2_家族のこと

2017年9月 1日 (金)

パパがママをバカにしたり殴ったりする

 

 パパは,子どもの私には優しいんですが,ママにはいつも,「こんなまずいメシしか作れないのか」「何もできないくせに」「バカヤロウ」「人間のクズ」「誰がかせいだ金で食ってると思ってるんだ」とか言い続けたり,「出て行け」と突然大声でどなったりします。ひどいときは,パパがママを殴ったり,蹴飛ばしたり,テーブルに置いてあった物をママに投げつけたり,部屋のドアをわざとバタンと勢いをつけて閉めたりします。パパとママの大人どうしのことだし,子どもの私には何もできなくて,つらいです。

 


 家は,

 ゆっくりと心と体を休めて,毎日の生活を出発するための場所,

 ゆっくりと心と体を成長させて,将来の人生を準備するための場所です。



 それなのに,両親の仲が悪いと,

 心が休まらず,ほんとうにつらいですよね。



 特に,お父さんからお母さんに一方的に暴力・暴言があるのだと,

 お母さんを助けようすれば,

 お父さんの暴力・暴言が,今度は自分に向かってくるかもしれないし,

 お母さんへの暴力・暴言が,むしろもっとひどくなるかもしれない。

 かといって,お父さんの味方をして,お母さんを傷つけるわけにもいかない。

 どうすればよいのか,とても苦しいと思います。

 こういう苦しさがずっと続くのは,あなたの心の成長にとってもマイナスです
【★1】【★2】




 お父さんからは,あなたに対しては暴力・暴言がない,ということでしたね。



 それでも,お父さんがお母さんに暴力をふるったり,暴言を言ったりするのは,

 
子どものあなたに対する虐待,「児童虐待」にあたります。


 平成16年(2004年),児童虐待防止法という法律が改正されて,

 親から子どもへの暴力や暴言がなくても,

 お父さん・お母さんの間の暴力や暴言は,

 子どもにとっての虐待の一つ,子どもの心を傷つける「心理的虐待」だと,はっきり付け加えられました
【★3】



 ここにいていいんだと思える,しっかりした居場所があること。

 安心した毎日を送り,幸せな人生を送ることができること。

 法律は,それをとても大事にしています。

 「お父さんからお母さんに暴力・暴言があって,家にいるのがつらい」,

 「大切な居場所のはずの家が,安心・安全な場所になっていない」,

 そんな子どもたちを,法律が守っています。




 お父さんとお母さんの関係が悪いのは,あなたのせいではありません。

 自分自身を責(せ)める必要は,まったくありません。

 
あなたが安心・安全な暮らしを送れるように,

 
ぜひ,まわりの大人たちにSOSを出してください。


 私たち弁護士は,あなたのSOSを受け止めます。

 そして,一緒に考え,動くことができます。

 各地の弁護士の相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。



 市役所や区役所の中には,子どもを守ってくれるところがあります。

 東京では,「子ども家庭支援センター」と言います。

 あなたから直接連絡をしてもいいですし,

 学校の先生,地域の民生児童委員さん,そのほか誰でも,

 あなたが信頼できる大人を通して,連絡してもらってもかまいません。



 お父さんからお母さんへの暴力・暴言がひどければ,

 児童相談所や警察に間に入ってもらうこともありえます。

 児童相談所の全国共通の電話番号は,「189」です。

 特に,夜や休日にひどい暴力があった時は,

 110番をかけて警察に家に来てもらうか,近所の交番にかけこんでください。

 警察は,あなたのお父さん・お母さんと話をし,児童相談所にも連絡してくれます
【★4】



 自分がまわりの大人にSOSを出したら,

 「どうして家の中のことを外の人にペラペラしゃべったんだ」と怒られるんじゃないか,とか,

 お父さんが警察に逮捕されてしまうんじゃないか,とか,

 家族がバラバラになってしまうんじゃないか,とか,

 そういったことが心配でまわりの大人に相談しづらい,と思うかもしれません。

 あなたのその心配は,もっともなことです。

 まわりの大人は,あなたのその気持ちにも寄り添って,一緒に考えます。

 だから,あなたの心配も含めて,ぜひ,大人に相談してください。




 お父さんがまわりの人から暴力・暴言をやめるように注意されて,きちんと反省し,

 家族仲良く暮らせるようになるのが,一番よいことです。

 お父さんに,だれが,いつ,どうやって注意をするか,

 傷ついているお母さんを,どうやって支えるか,

 それを,まわりの大人たちと一緒に考えましょう。



 ただ,家族仲良く暮らせるのが一番よいこととはいっても,

 暴力・暴言があまりにひどければ,

 お母さんがお父さんから逃げることが必要だったり,

 警察がお父さんを逮捕しなければならないことも,あるかもしれません。

 お母さんは動かないけれど,あなたがこれ以上家にいるのがつらい,という場合は,

 あなただけ安全なところで守ってもらう,ということもできます(「親の虐待から逃げてきて家に帰れない」の記事を見て下さい)。

 そういったことも合わせて,まわりの大人たちと一緒に考えましょう。





 むかし,夫婦の間の暴力・暴言は,

 単なる夫婦げんかとして見られていました。



 でも,学校や職場や街中で,誰かを殴ったら,犯罪として処罰されます【★5】

 それなのに,「夫婦だったら殴ってもいい」というのでは,まったくおかしなことです。



 相手をバカにする言葉も,もし社会の中で誰かに言おうものなら,

 いじめやハラスメントとして,大きな問題になります。

 それなのに,「夫婦だったらバカにしてもいい」というのでは,やはりおかしなことです。




 私たちは,一人ひとりが,大切な人間です
【★6】

 誰かの物でも,誰かの人形でも,誰かの奴隷(どれい)でもありません。

 それは,夫婦の間でも,同じことです。


 国のおおもとのルールである憲法にも,

 夫婦は,お互いを大切な人間として尊重しあい,対等な立場で,協力しあって続けるものだと,書かれています
【★7】


 ところが,実際には,

 家の中で,夫が妻に,

 暴力をふるったり,

 バカにしたり,

 生活費を渡さないなど,お金でコントロールしたり,

 電話やメールを細かくチェックし,行動を監視して,自由を奪ったり,

 嫌がっているのにセックスをむりやりしたりして,

 夫が妻を,まるで物や人形や奴隷のように支配することが,あちこちで起きています
【★8】


 そういう暴力・暴言を受けて傷ついている人を守り,

 そういう暴力・暴言をこの社会からなくしていくために,

 2001年(平成13年)に法律ができました
【★9】

 その法律に基づいて,相談先が作られています
【★10】

 あなたからお母さんに,そういう相談窓口を勧めてみるのも,一つの方法です。




 DVという言葉を,皆さんも聞いたことがあるかもしれません。

 DVは,ドメスティック・バイオレンス(D
omestic Violence)の略です。

 「家庭内暴力」と訳されることも多いですが,

 けっして「暴力」だけでなく,暴言や,相手を傷つけること,支配することすべてが問題ですし,

 けっして「家庭内」の夫婦だけでなく,交際中の10代・20代のカップルの間でも,問題になっていることです
【★11】


 あなたやお母さんのようなつらい思いを,誰もがしなくて済むように,

 私たちみんなで,この社会から,DVをなくしていかなければなりません。



 10代の皆さんは,結婚はまだ先のことと思うかもしれません。

 でも,皆さんには,10代の今だからこそ,

 今付き合っているパートナーや,将来付き合うパートナーとの間で,

 お互いを大切な人間として,対等な立場で尊重しあうことを,

 お互いがDVの加害者にも被害者にもならないようにするために,

 今のうちからきちんと身につけてほしい,と,私は強く願っています。

 

 

【★1】 「DVがある家庭では,子どもは様々な心理的葛藤(かっとう)を抱(かか)えることになります。…例えば,父親が母親のことを子どもの前であざけりバカにするような,精神的暴力を行っていたとします。『おまえのつくったメシはまずい』『主婦失格だ』『人間失格だ』などと罵(ののし)っている最中に,子どもはどのような態度を取ることが正解でしょうか。父親のことを無視したり,母親の味方になって反論したりすれば,自分に今度はその暴力の矛先(ほこさき)が向かうかもしれませんし,こうした反抗的な態度を『母親の育て方のせい』と一層母親を責め立てる材料にして,暴力がエスカレートするかもしれません。では,父親に迎合(げいごう)して,一緒になって母親をけなすことが正しいのでしょうか。確かにそれで父親の機嫌はよくなり,自分に被害は及ばないかもしれませんが,自分の身を守るために虐待者へ同一化することは,母親への裏切りと感じられ,強い罪障感(ざいしょうかん)をもつことになります。このように,DVがある家庭の中では,子どもがどのような態度を取っても強い不安や葛藤,時には暴力そのものから逃れることができなくなるのです」(加藤尚子「虐待から子どもを守る! 教師・保育者が必ず知っておきたいこと」38頁)
【★2】 「子どもに与える影響」「暴力を目撃したことによって,子どもに様々な心身の症状が表れることもあります。また,暴力を目撃しながら育った子どもは,自分が育った家庭での人間関係のパターンから,感情表現や問題解決の手段として暴力を用いることを学習することもあります」(内閣府男女共同参画局「ドメスティック・バイオレンス(DV)とは」)
【★3】 児童虐待の防止等に関する法律2条 「この法律において,『児童虐待』とは,保護者…がその監護する児童…について行う次に掲(かか)げる行為(こうい)をいう。 (略) 四 …児童が同居する家庭における配偶者(はいぐうしゃ)に対する暴力(配偶者…の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及(およ)ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著(いちじる)しい心理的外傷を与える言動を行うこと」
【★4】 警察庁生活安全局少年課長,警察庁生活安全局生活安全企画課長,警察庁生活安全局地域課長,警察庁刑事局刑事企画課長,警察庁刑事局捜査第一課長平成28年4月1日「児童虐待への対応における関係機関との情報共有等の徹底について(通達)」(警察庁丁少発第47号,丁生企発第196号,丁地発第51号,丁刑企発第38号,丁捜一発第43号)
【★5】 刑法208条 「暴行を加えた者が人を傷害するに至(いた)らなかったときは,2年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは30万円以下の罰金又(また)は拘留(こうりゅう)若しくは科料(かりょう)に処(しょ)する」
 刑法204条 「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」
【★6】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★7】 憲法24条1項 「婚姻(こんいん)は,両性の合意のみに基(もとづ)いて成立し,夫婦が同等の権利を有(ゆう)することを基本として,相互(そうご)の協力により,維持(いじ)されなければならない」
 同条2項 「配偶者(はいぐうしゃ)の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項(じこう)に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない」
【★8】 もちろん,夫から妻に対する暴力・暴言だけでなく,妻から夫に対する暴力・暴言もありますし,同じようにけっして許されないことです。ただ,実際は,圧倒的に夫から妻に対する暴力・暴言のほうが多いのが実態です。平成27年度,全国の配偶者暴力相談支援センターで受け付けた相談総数11万1630件のうち,女性からの相談が10万9629件,男性からの相談が2001件でした(平成28年9月16日内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターにおける配偶者からの暴力が関係する相談件数等の結果について(平成27年度分)」)
【★9】 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
【★10】 内閣府男女共同参画局のウェブサイトに,相談先などの情報が詳しく載っています。http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/index.html
【★11】 【★9】の法律では,結婚していなくても,同居中のカップルでも対象になります。また,同居していないカップルでも,「デートDV」が問題になっています。NPO法人エンパワメントかながわ,ガールスカウト日本連盟らが2016年に実施した調査では,10代の女性43.8%,男性26.7%が,交際相手からのDVを経験していたことが明らかになっています(毎日新聞2017年3月13日「デートDV 経験10代女性の44% NPO広域調査」)。
 

2017年8月 1日 (火)

特別養子縁組って何?

 

 両親と自分に血のつながりがないことは,小学生の低学年くらいの時から親が時々話していたので知ってはいたけど,くわしいことまではわかってませんでした。最近,両親と私は「特別養子縁組」をしてると聞いたんですが,「特別養子縁組」ってどういうことですか?

 

 

