4_お金のこと

2022年5月 1日 (日)

18歳になったらネット副業で稼ぎたい


 高3です。今のアルバイトだと稼(かせ)げる金額がどうしても限られるんで,18歳で成人したらバイトだけでなくネット副業もやって,効率的に稼ぎたいと思ってます。調べてみたら,簡単にけっこう稼げそうな副業がいろいろあるみたいですけど,弁護士から見て,やっぱりヤバそうですか?




 はい。ヤバいです。



 「ヤバい」という言葉は,最近では良い意味にも使われることがありますが,

 ここでの答えは,「危ない」という,本来の意味の「ヤバい」です。




 チャットで相談に乗るだけで報酬がもらえる。

 レンタル彼氏/彼女に登録して,申し込みがあれば報酬がもらえる。

 広告動画を見るだけで報酬がもらえる。


 他にもいろいろなネット副業がありますが,


 もし本当なら,ラクにお金が稼げるそういう「仕事」は,とても魅力的ですね。



 でも実態は,お金をもうけるどころか,あなたが損をすることがとても多いのです。



 業者はあなたに,その「仕事」を始めるために必要ですと言って,先にお金を払わせます。

 個人情報の「登録料」や,専用サイトの「利用料」を毎月払わせたり,

 「仕事」の「マニュアル・情報商材」や「システム」を数十万円で買わせたりします。

 そして初めの頃は,あなたに少し報酬が入ってくるようになっていて,

 「このまま続ければもっと稼げる」とあなたを信じさせて,あなたにさらにお金を払わせます。

 でも,結局その後は思ったように報酬は入らず,あなたが業者にお金を払い続けるだけです【★1】




 楽しいもの,嬉しいもの,おいしいもの,ラクなこと。

 そういったことは,お金を払って手に入れます。

 逆に仕事でお金が手に入るのは,つらくて,大変で,しんどいことだからです。



 あなたが今,「稼げるお金が限られている」というアルバイトも,きっと大変だろうと思います。

 あなたがこれから知識や技術や経験を身につけて活かすことで,稼げるお金も増えていきます。

 お金をかせぐというのは,それだけ大変なことなのです。

 そう考えると,

 逆に,努力もせず,知識や技術や経験もなく,「ラクしてお金が手に入る」などというのは,本来ありえない,おかしな話です。


 もちろん,法律的に問題のないネット副業もあることは確かですが,

 それらは,かなり努力をしたり,知識や技術や経験を活かしたりしなければうまくいかないもので,

 「ラクしてお金が手に入る」ものではありません。




 法律的な約束ごとを,契約(けいやく)と言います。


 売り買い【★2】,貸し借り【★3】,雇われて働く【★4】,頼まれた仕事を完成させてお金をもらう【★5】,その他にもいろんな契約がありますが,

 どんな契約も,おたがいそれぞれにとってプラスがあります。

 例えば,物の売り買いなら,

 買い主には「欲しいものが手に入る」というプラスがありますし,

 売り主には「お金が入ってもうかった」というプラスがあります。

 そういう契約がたくさんあることで,私たちの社会は豊かなものになります。



 そして,契約は,お互いにきちんと守らなければいけません。

 いったん結んだ契約も,お互いが納得してナシにすることはもちろんできますが(合意解除と言います),

 お互いの納得ではなく,片方から勝手気ままに約束がナシにされてしまうのが許される社会だと,

 だれも安心して契約できなくなってしまいます。

 なので,いったん結んだ契約を一方的にナシにできるのは,きちんとした理由があるときだけです。

 そして,契約が守られなかったときのために裁判のしくみがあり,私たち弁護士はそういう民事裁判の仕事を多くしています。

 契約は,相手だけでなく自分自身も縛(しば)ってしまうものですから,慎重にしなければいけません。




 ところで,スポーツの試合を思い浮かべてみてください。

 初心者と,プロの選手とでは,あまりに力の差がありすぎて,

 初心者が一方的に負け,プロが一方的に勝つだけですね。

 また,中には,相手がルールをよく知らないことを逆手にとって,わざと反則までして試合に勝とうとする,ひどい競技者もいます。



 社会の中の契約も,それと同じことが言えます。



 複雑な経済のしくみをまだ学んでいる途中の未成年の人が,

 とても力のある業者を相手に契約をしたら,

 自分にはマイナスしかなかった,ということも,じゅうぶんありえます。

 だから,未成年の人の契約は,親や未成年後見人などの親権者(しんけんしゃ)がチェックしてOKすることになっています【★6】【★7】


 さきほど,「契約は守られるもの,契約を一方的にナシにできるのは理由があるときだけ」と言いましたが,

 もし親権者のOKがないまま契約をしてしまったら,

 「親権者のOKがなかった」という理由だけで,契約を一方的に取り消してナシにすることができます【★8】

 18歳で成人するまで契約が自分一人でできず,自由がなくてきゅうくつだと感じてきたかもしれませんが,

 未成年の人は,それだけとても強力なバリアで守られているのです。




 成人すると,自分のことをすべて自分で自由に決められます。

 他方で,未成年のときのような強力なバリアがなく,

 マイナスをかぶってしまうことも,基本的には自己責任です。




 ただ,成人だとまったく無防備になる,というわけではありません。

 成人でも,力が強い相手との契約では,一方的におかしな約束を押しつけられてしまう危険があります。

 たとえば,雇(やと)われて働く人と,雇うがわの職場・会社の関係や【★9】

 住む家の借り手と貸し手(大家さん)の関係【★10】 などが,それです。

 なので,法律は,そういう場面で,働く人や借り手などの弱い立場の人を,特別のルールで守っています。



 そして,業者から物やサービスを買うという場面でも,

 消費者契約法という法律が,弱い立場の消費者を守っています。



 「契約は守られるもの,契約を一方的にナシにできるのは理由があるときだけ」ですが,

 業者に一方的に有利で,消費者に一方的に不利な内容は,その部分が無効(むこう)になります【★11】

 また,業者が反則技を使ってきていたときには,消費者はそれを理由にして,契約じたいを一方的にナシにすることができます。

 たとえば,

 業者にウソを言われた,必ず値上がりすると言われた【★12】

 マイナスの説明がなかった【★13】

 お願いしても店から帰してくれなかった,家から帰ってくれなかった【★14】

 必要以上に多く売られた【★15】

 このままでは就職できないと不安にさせられた【★16】

 悪霊を取り除くのに必要だと言われた【★17】

 好きになった相手から「勤務先の店の宝石を買わないと別れる」と言われた【★18】

 その他にも,契約をナシにできるいろんなケースがあります。




 さらに,消費者と業者との間で特にトラブルが起きやすい契約では,

 特定商取引法という法律が,消費者をよりいっそう強く守っています。



 あなたが今回関心をもったネット副業は,

 難しい言葉で「業務提供誘引(ゆういん)販売取引」というものにあたることが多いです【★19】


 「契約は守られるもの,契約を一方的にナシにできるのは理由があるときだけ」ですが,

 業務提供誘引販売取引は,20日以内なら理由なく無条件で一方的にナシにできる,という強力な武器が消費者にあります【★20】

 これを「クーリング・オフ」と言います。



 業務提供誘引販売取引のほかにも,

 街を歩いていて声をかけられるキャッチセールスや(クーリング・オフ期間は8日間)【★21】

 販売員になった自分が,友だちにも販売員になるように誘うことで紹介料が入るというマルチ商法・ネットワークビジネスなど(クーリング・オフ期間は20日間)【★22】

 特定商取引法は,特にトラブルが起きやすい契約から消費者を守っています。



 クーリング・オフは,「頭を冷やす」という意味です。

 「冷静に考え直して,やっぱり契約をやめたい」と思っても,ふつうの契約では,簡単にナシにできません。

 それが,クーリング・オフならば,無条件で簡単にナシにできます。


 また,クーリング・オフの期間を過ぎてしまったり,クーリング・オフじたいができない契約であっても,

 上に書いた消費者契約法の条件を満たしていれば,それを理由に契約をナシにできます。




 ただ,いろんな方法で契約をナシにできたとしても,いったん業者に払ってしまったお金を取り戻すのは大変です。

 また,悪質な業者のやり方は上に並べたもの以外にもたくさんあって,新しい手口も次々現れています【★23】


 お金についての甘い話は,「ヤバい」と判断して,そもそも近寄らないようにしましょう。

 もしうっかり契約をしてしまったら,一人で抱え込まずに,

 すぐに弁護士や消費者ホットライン「188」(全国共通ダイヤル) に相談してください【★24】




 未成年のときに強力なバリアがあるのも,

 成人すると自分で自由に契約ができるのも,

 力の強い相手に丸め込まれないように守られているのも,

 すべては,法律が一人ひとりを大切にし,だれもが安心した毎日と幸せな人生を送れるようにしているからです。


 成人したあとに自分自身を守っていくためにも,

 法律があなたを守るためにあるということを,
これをきっかけに,ぜひ覚えておいてください。


 


【★1】 独立行政法人国民生活センター「怪しい副業・アルバイトのトラブル-簡単に稼げて高収入?!うまい話には裏がある…-」 https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20210916_1.pdf
【★2】 民法555条 「売買(ばいばい)は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約(やく)し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。」
【★3】 民法587条 「消費貸借(しょうひたいしゃく)は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。」
 民法593条 「使用貸借(しようたいしゃく)は,当事者の一方がある物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物について無償(むしょう)で使用及び収益(しゅうえき)をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって,その効力を生ずる。」
 民法601条 「賃貸借(ちんたいしゃく)は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる。」
【★4】 民法623条 「雇用(こよう)は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事(じゅうじ)することを約し,相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって,その効力を生ずる。」
【★5】 民法632条 「請負(うけおい)は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。」
【★6】 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
【★7】 民法818条1項 「成年に達しない子は,父母の親権に服する。」
 同法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有し,義務を負う。」
 同法857条 「未成年後見人は,第820条から第823条までに規定する事項について,親権を行う者と同一の権利義務を有(ゆう)する。…」
 未成年後見については,「後見人の弁護士がつくってどういうこと?」の記事も見て下さい。
【★8】 民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
 民法121条 「取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす」
【★9】 労働基準法,労働契約法などで,会社などでやとわれて働いている人が保護されています。
【★10】 借地借家法で,アパートや建物,土地の借り手のがわが保護されています。
【★11】 たとえば,業者に責任がある場合でも「損害賠償責任はない」とする条項や,消費者が負う損害金やキャンセル料が高すぎる条項などは,消費者契約法でその部分が無効になります。
 消費者契約法8条1項 「次に掲(かか)げる消費者契約の条項は,無効とする。
 一 事業者の債務不履行(さいむふりこう)により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し,又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
 二 事業者の債務不履行(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し,又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
 三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し,又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
 四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し,又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項」
 同法9条1項 「次の各号に掲げる消費者契約の条項は,当該各号に定める部分について,無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴(ともな)う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分」
【★12】 消費者契約法4条1項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結(ていけつ)について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認(ごにん)をし,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾(しょうだく)の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 一 重要事項について事実と異なることを告(つ)げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
 二 物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し,将来におけるその価額,将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認」
【★13】 消費者契約法4条2項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ,かつ,当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実…を故意(こい)又は重大な過失によって告げなかったことにより,当該事実が存在しないとの誤認をし,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。ただし,当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず,当該消費者がこれを拒(こば)んだときは,この限りでない。」
【★14】 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑(こんわく)し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 一 当該事業者に対し,当該消費者が,その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず,それらの場所から退去しないこと。
 二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず,その場所から当該消費者を退去させないこと。」
【★15】 消費者契約法4条4項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量,回数又は期間…が当該消費者にとっての通常の分量等…を著しく超えるものであることを知っていた場合において,その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,消費者が既に当該消費者契約の目的となるものと同種のものを目的とする消費者契約…を締結し,当該同種契約の目的となるものの分量等と当該消費者契約の目的となるものの分量等とを合算した分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において,その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときも,同様とする。」
【★16】 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 三 当該消費者が,社会生活上の経験が乏(とぼ)しいことから,次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら,その不安をあおり,裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに,物品,権利,役務(えきむ)その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。
 イ 進学,就職,結婚,生計その他の社会生活上の重要な事項」
【★17】 一般的に「霊感商法」と言われます。
 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 六 当該消費者に対し,霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として,そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり,当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。」
【★18】 一般的に「デート商法」と言われます。
 消費者契約法4条3項 「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 …(略)… 四 当該消費者が,社会生活上の経験が乏しいことから,当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き,かつ,当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら,これに乗じ,当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻(はたん)することになる旨を告げること。」
【★19】 特定商取引に関する法律51条1項 「…『業務提供誘引販売業』とは,物品の販売…又は有償(ゆうしょう)で行う役務の提供…の事業であつて,その販売の目的物たる物品…又はその提供される役務を利用する業務…に従事することにより得られる利益…を収受し得ることをもつて相手方を誘引し,その者と特定負担…を伴うその商品の販売若しくはそのあつせん又はその役務の提供若しくはそのあつせんに係る取引…をするものをいう。」
【★20】 20日間は,契約した日ではなく,業者があなたに法律上決められた書面を文書やメールなどで渡した日からスタートします。例えば,5月1日に書面が届いたとしたら,5月20日までクーリング・オフができます。
 特定商取引に関する法律58条1項 「業務提供誘引販売業を行う者がその業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売契約を締結した場合におけるその業務提供誘引販売契約の相手方…は,第55条第2項の書面を受領した日から起算して20日を経過したとき…を除き,書面によりその業務提供誘引販売契約の解除を行うことができる。この場合において,その業務提供誘引販売業を行う者は,その業務提供誘引販売契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。」
 同法55条2項 「業務提供誘引販売業を行う者は,その業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引についての契約…を締結した場合において,その業務提供誘引販売契約の相手方がその業務提供誘引販売業に関して提供され,又はあつせんされる業務を事業所等によらないで行う個人であるときは,遅滞なく,主務省令で定めるところにより,次の事項についてその業務提供誘引販売契約の内容を明らかにする書面をその者に交付しなければならない。
 一 商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容に関する事項
 二 商品若しくは提供される役務を利用する業務の提供又はあつせんについての条件に関する事項
 三 当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項
 四 当該業務提供誘引販売契約の解除に関する事項(第五十八条第一項から第三項までの規定に関する事項を含む。)
 五 前各号に掲げるもののほか,主務省令で定める事項」
【★21】 キャッチセールスは,訪問販売の一つです。
 特定商取引に関する法律2条1項 「…『訪問販売』とは,次に掲げるものをいう。
 一 販売業者又は役務の提供の事業を営む者…が営業所,代理店その他の主務省令で定める場所…以外の場所において,売買契約の申込みを受け,若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は役務を有償で提供する契約…の申込みを受け,若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供
 二 販売業者又は役務提供事業者が,営業所等において,営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者…から売買契約の申込みを受け,若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申込みを受け,若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供」
 同法9条1項 「販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合…若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者…は,書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除…を行うことができる。ただし,申込者等が第5条の書面を受領した日…から起算して8日を経過した場合…においては,この限りでない。」
【★22】 連鎖(れんさ)販売取引と言います。
 特定商取引に関する法律33条1項 「…『連鎖販売業』とは,物品…の販売…又は有償で行う役務の提供…の事業であつて,販売の目的物たる物品…の再販売…,受託販売…若しくは販売のあつせんをする者又は同種役務の提供…若しくはその役務の提供のあつせんをする者を特定利益…を収受し得ることをもつて誘引し,その者と特定負担…を伴うその商品の販売若しくはそのあつせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんに係る取引…をするものをいう。」
 同法40条1項 「連鎖販売業を行う者がその連鎖販売業に係る連鎖販売契約を締結した場合におけるその連鎖販売契約の相手方…は,第37条第2項の書面を受領した日…から起算して20日を経過したとき…を除き,書面によりその連鎖販売契約の解除を行うことができる。この場合において,その連鎖販売業を行う者は,その連鎖販売契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。」
【★23】 「マンガでわかる あなたを狙う消費者トラブル40例」(佐伯利華,北原尚,工藤寛泰,よねまる,弘文堂)が,たくさんの消費者トラブルをとてもわかりやすく説明しています。
【★24】 独立行政法人国民生活センターのサイト https://www.kokusen.go.jp/map/index.html



Part1_2_1_20220401181701 

2021年9月 1日 (水)

ネット予約をキャンセルしたのにお金を請求されてる

 

 高3の17歳です。友だち8人のGW旅行の計画で,4月初めに旅館をネット予約しました。サイトには住所と名前と電話番号を入力しました。親には後で言おうと思ってたら,数日後には旅行が取りやめになったんで,結局話しませんでした。旅館には直接キャンセルの電話をかけて,「わかりました,大丈夫です」って言われてたんですが,GWの夜に旅館から「まだ来ないのか」って電話がきて,僕が「え?前に電話でキャンセルしましたよ」って言っても,「そんな連絡は来てない。ネット予約はキャンセルもネットですることになっている。無断キャンセルのお金を払え」って言われました。納得できないでいたら,最近,5万円払えって手紙が届いたんですけど,どうすればいいですか?

