2_家族のこと

2017年5月 1日 (月)

児童養護施設にイヤな職員がいる

 

 高校1年生です。児童養護施設で暮らしてます。同じユニットで暮らす小さな子どもたちが騒がしいけど,それはなんとか我慢してます。でも,最近新しく入った職員の一人が,上から目線で指示してきたり,他の職員がOKしてくれてることをその職員は禁止してきたり,子どもによって態度を変えたりしてくるので,その職員が担当の日は施設に帰りたくないです。他の職員に相談してもまともに聞いてもらえないし,どうすればいいですか。

 


 夜や休日をゆっくり過ごすための施設で,

 職員や他の子どもたちのせいで,落ち着かない気持ちになるのは,

 とてもつらいことですよね。




 児童養護施設は,親がいない子どもや,親の虐待から保護された子どもなど,

 いろんな子どもたちが,安心・安全な暮らしを送るための施設です
【★1】

 施設の職員が,子どもたちの生活を,一生懸命支えてくれています。



 ところが,

 安心・安全な暮らしを送れるはずの施設で,

 職員が子どもたちに虐待するという,とてもひどい事件が,

 これまで,いくつも起きていました
【★2】

 そのため,2008年(平成20年)には,

 「施設で虐待をしてはいけない」という,当たり前のことが,

 わざわざ法律に書き加えられました
【★3】


 
もし,職員から,

 暴力を受けたり,

 性的な被害を受けたり,

 食事を抜きにされたり,

 ひどく傷つくことを言われたりしたら,

 すぐに,信頼できる大人に相談してください
【★4】

 話を聞いた大人は,都道府県の役所に知らせなければいけないことになっています
【★5】

 そして,都道府県の役所は,きちんと調べて,

 その職員や施設を注意したり,子どもを安全なところに移したりしてくれます
【★6】



 このように書くと,

 「私のは虐待というほどのことじゃないから,そこまでおおごとにしなくていい」,

 そう思うかもしれません。




 でも,上に書いたように,

 施設は,子どもたちが安心・安全な暮らしを送るための場所です。

 そのはずの施設で,

 虐待というほどひどいことがなくても,

 
あなたが今,「施設に帰りたくない」と感じているのなら,

 一人ぼっちでガマンすることなく,ぜひ,その気持ちを声にしてください
【★7】



 
施設の中で,あなたの他にも,同じ思いをしている人はいませんか。

 そういう仲間といっしょに,声を上げてみましょう。


 施設には,「中高生会」という集まり(自治会)があるところも多いですし,

 中高生会がなければ,自分からみんなに声をかけて,作ってもかまいません
【★8】

 その仲間たちといっしょに,施設と話し合いをするのです。

 お互いの力に差があるとき,一人ひとりの声が小さくても,みんなでまとまれば,大きな力と対等に話し合うことができます


 たとえば,大人の社会でも,

 「職場」対「働く人」という力の差がある場面では,

 働く人たちが集まって「労働組合」を作り,職場と話し合いをする,というしくみがあります
【★9】

 同じように,「大人」対「子ども」という力の差があるときも,

 みんなでいっしょになって話をすれば,ものごとが良い方向に変わることがあります。




 いっしょに声を上げる仲間がいなければ,

 いろんな大人を巻き込みましょう。




 施設には,「第三者委員」という人がいることが多いです【★10】

 第三者委員は,施設の職員ではなく,あくまで,施設の外の人です。

 そして,子どもたちの施設での暮らしの悩みや不満などの相談に乗り,

 実際に,職員とのトラブルを調整しています。

 私も,ある児童養護施設で,第三者委員として,子どもたちの相談に乗っています。

 あなたも,
自分の施設の第三者委員に,相談してみてください。



 また,あなたの施設が東京にあるなら,

 
東京都の「子供の権利擁護専門相談員」に相談する,という方法もあります【★11】

 電話番号は 0120-874-374 です。

 施設から配られた「子どもの権利ノート」を,今も持っていますか。

 そのノートの中に,相談員に送れるハガキが入っていますので,

 それを使って連絡をしてもOKです。




 
あなたの地域の弁護士に相談する,という方法もあります。

 「法律のトラブルじゃないのに,弁護士に相談してもいいのかな」と心配しなくてもかまいません。

 弁護士は,

 「どんなことがあったのか」というできごとを整理すること,

 「本人がどうしたいのか」という気持ちを整理すること,

 そして,できごとやあなたの気持ちを,ほかの人たちに伝え,話し合うこと,

 それらを得意とする仕事です。

 法律のトラブルでないからと遠慮せずに,相談してみてください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。





 児童養護施設は,親がいない子どもたちや,親の虐待から保護された子どもたちが暮らす場所として,とても大切な役割を果たしています。


 でも,

 大人の職員は交代制で,職員によって子どもたちに対する態度がちがうことがありますし,

 同じユニットで暮らす子どもたちも,

 小学校に入る前の小さな子どもから,10代後半までと,年齢がバラバラで
【★12】

 メンバーも入れ替わりがあります。

 しかも,一つのユニットに5,6人もの子どもたちがいるのに,時間帯によっては職員が1人しかいないので
【★13】

 大人にゆっくり向き合ってもらうことも難しいですよね。




 2009年(平成21年),世界の国々は,

 「子どもたちが,『家庭』での暮らしを送れるようにしよう」,

 と確認し合いました。

 親元で暮らせない子どもに,

 施設での,メンバーが入れ替わる落ち着かない暮らしよりも,

 里親のような,安定してずっと続く,家庭的な暮らしのほうを送れるように,

 大人たちみんなで努力していこう。

 そう確認したのです
【★14】


 そして,この日本でも,去年(2016年(平成28年)),

 「できるだけ施設よりも家庭的な暮らしが送れるようにしよう」

 と,法律に書き加えられました
【★15】



 今,日本では約4万5000人の子どもたちが,親と暮らせず,

 児童福祉のしくみの中で暮らしています(「社会的養護」と言います)。

 そのうち,里親やグループホームで,家庭的な暮らしを送ることができているのは,たった約6000人しかいません
【★16】

 ほとんどの子どもたちが,あなたと同じように,施設の中で暮らしています。




 今,施設にいる子どもたちに,つらい思いをさせないこと。

 それだけでなく,

 これから先,里親を引き受ける人たちが,もっとたくさん増えて,

 どんな子どもも,同じメンバーの「家族」の中で,落ち着いた暮らしをずっと送ることができる,

 そういう社会にしていくこと。

 それらが,私たち大人が負っている,だいじな義務です
【★17】

 