 特別養子縁組は,育てられる子どものことを一番に考えた,養子縁組のしくみです。


 特別養子縁組をすると,育てる親と,育てられる子どもは,

 実(じつ)の親子とまったく変わらない,法律上の親子になります。

 もとの親,血のつながっているほうの親とは,法律上は他人になります。

 子どものためにしっかりした新しい家族ができる,まさに「特別」な養子縁組です。




 養子縁組というしくみは,民法という法律ができた明治時代からありました。

 でも,むかしは,「子どものため」のしくみではありませんでした。

 跡取り(あととり)がいない家を継(つ)いでもらうためのもの,「家のため」のしくみでした
【★1】【★2】



 その後,日本が大きな戦争に負け,社会が大きく変わりました。

 そのとき,養子縁組のしくみは,「子どものため」に,少しだけ前に進みました。

 未成年の子どもと養子縁組をするときは,その子にとってマイナスでないかどうかを,裁判所がきちんとチェックする,ということになりました
【★3】【★4】



 でも,むかしの「家のため」のしくみというイメージも残ったままで,

 家を継ぐために大人どうしで養子縁組をすることも,あいかわらず多くありました。

 特に,男性が女性と結婚するときに,その女性の親と養子縁組をする「婿(むこ)養子」が,多くありました
【★5】

 ほかにも,

 相続にかかる税金を安くするためだったり
【★6】

 今はまだ日本で結婚できない同性カップルが,法律上の家族になるためだったりと
【★7】

 養子縁組は,いろんな目的で使われていて,

 必ずしも「子どものため」のしくみというわけではありませんでした
【★8】



 このむかしからある養子縁組のことを,この記事では,

 「特別養子縁組」と区別して,

 「ふつうの養子縁組」と言うことにしましょう。




 ふつうの養子縁組は,

 縁組をした先の親が,子どもを育てる「親権者」になりますが
【★9】

 もとの親,血のつながった親とも,法律上は親子のままです
【★10】

 戸籍(こせき)という,家族の情報を役所が管理しているものには,

 縁組をした先の親(養親)の名前だけでなく,

 縁組をする前のもとの親(実親)の名前も,はっきり書かれています。



 結婚したあと,離婚することができるのと同じように,

 ふつうの養子縁組も,やめることができます
【★11】

 養子縁組をやめることを,「離縁(りえん)」と言います。

 「親子の縁を切る」「戸籍から抜く」と言われた,の記事にも書いたように,

 実の親子だったら,親子の関係をやめることは,できません。

 ところが,ふつうの養子縁組だったら,離縁をして親子の関係をやめ,他人どうしにもどることができてしまいます。




 養子縁組をしても,

 もとの親と法律上つながったままだったり,

 縁組をやめることができたりするのは,

 育てられる子どものがわから見ると,育ててくれる親とのあいだでしっかりした関係にまでならない,不安定さが残るものでした。




 1959年(昭和34年)ころ,

 「もっと子どものための養子縁組のしくみを作るべきではないか」,という議論もあったのですが,

 新しいしくみは,なかなか作られませんでした
【★12】



 そうしたところ,1973年(昭和48年)に,ある大きな事件が起きました【★13】【★14】



 妊娠したけれど,いろんな理由で,子どもを育てることができない。

 だから,子どもを産まずに,中絶したい。

 そう考える女性に,命の大切さを話し,中絶を思いとどまるよう説得していた,ある産婦人科のお医者さんがいました。



 他方で,「子どもをもうけたくてもなかなか授(さず)からないので,子どもを引き取って自分の子どもとして育てたい」,と考える夫婦もいました。


 なので,そのお医者さんは,生まれてきた子どもを,引き取って育ててくれる夫婦に,バトンタッチしていました。

 その時に,お医者さんは,「その夫婦の妻が産んだ子どもです」という,ウソの出生証明書を作っていたのです。



 命を守るという善意からしていたこととはいえ,

 そのお医者さんがウソの証明書を作ることは,犯罪でした。

 それに,ふつうの養子縁組でも,未成年の子どもの縁組のときは,その子にとってマイナスでないかどうかを裁判所がきちんとチェックするのに,

 ウソの届け出がされてしまったら,裁判所のチェックがないまま,子どもが引き取られてしまいます。

 しかも,もとの親が誰だったのかも,書類からは,わからなくなってしまいます。




 そこで,その事件をきっかけに議論がふたたび始まり,

 1987年(昭和62年)に新しく作られたのが,特別養子縁組のしくみです。




 特別養子縁組は,

 子どもがまだ小さいうちに
【★15】

 いろんな事情で子どもを育てることができない親のもとから
【★16】【★17】

 「自分たちの実の子どもと同じように育てたい」という夫婦に,バトンタッチするしくみです
【★18】【★19】


 そのバトンタッチのあいだに入るのは,

 児童相談所という,子どもを守るための役所が担当することもあれば
【★20】

 子どものために動いている民間の団体がすることもあります
【★21】



 ふつうの養子縁組は,子どもが未成年のとき,裁判所が「子どもにとってマイナスにならないかどうか」をチェックします,と書きました。

 でも,特別養子縁組では,裁判所は,さらにもっとふみこんでチェックします。

 「もとの親からこの夫婦にバトンタッチするのが,この子にとってプラスになる」。

 裁判所がそう認めて,はじめて特別養子縁組が成り立ちます
【★22】



 特別養子縁組は,

 「養子縁組」という名前がついてはいますが,

 法律上は,まるで実の親子のようになります。

 そして,もとの親,血のつながっているほうの親とは,法律上は他人になります
【★23】

 それが,ふつうの養子縁組との,大きなちがいです。



 戸籍を見ても,

 「養子」とは書かれていませんし,もとの親の名前も書かれていません。

 一見しただけでは,育ての親の,実の子どものように書かれています。



 そして,実の親子が,親子の関係をやめることができないのと同じように,

 特別養子縁組は,ふつうの養子縁組のようにかんたんに離縁をすることはできません。

 よっぽどの事情があるときで,裁判所がOKしたときにしか,特別養子縁組をやめることはできません
【★24】


 子どものために,しっかりした新しい家族ができるためのしくみが,特別養子縁組です。



 あなたは,小学生のときから,血のつながりのないことを,親から教えてもらっていたのですね。


 子どもが成長するとき,

 「自分がどんな人間なのか」ということを知るのは,とても大切なことです。

 難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。

 自分が特別養子縁組というしくみで今の親に育てられているということ,

 それをきちんと教えてもらうのも,とてもだいじなことです
【★25】【★26】

 そして,もとの親のことを知りたい,と思ったら,あなたの前の戸籍をさかのぼれば,知ることができます。





 今,日本では約4万5000人の子どもたちが,親と暮らせず,

 児童福祉のしくみの中で生活しています(「社会的養護」と言います)。

 そしてそのうちの多くが,施設の中で暮らしています
【★27】【★28】


 2016年(平成28年),「できるだけ施設よりも家庭的な暮らしが送れるようにしよう」と法律に書き加えられ
【★29】

 児童相談所が養子縁組によりいっそう取り組むことになりました
【★20】


 特別養子縁組は,これまで毎年300件くらい行われていたのが,

 最近は400~500件くらいに,少しずつ増えています
【★30】

 特別養子縁組がさらにもっと増えていくことが,期待されています。




 実の親のもとで暮らすことができない子どもにも,

 しっかりとした新しい家族があって,

 その子どもと家族を,私たち社会全体で支えていくこと。

 そういう特別養子縁組の大切な役割を,

 もっと広くいろんな人たちに知ってもらいたいと,私は願っています。

 

 

【★1】 「明治民法における養子制度は,家の後継者を求めることに重要な役割があったといえます。家の制度は祖先から子孫につないでいくことが重要でありますから,家の後継者がいないことには家がつぶれることになり,致命的なことであります。そこで,養子を迎えて家を承継させること,つまり家を連続させていくことが,重視されたのであります。このように家の後継者を得るための親子関係,すなわち,養子制度が必要だったといえるのです。家のための養子制度ということであります」(米倉明,細川清編「民法等の改正と特別養子縁組制度」中川淳『親子法の理念と特別養子縁組制度』4頁)
【★2】 ただし,明治民法の養子制度でも,家督(かとく)相続以外に様々な目的の養子があった,という指摘もあります。
 「容易に想像できるのは『家』の承継のための養子であるが,明治民法下で行われた養子は,家督相続のためのものばかりではなく,様々な目的の養子が存在した。分家をさせるためとか,婚姻につき女子の家格を引き上げるためとか,家族の労働力を補充するためとか,さらには芸妓にするための養子もあり,孤児を収養するためのものもあった。このように,極めて多様な目的のために養子が行われたということが日本の養子の特色といえる。その意味で,明治民法の養子制度には確固たる目的がなかったといえる」(内田貴「民法Ⅳ」248頁)
【★3】 民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者(はいぐうしゃ)の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限(かぎ)りでない」
 この但書きは,例えば,おじいちゃんやおばあちゃんと養子縁組をするときや,離婚した親の再婚相手と養子縁組をするときには,家庭裁判所のチェックがいらない(役所に届け出るだけで養子縁組ができる)ということです。私は,この規定はおかしい,この場合でも家庭裁判所がチェックするべきだと思います。
 「母親の再婚相手と養子縁組したくない」の記事も,あわせて読んでみてください。
【★4】 「戦後の民法改正で,未成年養子につき家庭裁判所の許可を要求する規定が入り,これによって,子のための養子法にも配慮を示したとはいえる。しかし,婚外子や孤児救済のための養子制度という観点から見れば,不徹底なものであった」(内田貴「民法Ⅳ」249頁)
【★5】 「1982年の法務省の調査によると…養子となる男女比率は男7割,女3割であり,とくに20代男性が結婚を機に配偶者の親と婿養子縁組を結んでいるケースが多い」(棚村政行「子どもと法」273頁)
【★6】 このような目的での養子縁組もただちに無効とはいえないと最高裁が判断しています。
 最高裁第三小法廷平成29年1月31日判決(民集71巻1号48頁) 「養子縁組は,嫡出(ちゃくしゅつ)親子関係を創設するものであり。養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴(ともな)い,遺産に係る基礎控除(こうじょ)額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存(へいぞん)し得るものである。したがって,専(もっぱ)ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」
【★7】 「同性婚 だれもが自由に結婚する権利」(同性婚人権救済弁護団編,明石書店)136頁
【★8】 養子縁組の届出は,毎年8万件~9万件もありますが,そのうち,裁判所がチェックしているのは700件~1000件しかありません。しかも,この700件~1000件は,未成年の養子縁組のチェックだけではなく,後見人が被後見人を養子にする場合の許可(民法794条)も含んでいるので,未成年の養子縁組のチェックはこれよりも少ない数です。また,【★3】で書いたように,おじいちゃんやおばあちゃんと養子縁組をするときや,離婚した親の再婚相手と養子縁組をするときには,家庭裁判所のチェックがいらないので,この700件~1000件という数だけでは,結局,未成年の子どもの養子縁組がどのくらいの数で行われているのかがわかりません。それでもこの統計からは,ふつうの養子縁組が,「子どものため」以外のものが圧倒的に多いということ,家庭裁判所がチェックしているものがとても少ないということがわかります。
(養子縁組総数は法務省の戸籍統計(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001159203),養子をするについての許可の数は裁判所の司法統計(http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search))
            養子縁組総数 家裁の許可
 2006年(平成18年) 8万9597件 1007件
 2007年(平成19年) 9万0145件 1045件
 2008年(平成20年) 8万9116件  973件
 2009年(平成21年) 8万5094件  964件
 2010年(平成22年) 8万3228件  926件
 2011年(平成23年) 8万1556件  790件
 2012年(平成24年) 8万1383件  790件
 2013年(平成25年) 8万3647件  749件
 2014年(平成26年) 8万3611件  710件
 2015年(平成27年) 8万2592件  728件
【★9】 民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服(ふく)する」
【★10】 法律上の親子関係が続くので,将来,親が年を重ねたとき子どもが親を養(やしな)う立場になりますし(これを扶養(ふよう)といいます),親子としてどちらかが亡(な)くなれば,財産を引き継ぐこと(相続)も起きます。例えば,養子は,養親が亡くなったときに養親の遺産を相続するだけでなく,もとの親が亡くなったときもそのもとの親の遺産を相続します。
【★11】 民法811条1項 「縁組の当事者は,その協議で,離縁をすることができる」
 離縁の協議が整わない場合は,裁判で離縁をすることもできます。
 民法814条1項 「縁組の当事者の一方は,次に掲(かか)げる場合に限り,離縁の訴えを提起することができる。
 一 他の一方から悪意で遺棄(いき)されたとき
 二 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
 三 その他縁組を継続し難(がた)い重大な事由があるとき」
【★12】 「特別養子制度というものが,最初に立法課題となりましたのは,昭和34年6月の『仮決定・留保事項』と呼んでいるものにおいてであります。…これは,第一次・第二次世界大戦をとおして発展してきましたヨーロッパの養子制度の影響を受けたもの,それをかなり参考にしたものと思われます。…この時期には,特別養子制度の構想を積極的に推進するという機運は生じなかったように思います」(米倉明,細川清編「民法等の改正と特別養子縁組制度」中川淳『親子法の理念と特別養子縁組制度』10頁)
【★13】 一般的に,菊田医師事件と言われています。
 「宮城県石巻市の産婦人科医師である菊田昇医師が,自分の経営する産院を訪れる堕胎(だたい)希望の女性に対して,生命がいかに尊いものであるかを説得し,堕胎を思いとどまらせる活動をしていた。…しかし,堕胎を思いとどまっても,生まれた子を母親が育てることはできない。そこで,誰か育ててくれる親を探す必要がある。養子はそのための制度でもあるが,『私生児』であることが周囲に知られると,その子はいろいろな局面で差別の目に曝(さら)されて生きなければならなくなる。反面,子を貰(もら)い受けて育てたいという親としては,実の子として育てたいという希望が強い。せっかく育てても養子だとわかると子の方から離れていくのではないかという危惧(きぐ)があったからである。そこで菊田医師は,子供を貰いたいという人に産まれた子を斡旋(あっせん)し,その親の嫡出子(ちゃくしゅつし)として出生届をするということを行なっていた。これは虚偽(きょぎ)の出生届であるし,その届書には医師の出生証明書が添付(てんぷ)されるが,菊田医師は虚偽の証明書を作成していたわけで,これは犯罪行為であった。このため,この事実が明るみに出たときその是非(ぜひ)をめぐり大きな論争になったのである」(内田貴「民法Ⅳ」250頁)
【★14】 菊田医師事件以前から,「藁(わら)の上の養子」といって,同じようなことが行われていました。裁判所は,そのようなケースで,「ウソの出生届では,養子縁組届の代わりにもならない」と判断しています。
 最高裁第三小法廷昭和50年4月8日判決(民集29巻4号401頁) 「原審の適法に確定したところによれば,被上告人とその夫Aは,大正11年1月ころ訴外B・C夫婦間の子として出生した上告人を同年3月13日引き取って実子同様に養育し,Aから戸籍上の届出手続の依頼を受けた訴外某が同年9月22日上告人をA・被上告人間の嫡出子として出生届をして,それが受理されたというのである。所論は,右の場合には嫡出子出生届は養子縁組届として有効と解すべきであるというが,右届出当時施行の民法847条,775条によれば,養子縁組届は法定の届出によって効力を生ずるものであり,嫡出子出生届をもって養子縁組届とみなすことは許されないと解すべきである」
【★15】 小学校に入る前までに決まっていることが望ましいので,基本的には子どもが6歳になる前でなければ特別養子縁組はできません。ただ,6歳になる前から引き続き養親候補に育てられているなら,8歳になる前までであれば特別養子縁組ができることになっています。
 民法817条の5 「第817条の2に規定する請求のときに6歳に達している者は,養子となることができない。ただし,その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は,この限りでない」
【★16】 民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著(いちじる)しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」
【★17】 特別養子縁組はもとの親がOKがなければできませんが,例外的に,もとの親のOKがなくてもできる場合もあります。
 民法817条の6 「特別養子縁組の成立には,養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし,父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待,悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は,この限りでない」
【★18】 ふつうの養子縁組は,養親が一人でもすることができます(ただし,結婚している人が,未成年を養子にする場合には,夫婦でいっしょに養親にならないといけません)。これに対して,特別養子縁組は,養親は必ず結婚している夫婦でなければなりません。
〔ふつうの養子縁組〕
 民法795条 「配偶者のある者が未成年者を養子とするには,配偶者とともにしなければならない。…」
〔特別養子縁組〕
 民法817条の3 「養親となる者は,配偶者のある者でなければならない」
【★19】 ふつうの養子縁組は,養親が20歳以上であればよく,養子との歳の差がたった1日でもOKです。これに対して,特別養子縁組は,【★15】に書いたように子どもが6歳未満であることだけでなく,養親は夫婦の片方が25歳以上でなければなりません。
〔ふつうの養子縁組〕
 民法792条 「成年に達した者は,養子をすることができる」
 民法793条 「尊属(そんぞく)又は年長者は,これを養子とすることができない」
〔特別養子縁組〕
 民法817条の4 「25歳に達しない者は,養親となることができない。ただし,養親となる夫婦の一方が25歳に達していない場合においても,その者が20歳に達しているときは,この限りでない」
【★20】 これまでも児童相談所は特別養子縁組で子どもを新しい親にバトンタッチする業務をしてきていますが,2016年(平成28年)の児童福祉法改正で,その業務がはっきりと条文に書かれるようになりました。
 平成28年改正児童福祉法11条1項 「都道府県は,この法律の施行に関し,次に掲げる業務を行わなければならない。 (略) ト 養子縁組により養子となる児童,その父母及び当該養子となる児童の里親となる者,養子縁組により養子となった児童,その養親となった者及び当該養子となった児童の父母(民法第817条の2第1項に規定する特別養子縁組により親族関係が終了した当該養子となった児童の実方の父母を含む。)その他の児童を養子とする養子縁組に関する者につき,その相談に応じ,必要な情報の提供,助言その他の援助を行うこと」
【★21】 2016年(平成28年),「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」という法律ができました。人身売買のように子どもをバトンタッチする悪質な団体が活動することを防ぐため,役所がきちんとした団体かどうかをチェックし,OKした団体をバックアップするしくみになりました。
【★22】 民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方(じっかた)の血族(けつぞく)との親族関係が終了する縁組(以下この款(かん)において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる」
 民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著(いちじる)しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」
 民法817条の8第1項 「特別養子縁組を成立させるには,養親となる者が養子となる者を6箇月(かげつ)以上の期間監護した状況を考慮しなければならない」
【★23】 民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方(じっかた)の血族(けつぞく)との親族関係が終了する縁組(以下この款(かん)において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる」
【★24】 特別養子縁組の離縁は,次の条文のとおりとてもハードルが高く,また,養親から請求することは認められていません。
 民法817条の9第1項 「次の各号のいずれにも該当する場合において,養子の利益のために特に必要があると認めるときは,家庭裁判所は,養子,実父母又は検察官の請求により,特別養子縁組の当事者を離縁させることができる。
 一 養親による虐待,悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること
 二 実父母が相当の監護をすることができること」
 同条2項 「離縁は,前項の規定による場合のほか,これをすることができない」
【★25】 「真実告知は血のつながりがない事実だけを強調して子どもに伝えることではありません。『血のつながりはないけれども,家族であることに変わりはない。あなたは私たちが強く望んで迎えた大事な子ども』であると子どもに伝えることが真実告知です。真実告知という言葉の替わりに,テリング(telling)という言葉が使われることもあります。子どもには自分のルーツを知る権利があり,子どものルーツを隠すことは親子の信頼関係を損ねるという考え方が里親養親の間で周知されるようになりました。…真実告知の時期や方法については,正解がありません。…私が先輩の里親養親さんからいただいたアドバイスには次のような共通点がありました。
 ・近所の大人や子どもなど,家族ではない第三者から事実を知らされることほど,子どもの気持ちが深く傷つくことはない。事実は必ず養親から子どもに伝える
 ・自分のアイデンティティに目覚め,情緒的に不安定になる思春期は真実告知を避ける
 ・家に迎えた時の子どもの事情,年齢,性格を考慮し,家族関係がよい時に真実告知をする
 ・生みの親については肯定的に伝え,ネガティブは発言をしない」(吉田奈穂子「子どものいない夫婦のための養子縁組ガイド」199頁)
【★26】 児童に関する条約(子どもの権利条約)7条1項 「児童は…できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する」
【★27】 厚生労働省「社会的養護の現状について(参考資料) 平成29年3月」(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000154060.pdf) 里親委託児童4973人,ファミリーホーム(養育者の住居において家庭養護を行う(定員5~6名))1261人の合計6234人に対し,乳児院2901人,児童養護施設2万7288人,情緒障害児短期治療施設1264人,児童自立支援施設1395人,母子生活支援施設5479人,自立援助ホーム516人の合計は3万8843人です。
【★28】 児童福祉のしくみでは,施設ではなく,里親に預けるということもあります。里親は,養子縁組のように法律上の親子になるのではありません(もとの親が法律上の親のままで,親権をもっているのも,もとの親のほうです)。施設とちがって家庭的な雰囲気の中で育つことができるので,養子縁組だけでなく,里親のしくみも,もっと広がることが期待されています。「児童養護施設にイヤな職員がいる」の記事もあわせて読んでみてください。
【★29】 平成28年改正児童福祉法3条の2 「国及び地方公共団体は,児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう,児童の保護者を支援しなければならない。ただし,児童及びその保護者の心身の状況,これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案(かんあん)し,児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合にあっては児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう,児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合にあっては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう,必要な措置を講じなければならない」
【★30】 裁判所司法統計(http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search)「特別養子縁組の成立及びその離縁に関する処分」の件数から「うち離縁に関する処分」の件数を除いた数
 2006年(平成18年) 313件
 2007年(平成19年) 289件
 2008年(平成20年) 309件
 2009年(平成21年) 326件
 2010年(平成22年) 325件
 2011年(平成23年) 374件
 2012年(平成24年) 339件
 2013年(平成25年) 474件
 2014年(平成26年) 513件
 2015年(平成27年) 544件