 

 

 

 ちゃんとキャンセルしたはずなのに,お金を請求されて,びっくりしましたよね。


 「キャンセルもネットですることになっている」,と旅館が言っているのですね。

 でも,たとえそういうルールがあったとしても,

 あなたの話のとおり,電話で連絡して旅館の人が「わかりました,大丈夫です」と答えたのなら,

 キャンセルはきちんとできています
【★1】


 問題は,

 あなたと旅館の人との,その電話のやりとりを,

 あなたが証明しなければいけない,ということです
【★2】



 電話の履歴が残っていたり,

 旅館の人の名前を覚えていたりしていればプラスではあるものの,

 「その時に電話でその人と話をした」ということの証明まではできても,

 「キャンセルの話をした」ことまでの証明は,難しいかもしれません。




 旅館の予約も,そのキャンセルも,どちらも法律的なことがらです。


 法律的なこと,お金がからむ話のときには,

 いつも,手紙やメールなどでやりとりが残るようにして,

 あとでトラブルになったときに証明できるようにあらかじめ備えておくことが,だいじなのです
【★3】




 では,キャンセルの電話をしたことを証明できなければ,

 お金を払わないといけないのでしょうか。



 あなたの場合,

 キャンセルの電話をしたことを証明できなくても,

 未成年だという理由で,お金を払わずに済むことができます。





 未成年の子どもが,法律的な約束をするときには,

 親のOKが必要です
【★4】

 そのOKのことを,「同意(どうい)」と言います。




 あなたは,親には後で言うつもりだったのですよね。



 なので,「親のOKのないまま,旅館の予約をしていた」という理由で,

 予約そのものを取り消して,初めからなかったことにすることができます
【★5】【★6】

 そうすれば,キャンセル料を払う必要はありません。




 あなたが「自分は成人だ」とウソをついていたら,取り消すことはできません
【★7】

 でも,あなたが予約したサイトには,生年月日や年齢を入力するところがなかったのですから,

 ウソをついてはいないので,予約を取り消すことができます。





 キャンセルの連絡をきちんとしていたこと,

 そうでなくても,未成年の自分が親のOKなしにした予約だったので,取り消すこと,

 それらを手紙に書いて,旅館に送ってください
【★8】


 そして,その手紙のコピーも,忘れずに持っていてください。


 手紙は,あなた自身で書くのでも,あなたの親が書くのでも,どちらでもOKです【★9】

 書き方がわからなければ,弁護士に相談してください。






 経済や法律のしくみには,難しいことがたくさんあります。



 だから,そのしくみを学んでいる子どものときには,

 おかしな約束を押しつけられたり,手順を失敗したりして,困ったことにならないよう,

 親が子どもを守ることになっています。




 今回も,5万円という大きなお金がからむ法律の話だったのに,

 「キャンセルするときにやりとりを残す」という手順を,ふんでいなかったのですよね。



 大人だったら,お金を払わないといけなくなるところでした。


 子どもは,そういう手順を学ぶだいじな時期にあるからこそ,

 法律は「親からOKをもらわなければいけない」としていますし,

 親のOKをもらわないまま手順を失敗した子どもも,守られているのです。




 「キャンセル料が払われないのは,旅館にとって厳しいんじゃないか」,と思う人もいるかもしれません。

 でも,私はそう思いません。

 予約サイトに,お客さんの生年月日や年齢を入力してもらい,

 未成年であれば親にも確認する,というしくみにすれば済むことです。

 それは,子どもと比べて経済や法律を知っているべき業者にとっては,難しいことではありません。




 あなたは今高校3年生で17歳ということで,これまで未成年取消の話をしてきました。

 しかし,高校3年生には,17歳の人もいれば,18歳以上の人もいます。

 法律が改正されて,2022年4月から,成人年齢は20歳から18歳に引き下げられます【★10】

 今後は,もし18歳になっていたなら,

 今回のようなケースでは,未成年を理由に取り消せなくなります。




 インターネットでは,今回のケースのようなトラブルだけでなく,

 例えば,とても高いキャンセル料が一方的に決められていて,そのことが小さい字でしか説明されていなかったり
【★11】

 アダルトサイトなどで,その気がないのにいつの間にか何かを申し込んだことにされて,お金を請求されたりなど
【★12】

 子どもたちが経済や法律を知らないことにつけ込んだ悪質な業者による被害のトラブルが,たくさんあります。

 今後,18歳・19歳の人たちの被害が増えてしまうのではないかと,私たち弁護士は心配しています
【★13】



 成人するまでの今のだいじな時期に,

 親に守られながら,経済や法律のしくみを学んでいってください。


 そして,子どものときはもちろん,大人になってからも,

 法律のことやお金のことで困ったら,

 大きなトラブルになる前に,早めに弁護士に相談するようにしてください。

 

 

 

【★1】 電話で宿泊する契約をナシにすることをあなたがお願いし(法律の言葉で「申込(もうしこみ)」といいます),それを旅館がOKしたのですから(「承諾(しょうだく)」といいます),合意解除(ごういかいじょ)が成り立っています。旅館が承諾したのなら,申込がネットだったのか電話だったのかにかかわらず,合意解除は成立しています。
【★2】 証明責任(しょうめいせきにん)と言います。「証明責任とは,法令適用の前提として必要な事実について,訴訟上(そしょうじょう)真偽(しんぎ)不明の状態が生じたときに,その法令適用にもとづく法律効果が発生しないとされる当事者の負担をいう」(伊藤眞「民事訴訟法第4版補訂版」356頁)
【★3】 ただし,トラブルになったあとは,メールでやりとりするのは,かえってトラブルが大きくなることになるので,避けたほうがよいです。「既読スルーしてケンカになった」の記事も読んでみてください。
【★4】 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
【★5】 民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★6】 民法121条 「取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす」
【★7】 民法21条 「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術(さじゅつ)を用(もち)いたときは,その行為を取り消すことができない。」
【★8】 旅館が「受け取っていない」と言わないように,書留や特定郵便(受取のサインはありませんが,相手のポストに入れたことは郵便局が記録してくれます)など,受け取ったことが証明できる手紙で送りましょう。内容証明郵便であれば「手紙は受け取ったけれど中身がちがっている」と言われることも防げますが,書式にルールがありますし,費用もかかります。
【★9】 民法120条1項 「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,制限行為能力者又はその代理人,承継人若(も)しくは同意をすることができる者に限り,取り消すことができる」
【★10】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★11】 社会の中での一般的なキャンセル料と比べて高いなら,消費者契約法という法律で,そのキャンセル料のルールが無効だと主張できます。
 消費者契約法9条 「次の各号に掲げる消費者契約の条項は,当該各号に定める部分について,無効とする。 一 当該消費者契約の解除に伴(ともな)う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分」
【★12】 いわゆる「ワンクリック詐欺」を防ぐために,ネットでは,本人が間違いなく契約することを確認できるように画面表示していなければ,「その気がなかったのにうっかり入力してしまっていた」という理由(錯誤(さくご)と言います)で,無効にすることができます。民法では,「うっかり」の度合いがひどければ無効にすることはできない,と決まっているのですが,ネットの契約では,たとえ「うっかり」の度合いがひどくても,業者の側がきちんと確認の表示をしていなければ,無効にできる特別な法律が作られています。
 電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律3条 「民法第95条ただし書の規定は,消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について,その電子消費者契約の要素に錯誤(さくご)があった場合であって,当該錯誤が次のいずれかに該当するときは,適用しない。ただし,当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が,当該申込み又はその承諾の意思表示に際して,電磁的方法によりその映像面を介して,その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置(そち)を講(こう)じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は,この限りでない。
 一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
 二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。」
 民法95条 「意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自(みずか)らその無効を主張することができない」
【★13】 日本弁護士連合会2017年2月16日「民法の成年年齢引下げに伴う消費者被害に関する意見書」https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2017/opinion_170216_06.pdf 

Part1_2_1

2021年8月 1日 (日)

お金がなくて住む場所がなくなりそう

 

 今17歳で,2週間後に18歳になります。 高校を中退して家を追い出され,ネットで知り合った人に,その人の家の部屋の一つを月4万で間借りさせてもらって,バイトして暮らしてきました。でも,時々メンタルが落ちてシフトに入れないので,いつもお金が足りません。先月と今月,家賃が払えなくて,知り合いから「来週にでも出て行ってくれ」と言われました。これからどうしたらいいか,その不安でまたメンタルが落ちてバイトに行けず,ますますお金がなくなっています。




 住む場所,自分の居場所がきちんとある,ということは,とてもだいじです。

 未成年のうちは,親の協力がなければ,アパートを借りるのが本当に難しいので,

 あなたが今の知り合いの部屋から追い出されるのは,とても不安だと思います。



 その知り合いから,「来週に」出て行くように言われているのですね。

 でも,いきなり来週に,あなたが部屋を出る必要は,ありません。




 あなたが知り合いから部屋を借り,家賃として4万円を払っているのは,

 「賃貸借(ちんたいしゃく)」という契約(けいやく),つまり,法律的な約束ごとです
【★1】


 契約書という紙を作っていなくても,

 未成年のあなたが親のOKをもらっていなくても
【★2】

 契約として,きちんと成り立っています。



 借り手のあなたが,「家賃を払う」という約束を守れなかったら,どうなるか。


 住む場所がなくなるのは,生活・人生の中で,とても大きなことです。

 借り手は,貸し手よりも立場が弱いので,

 法律は,部屋を借りる人のことを守っています。



 家賃を払うのが少し遅れていたり,1,2回払えていなかったりしても,

 それだけでは,貸し手は,「約束違反だから,部屋から出て行け」とは言えません。

 貸し手と借り手のあいだの信頼関係がこわれるほどの,大きな約束違反があって,

 はじめて,「部屋から出るように」という話になるのです
【★4】【★5】


 あなたは,家賃が払えていないのが2ヶ月ぶんですし,

 払えない理由も,心の調子をくずして働くことができないからですよね。

 そのほかに,その知り合いとの信頼関係がこわれるような特段のことがないのなら,

 あなたが今,あわてて部屋を出る必要はありません。



 その知り合いと,ゆっくりきちんと話し合って下さい。

 話し合いがまとまらないまま,あなたを出て行かせるには,

 その知り合いが裁判の手続きをとる必要がありますし,それには時間がかかります。

 裁判所の手続きをとらないで,知り合いが,あなたの荷物を勝手に外に出したり,部屋の鍵を変えたりして追い出すことは,

 「自力救済(じりききゅうさい)」と言って,法律上,許されません。

 もし,知り合いがそういうことをしたら,すぐに弁護士に相談してください。




 「家賃を払うために,どこかからお金を借りよう」,と考えたかもしれません。

 「親のOKがなくても未成年の人にお金を貸します」という業者も,中にはあります。

 でも,そういった業者からお金を借りることは,しないでください。

 利息が高いので,あっという間に借金の額が増えていき,ますます苦しくなります。

 未成年の人が,親のOKなくお金を借りたら,「親のOKがなかった」という理由で,そのお金の貸し借りをナシにできるのですが
【★2】

 たとえ貸し借りをナシにしても,生活費として使ったぶんは,結局,業者に返さないといけないのです
【★6】


 もし,すでに業者からお金を借りてしまっているなら,すぐに弁護士に相談してください。

 弁護士が業者との話し合いに立って,借金の額を減らす交渉をしたり,分割して返す約束をし直したり,

 裁判所で借金をナシにしてもらう,「破産(はさん)」の手続きをとったりすることができます。

 親の協力がなければ,成人するまで待たないといけない手続もありますが,

 未成年の今のうちから弁護士がサポートできることを,ぜひ確認してください。




 大人であれば,「一時的に緊急にお金が必要」というときに,きちんとしたところからお金を借りることができます。

 社会福祉協議会という,困っている人をサポートするところが貸してくれる,「緊急小口資金貸付」という制度です
【★7】

 ところが,この制度も,未成年だと,親の協力がなければ使えません
【★8】

 もともと,「未成年が契約するときに親のOKが必要」と法律が決めているのは,子どもを守るためです。

 それなのに,親に家から追い出されたあなたのようなケースで,

 親のOKがないことを理由に,困っている子どもが,きちんとしたところからお金を借りられないのでは,

 ほんとうにおかしい,本末転倒(ほんまつてんとう)だと,私は思っています。



 17歳までは,児童相談所という役所があなたをサポートしてくれます。

 「189」に電話をかけて,相談してみてください。



 あなたは,2週間後に18歳になるということでしたね。

 18歳になったから児童相談所のサポートが受けられない,と,あきらめることはありません。

 あなたが生活を立て直すまでのあいだ,人としてきちんとした暮らしを送れるようにするために,生活保護という制度があります【★9】【★10】

 あなたの給料で暮らしていくのに足りないぶんを,生活保護がカバーします
【★11】

 市役所や区役所に申請をしてから実際に生活保護が始まるまでの期間は,原則2週間ですが,伸びると30日かかります【★12】【★13】

 それを待っている間にお金の余裕がなくなってしまわないよう,申請は早めにするようにしてください。

(市区町村によっては,実際の生活保護が始まる前に,お金を「緊急払い」してくれるところもあります。)