【★1】 児童福祉法41条 「児童養護施設は,保護者のない児童(乳児を除く。ただし,安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には,乳児を含む。以下この条において同じ。),虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて,これを養護し,あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設とする」
【★2】 最も有名な事件は,千葉県の「恩寵園(おんちょうえん)」で起きた事件です。「養護施設の児童虐待―たちあがった子どもたち」(恩寵園の子どもたちを支える会編,明石書店)に詳しく経過が書かれています。
 千葉地裁平成19年12月20日損害賠償訴訟事件判決(以下,裁判所の事実認定)
 「〔児童〕が廊下を走った等の理由から,〔児童〕を…麻袋に入れ,その麻袋を,園庭の木や,…小学校のフェンスに面した外柵周辺につるしたことが複数回あった」
 「〔児童〕の幼児期から小学校低学年ころまでの間,〔児童〕を乾燥機部屋に入れ,電気を点けずに出入口のドアを閉め,外から上記ドアをどんどんと叩き,〔児童〕が『出して,出して。』等と言って泣き叫んだにもかかわらず,〔児童〕が失神しそうに感じるまで,上記行為を止めなかった」
 「〔児童〕に対し,正座をするよう指示し,数時間その指示を解かず,その間,食事の時間が来ても,食事をすることを許さなかった」
 「(施設長は児童の)着衣の袖を刃物で切った。〔児童〕は,〔施設長〕が袖を切り出したため,あわてて…着衣を脱いで〔施設長〕に渡し,上半身は下着だけ着けた状態で自己の居室まで戻ったが…着衣はその後着用できないものとなった」
 「(施設長が)『お前は乞食(こじき)か。』等と言って,その着衣を取り上げたうえ,他の服も没収した。そのため,〔児童〕はその日学校に行くことができず,その日の夕方,保母によって服が〔児童〕の下に戻されるまでの間,下着のみを着けた状態で過ごすこととなった」
 「(児童が)通知表を見せる際,方向等を間違えて〔施設長〕に差し出したところ,〔施設長〕は,〔児童〕の通知表を取り,床に放ったことがあった」
 「(児童が)通知表を〔施設長〕に見せた際,成績が悪いとの理由で,〔児童〕の頭にそろばんを押しつけ,そろばんの珠を数回こすりつけたことがあり,また同じ理由で長時間〔児童〕を立たせておくこともあった」
 「〔施設長〕は,…食後,〔児童〕の班のテーブルクロスを拭かなかったことを理由に,…テーブルクロスを取り上げ,〔児童〕を含むその班の園児らに,その次の食事を取らせなかった」
 「〔施設長〕は,〔児童〕の小学校時代を通じ,…たびたび〔児童〕を,保母室の前の廊下等,園内の床に正座させ…約24時間その(正座の)指示を解かず,その間,…食事を取ることもトイレに行くことも許さなかった。…正座をしている最中,…園児らのうちの1人が,トイレに行かせてほしいと〔施設長〕に頼んだにもかかわらず,〔施設長〕は,これを許さず,その場でするよう言い,上記園児はその場で失禁した。」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕が,プロミスリング(糸を編んで作った腕輪ようのもの)を足に着けていたことに立腹し,…他の園児らの見ている前で,〔児童〕の体を,足が机の上に,頭が机の下になるように,机に載せ,…包丁を〔児童〕の足に押しつけ,出血させた」
 「〔児童〕が小学校5,6年生だったころ…,〔施設長〕によって,性器にはさみを当てられた男児が,叫び声を上げたため,その叫び声を聞いた〔児童〕及び別の園児(男子)が,声を上げたところ,〔施設長〕は,〔児童〕及び上記別の園児に対し,お前達もだ等と言い,〔児童〕を横たえ,その腹部ないし胸部に乗ると,〔児童〕の性器にはさみを当てた」
 「〔児童〕が,…チャボの死骸を焼却するために,焼却炉へ持って行ったところ,〔施設長〕は,〔児童〕に対し,『お前も一緒に(焼却炉に)入れ。』などと言った」
 「〔施設長〕は,…3月ころ…,〔児童〕及び他の数名の園児らが…遊んでいたことに立腹し,寒い時期であったにもかかわらず,…裸のまま1時間以上園庭に立たせた。その間,〔児童〕と並んで立っていた他の園児が,尿意を催(もよお)し,〔施設長〕にそれを訴えたところ,〔施設長〕が,同園児に対し,『そこでしろ。』と言ったため,同園児はやむを得ずその場で排尿し(た)」
 「〔施設長〕は,〔児童〕が中学校1年生の前半ころ…あざができるほど,竹刀や木の棒状のもので,〔児童〕の体部を殴ったり,〔児童〕の頭等を,手の甲で殴ったり…したことが複数回あった」
 「〔施設長〕は…まだ燃えている…マッチの上に〔児童〕の左手の平を押し付け,やけどを負わせた」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕に対し,廊下あるいは保母室で正座するよう指示し,その指示を約1週間解かず,その間,食事をすることも,横になって寝ることも許さなかった」
 「〔施設長〕は,〔児童〕の下顎部を,ボール紙でできた調理用ラップの芯で2回ないし3回つき,現在でも傷跡が残るほどの傷害を負わせた」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕の両腕を真横に上げさせたうえで,竹刀を両袖に通し,その姿勢のまま〔児童〕に立っているよう指示した」
 「〔施設長〕は,…寒い季節に〔児童〕を裸の状態で戸外に立たせ,水をかけた」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕の体部を,しばしば金属バットで叩いた」
 「〔施設長〕は,…〔児童〕をトイレに行かせなかったことがあった」
 恩寵園事件は,刑事事件にもなりました。当時の職員が強姦罪と強制わいせつ罪で懲役4年の実刑判決,施設長が傷害罪で懲役8ヶ月の実刑判決を,それぞれ受けています(読売新聞2000年10月25日,朝日新聞2001年7月27日)。
【★3】 児童福祉法33条の10 「この法律で,被措置(ひそち)児童等虐待とは,…里親若(も)しくはその同居人,乳児院,児童養護施設,…(以下「施設職員等」と総称する。)が,委託された児童,入所する児童…(以下「被措置児童等」という。)について行う次に掲(かか)げる行為(こうい)をいう。
 一 被措置児童等の身体に外傷が生じ,又(また)は生じるおそれのある暴行を加えること。
 二 被措置児童等にわいせつな行為をすること又は被措置児童等をしてわいせつな行為をさせること。
 三 被措置児童等の心身の正常な発達を妨(さまた)げるような著(いちじる)しい減食又は長時間の放置,同居人若しくは生活を共にする他の児童による前二号又は次号に掲げる行為の放置その他の施設職員等としての養育又は業務を著しく怠(おこた)ること。
 四 被措置児童等に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の被措置児童等に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。」
 同法33条の11 「施設職員等は,被措置児童等虐待その他被措置児童等の心身に有害な影響を及ぼす行為をしてはならない」
【★4】 児童福祉法33条の12第3項 「被措置児童等は,被措置児童等虐待を受けたときは,その旨(むね)を児童相談所,都道府県の行政機関又は都道府県児童福祉審議会に届け出ることができる」
【★5】 児童福祉法33条の12第1項 「被措置児童等虐待を受けたと思われる児童を発見した者は,速やかに,これを…都道府県の設置する福祉事務所,児童相談所,都道府県の行政機関,都道府県児童福祉審議会若(も)しくは市町村に通告しなければならない」
【★6】 児童福祉法33条14第1項 「都道府県は,…速やかに,当該(とうがい)被措置児童等の状況の把握その他…事実について確認するための措置を講ずるものとする」
 同条2項 「都道府県は,前項に規定する措置を講じた場合において,必要があると認めるときは,…当該通告,届出,通知又は相談に係る被措置児童等に対する被措置児童等虐待の防止並びに当該被措置児童等及び当該被措置児童等と生活を共にする他の被措置児童等の保護を図るため,適切な措置を講ずるものとする」
【★7】 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)12条1項 「締約国(ていやくこく)は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項(じこう)について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする」
【★8】 憲法21条1項 「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する」
 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)15条1項 「締約国(ていやくこく)は,結社の自由及び平和的な集会の自由についての児童の権利を認める」
【★9】 憲法28条 「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は,これを保障する」
 労働組合法2条 「この法律で『労働組合』とは,労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。(以下略)」
 同法6条 「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は,労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結(ていけつ)その他の事項(じこう)に関して交渉する権限を有(ゆう)する」
 同法7条 「使用者は,次の各号に掲(かか)げる行為をしてはならない。(略) 二 使用者が雇用(こよう)する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒(こば)むこと」
【★10】 社会福祉法82条 「社会福祉事業の経営者は,常に,その提供する福祉サービスについて,利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない」
 厚生省大臣官房障害保健福祉部長,厚生省社会・援護局長,厚生省老人保健福祉局長,厚生省児童家庭局長平成12年6月7日「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針について」(障第452号,社援第1352号,老発第514号,児発第575号)「2 苦情解決体制」「(3)第三者委員 苦情解決に社会性や客観性を確保し,利用者の立場や特性に配慮した適切な対応を推進するため,第三者委員を設置する」,「3 苦情解決の手順」「(2)苦情の受付 …第三者委員も直接苦情を受け付けることができる」「(4)苦情解決に向けての話合い …第三者委員の立会いによる苦情申出人と苦情解決責任者の話合いは,次により行う。 ア 第三者委員による苦情内容の確認 イ 第三者委員による解決案の調整,助言 ウ 話し合いの結果や海善寺高等の書面での記録と確認」
【★11】 東京都・子供の権利擁護専門相談事業(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/annai/keriyougo.html
 「平成19年度~平成21年度東京都子供の権利擁護専門相談事業活動報告書」(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/annai/keriyougo.files/houkokusyo.pdf)「権利ノートと一緒に『子供の権利擁護専門員会議』あての相談のはがきも配布し,子供が直接悩みなどの相談ができるようなっています。このはがきについては,児童福祉施設の場合,施設内の掲示板等の近くなどにも置かれ,子供たちが自由に使用し,投函(とうかん)できるよう配慮されています。はがきが届いた場合は,専門員が施設を訪問し,子供から直接話を聞き問題解決に向けて子供や施設に対し助言します。また,相談内容によっては,児童相談所の担当児童福祉司と協議し,専門員と児童福祉司と協働して対応する場合もあります。なお,相談内容が施設内虐待ではないかと疑われる場合は、福祉保健局少子社会対策部計画課権利擁護担当と協議の上,対応しています」
【★12】 児童養護施設に入所できるのは,原則18歳未満ですが,自立の観点から必要と認められる場合には,20歳に達するまで入所できます。
 児童福祉法31条2項 「都道府県は,第27条第1項第3号の規定により…児童養護施設…に入所した児童については満20歳に達するまで,引き続き同項第3号の規定による委託を継続し,若(も)しくはその者をこれらの児童福祉施設に在所させ,又はこれらの措置を相互に変更する措置を採ることができる」
【★13】 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準42条6項 「児童指導員及び保育士の総数は,通じて,…満3歳以上の幼児おおむね4人につき1人以上,少年おおむね5.5人につき1人以上とする。…」
【★14】 2009年12月18日国連総会採択決議「64/142. 児童の代替的養護に関する指針」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/dl/yougo_genjou_16.pdf
 「2.…(a) 児童が家族の養護を受け続けられるようにするための活動,又は児童を家族の養護のもとに戻すための活動を支援し,それに失敗した場合は,養子縁組やイスラム法におけるカファーラなどの適当な永続的解決策を探ること。(b) かかる永続的解決策を模索する過程で,又はかかる永続的解決策が実現不能であり若しくは児童の最善の利益に沿っていない場合,児童の完全かつ調和のとれた発育を促進するという条件の下,最も適切な形式の代替的養護を特定し提供するよう保障すること。…」
 「12. 非公式の養護を含め,代替的養護を受けている児童に関する決定は,安定した家庭を児童に保障すること,及び養護者に対する安全かつ継続的な愛着心という児童の基本的なニーズを満たすことの重要性を十分に尊重すべきであり,一般的に永続性が主要な目標となる」
【★15】 平成28年改正児童福祉法3条の2 「国及び地方公共団体は,児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう,児童の保護者を支援しなければならない。ただし,児童及びその保護者の心身の状況,これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案(かんあん)し,児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合にあっては児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう,児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合にあっては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう,必要な措置を講じなければならない」
【★16】 厚生労働省「社会的養護の現状について(参考資料) 平成29年3月」(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000154060.pdf) 里親委託児童4973人,ファミリーホーム(養育者の住居において家庭養護を行う(定員5~6名))1261人の合計6234人に対し,乳児院2901人,児童養護施設2万7288人,情緒障害児短期治療施設1264人,児童自立支援施設1395人,母子生活支援施設5479人,自立援助ホーム516人の合計は3万8843人です。
【★17】 2009年12月18日国連総会採択決議「64/142. 児童の代替的養護に関する指針」
 「23. 施設養護と家庭を基本とする養護とが相互に補完しつつ児童のニーズを満たしていることを認識しつつも,大規模な施設養護が残存する現状において,かかる施設の進歩的な廃止を視野に入れた,明確な目標及び目的を持つ全体的な脱施設化方針に照らした上で,代替策は発展すべきである。…」

2017年3月 1日 (水)

タレント活動を親がやめさせてくれない

 

 中学2年生です。小学生のときから子役タレントをやってきたんですが,最近は,夜遅くまでかかったり,引き受けたくない仕事もあったりして,つらくなってきました。そんな自分の気持ちがほっとかれて,親が活動に熱心になってしまってます。できればタレント活動をやめて,学校の友達と過ごす時間を作りたいんですが,所属事務所も,親も,「最初に自分からやりたいと言い出したんでしょ」と言って,やめさせてくれません。

 



 学校の先生や,弁護士に相談してみてください。

 あなたらしい生活を送れるように,大人の私たちが力になります。




 むかし,子どもは,小さなときから,大人と同じように働かなければなりませんでした。

 今でも,世界の中には,そういう地域が残っています。

 「小さな子どものうちは,仕事をさせないで,教育を受けられるようにしよう」。

 日本をふくむ,世界の国々が,そう約束しています
【★1】

 だから,義務教育を受け終えていない子どもを,働かせてはいけないことになっています
【★2】



 でも,子役タレントは,子どもの時にしかできない仕事です。

 なので,そういう特別な仕事なら,中学校を卒業していなくても,「仕事をしてOK」と認められることがあります。

 OKするのは,労働基準監督署という,国の役所です
【★3】

 略して,「労基署(ろうきしょ)」と呼びます。




 たとえ仕事をするとしても,

 その子が,きちんと教育を受けられるようにしなければいけません。

 だから,学校の校長先生が,

 「この仕事をしても学校生活にマイナスはありません」と認めなければ,

 労基署は,子どもが働くことをOKしません
【★4】【★5】

 労基署がOKした場合でも,

 学校を休んだりせず,学校生活の時間以外で仕事をすることが必要です
【★6】



 憲法には,「子どもを酷使(こくし)してはいけない」と,はっきり書かれています
【★7】

 映画や演劇の子役だけは,小さな子でも認められますが
【★8】

 それ以外の仕事は,13歳以上でなければなりません。

 しかもその仕事は,健康や生活・人生に悪い影響がない,簡単なものでなければいけない,と法律で決まっています
【★3】

 法律が,子どもの皆さんを,酷使されないように,守っているのです。




 あなたの仕事は,夜遅くまでかかっているのですね。

 雇(やと)うがわは,中学校卒業前の子どもを,夜8時を過ぎて働かせてはいけないことになっています
【★9】

 演劇の子役は,もう少し遅くまで働かせることができますが,

 それでも,夜9時までです
【★10】【★11】

 夜遅くまで子どもを働かせている職場は,犯罪として処罰されます
【★12】

(子どもを守るためのルールですから,あなたが罰せられるのではありません。)




