3_学校のこと

2017年10月 1日 (日)

先生の指導を受けて死にたいほどつらい

 

 高校3年生です。定期テストでどうしても覚えきれない教科があったので,あせって昨日徹夜でカンニングペーパーを作り,それを試験中に見ていたのが先生に見つかってしまいました。試験終了後に先生たちから長時間の指導を受け,「まさかお前がこんなことをするとは思っていなかった」「カンニングした以上,今回のテストは全教科0点の扱いになる」「明日,親を学校に呼んで話をする」と厳しく言われ,今,絶望的な気持ちで,死んでしまいたいほどつらいです。

 

 

 絶対に,自殺はしないでください。

 そして,一人きりにならずに,

 すぐに誰かに,今のつらい気持ちを聞いてもらってください。




 今,あなたがまだ学校の中にいるなら,

 すぐに保健室に行って,養護の先生に話を聞いてもらってください。




 今,あなたが下校の途中なら,

 あなたが信頼できる大人のところに,すぐに行ってください。



 ほんとうは,自分の親に話を聞いてもらえるのが一番よいのですが,

 これから学校から連絡が入ってしまうから親には話しづらい,ということであれば,

 親以外の誰であってもかまいません。



 おじいちゃんやおばあちゃん,親戚のおじさんやおばさんのところでも,

 むかしお世話になった保育園・幼稚園,小学校,中学校の先生でも,

 塾や習い事の先生,地域の子ども会や自治会でお世話になった人でも,

 よく知っている近所のお知り合いの大人でもかまいません。




 もし,そういう大人がすぐに思い付かなければ,

 次のところに電話をかけてみてください(名乗らなくてもかまいません)。



 ●チャイルドライン(特定非営利活動法人チャイルドライン支援センター)

 0120-99-7777(フリーダイヤルです。通話料はかかりません)

 
http://www.childline.or.jp/


 ●いのちの電話(一般社団法人日本いのちの電話連盟)

 東京 03-3264-4343 (24時間つながります)

 東京以外の全国各地の電話番号は 
https://www.inochinodenwa.org/lifeline.php を見てください。


 私たち弁護士も,あなたの話に耳に傾けます。

 弁護士会の電話相談窓口は,地域によっては,弁護士とすぐに直接話をすることができます。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。





 今,死にたくなるほどつらい気持ちなのですよね。


 自分が悪いことしたからこうなってしまった,という後悔や恥ずかしさ,

 これから自分の人生がどうなってしまうのか,という不安や恐怖や絶望感,

 親に迷惑をかけてしまう,という罪悪感,

 先生が言うことへの,戸惑(とまど)いや怒り,

 いろんな思いで,とても混乱していると思います。

 徹夜で寝不足の状態であればなおのこと,落ち着いて考えるのは難しいですよね。




 でも,自殺で自分の命を失うことは,決してしないでください。

 そのような事件で実際に子どもが亡くなってしまった裁判を担当してきた私からの,心からのお願いです
【★1】




 学校の先生の指導が原因で,子どもが自殺で亡くなってしまうことが,

 これまでもたくさん繰り返されてきました
【★2】【★3】



 しかし,私たちの社会は,子どもの自殺に正面から向き合ってきませんでした。


 まちがったことをした子どもを先生が指導した,という場面だと,

 そこに体罰という暴力があれば,大きな問題になりますが,

 体罰がない指導では,子どもが亡くなっても,問題にされることが少なかったのです。




 そのような中,子どもを亡くした家族の皆さんが,

 「先生の指導が原因で子どもが亡くなるのはおかしい」,

 「真実を知りたい」,

 「同じような不幸な事件が二度と起きてほしくない」,

 そういう強い思いで,学校側と裁判で戦ってきました
【★4】



 学校側は裁判で,

 「まちがったことをした子どもに対する,適切な指導だった」

 「まさか自殺するとは思えなかったから,防ぎようがなかった」

 「自殺の原因は,子ども本人や家庭にある」

と反論し,

 「自分たちに責任はない」などと弁解します。




 自殺の事件の裁判で遺族側が勝つには,とても高いハードルがありますし,

 仮に裁判に勝ったとしても,亡くなった人の命は返ってきません。




 そういう事件の裁判を担当してきた私は,

 これ以上,先生の指導が原因で子どもたちが死んでしまうことがないようにしたいと,強く思っています。




 学校は,これからの人生を幸せに送ることができるようにするために,いろいろなことを学ぶ場所です。

 そのはずの学校で,人生そのものが奪われてしまうことは,絶対にあってはならないのです。




 もちろん,子どもが何かまちがったことをしてしまった時,

 その子がきちんとした大人になれるように,

 先生がその子を指導するのは,当たり前のことです。



 でも,その子が大人になっていくどころか,

 逆に,命を失い,人生が終わってしまうような「指導」,

 それほどまでに子どもを追い詰めるような「指導」は,

 ほんとうの指導ではありません。



 「あなたは大切な存在なんだよ」,

 「あなたのことを心配しているんだよ」,

 そういうメッセージが子どもに伝わらなければ,ほんとうの指導ではないのです
【★5】【★6】



 そして,多くの事件が,

 指導の最中や,指導の直後,子どもが一人ぼっちになった時に起きています
【★7】

 だから,指導を受けて気持ちが混乱しているその子を,

 先生がきちんと見守り,一人ぼっちにさせないことが,ほんらい,必要なのです
【★8】



 でも,あなたは,

 先生たちから「大切な存在だよ」「心配しているよ」というメッセージもなく,

 ただ追い詰められて,

 一人で苦しんでいるのですね。




 今,死にたくなるほどつらい思いをしているあなたも,とても大切な存在です
【★9】

 たとえ,まちがったことをしてしまったとしても,

 あなたが大切な存在であることは,まったく変わりありません。



 そして,あなたは一人ぼっちではありません。

 あなたの声に耳に傾け,寄り添う大人が,必ずいます。

 決して一人で思い詰めずに,

 すぐに誰かに,今のつらい気持ちを聞いてもらってください。





 同じようなケースで子どもを亡くした家族の皆さんは,今から10年前,

 先生の指導が原因で子どもが自殺で亡くなることを,「指導死」と名付けました
【★10】

 そして,

 指導死が子どもの側の問題ではなく大人の側の問題だ,ということと,

 指導死をなくしていくためにみんなで取り組む必要がある,ということを
【★11】

 ずっと社会に訴え続けています。


 そういう家族の皆さんの切実な思いが,

 今まさに死にたいほどつらいあなたに届くようにと,心から願っています。

 

 

【★1】 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」(高文研)には,先生による指導が原因で亡くなった7人の子どもたちの具体的なエピソードが掲載されています。このうち,「カンニングを疑われ長時間の事情聴取(埼玉県・高校)」(120頁)のケースと,「カンニングが発覚した指導の途中で(埼玉県・高校)」のケースの裁判を,私が担当していました。
【★2】 「私が1952年から2013年までの新聞や書籍等から指導死に該当するものを拾ったところ,68件にも上りました(5件の未遂を含む)。」(武田さち子「二度と『指導死』を起こさないために-事例から学ぶ」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」184頁)
 同書の巻末に,指導死の事件の一覧表が掲載されています。
【★3】 2014年以降も,警察庁の統計では,「教師との人間関係」で自殺した子ども(中学生・高校生)が,2014年(平成26年)に4人,2015年(平成27年)に2人,2016年(平成28年)に2人いました。
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H26/H26_jisatunojoukyou_02-2.pdf
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H27/H27_jisatunojoukyou_02.pdf
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H28/H28_jisatunojokyou_02.pdf
【★4】 裁判は,学校を設置している都道府県や市区町村,私立であれば学校法人を相手にするものが多いですが,「日本スポーツ振興センター」を相手にした裁判もあります。
 学校生活の中で病気や事故にあった場合に備えて,学校や家庭が,日本スポーツ振興センターの「災害共済」という保険に入っていることがふつうです。子どもが亡くなったときには,家族に「死亡見舞金」というお金が支払われますが,それだけでなく,事故の背景・原因を分析して,そのような痛ましい事故が学校で起きないように活かされています。いじめや先生の指導などが原因で自殺で亡くなった場合にはこの死亡見舞金が支払われていますが,高校生には支払われないというおかしなルールになっています。そのおかしなルールがあることも,学校現場が指導死にきちんと向き合わないことに繋がっています(なお,最近では日本スポーツ振興センターが運用を変えて高校生の指導死にも支給されたケースがあります)。
【★5】 「生徒指導とは,一人一人の児童生徒の人格を尊重し,個性の伸長を図りながら,社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のことです」(文部科学省「生徒指導提要」1頁)
【★6】 「もし,教師が子どもに対して,『君のことが大切だ』『あなたのことが心配なんだ』というメッセージを常に届けることができていたら,強く叱った際にも,この言葉をきちんと伝えていたら,子どもは死なずにすんだかもしれません。あるいは,子どもの言葉や気持ちをきちんと受け止めて,子ども自身が『先生は自分の気持ちを理解してくれている』『話せばわかってもらえる』と信じることができていたら,死なずにすんだと思います」(武田さち子「二度と『指導死』を起こさないために-事例から学ぶ」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」203頁)
【★7】 「原因となる出来事,あるいは指導から自殺までの間が極端に短いのが,指導死の特徴です。指導と自殺との時間的経過が不明の7事例を除く61件中,指導直前3件,指導中4件,直後9件,帰宅中あるいは帰宅後14件と,計30件,約半数がその日のうちに自殺しています」(武田さち子「二度と『指導死』を起こさないために-事例から学ぶ」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」190頁)
【★8】 「問題行動が見つかったり,叱られた児童生徒は強いショックを受けることがあります。…安全への配慮から,『指導中に一人にしない』『目を離さない』ことは,生徒指導の基本です。帰宅させる際にも,ケアにつながる言葉がけをしてください。落ち込み度合いによっては,保護者に引き渡すまで一緒にいる,保護者に対してもあまり強く叱らないよう要請するなど,フォローすることが必要です」(武田さち子「二度と『指導死』を起こさないために-事例から学ぶ」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」202頁)
【★9】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★10】 「生徒指導をきっかけとした子どもの自殺『指導死』の定義
 1 一般に『指導』と考えられている教員の行為により,子どもが精神的あるいは肉体的に追い詰められ,自殺すること。
 2 指導方法として妥当性(だとうせい)を欠くと思われるものでも,学校で一般的に行われる行為であれば『指導』と捉(とら)える(些細(ささい)な行為による停学,連帯責任,長時間の事情聴取・事実確認など)。
 3 自殺の原因が『指導そのもの』や『指導をきっかけとした』と想定できるもの(指導から自殺までの時間が短い場合や,他の要因を見いだすことがきわめて困難なもの)。
 4 暴力を用いた『指導』が日本では少なくない。本来『暴行・傷害』と考えるべきだが,これによる自殺を広義の『指導死』と捉える場合もある。」
(大貫隆志「はじめに-指導死とは」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」4頁)
【★11】 2006年(平成18年)に制定された自殺対策基本法も,「自殺が個人的な問題としてのみ捉えられるべきものではなく,その背景に様々な社会的な要因がある」として,自殺対策が社会的な取組として実施されなければならないとしています(2条2項)。

2017年7月 1日 (土)

学校で制服を着ないといけないのが嫌だ

 

 市立の中学生です。去年まで暮らしていた海外では中学でも私服だったので,ここの学校で制服を着て通学しないといけないのが,なんとなく嫌だなと思ってます。でも,同級生たちはあまり疑問に思ってないみたいです。学校の制服って,法律で決まってることなんですか。

 

 