 生活保護の申請が自分ひとりではなかなかうまくいかないなら,弁護士があなたといっしょに役所と話をすることもできます
【★14】



 少なくとも生活保護が認められるまでは,引き続き今の部屋にいさせてもらえるように,あなたの知り合いに話をしてみましょう。

 どうしても難しいようなら,事情を役所に話し,部屋を出て当面の間寝泊まりできるところを,役所に確保してもらいましょう
【★15】

 生活保護を受けられるようになったら,自分でアパートを借りたり,自立をサポートする施設に入ったりして,これからの生活を立て直していくことができます。




 お金は,生きていくうえでとても大事なものですが,

 そのお金のせいで,生活や人生がおしつぶされることのないように,

 そのための法律があり,制度があります。

 住む場所をきちんと確保して,不安を減らし,心の健康を取り戻せるよう,

 ぜひ,すぐに弁護士に相談してください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。

 

 

 

【★1】 民法601条 「賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益(しゅうえき)を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって,その効力を生ずる」
【★2】 未成年のときに親のOK(同意)がないまま契約をしたら,「親のOKをもらっていなかった」ということを理由に契約をそのナシにすること(取消し)ができます。逆に言えば,取り消されるまでは,有効な契約として扱われます(内田貴「民法Ⅰ」246頁)。
 民法5条1項 「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない…」
 同条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★3】 借地借家法という特別な法律で,借り手が守られています。
【★4】 「信頼関係破壊理論」,または,「信頼関係の法理」と呼ばれています。
 最高裁判所第三小法廷昭和39年7月28日判決・民集18巻6号1220頁 「同被上告人にはいまだ本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至(いた)る程度の不誠意があると断定することはできないとして,上告人の本件解除権の行使を信義則に反し許されないと判断しているのであって,右判断は正当として是認(ぜにん)するに足りる」
 「 (民法)541条によると僅(わず)かな債務不履行(さいむふりこう)でも催告(さいこく)期間内に履行(りこう)がなければ解除できることになりそうであるが,不動産賃貸借が些細(ささい)な債務不履行で解除されてしまうと,賃借人は居住や営業の拠点(きょてん)を失うことになって,余りに不均衡(ふきんこう)な損失が発生する…そこでこれを制限する解釈論が展開した」「(最高裁で)採用された理論は信頼関係破壊理論(あるいは信頼関係の法理)などと呼ばれる。この理論には2つの側面がある。一方で,賃借の債務の不履行があっても,信頼関係を破壊しない些細な不履行では解除できないが,他方で,厳密には賃貸借契約上の債務の不履行といえなくても信頼関係が破壊されるに至(いた)れば,解除可能となる」(内田貴「民法Ⅱ」229~230頁)
【★5】 あなたの知り合いの家が,その人の持ち家ではなく,賃貸で借りている部屋なら,大家さんにOKをもらわずにあなたが住んでいるのは「又貸し(またがし)」になりますから,民法上の「無断転貸(むだんてんたい)」にあたります(民法612条)。また,大家さんと知り合いの間で結んでいる契約でも,ふつうは「誰が住むか」ということも含めて約束していますから,その約束違反にもなります。ただ,そういった違反があっても,それだけで大家さんが知り合いに対して「部屋を出て行くように」と言えるのではなく,やはり,又貸しによって大家さんと知り合いとの間の信頼関係がこわされているかどうかが重要になります。法律上は,又貸ししてもらっているあなたも,大家さんに直接義務を負うことになってはいますが(民法613条1項),又貸しによる大家さんとのトラブルは,第一には直接の借り手であるその知り合いが大家さんと対応するものです。あなたは,あなた自身の生活の場所・お金のことを第一に考えて動いてください。
【★6】 未成年の人が,「親のOKがなかった」という理由で契約をナシにした場合,お金がむだづかいでなくなってしまっているときには,「すでに利益が残っていないから,返さなくてもよい」とされます(民法121条但書「ただし,制限行為能力者は,その行為によって現(げん)に利益を受けている限度において,返還の義務を負う」)。
 他方で,裁判所は,「むだづかいをしていれば返す必要がないけれども,生活費にあてていれば返す必要がある」,と言っています(大審院昭和7年10月26日判決・民集11巻1920頁)。「むだづかいされていたら,もう『利益は残っていない』。でも,生活費は,生きていれば必ず出さないといけないものだから,借りたお金を生活費に使ったのなら,そのぶん他の財産が減らずに済(す)んでいるから,『利益が残っている』。なので,生活費ぶんのお金は返さないといけない」,というのが裁判所のりくつです。
 未成年の人にお金を貸す業者は,その裁判例を利用するために,「生活費として使うためにお金を借ります」という書面を,未成年の人に書かせていることが多いです。
【★7】 5日くらいの審査で,最大10万円まで,連帯保証人なしで,無利子で借りることができます。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/documents/20150519-koguchi201504.pdf
【★8】 2016年4月22日,東京都社会福祉協議会の福祉資金部福祉資金貸付担当に電話で確認済み
【★9】 憲法25条1項「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営(いとな)む権利を有(ゆう)する」
【★10】 生活保護法1条「この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基(もとづ)き,国が生活に困窮(こんきゅう)するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長(じょちょう)することを目的とする」
【★11】 生活保護法8条1項「保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要(じゅよう)を基(もと)とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補(おぎな)う程度において行うものとする」
【★12 生活保護法24条3項「保護の実施機関は,保護の開始の申請があったときは,保護の要否,種類,程度及び方法を決定し,申請者に対して書面をもって,これを通知しなければならない」
 同条5項「第3項の通知は,申請のあった日から14日以内にしなければならない。ただし,扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には,これを30日まで延ばすことができる」
【★13】 その期間に,あなたにお金がないのかどうか,他にあなたを援助する家族がいないかどうかを,役所が調べます。役所から家族に連絡が行きます(役所から家族に連絡しなくていい例外もあるにはあるのですが,特別な場合にしか認められないのが現状です)。それを嫌がって生活保護申請をためらう人も多いです。しかし,あなたを助けてくれない家族に生活保護申請が知られることの嫌な気持ちのマイナスより,生活保護を受けて安心・安定した暮らしを得られるプラスのほうが大きいことがほとんどです。不安な人は,そのことも含めて,一度,弁護士と相談するとよいでしょう。
【★14】 弁護士費用も心配する必要はありません。日本全国の弁護士がお金を出し合い,生活保護申請に協力する弁護士に,費用を出しています。
 http://www.nichibenren.or.jp/activity/justice/houterasu/hourituenjyojigyou.html
【★15】 親から家を出されたことや,病気がちのあなたを親がきちんと面倒を見ないということが,虐待になるようなら,子どものシェルターを利用することも考えられます。詳しくは,「親の虐待から逃げてきて家に帰れない」の記事を見て下さい。もっとも,あなたの場合は,記事本文で書いたように,いますぐ知り合いの家から出る必要まではないので,シェルターを使わずに次の居場所を見つけていくことができる可能性が,十分あります。まずは,弁護士に相談してみてください。

Part1_2

 

亡くなった親が借金をしていた

 

 17歳で,きょうだいはいません。両親は私が幼いころに離婚しました。父は今どこで何をしているかわかりません。今年,母が亡くなり,何十万円かの預金と,私を受取人にしている200万円の生命保険を残していました。預金と生命保険の手続きはまだできないらしいので,それまで待つことにしていました。ところが最近,母にかなりの額の借金があったことがわかり,業者から「返せ」という手紙が来て,とても困っています。

 

 

 ほんとうにその借金があったとしても,相続放棄の手続をすれば,あなたがその借金を払う必要はありません。

 また,相続放棄をしても,生命保険金は受け取ることができます。





 業者から突然「返せ」と連絡が来て,驚きましたよね。

 もしかして,お母さんが残した財産以上の借金を払わなくてはいけなくなるのかと,とても不安になったと思います。




 亡くなった人の財産を他の人が引き継ぐことを,「相続」と言います
【★1】


 あなたのお母さんは,「この財産をこの人に引き継がせたい」という「遺言(いごん)」を,書いてはいなかったのですね
【★2】

 遺言がなければ,法律に書かれている順番・割合で,家族が財産を引き継ぎます。



 あなたのお母さんが離婚していて,子どもがあなた一人だけなら,

 あなたがお母さんの財産を全部引き継ぐことになります
【★3】


 相続では,預金や土地・建物などのプラスの財産も,借金などのマイナスの財産も,両方とも引き継ぎます。


 でも,プラスの財産の額よりも,マイナスの額のほうが多かったら,それを引き継いで返していくのは,大変です。


 法律は,一人ひとりを大切な存在としてあつかっています。

 あなた自身が作った借金ではないのに,「家族だから」という理由だけで,必ず引き継がなければならないというのでは,おかしなことです。

 だから,借金などのマイナスの財産のほうが大きいときなど,引き継ぎたくない場合は,相続しないことができます。

 これを,「相続放棄(そうぞくほうき)」と言います
【★4】


 相続放棄は,亡くなった人の最後の住所の地域の家庭裁判所で,手続をします【★5】

 亡くなったことを知ったときから3か月以内に,手続をするのが原則です
【★6】

 3か月以内では財産を全部調べるのが間に合わないときには,

 「放棄するかどうか調べて考える期間を伸ばしてほしい」と裁判所に連絡します
【★7】


 あなたの場合,まだ未成年なので,今はまだ,この相続放棄の手続をとることができません【★8】

 成人してから3ヶ月以内に手続をとれば大丈夫です。

 成人する年齢はいままでは20歳でしたが,2022(令和4)年4月からは18歳に引き下げられています
【★9】



 お母さんにあったという多額の借金が,ほんとうにあなたが払わなければならないものなのかどうか,よく確かめてみてください。

 むかしの借金なら,もう「時効(じこう)」で消えていて,払わなくてよくなっているかもしれません
【★10】

 利息が高かったときの借金なら,利息制限法という法律で計算しなおせば,借金の額が減っているかもしれません
【★11】

 成人する前に,弁護士に相談してみてください。



 相続放棄の手続きが終わると,裁判所が証明書を出してくれます。

 それを業者に見せれば,「お金を払え」と求められることは,なくなります。



 きちんと調べるまでは,業者に一部でもお金を返さないようにしてください。

 でも,もし,うっかり相続放棄の前にいくらか返してしまったとしても,

 お母さんの残したお金からではなく,自分のお金から払ったのなら,

 その後でも相続を放棄することはできますから,安心してください
【★12】



 相続放棄をすると,プラスの財産も引き継ぎません。

 なので,お母さんの残した数十万円の預金は,あなたが受け取ることはできません
【★13】


 でも,生命保険のお金は,相続放棄をしても,あなたが受け取ることができます。


 相続は,亡くなった時に,亡くなった人が持っていた財産を引き継ぐものです。

 あなたが受取人として指定されている生命保険のお金は,

 お母さんが亡くなったことによってはじめて,あなたに発生するお金です。

 お母さんが亡くなった時に,お母さん自身が持っていたものではありません。

 だから,相続放棄をしても,受け取ることができるのです
【★14】【★15】


 お母さんが,あなたのために残してくれた生命保険のお金です。

 ぜひ大切にして,今後のあなたの生活のために役立ててください。




 日本が大きな戦争に負ける前までは,一家の主(あるじ)が亡くなると,財産は全て家族のうちの一人が引き継ぎ,それも,長男が優先されていました
【★16】

 子どもが何人かいても,「年下だから」「女性だから」という理由で,子どもどうしが平等に扱われてこなかったのです。



 戦争に負けた後,日本は,一人ひとりを大切にする社会にしようと変わりました。

 相続も,子どもどうしなら,年や男女に関係なく平等に相続するようになりました。



 ところが,不平等は,まだ別のところで残りました。

 例えば,男性が,結婚している女性との間に子どもをもうけ,さらに結婚していない別の女性との間にも子どもをもうけていたとき,

 その男性が亡くなると,

 結婚していない女性のほうの子どもは,結婚している女性のほうの子どもの2分の1しか,相続することができなかったのです
【★17】


 子どもは,親を自分で選んで生まれてくることは,できません。

 お父さんが同じなのに,お母さんが結婚していたかどうかで,子どもどうしを違うあつかいにするのは,全くおかしなことでした。

 そして,ようやく2013年(平成25年)に,最高裁は,

 「親が結婚していたかどうかで子どもが相続できる割合が違うのは,憲法が保障している平等原則に違反している」,

 そう言って,今後は同じ割合で相続するという判決を出しました
【★18】


 相続というしくみが,なぜあるのか。

 いろんな説明が試されていますが,

 はっきりとした理屈で,すっきりと説明することは,実は難しいのです
【★19】

 そのためもあって,実際,いろんな不都合が,あちこちで起きています。

 私は,弁護士として,相続の事件を多くあつかっていますが,

 今の相続のしくみが理不尽(りふじん)だと思うことが,たくさんあります。

 裁判での争いや,国会での議論によって,相続についての法律を,より良いものに変えていく必要があると思っています。
 



 「子どもは,親を自分で選んで生まれてくることができない」。

 それは,財産が多くある親のもとに生まれてきた子どもと,そうでない子どもとの間でも,同じことが言えます。

 相続のしくみのことだけでなく,

 親が元気な時も,親が病気になった時も,そして,親が亡くなった後も,

 子どもたちが,その生まれてくる家庭によって,理不尽な違ったあつかいを受けることなく,

 一人ひとりが大切にされる社会であることが必要だと,私は強く思っています。

 

 

 