 仕事の時間が夜遅いだけでも問題なのに,

 あなたが引き受けたくない仕事までしなければいけないのは,

 まさに,憲法が禁止する「酷使」にあたります。



 日本は,世界とのあいだで,

 「子どもは,休んだり,遊んだりすることができる」と約束しています
【★13】

 あなたが,学校の友達と一緒に過ごす時間がほしいと思うことは,

 けっしてわがままなどではなく,とても大切なことです。




 あなたにとってふさわしくない仕事のとき,

 ほんらいは,

 親が,子どものあなたを守るために,

 事務所と話し合いをしたり,

 事務所との間の契約(けいやく)をナシにするために動かなければいけません
【★14】



 けれど,あなたの親は,あなたのタレント活動にかかわることに熱心になっていて,

 「やめたい」というあなたの気持ちに,寄り添ってくれないのですね。




 子どもは,親の人形ではありません。

 10代という大事な時期をどう過ごすかは,

 人生の主人公であるあなた自身の気持ちが,大切にされなければなりません。




 あなたが小学生のときに自分から「やりたい」と言い出したからといって,

 中学生のあなたが今その仕事をやめられないことの理由には,全くなりません。

 大人だって,自分で始めた仕事を,自分で自由にやめられます。

 ましてや,ものごとをまだよく知らない小学生のときに始めた仕事を,

 成長した今では「やめたい」と思うしっかりした理由もあるのに,

 「子どもだからやめられない,親の言うことに従って続けないといけない」,というのは,まったくおかしなことです。




 まずは,学校の先生に相談してみましょう。

 学校の友達と過ごす時間を作りたい,というあなたの気持ちは,きっと,学校も応援してくれるはずです。

 学校があなたの親と話し合っても変わらないようなら,

 学校から労基署に,「仕事のせいで学校生活にマイナスがあります」と連絡してもらう方法や,

 学校から児童相談所に,「親があなたを守っていない」と連絡してもらう方法もあります。

 いろんなところが,あなたを守るために動いてくれます。



 学校に相談しやすい先生がいなかったり,

 労基署や児童相談所まで巻き込むことに心配だったりするかもしれません。

 そのときは,私たち弁護士に相談してみてください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。



 あなたが自分らしく毎日の暮らしを送れるように,

 私たち大人が,あなたの味方になります。

 

 

【★1】 ILO(国際労働機関)就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)2条1項 「この条約を批准(ひじゅん)する加盟国(かめいこく)は,その批准に際(さい)して付する宣言において,自国の領域(りょういき)内…における就業(しゅうぎょう)が認められるための最低年齢を明示する。…」
 同条3項 「1の規定に従(したが)って明示する最低年齢は,義務教育が終了する年齢を下回ってはならず…」
【★2】 労働基準法56条1項 「使用者は,児童が満15才に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで,これを使用してはならない」
【★3】 労働基準法56条2項 「前項の規定にかかわらず,別表第一第一号から第五号までに掲(かか)げる事業以外の事業に係(かか)る職業で,児童の健康及び福祉に有害でなく,かつ,その労働が軽易なものについては,行政官庁の許可を受けて,満13歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については,満13歳に満たない児童についても,同様とする」
 年少者労働基準規則2条1項 「所轄労働基準監督署長は,…使用許可の申請について許否の決定をしたときは,申請をした使用者にその旨を通知(し),…許可しないときは,当該申請にかかる児童にその旨を通知しなければならない」
【★4】 年少者労働基準規則1条 「使用者は,労働基準法…第56条第2項の規定による許可を受けようとする場合においては,使用しようとする児童の年令を証明する戸籍証明書,その者の修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書を…使用許可申請書に添えて,これをその事業場の所在地を管轄(かんかつ)する労働基準監督署長…に提出しなければならない」
【★5】 昭和63年3月14日労働省労働基準局長・労働省婦人局長「労働基準法関係解釈例規について」(基発第150号,婦発第47号) 「<児童の使用許可> 使用許可にあたって (1) 児童の心身の状況を直接調査した上で決定すること。 (2) 児童福祉法の規定に違反することのないよう充分注意すること。 (3) 児童の教育上の要求について充分考慮すること。殊(こと)に就業した後学校長よりの要求があった場合速(すみや)かに実情を調査した上で適当な措置を講じられたいこと。…(以下略)[昭和22・11・11発婦第2号]」
【★6】 労働基準法56条2項(【★3】)に「修学時間外に使用することができる」と書かれています。
【★7】 憲法27条3項 「児童は,これを酷使(こくし)してはならない。」
【★8】 労働基準法56条2項(【★3】)の但書(ただしがき)
【★9】 労働基準法61条1項 「使用者は,満18歳に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない。…」
 同条5項 「第1項…の時刻は,第56条第2項の規定によって使用する児童については,第1項の時刻は,午後8時及び午前5時と(する)…」
【★10】 労働基準法61条2項 「厚生労働大臣は,必要であると認める場合においては,前項の時刻を,地域又は期間を限って,午後11時及び午前6時とすることができる」
 同条5項 「…第2項の時刻は,第56条第2項の規定によって使用する児童については,…第2項の時刻は,午後9時及び午前6時とする」
 平成16年11月22日「労働基準法第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する厚生労働大臣が必要であると認める場合及び期間」(厚生労働省告示第407号) 「労働基準法…第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する厚生労働大臣が必要であると認める場合は,同法第56条第2項の規定によって演劇の事業に使用される児童が演技を行う業務に従事する場合とし,同法第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する期間は,当分の間とする。」
【★11】 記事本文は,事務所に雇(やと)われている雇用(こよう)契約について書いていますが,雇われているのでなければ(=労働者でなければ),午後8時や午後9時という制限がかかりません。どのような場合に「労働者でない」と判断されるかについて,国は,次のように言っています(これによって当時のアイドルグループ「光GENJI」が夜9時以降の生放送のテレビ番組に出演できるようになったことから,「光GENJI通達」と呼ばれています)。
 昭和63年7月30日基収第355号 「問 当局管内には劇団あるいはいわゆる芸能プロダクション等が多く,それら事業場から労働基準法第56条に基づく児童の使用許可申請がなされることが少なくないところである。当局においては,これら申請に係る子役あるいはタレントについては,一般にその所属する劇団あるいは事務所との間に労働契約関係があるものと考えるが,なかには,その人気の程度,就業の実態,収入の形態等からみて,労働契約関係ありとみるには疑問なしとしない事例が散見されるところである。そこで,これらの事例については,下記の通り取り扱ってよろしいか,お伺いする。 記 次のいずれにも該当する場合には,労働基準法第9条の労働者ではない。 一 当人の提供する歌唱,演技等が基本的に他人によって代替できず,芸術性,人気等当人の個性が重要な要素となっていること。 二 当人に対する報酬は,稼働時間に応じて定められるものではないこと。 三 リハーサル,出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても,プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。 四 契約形態が雇用契約ではないこと。」「答 貴見のとおり。」
【★12】 労働基準法第119条1項 「次の各号の一に該当(がいとう)する者は,これを6箇月以下の懲役(ちょうえき)又は30万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 …第61条…の規定に違反した者 (以下略)」
【★13】 児童の権利に関する条約31条1項 「締約国(ていやくこく)は,休息及び余暇(よか)についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める」
【★14】 労働基準法58条2項 「親権者若(も)しくは後見人又は行政官庁は,労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては,将来に向(むか)ってこれを解除(かいじょ)することができる」

2015年4月 1日 (水)

まわりにからかわれるおかしな名前を変えたい

 

 親が付けたおかしな名前のせいで,小学校のころからずっと,からかわれてきました。自分の名前を変えることはできますか。

 