 「学校で生徒が制服を着なければいけない」とは,法律に書かれていません。

 制服のルールは,それぞれの学校が決めています。

 でも,公立の中学では,絶対に着なければいけないものではありません。





 制服が「なんとなく嫌だ」と思うあなたの気持ちは,まったく自然なものです。




 人は,他の人に迷惑をかけないかぎり,何をしてもいいという自由があります。



 自分らしい毎日を過ごすこと,自分らしい人生を送ることは,

 けっして,わがままや自分勝手ではありません。

 むしろ,法律がだいじにしていることです。

 一人ひとりが大切な存在として扱われ,幸せな毎日・人生を送れるためにこそ,法律があるのです
【★1】


 特に,

 言いたいことを言えること,

 書きたいことを書けること,

 描きたいことを描けること,

 歌いたいことを歌えること,

 踊りたいことを踊れること,

 そういうふうに自分を表現できることは,自分らしく生きることにつながります。

 そして,いろんな人のいろんな表現が混じり合うことで,

 一人ひとりが成長することができ,社会全体も豊かなものになります。



 だから,憲法は,表現の自由をとてもだいじなもの,よっぽどのことがなければ制限できないものとしています【★2】【★3】



 着たい服を着られるということ。

 それも,自分らしく生き,自分を表現するための,とてもだいじなことです。

 特に10代は,自分探しをしながら自分を形づくっていく時期ですから,

 服装や髪型を自由に選べることは,大人と同じように重要です
【★4】


 だから,

 よっぽどのことがなければ,

 自分が好きな服を着るのを禁じられたり,

 決まった服を押しつけられたりすることは,許されません。



 つまり,

 自由に服を着られるのがあたりまえで,

 逆に,自由に服が着られないのが例外的なことです。



 なので,

 「どうしても制服を着たくない」というほどの強い気持ちでなくても,

 あなたのように「なんとなく嫌だ」という気持ちも,

 法律から見ればあたりまえのことで,大切にされなければならないのです。





 例外として,服装の自由を奪うなら,

 しっかりとしたルールが必要です。

 そして,そのルールを作るときに,

 服装の自由を奪う「よっぽどの理由」があるのかを,きちんと議論しなければいけません。




 刑務所に入っている人は,服装に自由がありません。

 それは,法律というしっかりしたルールで,きちんと決められています
【★5】

 刑務所に入っている人は,犯罪をして厳しい罰を受けている立場です。

 刑務所がそういう人たちをきちんと管理できるようにする必要がある。

 それが,服装の自由を制限する「よっぽどの理由」です。



 警察官【★6】,消防隊員【★7】,海上保安官【★8】,税関職員【★9】,入管職員【★10】,自衛官【★11】などの公務員や,

 鉄道
【★12】や警備【★13】の会社の社員も,

 法律というしっかりしたルールで,制服を着ることが決められています。

 そういう特別な仕事に就いていることが,見た目ではっきりわかるようにする必要がある。

 それが,服装の自由を制限する「よっぽどの理由」です。





 しかし,学校の生徒の制服は,法律がありません。



 日本は,子どもの権利条約という世界との約束で,

 「子どもの表現の自由を制限するときは,きちんと法律を作らないといけない」

 と確認しています
【★14】

 制服については,その法律がないのです。



 法律がないのは,服装の自由を制限しなければいけない「よっぽどの理由」じたいが,ないからです。



 制服のルールは,それぞれの学校が決めています。

 学校は,みんなが安心・安全な学校生活を送るためのルール,いわゆる「校則」を作ることができます。

 でも,学校は,何でも好き勝手に校則を作れるわけではありません。

 憲法がとてもだいじにし,法律でも奪っていない生徒の服装の自由を,

 学校生活のためという名目(めいもく)で学校が簡単に奪ってしまうことは,許されません
【★15】



 「服装の乱れは心の乱れ,制服は非行を防ぐために役に立つ」とか【★16】

 「お金持ちの家の子と経済的に苦しい家の子との差が出ないように」など
【★17】

 制服が必要だという人たちは,いろんな理由を挙げます。

 でも,そのどれも,表現の自由・服装の自由というとてもだいじなものを奪うほどの「よっぽどの理由」には,まったくなっていません。




 もちろん,学校での生徒の服装がまったく自由でいいというわけでもありません。

 大人になったとき,職場(特に人と接する仕事)や結婚式・お葬式など,その場にふさわしい服装をすることが,社会の中で暮らすうえで必要になります。

 そのことを子どものうちからきちんと教え,身につけさせるのも,学校のだいじな役割です。

 だから,勉強をする場にふさわしい服装をするように学校が生徒を指導するのは,当然のことです。



 でも,だからといって,

 「ふさわしい服装」として,みんな同じ制服を着ることまで強制するのは,明らかに度が過ぎています。

 生徒一人ひとりに自分で「ふさわしい服装」を考えさせること,

 周りの人を怖がらせるような服や,パーティーで着るようなあまりに派手な服などを着てきた生徒がいたら,

 なぜそれが「ふさわしい服装」でないのかを,一人ひとりに合わせてきちんと指導すること,

 それこそが教育だと,私は思います。

 そういう丁寧な指導をせずに,みんな同じ服を着させて解決しようとするのは,教育として手抜きですし,

 「教育」という形をとりながら,実際には子どもたちを「支配」しているのと同じです。




 公立の中学校で制服を着なければいけないのかが争われた裁判が,いくつかあります。

 それらの判決で,裁判所は,こう言っています。

  「校則は,生徒の心得(こころえ)を示したもの。

   校則に書かれている制服は,むりやり着させられるものではないし,

   着なかったからといって,不利には扱われない」
【★18~20】


 実際には,あなたが私服で登校すれば,

 それが学ぶ場にふさわしい服装なのかどうか,先生から指導されるでしょう。

 でも,あなたが「ふさわしい服装だ」と自信をもってきちんと話をすれば,

 学校はそれ以上,あなたに制服を強制することは,法律上できないのです。



 もし,あなたが私服で通学することを学校にきちんと話したのに,

 指導が長時間続いたり,何度も繰り返されたり,

 制服でなければ授業を受けさせない,修学旅行に行かせない,という不利な扱いをされたら,

 すぐに弁護士に相談してください。



 ただし,

 公立ではなく私立の学校では,

 「その学校のルールをわかったうえで,自分から希望して入学した」ということが重視されるので,

 校則で決められている制服を着なければ,

 停学や退学などの懲戒処分を受けてしまうことがありえます
【★21】

 私は,「それはおかしい。いくら私立の学校でも,まちがったルールで処分されることは許されない」と思いますが,

 私立の学校の場合,制服の自由について公立の学校よりも高いハードルがあることは,知っておいてください。





 どんな人も,一人ひとりが,大切な人間です。

 工場で作られているような,どれも同じ形をした商品ではありませんし,

 着せ替え人形でもなければ,奴隷でもありません。

 教育基本法という,教育のベースとなる法律にも,

 一人ひとりを大切にすることが,はっきり書いてあります
【★22】

 それなのに,

 体型も,服のセンスも,みんなばらばらの生徒たちが,

 まったく同じ服を着させられているのは,おかしなことなのです。




 むかしは,校則で男子が丸坊主にさせられる中学校がとても多かったのですが,

 みんなが「おかしい」と声を上げたことで,

 丸坊主にさせる学校は,とても少なくなりました
【★23】

 制服についても,同じように「おかしい」と声を上げて変えていくことが大切だと,私は思っています。

 

 

【★1】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★2】 憲法21条1項 「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する」
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)13条1項 「児童は,表現の自由についての権利を有する。この権利には,口頭,手書き若(も)しくは印刷,芸術の形態又は自ら選択する他の方法により,国境とのかかわりなく,あらゆる種類の情報及び考えを求め,受け及び伝える自由を含む。」
【★3】 「『二重の基準』,すなわち,表現の自由を中心とする精神的自由を規制する立法の合憲性は,経済的自由を規制する立法よりも,とくに厳しい基準によって審査されなければならない」(略)「経済的自由も人間の自由と生存にとってきわめて重要な人権であるが,それに関する不当な立法は,民主政の過程が正常に機能しているかぎり,議会でこれを是正(ぜせい)することが可能であり,それがまた適当でもある。これに対して,民主政の過程を支える精神的自由は『これわ易(やす)く傷つき易い』権利であり,それが不当に制限されている場合には,国民の知る権利が十全(じゅうぜん)に保障されず,民主政の過程そのものが傷つけられているために,裁判所が積極的に介入して民主政の過程の正常な運営を回復することが必要である。精神的自由を規制する立法の合憲性を裁判所が厳格に審査しなければならないというのは,その意味である」(芦部信喜「憲法 第4版」181頁)
【★4】 「少なくとも髪型や服装などの身じまいを通じて自己の個性を実現させ人格を形成する自由は,精神的に形成期にある青少年にとって成人と同じくらい重要な自由である」(芦部信喜「憲法学Ⅱ 人権総論」404頁)
【★5】 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律186条1項 「被留置者(ひりゅうちしゃ)には,次に掲(かか)げる物品…であって,留置施設における日常生活に必要なもの…を貸与(たいよ)し,又(また)は支給する。 一 衣類及び寝具(以下略)」
 同法187条 「留置業務管理者は,被留置者が,次に掲げる物品…について自弁(じべん)のものを使用し…たい旨(むね)の申出をした場合には,留置施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合,…並びに被留置受刑者について改善更生に支障を生ずるおそれがある場合を除き,内閣府令で定めるところにより,これを許すものとする。 一 衣類(以下略)」
 同法189条 「第186条…により貸与し,又は支給する物品は,被留置者の健康を保持するに足り,かつ,国民生活の実情等を勘案(かんあん)し,被留置者としての地位に照らして,適正と認められるものでなければならない」
【★6】 警察法70条 「警察職員の…服制…に関し必要な事項は,国家公安委員会規則で定める」 ※警察官の服制に関する規則(昭和31年12月19日国家公安委員会規則第4号)
【★7】 消防組織法16条2項 「消防吏員(りいん)の…服制に関する事項は,消防庁の定める基準に従(したが)い,市町村の規則で定める」 ※消防吏員服制基準(昭和42年2月3日消防庁告示第1号)
【★8】 海上保安庁法17条3項 「海上保安官の服制は,国土交通省令で定める」 ※海上保安庁職員服制(昭和37年6月8日運輸省令第31号)
【★9】 関税法105条3項 「税関職員は,第1項の規定により職務を執行するときは,財務省令で定めるところにより,制服を着用し,かつ,その身分を示す証票を携帯し,関係者の請求があるときは,これを提示しなければならない」 ※税関職員服制(昭和44年9月22日大蔵省令第50号)
【★10】 出入国管理及び難民認定法61条の5第1項 「入国審査官及び入国警備官がその職務を執行する場合においては,法令に特別の規定がある場合のほか,制服を着用し,又はその身分を示す証票を携帯しなければならない」
 同条3項 「第1項の制服及び証票の様式は,法務省令で定める」 ※入国審査官及び入国警備官服制(平成5年6月10日法務省令第26号)
【★11】 自衛隊法33条 「自衛官,自衛官候補生,予備自衛官,即応予備自衛官,予備自衛官補,学生…,生徒その他その勤務の性質上制服を必要とする隊員の服制は,防衛省令で定める」 ※自衛官服装規則(昭和32年2月6日防衛庁訓令第4号)
【★12】 鉄道営業法第22条 「旅客及(および)公衆ニ対スル職務ヲ行フ(おこなう)鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ(べし)」
【★13】 警備業法16条1項 「警備業者及び警備員は,警備業務を行うに当たっては,内閣府令で定める公務員の法令に基づいて定められた制服と,色,型式又は標章により,明確に識別することができる服装を用いなければならない」
 同条2項 「警備業者は,警備業務…を行おうとする都道府県の区域を管轄する公安委員会に,当該公安委員会の管轄区域内において警備業務を行うに当たって用いようとする服装の色,型式その他内閣府令で定める事項を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において,当該届出書には,内閣府令で定める書類を添付しなければならない」
【★14】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)13条2項 「1の権利の行使については,一定の制限を課することができる。ただし,その制限は,法律によって定められ,かつ,次の目的のために必要とされるものに限る。(a)他の者の権利又は信用の尊重 (b)国の安全,公(おおやけ)の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」
【★15】 子どもの権利条約は,学校のルールが子どもたちの人間の尊厳に適合するものであることを求めています。
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)28条2項 「締約国は,学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとる」
【★16】 私服だと非行をしやすくなる,というわけではありませんし,非行をする子は,学校が制服であっても非行をします。大人でも,立派なスーツを着ていてもとんでもない犯罪をする人もいますし,一見だらしのない服や変わった服を着ていても,人格的にとても優れている人も,多くいます。非行を防ぐこと自体はだいじですが,だからといって,そのことは生徒たちの服装の自由を奪うほどの「よっぽどの理由」にはなりません。本気で非行を防ぐのなら,統一した服装で子どもたちを管理・支配するのではなく,子どもたち一人ひとりを大切な存在として扱うこと,家や学校や地域に子どもたちの居場所があるかを注意深く見守ることのほうが必要です。
【★17】 実際には,決まった業者から高い制服を買わなければならないので,経済的に苦しい家にとっては制服のほうが負担になっています。服はお金をかけさえすれば良いというものではなく,限られた条件の中で工夫する大切さを教えることが,大人が負っている役割です。
【★18】 京都地裁昭和61年7月10日判決(判例地方自治31号50頁) 「同校の標準服の定めは厳格にそのまま実施しているわけではなく,事案ごとに弾力的に運用されていること,原告もその好みによって標準服を一部分変更して,スカート丈をやや短くし,スカートのギャザーを長くし,上衣のボタンの位置をやや変え,スカートの腰に小さいハートの印をつけたものを着用しているが,被告はこの程度の変更には問題がないと考え,原告に対して何の措置もとっていないこと,被告は標準服を着用せずに私服で登校する生徒に対しては指導をして,それを改めるように説得することにしていること,しかし,被告の同校を始め,京都市立の中学校において標準服を着用しないことを理由に,生徒に対して懲戒処分(学校教育法11条)を行った例はないし,進学や卒業を拒否した例もないことが認められる。…本件において,原告は自分の好みによって変更を加えた標準服を着用し,被告も右衣服を何ら問題とはしていないところ,衣服着用の性質からすると,原告が他の衣類ではなく,右の自己の好みにより変更を加えた標準服を着用することが,重大な損害を被(こうむ)ることにつながるとはいえない。そのうえ,京都市立の中学校では標準服不着用を理由として懲戒処分をしたり,進級卒業を拒否した例はないというのであるから,標準服を着用しないことによる不利益処分の確実性は極めて低いというべきである。これらの点を考慮すると,原告の主張する標準服着用義務については,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情があるとは,本件全証拠によっても認めることができない。そうすると,原告は,標準服を着用しなくともよいことの確認を認める法律上の利益を有しないから,右部分の本件訴えは不適法なものというべきである」
【★19】 東京高裁平成元年7月19日判決(判例時報1331号61頁) 「学校長が,教育目的を達成するための一助として右のような未成熟な中学校在学の生徒のために,その広い裁量のもとに,教育的観点からする教育上ないしは指導上の指針あるいはあるべき行動の基準等について生徒心得等を定めてこれを明らかにすることは,それが社会の通念に照らして著しく合理性を欠くなど不適当,不適正なものでない限り,何ら違法ではなく,また,不当なことでもない。このことは,それが,生徒の着用するいわゆる制服についての場合であっても同様である。これを本件についてみるに,…大原中校長の定めた生徒心得における制服の指定は,生徒の教育上遵守することが望ましい項目について生徒指導ないしは学習指導のための教育活動の一環として,いわばその努力目標を提示する趣旨のもとに,社会的合理性のある範囲内で定められており,その具体的な運用に当たっても,父母や生徒の意見をも十分に取り入れるよう配慮し,仮に制服を着用しない生徒があっても,これを着用することが望ましい旨指導することはあるが,制裁的な措置をとるようなことはなされていないこと,この状況は,右の,生徒心得が定められた昭和51年以後一貫して今日に至っており,通学区域内の同中学校の生徒の父母である付近の住民からの格別の苦情もなく経過してきていること,そして同中学校の在学生は前記のAをも含めて,全員が制服を着用して学校生活を平穏(へいおん)に営みつつ入学,卒業に至っていることが認められ(る)…。以上に認定の事実関係によれば,大原中の生徒心得における制服についての定めの内容は,中学校に在学すべき生徒に対する教育上の配慮に沿うものとして,社会通念に照らし合理的であるというべく,教育的見地からする学校長の裁量を超えるものではないし,あるいはまたその裁量の範囲を逸脱(いつだつ)する類のものでもないことが明らかである。更に右定めに関する運用の実態をみても規制的,強制的,拘束的色彩の薄いものであるということができる。しかも,A本人もその母も制服の着用を望んでおり,控訴人〔注:Aの父〕もその希望をいれて,同中学校の制服を注文購入したのであるから,控訴人の内心に不本意な点があったかどうかは別として,学校当局の強制で制服を購入させられたとか,校長から購入を強いられたとか,校長がAの制服着用を控訴人に強制したものとはいえない」
【★20】 最高裁第一小法廷平成8年2月22日判決(判例時報1560号72頁) 「本件の『中学校生徒心得』は,『次にかかげる心得は,大切にして守ろう。』などの前文に続けて諸規定を掲げているものであり,その中に,『男子の制服は,次のとおりとする。(別図参照)』とした上で,…校外生活に関して,『外出のときは,制服又は体操服を着用し(公共施設又は大型店舗等を除く校区内は私服でもよい。),行き先・目的・時間等を保護者に告げてから外出し,帰宅したら保護者に報告する。』との定めが置かれているが,これに違反した場合の処分等の定めは置かれていないというのである。右事実関係の下において,これらの定めは,生徒の守るべき一般的な心得を示すにとどまり,それ以上に,個々の生徒に対する具体的な権利義務を形成するなどの法的効果を生ずるものではないとした原審の判断は,首肯(しゅこう)するに足りる」
【★21】 最高裁第一小法廷平成8年7月18日判決(判例時報1599号53頁,修徳高校パーマ退学事件) 「憲法上のいわゆる自由権的基本権の保障規定は,国又は公共団体と個人との関係を規律するものであって,私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものではないことは,当裁判所の判例…の示すところである。したがって,私立学校である修徳高校の本件校則について,それが直接憲法の右基本的保障規定に違反するかどうかを論ずる余地はない。…私立学校は,建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針によって教育活動を行うことを目的とし,生徒もそのような教育を受けることを希望して入学するものである。原審の適法に確定した事実によれば,(一)修徳高校は,清潔かつ質素で流行を追うことなく華美に流されない態度を保持することを教育方針とし,それを具体化するものの一つとして校則を定めている,…(三)同様に,パーマをかけることを禁止しているのも,高校生にふさわしい髪型を維持し,非行を防止するためである,というのであるから,本件校則は社会通念上不合理なものとはいえず,生徒に対してその遵守を求める本件校則は,民法1条,90条に違反するものではない」
【★22】 教育基本法2条 「教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,次に掲(かか)げる目標を達成するよう行われるものとする。 … 二 個人の価値を尊重して,…自主及(およ)び自律(じりつ)の精神を養(やしな)う…」
【★23】 「服装や身だしなみに関して,生徒に基本的人権(自己決定権)がある以上,『社会通念上の合理性』を欠き,不当に人権を制限する規定は不適切であるといわなければなりません。…『丸刈り校則』は,現在の社会通念において,中学生や高校生男子にとって,もはや合理性のある規定とは言え(ません)…。なお,昭和40年代に全国の3割程度の中学校で定められていた『丸刈り校則』は,平成22年現在では,南九州地方の30~40校に残る程度のようです(残った丸刈り校則も廃止されるべきであると考えます)」(第一東京弁護士会少年法委員会「子どものための法律相談」44頁)  

2017年2月 1日 (水)

妊娠・出産したら高校を退学しないとダメなの?