2017年5月 1日 (月)

児童養護施設にイヤな職員がいる

 

 高校1年生です。児童養護施設で暮らしてます。同じユニットで暮らす小さな子どもたちが騒がしいけど,それはなんとか我慢してます。でも,最近新しく入った職員の一人が,上から目線で指示してきたり,他の職員がOKしてくれてることをその職員は禁止してきたり,子どもによって態度を変えたりしてくるので,その職員が担当の日は施設に帰りたくないです。他の職員に相談してもまともに聞いてもらえないし,どうすればいいですか。

 


 夜や休日をゆっくり過ごすための施設で,

 職員や他の子どもたちのせいで,落ち着かない気持ちになるのは,

 とてもつらいことですよね。




 児童養護施設は,親がいない子どもや,親の虐待から保護された子どもなど,

 いろんな子どもたちが,安心・安全な暮らしを送るための施設です
【★1】

 施設の職員が,子どもたちの生活を,一生懸命支えてくれています。



 ところが,

 安心・安全な暮らしを送れるはずの施設で,

 職員が子どもたちに虐待するという,とてもひどい事件が,

 これまで,いくつも起きていました
【★2】

 そのため,2008年(平成20年)には,

 「施設で虐待をしてはいけない」という,当たり前のことが,

 わざわざ法律に書き加えられました
【★3】


 
もし,職員から,

 暴力を受けたり,

 性的な被害を受けたり,

 食事を抜きにされたり,

 ひどく傷つくことを言われたりしたら,

 すぐに,信頼できる大人に相談してください
【★4】

 話を聞いた大人は,都道府県の役所に知らせなければいけないことになっています
【★5】

 そして,都道府県の役所は,きちんと調べて,

 その職員や施設を注意したり,子どもを安全なところに移したりしてくれます
【★6】



 このように書くと,

 「私のは虐待というほどのことじゃないから,そこまでおおごとにしなくていい」,

 そう思うかもしれません。




 でも,上に書いたように,

 施設は,子どもたちが安心・安全な暮らしを送るための場所です。

 そのはずの施設で,

 虐待というほどひどいことがなくても,

 
あなたが今,「施設に帰りたくない」と感じているのなら,

 一人ぼっちでガマンすることなく,ぜひ,その気持ちを声にしてください
【★7】



 
施設の中で,あなたの他にも,同じ思いをしている人はいませんか。

 そういう仲間といっしょに,声を上げてみましょう。


 施設には,「中高生会」という集まり(自治会)があるところも多いですし,

 中高生会がなければ,自分からみんなに声をかけて,作ってもかまいません
【★8】

 その仲間たちといっしょに,施設と話し合いをするのです。

 お互いの力に差があるとき,一人ひとりの声が小さくても,みんなでまとまれば,大きな力と対等に話し合うことができます


 たとえば,大人の社会でも,

 「職場」対「働く人」という力の差がある場面では,

 働く人たちが集まって「労働組合」を作り,職場と話し合いをする,というしくみがあります
【★9】

 同じように,「大人」対「子ども」という力の差があるときも,

 みんなでいっしょになって話をすれば,ものごとが良い方向に変わることがあります。




 いっしょに声を上げる仲間がいなければ,

 いろんな大人を巻き込みましょう。




 施設には,「第三者委員」という人がいることが多いです【★10】

 第三者委員は,施設の職員ではなく,あくまで,施設の外の人です。

 そして,子どもたちの施設での暮らしの悩みや不満などの相談に乗り,

 実際に,職員とのトラブルを調整しています。

 私も,ある児童養護施設で,第三者委員として,子どもたちの相談に乗っています。

 あなたも,
自分の施設の第三者委員に,相談してみてください。



 また,あなたの施設が東京にあるなら,

 
東京都の「子供の権利擁護専門相談員」に相談する,という方法もあります【★11】

 電話番号は 0120-874-374 です。

 施設から配られた「子どもの権利ノート」を,今も持っていますか。

 そのノートの中に,相談員に送れるハガキが入っていますので,

 それを使って連絡をしてもOKです。




 
あなたの地域の弁護士に相談する,という方法もあります。

 「法律のトラブルじゃないのに,弁護士に相談してもいいのかな」と心配しなくてもかまいません。

 弁護士は,

 「どんなことがあったのか」というできごとを整理すること,

 「本人がどうしたいのか」という気持ちを整理すること,

 そして,できごとやあなたの気持ちを,ほかの人たちに伝え,話し合うこと,

 それらを得意とする仕事です。

 法律のトラブルでないからと遠慮せずに,相談してみてください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。





 児童養護施設は,親がいない子どもたちや,親の虐待から保護された子どもたちが暮らす場所として,とても大切な役割を果たしています。


 でも,

 大人の職員は交代制で,職員によって子どもたちに対する態度がちがうことがありますし,

 同じユニットで暮らす子どもたちも,

 小学校に入る前の小さな子どもから,10代後半までと,年齢がバラバラで
【★12】

 メンバーも入れ替わりがあります。

 しかも,一つのユニットに5,6人もの子どもたちがいるのに,時間帯によっては職員が1人しかいないので
【★13】

 大人にゆっくり向き合ってもらうことも難しいですよね。




 2009年(平成21年),世界の国々は,

 「子どもたちが,『家庭』での暮らしを送れるようにしよう」,

 と確認し合いました。

 親元で暮らせない子どもに,

 施設での,メンバーが入れ替わる落ち着かない暮らしよりも,

 里親のような,安定してずっと続く,家庭的な暮らしのほうを送れるように,

 大人たちみんなで努力していこう。

 そう確認したのです
【★14】


 そして,この日本でも,去年(2016年(平成28年)),

 「できるだけ施設よりも家庭的な暮らしが送れるようにしよう」

 と,法律に書き加えられました
【★15】



 今,日本では約4万5000人の子どもたちが,親と暮らせず,

 児童福祉のしくみの中で暮らしています(「社会的養護」と言います)。

 そのうち,里親やグループホームで,家庭的な暮らしを送ることができているのは,たった約6000人しかいません
【★16】

 ほとんどの子どもたちが,あなたと同じように,施設の中で暮らしています。




 今,施設にいる子どもたちに,つらい思いをさせないこと。

 それだけでなく,

 これから先,里親を引き受ける人たちが,もっとたくさん増えて,

 どんな子どもも,同じメンバーの「家族」の中で,落ち着いた暮らしをずっと送ることができる,

 そういう社会にしていくこと。

 それらが,私たち大人が負っている,だいじな義務です
【★17】

 