【★1】 民法882条 「相続は,死亡によって開始する」
 民法896条 「相続人は,相続開始の時から,被相続人(ひそうぞくにん)の財産に属(ぞく)した一切の権利義務を承継(しょうけい)する。ただし,被相続人の一身に専属(せんぞく)したものは,この限(かぎ)りでない」
 「被相続人」は亡くなった人のこと,「相続人」は亡くなった人の財産を引き継ぐ人のことです。
【★2】 民法964条 「遺言者(いごんしゃ)は,包括(ほうかつ)又(また)は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分(いりゅうぶん)に関する規定に違反することができない」
 「遺言」は,日常用語では「ゆいごん」と読みますが,法律用語では「いごん」と読みます。
【★3】 民法887条1項 「被相続人の子は,相続人となる」
 お母さんが離婚していなければ,お父さんも相続人になります(民法890条「被相続人の配偶者(はいぐうしゃ)は,常に相続人となる。(略)」,民法900条「同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。 一 子及(およ)び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とする(略)」)。
 あなたが一人っ子でなければ,きょうだいで均等に相続します(民法900条「… 四 子…が数人あるときは,各自の相続分は,相等(あいひと)しいものとする。(略)」)。
【★4】 民法939条 「相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす」
【★5】 民法938条 「相続の放棄をしようとする者は,その旨(むね)を家庭裁判所に申述(しんじゅつ)しなければならない」
 家事事件手続法201条1項 「相続の…放棄に関する審判事件…は,相続が開始した地を管轄(かんかつ)する家庭裁判所の管轄に属する」
 民法883条 「相続は,被相続人の住所において開始する」
【★6】 民法915条1項 「相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇(か)月以内に,相続について,単純若(も)しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。(略)」
【★7】 民法915条1項但書 「…ただし,この期間は,利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所において伸長(しんちょう)することができる」
【★8】 民法917条 「相続人が未成年者…であるときは,第915条1項の期間は,その法定代理人が未成年者…のために相続の開始があったことを知った時から起算する」
 あなたの場合,親権者であったお母さんが亡くなったので,法定代理人がいない状態です。親権者変更の手続をとってお父さんに親権者になってもらうのも,相続放棄のためだけに未成年後見人を家庭裁判所に選任してもらうのも,現実的ではないということも多いと思います。その場合は,あなたが成人するまで待ってから手続をとるのでも十分です。
【★9】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★10】 最後の取引から5年で時効になることがほとんどです。「時効を援用(えんよう)します」という通知を出せばOKです。
 旧民法167条1項 「債権(さいけん)は,10年間行使しないときは,消滅する」
 商法522条 「商行為によって生じた債権は,この法律に別段の定めがある場合を除き,5年間行使しないときは,時効によって消滅する」
 民法145条 「時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない」
 改正後(2020(令和2)年4月以降)の民法166条1項「債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。」
【★11】 利息制限法1条 「金銭を目的とする消費貸借(しょうひたいしゃく)における利息の契約は,その利息が次の各号に掲(かか)げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは,その超過部分について,無効とする。 一 元本(がんぽん)の額が10万円未満の場合 年2割 二 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年1割8分 三 元本の額が100万円以上の場合 年1割5分」
【★12】 福岡高裁宮崎支部平成10年12月22日決定・家月51巻5号49頁 「抗告人らのした熟慮期間中の被相続人の相続債務の一部弁済行為は,自らの固有財産…をもってしたものであるから,これが相続財産の一部を処分したことにあたらないことは明らかである」
【★13】 あなたが相続放棄をして引き継がれなかった預金と借金は,法律で決まっている次の順位の人に引き継がれます。次はお母さんの両親や祖父母で(民法889条1項1号),亡くなっていたり相続放棄をしたりすれば,その次はお母さんのきょうだい(同項2号),きょうだいが先に亡くなっていれば甥(おい)や姪(めい)です(同条2項,民法887条2項)。相続する人が誰もいなければ,相続財産管理人という人が選ばれて清算します(民法952条,953条)。清算後に残った財産があれば,相続人ではなかったけれども特別の縁故(えんこ)があったという人が引き継ぐか(民法958条の3),国が引き継ぎます(民法959条)。
【★14】 「特定の相続人を指名を表示して受取人と指定している場合であるが,これは,第三者のためにする契約であって,受取人として指定された相続人は,保険契約の効果として当然に保険金請求権を取得する。相続による取得と解する余地はない。この点に異論はない」(松原正明「全訂判例先例相続法Ⅰ」246頁)。
 受取人が具体的な氏名ではなく「相続人」と指定されていた場合も,同じです(最高裁第三小法廷昭和40年2月2日判決・民集19巻1号1頁)。
 受取人が被相続人本人に指定されていた場合については,判例がありません。ウェブサイトでは,当然のように「この場合は相続財産になるので,相続放棄をしたら保険金を受け取れない」と断言しているものが多いようです。しかし,以下のように反対論(相続の対象ではないので放棄しても保険金を受け取れるという見解)も多くあります。
 「保険金受取人が被保険者本人(被相続人)とされている場合については,判例は存在しない。被相続人に保険金請求権が発生し,それが相続人に相続されるという見解が多数説であるが,保険金請求権が発生した時点で被保険者たる被相続人は死亡しているという点では,矛盾は否めない」(梶村太市他「家族法実務講義」388頁),「保険契約者が被保険者及び保険金受取人の資格を兼(か)ねる場合…保険事故による保険金請求権については,保険契約者の意思を合理的に解釈すれば,相続人を受取人と指定する黙示(もくじ)の意思表示があったと解するのが相当である。少なくとも,受取人の指定がない場合と同視すべきであろう。したがって,被相続人死亡の場合については,保険金請求権は相続人の固有財産となる」(司法研修所編「遺産分割事件の処理をめぐる諸問題」248頁),「保険契約者が自分自身を被保険者かつ受取人としている場合 この場合も,受取人の相続人となるべき物のためにする保険契約であって,同人が保険金請求権を固有の権利として取得すると解すべきである。これに対し,保険金請求権は保険契約者に帰属し,その相続人はこれを相続によって取得すると解するのが通説的見解である」(松原正明「全訂判例先例相続法Ⅰ」263頁)
【★15】 生命保険金は遺産ではないのですが,相続税の計算の中では,生命保険金は「みなし相続財産」として,相続税の対象になります(相続税法3条1項1号)。ただし,生命保険金は一定額までは非課税ですし(同法12条1項5号),基礎控除など様々な計算がありますから,相続税が発生しないことも多いです。相続税については,税務署や税理士に相談するとよいでしょう。
【★16】 むかしの民法では,一家の主のことを「戸主(こしゅ)」と呼んで,戸主が亡くなったり,隠居(いんきょ)したときに,家の財産をすべて一人が引き継ぐことになっていて,多くの場合長男が単独相続していました。これを「家督相続(かとくそうぞく)」と言います(なお,戸主以外の人が亡くなったときは,家督相続とは違い,共同相続でした)。
 明治民法970条 「被相続人の家族たる直系卑属(ちょっけいひぞく)は左の規定に従い家督相続人と為(な)る 一 親等の異なりたる者の間に在(あ)りては其(その)近き者を先にす 二 親等の同じき者の間に在りては男を先にす 三 親等の同じき男又は女の間に在りては嫡出子(ちゃくしゅつし)を先にす 四 親等の同じき嫡出子,庶子(しょし)及び私生子の間に在りては嫡出子及び庶子は女と雖(いえど)も之を私生子より先にす 五 前四号に掲げたる事項に付き相同(あいおな)じき者の間に在りては年長者を先にす」
【★17】 結婚している夫婦の間の子どもを「嫡出子(ちゃくしゅつし)」,結婚していない男女の間の子どもを「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」と言い,非嫡出子の相続分は,嫡出子の半分とされてきました。
 改正前の民法900条4号但書 「ただし,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし…」
【★18】 最高裁判所大法廷平成25年9月4日判決・民集67巻6号1320頁 「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准(ひじゅん)した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更(さら)にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権(さいりょうけん)を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである」
 憲法14条1項 「すべて国民は,法の下(もと)に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」
【★19】 「民法典に定めている相続法は,歴史的な産物であって,様々な社会的・思想的背景のもとに成立した制度が結合してできたものである。このため,相続制度全体をひとつの根拠によって一元的に説明することは困難である。社会学的な観点から相続の根拠を考える限り,必然的にそれは多元的な説明になる。そして,どんなに多元的であっても,また,たとえ併存する根拠が相互に矛盾するものであっても,社会学的な説明としては差し支えない。しかし,法解釈学の観点はこれとは異なる。…伝統的な学説は,多元的説明をしつつ,①潜在的(せんざいてき)持分の払戻し,②生活保障,③権利安定の確保を相続の根拠として挙げている」(内田貴「民法Ⅳ」322頁)

Part2

2021年7月 1日 (木)

大学に行かないなら予備校代を返せと言われてる

 

 高校3年生です。親から「大学に行け」と言われて,高1のときから予備校に通わされてきました。でも,勉強が好きではなく,成績もよくありません。ほんとは,小さい頃から美容師になりたいと思っていて,今はその夢がどんどん強くなっています。親に,「大学に行きたくない。専門学校に行って美容師の資格を取りたい」と言ったんですが,認めてくれず,「大学に行かないなら,これまで払った予備校代を返せ」と言われています。私は,予備校代を親に返さないといけないんですか。

 

 

 いいえ。

 予備校代について,「返す・返さない」の話になることじたいが,おかしなことです。



 お金を借りたのなら,

 貸してくれた人に,返さなくてはいけません
【★1】

 自分でどこかに払わないといけないお金を,ほかの人に立て替えてもらったなら,

 立て替えてくれた人に,返さなくてはいけません
【★2】


 でも,あなたの予備校代は,

 親から借りたものでもなければ,

 立て替えてもらったものでもありません。

 あなたが親に返すものではありません。



 法律は,「家族をきちんと養(やしな)わないといけない」,としています【★3】

 法律の言葉で,「扶養(ふよう)」と言います。

 特に,親には,子どもを育てる義務があります
【★4】

 いろんなことを学んで成長している子どものうちは,

 自分で働いてかせぐことができないのですから,

 そういう子どもを育てるためのお金は,

 親が自分で出さなければいけません
【★5】

 着ること,食べること,住むことにかかるお金はもちろん,

 子どもが学ぶためのお金だって,そうです。



 あなたの親は,「大学に行くことがあなたが育つために必要だ」と考えて,予備校に通わせていたのですから,

 その予備校代は,そう考えた親が,自分で出すものです。

 あとで,いろんな事情で,子どもが大学に行かない,行けないことになったからといって,

 予備校代を子どもに払わせるのは,おかしなことです。



 親が子どもに,

 「大学に行かなかったら,予備校代を親に返します」,と,

 はっきり約束までさせてしまっているケースを見かけます。



 おこづかい程度の小さな金額であれば【★6】

 友だちや,きょうだいとのあいだで,貸し借りなどをすることもあるでしょうし,

 その約束をきちんと守ることも,大切でしょう。



 法律は,

 「子どもがお金の貸し借りなどをするときには,

 親がきちんとチェックしないといけない」,としています
【★7】

 子どもがお金の話をするときには,

 その子が自分に不利な約束をしてしまわないよう,

 親が子どもを守らなければいけないのです。



 ところが,

 お金の貸し借りの相手が親だと,

 親が,子どもに不利な内容を押し付けてきたとき,

 子どもを守る立場の人がいません。



 こういう場面を,法律の言葉で,「利益相反(りえきそうはん)」と言います。


 利益相反のときには,子どもを親から守るために,

 裁判所が「特別代理人」という別の人を選んで,子どもにつけなければいけないことになっています
【★8】

 特別代理人に選ばれた人は,

 子どもに不利にならないかどうかをきちんと考えて,

 親とのあいだで貸し借りなどの約束をするのです。



 特別代理人がいないままの約束を,子どもが守る必要はありません。

 成人したあとで,自分できちんと納得してその約束をOKしたら,払わなければいけませんが
【★9】【★10】

 そうでないかぎり,払う必要はありません。


 予備校代は,

 遊びや趣味のためのお金ではなく,教育にかかわるお金です。

 金額だって,おこづかい程度のレベルではなく,何十万円やそれ以上という,とても大きなお金です。

 もともとあなた自身が積極的に望んで行きたいと思っていたわけでもない,その予備校のお金を,

 「大学に行かないなら親に返せ」などというのは,法律からみて,明らかにまちがっています。


 「大学に進むよう,子どもに考え直させるために,

 法律的にどうなのかはともかく,子どもの教育のためにそう言ったんだ。

 弁護士が『払わなくていい』などと子どもに吹き込むのは迷惑だ」。

 そう言う親もいます。

 しかし,

 法律的にまちがったウソをついて子どもを騙(だま)し,

 「大学に行かないなら金を払え」と子どもを脅(おど)し,

 子ども本人が望んでいない,親の思うとおりの道に進ませようと,子どもを支配することなど,

 「教育」だとは,到底(とうてい)言えません。


 「こういうことを学びたい,こういう仕事に就きたい」。

 子どもの夢がはっきりしてくると,

 その意見が,親と衝突(しょうとつ)することもあるでしょう。

 一度決めた夢が途中で変わることだって,ふつうにあることですが,

 そういうときもやはり,親と衝突するかもしれません。


 でも,あなたの人生は,親のものではありません。

 あなたが自分で選んで,進んでいくべきものです。


 いままできちんと育ててくれたこと,

 自分のためを思ってくれているからこそ,安くはない予備校代を出してくれていたことについて,

 親への感謝の気持ちを,きちんと伝えてみてください。

 そのうえで,「美容師になりたい」という自分の強い気持ちを,親に受け止めてもらえるように,じっくりと話し合ってください。


 結局,親が理解してくれず,

 これから必要になる専門学校のお金は,

 アルバイトや奨学金などで,自分で工面(くめん)しなければいけないかもしれません。

 でも,これまでかかった予備校代は,あなたが親に返す必要は,ないのです。


 自分の人生を自分で選んで進んでいくときには,お金の問題は,とても重要です。

 お金のことについての,まちがった情報や,情報不足のせいで,

 将来後悔するような選択をしないためにも,

 親との話し合いがうまく進まないときには,

 ぜひ,周りの大人や,私たち弁護士に相談してください。

 

 

【★1】 お金の貸し借りのことを,法律の言葉では,「金銭消費貸借(きんせんしょうひたいしゃく)」と言います。
 民法587条 「消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及(およ)び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生(しょう)ずる」
【★2】 「立替払(たてかえばらい)契約」と言います。
【★3】 民法877条1項 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及(およ)び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養(ふよう)をする義務がある」
【★4】 民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う」
【★5】 内田貴「民法Ⅳ」294頁 「親族扶養の中の最も重要な類型のひとつである親の子に対する扶養に関してはどこに規定があるのだろうか。…実定法上の根拠としては,文言からも877条1項に含まれていると解してよいだろう」
 同295頁 「828条但書は,子の財産の収益を養育費に充(あ)ててよい旨(むね)規定している。言い換えれば,子の財産の元本(がんぽん)を養育費に充当(じゅうとう)することは原則として許されないのである。したがって,収益で不足する限(かぎ)り,親は自(みずか)らの資産・労力で子を養育しなければならない」
【★6】 民法5条3項 「…法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未成年者が自由に処分することができる。…」
【★7】 民法5条1項 「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない…」
 民法824条 「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する」
【★8】 民法826条1項 「親権を行う父又は母とその子との利益が相反(そうはん)する行為(こうい)については,親権を行う者は,その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」
 「親権者が,その親権に服する子どもとの間で直接契約を行う行為は,一般に契約が『相対立する契約当事者間』で行われることから,民法826条の利益相反行為に該当(がいとう)するのが通常です。もっとも,民法826条は未成年者の保護を目的とするものですので,例えば単純贈与のように,単に未成年者が利益のみを享受(きょうじゅ)し,債務その他の負担を一切負わないような場合には利益相反には該当しません」(新日本法規「Q&A子どもをめぐる法律相談」503頁)
【★9】 内田貴「民法Ⅳ」233頁 「利益相反行為は無権代理と同じであり,その効果は本人に帰属(きぞく)しない。ただし,子が能力者となった後に追認(ついにん)する余地はある」
 民法113条1項 「代理権を有(ゆう)しない者が他人の代理人としてした契約は,本人がその追認をしなければ,本人に対してその効力を生じない」
 最高裁判所第三小法廷昭和46年4月20日判決(最高裁判所裁判集民事102号519頁) 「上告人〔注:未成年者,のち成人〕…は,…事件の係属中,被上告人またはその訴訟代理人に対し,上告人〔親権者〕…による本件土地の売買予約に関する無権代理行為を追認したものであり,これにより,右売買予約中右4名の共有持分に関する部分は,その成立の時に遡(さかのぼ)って効力を生じたものである旨,および親権者が民法826条に違反して,親権者と子の利益相反行為につき法定代理人としてなした行為は民法113条所定の無権代理行為にあたる旨の原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯(しゅこう)できる」
【★10】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」

Part2

18歳になった高校生の深夜アルバイト

 

 高校3年生です。先月,18歳になりました。コンビニでバイトしているんですが,店長から,「夜10時以降もシフトに入ってほしい」と言われてます。「高校生は深夜にバイトできないんじゃないんですか?」って聞いたら,「18歳になれば大丈夫」って店長が言ってます。この前他の人が辞めて人手不足になってて,店もこまってるし,僕も深夜に働けば時給が高くてバイト代をかせげるから,深夜のシフトに入りたいと思ってるんですが,親は「高校生だからダメだ」と,許可してくれません。やっぱり深夜バイトはできないんですか?