 

 高校2年生です。大学生の彼氏がいます。その彼氏の子を妊娠して,どうしようか悩んでいるうちに,中絶できる時期を過ぎてしまいました。学校から退学するように強く言われているんですが,時間がかかっても高校は卒業したいです。どうしても退学しなきゃダメなんですか?

 


 あなたがその学校で学び続けたいと思っているなら,退学する必要はありません。




 中絶ができる時期を,過ぎているのですね。

(中絶ができる時期のことなど,妊娠してどうすればよいかわからなくて悩んでいる人は,「妊娠してしまってどうすればいいかわからない」の記事も見てください。)




 妊娠したとか,子どもを産んだという理由で,

 女子生徒が高校を退学するケースを,たくさん見聞きします。



 私立だと,学校の規則に「妊娠・出産したら退学」と書いてあるかもしれません。

 公立でも,そのようなルールを文章にしている県があることが,最近問題になりました
【★1】

 また,国が作ったルールでも,

 「学校の秩序(ちつじょ)を乱(みだ)した」とか,「勉強する立場としてふさわしくないことをした」という場合には,退学させることができると書かれていて
【★2】

 妊娠や出産はこれにあたる,と考える人も,多くいます。




 学校も,親も,社会の多くの人たちも,時には生徒本人でさえも,

 「妊娠・出産したら高校をやめるのが当たり前」と考えていることが,多いようです。




 でも,それは当たり前ではありません。




 生徒を退学させることが許されるのは,

 ルール違反をした生徒に学校が注意をしても,立ち直る見込みがなくて,これ以上学校に置いておけない,というような,よっぽどのことがあるときだけです
【★3】



 10代のみなさんには,

 心と体が大人の仲間入りを始めたばかりの自分自身を大切にして,

 セックスについて焦(あせ)らないでほしい。

 私だけでなく,ほとんどの大人たちが,そう思っています。



 でも,だからといって,逆に,

 妊娠・出産した生徒を,罰として退学させるのは,

 りくつが通らない,まったくおかしなことです。



 妊娠・出産で,その生徒本人の生活は,たしかに大変にはなります。

 けれど,学校の秩序が,それで乱れるわけではありません
【★4】【★5】


 妊娠・出産と勉強を両立しようと頑張る人に向かって,

 「勉強するなら妊娠・出産してはいけない」とか,

 「妊娠・出産するなら勉強してはいけない」などと,

 他の人が口を挟(はさ)むことは,許されません。



 妊娠・出産する生徒に必要なのは,罰ではなく,

 妊娠した生徒と,お腹の中の子ども,

 出産した生徒と,生まれてきた子どもとを,

 まわりの人たちが支えていくことです。




 性は,自分の心と体を大切にし,相手の心と体を大切にすることです。

 そして,セックスは,大切なコミュニケーションの一つです。



 性についてのきちんとしたメッセージや,避妊・妊娠・出産後の生活のこと,

 それらをふだんからきちんと生徒たちに教えていない学校。

 妊娠・出産ということが起きたら,

 その生徒を支えもしないで,むしろ罰を与える学校。

 そんな学校が,当たり前であってはいけません。




 どんな人も,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利がある。

 憲法は,はっきりとそう言っています
【★6】



 そして日本は,子どもの権利条約で,世界とのあいだで,こう約束しています
【★7】

 「すべての子どもが高校で学べる機会を持てるようにしよう」

 「途中で退学する子どもを,できるかぎりなくすようにしよう」


 さらに,女子差別撤廃(てっぱい)条約でも,

 「女子が途中で退学することを減らしていこう」と約束しています
【★8】

 妊娠・出産した生徒も高校で学べること,そして,退学しなくてすむことが,

 世界との約束からしても,必要なのです。




 もし,妊娠・出産で退学してしまったら,

 中学卒業の扱いですから,働こうと思っても,安定した仕事を見つけるのが,とても大変です。

 相手の男性も,とても若くて収入が低かったり,逃げてしまって生活費を払わなかったりします。

 妊娠・出産した生徒を学校から追い出すのは,

 苦しい生活・人生を送らなければらない人を,

 この社会に増やしてしまうだけです
【★9】


 学校で学ぶことは,幸せな生活と人生につながる,大事なことです。

 だからこそ,

 学校は,妊娠・出産した生徒を追い出すのではなく,

 むしろ,しっかりと守っていかなければならないのです。




 「万引きがバレて私立中学を退学するように言われてる」の記事にも書いたとおり,

 学校が生徒をむりやり退学させるのには,とても高いハードルがあります。

 だから学校は,むりやり退学させ,生徒側から訴えられて裁判で負けることのないよう,

 「あくまで生徒自身が退学を決めた」というかたちにするために,自主退学させようとします。


 でも,自主退学は,あなたが納得しなければ,断ってよいのです。

 実際,妊娠・出産を理由に退学するよう学校から言われたけれども,その後の話し合いで退学せずにすんだケースもあります
【★10】


 あなたが納得していないのに,学校が退学処分をしてしまったら,裁判で争うこともできます。

 じつは,妊娠・出産を理由とした退学処分について,裁判所が判断したことは,まだありません
【★11】【★12】

 でも,いつかきちんと,裁判所に「そういう退学処分はダメだ」とはっきり言ってもらうことが必要だと,私は思っています。


 もしあなたが,その高校で学び続けたいのに,学校が認めないようなら,すぐに弁護士に相談してください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。

 

 

【★1】 岩手県教育委員会「懲戒の運用に関する基準 H25改訂」 「問題行動が初回・単独の場合」「不純異性交遊 謹慎(7日~10日)」「妊娠 退学処分」「性的暴行 退学処分」
 このことが,国会の議論でも取り上げられました(衆議院第189回国会予算委員会,平成27年3月12日。http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001818920150312016.htm)。
「○泉(健太)委員 …これは,ある県の県立高校の管理運営に関する規則というもので,懲戒に関する規程というのがあるんですね。懲戒の運用に関する基準,平成25年改訂,最近のものですね。…一番下の方,『性的問題行動』と書いてありまして,『不純異性交遊』『妊娠』,そして『性的暴行』と処分が書いてあるわけですね。物すごく違和感を感じたのが,妊娠が退学処分,そして性的暴行も退学処分,これは一緒かと。それは一緒とちゃうやろというふうに思うわけですね。犯罪を起こせば,それは退学の対象になろうというふうに思いますが,妊娠というのは受け手の側にもたらされる環境ですよね。さまざま,その経緯,過程に理由はあったにせよ,子供ができてしまったという事態に対して,子供の学業の継続ですとか支援をする立場の教育機関が,この妊娠ということを果たして懲戒の枠組みの中で考えるべきことなのかと。…やはり公立高校の規程からは,全て,妊娠によって懲戒をするという考え方,まずこれを一掃していただきたいというのが一つ。そして,皆さんの手が及ぶのは公立高校だけだというのではなくて,やはり私立の,全ての学校法人に対しても,懲罰的考え方ではなくて,いかにしてその子供たちを支援するのか,こういう考え方に立っていただきたいというふうに思いますが,大臣,いかがでしょうか。
○下村国務大臣 …例えば,今御指摘のように,本人に学業継続の意思がある場合においては,これは関係者で十分話し合い,母体保護の観点等も含め,教育的な指導は行い,懲戒的な対処は行わないという対応は十分考えるべきことであるというふうに私も思います。また,学業を継続することとなった生徒に対しては,学校として,養護教諭やスクールカウンセラー等も含めた十分な支援を行うことも必要であるというふうに思います。仮に,妊娠中に休学をしたり中途退学せざるを得ないような場合におきましても,再び高等学校等で学び直したいと希望する者に対しては,高等学校等就学支援金等による支援の対象となっているところでもございます。今後とも,修学の意思ある高校生が,高校での学習を終えて卒業し,社会を支える一員となれるよう,適切な学習指導,生徒指導を推進してまいりたいと思います。」
【★2】 教育基本法11条 「校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒(ちょうかい)を与えることができる。(略)」
 学校教育法施行規則26条3項 「前項の退学は,…次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。
 一 性行不良で改善の見込がないと認められる者
 二 学力劣等で成業の見込がないと認められる者
 三 正当の理由がなくて出席常でない者
 四 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分(ほんぶん)に反した者」
【★3】 「退学処分は,生徒の身分を剥奪(はくだつ)する重大な措置(そち)であるから,当該(とうがい)生徒に改善の見込みが無く,これを学外に排除(はいじょ)することが社会通念からいって教育上やむをえないと認められる場合に限(かぎ)って選択すべきものである」(東京高裁平成4年3月19日判決,判例時報1417号40頁)。そして,その判断要素として,「校則違反の態様,反省の状況,平素(へいそ)の行状(ぎょうじょう),従前(じゅうぜん)の学校の指導及び措置,並(なら)びに処分に至(いた)る経過等」の諸事情があります(最高裁平成8年7月1日判決,判例時報1599号53頁)。
【★4】 「妊娠・結婚それ自体により学校の秩序・規律が乱れるとはいえませんし,妊娠又は結婚を理由として退学処分になるとしますと,子どものいる人や既婚者は高校に入学できないことになって問題がありますので,妊娠又は結婚のみを理由とする退学処分の場合には,学校の裁量権の範囲を超えた違法なものでると判断される可能性は高いと思われます」(第一東京弁護士会少年法委員会「子どものための法律相談」309頁)
【★5】 「性行為や結婚・妊娠それ自体により規律が乱れることはないはずであり,もしそうであるなら,既婚者や子持ちは高校等の学校に入れないことになり,これは差別であるとの指摘もあります。米国の高校では,子どもを持つ生徒のための『授乳時間』『育児室』が設けられているところがあるとの報告もあります。」(板東史朗・羽成守編著「新版 学校生活の法律相談」259頁)
【★6】 憲法26条1項 「すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する」
【★7】 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)28条1項 「締約国(ていやくこく)は,教育についての児童の権利を認めるものとし,この権利を漸進的(ぜんしんてき)にかつ機会の平等を基礎として達成するため,特に,
(略)
(b) 種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨励(しょうれい)し,すべての児童に対し,これらの中等教育が利用可能であり,かつ,これらを利用する機会が与えられるものとし,例えば,無償教育の導入,必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとる。
(略)
(e) 定期的な登校及び中途退学率の減少を奨励するための措置(そち)をとる。」
【★8】 女子差別撤廃条約(女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約)10条 「締約国は,教育の分野において,女子に対して男子と平等の権利を確保することを目的として,特に,男女の平等を基礎として次のことを確保することを目的として,女子に対する差別を撤廃(てっぱい)するためのすべての適当な措置をとる。
(略)
(f) 女子の中途退学率を減少させること及び早期に退学した女子のための計画を策定(さくてい)すること。
(略)
(h) 家族の健康及び福祉の確保に役立つ特定の教育的情報(家族計画に関する情報及び助言を含む。)を享受(きょうじゅ)する機会」
【★9】 認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんは,ブログ記事「2017年にはぶっ壊したい,こどもの貧困を生みだす日本の5つの仕組みとは」の中で,貧困の観点からわかりやすく重要な指摘をしています。http://www.komazaki.net/activity/2017/01/004876.html
【★10】 「我が国でも,女子高校生が結婚を理由に退学処分に処せられたが後に学校側が処分を撤回したという例がありました。女子,少年と親が真に結婚や出産を望んでいるならば,学校側と話し合って退学させないように積極的に交渉するのがよいでしょう。」(板東史朗・羽成守編著「新版 学校生活の法律相談」259頁)
【★11】 「妊娠又は結婚を理由とする退学処分の有効性が問題となった裁判例は筆者の見る限り見当たりません」(第一東京弁護士会少年法委員会「子どものための法律相談」309頁)
 第一法規の法情報総合データベースでの検索結果でも,該当判例はありませんでした(2017年2月1日現在)。
【★12】 交際相手の女性と性的な関係をもったことを理由に退学勧告を受けたことが違法だとして,元男子高校生が私立の学校に損害賠償を求めた裁判が起こされています(河北新報2016年6月21日「交際相手と性的行為『退学勧告は違法』と提訴」http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201606/20160621_13020.html)。妊娠・出産した女子生徒の事案ではありませんが,重要なケースです。
 

2016年10月 1日 (土)

義務教育ってタダのはずじゃないの?

 

 「義務教育はタダだ」って聞いたことがあるんですが,でも,給食費,副教材費,制服代,修学旅行代,卒業アルバム代とか,どうして実際にはいろいろお金がかかってるんですか?

 


 憲法という,日本の国のおおもとのルールには,

 「義務教育はタダです」と,はっきり書いてあります
【★1】


 そのまま素直に読めば,小学校や中学校ではお金がいっさいかからないように読めますよね。

 私立の学校は別ですが,少なくとも公立の学校ではいっさいお金がかからないように読めます。


 
ところが,教育基本法という法律では,

 「タダなのは授業料のことです」と,タダの範囲がせばめられています
【★2】



 今でこそ,小学校や中学校の教科書はタダでもらえますが,

 実は,むかしは教科書ですら,お金を出して買わなければいけなかったのです。

 「憲法に義務教育はタダだと書いてあるのに,どうして教科書を買わないといけないのか。国がお金を出すべきだ」という裁判も起きました。

 そのときの裁判所は,「憲法が言っているのは『授業料がタダ』ということ。教科書にお金がかかっても憲法違反ではない」と,訴えを認めませんでした
【★3】

 ただ,
その裁判のあいだに新しく法律が作られ,教科書もタダになりました【★4】

 1969年(昭和44年),ようやく全国の子ども全員が教科書をタダでもらえるようになったのです
【★5】



 けれど,授業料と教科書代以外のお金は,結局親が出さないといけません。


 1年間にかかる給食費は,公立の小学校は約4万3000円,中学校は約3万8000円です。

 給食費以外に1年間にかかる,副教材や修学旅行や制服などのお金も,公立の小学校では約5万2000円,中学校では約12万9000円あります
【★6】

 つまり,授業料と教科書代がタダでも,それ以外に1年間に約10万円~17万円近くもお金がかかる計算になります。

 これがとても負担になっている家庭が,たくさんあります
【★7】



 お金に余裕がない家庭のために,「就学援助(しゅうがくえんじょ)」という制度があります
【★8】

 市区町村が,給食費,副教材費,制服代,修学旅行代,卒業アルバム代などを出してくれます。

 もっとも,援助の内容は市区町村によって少しちがっています。




 「就学援助があるなら,それでいいじゃないか」と言う人もいるかもしれません。

 でも,私はそれはおかしいと思います。

 就学援助は,使う人と使わない人がいたり,内容が市区町村によってちがったりします。

 他方で,憲法は「義務教育はタダです」と言い切っています。

 お金のある・なしや,住んでいる場所によって,書き分けていません。



 義務教育は,「子どもたちのために,学ぶための時間と場所を,きちんとつくらないといけない」という,大人たちの義務です。


 家で親が子どもを育てるのに必要なお金は,当然,親が出しますね。

 それと同じように,

 
私たちの社会が用意した小学校・中学校という義務教育の場で,その学校生活に必要なものならば,

 私たちの社会が,そのお金を出さなければいけません
【★9】

 そうすることで,どの家の子も,どの地域の子も,すべてが安心してしっかりと学ぶことができ,

 そうやって子どもたちが育つことが,私たちの社会にとってもプラスになります。




 世界も,「小学校や中学校のような基本的なことを学ぶ場は,タダで通えるようにしよう」と確認し,約束しています
【★10】~【★12】

 そして,日本でさっき書いたような「教科書代がタダかどうか」が裁判で争われていた50年近くむかし,

 すでに他の国々では,学校に必要なものは全部タダにしようという動きが始まっていました
【★13】


 実は今,日本の中でも,学校にかかるお金が完全にタダなところが,いくつかあります【★14】

 でもそれは子どもの数が少ない地域で,「住む人が減るのを止めたい」という理由から,タダにしているものです。


 どこの家に生まれ育つか,そこにお金の余裕があるかどうか,それを子どもが選べないのと同じように,

 どこに暮らすか,義務教育のお金が全部タダな地域かどうかも,子どもは選ぶことはできません。



 だれであっても,どこであっても,公立の小学校・中学校では,お金の心配なく,安心してしっかり学べること。

 そういう社会を作ることが,私たち大人に課せられている義務だと,私は強く思っています。

 