【★1】 児童福祉法41条 「児童養護施設は,保護者のない児童(乳児を除く。ただし,安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には,乳児を含む。以下この条において同じ。),虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて,これを養護し,あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設とする」
【★2】 最も有名な事件は,千葉県の「恩寵園(おんちょうえん)」で起きた事件です。「養護施設の児童虐待―たちあがった子どもたち」(恩寵園の子どもたちを支える会編,明石書店)に詳しく経過が書かれています。
 千葉地裁平成19年12月20日損害賠償訴訟事件判決(以下,裁判所の事実認定)
 「〔児童〕が廊下を走った等の理由から,〔児童〕を…麻袋に入れ,その麻袋を,園庭の木や,…小学校のフェンスに面した外柵周辺につるしたことが複数回あった」
 「〔児童〕の幼児期から小学校低学年ころまでの間,〔児童〕を乾燥機部屋に入れ,電気を点けずに出入口のドアを閉め,外から上記ドアをどんどんと叩き,〔児童〕が『出して,出して。』等と言って泣き叫んだにもかかわらず,〔児童〕が失神しそうに感じるまで,上記行為を止めなかった」
 「〔児童〕に対し,正座をするよう指示し,数時間その指示を解かず,その間,食事の時間が来ても,食事をすることを許さなかった」
 「(施設長は児童の)着衣の袖を刃物で切った。〔児童〕は,〔施設長〕が袖を切り出したため,あわてて…着衣を脱いで〔施設長〕に渡し,上半身は下着だけ着けた状態で自己の居室まで戻ったが…着衣はその後着用できないものとなった」
 「(施設長が)『お前は乞食(こじき)か。』等と言って,その着衣を取り上げたうえ,他の服も没収した。そのため,〔児童〕はその日学校に行くことができず,その日の夕方,保母によって服が〔児童〕の下に戻されるまでの間,下着のみを着けた状態で過ごすこととなった」
 「(児童が)通知表を見せる際,方向等を間違えて〔施設長〕に差し出したところ,〔施設長〕は,〔児童〕の通知表を取り,床に放ったことがあった」
 「(児童が)通知表を〔施設長〕に見せた際,成績が悪いとの理由で,〔児童〕の頭にそろばんを押しつけ,そろばんの珠を数回こすりつけたことがあり,また同じ理由で長時間〔児童〕を立たせておくこともあった」
 「〔施設長〕は,…食後,〔児童〕の班のテーブルクロスを拭かなかったことを理由に,…テーブルクロスを取り上げ,〔児童〕を含むその班の園児らに,その次の食事を取らせなかった」
 「〔施設長〕は,〔児童〕の小学校時代を通じ,…たびたび〔児童〕を,保母室の前の廊下等,園内の床に正座させ…約24時間その(正座の)指示を解かず,その間,…食事を取ることもトイレに行くことも許さなかった。…正座をしている最中,…園児らのうちの1人が,トイレに行かせてほしいと〔施設長〕に頼んだにもかかわらず,〔施設長〕は,これを許さず,その場でするよう言い,上記園児はその場で失禁した。」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕が,プロミスリング(糸を編んで作った腕輪ようのもの)を足に着けていたことに立腹し,…他の園児らの見ている前で,〔児童〕の体を,足が机の上に,頭が机の下になるように,机に載せ,…包丁を〔児童〕の足に押しつけ,出血させた」
 「〔児童〕が小学校5,6年生だったころ…,〔施設長〕によって,性器にはさみを当てられた男児が,叫び声を上げたため,その叫び声を聞いた〔児童〕及び別の園児(男子)が,声を上げたところ,〔施設長〕は,〔児童〕及び上記別の園児に対し,お前達もだ等と言い,〔児童〕を横たえ,その腹部ないし胸部に乗ると,〔児童〕の性器にはさみを当てた」
 「〔児童〕が,…チャボの死骸を焼却するために,焼却炉へ持って行ったところ,〔施設長〕は,〔児童〕に対し,『お前も一緒に(焼却炉に)入れ。』などと言った」
 「〔施設長〕は,…3月ころ…,〔児童〕及び他の数名の園児らが…遊んでいたことに立腹し,寒い時期であったにもかかわらず,…裸のまま1時間以上園庭に立たせた。その間,〔児童〕と並んで立っていた他の園児が,尿意を催(もよお)し,〔施設長〕にそれを訴えたところ,〔施設長〕が,同園児に対し,『そこでしろ。』と言ったため,同園児はやむを得ずその場で排尿し(た)」
 「〔施設長〕は,〔児童〕が中学校1年生の前半ころ…あざができるほど,竹刀や木の棒状のもので,〔児童〕の体部を殴ったり,〔児童〕の頭等を,手の甲で殴ったり…したことが複数回あった」
 「〔施設長〕は…まだ燃えている…マッチの上に〔児童〕の左手の平を押し付け,やけどを負わせた」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕に対し,廊下あるいは保母室で正座するよう指示し,その指示を約1週間解かず,その間,食事をすることも,横になって寝ることも許さなかった」
 「〔施設長〕は,〔児童〕の下顎部を,ボール紙でできた調理用ラップの芯で2回ないし3回つき,現在でも傷跡が残るほどの傷害を負わせた」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕の両腕を真横に上げさせたうえで,竹刀を両袖に通し,その姿勢のまま〔児童〕に立っているよう指示した」
 「〔施設長〕は,…寒い季節に〔児童〕を裸の状態で戸外に立たせ,水をかけた」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕の体部を,しばしば金属バットで叩いた」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕をトイレに行かせなかったことがあった」
 恩寵園事件は,刑事事件にもなりました。当時の職員が強姦罪と強制わいせつ罪で懲役4年の実刑判決,施設長が傷害罪で懲役8ヶ月の実刑判決を,それぞれ受けています(読売新聞2000年10月25日,朝日新聞2001年7月27日)。
【★3】 児童福祉法33条の10 「この法律で,被措置(ひそち)児童等虐待とは,…里親若(も)しくはその同居人,乳児院,児童養護施設,…(以下「施設職員等」と総称する。)が,委託された児童,入所する児童…(以下「被措置児童等」という。)について行う次に掲(かか)げる行為(こうい)をいう。
 一 被措置児童等の身体に外傷が生じ,又(また)は生じるおそれのある暴行を加えること。
 二 被措置児童等にわいせつな行為をすること又は被措置児童等をしてわいせつな行為をさせること。
 三 被措置児童等の心身の正常な発達を妨(さまた)げるような著(いちじる)しい減食又は長時間の放置,同居人若しくは生活を共にする他の児童による前二号又は次号に掲げる行為の放置その他の施設職員等としての養育又は業務を著しく怠(おこた)ること。
 四 被措置児童等に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の被措置児童等に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。」
 同法33条の11 「施設職員等は,被措置児童等虐待その他被措置児童等の心身に有害な影響を及ぼす行為をしてはならない」
【★4】 児童福祉法33条の12第3項 「被措置児童等は,被措置児童等虐待を受けたときは,その旨(むね)を児童相談所,都道府県の行政機関又は都道府県児童福祉審議会に届け出ることができる」
【★5】 児童福祉法33条の12第1項 「被措置児童等虐待を受けたと思われる児童を発見した者は,速やかに,これを…都道府県の設置する福祉事務所,児童相談所,都道府県の行政機関,都道府県児童福祉審議会若(も)しくは市町村に通告しなければならない」
【★6】 児童福祉法33条14第1項 「都道府県は,…速やかに,当該(とうがい)被措置児童等の状況の把握その他…事実について確認するための措置を講ずるものとする」
 同条2項 「都道府県は,前項に規定する措置を講じた場合において,必要があると認めるときは,…当該通告,届出,通知又は相談に係る被措置児童等に対する被措置児童等虐待の防止並びに当該被措置児童等及び当該被措置児童等と生活を共にする他の被措置児童等の保護を図るため,適切な措置を講ずるものとする」
【★7】 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)12条1項 「締約国(ていやくこく)は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項(じこう)について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする」
【★8】 憲法21条1項 「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する」
 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)15条1項 「締約国(ていやくこく)は,結社の自由及び平和的な集会の自由についての児童の権利を認める」
【★9】 憲法28条 「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は,これを保障する」
 労働組合法2条 「この法律で『労働組合』とは,労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。(以下略)」
 同法6条 「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は,労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結(ていけつ)その他の事項(じこう)に関して交渉する権限を有(ゆう)する」
 同法7条 「使用者は,次の各号に掲(かか)げる行為をしてはならない。(略) 二 使用者が雇用(こよう)する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒(こば)むこと」
【★10】 社会福祉法82条 「社会福祉事業の経営者は,常に,その提供する福祉サービスについて,利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない」
 厚生省大臣官房障害保健福祉部長,厚生省社会・援護局長,厚生省老人保健福祉局長,厚生省児童家庭局長平成12年6月7日「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針について」(障第452号,社援第1352号,老発第514号,児発第575号)「2 苦情解決体制」「(3)第三者委員 苦情解決に社会性や客観性を確保し,利用者の立場や特性に配慮した適切な対応を推進するため,第三者委員を設置する」,「3 苦情解決の手順」「(2)苦情の受付 …第三者委員も直接苦情を受け付けることができる」「(4)苦情解決に向けての話合い …第三者委員の立会いによる苦情申出人と苦情解決責任者の話合いは,次により行う。 ア 第三者委員による苦情内容の確認 イ 第三者委員による解決案の調整,助言 ウ 話し合いの結果や海善寺高等の書面での記録と確認」
【★11】 東京都・子供の権利擁護専門相談事業(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/annai/keriyougo.html
 「平成19年度~平成21年度東京都子供の権利擁護専門相談事業活動報告書」(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/annai/keriyougo.files/houkokusyo.pdf)「権利ノートと一緒に『子供の権利擁護専門員会議』あての相談のはがきも配布し,子供が直接悩みなどの相談ができるようなっています。このはがきについては,児童福祉施設の場合,施設内の掲示板等の近くなどにも置かれ,子供たちが自由に使用し,投函(とうかん)できるよう配慮されています。はがきが届いた場合は,専門員が施設を訪問し,子供から直接話を聞き問題解決に向けて子供や施設に対し助言します。また,相談内容によっては,児童相談所の担当児童福祉司と協議し,専門員と児童福祉司と協働して対応する場合もあります。なお,相談内容が施設内虐待ではないかと疑われる場合は、福祉保健局少子社会対策部計画課権利擁護担当と協議の上,対応しています」
【★12】 児童養護施設に入所できるのは,原則18歳未満ですが,自立の観点から必要と認められる場合には,20歳に達するまで入所できます。
 児童福祉法31条2項 「都道府県は,第27条第1項第3号の規定により…児童養護施設…に入所した児童については満20歳に達するまで,引き続き同項第3号の規定による委託を継続し,若(も)しくはその者をこれらの児童福祉施設に在所させ,又はこれらの措置を相互に変更する措置を採ることができる」
【★13】 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準42条6項 「児童指導員及び保育士の総数は,通じて,…満3歳以上の幼児おおむね4人につき1人以上,少年おおむね5.5人につき1人以上とする。…」
【★14】 2009年12月18日国連総会採択決議「64/142. 児童の代替的養護に関する指針」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/dl/yougo_genjou_16.pdf
 「2.…(a) 児童が家族の養護を受け続けられるようにするための活動,又は児童を家族の養護のもとに戻すための活動を支援し,それに失敗した場合は,養子縁組やイスラム法におけるカファーラなどの適当な永続的解決策を探ること。(b) かかる永続的解決策を模索する過程で,又はかかる永続的解決策が実現不能であり若しくは児童の最善の利益に沿っていない場合,児童の完全かつ調和のとれた発育を促進するという条件の下,最も適切な形式の代替的養護を特定し提供するよう保障すること。…」
 「12. 非公式の養護を含め,代替的養護を受けている児童に関する決定は,安定した家庭を児童に保障すること,及び養護者に対する安全かつ継続的な愛着心という児童の基本的なニーズを満たすことの重要性を十分に尊重すべきであり,一般的に永続性が主要な目標となる」
【★15】 平成28年改正児童福祉法3条の2 「国及び地方公共団体は,児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう,児童の保護者を支援しなければならない。ただし,児童及びその保護者の心身の状況,これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案(かんあん)し,児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合にあっては児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう,児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合にあっては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう,必要な措置を講じなければならない」
【★16】 厚生労働省「社会的養護の現状について(参考資料) 平成29年3月」(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000154060.pdf) 里親委託児童4973人,ファミリーホーム(養育者の住居において家庭養護を行う(定員5~6名))1261人の合計6234人に対し,乳児院2901人,児童養護施設2万7288人,情緒障害児短期治療施設1264人,児童自立支援施設1395人,母子生活支援施設5479人,自立援助ホーム516人の合計は3万8843人です。
【★17】 2009年12月18日国連総会採択決議「64/142. 児童の代替的養護に関する指針」
 「23. 施設養護と家庭を基本とする養護とが相互に補完しつつ児童のニーズを満たしていることを認識しつつも,大規模な施設養護が残存する現状において,かかる施設の進歩的な廃止を視野に入れた,明確な目標及び目的を持つ全体的な脱施設化方針に照らした上で,代替策は発展すべきである。…」

2017年3月 1日 (水)

タレント活動を親がやめさせてくれない

 

 中学2年生です。小学生のときから子役タレントをやってきたんですが,最近は,夜遅くまでかかったり,引き受けたくない仕事もあったりして,つらくなってきました。そんな自分の気持ちがほっとかれて,親が活動に熱心になってしまってます。できればタレント活動をやめて,学校の友達と過ごす時間を作りたいんですが,所属事務所も,親も,「最初に自分からやりたいと言い出したんでしょ」と言って,やめさせてくれません。

 



 学校の先生や,弁護士に相談してみてください。

 あなたらしい生活を送れるように,大人の私たちが力になります。




 むかし,子どもは,小さなときから,大人と同じように働かなければなりませんでした。

 今でも,世界の中には,そういう地域が残っています。

 「小さな子どものうちは,仕事をさせないで,教育を受けられるようにしよう」。

 日本をふくむ,世界の国々が,そう約束しています
【★1】

 だから,義務教育を受け終えていない子どもを,働かせてはいけないことになっています
【★2】



 でも,子役タレントは,子どもの時にしかできない仕事です。

 なので,そういう特別な仕事なら,中学校を卒業していなくても,「仕事をしてOK」と認められることがあります。

 OKするのは,労働基準監督署という,国の役所です
【★3】

 略して,「労基署(ろうきしょ)」と呼びます。




 たとえ仕事をするとしても,

 その子が,きちんと教育を受けられるようにしなければいけません。

 だから,学校の校長先生が,

 「この仕事をしても学校生活にマイナスはありません」と認めなければ,

 労基署は,子どもが働くことをOKしません
【★4】【★5】

 労基署がOKした場合でも,

 学校を休んだりせず,学校生活の時間以外で仕事をすることが必要です
【★6】



 憲法には,「子どもを酷使(こくし)してはいけない」と,はっきり書かれています
【★7】

 映画や演劇の子役だけは,小さな子でも認められますが
【★8】

 それ以外の仕事は,13歳以上でなければなりません。

 しかもその仕事は,健康や生活・人生に悪い影響がない,簡単なものでなければいけない,と法律で決まっています
【★3】

 法律が,子どもの皆さんを,酷使されないように,守っているのです。




 あなたの仕事は,夜遅くまでかかっているのですね。

 雇(やと)うがわは,中学校卒業前の子どもを,夜8時を過ぎて働かせてはいけないことになっています
【★9】

 演劇の子役は,もう少し遅くまで働かせることができますが,

 それでも,夜9時までです
【★10】【★11】

 夜遅くまで子どもを働かせている職場は,犯罪として処罰されます
【★12】

(子どもを守るためのルールですから,あなたが罰せられるのではありません。)