 まず,どうしてその名前を付けたのかを親に聞き,

 そして,今つらい思いをしていることを,親に話しましょう。

 どうしても名前を変えたいのであれば,

 裁判所がOKすれば,変えられることがあります。

 また,名前の読み方は,特に手続をしなくても,変えられます。

 ふだんの暮らしの中で,戸籍(こせき)とはちがう名前を使っていく,という生き方もあります。




 子どもが生まれると,「出生届」を,役所に,2週間以内に出します
【★1】

 出生届には,親が決めた,その子の名前が書かれています。

 そして,その名前で,その子の戸籍が作られます
【★2】

 「戸籍」は,役所が,一人ひとりの情報を,家族単位で管理しているものです。



 自分で選んだわけではない,親が付けたその名前のせいでからかわれるのは,とてもつらいことですよね。


 まずは,親がどんな気持ちでその名前を付けたのか,聞いてみてください。

 そして,今,名前でつらい思いをしていることを,親にきちんと伝えてみてください。



 ほかの人とはちがった,ちょっと変わった名前を,親が子どもに付けることは,ずっと昔からありました。

 700年ほど前に書かれた吉田兼好(兼好法師)の「徒然草(つれづれぐさ)」にも,そんな話が出てきます
【★3】


 名前は,親からの,人生で最初のプレゼントです。

 そして,死ぬまで一生ずっと,使い続けます。

 モノや人形やペットの名前は,私たちのほうが呼び分けるためのものにすぎませんが,

 人の名前は,名付けられたその人自身が使い続ける,特別なものです。

 この世に生まれてきてくれたことの喜びと,

 「こういう素敵な人間になってほしい」という願いを込めて,

 親は,一生懸命考え,子どもの名前を決めています。



 「この世界の中で,たった一人のかけがえのない特別な存在として,輝いてほしい」。

 ほかの人とちがった,ちょっと変わった名前には,親のそういう大切な願いが込められていることが,多いと思います。



 この社会は,ほんとうにさまざまな人たちが,お互いのちがいを尊重し合うことで,成り立っています。

 大人の社会では,他の人とちがっているほうがプラスに働くことも,多くあります。

 じっさい,珍しい名前だと,まわりからすぐに覚えてもらえて,とても存在感があります。

 それだけでなく,

 自分の珍しい名前を誇(ほこ)りにして生きている人は,

 自分がほかの人とちがっていることをだいじにし,

 そして,一人ひとりがちがっていることを,きちんと尊重できる,

 そんな素敵な人が多いです。



 ところが,

 「いじめは犯罪?どうして法律ではダメなのか」の記事にも書いたように,

 お互いを尊重し合うことの大切さをきちんと学んでいない,特に,同じような子どもたちが集まっている場では,

 少しでも他の人とちがうところがある子を,いじめたり,からかったりすることが,起きてしまいます。

 これは,まったくおかしなことです。



 親や,いろんな大人たちに,相談してみてください。

 あなたが今つらい思いをしている原因,ほんとうに変えなければいけないものは,

 あなたの名前ではなく,

 あなたのまわりのほうかもしれません。



 しかし,親によっては,

 まるで,モノや人形やペットに名前を付けるように,子どもに名前を付けていたり,

 本人が一生使い続けるものだということをきちんと考えないで,子どもに名前を付けていたりするケースが,

 残念ながら,時々あります。

 過去には,親が子どもに「悪魔」と名前を付けて,大きな問題になったケースもありました。

 たとえ親であっても,何でもかんでもまったく自由に子どもの名前をつけていいわけではありません。

 「あきらかにおかしな名前の出生届なら,役所がそれを断ってもいい場合がある」,

 裁判所も,悪魔ちゃん事件で,
そう言っています【★4】


 そうはいっても,役所が断ってもいいほどのケースというのは,かなりかぎられているので,

 役所が受け付けてしまった名前で,つらい思いをしている人も,多くいるでしょう。

 親やいろんな大人と話し合い,ずっと深く考えても,

 やっぱりどうしても名前を変えたい,ということも,あると思います。



 名前は,裁判所が認めれば,変えることができます【★5】

 あなたが15歳以上なら,自分で手続をします
【★6】

 15歳になっていなければ,親が手続をします


 ただ,名前を変えることを裁判所が認めるのは,そんなにかんたんではありません。

 名前が自由気ままに変えられるとしたら,誰が誰だかわからなくなって,社会が混乱(こんらん)してしまうからです。

 「自分の名前が嫌いだ」という理由だけでは,名前を変えることは難しいですが
【★7】

 おかしな名前や,読み方の難しい名前で,社会生活がとてもこまるようであれば,名前を変えることが認められる場合があります
【★8】

 もし,裁判所の手続で名前を変えたいのであれば,いちど,弁護士に相談してみてください。



 じつは,名前の漢字はそのままで,その読み方を変えるだけであれば,

 裁判所の手続は,必要ありません。

 法律には,「どの漢字を名前に使っていいか」というルールはありますが
【★9】

 「名前に付けたその漢字をどう読むか」というルールは,特にありません。

 出生届には,付けた名前の漢字といっしょに,読み方も書きますが,

 役所がつくる戸籍には,名前の読み方は,書かれません
【★10】

 だから,読み方を変えるだけならば,基本的に,自由にできるのです
【★11】


 また,戸籍の名前はそのままで,日常生活の中では,できるかぎり別の名前を使って暮らしていく,という生き方もあります。

 そして,その名前でずっと長い間暮らしていれば,

 「こっちの名前を長く使い続けてきた」という理由で,

 将来,裁判所が名前を変えることを認めてくれる可能性も,高まります
【★12】


 名前は,自分が自分らしく生きていくうえで,とてもだいじなものです。

 親の思いを受け止めて,親からもらった名前を一生使い続けていくのでも,

 自分で,戸籍の名前を変えたり,読み方を変えたり,日常生活で別の名前を使ったりするのでも,

 そのどちらであっても,自分で自分を大切にして選んだのであれば,

 それがいちばん自分らしい生き方だと思います。

 

【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法29条 「届書には,左の事項(じこう)を記載し,届出人が,これに署名し,印をおさなければならない。
(略)
 四 届出人と届出事件の本人と異なるときは,届出事件の本人の氏名,出生の年月日,住所,戸籍の表示及び届出人の資格」
【★3】 徒然草116段 「寺院の号,さらぬ万(よろず)の物にも,名を付くる事,昔の人は,少しも求めず,ただ,ありのままに,やすく付けけるなり。この比(ころ)は,深く案じ,才覚をあらはさんとしたるように聞(きこ)ゆる,いとむつかし。人の名も,目慣れぬ文字を付かんとする,益(えき)なき事なり」(「お寺の名前などは,むかしはわかりやすいものを付けていたけれど,最近はそうではない。人の名前も,見慣れない字を使ったりする」,と吉田兼好が嘆(なげ)いている文です)
【★4】 東京家庭裁判所八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1468号56頁) 「名は極(きわ)めて社会的な働きをしており,公共の福祉(ふくし)にも係(かか)わるものである。従(したが)って,社会通念に照らして明白に不適当な名や一般の常識から著(いちじる)しく逸脱(いつだつ)したと思われる名は,戸籍法上使用を許されない場合があるというべきである。」「民法1条3項により,命名権の濫用(らんよう)と見られるようなその行使は許されない。…被(ひ)命名者である子の利益を著(いちじる)しく損(そこ)なうものとか,子の人格を冒瀆(ぼうとく)するような名は避けるべく,命名にあたっては,この点に対する配慮が必要である。」「例外的には,親権(命名権)の濫用(らんよう)に亙(わた)るような場合や社会通念上明らかに名として不適当と見られるとき,一般の常識から著しく逸脱しているとき,または,名の持つ本来の機能を著しく損なうような場合には,戸籍事務管掌者(かんしょうしゃ)(当該市区町村長)においてその審査権を発動し,ときには名前の受理を拒否(きょひ)することも許されると解される。」
 ただし,このケースでは,出生届を一度受理して「悪魔」という名前の子どもの戸籍を作ってしまったあとで,役所がそれを消したというケースでした。裁判所は,「一度戸籍を作ってしまった以上は,勝手に名前を消してはいけない」と述べて,「悪魔」という名前で戸籍を作るよう役所側に言い渡しました。
 もっとも,その上の高等裁判所で裁判が続いている間に,親が,その子どもの名前を変えることにしたので,裁判は取り下げられて,終わりました(井戸田博史「氏と名と族称-その法学史的研究-」137頁「第6章 出生子命名権-『悪魔』『琉』命名事件-」)。
【★5】 戸籍法107条の2 「正当な事由(じゆう)によって名を変更しようとする者は,家庭裁判所の許可を得て,その旨(むね)を届け出なければならない。」
 「正当な事由」は,次のようなものが挙げられています(佐上善和「家事事件手続法Ⅱ」439頁)。(1)仕事のうえで襲名(しゅうめい)する必要がある,(2)同姓同名の人がいて社会生活のうえでとてもこまる,(3)神官や僧侶となる,またはそれらを辞める,(4)珍奇(ちんき)な名,外国人と紛(まぎ)らわしい名,とても難解・難読の文字を用いた名などで,社会生活のうえでとてもこまる,(5)外国籍から日本国籍に帰化(きか)し,日本風の名に変える,(6)長年使ってきた通称,(7)幼ない時に受けた性的虐待のことを思い起こさせる,(8)性同一性障害(心の性別と体の性別のちがいのために社会生活のうえで苦痛がある)
【★6】 「問題 戸籍法107条の規定による氏又は名の変更の許可の申立は満15歳以上の未成年の者よりすることができるか。 決議 意思能力のある限り,年齢の如何(いかん)にかかわらず,氏又は名の変更の許可の申立をすることができる。」(昭和29年9月30日民事法調査委員会決議)
 「申立人が未成年者であっても,事理弁識能力があれば申立てをすることができ,15歳以上であれば事理弁識能力があると解されている」(岩井俊「家事事件の要件と手続」389頁)
【★7】 「命名された名に対する主観的感情…を理由とする改名は,それだけでは改名の正当な事由とはされない」(佐上善和「家事事件手続法Ⅱ」441頁)
【★8】 大阪高等裁判所昭和27年9月16日決定(家月5巻5号167頁) 「戸籍法第107条第2項〔注:現107条の2〕に規定する名の変更についての正当な事由とは,…改名申立人の名に社会生活上著しく支障を生じる程度に珍奇ないしは著しい難解難読の文字を用いた場合等であると解すべき…」
【★9】 戸籍法50条1項 「子の名には,常用平易(じょうようへいい)な文字を用いなければならない」
 同条2項 「常用平易な文字の範囲は,法務省令でこれを定める」
【★10】 以前は,出生届を出すときに希望すれば,戸籍に名前の読み方も載せる扱いがされていました。しかし,平成6年(1994年)からは,読み方は一切戸籍に載せないことになりました(平成6年11月16日民二第7005号民事局長通達)「戸籍法施行規則の一部を改正する省令の施行等に伴う関係通達等の整備について」)。
【★11】 記事本文は,戸籍について書いています。住民票は,市区町村によって,名前の読み方も書くところと,書かないところとがあります。住民票に名前の読み方も書かれている場合には,その変更のやり方は,市区町村に問い合わせてみてください。
 また,もしあなたがパスポートを作っている場合には,いったん自分で登録した名前の読み方(ローマ字表記)を変えるのには,条件があります。
 旅券法施行規則5条2項 「法第6条第1項第二号の氏名は,戸籍に記載されている氏名…について国字の音訓及(およ)び慣用により表音されるところによる。ただし,申請者がその氏名について国字の音訓又は慣用によらない表音を申し出た場合にあっては,公の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用されているものであることが確認され,かつ,外務大臣又は領事館が特に必要であると認めるときはこの限(かぎ)りではない」
 同条3項 「前項の氏名はヘボン式ローマ字によって旅券面に記載する。…」
 同条4項 「前項の規定に基づき旅券面に記載されるローマ字表記は,外務大臣又は領事館が特に必要と認める場合を除(のぞ)き変更することができない」
【★12】 大阪高等裁判所昭和40年1月28日決定(家月17巻3号54頁) 「通名の使用を理由として名の変更の許されるのは,その使用が永年にわたり,そのため本人の交友関係,職務関係その他一般社会生活のあらゆる面において,通名が戸籍名にとつて代り,戸籍名では却(かえ)って本人の同一性の識別に支障を来すような程度に達した場合に限られ,たとえ通名を使用しても右の程度に至らない場合には,戸籍法107条2項〔注:現107条の2〕に定める名の変更の正当事由を具備(ぐび)するものではないと解するのが相当である」 

2014年8月 1日 (金)

後見人の弁護士がつくってどういうこと?

 

 中学1年生です。お父さんとおばあちゃんの3人で暮らしてたんですが,この前,お父さんが事故で亡くなりました。今,おばあちゃんと2人で生活してます。最近,裁判所の人との面接があって,「おばあちゃんと,弁護士の人が,あなたの後見人(こうけんにん)になります」って言われたんですが,説明がよくわかりませんでした。弁護士の後見人がつくって,どういうことですか。

 


 「後見人」というのは,文字どおり,あなたを後ろから見守ってくれる,親代わりの人のことです。


 親が亡くなってしまった。

 親が行方不明になってしまった。

 裁判所が「親としてふさわしくない」と判断した
【★1】


 そんないろんな事情で,子どもに親がいなくなってしまうと,

 子どもの生活を見たり,子どもの財産をきちんと見る人が,いなくなってしまいます。



 だから,そういう時に,家庭裁判所が,親代わりの人を選びます。

 それが,「未成年後見人」です
【★2~4】



 「後見」という言葉は,明治時代に今の民法という法律ができるよりもずっと前から,日本にありました。

 室町時代に観阿弥(かんあみ)・世阿弥(ぜあみ)が始めた,「能」という伝統的な舞いがあります。

 その舞台の奥のほうで,役者が舞うのをしっかりと見守っている人が,「後見」です。

 舞いで役者の服がみだれてきたら,後見の人が,さっと服を整えてくれます。

 もし役者が舞えなくなったときには,後見の人が前に出てきて,本人の代わりに舞います
【★5】


 法律の「後見」も,それと似たような役割をします。

 子ども本人がきちんと生活できているかどうかを,未成年後見人が見守り,サポートします。

 子ども本人では難しい法律的な手続があれば,未成年後見人が,本人に代わってします。




 法律上,20歳で成人したら,自分のことを全部自分でしなければならなくなります
【★6】

 その成人するまでの間,親がいない子どもに,未成年後見人が付いてサポートをすることは,とてもだいじなことです。



 誰が,子どもの未成年後見人になるか。

 それは,家庭裁判所が,いろんなことを考えて,決めています
【★7】


 そして,家庭裁判所は,「未成年後見人がきちんと子どもをサポートしているかどうか」を,きちんとチェックしています【★8】


 つい最近まで,未成年後見人は,たった1人しかなれませんでした【★9】

 未成年後見人は,親族の中から選ばれることが多いのですが,

 たとえば,亡くなった親が残した財産がたくさんあって,その管理が複雑だったりすると,親族の未成年後見人1人では,とても大変です。



 だから,2年前に法律が変わりました【★10】

 1人だけでなく,複数で未成年後見人になることが,認められるようになりました。



 たぶん,あなたの場合,

 「日々の生活のことは,いっしょに暮らしているおばあちゃんが親代わりとしてメインで担当し,

 お父さんが残した財産の管理のことは,法律の専門的な知識が必要だから,弁護士がメインで担当するのがいい」,

 と,裁判官が考えたのだと思います
【★11】

 裁判所が,信頼できる弁護士たちのリストの中から選んできて,

 その弁護士が,あなたのおばあちゃんとタッグを組んで,あなたを支えてゆくのです。



 これまで,弁護士が子どもとかかわる場面といえば,

 犯罪のこと,学校のこと,親子のことなど,

 何らかのトラブルがきっかけとなって出会い,

 そのトラブルの解決のためにかかわる,というのが,ほとんどでした。

 だから,

 弁護士と子どもが話す内容は,そのトラブルにかかわることが中心ですし,

 そのトラブルが解決すれば,弁護士と子どものつきあいも,基本的にはそこで終わってしまいます。


 でも,この未成年後見人としての弁護士とのかかわりは,ちがいます。

 あなたの生活全般について広く弁護士がサポートできますし,

 あなたが成人するまでの,とても長い間,あなたとつきあうことができます。

 ずっとあなたをサポートする,力強い味方の弁護士が,あなたのそばにいます。

 しかも,その弁護士のさらに後ろで,裁判所も,あなたを守っています。



 親を亡くして,とてもつらかったと思います。

 そして,親を亡くしたことで,いままで知らなかった弁護士と,新たに出会うこととなったのも,ほんとうに不思議な縁だと思います。

 その弁護士のサポートをうまく受けながら,ぜひ,自分らしい生き方を見つけていってください。

 

