日は10時間,1週間トータルで32時間」というようなシフトです。
こういった場合の金曜日のように,1日8時間以上働くこともOKです。
(ただし厳密には,これを法律的には「残業」とは呼びません。【★9】)
「あれ? 大人は36協定がなければ1日8時間以上はダメなのに,子どもは36協定がなくても1日8時間以上がOKになるのは変じゃない?」と思った人も,いるかもしれません。
しかし,やはり子どもは大人と比べて,働く時間が長くならないように厳しく制限されています。
36協定は,ほとんどすべての職場で結ばれています。
そして,36協定では,「1ヶ月最大45時間まで残業OK」としていることが多いです(むかしはもっと長い時間がふつうでした)【★10】。
他方で未成年は,上に書いたように,1日10時間の日があったとしても,1週間では40時間を超えないように調整がされます。
だから,大人が36協定で認められるような長い残業は,子どもにはありません。
(細かい話ですが,未成年の人が変形労働制という特別なシフトを使うと,1週間で8時間延ばした,週48時間までOKになります。しかし,そうすると今度は1日のほうが8時間を超えてはいけなくなります【★11】)
また,裁判所も,「8時間以上働かせるなら,前もって子どもと話し合って計画を立てるなど,きちんと準備をしておかなければダメだ」と言っています【★12】。
なので,雇うがわの勝手な都合で急に一方的に8時間以上働かされることがない,という点でも,子どもはしっかりと守られています【★13】。
未成年の人は,
深夜労働がNGだったり(「18歳になった高校生の深夜アルバイト」)【★14】,
給料を本人の代わりに親が受け取ることを禁止していたり(「バイトの給料の入る口座から親がお金を抜いていく」)【★15】,
危険な仕事はNGだったりと【★16】,
労働基準法によって,しっかりと守られています。
今ではほとんど使われない条文ですが,
「未成年の人が解雇(クビ)になったとき,ふるさとに帰るための旅費を職場が払わないといけない」というものもあります【★17】。
こうした法律があるのは,
むかしは子どもたちが奴隷(どれい)のように働かされていて,
その反省のもと,子どもたちを守るために社会が約束しているからです【★18】。
あなたの仕事と学業の両立を,私は心から応援しています。
【★1】 労働基準法32条1項 「使用者は,労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間を超えて,労働させてはならない」
同条2項 「使用者は,1週間の各日については,労働者に,休憩時間を除き1日について8時間を超えて,労働させてはならない」
【★2】 労働基準法36条1項 「使用者は,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし,厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては,第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間…又は前条の休日…に関する規定にかかわらず,その協定で定めるところによつて労働時間を延長し,又は休日に労働させることができる」
【★3】 労働基準法119条 「次の各号のいずれかに該当する者は,6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。 一 …第32条…の規定に違反した者」
【★4】 労働基準法60条1項 「…第36条…の規定は,満18才に満たない者については,これを適用しない」
【★5】 憲法27条3項 「児童は,これを酷使してはならない」
【★6】 この場合の6時間を「所定労働時間」と言います。
【★7】 こうした,労働基準法の「1日8時間/週40時間」は超えていないけれども,職場との取り決めの労働時間(所定労働時間)を超えた残業のことを,「法定内残業」と言います。
【★8】 労働基準法60条3項 「使用者は,第32条の規定にかかわらず,満15歳以上で満18歳に満たない者については,満18歳に達するまでの間(満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの間を除く。),次に定めるところにより,労働させることができる。 一 1週間の労働時間が第32条第1項の労働時間を超えない範囲内において,1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合において,他の日の労働時間を10時間まで延長すること」
「労働基準法第60条は,満18才に満たない者の労働時間,休憩,休日を定めた。これは,その発育途上の肉体を守り,それを教育する時間的余裕を与えるためである。それは,米・ソなど先進国の水準を目標に,従来の満16才を18才にまで引上げた(1項)。…日本の劣悪な働く条件を考慮して,満18才未満の者に,8時間制を厳格に適用することにしたが,実情を考慮し,満15才以上18才未満の者について,1週1回版空を条件として1日2時間以内の延長を認めることとした(3項)」(松岡三郎「労働法実務体系14 婦人・年少労働者」71頁)
【★9】 「『延長』という字句を用いているが,もとより,第33条,第36条等の『時間外労働』の意味ではない」(厚生労働省労働基準局「平成22年版 労働基準法 下」684頁)
【★10】 昔は36協定で結べる時間数に制限がなかったので,1ヶ月100時間まで残業ができるような36協定も多くありました。しかし,月100時間もの残業は過労死の原因となるものです。そのため,1992(平成4)年に36協定で1か月45時間を目安とするようにと厚生労働省が通達を出し,1998(平成10)年の通達では1か月45時間を労使が遵守しなければならない「基準」にし,2002(平成14)年の通達では月45時間遵守を労基署が指導することとし,さらに働き方改革の一環として,2018(平成30)年の労働基準法改正で,36協定で月45時間を上限とすることが法律にはっきりと書かれることとなりました(労働基準法36条4項)。
【★11】 労働基準法60条3項 「使用者は,第32条の規定にかかわらず,満15歳以上で満18歳に満たない者については,満18歳に達するまでの間(満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの間を除く。),次に定めるところにより,労働させることができる。 … 二 1週間について48時間以下の範囲内で厚生労働省令で定める時間,1日について8時間を超えない範囲内において,第32条の2又は第32条の4及び第32条の4の2の規定の例により労働させること」
労働基準法施行規則34条の2の4 「法第60条第3項第二号の厚生労働省令で定める時間は,48時間とする」