 

【★1】 憲法26条2項 「すべて国民は,法律の定(さだ)めるところにより,その保護する子女(しじょ)に普通教育を受けさせる義務を負ふ(おう)。義務教育は,これを無償(むしょう)とする」
【★2】 教育基本法5条4項 「国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については,授業料を徴収(ちょうしゅう)しない」
【★3】 最高裁判所大法廷昭和39年2月26日判決(民集18巻2号343頁) 「憲法26条は,すべての国民に対して教育を受ける機会均等の権利を保障すると共(とも)に子女の保護者に対し子女をして最少限度の普通教育を受けさせる義務教育の制度と義務教育の無償制度を定めている。しかし,普通教育の義務制ということが,必然的にそのための子女就学に要する一切の費用を無償としなければならないものと速断することは許されない。けだし,憲法がかように保護者に子女を就学せしむべき義務を課しているのは,単に普通教育が民主国家の存立,繁栄のため必要であるという国家的要請だけによるものではなくして,それがまた子女の人格の完成に必要欠くべからざるものであるということから,親の本来有している子女を教育すべき責務を完(まっと)うせしめんとする趣旨に出たものでもあるから,義務教育に要する一切の費用は,当然に国がこれを負担しなければならないものとはいえないからである。
 憲法26条2項後段の『義務教育は,これを無償とする。』という意義は,国が義務教育を提供するにつき有償としないこと,換言(かんげん)すれば,子女の保護者に対しその子女に普通教育を受けさせるにつき,その対価を徴収(ちょうしゅう)しないことを定めたものであり,教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから,同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である。そして,かく解することは,従来一般に国または公共団体の設置にかかる学校における義務教育には月謝を無料として来た沿革(えんかく)にも合致するものである。また,教育基本法4条2項および学校教育法6条但書において,義務教育については授業料はこれを徴収しない旨規定している所以(ゆえん)も,右の憲法の趣旨を確認したものであると解(かい)することができる。それ故(ゆえ),憲法の義務教育は無償とするとの規定は,授業料のほかに,教科書,学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものと解することはできない。
 もとより,憲法はすべての国民に対しその保護する子女をして普通教育を受けさせることを義務として強制しているのであるから,国が保護者の教科書等の費用の負担についても,これをできるだけ軽減するよう配慮,努力することは望ましいところであるが,それは,国の財政等の事情を考慮て立法政策の問題として解決すべき事柄(ことがら)であつて,憲法の前記法条の規定するところではないというべきである。」
【★4】 義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律(昭和37年3月31日公布,同年4月1日施行),義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和38年12月21日公布,同日施行)
【★5】 文部科学省ウェブサイト http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyou/990301m.htm
【★6】 文部科学省「平成26年度子供の学習費調査」http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/12/24/1364721_3.pdf
【★7】 本文でその後に述べている就学援助は,生活保護を受けている「要保護者(児童)」と,市区町村の教育委員会が要保護者に準ずる程度に困窮していると認める「準要保護者(児童)」が対象ですが,平成25年度の調査では要保護と準要保護児童生徒は151万4515人で,6人に1人は就学援助を受けている計算になります。
 文部科学省平成27年10月6日「『平成25年度就学援助実施状況等調査』等の結果について」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/10/1362524.htm
【★8】 学校教育法19条 「経済的理由によって,就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては,市町村は,必要な援助を与えなければならない」
【★9】 「一律に強制的に徴収(ちょうしゅう)されている費目(ひもく)(教材費・給食費・制服代等)については,それが義務教育にとって必要なものならば無償の対象とすべきであり,必要がなければ強制すること自体が問題とされなければならないであろう」(日本教育法学会「教育法の現代的争点」62頁)。
【★10】 世界人権宣言26条1項 「すべて人は,教育を受ける権利を有する。教育は,少なくとも初等の及び基礎的の段階においては,無償でなければならない。初等教育は,義務的でなければならない。(略)」
【★11】 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)第13条1項 「この規約の締約国(ていやくこく)は,教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は,教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並(なら)びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更(さら)に,締約国は,教育が,すべての者に対し,自由な社会に効果的に参加すること,諸国民の間及び人種的,種族的又は宗教的集団の間の理解,寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する」
 同条2項 「この規約の締約国は,1の権利の完全な実現を達成するため,次のことを認める。(a) 初等教育は,義務的なものとし,すべての者に対して無償のものとすること。(略)」
 14条 「この規約の締約国となる時にその本土地域又はその管轄(かんかつ)の下にある他の地域において無償の初等義務教育を確保するに至(いた)っていない各締約国は,すべての者に対する無償の義務教育の原則をその計画中に定める合理的な期間内に漸進的(ぜんしんてき)に実施するための詳細な行動計画を2年以内に作成しかつ採用することを約束する」
【★12】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)28条1項 「締約国は,教育についての児童の権利を認めるものとし,この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため,特に,(a)初等教育を義務的なものとし,すべての者に対して無償のものとする。(略)」
【★13】 「目を世界に向けるならば各国とも無償の範囲を拡大する傾向にある。それは教育費の私費負担の増大と教育内容の豊富化,教育活動領域の拡大に加え,権利としての教育理念の確立および,教育の機会均等の保障に伴う国家の義務という思想が,教育に浸透してきたためである。だから義務教育の無償は授業料という範囲に留まらず,教科書,学用品,給食,通学費,被服といった就学に要するすべての費用を生徒・保護者に負担させない方向に進んでいるのである。しかも非義務教育の無償化の拡大さえある現実の世界の動向を注目しなければならない」(小笠原正「憲法理念と教育法-判例評釈を中心として-113頁,昭和55年。注釈としてユネスコの「World Survey of Education II,1958」を摘示。http://unesdoc.unesco.org/images/0013/001364/136495eo.pdf
【★14】 朝日新聞2016年9月9日記事「義務教育 給食も教材費も… 『完全無償化』じわり拡大 子育て世帯の流出防ぐ」

2015年11月 1日 (日)

部活動の連帯責任

 

 野球部の合宿で,自分の知らない間に,他の部員4人が,たばこを万引きして,吸っていたそうです。そのことがバレて,「今年の大会の出場を辞退する」と学校が決めてしまいました。いままで大会に向けてきつい練習をがんばってきたのに,なんで事件と関係ない自分たちが,試合に出られなくなるのをガマンしないといけないんですか。

 

 

 「ガマンしなければいけない」などということはありません。

 大会に出られるよう,部活の顧問の先生や校長先生に,みんなでいっしょに話してください。




 人は,他の人に迷惑をかけないかぎり,好きなことをしていいという自由があります。

 だからこそ,自分がしたことで他の人に迷惑をかけてしまったのなら,

 その責任は,自分自身できちんと取らなければいけません。



 でも,他の人がしたことにまで,自分が責任を取らされるのは,

 よほどのことがないかぎり,あってはならないことです。




 悪いことをしたら,処罰されますね。



 他の人がやった犯罪なのに,あなたまで処罰されることがあるとしたら,

 それは,

 じつはあなたがその人とグルになっていて,犯罪のときに,あなた自身は手を汚さないやり方だっただけ,とか
【★1】

 あなたがその人をそそのかしていたなど
【★2】

 あなたがその犯罪に関(かか)わっていたときだけです。



 そういう関わりがまったくないのに,

 たとえば,単に「その人と家族だから」とか,

 「その人と同じ職場だから」とか,

 「その人と同じ学校・クラス・部活だから」とか,

 そんな理由だけで,あなたまで巻き添えになって処罰されるのは,

 ありえませんし,あってはならないことです。




 わざと,または,うっかり,やってはいけないことをして,誰かに迷惑をかけてしまったら,「損害賠償(そんがいばいしょう)」というお金を払わないといけません
【★3】


 他の人がやったことなのに,あなたまで損害賠償を払わされることがあるとしたら,

 あなたもグルだったとか,あなたがその人をそそのかしていたなどのほかに
【★4】

 あなたがその人の雇(やと)い主(ぬし)だとか
【★5】

 その人がまだ幼い子どもで,あなたがその子を育てている親だとか
【★6】

 その人の肩代わりをしてお金を払う約束をあらかじめしていたとか
【★7】

 そういう関わりがあるときだけです。



 そういう関わりがまったくないのに,

 「家族だから,同じ職場だから,同じ学校・クラス・部活だから」,

 そんな理由だけで,あなたまで巻き添えになってお金を払わされるのは,

 やはり,ありえませんし,あってはならないことです。





 法律は,一人ひとりをそれぞれ大切な存在として扱っています。

 だから,よほどのことがないかぎり,他の人のしたことで自分が責任を負うことは,ないのです。



 このことは,学校の部活動だって,同じです。

 あなたの知らない間に,他の部員たちが万引きをしてたばこを吸っていたのは,

 あなたに何の関わりも,何の責任もないことです。

 それなのに,大会のために一生懸命がんばってきたあなたが,ほかの部員のせいで大会に出られなくなることは,ありえませんし,あってはならないことです。




 ひょっとしたら,顧問の先生や,校長先生は,

 「処罰や損害賠償は,法律の話。学校での教育は,話がちがう」,

 そう言うかもしれません。



 でも,それは,明らかにまちがいです。

 学校での教育も,法律にのっとって行われています
【★8】

 そして,教育基本法という,教育の一番ベースになる法律には,

 「一人ひとりをだいじにする」というメッセージが,はっきりと書かれています
【★9】

 処罰や損害賠償という,大人の社会での責任の取り方ですら,

 「自分で自分の責任を取る,他の人のせいで責任を負わされない」のです。

 ましてや,大人になるために学んでいる学校の中なら,

 自由と責任の意味を,子どもたちがきちんと学べるよう,

 よりいっそうていねいに守られなければならないのです




 部活動は,「連帯感」を育てるためのだいじな場所だ,と言われます
【★10】

 たしかに,みんなでいっしょに力を合わせ,支え合うことで,連帯感を育てることは,だいじでしょう。

 しかし,誰かが悪いことをしてしまったときに,関係のない部員までいっしょに罰を受けても,連帯感が育つはずがありません。

 「とばっちりを受けた」という不満がくすぶったり,

 罰を避けるためにおたがいを監視し合わなければいけない窮屈(きゅうくつ)な人間関係になったりするだけです。

 それは,教育ではありません
【★11】


 万引きをした部員は,

 被害を受けたお店にきちんと謝らなければいけないし,

 万引きについて,学校の先生や,警察などから,注意・指導も受けなければいけないでしょう。

 たばこを吸うことは犯罪ではないですが,

 「たばことお酒はなんでダメなの?」の記事にも書いたように,

 自分で自分のことを大切にしているか,それをよく話し合って,その子に見つめ直させることも必要です。

 でも,合宿中のできごとだからといって,野球部まるごと大会を辞退することは,

 問題を起こした部員たちの責任の取らせ方として,いきすぎです。

 ましてや,あなたのように関係のない他の部員にまで大きなマイナスになるものなのですから,

 学校の対応は,おかしなことです。



 他の部員ともいっしょに,顧問の先生や校長先生と,大会に出られるように,よく話をしてみてください。

 もし,話がうまく進まないようなら,弁護士に相談してください。

 (相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。)



 大人たちは,何か問題が起きると,

 「一人ひとりが大切な存在だ」ということを忘れて,

 問題を起こした人だけでなく,そのまわりの人まで,

 「同じグループだから」とひとくくりにして,厳しく処分したり,取り締まったりしてしまいがちです。

 時には,「同じグループだから」と,根拠のない偏見をもとに,してはならない差別をすることまであります。

 これは,ほんとうにおかしなことです。


 責任とはなにか,そして,一人ひとりを大切にするということがどういうことか。

 今回のことをきっかけにして,

 あなたがそれをしっかりと身につけた大人になるよう願っています。

 

 