 仕事の時間が夜遅いだけでも問題なのに,

 あなたが引き受けたくない仕事までしなければいけないのは,

 まさに,憲法が禁止する「酷使」にあたります。



 日本は,世界とのあいだで,

 「子どもは,休んだり,遊んだりすることができる」と約束しています
【★13】

 あなたが,学校の友達と一緒に過ごす時間がほしいと思うことは,

 けっしてわがままなどではなく,とても大切なことです。




 あなたにとってふさわしくない仕事のとき,

 ほんらいは,

 親が,子どものあなたを守るために,

 事務所と話し合いをしたり,

 事務所との間の契約(けいやく)をナシにするために動かなければいけません
【★14】



 けれど,あなたの親は,あなたのタレント活動にかかわることに熱心になっていて,

 「やめたい」というあなたの気持ちに,寄り添ってくれないのですね。




 子どもは,親の人形ではありません。

 10代という大事な時期をどう過ごすかは,

 人生の主人公であるあなた自身の気持ちが,大切にされなければなりません。




 あなたが小学生のときに自分から「やりたい」と言い出したからといって,

 中学生のあなたが今その仕事をやめられないことの理由には,全くなりません。

 大人だって,自分で始めた仕事を,自分で自由にやめられます。

 ましてや,ものごとをまだよく知らない小学生のときに始めた仕事を,

 成長した今では「やめたい」と思うしっかりした理由もあるのに,

 「子どもだからやめられない,親の言うことに従って続けないといけない」,というのは,まったくおかしなことです。




 まずは,学校の先生に相談してみましょう。

 学校の友達と過ごす時間を作りたい,というあなたの気持ちは,きっと,学校も応援してくれるはずです。

 学校があなたの親と話し合っても変わらないようなら,

 学校から労基署に,「仕事のせいで学校生活にマイナスがあります」と連絡してもらう方法や,

 学校から児童相談所に,「親があなたを守っていない」と連絡してもらう方法もあります。

 いろんなところが,あなたを守るために動いてくれます。



 学校に相談しやすい先生がいなかったり,

 労基署や児童相談所まで巻き込むことに心配だったりするかもしれません。

 そのときは,私たち弁護士に相談してみてください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。



 あなたが自分らしく毎日の暮らしを送れるように,

 私たち大人が,あなたの味方になります。

 

 

【★1】 ILO(国際労働機関)就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)2条1項 「この条約を批准(ひじゅん)する加盟国(かめいこく)は,その批准に際(さい)して付する宣言において,自国の領域(りょういき)内…における就業(しゅうぎょう)が認められるための最低年齢を明示する。…」
 同条3項 「1の規定に従(したが)って明示する最低年齢は,義務教育が終了する年齢を下回ってはならず…」
【★2】 労働基準法56条1項 「使用者は,児童が満15才に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで,これを使用してはならない」
【★3】 労働基準法56条2項 「前項の規定にかかわらず,別表第一第一号から第五号までに掲(かか)げる事業以外の事業に係(かか)る職業で,児童の健康及び福祉に有害でなく,かつ,その労働が軽易なものについては,行政官庁の許可を受けて,満13歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については,満13歳に満たない児童についても,同様とする」
 年少者労働基準規則2条1項 「所轄労働基準監督署長は,…使用許可の申請について許否の決定をしたときは,申請をした使用者にその旨を通知(し),…許可しないときは,当該申請にかかる児童にその旨を通知しなければならない」
【★4】 年少者労働基準規則1条 「使用者は,労働基準法…第56条第2項の規定による許可を受けようとする場合においては,使用しようとする児童の年令を証明する戸籍証明書,その者の修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書を…使用許可申請書に添えて,これをその事業場の所在地を管轄(かんかつ)する労働基準監督署長…に提出しなければならない」
【★5】 昭和63年3月14日労働省労働基準局長・労働省婦人局長「労働基準法関係解釈例規について」(基発第150号,婦発第47号) 「<児童の使用許可> 使用許可にあたって (1) 児童の心身の状況を直接調査した上で決定すること。 (2) 児童福祉法の規定に違反することのないよう充分注意すること。 (3) 児童の教育上の要求について充分考慮すること。殊(こと)に就業した後学校長よりの要求があった場合速(すみや)かに実情を調査した上で適当な措置を講じられたいこと。…(以下略)[昭和22・11・11発婦第2号]」
【★6】 労働基準法56条2項(【★3】)に「修学時間外に使用することができる」と書かれています。
【★7】 憲法27条3項 「児童は,これを酷使(こくし)してはならない。」
【★8】 労働基準法56条2項(【★3】)の但書(ただしがき)
【★9】 労働基準法61条1項 「使用者は,満18歳に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない。…」
 同条5項 「第1項…の時刻は,第56条第2項の規定によって使用する児童については,第1項の時刻は,午後8時及び午前5時と(する)…」
【★10】 労働基準法61条2項 「厚生労働大臣は,必要であると認める場合においては,前項の時刻を,地域又は期間を限って,午後11時及び午前6時とすることができる」
 同条5項 「…第2項の時刻は,第56条第2項の規定によって使用する児童については,…第2項の時刻は,午後9時及び午前6時とする」
 平成16年11月22日「労働基準法第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する厚生労働大臣が必要であると認める場合及び期間」(厚生労働省告示第407号) 「労働基準法…第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する厚生労働大臣が必要であると認める場合は,同法第56条第2項の規定によって演劇の事業に使用される児童が演技を行う業務に従事する場合とし,同法第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する期間は,当分の間とする。」
【★11】 記事本文は,事務所に雇(やと)われている雇用(こよう)契約について書いていますが,雇われているのでなければ(=労働者でなければ),午後8時や午後9時という制限がかかりません。どのような場合に「労働者でない」と判断されるかについて,国は,次のように言っています(これによって当時のアイドルグループ「光GENJI」が夜9時以降の生放送のテレビ番組に出演できるようになったことから,「光GENJI通達」と呼ばれています)。
 昭和63年7月30日基収第355号 「問 当局管内には劇団あるいはいわゆる芸能プロダクション等が多く,それら事業場から労働基準法第56条に基づく児童の使用許可申請がなされることが少なくないところである。当局においては,これら申請に係る子役あるいはタレントについては,一般にその所属する劇団あるいは事務所との間に労働契約関係があるものと考えるが,なかには,その人気の程度,就業の実態,収入の形態等からみて,労働契約関係ありとみるには疑問なしとしない事例が散見されるところである。そこで,これらの事例については,下記の通り取り扱ってよろしいか,お伺いする。 記 次のいずれにも該当する場合には,労働基準法第9条の労働者ではない。 一 当人の提供する歌唱,演技等が基本的に他人によって代替できず,芸術性,人気等当人の個性が重要な要素となっていること。 二 当人に対する報酬は,稼働時間に応じて定められるものではないこと。 三 リハーサル,出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても,プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。 四 契約形態が雇用契約ではないこと。」「答 貴見のとおり。」
【★12】 労働基準法第119条1項 「次の各号の一に該当(がいとう)する者は,これを6箇月以下の懲役(ちょうえき)又は30万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 …第61条…の規定に違反した者 (以下略)」
【★13】 児童の権利に関する条約31条1項 「締約国(ていやくこく)は,休息及び余暇(よか)についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める」
【★14】 労働基準法58条2項 「親権者若(も)しくは後見人又は行政官庁は,労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては,将来に向(むか)ってこれを解除(かいじょ)することができる」

2015年4月 1日 (水)

まわりにからかわれるおかしな名前を変えたい

 

 親が付けたおかしな名前のせいで,小学校のころからずっと,からかわれてきました。自分の名前を変えることはできますか。

 

 まず,どうしてその名前を付けたのかを親に聞き,

 そして,今つらい思いをしていることを,親に話しましょう。

 どうしても名前を変えたいのであれば,

 裁判所がOKすれば,変えられることがあります。

 また,名前の読み方は,特に手続をしなくても,変えられます。

 ふだんの暮らしの中で,戸籍(こせき)とはちがう名前を使っていく,という生き方もあります。




 子どもが生まれると,「出生届」を,役所に,2週間以内に出します
【★1】

 出生届には,親が決めた,その子の名前が書かれています。

 そして,その名前で,その子の戸籍が作られます
【★2】

 「戸籍」は,役所が,一人ひとりの情報を,家族単位で管理しているものです。



 自分で選んだわけではない,親が付けたその名前のせいでからかわれるのは,とてもつらいことですよね。


 まずは,親がどんな気持ちでその名前を付けたのか,聞いてみてください。

 そして,今,名前でつらい思いをしていることを,親にきちんと伝えてみてください。



 ほかの人とはちがった,ちょっと変わった名前を,親が子どもに付けることは,ずっと昔からありました。

 700年ほど前に書かれた吉田兼好(兼好法師)の「徒然草(つれづれぐさ)」にも,そんな話が出てきます
【★3】


 名前は,親からの,人生で最初のプレゼントです。

 そして,死ぬまで一生ずっと,使い続けます。

 モノや人形やペットの名前は,私たちのほうが呼び分けるためのものにすぎませんが,

 人の名前は,名付けられたその人自身が使い続ける,特別なものです。

 この世に生まれてきてくれたことの喜びと,

 「こういう素敵な人間になってほしい」という願いを込めて,

 親は,一生懸命考え,子どもの名前を決めています。



 「この世界の中で,たった一人のかけがえのない特別な存在として,輝いてほしい」。

 ほかの人とちがった,ちょっと変わった名前には,親のそういう大切な願いが込められていることが,多いと思います。



 この社会は,ほんとうにさまざまな人たちが,お互いのちがいを尊重し合うことで,成り立っています。

 大人の社会では,他の人とちがっているほうがプラスに働くことも,多くあります。

 じっさい,珍しい名前だと,まわりからすぐに覚えてもらえて,とても存在感があります。

 それだけでなく,

 自分の珍しい名前を誇(ほこ)りにして生きている人は,

 自分がほかの人とちがっていることをだいじにし,

 そして,一人ひとりがちがっていることを,きちんと尊重できる,

 そんな素敵な人が多いです。



 ところが,

 「いじめは犯罪?どうして法律ではダメなのか」の記事にも書いたように,

 お互いを尊重し合うことの大切さをきちんと学んでいない,特に,同じような子どもたちが集まっている場では,

 少しでも他の人とちがうところがある子を,いじめたり,からかったりすることが,起きてしまいます。

 これは,まったくおかしなことです。



 親や,いろんな大人たちに,相談してみてください。

 あなたが今つらい思いをしている原因,ほんとうに変えなければいけないものは,

 あなたの名前ではなく,

 あなたのまわりのほうかもしれません。



 しかし,親によっては,

 まるで,モノや人形やペットに名前を付けるように,子どもに名前を付けていたり,

 本人が一生使い続けるものだということをきちんと考えないで,子どもに名前を付けていたりするケースが,

 残念ながら,時々あります。

 過去には,親が子どもに「悪魔」と名前を付けて,大きな問題になったケースもありました。

 たとえ親であっても,何でもかんでもまったく自由に子どもの名前をつけていいわけではありません。

 「あきらかにおかしな名前の出生届なら,役所がそれを断ってもいい場合がある」,

 裁判所も,悪魔ちゃん事件で,
そう言っています【★4】


 そうはいっても,役所が断ってもいいほどのケースというのは,かなりかぎられているので,

 役所が受け付けてしまった名前で,つらい思いをしている人も,多くいるでしょう。

 親やいろんな大人と話し合い,ずっと深く考えても,

 やっぱりどうしても名前を変えたい,ということも,あると思います。



 名前は,裁判所が認めれば,変えることができます【★5】

 あなたが15歳以上なら,自分で手続をします
【★6】

 15歳になっていなければ,親が手続をします


 ただ,名前を変えることを裁判所が認めるのは,そんなにかんたんではありません。

 名前が自由気ままに変えられるとしたら,誰が誰だかわからなくなって,社会が混乱(こんらん)してしまうからです。

 「自分の名前が嫌いだ」という理由だけでは,名前を変えることは難しいですが
【★7】

 おかしな名前や,読み方の難しい名前で,社会生活がとてもこまるようであれば,名前を変えることが認められる場合があります
【★8】

 もし,裁判所の手続で名前を変えたいのであれば,いちど,弁護士に相談してみてください。



 じつは,名前の漢字はそのままで,その読み方を変えるだけであれば,

 裁判所の手続は,必要ありません。

 法律には,「どの漢字を名前に使っていいか」というルールはありますが
【★9】

 「名前に付けたその漢字をどう読むか」というルールは,特にありません。

 出生届には,付けた名前の漢字といっしょに,読み方も書きますが,

 役所がつくる戸籍には,名前の読み方は,書かれません
【★10】

 だから,読み方を変えるだけならば,基本的に,自由にできるのです
【★11】


 また,戸籍の名前はそのままで,日常生活の中では,できるかぎり別の名前を使って暮らしていく,という生き方もあります。

 そして,その名前でずっと長い間暮らしていれば,

 「こっちの名前を長く使い続けてきた」という理由で,

 将来,裁判所が名前を変えることを認めてくれる可能性も,高まります
【★12】


 名前は,自分が自分らしく生きていくうえで,とてもだいじなものです。

 親の思いを受け止めて,親からもらった名前を一生使い続けていくのでも,

 自分で,戸籍の名前を変えたり,読み方を変えたり,日常生活で別の名前を使ったりするのでも,

 そのどちらであっても,自分で自分を大切にして選んだのであれば,

 それがいちばん自分らしい生き方だと思います。

 