 法律上は,18歳になっていれば,深夜に働いてもよいことになっています。

 しかし,親が,あなたのことを考えて,深夜に働くことに反対しているのなら,親とよく話し合うことが大切です。




 むかし,子どもは,小さなときから,大人と同じように働かなければなりませんでした。

 今でも,世界の中には,そういう地域が残っています。

 「小さな子どものうちは,仕事をさせないで,教育を受けられるようにしよう」。

 日本をふくむ,世界の国々が,そう約束しています
【★1】

 だから,義務教育を受け終えなければ,働くことはできません。

 日本の法律は,以前は,「15歳になっていない子どもを働かせてはいけない」としてましたが
【★2】

 これでは,「15歳になれば,中学校を卒業していなくても,働かせてよい」とも,読めてしまいますね。

 なので,1998(平成10)年に,法律が直されました。

 「15歳になったあとに最初にくる3月31日」,つまり,中学校3年生の年度末までは,働かせてはいけない,となりました
【★3】


 でも,義務教育を終えたら働いていい,とはいっても,

 18歳になるまでは,大人とはちがったルールがあります。

 まだ体も心も成長を続けている時期なので,

 法律は,働く子どもたちを,いろんなルールで守っています。




 「18歳になるまでは,深夜に働かせてはいけない」,というのも,そのひとつです
【★4】



 18歳になっていない子どもを,夜10時から朝5時までの間に働かせると,雇(やと)っているがわが,犯罪として処罰(しょばつ)されてしまいます【★5】

 (子どもを守るためのルールですから,深夜に働いた子どもが処罰されるのではありません。)



 ただ,このルールは,「18歳になったあとに最初にくる3月31日」までは深夜に働かせてはいけない,という書き方はしていません。

 だから,高校を卒業していなくても,18歳になっていれば,深夜に働くことはできます。

 言いかえれば,「18歳になったあなたが深夜に働いても,店長は処罰されない」,ということです。



 これまでは,18歳になったとしても,親が,「そういう職場で働くのはダメだ」と反対したら,深夜に働くことはできませんでした。


 働き始めるときに,お店との間で,「働きます」「給料をもらいます」という約束をしますね【★6】

 こういった法律的な約束のことを,契約(けいやく)と言います。

 何ヶ月間働くか,1週間に何日働くか,何時から何時まで働くか,給料はいくらか,どんな内容の仕事をするか。

 そういったことを,契約を結ぶときに決めます。

 この契約をお店と結ぶのは,あなたの親ではなく,あなた自身です
【★7】

 でも,未成年のときは,契約のなかみを,親が納得して,親がOKしなければなりません
【★8】

 この,親が「OKすること」を,「同意(どうい)」と言います。


 いままでは大人になる年齢が20歳でしたから,18歳・19歳の人が夜10時以降も働くことにするなら,

 契約の内容が変わるのですから,

 あらためて,親からOK(=同意)をもらわなければいけませんでした。

 親がOKしないまま,あなたが契約のなかみを変えたら,

 親は,その新しい取り決めを,ナシにする(=取り消す)ことができますし
【★9】

 それだけでなく,

 「そんな職場で働くことは,あなたにとってよくない」,と親が考えたら,

 あなたがその店で働くことそのものを,やめさせることもできました
【★10】


 しかし,2022(令和4)年4月に,成人年齢が18歳に下がることになったので
【★11】

 18歳になれば,これまで必要だった親のOKが,今後はなくても,夜10以降働くことは法律的にはできるようになりました。


 ただ,それでも私は,深夜に仕事をするのを反対する親の話を,あなたにしっかりと受け止めて欲しいと思います。
 



 あなたの親が,「高校生だから深夜に仕事をするのはダメだ」と考える理由を,よく聞いてみましょう。



 「卒業するまでは,勉強のほうにきちんと力をそそいでほしい。深夜に働いて昼の勉強がおろそかになるのは本末転倒(ほんまつてんとう)だ」,とか,

 「深夜だと,事件・事故に巻き込まれてしまう危険があって不安だ」,など,

 きっと,あなたのことを心配してくれているはずです
【★12】


 だから,あなたも,そういう親の気持ちを受け止めて,

 「定期試験が終わって卒業が確実になるまで待つ」,とか,

 「仕事が終わったらすぐに親に連絡をして,寄り道せずにまっすぐ帰る」,など,

 そういった前向きな提案をすることも必要だと思います。





 私からは,勉強・卒業のことや,事件・事故の心配のほかに,もう一つ,だいじな話をしようと思います。


 夜という時間の大切さです。



 夜という時間は,子どもにとって,体が成長するための,だいじな時間です。

 子どもが18歳になるまで深夜に働かせてはいけないのは,そのためです
【★13】

 18歳になったあとだって,体の中では,まだまだ成長を続けています。



 お金は,将来大人になってからでも,かせいでいくことができます。

 でも,体が成長するのは,今の時期しかありません。

 お金に代えることのできない,そのだいじな時期にある自分を,ぜひ,大切にしてほしいと思います。



 そして,それだけなく,これから先の,大人になってからの自分の働き方についても,

 今,じっくりと考えてみてほしいと思います。



 たしかに18歳以上になれば,深夜に働いてもよくなりますし,深夜に働けば,給料も高いので,よりかせぐことができます。

 深夜の仕事の給料が必ず高いのは,「昼間とくらべて高くしないといけない」と,法律がきびしく決めているからです
【★14】


 夜という時間は,ほんらい,家でゆっくりくつろいで,一日の疲れをとり,明日のためのエネルギーを貯める,だいじな時間です。


 だから,法律は,なるべく深夜に人を働かせないようにするために,

 高い給料を,雇うがわから従業員に払わせるように,きびしく決めているのです




 日本は,世界の他の国とくらべて,働く時間がとても長い国です。

 働きすぎで突然命を失う「過労死(かろうし)」が,たくさん起きています。

 そのまま「karoshi」という言葉で,世界に通じてしまうほどです。



 毎日遅くまで仕事に追われて,体も心も,とても疲れ切ってしまう。

 ゆっくり寝る時間もなくて,その疲れがとれないまま,また仕事に出かける。

 仕事に追われる生活で,家族や友だちと楽しく過ごしたり,趣味にあてたりする時間もない。

 そして,ある日突然亡くなり,人生そのものが終わってしまう
【★15】

 残された家族も,だいじな人を突然なくした悲しみと,生活するためのお金がなくなる苦しさに,こまりはててしまう。



 私たちは,生きるために仕事をしてお金を得ているのに,

 仕事のせいで,生きることそのものが奪(うば)われてしまうことは,絶対にあってはならないことです
【★16】



 過労死の事件に,私が弁護士として多く取り組んでいる中で,

 その1件1件のケースを通して,

 「夜に仕事をすることが,体にどれほど負担になるか」を,いつも実感します。




 夜に働くということがどういうことなのか,

 どうして18歳になるまで深夜に仕事をしてはいけないことになっていて,

 どうして深夜の仕事の給料が高くなっているのか,

 そのことを,今回のことをきっかけに,


 ぜひ,親といっしょに考え,話し合ってみてください。



【★1】 ILO(国際労働機関)就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)2条1項 「この条約を批准(ひじゅん)する加盟国(かめいこく)は,その批准に際(さい)して付する宣言において,自国の領域(りょういき)内…における就業(しゅうぎょう)が認められるための最低年齢を明示する。…」
 同条3項 「1の規定に従(したが)って明示する最低年齢は,義務教育が終了する年齢を下回ってはならず…」
【★2】 労働基準法旧56条1項 「満15才に満たない児童は,労働者として使用してはならない」
【★3】 労働基準法現56条1項(平成10年改正) 「使用者は,児童が満15才に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで,これを使用してはならない」
【★4】 労働基準法61条1項 「使用者は,満18才に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない」
【★5】 労働基準法109条 「次の各号の一に該当(がいとう)する者は,これを6箇月以下の懲役(ちょうえき)又は30万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 …第61条…の規定に違反した者」
【★6】 民法623条 「雇用は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事(じゅうじ)することを約(やく)し,相手方がこれに対してその報酬(ほうしゅう)を与えることを約することによって,その効力を生(しょう)ずる」
 労働契約法6条 「労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金(ちんぎん)を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する」
【★7】 労働基準法58条1項 「親権者(しんけんしゃ)又は後見人は,未成年者に代つて労働契約を締結(ていけつ)してはならない」
【★8】 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
 「未成年者が労働契約を締結するには法定代理人の同意を要する。」(菅野和夫「労働法第10版」421頁)
【★9】 民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★10】 労働基準法58条2項 「親権者若(も)しくは後見人又は行政官庁は,労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては,将来に向(むか)ってこれを解除(かいじょ)することができる」
【★11】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★12】 親権(しんけん)は,子どものために使われなければなりません。
 民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有(ゆう)し,義務を負う」
 親が,雇い主のことを嫌いだからとか,子どもやその友だちと考え方がちがうから,という親の都合で,子どもが働くのをやめさせた(=【★10】の解除をした)というケースで,裁判所は,「子どものためにしたものではないから,親権の濫用(らんよう)で,解除は無効だ」としたものがあります(名古屋地方裁判所昭和37年2月12日判決・労働関係民事裁判例集13巻1号76頁)。
【★13】 大阪高等裁判所昭和33年12月2日判決(判例時報179号24頁) 「労働基準法62条は年少労働者…の健康の保護向上をはかるためにこれ等(ら)の者を一日のうち健康に有害な労働時間である同条所定(しょてい)の時間に使用すること(いわゆる深夜業)を禁止し,もって年少…労働者の各自の福祉を保障しようとする規定である」
【★14】 労働基準法37条4項 「使用者が,午後10時から午前5時まで…の間において労働させた場合においては,その時間の労働については,通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
 「2割5分」というのは,25%のことです。たとえば,もし昼の時給が1000円ならば,深夜は1250円以上にしなければいけません。
 ちなみに,昼に仕事をする人が残業で深夜まで働いたら,雇っているがわは,残業ぶんの割増し(25%やそれ以上)に加えて,さらにこの深夜ぶんの割増しも払わなければなりません。
 なお,18歳未満の子どもに対しては,残業をさせること自体が禁止されています。
 労働基準法60条1項 「…第36条…の規定は,満18才に満たない者については,これを適用しない」(36条は残業についての条文です。)
【★15】 過労死は,脳や心臓の病気で突然亡くなるケースや,うつ病などの精神的な病気から自殺で突然亡くなるケースが多いですが(「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発第1063号),「心理的負荷による精神疾患の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第1号)),それ以外の病気で亡くなるケースもあります。
【★16】 一件でも不幸な過労死事件をなくそうと,過労死遺族(いぞく)の人たちが国会に対して一生懸命はたらきかけました。その結果,2014(平成26)年6月20日に「過労死等防止対策基本法」という法律ができ,11月1日から施行されています。 

Part1_2

2021年6月 1日 (火)

お年玉を親に使われてしまった

 

 お正月に,おじからお年玉をもらいました。そのときに,お父さんが「お母さんに預(あず)けなさい」というので預けたんですが,あとになって,お母さんから「冷蔵庫を買うために使ってしまった」と言われました。有名な弁護士さんが,親がお年玉を使っても全く問題ないって言っていたんですが,ほんとうなんですか。



 私はその弁護士さんがどのように言ったのか知りませんが,法律上,お母さんがあなたのお年玉を勝手に使うことは,してはいけないことです。



 大人になるまでは,子どもの財産は,「親権(しんけん)」を行う人が,管理します【★1】

 大人になる歳は,いままでは20歳でしたが,2022(令和4)年4月からは18歳です
【★2】


 あなたの場合,お父さんとお母さんが親権者(しんけんしゃ)です【★3】



 人は,ほんらい,自分の財産は,自分で管理し,自分で好きなように使っていい,という自由があります。


 でも,経済のしくみはとても複雑(ふくざつ)です。

 経済のしくみがわかるようになるまでの子どものときや,

 お年寄りになって判断する力が弱くなってきたときなどは,

 他の人にだまされて,財産をうしなったり,大きな借金を背負わされたりする危険があります。

 だから,そういう人には,その人に代わって,その人のために,財産を管理したり使ったりするサポーターを,法律ではつけているのです。

 子どもの場合は,そのサポーターが,「親権」を行う人です。



 ですから,お父さんがお年玉を預けなさい,と言ったのは,法律的に正しいことです。


 あなたが,せっかくもらったお年玉を,むだ遣いしないよう,あなたを守る義務が,親にはあるのです。


 ただ,ふだんのお小遣いは,自分で管理して,自分で使っていますね。

 また,中学生・高校生・大学生にもなってくると,自分で管理して,自分で使うことを親から許される金額も,大きくなってきます。

 法律は,親が許したぶんについては,子どもが自由に使っていい,としています
【★4】

 「子どもがだまされてお金を失うことはないだろう」,「お金の使い方をここで学んでもらおう」,ということを,金額の大きさや子どもの年齢に応じて,親が考えていくしくみになっているのです。




 でも,お母さんが,冷蔵庫を買うためにあなたのお年玉を勝手に使ったことは,法律的にまちがっていることです。



 親が子どもの財産を管理するのは,あくまで,その子どものためです【★5】

 管理を任(まか)されている人は,その人の財産と,自分の財産とを,ごちゃごちゃにしてはいけないのです。

 おじさんは,お年玉を,あなたが自分のために使ってほしい,というつもりであげたはずです。

 もらったあなたも,そのお年玉を,自分のために使いたいと思って,実際に使うまでの間,親に預けていただけのはずです。



 お母さんは,「冷蔵庫はあなたも使うんだから,あなたのためでもあるじゃない」と言うかもしれません。

 でも,冷蔵庫は,ふつう,お父さんとお母さんが家計の中でやりくりして買うものです。

 もし,万一,家計に余裕(よゆう)がなくて,親があなたのお年玉からもお金を出してもらいたいと思うなら,少なくとも,きちんと話し合って,あなたのためでもあるんだ,ということあなた自身が納得してから,出すようにしなければなりません。