【★1】 刑法60条 「2人以上共同して犯罪を実行したものは,すべて正犯(せいはん)とする」
 もし,実際に何人かで犯罪をいっしょにやっていたのなら,共犯として処罰されることは当たり前ですね。そういうのとはちがって,記事本文で書いたような,実際に犯罪を分担していない人が,それでも「グルになっていた」ということで共犯として処罰する,という考え方を,「共謀共同正犯(きょうぼうきょうどうせいはん)」と言います。共犯の範囲が拡がってしまうのは危険ではないかという批判もありますが,裁判所は,一定の条件をつけたうえで,この共謀共同正犯を認めています(最高裁大法廷昭和33年5月28日判決・刑集12巻8号1718頁など)。
【★2】 刑法61条1項 「人を教唆(きょうさ)して犯罪を実行させた者には,正犯の刑を科する」
 同法62条1項 「正犯を幇助(ほうじょ)した者は,従犯(じゅうはん)とする」
 「教唆」はそそのかしたこと,「幇助」は犯罪をさせやすくしたことです。
【★3】 民法709条 「故意(こい)又(また)は過失(かしつ)によって他人の権利又は法律上保護される権利を侵害(しんがい)した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
【★4】 民法719条1項 「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う(以下略)」
 同条2項 「行為者を教唆した者及び幇助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する」
【★5】 民法715条1項 「ある事業のために他人を使用する者は,被用者(ひようしゃ)がその事業の執行(しっこう)について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。(略)」
【★6】 民法712条 「未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識(べんしき)するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない」
 同法714条1項 「前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,監督義務者がその義務を怠(おこた)らなかったとき,又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,この限(かぎ)りでない」
 民法712条で子ども本人が責任を負うか負わないかのさかいめは,12歳前後が基準です(内田貴「民法Ⅱ」367頁)。子ども本人が責任を負わない場合,民法714条1項によってほとんど無条件に親が責任を負っていました。もっとも,最近,最高裁は,11歳の子どもが校庭でサッカーゴールに向けてボールを蹴ったところ,ボールが校庭を飛び越えてしまい,それをよけようとした高齢者が倒れてその後亡くなったケースについて,親に責任はないと判断しています(最高裁第一小法廷平成27年4月9日判決。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/032/085032_hanrei.pdf
【★7】 民法446条1項 「保証人は,主(しゅ)たる債務者がその債務を履行(りこう)しないときに,その履行をする責任を負う」
 同法447条1項 「保証債務は,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従(じゅう)たるすべてのものを包含(ほうがん)する」
【★8】 学校の先生の立場から部活動を見ると,部活動の指導が,毎日遅い時間まで,土日祝日も長い時間,部活動に時間を割かれ,それなのに超過勤務手当(いわゆる残業手当)もつかず,過労死の原因にもなっているという法律上の問題があります。学校の先生は,昭和23年に超過勤務手当が支給されないこととなりました(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項「教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない」)。ただ,学校の先生には,(1)生徒の実習に関する業務(2)学校行事に関する業務(3)教職員会議に関する業務(4)非常災害等のやむを得ない場合の業務があるため,このことを考慮して,昭和47年から,4%の教職調整額が支給されることになりました(同条1項)。しかし,この4項目の中に「部活動」は入っていませんから,結局,部活動には超過勤務手当に相当するものが出るわけではないのです(文部科学省「教職調整額の経緯等について」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/07012219/007.htm)。それなのに,あたかも当然のように,校長から部活動の顧問をするように(=時間外労働をするように)命令されている,問題のある実態になっています(名古屋地裁平成23年6月29日判決,名古屋高裁平成24年10月26日判決)。
 学校教育の中で大切だとされている部活動なのですから,法律できちんと枠組みを作って,先生と子どもたちを守らなくてはいけません。
【★9】 教育基本法2条 「教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,次に掲(かか)げる目標を達成するよう行われるものとする。 … 二 個人の価値を尊重して,…自主及(およ)び自律(じりつ)の精神を養(やしな)う…」
【★10】 学習指導要領「第1章 総則」「第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」(13) 「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養(かんよう)等に資(し)するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること(略)」
【★11】 すでに,今から28年前(昭和62年)に,日本教育法学会理事(当時)の坂本秀夫氏が,連帯罰について次のように指摘しています(「生活指導の法的問題」25頁)。
 「団体の誰かの違反行為があった場合,連帯責任を負わせて成員全体に罰を課することは昔から圧制者の人民支配の手段として用いられてきたし,軍隊でも日常的に行われてきた。今日学校では体育クラブなどで行われることが少なくない。例えば,クラブ部員のミスで試合に負けた時の罰としての,クラブ全員に対するハードトレーニングや静座,体罰などの,或(ある)いは野球部員の誰かが万引きや暴力事件を起こしたのでクラブとして甲子園出場を辞退させる,などという罰がある。罪を犯した生徒にとってみれば,自分のことで自分の仲間達が制裁を受けることは,仲間に対する友情が厚ければ厚いほど堪(た)え難(がた)いことであろう。何かあれば仲間に迷惑がかかるということは行動をつねに制約するに違いない。いわば友情を質(しち)にとるもので,一種の人質の論理と同じである。個人の尊厳とは全く相(あい)容(い)れないものが連帯罰の中に含まれていることに注意しよう。…懲戒は純粋に個人の責任に対してのみなされるべきである。…同じクラブの部員がどこかで万引をしたり,けんかをしたことにどうして責任を持たねばならないのか,到底(とうてい)理解できないだろう。…もちろん教育上のマイナス面も見過ごせない。個人の自覚が多少ともあるかぎり,連帯罰を受けてやり場のないふんまんを感じるのが普通である。当然仲間不信におちいるし,いつ自分に災(わざわ)いをふりかけるかわからない仲間の行動を監視するようになる。相互検索的な体勢が知らず知らずのうちに整えられるわけで,本当の民主的連帯は破壊されていく。だからこそ圧制者は連帯罰を好んで使ったのである。連帯罰が何の反省もなく日常的に使われているような集団の存在が問題となるであろう」

2015年10月 1日 (木)

夜間中学ってどんな中学校?

 

 「夜間中学」っていう学校があると聞いたんですけど,どんな中学校ですか?

 

 

 「夜間中学」は,15歳のときまでに義務教育を受けることができなかった人たちのための学校です。

 その名前のとおり,夕方から夜の時間帯に,授業がある中学校です
【★1】

 昼間に働いている人もいるので,遅い時間に授業がおこなわれます。




 日本は,70年前の1945年(昭和20年)に,大きな戦争に負けました。

 その戦争のあいだや,戦争が終わるころ,日本の社会は,とても混乱していました。

 その混乱の中で,家が貧しくて仕事をしなければならず,小中学校に通えなかった人が,たくさんいました。

 夜間中学は,もともと,そういう人たちが学ぶために作られた学校でした
【★2】



 戦争の混乱で学校に通えなかった人たちの中には,在日コリアン(在日韓国・朝鮮人)の人も,多くいました。

 「在日コリアンの身分証と通称」の記事にも書いたように,

 韓国併合で一方的に国籍を日本にされ,その日本にやってきたのに,

 日本の敗戦・朝鮮の独立で一方的に日本の国籍を奪(うば)われた在日コリアンの人たちは,

 「外国人だから」という理由で,日本の中で,いろんな差別を受けてきました。

 そういう厳しい生活・人生を生きてきた在日コリアンの人たちにとって,夜間中学は,今も,大切な学びの場になっています。




 夜間中学は,戦後の混乱が落ち着いたあとも,

 その時代ごとに,いろんな人々の学びの場になってきました
【★3】



 今から約40年あまり前の1972年(昭和47年),日本は,中国と仲直りをしました【★4】

 70年前に日本が戦争に負けるころ,中国から日本人が逃げ帰りましたが【★5】

 そのとき,たくさんの日本人の子どもたちが,親が死んだり,親とはぐれたりして,中国に置き去りにされてしまっていました。

 そういう人たちを,「中国残留孤児(ざんりゅうこじ)」と言います。

 日本と中国が仲直りをした後,多くの中国残留孤児の人たちが,日本に帰ってきました。

 「孤児」とは言っても,日本に帰るころには中高年になっていて,家族もできていました。

 夜間中学は,そういう人たちの学びの場になりました。




 今でこそ,障害(しょうがい)をもっている子どもも,学校で学ぶことが,当たり前になっています。

 しかし,むかしは,そうではありませんでした。

 1979年(昭和54年)まで,毎年2万人近くの障害のある子どもたちが,学校で学べなかったのです
【★6】

 夜間中学は,障害のために学校に通えなかった人たちの,学びの場でもありました。




 人種や宗教,政治的な意見などを理由に,捕まって処罰(しょばつ)されたり,命の危険にさらされたりするために,

 自分の国から,他の国に,助けを求めて逃げる人たちがいます。

 そのような人たちのことを,「難民(なんみん)」と言います。

 日本を含む多くの国々が,「難民を守ろう」と約束しています
【★7】【★8】

 そうやって命からがらこの日本にやって来た難民の人たちにとっても,夜間中学は,学びの場になっています
【★9】

 また,夜間中学は,難民のほかにも,いろんな事情で外国から日本に新しくやってきた人々が,たくさん通っています。




 「無戸籍(むこせき)」のために学校に通えなかった人も,今,夜間中学で学んでいます
【★10】

 子どもが生まれたときに,お母さんが役所に届出をできなかったため,

 戸籍が作られないままで,まるでこの社会に存在していないかのようにされ,小中学校に通えなかった人々です。

 お母さんが届出をできなかったのは,法律のしくみと裁判の手続が不十分だったからです。

 暴力をふるう夫から必死で逃げてきた女性が,離婚できないままだと,

 他の男性とのあいだに子どもをもうけても,その子は法律上,「夫の子」とされてしまいます
【★11】

 だから,暴力をふるう夫と,ふたたび関(かか)わらないといけなくなるのをおそれて,

 子どもが生まれた届出を,出せなかったのです。

 そうやって戸籍がないまま20年,30年も生きてきた人たちが,たくさんいるということ。

 そして,その中には,学校に通えなかった人がいるということ。

 それらが最近,社会に知られるようになりました
【★12】

 そういう人たちにとっても,夜間中学は,大切な場所です。




 自分の名前が書けない。

 電車の案内図の文字が読めない。

 計算ができなくて,いろんなところでお金をだまし取られる。

 基本的なことを学べないまま,この社会の中で暮らすことは,

 本当に大変で,本当につらいことです。

 人間らしく生きていくために,いちばん基本となる教育。

 その教育を受けられなかった,いろんな人々にとって,

 夜間中学は,とてもだいじな役割を果たしています。




 この夜間中学は,義務教育を受け終わっている人は,通うことができません。

 そのルールのために,問題が起きていました。

 いろんな事情で小中学校に通うことのできなかった「不登校」の子どもたちが,その後,夜間中学で学ぶことができない,という問題です
【★13】

 不登校の子には,「卒業していないことで,その子にマイナスにならないように」という配慮(はいりょ)から,実際に学校に通っていなくても,卒業証書が渡されていました。

 でも,卒業証書を受け取ってしまうと,「義務教育を終えている」ということになってしまいます。

 たまたま卒業証書をもらっていなかった不登校の人は,夜間中学に入れましたが
【★14】

 卒業証書をもらってしまった人は,入れなかったのです。

 ようやく,今年の7月,「卒業証書をもらってしまっていても,不登校だった人は,夜間中学に通える」ということになりました
【★15】

 ぜひ,小中学校に通えなかった不登校の子どもたちには,

 夜間中学を,これから学ぶ場所の選択肢の一つに入れてほしいと思っています。




 ただ,この記事を書いている今,公立の夜間中学は,全国にたった8都府県・31校しかありません
【★16】

 義務教育を受けられなかった人,夜間中学を必要としている人は,何十万人もいると言われています
【★17】

 公立の夜間中学がない地域では,ボランティアの人たちががんばって学びの場を作っていますが
【★18】

 ほんらい,生活・人生にとっていちばん基本となる教育についての,このようなだいじな取り組みは,きちんと公立の学校でやっていくべきものです
【★19】

 だから,全国に公立の夜間中学を作っていかなければいけません
【★20】【★21】



 この夜間中学は,国籍も,年代も,ほんとうにさまざまな人たちが集まっています。

 そして,それぞれが,学ぶことの喜びを実感しながら,卒業していきます。

 今,小中学生の
みなさんは,はたして,夜間中学で学んでいる人たちのように,学校で学ぶことの喜びを実感できているでしょうか。



 「教育を受けるのは『義務』ではなく『権利』だということを,初めて知りました」。

 私のブログの「義務教育の『義務』って?」の記事には,そういう感想がとても多く寄せられます。

 みんなが学べるように,私たちの社会が,しくみをきちんと作らなければいけない。

 それが,「義務教育」にいう「義務」です。

 その義務を,15歳を過ぎた人々に対しても,社会がきちんと果たすための場所。

 15歳を過ぎた人々の学ぶ権利が,きちんと守られる場所。

 夜間中学は,そういう中学校です。

 

 

 