【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法29条 「届書には,左の事項(じこう)を記載し,届出人が,これに署名し,印をおさなければならない。
(略)
 四 届出人と届出事件の本人と異なるときは,届出事件の本人の氏名,出生の年月日,住所,戸籍の表示及び届出人の資格」
【★3】 徒然草116段 「寺院の号,さらぬ万(よろず)の物にも,名を付くる事,昔の人は,少しも求めず,ただ,ありのままに,やすく付けけるなり。この比(ころ)は,深く案じ,才覚をあらはさんとしたるように聞(きこ)ゆる,いとむつかし。人の名も,目慣れぬ文字を付かんとする,益(えき)なき事なり」(「お寺の名前などは,むかしはわかりやすいものを付けていたけれど,最近はそうではない。人の名前も,見慣れない字を使ったりする」,と吉田兼好が嘆(なげ)いている文です)
【★4】 東京家庭裁判所八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1468号56頁) 「名は極(きわ)めて社会的な働きをしており,公共の福祉(ふくし)にも係(かか)わるものである。従(したが)って,社会通念に照らして明白に不適当な名や一般の常識から著(いちじる)しく逸脱(いつだつ)したと思われる名は,戸籍法上使用を許されない場合があるというべきである。」「民法1条3項により,命名権の濫用(らんよう)と見られるようなその行使は許されない。…被(ひ)命名者である子の利益を著(いちじる)しく損(そこ)なうものとか,子の人格を冒瀆(ぼうとく)するような名は避けるべく,命名にあたっては,この点に対する配慮が必要である。」「例外的には,親権(命名権)の濫用(らんよう)に亙(わた)るような場合や社会通念上明らかに名として不適当と見られるとき,一般の常識から著しく逸脱しているとき,または,名の持つ本来の機能を著しく損なうような場合には,戸籍事務管掌者(かんしょうしゃ)(当該市区町村長)においてその審査権を発動し,ときには名前の受理を拒否(きょひ)することも許されると解される。」
 ただし,このケースでは,出生届を一度受理して「悪魔」という名前の子どもの戸籍を作ってしまったあとで,役所がそれを消したというケースでした。裁判所は,「一度戸籍を作ってしまった以上は,勝手に名前を消してはいけない」と述べて,「悪魔」という名前で戸籍を作るよう役所側に言い渡しました。
 もっとも,その上の高等裁判所で裁判が続いている間に,親が,その子どもの名前を変えることにしたので,裁判は取り下げられて,終わりました(井戸田博史「氏と名と族称-その法学史的研究-」137頁「第6章 出生子命名権-『悪魔』『琉』命名事件-」)。
【★5】 戸籍法107条の2 「正当な事由(じゆう)によって名を変更しようとする者は,家庭裁判所の許可を得て,その旨(むね)を届け出なければならない。」
 「正当な事由」は,次のようなものが挙げられています(佐上善和「家事事件手続法Ⅱ」439頁)。(1)仕事のうえで襲名(しゅうめい)する必要がある,(2)同姓同名の人がいて社会生活のうえでとてもこまる,(3)神官や僧侶となる,またはそれらを辞める,(4)珍奇(ちんき)な名,外国人と紛(まぎ)らわしい名,とても難解・難読の文字を用いた名などで,社会生活のうえでとてもこまる,(5)外国籍から日本国籍に帰化(きか)し,日本風の名に変える,(6)長年使ってきた通称,(7)幼ない時に受けた性的虐待のことを思い起こさせる,(8)性同一性障害(心の性別と体の性別のちがいのために社会生活のうえで苦痛がある)
【★6】 「問題 戸籍法107条の規定による氏又は名の変更の許可の申立は満15歳以上の未成年の者よりすることができるか。 決議 意思能力のある限り,年齢の如何(いかん)にかかわらず,氏又は名の変更の許可の申立をすることができる。」(昭和29年9月30日民事法調査委員会決議)
 「申立人が未成年者であっても,事理弁識能力があれば申立てをすることができ,15歳以上であれば事理弁識能力があると解されている」(岩井俊「家事事件の要件と手続」389頁)
【★7】 「命名された名に対する主観的感情…を理由とする改名は,それだけでは改名の正当な事由とはされない」(佐上善和「家事事件手続法Ⅱ」441頁)
【★8】 大阪高等裁判所昭和27年9月16日決定(家月5巻5号167頁) 「戸籍法第107条第2項〔注:現107条の2〕に規定する名の変更についての正当な事由とは,…改名申立人の名に社会生活上著しく支障を生じる程度に珍奇ないしは著しい難解難読の文字を用いた場合等であると解すべき…」
【★9】 戸籍法50条1項 「子の名には,常用平易(じょうようへいい)な文字を用いなければならない」
 同条2項 「常用平易な文字の範囲は,法務省令でこれを定める」
【★10】 以前は,出生届を出すときに希望すれば,戸籍に名前の読み方も載せる扱いがされていました。しかし,平成6年(1994年)からは,読み方は一切戸籍に載せないことになりました(平成6年11月16日民二第7005号民事局長通達)「戸籍法施行規則の一部を改正する省令の施行等に伴う関係通達等の整備について」)。
【★11】 記事本文は,戸籍について書いています。住民票は,市区町村によって,名前の読み方も書くところと,書かないところとがあります。住民票に名前の読み方も書かれている場合には,その変更のやり方は,市区町村に問い合わせてみてください。
 また,もしあなたがパスポートを作っている場合には,いったん自分で登録した名前の読み方(ローマ字表記)を変えるのには,条件があります。
 旅券法施行規則5条2項 「法第6条第1項第二号の氏名は,戸籍に記載されている氏名…について国字の音訓及(およ)び慣用により表音されるところによる。ただし,申請者がその氏名について国字の音訓又は慣用によらない表音を申し出た場合にあっては,公の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用されているものであることが確認され,かつ,外務大臣又は領事館が特に必要であると認めるときはこの限(かぎ)りではない」
 同条3項 「前項の氏名はヘボン式ローマ字によって旅券面に記載する。…」
 同条4項 「前項の規定に基づき旅券面に記載されるローマ字表記は,外務大臣又は領事館が特に必要と認める場合を除(のぞ)き変更することができない」
【★12】 大阪高等裁判所昭和40年1月28日決定(家月17巻3号54頁) 「通名の使用を理由として名の変更の許されるのは,その使用が永年にわたり,そのため本人の交友関係,職務関係その他一般社会生活のあらゆる面において,通名が戸籍名にとつて代り,戸籍名では却(かえ)って本人の同一性の識別に支障を来すような程度に達した場合に限られ,たとえ通名を使用しても右の程度に至らない場合には,戸籍法107条2項〔注:現107条の2〕に定める名の変更の正当事由を具備(ぐび)するものではないと解するのが相当である」 

2014年8月 1日 (金)

後見人の弁護士がつくってどういうこと?

 

 中学1年生です。お父さんとおばあちゃんの3人で暮らしてたんですが,この前,お父さんが事故で亡くなりました。今,おばあちゃんと2人で生活してます。最近,裁判所の人との面接があって,「おばあちゃんと,弁護士の人が,あなたの後見人(こうけんにん)になります」って言われたんですが,説明がよくわかりませんでした。弁護士の後見人がつくって,どういうことですか。

 


 「後見人」というのは,文字どおり,あなたを後ろから見守ってくれる,親代わりの人のことです。


 親が亡くなってしまった。

 親が行方不明になってしまった。

 裁判所が「親としてふさわしくない」と判断した
【★1】


 そんないろんな事情で,子どもに親がいなくなってしまうと,

 子どもの生活を見たり,子どもの財産をきちんと見る人が,いなくなってしまいます。



 だから,そういう時に,家庭裁判所が,親代わりの人を選びます。

 それが,「未成年後見人」です
【★2~4】



 「後見」という言葉は,明治時代に今の民法という法律ができるよりもずっと前から,日本にありました。

 室町時代に観阿弥(かんあみ)・世阿弥(ぜあみ)が始めた,「能」という伝統的な舞いがあります。

 その舞台の奥のほうで,役者が舞うのをしっかりと見守っている人が,「後見」です。

 舞いで役者の服がみだれてきたら,後見の人が,さっと服を整えてくれます。

 もし役者が舞えなくなったときには,後見の人が前に出てきて,本人の代わりに舞います
【★5】


 法律の「後見」も,それと似たような役割をします。

 子ども本人がきちんと生活できているかどうかを,未成年後見人が見守り,サポートします。

 子ども本人では難しい法律的な手続があれば,未成年後見人が,本人に代わってします。




 法律上,20歳で成人したら,自分のことを全部自分でしなければならなくなります
【★6】

 その成人するまでの間,親がいない子どもに,未成年後見人が付いてサポートをすることは,とてもだいじなことです。



 誰が,子どもの未成年後見人になるか。

 それは,家庭裁判所が,いろんなことを考えて,決めています
【★7】


 そして,家庭裁判所は,「未成年後見人がきちんと子どもをサポートしているかどうか」を,きちんとチェックしています【★8】


 つい最近まで,未成年後見人は,たった1人しかなれませんでした【★9】

 未成年後見人は,親族の中から選ばれることが多いのですが,

 たとえば,亡くなった親が残した財産がたくさんあって,その管理が複雑だったりすると,親族の未成年後見人1人では,とても大変です。



 だから,2年前に法律が変わりました【★10】

 1人だけでなく,複数で未成年後見人になることが,認められるようになりました。



 たぶん,あなたの場合,

 「日々の生活のことは,いっしょに暮らしているおばあちゃんが親代わりとしてメインで担当し,

 お父さんが残した財産の管理のことは,法律の専門的な知識が必要だから,弁護士がメインで担当するのがいい」,

 と,裁判官が考えたのだと思います
【★11】

 裁判所が,信頼できる弁護士たちのリストの中から選んできて,

 その弁護士が,あなたのおばあちゃんとタッグを組んで,あなたを支えてゆくのです。



 これまで,弁護士が子どもとかかわる場面といえば,

 犯罪のこと,学校のこと,親子のことなど,

 何らかのトラブルがきっかけとなって出会い,

 そのトラブルの解決のためにかかわる,というのが,ほとんどでした。

 だから,

 弁護士と子どもが話す内容は,そのトラブルにかかわることが中心ですし,

 そのトラブルが解決すれば,弁護士と子どものつきあいも,基本的にはそこで終わってしまいます。


 でも,この未成年後見人としての弁護士とのかかわりは,ちがいます。

 あなたの生活全般について広く弁護士がサポートできますし,

 あなたが成人するまでの,とても長い間,あなたとつきあうことができます。

 ずっとあなたをサポートする,力強い味方の弁護士が,あなたのそばにいます。

 しかも,その弁護士のさらに後ろで,裁判所も,あなたを守っています。



 親を亡くして,とてもつらかったと思います。

 そして,親を亡くしたことで,いままで知らなかった弁護士と,新たに出会うこととなったのも,ほんとうに不思議な縁だと思います。

 その弁護士のサポートをうまく受けながら,ぜひ,自分らしい生き方を見つけていってください。

 

 

【★1】 「親権喪失(そうしつ)」と「親権停止」の手続があります。
民法834条 「父又は母による虐待(ぎゃくたい)又(また)は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著(いちじる)しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでない」
民法834条の2第1項 「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権停止の審判をすることができる」
【★2】 民法838条 「後見は,次に掲(かか)げる場合に開始する。
 一  未成年者に対して親権を行う者がないとき,又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
 二  後見開始の審判があったとき。」
 民法839条1項 「未成年者に対して最後に親権を行う者は,遺言(いごん)で,未成年後見人を指定することができる。…」
 民法840条1項 「前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは,家庭裁判所は,未成年被後見人(みせいねんひこうけんにん)又(また)はその親族その他の利害関係人の請求によって,未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも,同様とする。」
 認知症(にんちしょう)などでも,「成年後見」の制度があります。本人に必要なサポートの度合いによって,「後見」「保佐」「補助」というバリエーションがあります(民法7条~18条)。成年後見では,裁判所が「始めます」という「開始の審判」をして,はじめて,サポートをする人(後見人・保佐人・補助人)を誰にするかを選びます。しかし,子どもにつける未成年後見の場合は,親権者がいなければ,当然に後見がスタートすることになっていて(民法838条1号),裁判所は,誰を未成年後見人に選ぶかを決めるだけです。
 大人の場合には,自分のことを自分でするのが基本なので,誰かがサポートに入るのはあくまで例外です。ですから,その例外にあたるのかどうかを,裁判所がきちんと判断する必要があります。ぎゃくに,子どもの場合には,まだ法律的なことを自分ではできないのが基本なので(民法5条),親権者がいなければ,自動的に後見がスタートするのです。
【★3】 民法第857条 「未成年後見人は,第820条から第823条までに規定する事項について,親権を行う者と同一の権利義務を有(ゆう)する。…」
  民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有し,義務を負う。」
 民法821条 「子は,親権を行う者が指定した場所に,その居所を定めなければならない。」
 民法822条 「親権を行う者は,第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒(ちょうかい)することができる。」
 民法823条1項 「子は,親権を行う者の許可を得なければ,職業を営(いとな)むことができない。」
【★4】 あなたが15歳以上なら,おばあちゃんと養子縁組の届出をして,おばあちゃんが「養親」として法律上の親になることができます。
 民法797条1項 「養子となる者が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,縁組の承諾(しょうだく)をすることができる」
 これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても養子縁組をするかどうかは自分で決める,ということです。
 民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
 民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者(はいぐうしゃ)の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」(「自己」は自分のこと,「配偶者」は,夫から見た妻,妻から見た夫のこと,「直系卑属」は,子ども・孫・ひ孫・・・のことです。)
 しかし,15歳になっていない子どもが養子縁組をするには,「法定代理人」という人(親や,親代わりの人)が手続きをする必要があります。でも,あなたの場合,お父さんが亡くなったことで,法定代理人がいません。だから,今の時点では養子縁組をすることができなくて,未成年後見人が選ばれることになるのです。
 その後,未成年後見人の判断で,おばあちゃんと養子縁組をすることもありえますし,あなたが15歳になって養子縁組を自分ですることもできます。そうすると,おばあちゃんが親権者になり,未成年後見も,そこで終わります。
【★5】 「the能ドットコム」能楽用語事典「後見」
 http://db2.the-noh.com/jdic/2008/05/post_18.html
【★6】 民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする。」
【★7】 民法840条3項 「未成年後見人を選任するには,未成年被後見人の年齢,心身の状態並(なら)びに生活及び財産の状況,未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無),未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。」
【★8】 民法863条1項 「後見監督人又は家庭裁判所は,いつでも,後見人に対し後見の事務の報告若(も)しくは財産の目録の提出を求め,又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。」
 同条2項 「家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で,被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。」
【★9】 改正前の民法842条(改正によって今はこの条文はなくなりました) 「未成年後見人は,1人でなければならない。」
【★10】 改正後の民法は,平成24年4月1日から施行されています。
【★11】 民法857条の2第1項 「未成年後見人が数人あるときは,共同してその権限を行使する。」
 同条2項 「未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,その一部の者について,財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる。」
 同条3項 「未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,財産に関する権限について,各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌(ぶんしょう)して,その権限を行使すべきことを定めることができる。」

2014年5月 1日 (木)

子どもから父親とその不倫相手に慰謝料請求できる?