 

【★1】 「親権喪失(そうしつ)」と「親権停止」の手続があります。
民法834条 「父又は母による虐待(ぎゃくたい)又(また)は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著(いちじる)しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでない」
民法834条の2第1項 「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権停止の審判をすることができる」
【★2】 民法838条 「後見は,次に掲(かか)げる場合に開始する。
 一  未成年者に対して親権を行う者がないとき,又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
 二  後見開始の審判があったとき。」
 民法839条1項 「未成年者に対して最後に親権を行う者は,遺言(いごん)で,未成年後見人を指定することができる。…」
 民法840条1項 「前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは,家庭裁判所は,未成年被後見人(みせいねんひこうけんにん)又(また)はその親族その他の利害関係人の請求によって,未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも,同様とする。」
 認知症(にんちしょう)などでも,「成年後見」の制度があります。本人に必要なサポートの度合いによって,「後見」「保佐」「補助」というバリエーションがあります(民法7条~18条)。成年後見では,裁判所が「始めます」という「開始の審判」をして,はじめて,サポートをする人(後見人・保佐人・補助人)を誰にするかを選びます。しかし,子どもにつける未成年後見の場合は,親権者がいなければ,当然に後見がスタートすることになっていて(民法838条1号),裁判所は,誰を未成年後見人に選ぶかを決めるだけです。
 大人の場合には,自分のことを自分でするのが基本なので,誰かがサポートに入るのはあくまで例外です。ですから,その例外にあたるのかどうかを,裁判所がきちんと判断する必要があります。ぎゃくに,子どもの場合には,まだ法律的なことを自分ではできないのが基本なので(民法5条),親権者がいなければ,自動的に後見がスタートするのです。
【★3】 民法第857条 「未成年後見人は,第820条から第823条までに規定する事項について,親権を行う者と同一の権利義務を有(ゆう)する。…」
  民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有し,義務を負う。」
 民法821条 「子は,親権を行う者が指定した場所に,その居所を定めなければならない。」
 民法822条 「親権を行う者は,第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒(ちょうかい)することができる。」
 民法823条1項 「子は,親権を行う者の許可を得なければ,職業を営(いとな)むことができない。」
【★4】 あなたが15歳以上なら,おばあちゃんと養子縁組の届出をして,おばあちゃんが「養親」として法律上の親になることができます。
 民法797条1項 「養子となる者が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,縁組の承諾(しょうだく)をすることができる」
 これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても養子縁組をするかどうかは自分で決める,ということです。
 民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
 民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者(はいぐうしゃ)の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」(「自己」は自分のこと,「配偶者」は,夫から見た妻,妻から見た夫のこと,「直系卑属」は,子ども・孫・ひ孫・・・のことです。)
 しかし,15歳になっていない子どもが養子縁組をするには,「法定代理人」という人(親や,親代わりの人)が手続きをする必要があります。でも,あなたの場合,お父さんが亡くなったことで,法定代理人がいません。だから,今の時点では養子縁組をすることができなくて,未成年後見人が選ばれることになるのです。
 その後,未成年後見人の判断で,おばあちゃんと養子縁組をすることもありえますし,あなたが15歳になって養子縁組を自分ですることもできます。そうすると,おばあちゃんが親権者になり,未成年後見も,そこで終わります。
【★5】 「the能ドットコム」能楽用語事典「後見」
 http://db2.the-noh.com/jdic/2008/05/post_18.html
【★6】 民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする。」
【★7】 民法840条3項 「未成年後見人を選任するには,未成年被後見人の年齢,心身の状態並(なら)びに生活及び財産の状況,未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無),未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。」
【★8】 民法863条1項 「後見監督人又は家庭裁判所は,いつでも,後見人に対し後見の事務の報告若(も)しくは財産の目録の提出を求め,又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。」
 同条2項 「家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で,被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。」
【★9】 改正前の民法842条(改正によって今はこの条文はなくなりました) 「未成年後見人は,1人でなければならない。」
【★10】 改正後の民法は,平成24年4月1日から施行されています。
【★11】 民法857条の2第1項 「未成年後見人が数人あるときは,共同してその権限を行使する。」
 同条2項 「未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,その一部の者について,財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる。」
 同条3項 「未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,財産に関する権限について,各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌(ぶんしょう)して,その権限を行使すべきことを定めることができる。」

2014年5月 1日 (木)

子どもから父親とその不倫相手に慰謝料請求できる?

 

 中学2年生です。お父さんが同じ職場の女性と不倫(ふりん)して,家を出て,その女性といっしょに暮らしています。両親はまだ離婚してませんが,お父さんは私に全く会おうともしないし,大きな会社に勤めているのに生活費も払ってくれません。そんなお父さんと,不倫相手の女性に,子どもの私から,「慰謝料(いしゃりょう)を払って」と言えるんですか。

 

 父親が付き合っている相手の女性に,子どもから慰謝料を払えと言えるかどうか。


 今から35年前に,最高裁が,こんな判決を出しています
【★1】


 「父親が子どもに愛情を注(そそ)いだりすること。

 それは,他の女性といっしょに暮らすかどうかに関係なく,父親が自分で決めて,自分でできる。


 つまり,その女性は,関係ない。

 だから,子どもからその女性に,『慰謝料を払え』とは,言えない。

 たとえば,

 『父親自身は子どもに愛情を注ぎたいと思っているのに,その女性がじゃまをしている』,

 そのような,よほどのことがなければ,子どもはその女性に慰謝料を払えとは言えない。」



 最高裁は,同じ日に,同じようなもう一つの事件の判決も出しています。

 お母さんが,海外にいる他の男性と暮らすようになったケースでした。

 裁判所は,「住む場所が海外になっても関係ない」,と言いました。

 子どもに愛情を注ぐことは,他の男性といっしょに暮らすかどうかに関係なく,母親が自分で決めて,自分でできる。

 それは,海外に行っても,同じこと。


 だから,子どもからその男性に慰謝料を払えとは言えない,としたのです【★2】


 なんだか不思議なりくつですね。

 たしかに,「他の人と付き合い始めても,自分の子どもに変わらず愛情を注げる」,という親もいるでしょうし,

 「だれかと付き合い始めたというわけではないけれど,夫婦の仲が悪くなって別々に暮らしはじめ,離れた子どもに愛情を注がなくなる」,という親もいるでしょう。

 そのりくつからすると,親が付き合っている相手は,関係ないかもしれません。


 でも,親が他の人と付き合うようになって,

 家を出てその人と暮らすようになったからこそ,

 子どものことを見向きもしなくなっているのに,

 親が付き合っている相手が「関係ない」なんて言っていいのか,関係があるはずじゃないか。

 最高裁の判決を書いた4人の裁判官のうち,1人の裁判官は,そう言っています。

 その裁判官は,「親が付き合っている相手は,子どもに慰謝料を払うべきだ」と反対の意見を言っています
【★3】


 ただ,「親が付き合っている相手も関係がある」とはいっても,

 やはり,あなたに親としての責任を負うのは,お父さんです。

 他の人と付き合い始めていっしょに暮らそうと,そうでなかろうと,

 きちんと子どもと交流を続けて,生活費や学費を払うのが,親として当たり前のことです。


 だから,
お父さんの相手の女性よりも,まずは,お父さんと話をしていきましょう。

 そして,慰謝料よりも,まずは,交流や生活費・学費のことそのものについて,話をしていきましょう。

 あなたやお母さんから,お父さんに,「きちんと子どもと会ったり,連絡を取り合ったりしてほしい」「生活費や学費をきちんと払ってほしい」ということが,だいじです【★4】【★5】

 話し合いがうまくいかないようなら,裁判所で話し合ったり,裁判所に判断してもらったりすることもできます
【★6】


 お父さんが,交流や生活費・学費といった「親としての義務」を,きちんとはたさない。


 そのために,あなたが苦痛を受ける。

 その苦痛をやわらげるため「慰謝料」の話は,まず交流や生活費・学費の話をした後,その次にすることだろうと,私は思います【★7】


 「お父さんの相手の女性にもお金を払えと言うかどうか」,とか,

 「お父さんに求めるのを『慰謝料』にするのかどうか」,などの,

 「だれに何を求めるか」ということは弁護士に相談するとして,

 一番だいじなことは,

 お父さんが他の人と付き合い始めて家を出て行ったことへの怒りや,

 お父さんから自分が無視されることのさみしさ,かなしさについて,

 子どものあなた自身から声を上げていいんだ,ということなのです【★8】

 