【★1】 例えば,世田谷区立三宿中学校の場合,1校時が午後5時40分から午後6時20分まで,その後給食を挟んで2校時があり,4校時が終わるのは午後9時です。
【★2】 「生活困窮(こんきゅう)などの理由から,昼間に就労(しゅうろう)または家事手伝い等を余儀(よぎ)なくされた学齢生徒等を対象として,夜間において義務教育の機会を提供するため,中学校に設けられた特別の学級」(1985年(昭和60年)11月22日中曽根康弘内閣総理大臣答弁書)
 学校教育法施行令25条 「市町村の教育委員会は,当該(とうがい)市町村の設置する小学校又(また)は中学校…について次に掲(かか)げる事由(じゆう)があるときは,その旨(むね)を都道府県の教育委員会に届け出なければならない。…五 二部授業を行おうとするとき」
 夜間中学は,この「二部授業」にあたります。
【★3】 1993年(平成5年)に公開された映画「学校」(山田洋次監督)は,夜間中学がさまざまな生徒の学びの場であることが,とてもリアルにえがかれています。
【★4】 1972年9月29日「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html
【★5】 1932年(昭和7年),日本が中国の中に「満州(まんしゅう)国」という日本の言いなりになる国を作り,そこに,多くの日本人が移り住んでいました。
【★6】 むかしの「養護学校」(今の「特別支援学校」)は,1979年(昭和54年)まで,都道府県に設置義務がありませんでした。このときまで,教育委員会が誘導して,「親から願い出た」という形にしての就学猶予(しゅうがくゆうよ)・免除の措置(そち)が多く取られていました(兼子仁「教育法新版」259頁)。
【★7】 出入国管理及び難民認定法2条1項 「…次の各号に掲(かか)げる用語の意義は,それぞれ当該(とうがい)各号に定めるところによる。 … 三の二 難民 難民の地位に関する条約…第1条の規定又は難民の地位に関する議定書第1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう」
 難民の地位に関する条約1条A(2) 「…人種,宗教,国籍若(も)しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有(ゆう)するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所(じょうきょしょ)を有していた国の外にいる無国籍者であって,当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」
【★8】 日本は,他の国とくらべて難民をなかなか保護しようとせず,批判されています。2014年(平成26年)には,5000人が日本で難民申請をしましたが,わずか11人しか難民として認められず,人道的な配慮による在留も110人しか認められていません(平成27年3月11日法務省入国管理局「平成26年における難民認定者数等について」http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00103.html
【★9】 例えば,裁判で難民として認定されたアフガニスタン難民のアリ・ジャンさんが夜間中学で学んだ様子は,「母さん,ぼくは生きてます」(マガジンハウス)という本に書かれています(難民認定の裁判は東京地裁平成17年11月11日判決,東京高裁平成18年9月13日判決)。
 また,北朝鮮から逃げてきた脱北者(だっぽくしゃ)リ・ハナさんも,夜間中学で学び,その後大学に入学したことを,「日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩」(アジアプレス出版部)という本に書いています。
【★10】 朝日新聞2014年9月5日「学び奪われ20歳 無戸籍社会復帰へひらがな・足し算から」
【★11】 嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)と言います。
 民法772条1項 「妻が婚姻(こんいん)中に懐胎(かいたい)した子は,夫の子と推定する」
 同条2項 「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若(も)しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する」
【★12】 秋山千佳「戸籍のない日本人」(双葉新書),弁護士ドットコム2014年7月24日「人として生きる術を奪われた「無戸籍児」を救うには(上)〜支援団体の井戸代表に聞く」「(下)~山下敏雅弁護士に聞く」
【★10】 平成26年度の不登校の児童生徒は,小学校2万6千人,中学校9万7千人です(平成27年8月6日文部科学省「平成27年度学校基本調査(速報値)の公表について」
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2015/08/18/1360722_01_1_1.pdf
【★13】 東京都の場合,夜間中学の入学資格は「東京都公立中学校夜間学級要覧」に書かれていますが,1981年(昭和56年)の要覧は「学齢超過者(がくれいちょうかしゃ)で中学校の教育課程の未修了者(みしゅうりょうしゃ)と対象とすることを原則とする」としていたのが,1988年(昭和63年)の要覧では「学齢を超過しており,義務教育が未修了者である者」と変わり,「原則とする」という言葉がなくなったために,形式的卒業の人の入学が難しくなりました。
【★14】 朝日新聞2008年12月6日(夕刊)「20歳の夜間中学転機 8年間ひきこもった土屋さん 大学に入学『将来は先生に』」
 墨田区立文花中学校のドキュメンタリー映画「こんばんは」(森康行監督)にも,不登校だった男子生徒が夜間中学で先生や他の生徒との交流の中で成長していく様子がえがかれています。
【★15】 2015年(平成27年)7月30日文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課長「義務教育修了者が中学校夜間学級への再入学を希望した場合の対応に関する考え方について(通知)」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shugaku/detail/1361951.htm
【★16】 2015年(平成27年)9月現在(東京)足立区立第四中学校,葛飾区立双葉中学校,墨田区立文花中学校,大田区立糀谷中学校,世田谷区立三宿中学校,荒川区立第九中学校,江戸川区立小松川第二中学校,八王子市立第五中学校(神奈川県)横浜市立蒔田中学校,川崎市立西中原中学校(千葉県)市川市立大洲中学校(京都府)京都市立洛友中学校(大阪府)大阪市立天王寺中学校,大阪市立天満中学校,大阪市立文の里中学校,大阪市立東生野中学校,岸和田市立岸城中学校,堺市立殿馬場中学校,八尾市立八尾中学校,東大阪市立長栄中学校,東大阪市立太平寺中学校,守口市立第三中学校,豊中市立第四中学校(奈良県)奈良市立春日中学校,天理市立北中学校,橿原市立畝傍中学校(兵庫県)神戸市立丸山中学校西野分校,神戸市立兵庫中学校北分校,尼崎市立成良中学校琴城分校(広島県)広島市立観音中学校,広島市立二葉中学校
【★17】 「義務教育未修了者の数は,全国夜間中学校研究会等によれば,…総合計160万5569人である。他方,内閣総理大臣答弁書によれば…約70万人程度であるとされている」(日弁連「学齢期に就学することができなかった人々の教育を受ける権利の保障に関する意見書」)
【★18】 ボランティアによる「自主夜間中学」や「識字教室」は,2014年(平成26年)5月時点の調査で,154市区町307件もあり,公立夜間中学に通っている生徒の約4倍の7422人も通っています。
 平成27年5月文部科学省「中学校夜間学級等に関する実態調査について」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/yakan/__icsFiles/afieldfile/2015/05/18/1357927_01_2.pdf
【★19】 憲法26条1項 「すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する」
 教育基本法3条 「国民一人一人が,自己の人格を磨(みが)き,豊かな人生を送ることができるよう,その生涯(しょうがい)にわたって,あらゆる機会に,あらゆる場所において学習することができ,その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」
 同法4条1項 「すべて国民は,ひとしく,その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず…」
 世界人権宣言26条1項 「すべて人は,教育を受ける権利を有する。教育は,少なくとも初等及び基礎的の段階においては,無償(むしょう)でなければならない。初等教育は,義務でなければならない…」
 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)13条2項(d) 「基礎教育は,初等教育を受けなかった者又はその全課程を修了しなかった者のため,できる限り奨励(しょうれい)され又は強化されること」
 同項(e) 「すべての段階にわたる学校制度の発展を積極的に追求し,適当な奨学金制度を設立し及び教育職員の物質的な条件を不断に改善すること」
 1985年3月29日ユネスコ第4回国際成人教育会議「学習権宣言」 「学習権を承認(しょうにん)するか否かは,人類にとってこれまでにもまして重要な課題となっている。学習権とは,読み書きの権利であり,問い続け,深く考える権利であり,想像し,創造する権利であり,自分自身の世界を読み取り,歴史をつづる権利であり,あらゆる教育の手だてを得る権利であり,個人的・集団的力量(りきりょう)を発達させる権利である。…学習権は,人間の生存にとって不可欠(ふかけつ)な手段である。…学習権なくして人間的発達はあり得ない。…学習権は単なる経済発展の手段ではない。それは基本的権利の一つとしてとらえられなければならない。学習活動はあらゆる教育活動の中心に位置づけられ,人びとを,なりゆき任せの客体から,自らの歴史を作る主体に変えていくものである。…それは基本的人権の一つであり,その正当性は普遍的(ふへんてき)である。…本パリ会議は,すべての国に対し,この権利を具体化し,すべての人々が効果的にそれを行使するのに必要な条件を作るよう要望する」
 2002年1月18日国連総会採択「国連識字の10年:すべての人々に教育を」 「識字は,すべての子ども,若者及び成人が,生きていく中で直面する困難に立ち向かうことを可能とする大切な生活スキルを習得する上で決定的に重要であり,21世紀の社会及び経済に効果的に参加するために不可欠な手段である基礎教育の基本的ステップに相当する。…すべての政府に,識字への取組みの施策の策定,実施及び評価に関する持続的対話に,関連する国内の実行主体すべてを集め,国内レベルでの10年の活動の調整を先頭に立って行うよう要請する」
【★20】 2006年(平成18年)8月10日,日弁連は「学齢期に就学することができなかった人々の教育を受ける権利の保障に関する意見書」を出しました(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/060810.pdf)。
「 国は,戦争,貧困等のために学齢期に修学することのできなかった中高年齢者,在日韓国・朝鮮人及び中国帰国者などの多くの人々について,義務的かつ無償とされる普通教育を受ける権利を実質的に保障するため,以下の点を実施すべきである。
1 義務教育を受ける機会が実質的に得られていない者について,全国的な実態調査を速やかに行うこと。
2 上記の実態調査の結果をふまえ,
(1) 公立中学校夜間学級(いわゆる夜間中学)の設置の必要性が認められる地域について、当該地域を管轄(かんかつ)する市(特別区を含む。)町村及び都道府県に対し,その設置について指導及び助言をするとともに,必要な財政的措置を行うこと。
(2) その他の個別のニーズと地域ごとの実情に応じ,①既存(きそん)の学校の受け入れ対象者の拡大,②いわゆる自主夜間中学等を運営する民間グループに対する様々な援助(施設の提供,財政的支援等),③個人教師の派遣を実施することなど,義務教育を受ける機会を実質的に保障する施策を推進すること。」
【★21】 2014年(平成26年)7月,文部科学省が,公立夜間中学を各都道府県に最低1校設置できるよう地方自治体への財政支援を拡充する方針を固めた,と報じられています(時事通信2014年7月28日「夜間中学増設で支援拡充=全都道府県に1校へ―文科省」)。
 

2014年4月 1日 (火)

義務教育の「義務」って?

 

 中学生です。授業も面白くないし,友だちもあんまりいないから,ほんとは学校に行きたくないんだけど,親が僕に,「義務教育なんだから,学校に行かなきゃいけない義務がある」って言ってます。学校に行くのって,「義務」なんですか?

 

 ちがいます。

 義務教育の「義務」は,「子どもが学校に行かないといけない義務」ではありません。

 
「子どもたちのために,学ぶための時間と場所を,きちんとつくらないといけない」という,大人の義務です。


 「小学校と中学校は義務教育なんだから,きちんと学校に通わないといけない」。

 ときどき聞く話ですね。

 でも,それはまちがいです。多くの人たちが,誤解しています。

 教育は,「受けることができる」ものです。

 教育を受ける「権利」がある,ということです。

 「教育を受けなければいけない」という「義務」ではありません。

 憲法や,世界のルールである条約に,教育は「権利」だと,はっきり書かれています【★1~4】


 むかし,子どもたちは,小さいころから働かなければなりませんでした。

 学ぶことができたのは,ごく一部の,豊かな家の子どもだけでした。

 今でも,世界の中には,そういう地域が残っているところもあります。



 でも,


 文字を読んだり書いたりできるようになりたい,とか,

 計算ができるようになりたい,とか,

 自然のしくみや,社会のしくみを知りたい,

 そういう気持ちは,だれもがもっている,自然な気持ちです。

 そして,そうやって学んだことは,人が人として生きていくうえで,とても大切な支えになります。


 だから,一部の子どもだけではなく,すべての子どもたちが学べるようにするために,

 私たち大人が,子どもが学ぶための時間と場所を,きちんと作らないといけない。

 それが,「義務教育」という言葉の意味です。


 国は,きちんと学校のしくみを作らないといけない。

 子どもを育てている親や,子どもを働かせている職場は,子どもをその学校にきちんと通わせないといけない。

 そういう「義務」が,大人のがわにあるのです【★5~7】


 だから,たとえば,

 子どものあなたは「学校に行きたい」と思っているのに,

 親があなたに,働かせたり,家事をさせたり,下のきょうだいの世話をさせたりして,学校に行かせない,ということは,許されません【★8】


 でも,ぎゃくに,

 子どものあなた自身が,学校にどうしても行きたくない,行けないということであれば,

 無理をして学校に行かなくても,かまいません。

 クラスでいじめがあるとか,

 先生が体罰をしてきたりひどいことを言ってくるとか,

 勉強についていけないのにほったらかしにされているとか,

 そんなふうに毎日の学校生活を安心して過ごせない,学校に居場所がないと感じているなら,

 あなた自身を守るために,学校に無理をして行かなくてよいのです。

 そして,「自分が安心して学ぶことができる場所を,きちんと作ってほしい」と,大人たちに求めることができます。


 ひょっとしたら,みなさんの中には,こんなふうに考える人もいるかもしれません。

 「いじめや体罰があるわけじゃないけど,勉強がめんどうくさくて疲れるから,学校に行きたくない。学校に行くのが義務じゃないんだったら,行かないで遊んでいたい」。


 そんなあなたが,今,学校の勉強以外で,一生懸命取り組んでいるものは,なんでしょう。

 サッカーやバスケットボールなどのスポーツでも,

 バンドやダンスでも,

 カードゲームや,オンラインゲームでも,

 そのほかどんなものでも,

 自分のレベルが上がると楽しいし,

 みんなといっしょに力を合わせることの充実感があれば,なおのこと楽しいですよね。

 だから,繰り返し練習することや,それに何時間も取り組むことや,上のレベルにチャレンジすることが,

 まったく苦痛に感じなかったり,


 多少めんどうで疲れても,続けようという気持ちに自然になったりします。


 勉強も,同じことだと思います。


 新しいことを知ったり,わかったりしたときの喜びや,

 みんなといっしょに何かに取り組むことのすばらしさを感じることができるなら,

 多少めんどうで疲れるとしても,スポーツや音楽・ダンスやゲームと同じように,勉強も,一生懸命取り組めるものになるでしょう。

 学校での勉強は,ほんらい,そういうものでなければいけません。



 私たち大人は,子どもたちに,「義務だから行きなさい」とおどしながら学校に通わせるのではなく,

 学校で学ぶことの,楽しさ,おもしろさ,大切さが,子どもたちに実感できて,

 自分から「学校に行きたい」と思えるような,そんな場所にすることが必要だと思います。


 あなたが今,「義務教育の『義務』はどんな意味だろう」と疑問をもち,インターネットで検索して,私のブログにたどりついたように,


 どんな人でも,「ものごとを知りたい,わかるようになりたい」という,人として大切な気持ちを持っています。

 子どもたちみんながもっているその気持ちにこたえられるように,

 そして,学校が,子どもたちにとって自分から「行きたい」と思えるような大切な居場所になるように,

 私たち大人が,取り組まなければいけない。

 そういう「義務」が,学校や親はもちろんのこと,この社会を支えているすべての大人たちに,あるのです。


 だから,もし,「学校に行きたくない」というあなたの気持ちを,親に受け止めてもらえていないなら,

 学校の中のあなたが信頼できる大人や,私たち弁護士に,話してみてください。

 

【★1】 憲法26条1項「すべて国民は,法律の定(さだ)めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する。」
【★2】 むかし,この憲法26条は,「だれもが学ぶことができるよう,『お金がないから学べない』ということがないように,国などに求めることができる権利」という意味だ,と考えられていました。しかし,今は,お金のことだけではなく,人間としてもっとだいじなこと,つまり「学ぶことで人間として成長していく権利」のことだ,と,とらえられています(学習権といいます)。裁判所も同じように考えています。
 旭川学テ事件最高裁判決(最高裁大法廷昭和51年5月21日判決・刑集30巻5号615頁)「憲法中教育そのものについて直接の定めをしている規定は憲法26条であるが,…この規定の背後には,国民各自が,一個の人間として,また,一市民として,成長,発達し,自己の人格を完成,実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること,特に,みずから学習することのできない子どもは,その学習要求を充足(じゅうそく)するための教育を自己に施(ほどこ)すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられる。」
【★3】 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)13条1項「この規約の締約国(ていやくこく)は,教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は,教育が人格の完成及び人格の尊厳(そんげん)についての意識の十分な発達を指向(しこう)し並(なら)びに人権及(およ)び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更(さら)に,締約国は,教育が,すべての者に対し,自由な社会に効果的に参加すること,諸国民の間及び人種的,種族的又は宗教的集団の間の理解,寛容(かんよう)及び友好を促進(そくしん)すること並びに平和の維持(いじ)のための国際連合の活動を助長(じょちょう)することを可能にすべきことに同意する。」
【★4】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)28条1項「締約国は,教育についての児童の権利を認める…(略)」
【★5】 憲法26条2項「すべて国民は,法律の定めるところにより,その保護する子女(しじょ)に普通教育を受けさせる義務を負(お)う。義務教育は,これを無償(むしょう)とする。」
【★6】 教育基本法5条1項「国民は,その保護する子に,別に法律で定めるところにより,普通教育を受けさせる義務を負う。」
同条2項「義務教育として行われる普通教育は,各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎(きそ)を培(つちか)い,また,国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質(ししつ)を養(やしな)うことを目的として行われるものとする。」
同条3項「国及び地方公共団体は,義務教育の機会を保障(ほしょう)し,その水準(すいじゅん)を確保するため,適切な役割分担及び相互(そうご)の協力の下(もと),その実施に責任を負う。」
【★7】 学校教育法16条「保護者…は,次条(じじょう)に定(さだ)めるところにより,子に9年の普通教育を受けさせる義務を負う。」
同17条1項「保護者は,子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満12歳に達した日の属する学年の終わりまで,これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学(しゅうがく)させる義務を負う。(略)」
同条2項「保護者は,子が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満15歳に達した日の属する学年の終わりまで,これを中学校,中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。」
【★8】 きちんとした理由もないのに,親が子どもを学校に行かせないときには,学校から催促(さいそく)があり,それでも学校に行かせないときには,親に刑事罰が科される規定になっています。また,「教育ネグレクト」という児童虐待(じどうぎゃくたい)にもあたりうるので,場合によっては子どもが児童相談所に保護されることにもなります。
学校教育法17条3項「前2項の義務の履行(りこう)の督促(とくそく)その他これらの義務の履行に関し必要な事項(じこう)は,政令(せいれい)で定める。」
同法144条1項「第17条第1項又は第2項の義務の履行の督促を受け,なお履行しない者は,10万円以下の罰金に処(しょ)する。」
同法20条「学齢児童又は学齢生徒を使用する者は,その使用によつて,当該学齢児童又は学齢生徒が,義務教育を受けることを妨(さま)げてはならない。」
同法145条「第20条の規定に違反した者は,10万円以下の罰金に処する。」
学校教育法施行令20条「小学校,中学校…の校長は,当該学校に在学する学齢(がくれい)児童又は学齢生徒が,休業日を除(のぞ)き引き続き7日間出席せず,その他その出席状況が良好でない場合において,その出席させないことについて保護者に正当な事由がないと認められるときは,速(すみ)やかに,その旨(むね)を…市町村の教育委員会に通知しなければならない。」
同21条「市町村の教育委員会は,前条の通知を受けたときその他当該市町村に住所を有する学齢児童又は学齢生徒の保護者が法第17条第1項又は第2項に規定する義務を怠(おこた)っていると認められるときは,その保護者に対して,当該学齢児童又は学齢生徒の出席を督促(とくそく)しなければならない。」

2013年9月 1日 (日)

先生が体罰をやめない

 

 私立の高校に通ってます。授業に遅刻したら,先生から蹴(け)りを入れられました。この前は,ピアスの穴を開けた友だちが,その先生から殴られてました。先生は,「これが俺のやり方だ,このやり方をやめるつもりはない,学校の上の人たち(校長とか)も知っている」,とか言ってます。こんなの,許されるんですか。

 