 

 中学2年生です。お父さんが同じ職場の女性と不倫(ふりん)して,家を出て,その女性といっしょに暮らしています。両親はまだ離婚してませんが,お父さんは私に全く会おうともしないし,大きな会社に勤めているのに生活費も払ってくれません。そんなお父さんと,不倫相手の女性に,子どもの私から,「慰謝料(いしゃりょう)を払って」と言えるんですか。

 

 父親が付き合っている相手の女性に,子どもから慰謝料を払えと言えるかどうか。


 今から35年前に,最高裁が,こんな判決を出しています
【★1】


 「父親が子どもに愛情を注(そそ)いだりすること。

 それは,他の女性といっしょに暮らすかどうかに関係なく,父親が自分で決めて,自分でできる。


 つまり,その女性は,関係ない。

 だから,子どもからその女性に,『慰謝料を払え』とは,言えない。

 たとえば,

 『父親自身は子どもに愛情を注ぎたいと思っているのに,その女性がじゃまをしている』,

 そのような,よほどのことがなければ,子どもはその女性に慰謝料を払えとは言えない。」



 最高裁は,同じ日に,同じようなもう一つの事件の判決も出しています。

 お母さんが,海外にいる他の男性と暮らすようになったケースでした。

 裁判所は,「住む場所が海外になっても関係ない」,と言いました。

 子どもに愛情を注ぐことは,他の男性といっしょに暮らすかどうかに関係なく,母親が自分で決めて,自分でできる。

 それは,海外に行っても,同じこと。


 だから,子どもからその男性に慰謝料を払えとは言えない,としたのです【★2】


 なんだか不思議なりくつですね。

 たしかに,「他の人と付き合い始めても,自分の子どもに変わらず愛情を注げる」,という親もいるでしょうし,

 「だれかと付き合い始めたというわけではないけれど,夫婦の仲が悪くなって別々に暮らしはじめ,離れた子どもに愛情を注がなくなる」,という親もいるでしょう。

 そのりくつからすると,親が付き合っている相手は,関係ないかもしれません。


 でも,親が他の人と付き合うようになって,

 家を出てその人と暮らすようになったからこそ,

 子どものことを見向きもしなくなっているのに,

 親が付き合っている相手が「関係ない」なんて言っていいのか,関係があるはずじゃないか。

 最高裁の判決を書いた4人の裁判官のうち,1人の裁判官は,そう言っています。

 その裁判官は,「親が付き合っている相手は,子どもに慰謝料を払うべきだ」と反対の意見を言っています
【★3】


 ただ,「親が付き合っている相手も関係がある」とはいっても,

 やはり,あなたに親としての責任を負うのは,お父さんです。

 他の人と付き合い始めていっしょに暮らそうと,そうでなかろうと,

 きちんと子どもと交流を続けて,生活費や学費を払うのが,親として当たり前のことです。


 だから,
お父さんの相手の女性よりも,まずは,お父さんと話をしていきましょう。

 そして,慰謝料よりも,まずは,交流や生活費・学費のことそのものについて,話をしていきましょう。

 あなたやお母さんから,お父さんに,「きちんと子どもと会ったり,連絡を取り合ったりしてほしい」「生活費や学費をきちんと払ってほしい」ということが,だいじです【★4】【★5】

 話し合いがうまくいかないようなら,裁判所で話し合ったり,裁判所に判断してもらったりすることもできます
【★6】


 お父さんが,交流や生活費・学費といった「親としての義務」を,きちんとはたさない。


 そのために,あなたが苦痛を受ける。

 その苦痛をやわらげるため「慰謝料」の話は,まず交流や生活費・学費の話をした後,その次にすることだろうと,私は思います【★7】


 「お父さんの相手の女性にもお金を払えと言うかどうか」,とか,

 「お父さんに求めるのを『慰謝料』にするのかどうか」,などの,

 「だれに何を求めるか」ということは弁護士に相談するとして,

 一番だいじなことは,

 お父さんが他の人と付き合い始めて家を出て行ったことへの怒りや,

 お父さんから自分が無視されることのさみしさ,かなしさについて,

 子どものあなた自身から声を上げていいんだ,ということなのです【★8】

 

【★1】 最高裁第二小法廷昭和54年3月30日判決・民集33巻2号303頁。「妻及(およ)び未成年の子のある男性と肉体関係を持った女性が妻子(さいし)のもとを去った右男性と同棲(どうせい)するに至(いた)った結果,その子が日常生活において父親から愛情を注がれ,その監護(かんご),教育を受けることができなくなったとしても,その女性が害意(がいい)をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止(そし)するなど特段の事情のない限(かぎ)り,右女性の行為(こうい)は未成年の子に対して不法行為(ふほうこうい)を構成するものではないと解(かい)するのが相当である。けだし,父親が未成年の子に対し愛情を注ぎ,監護,教育を行うことは,他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく,父親自らの意思によって行うことができるのであるから,他の女性との同棲の結果,未成年の子が事実上父親の愛情,監護,教育を受けることができず,そのため不利益を被(こうむ)ったとしても,そのことと右女性の行為との間には相当因果関係(そうとういんがかんけい)がないものといわなければならないからである。」
【★2】 最高裁第二小法廷昭和54年3月30日判決・判例時報922号8頁。「・・・このことは,同棲の場所が外国であっても,国内であっても差異(さい)はない。」
【★3】 本林譲裁判官反対意見「私は,未成年の子を持つ男性と肉体関係を持ち,その者の子供を出産し,妻子のもとを去った右男性と同棲するに至った女性がたとえ,自(みずか)らその同棲を望んだものでもなく,同棲後も,男性が妻子のものに戻ることに敢(あ)えて反対しないのであっても,同棲の結果,男性がその未成年の子に対して全(まった)く,監護,教育を行わなくなったのであれば,それによって被る子の不利益は,その女性の男性との同棲という行為によって生じたものというべきであり,その間には相当因果関係があるとするのが相当であると考えるのである。けだし,不法行為における行為とその結果との間に相当因果関係があるかどうかの判断は,そのような行為があれば,通常はそのような結果が生ずるであろうと認められるかどうかの基準によってされるべきところ,妻子のもとを去って他の女性と同棲した男性が後に残して来た未成年の子に対して事実上監護及び教育を行うことをしなくなり,そのため子が不利益を被ることは,通常のことであると考えられ,したがって,その女性が同棲を拒(こば)まない限り,その同棲行為と子の被る右不利益との間には相当因果関係があるというべきだからである。更(さら)に,日常の父子の共同生活の上で子が父親から日々,享受(きょうじゅ)することのできる愛情は,父親が他の女性と同棲すれば,必ず奪われることになることはいうまでもないのであり,右女性の同棲行為と子が父親の愛情を享受することができなくなったことによって被る不利益との間には,相当因果関係があるということができるのである。」
【★4】 民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又(また)は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない」
【★5】 面会交流は,ふつう,離れている親のほうが,「子どもに会いたい」と求めるケースがほとんどです。しかし,私は,子どものほうから離れている親に「会いたい」と求める話し合いや,裁判所での手続が,もっと行われるべきだと思います。
【★6】 家庭裁判所で「調停(ちょうてい)」という話し合いをし,それでもまとまらなければ,裁判所に「審判(しんぱん)」というかたちで判断してもらいます。これらの手続は,離婚する前であってもすることができます。
【★7】 りくつから言えば,お父さんに対する慰謝料請求は認められる可能性があります。本文で書いた最高裁の判決の中でも,裁判官の個別の意見で,そのような可能性を指摘しているものがあります。
 大塚喜一郎裁判官補足意見「なお,本件のような事案において,子が父親に対しては損害賠償の請求を行わず,その同棲の相手方となった女性に対してだけ損害賠償の請求をする事例が一般的であるところ,その請求者の態度は心情的に理解できないわけではないが,この一般的事実及び背景にある法解釈論は,本件相当因果関係の判断に関する考慮要素とすることができる。」
 本林譲裁判官反対意見「民法820条は,親権を行う者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負うと規定する。…(略)…少なくとも親が故意(こい)又は過失(かしつ)によって右義務を懈怠(けたい)し,その結果,子が不利益を被ったとすれば,親は,子に対して不法行為法上の損害賠償義務を負うものというべきであるから,右不利益は,不法行為法によって保護されるべき法益(ほうえき)となり得ると考えられるのである。」
【★8】児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)12条1項「締約国(ていやくこく)は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項(じこう)について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度(せいじゅくど)に従(したが)って相応(そうおう)に考慮されるものとする。」
 同条2項「このため,児童は,特に,自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において,国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若(も)しくは適当な団体を通じて聴取(ちょうしゅ)される機会を与えられる。」
 

 

2013年11月 1日 (金)

「親子の縁を切る」「戸籍から抜く」と言われた

 

 親から,「お前とは親子の縁(えん)を切る,戸籍(こせき)から抜(ぬ)く」と言われました。親子の縁を切られたり,戸籍から抜かれたりすると,いったいどうなるんですか。

 

 親から,「親子の縁を切る」とか,「戸籍から抜く」と言われるのは,とてもさみしい,悲しいことですよね。


 でも,法律的に親子の関係を切ったり,子どもを戸籍から抜いたりすることは,よほど特別なことがないかぎり,できません。

 あなたの親が言っていることは,ほとんど無理なことだと思ってもらって,まちがいありません。



 そもそも,「親子の縁を切る」というのは,法律の世界にはない言葉です。


 子どもが生まれると,役所に,「生まれました」という届出をします【★1】

 このときに,父親がだれで,母親がだれか,ということも届け出ます
【★2】

 いったんこの届出をしたら,後になって「やっぱり親子の関係をやめます」ということはできません。

 「この人が親で,この人が子どもだ」,ということ。

 「法律上の親子のつながりがある」,ということ。

 そのことは,これから先も,ずっと変わらないのです
【★3~5】

 将来あなたが結婚して,その家を出ても,

 あなたがどこかに養子に行って,その家を出ても,

 あなたか,親の,どちらかが死んだとしても,

 法律上親子のつながりがあるということは,ずっと変わりません。

 親子の関係を切ることは,できないのです。



 あなたが20歳になるまでの間,親としてあなたに責任をもつ人のことを,「親権者(しんけんしゃ)」と言います【★6】

 この「親権者」をやめます,ということも,裁判所が認めなければ,できません
【★7】

 裁判所は,よほどの事情がなければ,勝手に「親権者」をやめることなど,認めないのです
【★8】

 もし,いろんな事情で親が「親権者」でなくなっても
【★9】,上に書いたとおり,法律上親子のつながりがあるということじたいは,やはり変わりません。


 「戸籍」は,一人ひとりの情報を,家族単位で,役所が管理しているものです。

 お父さん・お母さん,そして子どももいっしょに,戸籍にまとめて載っています。

 子どもが親の戸籍から抜けるのは,ふつうは,子どもが,だれかと結婚したときか,どこかの家に養子に行ったときです。

 でも,結婚にしても,養子にしても,相手のいることですから,親だけで勝手にすることはできません。



 結婚や養子縁組をしなくても,大人になれば,親の戸籍から抜けて,一人で新しい戸籍を作ることができます。

 これを「分籍(ぶんせき)」と言います。

 でも,子どものときには,分籍はできません
【★10】


 戸籍は,一人ひとりの情報を管理するための,単なる道具にすぎません。

 だから,たとえ,戸籍が別々になったとしても,法律上の親子のつながりは,まったく切れないのです。

 あなたが親の戸籍から抜けたとしても,

 親の戸籍では「子どものあなたがいる」という情報がわかるようになっていますし,

 あなたの戸籍には「親がだれか」という情報が書かれます。




 これまで書いてきたとおり,法律では,「親子の縁を切る」ということも,戸籍から抜くことも,ほとんどできません。



 あなたの親は,「それが法律でできるのかどうか」ということまで,きちんと考えて言っているのではありません。

 「あなたをこれ以上自分の子どもとして育てていくことがいやになった」,

 親は,そんな気持ちになって,その時のいきおいで,「縁を切る」「戸籍を抜く」と言ってしまっているのだと思います。



 だから,あなたのほうは,

 「親子の縁を切ったり,戸籍から抜かれたりしたら,どうなるか」ということを心配するよりも,

 「どうして親は,私のことを,自分の子どもとして育てていくのがいやになっているのだろう」ということを,考えてみてください。

 それを考えていく中で,親がほんとうはあなたを大切に思ってくれている,ということに,あなた自身が気づくかもしれません。

 「大切なあなたに,きちんとした人に育っていってもらいたい。それなのに,あなたにそうしてもらえない」。

 親は,そういうことへの怒(いか)りから,いきおいで言ってしまっていることも多いと思います。

 本当は,大人のがわも,子どものことを大切に思っているなら,たとえ怒っているときであっても,「縁を切る」,「戸籍を抜く」という言葉で,子どもにさみしく悲しい気持ちにさせるようなことは,してはいけない,と私は思います。

 でも,大人でも,自分の気持ちを相手に伝えるのが,ちょっとうまくないときもあります。

 おたがいが気持ちを分かりあえるように,話ができるとよいと思います。



 一方で,親が,子どものことを大切に思っていないケース,自分の子どもとして育てるのが本当にいやだと思っているケースも,残念ながら,やはりあります。

 私がこれまでかかわってきた虐待のケースでも,親から心ない言葉を言われて傷ついてきた子どもたちが,何人もいました
【★11】

 もし,あなたが親の言葉で深く傷つき,家の中にまったく居場所がない,と感じているようなら,ぜひ,まわりの大人や,私たち弁護士に相談してください。

 