【★1】 最高裁第二小法廷昭和54年3月30日判決・民集33巻2号303頁。「妻及(およ)び未成年の子のある男性と肉体関係を持った女性が妻子(さいし)のもとを去った右男性と同棲(どうせい)するに至(いた)った結果,その子が日常生活において父親から愛情を注がれ,その監護(かんご),教育を受けることができなくなったとしても,その女性が害意(がいい)をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止(そし)するなど特段の事情のない限(かぎ)り,右女性の行為(こうい)は未成年の子に対して不法行為(ふほうこうい)を構成するものではないと解(かい)するのが相当である。けだし,父親が未成年の子に対し愛情を注ぎ,監護,教育を行うことは,他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく,父親自らの意思によって行うことができるのであるから,他の女性との同棲の結果,未成年の子が事実上父親の愛情,監護,教育を受けることができず,そのため不利益を被(こうむ)ったとしても,そのことと右女性の行為との間には相当因果関係(そうとういんがかんけい)がないものといわなければならないからである。」
【★2】 最高裁第二小法廷昭和54年3月30日判決・判例時報922号8頁。「・・・このことは,同棲の場所が外国であっても,国内であっても差異(さい)はない。」
【★3】 本林譲裁判官反対意見「私は,未成年の子を持つ男性と肉体関係を持ち,その者の子供を出産し,妻子のもとを去った右男性と同棲するに至った女性がたとえ,自(みずか)らその同棲を望んだものでもなく,同棲後も,男性が妻子のものに戻ることに敢(あ)えて反対しないのであっても,同棲の結果,男性がその未成年の子に対して全(まった)く,監護,教育を行わなくなったのであれば,それによって被る子の不利益は,その女性の男性との同棲という行為によって生じたものというべきであり,その間には相当因果関係があるとするのが相当であると考えるのである。けだし,不法行為における行為とその結果との間に相当因果関係があるかどうかの判断は,そのような行為があれば,通常はそのような結果が生ずるであろうと認められるかどうかの基準によってされるべきところ,妻子のもとを去って他の女性と同棲した男性が後に残して来た未成年の子に対して事実上監護及び教育を行うことをしなくなり,そのため子が不利益を被ることは,通常のことであると考えられ,したがって,その女性が同棲を拒(こば)まない限り,その同棲行為と子の被る右不利益との間には相当因果関係があるというべきだからである。更(さら)に,日常の父子の共同生活の上で子が父親から日々,享受(きょうじゅ)することのできる愛情は,父親が他の女性と同棲すれば,必ず奪われることになることはいうまでもないのであり,右女性の同棲行為と子が父親の愛情を享受することができなくなったことによって被る不利益との間には,相当因果関係があるということができるのである。」
【★4】 民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又(また)は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない」
【★5】 面会交流は,ふつう,離れている親のほうが,「子どもに会いたい」と求めるケースがほとんどです。しかし,私は,子どものほうから離れている親に「会いたい」と求める話し合いや,裁判所での手続が,もっと行われるべきだと思います。
【★6】 家庭裁判所で「調停(ちょうてい)」という話し合いをし,それでもまとまらなければ,裁判所に「審判(しんぱん)」というかたちで判断してもらいます。これらの手続は,離婚する前であってもすることができます。
【★7】 りくつから言えば,お父さんに対する慰謝料請求は認められる可能性があります。本文で書いた最高裁の判決の中でも,裁判官の個別の意見で,そのような可能性を指摘しているものがあります。
 大塚喜一郎裁判官補足意見「なお,本件のような事案において,子が父親に対しては損害賠償の請求を行わず,その同棲の相手方となった女性に対してだけ損害賠償の請求をする事例が一般的であるところ,その請求者の態度は心情的に理解できないわけではないが,この一般的事実及び背景にある法解釈論は,本件相当因果関係の判断に関する考慮要素とすることができる。」
 本林譲裁判官反対意見「民法820条は,親権を行う者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負うと規定する。…(略)…少なくとも親が故意(こい)又は過失(かしつ)によって右義務を懈怠(けたい)し,その結果,子が不利益を被ったとすれば,親は,子に対して不法行為法上の損害賠償義務を負うものというべきであるから,右不利益は,不法行為法によって保護されるべき法益(ほうえき)となり得ると考えられるのである。」
【★8】児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)12条1項「締約国(ていやくこく)は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項(じこう)について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度(せいじゅくど)に従(したが)って相応(そうおう)に考慮されるものとする。」
 同条2項「このため,児童は,特に,自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において,国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若(も)しくは適当な団体を通じて聴取(ちょうしゅ)される機会を与えられる。」
 

 

2013年11月 1日 (金)

「親子の縁を切る」「戸籍から抜く」と言われた

 

 親から,「お前とは親子の縁(えん)を切る,戸籍(こせき)から抜(ぬ)く」と言われました。親子の縁を切られたり,戸籍から抜かれたりすると,いったいどうなるんですか。

 

 親から,「親子の縁を切る」とか,「戸籍から抜く」と言われるのは,とてもさみしい,悲しいことですよね。


 でも,法律的に親子の関係を切ったり,子どもを戸籍から抜いたりすることは,よほど特別なことがないかぎり,できません。

 あなたの親が言っていることは,ほとんど無理なことだと思ってもらって,まちがいありません。



 そもそも,「親子の縁を切る」というのは,法律の世界にはない言葉です。


 子どもが生まれると,役所に,「生まれました」という届出をします【★1】

 このときに,父親がだれで,母親がだれか,ということも届け出ます
【★2】

 いったんこの届出をしたら,後になって「やっぱり親子の関係をやめます」ということはできません。

 「この人が親で,この人が子どもだ」,ということ。

 「法律上の親子のつながりがある」,ということ。

 そのことは,これから先も,ずっと変わらないのです
【★3~5】

 将来あなたが結婚して,その家を出ても,

 あなたがどこかに養子に行って,その家を出ても,

 あなたか,親の,どちらかが死んだとしても,

 法律上親子のつながりがあるということは,ずっと変わりません。

 親子の関係を切ることは,できないのです。



 あなたが20歳になるまでの間,親としてあなたに責任をもつ人のことを,「親権者(しんけんしゃ)」と言います【★6】

 この「親権者」をやめます,ということも,裁判所が認めなければ,できません
【★7】

 裁判所は,よほどの事情がなければ,勝手に「親権者」をやめることなど,認めないのです
【★8】

 もし,いろんな事情で親が「親権者」でなくなっても
【★9】,上に書いたとおり,法律上親子のつながりがあるということじたいは,やはり変わりません。


 「戸籍」は,一人ひとりの情報を,家族単位で,役所が管理しているものです。

 お父さん・お母さん,そして子どももいっしょに,戸籍にまとめて載っています。

 子どもが親の戸籍から抜けるのは,ふつうは,子どもが,だれかと結婚したときか,どこかの家に養子に行ったときです。

 でも,結婚にしても,養子にしても,相手のいることですから,親だけで勝手にすることはできません。



 結婚や養子縁組をしなくても,大人になれば,親の戸籍から抜けて,一人で新しい戸籍を作ることができます。

 これを「分籍(ぶんせき)」と言います。

 でも,子どものときには,分籍はできません
【★10】


 戸籍は,一人ひとりの情報を管理するための,単なる道具にすぎません。

 だから,たとえ,戸籍が別々になったとしても,法律上の親子のつながりは,まったく切れないのです。

 あなたが親の戸籍から抜けたとしても,

 親の戸籍では「子どものあなたがいる」という情報がわかるようになっていますし,

 あなたの戸籍には「親がだれか」という情報が書かれます。




 これまで書いてきたとおり,法律では,「親子の縁を切る」ということも,戸籍から抜くことも,ほとんどできません。



 あなたの親は,「それが法律でできるのかどうか」ということまで,きちんと考えて言っているのではありません。

 「あなたをこれ以上自分の子どもとして育てていくことがいやになった」,

 親は,そんな気持ちになって,その時のいきおいで,「縁を切る」「戸籍を抜く」と言ってしまっているのだと思います。



 だから,あなたのほうは,

 「親子の縁を切ったり,戸籍から抜かれたりしたら,どうなるか」ということを心配するよりも,

 「どうして親は,私のことを,自分の子どもとして育てていくのがいやになっているのだろう」ということを,考えてみてください。

 それを考えていく中で,親がほんとうはあなたを大切に思ってくれている,ということに,あなた自身が気づくかもしれません。

 「大切なあなたに,きちんとした人に育っていってもらいたい。それなのに,あなたにそうしてもらえない」。

 親は,そういうことへの怒(いか)りから,いきおいで言ってしまっていることも多いと思います。

 本当は,大人のがわも,子どものことを大切に思っているなら,たとえ怒っているときであっても,「縁を切る」,「戸籍を抜く」という言葉で,子どもにさみしく悲しい気持ちにさせるようなことは,してはいけない,と私は思います。

 でも,大人でも,自分の気持ちを相手に伝えるのが,ちょっとうまくないときもあります。

 おたがいが気持ちを分かりあえるように,話ができるとよいと思います。



 一方で,親が,子どものことを大切に思っていないケース,自分の子どもとして育てるのが本当にいやだと思っているケースも,残念ながら,やはりあります。

 私がこれまでかかわってきた虐待のケースでも,親から心ない言葉を言われて傷ついてきた子どもたちが,何人もいました
【★11】

 もし,あなたが親の言葉で深く傷つき,家の中にまったく居場所がない,と感じているようなら,ぜひ,まわりの大人や,私たち弁護士に相談してください。

 