 先生が生徒を殴ったり蹴ったりすることは,法律に反する,許されないことです。


 
殴ったり蹴ったりすることは,犯罪です【★1】

 ふつうの社会の中では犯罪なのに,学校の中では先生が生徒にしても許される,というのでは,おかしなことです。

 学校教育法という法律には,「体罰をしてはいけない」と,はっきり書かれています
【★2】【★3】

 体罰が許されないのは,公立の学校でも,私立の学校でも,かわりありません。



 悪いことをしたら,「罰」を受ける。

 そういう社会のしくみじたいは,もちろん必要です。

 私も,弁護士として,犯罪をしたと疑われている人たちの弁護活動をしている中で,「罰」の持つ重みを実感しています。



 でも,刑事裁判を終えて受ける「罰」でさえ,

 その内容は,お金を払わされたり,自由を奪(うば)われたりする,というものです
【★4】

 殴られたり蹴られたりする「罰」など,ありません
【★5】

 しかも,

 罰の前に,裁判などの場で,本人の言い分をきちんと聞かなければならないし,

 どういう時にどういう罰になるか,というルールが,きちんと決まっていなければなりません
【★6】


 それに,子どもが犯罪をした場合は,大人とちがって,「罰」を与えるのではなく,その子を「保護」して「教育」しよう,というのが,法律の基本的な考え方です。



 それなのに,学校では,

 犯罪ほど悪いことをしていなくても,「罰」として,先生から殴られたり蹴られたりする。

 しかも,

 生徒の言い分をちゃんと聞かないままだったり,

 「罰」のルールも決まっていなくて,先生の気分しだいで,勝手に行われている
【★7】

 これは,まったくおかしなことです。



 教育には体罰が必要だ,という人もいます。

 でも,「暴力」で相手を押さえつけるのは,「教育」ではありません。

 暴力を使うのは,たんなる「支配」です。



 たとえ,暴力を使って相手が素直になったように見えても,それは,怖(こわ)いから,いっときだけ,表面的に,そうするだけのことです。

 表面ではしたがっていても,心の中では反発したまま。

 「ルールの意味を理解してきちんと守る」という人間には育ちません
【★8】


 また,体罰がおこなわれるときは,先生のがわも,冷静ではありません。

 そのため,体罰がエスカレートして子どもがケガで死んでしまったり,心を深く傷つけて子どもが自殺してしまったりする,そのような痛ましい事件が,これまでにいくつも起きています。



 悪いことをしてしまった子どもに必要なのは,

 体罰という暴力の痛みや恐怖ではありません。

 必要なのは,「なぜそれをしてはいけないことなのか」ということを,きちんと考えさせることです。



 ルールを守らない子どもを教育するのに,

 その大人のがわが,「体罰をしてはいけない」という国のルールを破っていては,

 まったく説得力がありません。



 体罰をやめるように,その先生や学校に,あなたたち生徒の意見を伝えていきましょう。

 でも,その伝えかたには,工夫が必要です。



 とくに,あなたが体罰を受けたきっかけについて,あなた自身がきちんと整理する必要があります。

 今回であれば,授業に遅刻したことについて,

 どうして遅刻がダメなことなのか,

 どうして今回遅刻してしまったのか,

 これからどうしたら遅刻しないようにできるか,

 それらを,あなた自身がどう頭の中で整理しているか,それをどうやって先生に伝えるかが,だいじです。

 「体罰がなくても,きちんと話し合えば,自分はわかっていけるんだ」,ということを,示していきましょう。

 体罰をする先生に向かって「先生が法律に違反している」と言っていくときには,

 自分自身のルールへの向き合い方も,自分で見つめ直すことが大切なのです。



 「あと1,2年だけガマンすればいいから,声をあげるのもめんどうくさい」,

 きっと,そう考える子どもたちも多いと思います。

 でも,体罰について,ぜひ,先生や学校と,真剣に話し合いをしてみてください。

 そのことを通して,「ルールとはいったいなんなのか」という大切なことを,自分の身をもって,学んでいくことができるはずです。

 弁護士は,そのお手伝いをします。

 一緒に作戦会議をしましょう。

 

【★1】 暴行罪(ぼうこうざい),傷害罪(しょうがいざい),過失傷害罪(かしつしょうがいざい)などにあたります。
 刑法208条 「暴行を加えた者が人を傷害するに至(いた)らなかったときは,2年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは30万円以下の罰金又(また)は拘留(こうりゅう)若しくは科料(かりょう)に処(しょ)する」
 刑法204条 「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」
 刑法209条1項 「過失により人を傷害した者は,30万円以下の罰金又は科料に処する」
 大阪高裁昭和30年5月16日判決(高裁刑集8巻4号545頁) 「基本的人権尊重を基調とし暴力を否定する日本国憲法の趣旨…に鑑(かんが)みるときは,殴打(おうだ)のような暴行行為は,たとえ教育上必要があるとする懲戒行為(ちょうかいこうい)としてでも,その理由によって犯罪の成立上違法性を阻却(そきゃく)せしめるというような法意(ほうい)であるとは,とうてい解されない」
 最高裁第1小法廷昭和33年4月3日判決(最高裁判所裁判集刑事124号31頁)  「原判決が殴打のような暴行行為はたとえ教育上必要な懲戒行為としてでも犯罪の成立上違法性を阻却せしめるとは解されないとしたこと,並びに,所論(しょろん)学校教育法11条違反行為が他面において刑罰法規に触れることあるものとしたことは,いずれも,正当として是認(ぜにん)することができる」
【★2】 学校教育法11条 「校長及(およ)び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない」
【★3】 このことは,「先生が生徒にどんな時であっても力をまったく使ってはいけない」,という意味ではありません。生徒が先生に暴力をふるおうとしてくるときには先生も自分の身を守るために力を使うことは認められますし,生徒が他の人に暴力をふるおうとしているときにはその人を助けるために力を使うことも認められます(正当防衛)。また,生徒が悪いことをしていないときでも,先生が自分を守るため,または,先生が他の人を守るために,どうしても必要なときには,その生徒に対して力を使うことが認められる場合もあります(緊急避難)。
 刑法36条1項 「急迫不正(きゅうはくふせい)の侵害(しんがい)に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない」
 刑法37条1項 「自己又は他人の生命,身体,自由又は財産に対する現在の危難を避けるため,やむを得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り,罰しない。…」
 民法720条1項 「他人の不法行為に対し,自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため,やむを得ず加害行為をした者は,損害賠償の責任を負わない。…」
 また,先生が力を使うことが体罰にあたるかどうか,判断が難しいものもあります。他の子や先生を蹴った小学2年生を,先生が追いかけてつかまえ,その子の胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ」と叱った,というケースについて,一審の熊本地裁平成19年6月15日判決は,体罰であるとして約65万円の損害賠償を認め,二審の福岡高裁平成20年2月26日判決は,体罰であるとしながらも損害賠償は約21万円に減額し,さらに,最高裁第3小法廷平成21年4月28日判決(民集63巻4号904頁)は,以下のように述べて,体罰にあたらないと判断し,損害賠償を認めませんでした。
「本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという〔児童〕の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように〔児童〕を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として〔児童〕に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。〔先生〕は,自分自身も〔児童〕による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当(おんとう)を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱(いつだつ)するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当(がいとう)するものではないというべきである」
【★4】 刑法9条 「死刑,懲役,禁錮(きんこ),罰金,拘留及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
【★5】 憲法36条 「公務員による拷問(ごうもん)及び残虐な刑罰は,絶対にこれを禁ずる」
【★6】 罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ)と言います。
 憲法31条 「何人(なんぴと)も,法律の定める手続きによらなければ,その生命若しくは自由を奪は(うばわ)れ,又はその他の刑罰を科せられない」
【★7】 他の国(アメリカの州)では,教育上,体罰をすることは認めるけれども,「どういう場合に,誰が,どんな方法で体罰を加えるか」,というルールが決まっている,というところもあります。
【★8】 先生から体罰を受けた小学生が,1時間後に自殺した事件で,神戸地裁姫路支部平成12年1月31日判決(判例時報1713号84頁)は,このように言っています。「学校教育法11条ただし書が体罰の禁止を規定した趣旨は,いかに懲戒の目的が正当なものであり,その必要性が高かったとしても,それが体罰としてなされた場合,その教育的効果の不測性は高く,仮に,被懲戒者の行動が一時的に改善されたように見えても,それは表面的であることが多く,かえって当該生徒に屈辱感を与え,いたずらに反発・反抗心をつのらせ,教師に対する不信感を助長することにつながるなど,人格形成に悪影響を与える恐れが高いことや,体罰は現場興奮的になされがちでありその制御が困難であることを考慮して,これを絶対的に禁止するというところにある」

 

2013年6月 1日 (土)

いじめは犯罪?どうして法律ではダメなのか

 

 いじめがダメだってことはわかってるけど,法律ではどうなってるんですか。犯罪になるんですか?

 


 いじめがどんな犯罪になるのか【★1】

 みなさんが,弁護士に,まず聞いてみたくなる質問のようです。

 一応,参考までに書いておきます。


 なぐったり,けったり,たたいたり,モノを投げつけたりするなど,暴力をふるえば,暴行罪(ぼうこうざい)です
【★2】。相手に当たっていなくても,ふれていなくても,暴行罪は成り立ちます。

 暴力をふるった結果,ケガをすれば,傷害罪(しょうがいざい)です
【★3】

 暴力をふるっていなくても傷害罪が成り立つことはあります。相手が精神的にまいってしまうことがわかっているのに,わざといやがらせをして,病気になれば,傷害罪です。

 「あいつは~~だ」「あいつは~~なことをした」などと,あること・ないことを言いふらしたり,ネット上に書いたりして,からかうのは,名誉毀損罪(めいよきそんざい)です
【★4】。その内容がほんとうかどうかは関係ありません。

 「バカ」「デブ」「ブス」「きもい」などとバカにするのは,侮辱罪(ぶじょくざい)です
【★5】

 「殺す」「死ね」などと怖がらせるのは,脅迫罪(きょうはくざい)です
【★6】

 パシリなど,やりたくないことをむりやりさせるのは,強要罪(きょうようざい)です
【★7】

 カツアゲや,おごらせるなど,お金をむりやり出させるのは恐喝罪(きょうかつざい)
【★8】,お金をむりやり奪(うば)うのは強盗罪(ごうとうざい)です【★9】

 モノを盗むのは,窃盗罪(せっとうざい)です
【★10】

 ノートや教科書にいたずら書きをしたり,上履きや体操服をぼろぼろにしたりするのは,器物損壊罪(きぶつそんかいざい)です
【★11】

 モノを隠(かく)すのも,器物損壊罪です
【★12】

 はだかにさせたり,性的にはずかしいことをさせるのは,強制(きょうせい)わいせつ罪です
【★13】


 ふつうの社会でこれだけ犯罪となることが,「子どもだから」「学校だから」という理由で許されてよいはずがありません。

 だから,深刻(しんこく)ないじめのときには,警察に犯罪として捜査(そうさ)をしてもらうことも必要です。

 また,犯罪とはならなくても,被害者にお金(損害賠償・そんがいばいしょう)を払わなければならなかったり,学校の中で処分(しょぶん)されたりする,という法律的なマイナスもあります。


 でも,私は,いじめがどんな犯罪にあたるかなどということよりも,法律からみて,もっと大事なこと,みなさんに伝えたいことがあります。



 「いじめられる側(がわ)にも問題がある」という考えは,100%まちがいだ,ということ。

 そして,いじめは,相手のことを大切な存在として尊重(そんちょう)せず,相手から安心した毎日のくらしを奪(うば)い,時には,相手の人生・命そのものを奪ってしまうから,法律で許されないことなのだ,ということです。



 私たち弁護士は,中学校に出むいて,いじめの出張授業をさせてもらっています【★14】


 「いじめはしてはいけないことですか」,と授業でみなさんに聞いたとしたら,誰もが,「いけないことです」と答えるでしょう。

 そんなことは,まわりの大人たちからさんざん言われていますから,子どもたちにとっても,当たり前のことです。

 だから,私は,答えがわかりきっているそんなヤボな質問はしません。


 私は,みなさんにこう聞きます。

 「いじめは確かに悪いこと。だけど,いじめられる側(がわ)にも問題がある」,そんなふうに思いますか,と。

 そうすると,ほとんどの人が,「いじめられる側にも問題がある」,「問題があることが多い」,と答えます。

 男子なのにナヨナヨしているとか,太っているなど,他の人とちがったところがある,

 場の空気を読まないとか,他の人に迷惑(めいわく)をかけている
【★15】

 そんなことが,いじめられる側の「問題」だ,と説明してくれます。


 でも,それは,まったくまちがった考え方です。


 自分自身をふり返ってみてください。

 まわりの人とちがっているところや,足りないところが,まったくない,と言えますか。

 まわりにまったく迷惑をかけないで,生きてこられましたか。

 そんなことはないはずです。


 「いじめられる側にも問題がある」。

 その考えは,あなたの,ほかの人とちがっている部分や,足りない部分,人に迷惑をかけていることなどをとらえて,「あなたに対するいじめがあってもしかたがない」,ということにもなってしまうのです。

 「いじめられる側にも問題がある」というのは,結局,どんな人に対してもこじつけて言うことができてしまう,後づけのいいわけにすぎません。



 なぐられれば体は痛いし,お金を取られれば損(そん)をします。

 でも,

 自分がまるで物や人形,奴隷(どれい)のようにあつかわれたり,

 シカトや「死ね」などの言葉で,ここにいること自体が認められなかったりすることは,

 体の痛みやお金の損とはくらべものにならないほど,心が深く傷つきます。



 そんな場所に毎朝登校するときの,重たい気持ち。

 安心した毎日を送ることができず,やがて,そのような学校に行くことができなくなってしまいます。

 その子の,学校に通うという人生のだいじな時期を,いじめは奪うのです。



 一つひとつのいじめそのものは,ナイフで刺(さ)すようにすぐに人の命を落とすものではないかもしれません。

 でも,コップに水が一滴(てき)一滴とたまっていき,やがて最後の一滴でコップから水があふれてしまうように,

 心の痛みは,積み重なっていけば,やがて,その人を自殺にまで追い込みます。

 その子の,幸せな人生そのものを,いじめは奪うのです。

 学校は,これからの人生を幸せに送ることができるようにするために,いろいろなことを学ぶ場所です。

 そのはずの学校で,人生そのものが奪われてしまうことは,絶対にあってはならないのです。


 大人から見ると,学校というのは,本当に変わった場所です。

 同じ年の人だけで集まり,

 みんな同じ服を着て,

 みんな同じ日課を過ごし,

 勉強や部活動の成績など,みんな同じような目標に向かっています。

 だから,他の人のちょっとした「ちがい」が,すごく目立つように感じます。


 でも,学校を出たあとの実際の社会では,一人ひとりが,本当にバラバラです。

 年も,生まれ育った環境(かんきょう)も,外見も,ものの感じ方・考え方も,

 一人ひとりがちがっていてあたりまえです。

 そして,そのちがいをお互(たが)いに認めあい,大切にしながら,社会は成り立っています。

 むしろ,ちがっているものを持っている人が,新しいことを始めたり,社会を良い方向に変える力があると認められたりしています。



 どんな人であっても,大切な存在,大切な人間として扱(あつか)われ,尊重(そんちょう)されること。

 人は,誰かの物でも,誰かの人形でも,誰かの奴隷(どれい)でもない。

 大切な存在,大切な人間として扱われること。

 そして,誰もが,安心した毎日を過ごすことができ,幸せな人生を送ることができること。

 それが,法律が何よりもいちばんだいじに守っている基本です
【★16】

 いじめは,法律がいちばんだいじにしているそのことを奪うから,許されないのです。



 法律は,この社会がうまくまわるために作られているルールです。

 法律は,国会という場所で,多数決で作られます。

 多数決は,「数が多ければ何を決めてもかまわない」,ということではありません。

 「一人ひとりが大切な存在だ」ということを認め合っているからこそ,

 そして,「すべての人が安心・安全な毎日を送り,幸せな人生を送ることができるためにどうすればよいだろうか」と考えながらルールを作るからこそ,

 その多数決にすべての人が納得し,したがうことができるものになるのです。

 この社会が成り立つためには,「お互いを認め合う」,「お互いを傷つけない」,ということが,絶対に必要なのです。



 私たちは,

 いじめでつらい思いをしている子を守るために,

 そして,

 「お互いを大切にし合う」というこの社会を守るために,

 いじめをなくさなければいけないのです。



 学校は,同じような子どもたちが集まっています。

 だからこそ,一人ひとりの少しずつの「ちがい」から,お互いに認め合うことを学んでいくことができる場所です。

 だけれど,大人たちは,子どもたちにそのメッセージをきちんと伝えていません。

 むしろ,「まとまりから外れないように」と,大人が子どもにプレッシャーを与えています。

 それが子どもたちにストレスになって,いじめにつながっているのだ,と,私は思っています。

 自分自身がまわりからきちんと大切にされていなければ,「他の人を大切にする」ということの本当の意味を理解するのは,難しいことです。

 それは,犯罪をおかして他の人を傷つけてしまった人の弁護活動をしている中で,私がいつも感じていることです。

 だから,私たち大人は,いじめをしてしまう子どもにも,「あなたも大切な存在なんだよ」というメッセージが,その心にとどくようにしなければならないと思います。



 大人の社会の中でも,他の人のちがっている部分や弱い部分を受けいれることができず,攻撃(こうげき)する人がいるのは,残念なことです。

 私たち大人も,きちんと反省しなければならないと思っています。



 今学校に通っているみなさんに,「お互いを認め合い,傷つけることなく,それぞれが安心した毎日・幸せな人生を送ることができる」,そういう社会の,きちんとしたメンバーの一人になってほしい,と,私は心から願っています【★17】