 インターネットを見ると,こんな記事を見ることがあります。

 「親は,子どもを育てるのに必要なお金と,子どもから預かっているお金とを差し引きできると法律に書いてある。だから,親が子どものお年玉を使ってもいい」。

 でも,それは間違いです。

 差し引きしていいのは,たとえば,お年玉を銀行に預けたときの利子分などだけです。

 お年玉そのものを,子どもを育てるのに必要なお金と差し引きすることまで,法律は認めていません
【★6】



 親が子どもの財産を勝手に使ってしまったら,親は,その分を,子どもに返さなければいけません
【★7】

 お年玉程度の金額であればまだしも,子どもにもっと大きなお金があって,それを親が勝手に使ってしまったら…
【★8】

 そんなときには,裁判所が,子どもの財産を管理することを親に禁止したり
【★9】,親から「親権」そのものをうばったりすることさえあります【★10】



 今回,使われてしまったお金を返してほしいと親と話すことは,そう簡単なことではないかもしれません。

 自分にお金をかけて育ててもらっている親に,なかなか言いづらいですよね。

 「弁護士がこう言っていた」,という言い方をするのは,かえって親の気分を悪くするかもしれません。

 こういうときには,お年玉をくれたおじさんを味方につけるほうが良いと思います。

 そして,次の年からは,おじさんがお年玉をわたすときに,「このお年玉は,おじの私が管理しておきます」,と,お父さんやお母さんに言ってもらうことも,一つの手です
【★11】

 そう言ってもらうと,そのお年玉は,親が管理することができませんから,勝手に冷蔵庫代に使われる心配はありません。

 いつか自分が自分のために使いたいときに,おじさんに言えば良いのです。




 自分の財産をきちんと大切にできる人が,

 他の人の財産もきちんと大切にできるようになります。

 お金の話を細かくするのはいやらしい,と言う人もいますが,

 お金をきちんと大切にすることは,人として大事なことです。

 それは,子どもであっても,大人であっても,同じことだと思います。



【★1】 民法824条「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし,その子の行為を目的とする債務(さいむ)を生(しょう)ずべき場合には,本人の同意を得なければならない。」
【★2】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★3】 民法818条1項「成年に達しない子は,父母の親権に服する」
【★4】 民法820条「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育する権利を有し,義務を負う」
【★5】 民法5条3項「…法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも,同様とする」
【★6】 民法828条には,「子が成年に達したときは,親権を行った者は,遅滞(ちたい)なくその管理の計算をしなければならない。ただし,その子の養育及び財産の管理の費用は,その子の財産の収益(しゅうえき)と相殺(そうさい)したものとみなす」,とあります。この後半の部分を誤解(ごかい)している人が多いようです。東京大学の内田教授も,「828条但書(ただしがき)は,子の財産の収益を養育費に充(あ)ててよい旨(むね)規定している。言い換えれば,子の財産の元本(がんぽん)を養育費に充当(じゅうとう)することは原則して許されないのである。したがって,収益で不足する限(かぎ)り,親は自ら(みずから)の資産・労力で子を養育しなければならない」と言っています(内田貴「民法Ⅳ」295ページ)。
【★7】 「きちんと注意して管理をしなければならないのにしていなかったから,その分をきちんと返してください」(民法827条),と言うか,「やってはいけないことをしてこちらに損(そん)をさせた分を元にもどしてください」(民法709条。不法行為といいます),という言い方になります。
【★8】 実際に,親戚が亡くなって,その遺産(いさん)から,子どもが大きなお金や土地・建物を手にすることがあります。
【★9】 管理権喪失(そうしつ)の審判(しんぱん)といいます。民法835条「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,管理権喪失の審判をすることができる」
【★10】 親権喪失の審判といいます。民法834条「父又は母による虐待又は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著(いちじる)しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限(かぎ)りでない」
【★11】 民法830条1項「無償(むしょう)で子に財産を与(あた)える第三者が,親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは,その財産は,父又は母の管理に属(ぞく)しないものとする」。誰が管理するかをはっきりさせないと,管理する人をわざわざ裁判所に選んでもらわないといけなくなりますから(同条3項),誰が管理するのかを,きちんとおじさんに言ってもらう必要があります。

Part1_2

2021年5月 1日 (土)

ケータイを持ちたいのに親が保証人になってくれない

 

 ケータイかスマホを持ちたいんだけど,親が保証人(ほしょうにん)になってくれません。ケータイ代・スマホ代はアルバイトで自分で出すつもりで,親には迷惑かけないのに…。親が保証人になってくれなければケータイやスマホを持つことはできないんですか。

 

 ケータイやスマホを持つときに,親のハンコがいる,ということは知ってますよね。

 子どもも大人もよくまちがえているんですが,
親がハンコを押すのは,「親が保証人になる」ということではなくて,「子どもがケータイやスマホを持つことを親がOKする」ということです。

 

 「保証人」というのは,ある人がお金を払えなくなったときに,肩代わり(かたがわり)してお金を払う人のことです【★1】

 たとえば,住む部屋を借りる契約(けいやく)を大家さんとの間でするときには,必ずといっていいほど,「保証人」が必要です。

 家賃が払えなくなったり,部屋をこわしてしまって弁償(べんしょう)するお金がなかったりしたときに,自分の代わりに,大家さんに払ってもらう人のことです。

 家を買うために銀行から住宅ローンでお金を借りるとき。

 自分で立ち上げた会社が銀行から事業資金を借りるとき。

 そんなときなどにも,万が一のときのために,保証人がもとめられたりします。



 でも,ケータイやスマホを子どもが自分の名義で持つときに,親が保証人になるわけではありません。



 ケータイやスマホの申し込みの用紙をよく読んでみて下さい。

 「保証」という言葉は書かれていません。

 それでも心配ならば,「自分が払えなくなったときに親が払わなくてはいけなくなるんですか?」とケータイショップの人に聞いてみて下さい。

 「そういうことではありません」と答えが返ってきます。



 親がハンコを押すのは,「本人が払えなくなったときに親が肩代わりして払います」ということではありません。

 親がハンコを押すのは,「本人がケータイやスマホを持つことをOKします」ということです。

 法律のことばで,「同意(どうい)」といいます
【★2】


 人は,「どんな人と,どんな約束をしてもいい」という自由があります【★3】

 お互いが納得していれば,まわりの人がとやかく口をはさむことはできません。

 だから,ある人が,ケータイ会社との間で,「料金を払うのでケータイやスマホのサービスを使います」という約束をするのは,ほんらい,自由です。

 (このような法律的な約束を,「契約」(けいやく)といいます)


 でも,お互いの力に差があったら,弱いほうに一方的におかしな約束を押しつけられてしまう危険があります。

 だから,法律では,お互いの力に差があるときに,弱いほうがこまることのないよう,いろんなルールを作っています。

 お年寄り
【★4】,消費者(しょうひしゃ)【★5】,働く人【★6】,アパートなどの借り手【★7】など,いろんな人を,いろんな特別のルールで守っています。

 そして,子どももそうです。

 おかしな約束をほかから押しつけられて子どもがこまることのないように,親が約束の内容を前もってチェックし,大丈夫であれば「同意」する(=OKする)ことが,ルールとして決まっているのです。

 そもそも必要のないことではないか,金額や料金プランは高すぎないか,など,子ども自身がこまらないかどうかを,親がチェックしなければいけないのです。



 もし,親の「同意」がないのに子どもが約束してしまったら。

 そのときは,「親がOKしていなかった」という理由で,約束をはじめからなかったことにしてしまうことができます
【★8】

 ただし,「約束をなかったことにする」とはいっても,すでに使ってしまったケータイやスマホの料金ぜんぶを払わなくてすむわけではありません。

 本人が「むだづかい」をして高い料金になった部分は払わなくてもすみますが,必要だったと思われる料金の部分は払わないといけません
【★9】


 親が「同意」しなければ,子どもはケータイやスマホを持つことはできません。

 だからといって,ウソをついて,申込書に親の名前を勝手に書いてハンコをつくことは,やってはいけません。

 他の人の名前を書いてハンコを押したり,その文書を使ったりすることは,りっぱな犯罪です
【★10】

 それに,「親からOKをもらいました」とウソをついて相手をだますと,「本当は親がOKしていなかったんです」といって約束をナシにすることが,できなくなってしまいます
【★11】

 そうすると,こまるのは,あなた自身です。


 「むだづかい」をして高い料金になった部分であっても,あなたが払わなくてはなりません。

 そういうことのないように,前もって親がきちんとチェックして「同意」しましょう,というルールになっているのです。



 だから,親が「同意」してくれないときには,親ときちんと話し合って納得してもらう,ということが,なにより大切です。

 親がハンコを押すのは,「OKすること(同意)」であって,「親が肩代わりして払う(保証)」のではないことを,きちんとわかってもらいましょう。

 そして,自分がこまることにはならないと親に安心してもらえるように,料金プランや,ケータイ・スマホの使い方を,きちんと説明してみましょう。



 やがて,成人し,大人になったとき,そのとたんに法律では一人前とされて,いろんな約束ごとを自分で判断していかなければならなくなります【★12】

 これは,けっこう大変なことです。

 未成年のうちは,約束ごとのしかたを,親のサポートを受けながら学んでいくことのできる,大事な時期なのです。

 

 

【★1】 民法446条1項「保証人は,主(しゅ)たる債務者(さいむしゃ)がその債務を履行(りこう)しないときに,その履行をする責任を負う」
【★2】 民法5条1項「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
【★3】 難しいことばで,「私的自治(してきじち)の原則」といいます。
【★4】 認知症などで判断能力が弱くなった人などのための,成年後見(せいねんこうけん)制度があります(民法7条~,民法838条~,任意後見契約に関する法律)。
【★5】 消費者契約法などで,モノやサービスを買うがわである消費者が保護されています。
【★6】 労働基準法,労働契約法などで,会社などでやとわれて働いている人が保護されています。
【★7】 借地借家法で,アパートや建物,土地の借り手のがわが保護されています。
【★8】 これを,「取消権(とりけしけん)」といいます。民法5条2項「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★9】 民法121条「取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす。ただし,制限行為能力者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。」
【★10】 私文書偽造罪(しぶんしょぎぞうざい)という犯罪と,偽造私文書行使罪(ぎぞうしぶんしょこうしざい)という犯罪になります。
刑法159条「行使の目的で,他人の印章若(も)しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書…を偽造…した者は,3月以上5年以下の懲役に処する」
刑法161条「前2条の文書…を行使した者は,その文書…を偽造…した者と同一の刑に処する」
【★11】 民法21条「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術(さじゅつ)を用(もち)いたときは,その行為を取り消すことができない。」この条文は,自分が「大人だ」とウソをついたときのことしか書かれていませんが,「親がOKした」とウソをついたときも同じように取り消せない,と読むのが一般的です(内田貴「民法Ⅰ」)。
【★12】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」

Part2

2018年10月 1日 (月)

店長がバイトをやめさせてくれない

 

 1年前,週2でバイトを始めたんですが,最初は半年間の約束だったのが,そのまま特に職場と話もなく,その後もずるずると働いてました。最近,シフトを週3,週4と次々に入れられて,部活やテスト勉強の時間がとれなくなってきたので,バイトをやめようとしたら,店長から「代わりの人を探してこなければやめられない」,「やめるなら求人広告代のお金を払え」,「それでもやめるならこれまでのミスを理由に懲戒解雇にする。そしたら将来,まともな就職ができなくなるぞ」と言われて,怖くてやめられません。

 

 

 

 店長の言っていることは,すべて法律的にまちがいです。

 あなたはそのバイトをやめることができますし,やめても問題ありません。

 一刻も早くやめられるよう,弁護士に相談してください。




 社会の中でいちばん多い職場のやめかたは,

 あなたと職場が話し合って,おたがいに納得して終わりにする方法です。

 「合意解約(ごういかいやく)」,または,「合意退職」と言います。

 あなたのほうから「やめたい」と職場に申し込むのでも,

 職場のほうから「やめてほしい」とあなたに申し込むのでも,

 きちんと相談して,相手がOKして,まとまるのが,

 いちばん円満な,ふつうのやめかたです
【★1】



 でも,あなたの場合,

 あなたの「やめたい」という申込みに,職場がOKしてくれないのですよね。



 働くがわは,雇(やと)うがわよりも,弱い立場にあります。

 あなたがやめたいと思っているのに,

 職場がOKしなければずっと働き続けないといけない,というのでは,

 つらい生活が続くことになってしまいます。



 だから法律は,

 職場がOKしなくても,あなたから一方的にやめられるルールを,

 きちんと作っています。



 法律は,一人ひとりを,大切な存在として扱(あつか)っています【★2】

 だれも,奴隷(どれい)のように縛(しば)られないし
【★3】

 だれにも,どんな仕事をするかを選べる自由がある
【★4】

 国のおおもとのルールである憲法も,はっきりそう言っています。




 一方的にやめるときには,

 「いつまで働く」という期間が決まっているかどうかが,重要です
【★5】



 「いつまで働く」という期間を決めていなかったのなら,

 特に理由がなくても,

 「やめます」と職場に言えば,

 その2週間後に,一方的にやめることができます
【★6】【★7】


 正社員は,「いつまで働く」という期間を,決めていないことが多いです。

 (「正社員ってどういう働き方?」の記事も,読んでみてください。)