【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法49条2項 「届出には,次の事項(じこう)を記載しなければならない。
(略)
 三 父母の氏名及び本籍,父又は母が外国人であるときは,その氏名及び国籍」
【★3】 「ほんとうは最初から親子ではなかった」という,かなり特別な場合に親子関係がなくなることはありますが,これも,裁判所が判断します。
 お母さんは,「出産した人イコール母親」です(最高裁昭和37年4月27日判決・民集16巻7号1247頁)。出生の届出のときには,出産の証明書が付けられますから,ウソの届出を作って出さないかぎり,「最初から母親ではありませんでした」ということはありえません(ウソの届出を作って出すのは犯罪です)。
 お父さんは,「自分の子どもではない」「血のつながりがない」と思ったら,1年以内に裁判所に言わなければなりません(これを「嫡出否認(ちゃくしゅつひにん)」と言います)。1年を過ぎれば,たとえ血のつながりがなくても,父親と子どもの関係をやめることは許されません。
民法772条1項 「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する」
民法774条 「第772条の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる」
民法775条 「前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。…」
 とても例外的に,1年を過ぎても「最初から父親ではありませんでした」ということが認められることもあります。しかし,「親子関係不存在確認訴訟」という裁判を起こして,親子の血のつながりがないということと,子どもが生まれるときに夫婦としての見かけがなかったということ,というかなり高いハードルをクリアしなければ,裁判所は「親子でない」とは認めません(「外観説」と言います。最高裁第一小法廷昭和44年5月29日判決・民集23巻6号1064頁,最高裁第三小法廷平成12年3月14日判決・家月52巻9号85頁,最高裁第二小法廷平成10年8月31日判決・家月51巻4号75頁)。
【★4】 法律上の親子の関係が終わるものとして,特別養子縁組という,とても特殊な手続があります。
 特別養子縁組は,子どもを生んだけれども育てられないとか,子どもを虐待してしまう,という親と関係を切って,養子に行った先の家で,養子というよりもほんとうの子どものように親子関係を作るための,特別な養子縁組です。ふつうの養子縁組では,この記事の本文で書いたように,もとの親との関係は切れませんが,特別養子縁組では,もとの親との関係が切れることになります。
 この特別養子縁組は,家庭裁判所がとても慎重に判断しますし,子どもが6歳以上ならできません(例外的に,すでに引き取られる先にずっと育てられてきていれば8歳まで)。
民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方(じっかた)との血族関係が終了する縁組(以下この款(かん)において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる」
民法817条の5 「第817条の2に規定する請求の時に6歳に達している者は,養子となることができない。ただし,その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は,この限りでない」
民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」
民法817条の9 「養子と実方の父母及びその血族との親族関係は,特別養子縁組によって終了する。…」
【★5】 法律上の親子関係が続くので,将来,親が年を重ねたとき子どもが親を養(やしな)う立場になりますし(これを扶養(ふよう)といいます),親子としてどちらかが亡(な)くなれば,財産を引き継ぐこと(相続)も起きます。
民法877条1項 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養をする義務がある」
(直系血族とは,親・おじいちゃん・おばあちゃん・ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん…という直接の上の世代の人と,子・孫・ひ孫…という直接の下の世代の人のことです)
民法887条1項 「被相続人の子は,相続人となる」
民法889条1項 「次に掲(かか)げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従(したが)って相続人となる。 一 被相続人の直系尊属(ちょっけいそんぞく)。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする」
(直系尊属とは,親・おじいちゃん・おばあちゃん・ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん…という直接の上の世代の人のことです)
【★6】 民法818条1項 「成年に達しない子は,父母の親権に服する」
民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育する権利を有し,義務を負う」
【★7】 親権の辞任(じにん)と言います。
民法837条1項 「親権を行う父又は母は,やむを得ない事由(じゆう)があるときは,家庭裁判所の許可を得て,親権又は管理権を辞(じ)することができる」
【★8】 親権の辞任が認められる「やむを得ない事由」とは,たとえば,親が重病になったり,刑務所に行ったり,長い間いなくなったりなどして,親として責任を果たせないというときです(中川淳「改訂親族法逐条解説」486頁参照)。
【★9】 あなたが20歳になるまでの間に,「親権辞任」以外の方法で,あなたの親が「親権者」でなくなるのは,次の方法しかありません。
(1)あなたが養子としてほかの家に行く。
(2)あなたが結婚する。(結婚すると,20歳になっていなくても,法律上は大人と同じになり,親の親権から外れます。これを,成年擬制(せいねんぎせい)と言います。)
(3)あなたの両親が離婚していたなら,別れていたもう一人の親に親権者を変える。
(4)親権が喪失(そうしつ)させられたり,停止されたりする。
 でも,(1)の養子縁組,(2)の結婚,(3)の親権者の変更,のどれにしても,相手がいる話ですから,親が一人で勝手に決めることは,結局できません。(1)の養子縁組は,おじいちゃん・おばあちゃん以外の人の家に行くなら,家庭裁判所の許可が必要です。(2)の結婚は,男なら18歳,女なら16歳にならなければ,できません。(3)の親権者変更も,裁判所が認めなければできません。また,(4)の親権喪失や親権停止は,親以外の誰かが,「親としてふさわしくない」と裁判所に訴えることが必要ですし,それが認められるためのハードルはとても高いです。
 結局,どの方法も,簡単でないどころか,とても大変なのです。
(1)養子縁組
民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」
(直系卑属とは,子・孫・ひ孫…という直接の下の世代の人のことです)
(2)結婚
民法753条 「未成年者が婚姻をしたときは,これによって成年に達したものとみなす」
民法731条 「男は,18歳に,女は,16歳にならなければ,婚姻をすることができない」
(3)親権者変更
民法819条6項 「子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができる」
(4)親権喪失・親権停止
民法834条 「父又は母による虐待又は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著(いちじる)しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでない」
民法834条の2第1項 「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権停止の審判をすることができる」
【★10】 戸籍法21条1項 「成年に達した者は,分籍をすることができる…」
【★11】 「心理的虐待」という児童虐待にあたる場合もあります。
児童虐待の防止等に関する法律2条 「この法律において,『児童虐待』とは,保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,児童を現に監護するものをいう。…)がその監護する児童(18歳に満たない者という。…)について行う次に掲げる行為(こうい)をいう。
(略)
 四 児童に対する著(いちじる)しい暴言又は著しく拒絶的(きょぜつてき)な対応…その他の児童に著しい心理的外傷(しんりてきがいしょう)を与(あた)える言動を行うこと」

 

2013年10月 1日 (火)

母親の再婚相手と養子縁組したくない

 

 中学3年生です。だいぶ前に両親が離婚して,母と二人で暮らしてきました。最近,母に新しい彼氏ができて,先日,母から,子どもを妊娠したこと,その男の人と再婚すること,そして,その男の人と自分とが養子縁組をすることになるということを聞きました。正直言って,母の彼氏のことは嫌いで,自分の父親にはなってほしくありません。最近,家にいるのがつらくて,親戚のところにいさせてもらうことが多いです。私は,その男の人と養子縁組をしないといけないんですか。

 

 いままで,お母さんと二人でがんばって暮らしてきたんですね。

 大切なお母さんに新しいパートナーができてよかった,

 でもそのパートナーのことを自分は好きになれない,

 新しい家族が増えてきて家に自分の居場所がなくなるようでさみしい,

 いろんな複雑な気持ちをかかえながら過ごしているのではないかと思います。



 お母さんが再婚しても,それだけでは,お母さんの相手の男性と,あなたとは,自動的には親子にはなりません。

 養子縁組をして,はじめて,その男性とも法律上の親子になります。



 養子縁組は,役所に届出を出すことで成り立ちます【★1】


 あなたが15歳以上なら,養子縁組の届出にサインをするのは,あなたとその男性です【★2】

 お母さんとその男性の二人だけで,あなたにないしょで勝手に決めて養子縁組の手続をすることはできません。

 だから,
あなたが養子縁組をしたくないのであれば,断ってよいのです


 養子縁組をすると,養父(ようふ)となった男性は,親として,あなたを育てるためのいろんな義務を負うことになります【★3】

 あなたの生活をきちんと見守ることはもちろん,

 生活費や進学費用などのお金も,養父はきちんと出さないといけません。

 男性は,そういう負担のあることをわかったうえで,「あなたと養子縁組をしたい,みんなで家族になりたい」と思っているのが,ふつうだろうと思います。

 そういったこと,つまり,その男性の思いや生活費・進学費用の負担などについて,あなたのほうでも,よく考えてみてください。

 そして,よく考えてみても,「それでも,やっぱりその人と親子になるのはいやだ」,ということであれば,その真剣なあなたの思いは大切なものです。

 お母さんやその男性に,あなたのその気持ちを伝えてください。

 そして,養子縁組を断ってよいのです
【★4】


 あなたが14歳以下なら,養子縁組の届出にサインをするのは,お母さんとその男性です【★2】

 だけれど,そうであったとしても,養子になる本人のあなたの気持ちが,ないがしろにされるのでは,おかしなことです。

 
あなたが養子縁組をしたくないのであれば,あなたのその気持ちを,きちんとお母さんとその男性に伝えることが大切です

 もし,あなたが養子縁組をしたくないのに,お母さんが養子縁組の届出をしてしまったら。

 そのあと,あなたが15歳になれば,お母さんの気持ちがたとえどのようであっても,あなた自身の考えで,養子縁組をやめるために動くことができます
【★5】

 養子縁組をやめることを,「離縁(りえん)」と言います。

 離縁をするときは,その男性(養父)と話し合って,一緒に離縁の届出をするのがふつうです
【★6】

 話し合いがまとまらなければ,裁判所で話し合いをします(「調停(ちょうてい)」といいます)
【★7】

 それでも話し合いがまとまらなければ,離縁のための裁判をする方法もあります
【★8】

 これらのどの方法であっても,あなた自身で考え,動くことができます。



 その男性と養子縁組をしないからといって,あなたが家を出ないといけないわけではありません。

 養子縁組をしなくても(つまり,その男性と法律上の親子にならなくても),みんなで一緒に暮らすことは,とくに問題ありません。


 でも,あなたが,「どうしても,その男性や新しく生まれてくる子どもと一緒に暮らしたくない,暮らせない」,ということもあると思います。

 あなたの場合,今よく行く親戚のところがあるのですよね。

 その親戚と,よく話をしてみてください。

 もしその親戚がOKしてくれれば,その親戚とあなたが養子縁組をする,という方法もあります。

 あなたが,その親戚の家の子どもになる,という養子縁組です。

 あなたが14
歳以下なら,お母さんからOKをもらえば,養子縁組の手続きをとることができます

 15歳以上であれば,養子縁組は,お母さんがOKしなくても,自分で考えて動くことができます。

(ただし,誰とでも自由に養子縁組ができるというわけではありません。原則として,未成年のうちは,「その人と養子縁組をして大丈夫かどうか」を,家庭裁判所がチェックすることになっています
【★9】


 誰が自分の親になるのか,ということは,人生の中で,とてもだいじなことです。

 それなのに,親の再婚の場面で,子どもの気持ちが大切にされていないことが,とても多いです。

 私は,虐待や非行のケースを多く見る中で,そう感じています。



 自分の人生は,自分が主人公です。

 いろんな人の意見を聞きながら,

 いろんな人と話し合いながら,

 自分で自分の人生を選んでいってください。

 

【★1】 民法799条 「民法…第739条の規定は,縁組について準用(じゅんよう)する」
 民法739条1項 「婚姻は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる」
 戸籍法66条 「縁組をしようとする者は,その旨(むね)を届け出なければならない」
【★2】 民法797条1項 「養子となる者が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,縁組の承諾(しょうだく)をすることができる」
 これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても養子縁組をするかどうかは自分で決める,ということです。
【★3】 民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
 民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」
【★4】 あなたとその男性が養子縁組をしないのであれば,生活費や進学費用などの養育費は,あなたの実の父親にきちんと負担してもらう必要があります。
 民法877条 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養(ふよう)をする義務がある」
 あなたとその男性が養子縁組をしても,あなたの実の父親の義務がまったくなくなるわけではありません。しかし,養父となる男性がメインであなたの生活を見ることになるので,実の父親は養育費の支払いを免除されたり,減額されたりします。
【★5】 民法811条2項 「養子が15歳未満であるときは,その離縁は,養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする」
 これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても自分で離縁の手続きが取れる,ということです。
【★6】 民法811条1項 「縁組の当事者は,その協議で,離縁をすることができる」
【★7】 家事事件手続法257条 「第244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は,まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない」
 同法244条 「家庭裁判所は,人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか,この編の定めるところにより審判をする」
 人事訴訟法2条 「この法律において『人事訴訟』とは,次に掲(かか)げる訴えその他の身分関係の形成又は存否(そんぴ)の確認を目的とする訴え…に係(かか)る訴訟をいう。
 (略)
三  …離縁の訴え…(略)」
【★8】 民法814条 「縁組の当事者の一方は,次に掲げる場合に限り,離縁の訴えを提起(ていき)することができる。
 一 他の一方から悪意で遺棄(いき)されたとき。
 二 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき。
 三 その他縁組を継続し難(がた)い重大な事由があるとき。」
【★9】 民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない」
 例外として,あなたのお母さんとその男性が結婚した場合で,男性とあなたが養子縁組をするときは,家庭裁判所の許可はいらない,とされています。私は,この例外の規定はおかしいと思っています。再婚の場合の養子縁組でも,家庭裁判所がチェックするべきだと思っています。再婚・養子縁組で,子どもたちといい家族をつくっていこう,と,がんばっているお父さん・お母さんは多いです。でも,他方で,虐待や不適切養育が,再婚家庭の養父・養母からされているというケースも,残念ながら,多くあるのが現状です。ですから,こういった再婚家庭での養子縁組のときにも,虐待や不適切養育のおそれがないかどうかを,家庭裁判所がきちんとチェックするしくみが必要だと思います。また,虐待や不適切養育のおそれがないとしても,子ども自身の気持ちを,家庭裁判所がきちんと確かめる手続きがなければいけない,と,強く思っています。
 なお,あなたがこれから養子縁組をしようと思っている親戚が,あなたの祖父・祖母の場合にも,家庭裁判所の許可は必要ありません。
 同条但書 「ただし,自己又は配偶者(はいぐうしゃ)の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」(「自己」は自分のこと,「配偶者」は,夫から見た妻,妻から見た夫のこと,「直系卑属」は,子ども・孫・ひ孫・・・のことです。)

 

2013年7月 1日 (月)

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