 

【★1】ちょうど私がこの記事を書いているときに,文部科学省が5月16日付けで,都道府県教育委員会などに,犯罪行為にあたる「いじめ」を挙げて通知した,と報道されました。
【★2】刑法208条「暴行を加えた者が人を傷害するに至(いた)らなかったときは,2年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは30万円以下の罰金又(また)は拘留(こうりゅう)若しくは科料(かりょう)に処(しょ)する」
【★3】刑法204条「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」
【★4】刑法230条1項「公然(こうぜん)と事実を摘示(てきじ)し,人の名誉を毀損(きそん)した者は,その事実の有無にかかわらず,3年以下の懲役若しくは禁錮(きんこ)又は50万円以下の罰金に処する」
【★5】刑法231条「事実を摘示しなくても,公然と人を侮辱(ぶじょく)した者は,拘留又は科料に処する」
【★6】刑法222条1項「生命,身体,自由,名誉又は財産に対し害を加える旨(むね)を告知(こくち)して人を脅迫した者は,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」
【★7】刑法223条1項「生命,身体,自由,名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し,又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害(ぼうがい)した者は,3年以下の懲役に処する」
【★8】刑法249条1項「人を恐喝(きょうかつ)して財物を交付(こうふ)させた者は,10年以下の懲役に処する」
同条2項「前項の方法により,財産上不法の利益を得(え),又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする」
【★9】刑法236条1項「暴行又は脅迫を用(もち)いて他人の財物を強取(ごうしゅ)した者は,強盗の罪とし,5年以上の有期懲役に処する」
同条2項「前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする」
【★10】刑法235条「他人の財物を窃取(せっしゅ)した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」
【★11】刑法261条「…他人の物を損壊(そんかい)し,又は傷害した者は,3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する」
【★12】隠したものを後で使うつもりならば窃盗罪ですが(法律の言葉で「不法領得(ふほうりょうとく)の意思がある」と言います),いやがらせをする目的で隠した場合には,不法領得の意思がないので窃盗罪ではなく,「持ち主がそのものを使うことができなくなってしまった」ので,器物損壊罪が成立します。
【★13】刑法176条「13歳以上の男女に対し,暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は,6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し,わいせつな行為をした者も,同様とする」
【★14】東京にある3つの弁護士会が共同で中学校に出向いていじめの出張授業をしています。そのさい,私たち弁護士は,さきがけていじめの出張授業に取り組んできた平尾潔弁護士の,「いじめでだれかが死ぬ前に―弁護士のいじめ予防授業」(岩崎書店)という本の内容を基本にしています。このブログに書いた私の授業の内容も,平尾弁護士から受けた影響がとても強いです。
【★15】ほかの人に迷惑をかけたことがあるとか,まわりにいつも迷惑をかけている,というのであれば,いじめるのではなく,「きちんと謝(あやま)ってほしい」とか「迷惑なことをやめてほしい」とその子にきちんと伝えて話し合えばよいのです。そして,それでもその子がきちんと聞いてくれなければ,クラスや先生もまきこんで,みんなでいっしょに話し合っていけばいいのです。もし,そうやって努力をしてもその子とわかりあうことがむずかしければ,それ以上むりをして仲直りしようとしなくてもかまいませんが,だからといって,そこからさらに「その子をいじめてよい」ということまでにはなりません。
【★16】憲法13条「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及(およ)び幸福追求(ついきゅう)に対する国民の権利については,公共の福祉(ふくし)に反(はん)しない限(かぎ)り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★17】いじめをなくそうと,市や町が,条例(じょうれい)というルールを作って取り組んでいるところもあります。この記事を書いている時点で,兵庫県小野市(平成20年4月),岐阜県可児市(平成24年10月),長崎県雲仙市・福岡県那珂川町(平成24年12月),滋賀県大津市・青森県弘前市・徳島県名西郡石井町(平成25年4月)があります。その他にも今,そのような条例を作ろうとしているところがいくつかあります。また,国のルールである法律でいじめをなくす取り組みを作ろうと,国会でも議論が進んでいます。それぞれの条例・法律の細かい中身については,賛成・反対いろんな意見があります。しかし,「いじめを許さない」「お互いを認め合う」といういちばんだいじなことを,多数決でルールを決める「議会」「国会」という場所で,あらためて確認し,「条例」「法律」というかたちできちんとみんなにメッセージを出していく,ということじたいは,とても大切なことだと思います。
 (補足:この記事を書いた後の2013年6月21日,国会で,いじめ防止対策推進法という法律ができました。この法律のことについては,また別の記事で書こうと思います。)

 

いじめを弁護士に相談するとどうなるの

 

 2ヶ月くらい前から,クラスで「ウザい」「キモい」「死ね」と言われたり,シカトされたりしています。最近は,上履きを隠(かく)されたり,いつの間にかノートにぐちゃぐちゃにひどいことを書かれたりしています。毎日学校に行くのがイヤだけど,それでも学校には行かなくちゃとも思ったりもして,いろいろ怖くて先生にも親にも話せません。こういうことを弁護士に相談すると,どうなるんですか。いじめてくる子やその親,学校や教育委員会を訴(うった)えることになるんですか。

 

 毎日つらい思いをしている中,誰にも相談できずに,がんばって学校に通い続けているんですね。


 ひょっとして,親や先生に相談できないのは,

 「あなたにも悪いところがあるんじゃないの」と言われてしまうからなのかもしれません。

 でも,あなたがいじめられてもしかたがない理由など,一つもありません。

 あなたは,何一つ悪くありません
【★1】


 ひょっとして,親に相談できないのは,

 いじめられていることを知ったら,親が悲しんでしまうかもしれない,

 自分を大切に思ってくれている親を悲しませたくない,

 そういう思いからかもしれません。

 あるいは,

 いじめられていることを知ったら,親がおこって,いじめっ子の家や学校にすぐに乗り込んで行ってしまうかもしれない,

 でもそこまではしてほしくない,

 そういう思いからかもしれません。



 ひょっとして,先生に相談できないのは,

 先生が,すぐにいじめっ子を注意してしまうからなのかもしれません。

 先生があなたを助けようとしてくれる気持ちじたいは良いのですが,

 あなたの気持ちを置きざりにしたまま先生が自分勝手に動いてしまったら,

 まわりから「チクった」などと言われ,いじめがもっとひどくなるかもしれませんよね。



 いろんな理由で,今,誰にも相談できずに,ひとりぼっちに感じていると思います。


 でも,あなたは,一人ではありません。

 「あなたの話を聞きたい」

 「あなたが苦しい思いをしないでよいように,いっしょに考え,いっしょに動きたい」

 そう思っている大人が,この社会には,たくさんいます。

 ぜひ,あなたの話を聞かせてください。



 「何を話せばいいかわからない」,「今の気持ちをどう言えばいいかわからない」,

 そんな不安はいりません。

 きれいに話ができなくてもいいのです。

 話を聞く大人のほうだって,あなたに気の利(き)いたアドバイスを,すぐにはできないかもしれません。

 でも,何かがすぐに解決しなくてもいいのです。



 人は,つらくなったときに,誰かに話を聞いてもらうと,それだけで,ほっと気持ちが安らぎ,そして「また明日がんばろう」という力がわいてくることが多いです。

 あなたの気持ちが安らぎ,力がわいたら,今度はいつか,あなたが,つらい思いをしているほかの誰かの話に,じっと耳をかたむけ,よりそってあげてくれればよいのです。

 この社会は,そういうふうにお互(たが)いが支え合って成り立っています。

 一人ではないと実感できること。

 それが,法律がとても大切にしていることです。

 そして,今は,いじめでつらい思いをしているあなたが,誰かに話を聞いてもらう時です。



 「チャイルドライン」という,子どもの声をじっくりと聞いてくれる電話相談があります。

 電話番号は,0120-99-7777です。

 ホームページは,
http://www.childline.or.jp/supporter/index.htmlにあります。


 また,文部科学省という国の役所でも,電話で,いじめの相談を24時間受け付けています。

 電話番号は,0570-0-78310です。



 メールであなたの話を聞いてくれるところもあります。

 さねゆきさんが運営している,「いじめと戦おう!」という,とても素晴らしい,そして内容のわかりやすいホームページがあります。

 
http://www.ijimetotatakaou.com/

 このサイトから,メールで相談をすることができます。



 それから,都道府県や市区町村によっては,「オンブズパーソン」「子どもの権利擁護委員(けんりようごいいん)」などの名前で,学校とは別の立場で,いじめの問題を調整する役目をもった人がいますから,そこに相談するのもよいと思います【★2】


 そして,私たち弁護士も,あなたの話にじっくり耳をかたむけます。


 各地の相談窓口の電話番号は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。


 弁護士にいじめを相談すると,いじめてくる子やその親,学校や教育委員会を訴(うった)えることになるんじゃないか,そんなことまで必要ない,と心配かもしれませんね。

 でも,
弁護士は,いつも誰かと争っているのではありません。

 弁護士は,あなたが安心して暮らせるようにするために,いっしょに考え,動くのが仕事です。

 裁判などの争いごとは,あなたが安心して暮らせるようにするための,一つの方法にすぎません。

 あなたの代わりとして,いろんな人とのあいだで話し合いを重ねて,前向きな解決をめざしていくこともたくさんありますし,

 弁護士がほかの人の前に出ることはしないで,弁護士のアドバイスをもとに,あなた自身の力で動いていく,というやり方もあります。

 いじめなど,学校の中のことの問題は,裁判などの争いごとよりも,むしろ,裁判以外の方法で解決をめざすことのほうが多いです。



 弁護士は,100%あなたの立場に立って,いっしょに考え,動くことができます。


 親や先生があなたの話を受け止めてくれない時でも,

 弁護士はあなたの話を受け止めます。



 ぎゃくに,親や先生が「あなたのためを思って」と,いろいろ動いてくれそうなときであっても,

 弁護士は,「あなた自身がどうしたいのか」という気持ちを,なによりもいちばん大切にします。

 弁護士のもとには,「子どもがいじめにあっている。裁判をしたい」という親からの相談が,けっこう寄せられます。

 でも,学校で生活をするのは,親ではありません。子ども本人です。

 だから,子どもの事件をあつかう弁護士は,裁判をする・しないをはじめとして,「子ども自身がどういう気持ちでいるか」を,いちばんだいじにしています。



 弁護士には,秘密を守らなくてはならないという,きびしい義務があります【★3】

 だから,あなたがOKしていないのに,弁護士があなたの話を勝手にだれかに話してしまうということは絶対にありませんから,安心してください。



 弁護士は,

 「どんなことがあったのか」というできごとを整理することと,

 「本人がどうしたいのか」という気持ちを整理すること,

 そして,できごとやあなたの気持ちを,ほかの人たちに伝え,話し合うこと,

 それらを得意とする仕事です。



 だから,弁護士は,いじめについても,

 
あなたがどんないじめを受けてきたのかを整理し,

 あなたが今どうしたいのか,これからどうしたいのかをいっしょに考え,

 そして,あなたが望めば,それらを,

 自分の親,先生や学校,いじめっ子などに,

 あなたといっしょに,あるいは,あなたの代わりに,伝えていくことができます。


 裁判という争いごとだけではなく,いろんな話し合いのやり方があります。

 今のつらい状況を変えて,安心した毎日を過ごせるように,いっしょに作戦を考えていきましょう。



 あなたは,一人ではありません。

 弁護士も,あなたを支える人たちの輪の中のメンバーです。

 ぜひ,話をしてみてください。

 

【★1】 いじめのきっかけが,あなたがほかの人に迷惑をかけたことだった,ということもあると思います。でも,きちんと「ごめんなさい」と気持ちを伝えたのにいじめられているのであれば,やっぱり,あなたがいじめられてよい理由はまったくない,あなたは何一つ悪くないのです。人は,まわりにまったく迷惑をかけずに生きていくことなどありえません。そして,迷惑をかけたときには,きちんと謝(あやま)ることが必要ですし,特に大きな迷惑をかけてしまったときには,きちんと法律上の責任をとっていくことも必要でしょう。でも,だからといって,きちんと謝ったりもしているのに,それ以上に,あなたがいじめで苦しみ続けなければならないのはおかしいのです。いじめの「理由」というのは,どんな人についてもこじつけで言うことができる,後付けのいいわけにすぎません。だから,「自分があのときほかの人に迷惑をかけたから,自分がいじめられてもしかたがないんだ」などとは思わないでください。
【★2】 朝日新聞2012年12月26日の記事で,「子どもの権利条約総合研究所」の調査では以下の自治体で「子どもオンブズ」が設置されている,と紹介されています(カッコ内は設置年です)。私が子どもの権利擁護委員を務めている,東京都豊島区も含まれています。
 兵庫県川西市(1999年),川崎市・埼玉県(2002年),岐阜県多治見市(2004年),秋田県(2006年),福岡県志免町・三重県名張市(2007年),東京都目黒区・愛知県豊田市(2008年),札幌市・福岡県筑前町・愛知県岩倉市(2009年),東京都豊島区,愛知県日進市(2010年),福岡県筑紫野市・愛知県幸田町(2011年),福岡県宗像市・北海道北広島市・東京都世田谷区(2013年)
【★3】 弁護士法23条「弁護士…は,その職務上知り得(え)た秘密を保持(ほじ)する権利を有(ゆう)し,義務を負う」