 アルバイトは,「いつまで働く」という期間を,

 決めている場合もあれば,決めていない場合もあります。



 あなたは,最初は半年間働く約束だったのが,

 そのまま特に職場と話がなく,ずるずると働き続けている,ということでしたね。



 働き始めるときに,「いつまで働く」という期間を決めてはいたけれど,

 職場と働く人のあいだで特に話がないまま,その後も働き続けているのなら,


 最初から期間を決めていない正社員の場合と同じように,

 
特に理由がなくても,

 「やめます」と職場に言えば,

 その2週間後に,一方的にやめることができます
【★8】



 「やめます」と一方的に言ってやめるこの方法を,「辞職(じしょく)」と言います。

 「やめさせてほしい」というお願い(合意解約の申込み)ではなく,

 「やめます」と言い切るのです。

 職場が「認めない」と言ったとしても,自動的にやめられます。




 あなたが代わりの人を探す必要は,まったくありません。

 あなたが求人広告の費用を払う必要も,まったくありません。

 懲戒解雇は,仕事で悪いことをしたときに罰として受ける処分の1つですが,

 とてもハードルが高く,かんたんには認められません。

 懲戒解雇は,職場をやめたがっているあなたを引き留めるために,過去のミスを理由にして後付けでできるようなレベルの話ではないのです
【★9】

 店長があなたに言っていることは,すべて法律的にまちがいです。




 「ここで自分がやめるのは,身勝手で
,社会人として失格かもしれない。」

 あなたがそう思い悩む必要はありません。



 働く人が減ってしまうと,店が回らなくなってしまう。

 だから店長は,法律的にまちがっていることを言いながらあなたを脅(おど)し,

 あなたをやめさせないようにしているのです。

 そんな店長のほうこそ,身勝手ですし,社会人として失格です。

 法律は,そんな店長からあなたを守る,強い武器になります。




 「やめます」と言ったあと,まだ2週間は働き続けないといけない,というのは,しんどいですよね。


 働き始めて半年以上経っていて,それまでしっかり働き続けていたのなら,

 辞める日までの2週間で,有給休暇(ゆうきゅうきゅうか)を消化することができます
【★10】


 有給休暇は,週2日のアルバイトでも,使えます【★11】

 有給休暇の日数は,法律で決まっています。

 週2日で1年間働いてきたあなたは,3日間の有給休暇が使えますから,

 残りの2週間の勤務日の4日のうち,1日だけ出勤すればOKです。



 有給休暇を使うための理由を,職場に説明する必要はありません【★12】

 あなたが退職前に有給休暇を消化することを,職場は断れません
【★13】




 最初の約束の期間の後も働き続けていたあなたの場合は,

 上に書いたやり方で,一方的にやめることができます。

 参考までに,働く期間がきちんと決まっていて,その途中でやめる場合についても,説明しておきます。




 働く期間が決まっていたのなら,

 その期間が終わるまでは,やめられないのが基本です。



 でも,期間の途中でやめられる,例外があります。



 最初の約束で,働く期間を1年を超える期間に決めていたなら,

 1年を経ったあとは,特に理由がなくても,

 すぐに,一方的にやめることができます(一部,例外があります)
【★14】

 ただ,ふつうのアルバイトでは,最初から1年を超える期間を決めていることは,あまりないかもしれません。




 多くのアルバイトのように,最初の約束で,1年以下の働く期間を決めていても,

 どうしてもしかたがない理由があるときには,

 期間が終わる前でも,すぐに,一方的にやめることができます
【★15】

 2週間待つ必要はありません。



 どういう時に「どうしてもしかたがない理由」があってやめられるのかは,ケースによります。


 あなたと同じような状況にある人なら,

 週2の勤務という,働く条件のだいじな部分を職場が守らず,そのせいで学校生活に大きな影響が出ていますし,

 代わりの人を探さなければやめられないとか,

 求人広告代の費用
を払えとか,

 懲戒解雇にしたら将来まともな就職ができない,などと,

 店長が法律的にまちがったことを言いながら脅すことまでしているのですから,

 「どうしてもしかたがない理由」は,じゅうぶんにあります。



 店長は,期間の途中で一方的にやめたことを理由に,「損害賠償(そんがいばいしょう)のお金を払え」と言ってくるかもしれません。


 たしかに,法律では,

 期間の途中で一方的にやめるとき,やめなければいけない原因を作ったがわが,損害賠償を払わないといけない,としています
【★16】


 でも,やめなければいけなくなった原因は,

 約束を守らずシフトを増やしたり,法律的にまちがったことを言って脅したりした店長のほうが作ったのですから,

 こういった場合は,職場に損害賠償を払う必要はありません
【★17】




 今,あなたの職場のような,

 若い人たちを使いつぶす「ブラックバイト」が,社会に増えています
【★18】


 大切なあなたの生活が,ブラックバイトに都合よく支配されないように,

 法律のしくみを知って,一刻も早くその職場から離れてください。

 私たち弁護士は,そういうつらい状況にいるあなたを,しっかりとサポートします。

 

 

 

 

 

【★1】 あなたのほうから職場に「やめたいです」ということや,職場のほうからあなたに「やめてほしい」ということを,法律の言葉では,「申込(もうしこみ)」と言います。そして,相手がそれをOKすることを「承諾(しょうだく)」と言います。この申込と承諾の意思表示(いしひょうじ)がマッチするのが,合意解約です。
【★2】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及(およ)び幸福追求(ついきゅう)に対する国民の権利については,公共の福祉(ふくし)に反(はん)しない限(かぎ)り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★3】 憲法18条 「何人(なんぴと)も,いかなる奴隷的拘束(どれいてきこうそく)も受けない。又(また),犯罪に因(よ)る処罰の場合を除(のぞ)いては,その意に反する苦役(くえき)に服(ふく)させられない」
【★4】 憲法22条1項 「何人も,公共の福祉に反しない限り,居住,移転及び職業選択の自由を有(ゆう)する」
【★5】 働き始めるときに,必ず職場から書類をもらっているはずですから,確認してみてください。
 労働基準法15条1項 「使用者は,労働契約の締結(ていけつ)に際(さい)し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において,賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については,厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」
 労働基準法施行規則5条 「使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は,次に掲(かか)げるものとする。(略) 一 労働契約の期間に関する事項 (略)」
 労働契約法4条2項 「労働者及(およ)び使用者は,労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について,できる限り書面により確認するものとする。」
 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律6条1項 「事業主は,短時間労働者を雇い入れたときは,速やかに,当該(とうがい)短時間労働者に対して,労働条件に関する事項のうち労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの…を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法…により明示しなければならない。」
 同法47条 「第6条第1項の規定に違反した者は,10万円以下の過料(かりょう)に処(しょ)する。」
【★6】 民法627条1項 「当事者が雇用(こよう)の期間を定(さだ)めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」
【★7】 この記事を書いている時点では,アルバイトのような時給制ではなく「期間によって報酬を定めた場合」には,「次期以後」についての解約申入れを「当期の前半」にしなければいけない,という条文があります。一見,月給でもらうことの多い正社員に当てはまるかのように読めますが,この条文は,遅刻や欠勤をしても賃金がカットされない完全月給制の場合の規定ですので(菅野和夫「労働法第11版」704頁),ほとんどの正社員には当てはまりません。またさらに,この「期間によって報酬を定めた場合」の解約申入れの規定は,2017(平成29)年の民法改正により,2020年4月1日以降は,働く側からの解約申入れには適用されなくなります。
 従前の民法627条2項 「期間によって報酬を定めた場合には,解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない」
 改正民法627条2項 「期間によって報酬を定めた場合には,使用者からの解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない」
【★8】 期間の定(さだ)めのある雇用(こよう)契約が,期間満了後もお互いに異議(いぎ)なく事実上続いている場合には,前の契約と同じ条件で更新(こうしん)されます。これを「黙示(もくじ)の更新」と言います。賃金などは同じ条件ですが,期間については「期間の定めのない契約になる」という考え方(大阪地裁平成9年6月20日判決・労働判例740号54頁,東京地裁平成11年11月29日・労働判例780号67頁)と,「同じ期間の定めのある契約になる」とする考え方(東京地裁平成15年12月19日・労働判例873号73頁,菅野和夫「労働法第11版」326頁)。しかし,どちらにしても,黙示の更新後は「(期間の定めのない契約と同じように)いつでも解約の申入れをすることができる」という結論には変わりありません(条文にはっきり書かれています)。
 民法629条1項 「雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事(じゅうじ)する場合において,使用者がこれを知りながら異議を述べないときは,従前(じゅうぜん)の雇用と同一の条件で更(さら)に雇用をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第627条の規定により解約の申入れをすることができる」
【★9】 労働契約法15条 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係(かか)る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用(らんよう)したものとして,当該懲戒は,無効とする」
 同法16条 「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする」
【★10】 正確には「年次有給休暇」と言います。働く時間が多い人(週5日以上働いている人,年217日以上働いている人,週4日以下でも週30時間以上働いている人)は,6ヶ月以上続けて働き,全労働日の8割以上出勤していれば,6ヶ月経った時に10日分,1年半経った時に11日分,2年半で12日分,3年半で14日分,4年半で16日分,5年半で18日分,6年半で20日分,以後1年ごとに20日分の有給休暇を取得できます。
 労働基準法39条1項 「使用者は,その雇入れの日から起算して6箇(か)月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して,継続し,又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない」
 同条2項 「使用者は,1年6箇月以上継続勤務した労働者に対しては,雇入れの日から起算して6箇月を超えて継続勤務する日(以下「6箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数1年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる6箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。(略)
6箇月経過日から起算した継続勤務年数 労働日
1年 1労働日
2年 2労働日
3年 4労働日
4年 6労働日
5年 8労働日
6年以上 10労働日」
【★11】 労働基準法39条3項 「次に掲(かか)げる労働者…の有給休暇の日数については,前2項の規定にかかわらず,これらの規定による有給休暇の日数を基準とし,通常の労働者の1週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数(第一号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の1週間の所定労働日数又は1週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令で定める日数とする。
一 1週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ないものとして厚生労働省令で定める日数以下の労働者 (以下略)」
 労働基準法施行規則24条の3第3項 「法第39条第3項の通常の労働者の1週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数と当該労働者の1週間の所定労働日数又は1週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令で定める日数は,同項第一号に掲げる労働者にあっては次の表の上欄の週所定労働日数の区分に応じ…て,それぞれ同表の下欄に雇入れの日から起算した継続勤務期間の区分ごとに定める日数とする。
週所定労働日数 1年間の所定労働日数 雇入れの日から起算した継続勤務期間
(下欄)6箇月 1年6箇月 2年6箇月 3年6箇月 4年6箇月 5年6箇月 6年6箇月以上
(上欄)4日 … 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
(上欄)3日 … 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
(上欄)2日 … 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
(上欄)1日 … 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日」
 同条4項 「法第39条第3項第一号の厚生労働省令で定める日数は,4日とする」
【★12】 最高裁第二小法廷昭和48年3月2日判決(林野庁白石営林署事件)・民集27巻2号191頁 「年次有給休暇の権利は,労基法39条1,2項の要件の充足(じゅうそく)により,法律上当然に労働者に生(しょう)ずるものであって,その具体的な権利行使にあたっても,年次休暇の成立要件として『使用者の承認』という観念を容(い)れる余地のないことは,第一点につき判示したとおりである。年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり,休暇をどのように利用するかは,使用者の干渉(かんしょう)を許さない労働者の自由である,とするのが法の趣旨であると解するのが相当である」
【★13】 働くがわが有給休暇を取りたいと求めたとき,一定の場合には職場がわが「他の時季(じき)に有給休暇を取るように」と言うことができます(「時季変更権」といいます)。しかし,あなたのケースのように退職するときに有給休暇を使う場合には,職場は時季変更権を主張することはできません。
 労働基準法39条5項 「使用者は,前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし,請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨(さまた)げる場合においては,他の時季にこれを与えることができる」
 「時季変更権の行使には『他の時季にこれ(年休)を与える』可能性の存在が前提となる。そこで,労働者が退職時に未消化年休を一括時季指定する場合には,その可能性がないので時季変更権を行使しえないこととなる」(菅野和夫「労働法第11版」538頁)
【★14】 労働基準法137条 「期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き,その期間が1年を超えるものに限る。)を締結(ていけつ)した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は,労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間,民法第628条の規定にかかわらず,当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては,その使用者に申し出ることにより,いつでも退職することができる」
【★15】 民法628条前段 「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由(じゆう)があるときは,各当事者は,直(ただ)ちに契約の解除(かいじょ)をすることができる」
【★16】 民法628条後段 「この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う」
【★17】 むしろ,やめなくてはいけなくなった原因を作った職場のほうが,やめる人に対して損害賠償を払わなければならない可能性もあります。労働者から期間途中で解約告知をした事案で,その原因を作ったのが使用者側にあるとして使用者から労働者に対して損害賠償を支払うよう命じた判例もあります(マガジンプランニング事件。京都地裁平成23年7月4日判決・労働法律旬報1752号24頁,大阪高裁平成23年12月6日判決・D1-Law.com判例体系,最高裁第三小法廷平成24年4月24日決定・D1-Law.com判例体系)
【★18】 今野晴貴「ブラックバイト 学生が危ない」(岩波新書)は,ブラックバイトの実態と特徴,その背景と対策が,詳しく書かれています。

Part2_1

2018年5月 1日 (火)

はじめて給料から税金が引かれてた

 

 先月はバイトのシフトをがっつり入れてたんで,10万円とまではいかなくてもそのくらいは稼(かせ)げたなーと思って給料明細を見たら,税金が数百円引かれてて,「は?なんだよこれ?」って驚いたんですけど,いつもはこんなの引かれてなかったし,「親の扶養(ふよう)に入ってたら税金取られない」って誰かから聞いてたのに,一体どうなってんですか?

 

 

 いままでとちがって,今回,突然に税金が引かれていて,びっくりしましたよね。



 私たちには,税金を納める義務があります
【★1】

 税金のしくみも,法律で決められています
【★2】


 1ヶ月の給料が8万8000円以上になると,税金が差し引かれます【★3】

 所得税(しょとくぜい)という,国の税金です
【★4】

(今から約20年後の2037年までは,所得税にプラスして,東日本大震災の復興のための税金も差し引かれています
【★5】。)