「Q52 当社は,パート・アルバイトに1ヶ月単位の変形労働時間制を適用しています。学生アルバイトなどの年少者ですが,例えば『週48時間の範囲内で1日10時間』のシフトで働いてもらうことは可能でしょうか」「A …週48時間以下(2号)とできるのは,『1日8時間を超えない範囲内において』という条件があります。したがって,例えば,月曜日から木曜日を10時間,金曜日を8時間の計48時間と設定するような『いいとこ取り』はできません」(労働新聞社「労働実務事例研究2021年度版」86頁)
【★12】 東京高裁昭和42年6月5日判決(判例タイムズ214号244頁) 「成人労働者の労働時間につき同法第32条第2項(注:現行法32条の2)は就業規則その他により定めた場合に,また,同法第36条は労使双方が書面により協定してこれを行政官庁に届けた場合に同法第32条第1項の規制と異る態様を許容することとしていて,同条項と異る態様の労働時間を許容するについてはその条件の明確化を厳に要求していること,第60条第3項は,心身が未(いま)だ発育の途上にある年少労働者の健全な育成のため,これに休養,勉学の機会を与えるなどその労働生活について成人労働者に比(ひ)し厚く保護する必要があるので,使用者の事業運営上の便宜(べんぎ)をも考慮しながら,労働時間の緩和を認める条件を成人労働者に比し厳格にしたものであるから,その条件については成人労働者の場合と同様或いはそれにも増してその明確化が要求されて然(しか)るべきであること,そして第60条第3項は1日の労働時間の延長については,1週間の労働時間の制限のほか,『1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合においては』という表現を用いてこれを条件にしていることに鑑(かんが)みると,年少労働者についてもその秩序ある労働生活を維持させるため,右の延長の際には既(すで)に短縮措置の条件が確定,明示されていなければならないと解(かい)するのが相当である。従って,右の労働時間の短縮,延長については,就業規則,使用者と年少労働者との話合い等により予(あらかじ)め各週の就業計画を定め,これにより難(がた)い事情のあるときは週の初めにその週の就業計画を定め,週の途中において計画の変更を余儀(よぎ)なくする事情が生じたときは速(すみや)かに爾後(じご)におけるその週の就業計画を定めるなどして,年少労働者に対しそれが予め明示されている場合に限り,労働時間の延長が許され,遅くとも延長の際までに短縮の計画が明示されていない場合は,使用者にその週のうちに短縮措置をとる意思があると否(いな)とに拘(かかわ)らず,1日8時間を超える労働をさせ,外形的に違法な状態が成立した限り,その時点において第60条第3項違反の罪が成立するというべきであ(る)」
【★13】 なお,細かいため本文では触れていませんが,年少者であっても時間外労働が認められる例外的な場合があります。
「第33条及び第41条は年少者にも適用されるから,災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合において,行政官庁の許可を得たときは,年少者であっても時間外労働又は休日労働をさせることができるし,官公署の事業(別表第1に掲げる事業を除く。)において,公務のため臨時の必要がある場合は,年少者についても時間外労働又は休日労働をさせることができるわけである。また,第41条各号に掲げる事業(農,水産,畜産,養蚕)や業務(監視又は断続的労働,及び年少者が該当する場合はほとんどないであろうが監督若しくは管理の地位にある者の業務又は機密の事務)については,年少者であっても労働時間,休憩及び休日に関する規定の拘束は受けないことになる」(厚生労働省労働基準局「平成22年版 労働基準法 下」683頁)
【★14】 労働基準法61条1項 「使用者は,満18才に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない」
【★15】 労働基準法59条 「未成年者は,独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は,未成年者の賃金を代(かわ)って受け取ってはならない」
【★16】 労働基準法62条1項 「使用者は,満18才に満たない者に,運転中の機械若(も)しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除,注油,検査若しくは修繕をさせ,運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ,動力によるクレーンの運転をさせ,その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせ,又は厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない」
同条2項 「使用者は,満18才に満たない者を,毒劇薬,毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性,発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務,著(いちじる)しくじんあい若しくは粉末を飛散し,若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全,衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない」
同条3項 「前項に規定する業務の範囲は,厚生労働省令で定める」
労働基準法63条 「使用者は,満18才に満たない者を坑内(こうない)で労働させてはならない」
【★17】 労働基準法64条 「満18才に満たない者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合においては,使用者は,必要な旅費を負担しなければならない。ただし,満18才に満たない者がその責(せ)めに帰(き)すべき事由に基づいて解雇され,使用者がその事由について行政官庁の認定を受けたときは,この限りでない」
「労働基準法68条(注:現行法64条)は,満18才に満たない者,婦人の解雇による帰郷旅費の支給を規定した。足止めや身売りなどを防止せんためである。婦人・年少者は,解雇された場合帰郷したいがその旅費がない為(ため)に寄宿舎に居残っていると,事実上労働を強制されたり,商売女などに身売りされる危険がある。そこで本条は,従来の工場法(施行令27条)の趣旨をうけついでこれらの者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合において,使用者は必要な旅費を負担しなければならないこととした」(松岡三郎「労働法実務体系14 婦人・年少労働者」160頁)
【★18】 「先進諸国における労働保護法は,年少者や女性を過重な労働時間・深夜業・危険有害業務から保護することから出発し,わが国の工場法もそのような年少者(「保護職工」)・女性の保護を主要な内容としていた。わが国の労働保護法が労働者一般の労働基準を定める労働基準法に発展した際にも,年少者や女性は,当時の社会通念においてその生理的機能的特性と考えられたものに相応する特別の保護を維持・強化された」(菅野和夫「労働法第12版」608頁)