【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法49条2項 「届出には,次の事項(じこう)を記載しなければならない。
(略)
 三 父母の氏名及び本籍,父又は母が外国人であるときは,その氏名及び国籍」
【★3】 「ほんとうは最初から親子ではなかった」という,かなり特別な場合に親子関係がなくなることはありますが,これも,裁判所が判断します。
 お母さんは,「出産した人イコール母親」です(最高裁昭和37年4月27日判決・民集16巻7号1247頁)。出生の届出のときには,出産の証明書が付けられますから,ウソの届出を作って出さないかぎり,「最初から母親ではありませんでした」ということはありえません(ウソの届出を作って出すのは犯罪です)。
 お父さんは,「自分の子どもではない」「血のつながりがない」と思ったら,1年以内に裁判所に言わなければなりません(これを「嫡出否認(ちゃくしゅつひにん)」と言います)。1年を過ぎれば,たとえ血のつながりがなくても,父親と子どもの関係をやめることは許されません。
民法772条1項 「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する」
民法774条 「第772条の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる」
民法775条 「前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。…」
 とても例外的に,1年を過ぎても「最初から父親ではありませんでした」ということが認められることもあります。しかし,「親子関係不存在確認訴訟」という裁判を起こして,親子の血のつながりがないということと,子どもが生まれるときに夫婦としての見かけがなかったということ,というかなり高いハードルをクリアしなければ,裁判所は「親子でない」とは認めません(「外観説」と言います。最高裁第一小法廷昭和44年5月29日判決・民集23巻6号1064頁,最高裁第三小法廷平成12年3月14日判決・家月52巻9号85頁,最高裁第二小法廷平成10年8月31日判決・家月51巻4号75頁)。
【★4】 法律上の親子の関係が終わるものとして,特別養子縁組という,とても特殊な手続があります。
 特別養子縁組は,子どもを生んだけれども育てられないとか,子どもを虐待してしまう,という親と関係を切って,養子に行った先の家で,養子というよりもほんとうの子どものように親子関係を作るための,特別な養子縁組です。ふつうの養子縁組では,この記事の本文で書いたように,もとの親との関係は切れませんが,特別養子縁組では,もとの親との関係が切れることになります。
 この特別養子縁組は,家庭裁判所がとても慎重に判断しますし,子どもが6歳以上ならできません(例外的に,すでに引き取られる先にずっと育てられてきていれば8歳まで)。
民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方(じっかた)との血族関係が終了する縁組(以下この款(かん)において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる」
民法817条の5 「第817条の2に規定する請求の時に6歳に達している者は,養子となることができない。ただし,その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は,この限りでない」
民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」
民法817条の9 「養子と実方の父母及びその血族との親族関係は,特別養子縁組によって終了する。…」
【★5】 法律上の親子関係が続くので,将来,親が年を重ねたとき子どもが親を養(やしな)う立場になりますし(これを扶養(ふよう)といいます),親子としてどちらかが亡(な)くなれば,財産を引き継ぐこと(相続)も起きます。
民法877条1項 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養をする義務がある」
(直系血族とは,親・おじいちゃん・おばあちゃん・ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん…という直接の上の世代の人と,子・孫・ひ孫…という直接の下の世代の人のことです)
民法887条1項 「被相続人の子は,相続人となる」
民法889条1項 「次に掲(かか)げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従(したが)って相続人となる。 一 被相続人の直系尊属(ちょっけいそんぞく)。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする」
(直系尊属とは,親・おじいちゃん・おばあちゃん・ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん…という直接の上の世代の人のことです)
【★6】 民法818条1項 「成年に達しない子は,父母の親権に服する」
民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育する権利を有し,義務を負う」
【★7】 親権の辞任(じにん)と言います。
民法837条1項 「親権を行う父又は母は,やむを得ない事由(じゆう)があるときは,家庭裁判所の許可を得て,親権又は管理権を辞(じ)することができる」
【★8】 親権の辞任が認められる「やむを得ない事由」とは,たとえば,親が重病になったり,刑務所に行ったり,長い間いなくなったりなどして,親として責任を果たせないというときです(中川淳「改訂親族法逐条解説」486頁参照)。
【★9】 あなたが20歳になるまでの間に,「親権辞任」以外の方法で,あなたの親が「親権者」でなくなるのは,次の方法しかありません。
(1)あなたが養子としてほかの家に行く。
(2)あなたが結婚する。(結婚すると,20歳になっていなくても,法律上は大人と同じになり,親の親権から外れます。これを,成年擬制(せいねんぎせい)と言います。)
(3)あなたの両親が離婚していたなら,別れていたもう一人の親に親権者を変える。
(4)親権が喪失(そうしつ)させられたり,停止されたりする。
 でも,(1)の養子縁組,(2)の結婚,(3)の親権者の変更,のどれにしても,相手がいる話ですから,親が一人で勝手に決めることは,結局できません。(1)の養子縁組は,おじいちゃん・おばあちゃん以外の人の家に行くなら,家庭裁判所の許可が必要です。(2)の結婚は,男なら18歳,女なら16歳にならなければ,できません。(3)の親権者変更も,裁判所が認めなければできません。また,(4)の親権喪失や親権停止は,親以外の誰かが,「親としてふさわしくない」と裁判所に訴えることが必要ですし,それが認められるためのハードルはとても高いです。
 結局,どの方法も,簡単でないどころか,とても大変なのです。
(1)養子縁組
民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」
(直系卑属とは,子・孫・ひ孫…という直接の下の世代の人のことです)
(2)結婚
民法753条 「未成年者が婚姻をしたときは,これによって成年に達したものとみなす」
民法731条 「男は,18歳に,女は,16歳にならなければ,婚姻をすることができない」
(3)親権者変更
民法819条6項 「子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができる」
(4)親権喪失・親権停止
民法834条 「父又は母による虐待又は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著(いちじる)しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでない」
民法834条の2第1項 「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権停止の審判をすることができる」
【★10】 戸籍法21条1項 「成年に達した者は,分籍をすることができる…」
【★11】 「心理的虐待」という児童虐待にあたる場合もあります。
児童虐待の防止等に関する法律2条 「この法律において,『児童虐待』とは,保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,児童を現に監護するものをいう。…)がその監護する児童(18歳に満たない者という。…)について行う次に掲げる行為(こうい)をいう。
(略)
 四 児童に対する著(いちじる)しい暴言又は著しく拒絶的(きょぜつてき)な対応…その他の児童に著しい心理的外傷(しんりてきがいしょう)を与(あた)える言動を行うこと」

 

2013年10月 1日 (火)

母親の再婚相手と養子縁組したくない

 

 中学3年生です。だいぶ前に両親が離婚して,母と二人で暮らしてきました。最近,母に新しい彼氏ができて,先日,母から,子どもを妊娠したこと,その男の人と再婚すること,そして,その男の人と自分とが養子縁組をすることになるということを聞きました。正直言って,母の彼氏のことは嫌いで,自分の父親にはなってほしくありません。最近,家にいるのがつらくて,親戚のところにいさせてもらうことが多いです。私は,その男の人と養子縁組をしないといけないんですか。

 

 いままで,お母さんと二人でがんばって暮らしてきたんですね。

 大切なお母さんに新しいパートナーができてよかった,

 でもそのパートナーのことを自分は好きになれない,

 新しい家族が増えてきて家に自分の居場所がなくなるようでさみしい,

 いろんな複雑な気持ちをかかえながら過ごしているのではないかと思います。



 お母さんが再婚しても,それだけでは,お母さんの相手の男性と,あなたとは,自動的には親子にはなりません。

 養子縁組をして,はじめて,その男性とも法律上の親子になります。



 養子縁組は,役所に届出を出すことで成り立ちます【★1】


 あなたが15歳以上なら,養子縁組の届出にサインをするのは,あなたとその男性です【★2】

 お母さんとその男性の二人だけで,あなたにないしょで勝手に決めて養子縁組の手続をすることはできません。

 だから,
あなたが養子縁組をしたくないのであれば,断ってよいのです


 養子縁組をすると,養父(ようふ)となった男性は,親として,あなたを育てるためのいろんな義務を負うことになります【★3】

 あなたの生活をきちんと見守ることはもちろん,

 生活費や進学費用などのお金も,養父はきちんと出さないといけません。

 男性は,そういう負担のあることをわかったうえで,「あなたと養子縁組をしたい,みんなで家族になりたい」と思っているのが,ふつうだろうと思います。

 そういったこと,つまり,その男性の思いや生活費・進学費用の負担などについて,あなたのほうでも,よく考えてみてください。

 そして,よく考えてみても,「それでも,やっぱりその人と親子になるのはいやだ」,ということであれば,その真剣なあなたの思いは大切なものです。

 お母さんやその男性に,あなたのその気持ちを伝えてください。

 そして,養子縁組を断ってよいのです
【★4】


 あなたが14歳以下なら,養子縁組の届出にサインをするのは,お母さんとその男性です【★2】

 だけれど,そうであったとしても,養子になる本人のあなたの気持ちが,ないがしろにされるのでは,おかしなことです。

 
あなたが養子縁組をしたくないのであれば,あなたのその気持ちを,きちんとお母さんとその男性に伝えることが大切です

 もし,あなたが養子縁組をしたくないのに,お母さんが養子縁組の届出をしてしまったら。

 そのあと,あなたが15歳になれば,お母さんの気持ちがたとえどのようであっても,あなた自身の考えで,養子縁組をやめるために動くことができます
【★5】

 養子縁組をやめることを,「離縁(りえん)」と言います。

 離縁をするときは,その男性(養父)と話し合って,一緒に離縁の届出をするのがふつうです
【★6】

 話し合いがまとまらなければ,裁判所で話し合いをします(「調停(ちょうてい)」といいます)
【★7】

 それでも話し合いがまとまらなければ,離縁のための裁判をする方法もあります
【★8】

 これらのどの方法であっても,あなた自身で考え,動くことができます。



 その男性と養子縁組をしないからといって,あなたが家を出ないといけないわけではありません。

 養子縁組をしなくても(つまり,その男性と法律上の親子にならなくても),みんなで一緒に暮らすことは,とくに問題ありません。


 でも,あなたが,「どうしても,その男性や新しく生まれてくる子どもと一緒に暮らしたくない,暮らせない」,ということもあると思います。

 あなたの場合,今よく行く親戚のところがあるのですよね。

 その親戚と,よく話をしてみてください。

 もしその親戚がOKしてくれれば,その親戚とあなたが養子縁組をする,という方法もあります。

 あなたが,その親戚の家の子どもになる,という養子縁組です。

 あなたが14
歳以下なら,お母さんからOKをもらえば,養子縁組の手続きをとることができます

 15歳以上であれば,養子縁組は,お母さんがOKしなくても,自分で考えて動くことができます。

(ただし,誰とでも自由に養子縁組ができるというわけではありません。原則として,未成年のうちは,「その人と養子縁組をして大丈夫かどうか」を,家庭裁判所がチェックすることになっています
【★9】


 誰が自分の親になるのか,ということは,人生の中で,とてもだいじなことです。

 それなのに,親の再婚の場面で,子どもの気持ちが大切にされていないことが,とても多いです。

 私は,虐待や非行のケースを多く見る中で,そう感じています。



 自分の人生は,自分が主人公です。

 いろんな人の意見を聞きながら,

 いろんな人と話し合いながら,

 自分で自分の人生を選んでいってください。

 

【★1】 民法799条 「民法…第739条の規定は,縁組について準用(じゅんよう)する」
 民法739条1項 「婚姻は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる」
 戸籍法66条 「縁組をしようとする者は,その旨(むね)を届け出なければならない」
【★2】 民法797条1項 「養子となる者が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,縁組の承諾(しょうだく)をすることができる」
 これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても養子縁組をするかどうかは自分で決める,ということです。
【★3】 民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
 民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」
【★4】 あなたとその男性が養子縁組をしないのであれば,生活費や進学費用などの養育費は,あなたの実の父親にきちんと負担してもらう必要があります。
 民法877条 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養(ふよう)をする義務がある」
 あなたとその男性が養子縁組をしても,あなたの実の父親の義務がまったくなくなるわけではありません。しかし,養父となる男性がメインであなたの生活を見ることになるので,実の父親は養育費の支払いを免除されたり,減額されたりします。
【★5】 民法811条2項 「養子が15歳未満であるときは,その離縁は,養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする」
 これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても自分で離縁の手続きが取れる,ということです。
【★6】 民法811条1項 「縁組の当事者は,その協議で,離縁をすることができる」
【★7】 家事事件手続法257条 「第244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は,まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない」
 同法244条 「家庭裁判所は,人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか,この編の定めるところにより審判をする」
 人事訴訟法2条 「この法律において『人事訴訟』とは,次に掲(かか)げる訴えその他の身分関係の形成又は存否(そんぴ)の確認を目的とする訴え…に係(かか)る訴訟をいう。
 (略)
三  …離縁の訴え…(略)」
【★8】 民法814条 「縁組の当事者の一方は,次に掲げる場合に限り,離縁の訴えを提起(ていき)することができる。
 一 他の一方から悪意で遺棄(いき)されたとき。
 二 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき。
 三 その他縁組を継続し難(がた)い重大な事由があるとき。」
【★9】 民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない」
 例外として,あなたのお母さんとその男性が結婚した場合で,男性とあなたが養子縁組をするときは,家庭裁判所の許可はいらない,とされています。私は,この例外の規定はおかしいと思っています。再婚の場合の養子縁組でも,家庭裁判所がチェックするべきだと思っています。再婚・養子縁組で,子どもたちといい家族をつくっていこう,と,がんばっているお父さん・お母さんは多いです。でも,他方で,虐待や不適切養育が,再婚家庭の養父・養母からされているというケースも,残念ながら,多くあるのが現状です。ですから,こういった再婚家庭での養子縁組のときにも,虐待や不適切養育のおそれがないかどうかを,家庭裁判所がきちんとチェックするしくみが必要だと思います。また,虐待や不適切養育のおそれがないとしても,子ども自身の気持ちを,家庭裁判所がきちんと確かめる手続きがなければいけない,と,強く思っています。
 なお,あなたがこれから養子縁組をしようと思っている親戚が,あなたの祖父・祖母の場合にも,家庭裁判所の許可は必要ありません。
 同条但書 「ただし,自己又は配偶者(はいぐうしゃ)の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」(「自己」は自分のこと,「配偶者」は,夫から見た妻,妻から見た夫のこと,「直系卑属」は,子ども・孫・ひ孫・・・のことです。)

 

2013年7月 1日 (月)

親が裁判所で離婚の話し合いをしている【マンガ】

Rikon1


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ブログ記事「親が裁判所で離婚の話し合いをしている」

 

 

親が裁判所で離婚の話し合いをしている

 

★質問部分のマンガはこちらをクリック★

 

 親が裁判所で離婚の話し合いをしているみたいです。でも,どんな話がされてるのか,父も母もちゃんと話してくれないのでわかりません。裁判所から自分に教えてもらうことはできないんですか?それに,できれば離婚してほしくないし,もし離婚することになるとしても,自分がどっちの親についていくかとか,別れるほうの親と今後どうするのかとか,そういう自分の考えは,誰にも聞いてもらえないんですか?