 そして,
その差し引かれた税金は,職場があなたの代わりに国に納めます【★6】


 このしくみを,「源泉徴収(げんせんちょうしゅう)」といいます。



 あなたがいままで源泉徴収されていなかった理由は,

 1ヶ月の給料が8万8000円よりも少なかったからです。

 「親に養(やしな)われているから源泉徴収されていなかった」,というわけではありません。




 この源泉徴収されたお金は,あとで,その一部があなたの手元に戻ってくることが多いです。


 あなたがほんらい納めなければいけない所得税の額は,

 1年間に稼いだお金をもとに計算して,確定します。

 源泉徴収は,そうやって1年間が終わって税金の額が確定する前に,

 とりあえず,毎月の給料の中から税金を「先取り」しておくしくみです。

 しかも,やや多めに先取りしています。

 だから,ほとんどの人は,

 源泉徴収されていたお金が,確定した税金の額より多いので,

 多く納めすぎていたぶんが戻ってくるのです。




 源泉徴収されたお金が,一部ではなく,全部戻ってくることもあります。


 親に養ってもらっている10代の人のほとんどは,

 1年間の給料が103万円以下なら,所得税はゼロです
【★7】

 だから,源泉徴収されたお金の全部が戻ります。


 高校や大学,専門学校などに通いながら働いている人なら,

 103万円を超えていても,130万円以下なら,所得税はゼロです
【★8】

(ただし,あなたの1年間の給料が103万円を超えると,今度は,あなたの親が払う税金が高くなってしまうので,注意が必要です。
【★9】




 源泉徴収で多く納めすぎていたお金は,どうやったら戻るのでしょうか。


 ほとんどの人は,自分で何もしなくても,自動的に戻ってきます。


 あなたが年末の時点でも働いていれば,

 職場が計算して,あなたに戻してくれるのです。

 
これを,「年末調整」といいます【★10】


 あなた自身が役所に書類を出さないですみますから【★11】【★12】

 とてもラクです。




 ただし,人によっては,自動的には戻ってきません。


 例えば,あなたが職場を辞め,年末の時点で別の職場でも働いていなければ,

 年末調整はありません
【★13】【★14】

 そのときは,あなた自身で役所に手続きをとって,お金を戻してもらいます。

 1年間の税金が確定したので,その額を払います(源泉徴収で多く納めすぎていたぶんは返してください),という手続きです。

 
これを,「確定申告(かくていしんこく)」といいます。


 2か所以上職場をかけもちしている人は,

 確定申告をしなければいけない人と,する必要がない人とがいますが
【★15】

 する必要がない人でも,確定申告をすれば,お金がさらに戻ってくることがあります。



 確定申告は,

 職場がくれる源泉徴収票という紙をもって,次の年の3月15日までに税務署に申告をします。

 くわしいやり方は,税務署や,その時期に税理士が開催している相談会で,教えてもらうことができます。




 年末までまだ時間がありますから,

 年末調整や確定申告のことを,忘れずに覚えておいてください。





 源泉徴収と年末調整のしくみは,

 多くの会社員やアルバイト・パートの人にとって,

 自分で確定申告をしないですむのでラクですし,

 年末にお金が返ってくるので,まるで「トクしてラッキー」という錯覚(さっかく)さえあります。



 国にとっても,

 取りっぱぐれがなく,確実にお金を集めることができます
【★16】


 納める人にとっても,お金を集める国にとっても,おたがいに便利な制度ではあるのですが【★17】【★18】

 ひとつ,とても大きな問題があります。



 いままで私はあなたに,

 「ほとんどの人は,源泉徴収で毎月税金が引かれて,年末調整でお金が返ってくる,

 だけど,一部の人は,自分で確定申告をしないといけない」,

 というニュアンスで,説明をしてきました。


 ところが,じつは法律では,

 
自分で確定申告をして税金を納めるほうが原則で,

 
職場が代わりに全部手続をしてくれる源泉徴収と年末調整は,あくまで特別な納め方です。



 この特別な納め方は,職場がすべて代わりに手続をしてしまうので,

 
税金を納めているはずの本人が,

 「自分は税金を納めている」という納税者としての自覚を持ちづらくなります。

 それが,とても大きな問題なのです
【★19】



 あなたは今回,初めて源泉徴収をされたので驚いてくれましたが,

 これが何年・何十年と続いて,しだいに当たり前のようになっていき,

 やがて,税金の額をそれほど気にしなくなってしまう,

 そんな大人たちが,たくさんいます。

 自分が納める額すら気にしないので,

 納めた先,その税金がどう使われているかも,まったく気にしない人が多いのです。




 世の中には,税金を「取られる」,という言い方をする人が,多くいますね。

 私は,その表現はおかしいと思っています。



 税金は,

 むかしの年貢(ねんぐ)のように「お上(かみ)から取られるもの」ではありませんし,

 むかしの年貢のように「取られたら,あとはお上が勝手に使うもの,自分たちには関係ない」というものではありません。



 税金は,

 私たちの社会をみんなで作っていくために「自分たちで出し合うもの」,

 私たちの社会をみんなで作っていくために「使い方を自分たちできちんとチェックするもの」です。



 自分のお金を使うときには,なるべく安くていい物を買えるように気をつけますよね。

 そうでない人は,親からむだづかいをしないように注意されることも多いでしょう。



 それと同じように,

 自分たちで出し合った税金が,

 きちんと自分たちの社会のために使われているか,

 むだづかいがされていないかどうか,

 納めた先の税金の使われ方を,いつも注意してみてください。

 そして,使われ方がおかしいときには,「おかしい」と声をあげてください。



 人々が税金に関心を持たないほうが,

 税金を集めて使う側にとっては,都合がいいのです。



 だからこそ,源泉徴収と年末調整のしくみで「ラクだ,ラッキーだ」と考えずに,

 今回税金を引かれて驚いた気持ちをいつまでも忘れることなく,

 納税者としての自覚をもって,税金の使われ方をいつもきちんとチェックする,

 社会のきちんとしたメンバーの一人になってほしい,と,私は強く願っています。

 

 

 

【★1】 憲法30条 「国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負ふ(う)」
 憲法の定める納税の義務は,普通教育を受けさせる義務(憲法26条2項),勤労の義務(憲法27条1項),と合わせて三大義務と言われますが,憲法で義務を定めていること自体に特別な意義があるというわけではありません。
 「納税義務は,法律によって具体化されない限りは実現されえないものであり,これを定める憲法30条は,法律によらない限(かぎ)り課税されない権利を逆に保障していることになる。他方,法律として具体化されてしまえば,納税義務は一種の法律服従(ふくじゅう)義務に他ならず,他の法律と異(こと)なり,とりわけ税法に服従すべき根拠があるとも考えにくい。総(そう)じて,憲法上の国民の義務を定める規定には,格別の意義は見いだしがたい。むしろ,国民の義務の主要な問題は,国民に国法への服従義務があるか否(いな)かであろう」(長谷部恭男「憲法」104頁)
 普通教育を受けさせる義務,義務教育については,「義務教育の『義務』って?」の記事を読んでみてください。
【★2】 租税(そぜい)法律主義といいます。
 憲法84条 「あらたに租税を課し,又(また)は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要とする」
【★3】 あなたは,今回初めて税金を引かれたということですから,職場は1か所だけですね。もし2か所以上の職場で働いていたら,メインでない職場のほうは,給料が8万8000円未満であっても,源泉徴収されます。メインの職場は次の表の「甲(こう)欄」,サブの職場は「乙(おつ)欄」の金額です。
 所得税法185条1項 「次条に規定する賞与以外の給与等について第183条第1項(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は,次の各号に掲げる給与等の区分に応じ当該各号に定める税額とする。 一 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者に対し,その提出の際に経由した給与等の支払者が支払う給与等 次に掲げる場合の区分に応じ,その給与等の金額(略) イ 給与等の支給期が毎月と定められている場合 別表第二の甲欄に掲げる税額」
国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(平成30年分)」http://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2017/data/01-07.pdf
【★4】 所得税法5条1項 「居住者は,この法律により,所得税を納める義務がある」
 同法7条 「所得税は,次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について課する。 一 非永住者以外の居住者 全ての所得 (以下略)」
 同法28条 「給与所得とは,俸給(ほうきゅう),給料,賃金,歳費及(およ)び賞与並(なら)びにこれらの性質を有する給与…に係る所得をいう」
【★5】 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法8条1項 「所得税法第5条の規定その他の所得税に関する法令の規定により所得税を納める義務がある居住者,非居住者,内国法人又は外国法人は,基準所得税額につき,この法律により,復興特別所得税を納める義務がある」
 同条2項 「所得税法第6条の規定その他の所得税に関する法令の規定により所得税を徴収して納付する義務がある者は,その徴収して納付する所得税の額につき,この法律により,源泉徴収をする義務がある」
 同法9条1項 「居住者又は非居住者に対して課される平成25年から平成49年までの各年分の所得税に係る基準所得税額には,この法律により,復興特別所得税を課する」
【★6】 所得税法6条 「第28条第1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者…は,この法律により,その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある」
 同法183条1項 「居住者に対し国内において第28条第1項(給与所得)に規定する給与等…の支払をする者は,その支払の際,その給与等について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない」
【★7】 税金は,実際の給料の額から,いろんな「控除(こうじょ)」の金額を差し引いた「所得(しょとく)」という計算上の金額にもとづいて決まります。
 給料には最低でも65万円の「給与所得控除」があり,また,どんな人にも38万円の「基礎(きそ)控除」があります。なので,実際の給料から65万円+38万円=103万円を差し引いた残りの額(所得)に税金がかかる,つまり,103万円以下なら所得税がかからない,ということになります。
 ただし,給料のほかにも収入があれば,給料が103万円以下でも所得税が発生することがありますし,逆に,養っている人がいるとか,障害をもっているなど,特別な事情があれば,控除が増えますので,103万円を超えていても所得税がかからない場合もあります。
 所得税法28条2項 「給与所得の金額は,その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする」
 同条3項 「前項に規定する給与所得控除額は,次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。 一 前項に規定する収入金額が180万円以下である場合 当該収入金額の100分の40に相当する金額(当該金額が65万円に満たない場合には,65万円)
 同法86条1項 「居住者については,その者のその年分の総所得金額…から38万円を控除する」
 同条2項 「前項の規定による控除は,基礎控除という」
【★8】 所得税法2条 「この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。 … 三十二 勤労学生 次に掲げる者で,自己の勤労に基づいて得た事業所得,給与所得,退職所得又は雑所得…を有するもののうち,合計所得金額が65万円以下であり,かつ,合計所得金額のうち給与所得等以外の所得に係る部分の金額が10万円以下であるものをいう。
 イ 学校教育法…第1条…に規定する学校の学生,生徒又は児童
 ロ 国,地方公共団体又は私立学校法…第3条…に規定する学校法人,同法第64条第4項…の規定により設立された法人若しくはこれらに準ずるものとして政令で定める者の設置した学校教育法第124条…)に規定する専修学校又は同法第134条第1項…に規定する各種学校の生徒で政令で定める課程を履修するもの
 ハ 職業訓練法人の行う職業能力開発促進法…第24条第3項…に規定する認定職業訓練を受ける者で政令で定める課程を履修するもの」
 同法82条1項 「居住者が勤労学生である場合には,その者のその年分の総所得金額…から27万円を控除する」
 同条2項 「前項の規定による控除は,勤労学生控除という」
【★9】 親は,あなたを養っていることで「扶養控除」を受けるので,そのぶん「所得」が低くなり,税金が安くなっています。しかし,養われているあなたの給料が1年間で103万円を超えると,親が「扶養控除」を受けられなくなるので,その分「所得」が多くなり,税金が多くなるのです。
 所得税法84条1項 「居住者が控除対象扶養親族を有する場合には,その居住者のその年分の総所得金額…から,その控除対象扶養親族1人につき38万円(その者が特定扶養親族である場合には63万円とし,その者が老人扶養親族である場合には48万円とする。)を控除する」
 同条2項 「前項の規定による控除は,扶養控除という」
【★10】 所得税法190条 「給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で,第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が2000万円以下であるものに対し,その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合…において,同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは,その超過額は,その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当(じゅうとう)し,その不足額は,その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならない (以下略)」
【★11】 あなたが働き始める時,職場に「扶養控除等申告書」という書類を出していると思います。この書類を職場に出してあれば,職場が年末調整をしてくれます(所得税法190条【★10】)。
 あなたが職場を2か所以上かけもちしている場合は,この「扶養控除等申告書」は,メインの職場にしか出すことができません。メインでないほうの職場は,源泉徴収の金額もちがってきますし(【★3】の乙欄の額が引かれます),年末調整も行いません。
【★12】 所得税法121条 「その年において給与所得を有する居住者で,その年中に支払を受けるべき第28条第1項(給与所得)に規定する給与等…の金額が2000万円以下であるものは,次の各号のいずれかに該当する場合には,前条第1項の規定にかかわらず,その年分の課税総所得金額…に係る所得税については,同項の規定による申告書を提出することを要しない。 一 一の給与等の支払者から給与等の支払を受け,かつ,当該給与等の全部について第183条(給与所得に係る源泉徴収義務)又は第190条(年末調整)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において,その年分の利子所得の金額,配当所得の金額,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額,譲渡所得の金額,一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額…が20万円以下であるとき」
【★13】 職場を辞めても,年末までに新しい職場で働き始めていれば,年末の時点での職場で年末調整がなされます。
 所得税法190条【★10】第一号 「その年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等(その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には,当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む。…)につき第193条第1項(源泉徴収義務)の規定により徴収された又は徴収されるべき所得税の額の合計額」
【★14】 1年間の給料が2000万円を超える人も,年末調整はされず,自分で確定申告が必要です(所得税法190条【★10】「給与等の金額が2000万円以下であるもの」,同法121条【★12】「給与等…の金額が2000万円以下であるもの」)。
【★15】 2か所以上で働いている人は,メインでない職場の給料が1年間で20万円以下か,そうでなくても全ての職場の給料の合計が1年間で150万円以下なら,確定申告をする必要はありません。しかし,記事本文で書いたとおり,する必要がなくても,確定申告をすれば,多く納めすぎていたぶんが戻ってくることがあります。
 所得税法121条【★12】第二号 「二以上の給与等の支払者から給与等の支払を受け,かつ,当該給与等の全部について第183条又は第190条の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において,イ又はロに該当するとき。 イ 第195条第1項…に規定する従たる給与等の支払者から支払を受けるその年分の給与所得に係る給与等の金額とその年分の給与所得及び退職所得以外の所得金額との合計額が20万円以下であるとき。 ロ イに該当する場合を除き,その年分の給与所得に係る給与等の金額が150万円と社会保険料控除の額,小規模企業共済等掛金控除の額,生命保険料控除の額,地震保険料控除の額,障害者控除の額,寡婦(寡夫)控除の額,勤労学生控除の額,配偶者控除の額,配偶者特別控除の額及び扶養控除の額との合計額以下で,かつ,その年分の給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下であるとき。」
【★16】 平成30年度の所得税の予算額は17兆9480億円ですが,そのうち約83%にあたる14兆8740億円が,源泉徴収で納められる予定です(財務省「平成29年度30年3月末租税及び印紙収入,収入額調」https://www.mof.go.jp/tax_policy/reference/taxes_and_stamp_revenues/201803.pdf
【★17】 最高裁大法廷昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁 「給与所得者に対する源泉徴収制度は,これによって国は税収を確保し,徴税手続を簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず,担税者(たんぜいしゃ)の側においても申告,納付等に関する煩雑な事務から免(まぬか)れることができる。また徴収義務者にしても,給与の支払いをなす際所得税を天引きしその翌月10日までにこれを国に納付すればよいのであるから,利するところ全くなしとはいえない。されば源泉徴収制度は,給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり,効率的であって,公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない」
【★18】 源泉徴収・年末調整は,雇われている側にも,税金を集める側にも便利な制度ですが,職場にとっては事務手続が負担です。「どうして職場が国などの代わりにその負担を負わないといけないのか」という問題もあります。それが争われた裁判もありましたが,最高裁は,源泉徴収制度は憲法に違反しないと言っています(最高裁大法廷昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁)。
【★19】 「徴収確保の観点からは,わが国の源泉徴収制度はきわめて進歩した制度であり,また,それは,源泉徴収の対象となる所得の支払者に租税徴収機構の一翼(いちよく)をになわせることによって,行政コストの節約にも大きく寄与している。それは,特に給与所得の源泉徴収について著(いちじる)しい。では,わが国の源泉徴収制度は,民主主義的税制ないし民主主義的租税思想の観点から見て,果たして進歩した制度であるといえるであろうか。民主主義的租税制度の観点からは,国家は主権者である国民自身によって財政的に支えられるべきものであるから,国民が自(みずか)らの責任において自らの税額を計算し,自らの責任においてそれを納付する制度が好ましい。申告納税制度が自己賦課(じこふか)(self-assesment)の制度と呼ばれるのは,そのためである。この見地からは,給与所得について原則として年末調整によってすべての課税関係を終了させる制度は,どんなに行政効率の観点からはメリットがあるとしても,決して好ましいものではない」(金子宏「わが国の所得税と源泉徴収制度」,『所得課税の法と政策』172頁)

Part2_1