 

 法律が新しく変わって,今年(平成25年)1月から,子どもも,裁判所での離婚の話し合いの手続きに加わることができるようになりました。

 さらに,子どもに,どちらの親の立場でもない,子ども独自の立場の弁護士をつけることもできるようになりました。

 手続きに加わることで,裁判所でいまどんな話し合いがされているかを知ることができます。

 そして,自分の考えを,弁護士といっしょに整理して,裁判所と両親に伝えることができます。



 親が裁判所で離婚の話し合いをしているのは,悲しいこと,さみしいことですよね。

 親の離婚は,あなた自身の人生にとても影響(えいきょう)があることです。

 それなのに,どんな話し合いになっているのか教えてもらえず,自分の意見も聞いてもらえないのは,おかしなことです。

 「子どもなんだから大人の決めたことにだまってしたがっていなさい」と言う人もいるかもしれません。

 でも,「親の離婚」という重大な場面でそんなことを言うのは,まったくまちがっています。

 離婚についてどんな話が進んでいるのか,あなたも知ることが必要ですし,

 あなたの意見を大人たちに聞いてもらうことも大切です。



 裁判所での話し合いを,「調停(ちょうてい)」と言います。

 調停は,1ヶ月~1ヶ月半に1回くらいのペースでします。

 お父さんとお母さんが,それぞれ,自分の言い分を,裁判所の調停委員(ちょうていいいん)や調査官(ちょうさかん)に伝えて,話し合いを進めていきます。

 調停は,数回で終わることもあれば,話し合いがなかなかまとまらなければ,2年近く続くこともあります。


 調停では,離婚についていろんなことが話し合われています。

 離婚するのかしないのか,ということから話し合われているときもありますし,

 おたがい離婚することじたいは納得していて,離婚の条件がおりあわずに話し合われているときもあります。



 離婚の条件として,

 子どもをどちらの親が育てていくか
【★1】【★4】

 離れるほうの親が,子どもを育てるためのお金を毎月いくらずつ払っていくか
【★2】【★4】

 離れるほうの親に,子どもがこれからどんな付き合いかたをしていくか
【★3】【★4】

 そういうことについても話し合われます。



 調停の話し合いの中で,子どもの意見が聞かれることは,いままでもありました。

 家庭裁判所の調査官という人が,子どもの意見を聞くのです。

 でも,裁判所が「必要だ」と思ったときにしか,子どもの意見は聞いてもらえませんでした。

 それに,調査官は,あくまで,裁判所の人,中立(ちゅうりつ)な立場の人です。

 だから,調査官が,子どもの立場に立って,一緒に考えてくれたり,アドバイスをしてくれたり,ということはありません。

 子どもは,親の離婚の話し合いの中のメンバーとして,きちんとあつかってもらえなかったのです。



 でも,今年の1月,子どもたちのために,法律が変わりました。

 子どもも,調停の話し合いに,きちんとしたメンバーとして,加わることができるようになりました
【★5】

 子どものほうから,「調停に自分も参加したい」と言うことができるようになったのです
【★6】


 「そもそも離婚してほしくない」,

 「離婚するとしたら,こっちの親についていきたい」,

 「はなれるほうの親とは,これからこんなふうに付き合っていきたい」,「はなれるほうの親とはもうかかわりたくない」。

 そういうあなたの意見を,お父さん・お母さん・裁判所に言っていくことが,できるようになったのです。



 でも,子どもが裁判所で,自分の意見をきちんと伝えることは,とても難しいことです(大人だって難しいことです)。

 「調停が今どんなふうに進んでいるんだろう」「これからどんなふうに進んでいくんだろう」,

 「自分がこの意見を言ったら,どんなプラスとマイナスがあるんだろう」,

 そんな不安・疑問に答えてくれるアドバイスもほしいと思います。



 新しい法律では,子どもが,自分の味方の弁護士を付けることもできるようになりました【★7】

 お父さん・お母さんのどちらの立場でもない,子どものための弁護士です。

 ぜひ,弁護士に相談してみてください。

(相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。)



 上では,裁判所の調停について,書いてきました。

 しかし,実際は,両親の離婚は,裁判所で話し合わないで,お父さんとお母さんの二人だけで話し合って,決めてしまうことのほうが,とても多いのです
【★8】


 離婚の話し合いが今どうなっているのかを,子どもが知ること。

 子どもの意見を,お父さん・お母さんにきちんと伝え,きちんと聞いてもらうこと。

 そして,子どもも弁護士のサポートを受けられること。

 そういうことは,裁判所の調停のときだけでなく,お父さんとお母さんの二人だけで話し合っているときだって,だいじなことです。

 だから,「離婚の話し合いが裁判所でされていないみたいだから」などとあきらめずに,弁護士に相談してください。



 私は,非行を犯した子どもたちや,虐待を受けてきた子どもたちが,親の離婚で心を深く傷つけられてきたのを,多く見てきています。

 そして,そういう子どもたちと出会うたびに,「親の離婚という,人生でとてもだいじな時に,子どもの気持ちが大切にされていない」ということへの,くやしさや,怒(いか)りを感じています。



 あなたが,きちんと親の離婚の話し合いに加わり,自分の意見を言えること,聞いてもらえること。

 そのことが,あなたの人生にとって,とても大切なことです。

 私は,弁護士として,そう強く思っています
【★9】

 

【★1】子どもを育てていく責任と権限(けんげん)を「親権(しんけん)」と言います。離婚前はお父さん・お母さん二人が親権者ですが,離婚をするとどちらか一人が親権者になります。
【★2】面会交流(めんかいこうりゅう)と言います。どのくらいのペースで会うのか,当面会わないで手紙のやりとりにするのか,などを決めます。
【★3】養育費(よういくひ)と言います。
【★4】民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護(かんご)をすべき者,父又は母と子の面会及びその他の交流,子の監護に要(よう)する費用の分担その他の子の監護について必要な事項(じこう)は,その協議で定める。この場合においては,子の利益(りえき)を最(もっと)も優先して考慮しなければならない」
【★5】家事事件手続法252条1項「次の各号(かくごう)に掲(かか)げる調停事件…において,当該(とうがい)各号に定(さだ)める者は,…法定代理人によらずに,自(みずか)ら手続行為(てつづきこうい)をすることができる。…
(略)
 二 子の監護(かんご)に関する処分(しょぶん)の調停事件… 子
(略)
 四 親権者の指定又(また)は変更の調停事件… 子及(およ)びその父母
 五 人事訴訟法(じんじそしょうほう)第2条に規定(きてい)する人事に関する訴(うった)え…を提起(ていき)することができる事項(じこう)についての調停事件 同法第13条1項の規定が適用(てきよう)されることにより訴訟行為(そしょうこうい)をすることができることとなる者」
 離婚調停での子どもは,この1項五号にあたります。
 人事訴訟法2条「この法律において『人事訴訟』とは,次に掲げる訴えその他の身分関係の形成…に係(かか)る訴訟をいう。
 一 …離婚の訴え…
(略)」
 人事訴訟法13条1項「人事訴訟の訴訟手続における訴訟行為については,民法第5条第1項…の規定は,適用しない」
 民法5条1項「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。…」
【★6】家事事件手続法258条1項「第41条から第43条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除(はいじょ)について…準用(じゅんよう)する」
 同法42条2項「…審判の結果により直接の影響を受けるもの又は当事者となる資格を有(ゆう)するものは,家庭裁判所の許可を得(え)て,家事審判の手続に参加することができる」
 なお,子どもがいつもかならず調停に参加できるわけではありません。子どもの年齢など,いろんなことを考えて,「子どもが参加しないほうがよい」,と裁判所が考えるときには,子どもが調停に参加できないこともあります。
 同法42条5項「家庭裁判所は,…参加しようとする者が未成年者である場合において,その者の年齢及び発達の程度その他一切(いっさい)の事情を考慮してその者が当該家事審判の手続に参加することがその者の利益(りえき)を害(がい)すると認めるときは,…参加の許可の申立てを却下しなければならない」
【★7】家事事件手続法23条1項「手続行為につき行為能力の制限を受けた者が…第252条第1項の規定により手続行為をしようとする場合において,必要があると認めるときは,裁判長は,申立てにより,弁護士を手続代理人に選任することができる」
 同条2項「手続行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の申立てをしない場合においても,裁判長は,弁護士を手続代理人に選任すべき旨を命じ,又は職権(しょっけん)で弁護士を手続代理人に選任することができる」
【★8】協議離婚(きょうぎりこん)と言います。
民法763条「夫婦は,その協議で,離婚をすることができる」
【★9】子どもがきちんと自分の意見を言えることは,「子どもの権利条約」で,日本を含む多くの国が認めている,とてもだいじなことです。
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)12条1項「締約国(ていやくこく)は,自己(じこ)の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及(およ)ぼすすべての事項(じこう)について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度(せいじゅくど)に従(したが)って相応(そうおう)に考慮されるものとする」
 同条2項「このため,児童は,特に,自己に影響を及ぼすあらゆる司法上(しほうじょう)及び行政上(ぎょうせいじょう)の手続において,国内法の手続規則に合致(がっち)する方法により直接に又は代理人若(も)しくは適当な団体を通じて聴取(ちょうしゅ)される機会を与えられる」

 

2013年5月 1日 (水)

親が離婚して自分の名字が変わるのがいや

 

 中学1年生です。親が離婚の話し合いをしていて,これからはお母さんと一緒に暮らすことになりそうです。名字(みょうじ)は,いままで「鈴木」でしたが,これからは私もお母さんも「斉藤」になる,と言われました。でも,クラスの友だちの渡辺さんは,親が離婚してお母さんと一緒に暮らしているけど,名字は変わっていません。どうして私は名字が変わっちゃうんですか。

 

 親が離婚してあなたの名字が変わるかどうかは,一緒に暮らすことになるほうの親が考えて決めていることがほとんどです。

 でも,あなた自身の名字のことですから,あなたの気持ちをお母さんにきちんと伝え,話し合うことが大切です。



 結婚するとき,二人の名字がいっしょになる,ということは知っていますよね。

 夫(おっと)の名字か,妻(つま)の名字の,どちらか一つを選んで,二人の名字をいっしょにすることになっています
【★1】【★2】


 たぶん,あなたの場合,お父さんの名字が「鈴木」で,お母さんの名字が「斉藤」だったのですね。

 そして結婚して,お父さんの名字である「鈴木」に合わせた,ということだと思います。

 その2人のあいだに生まれた子ども,つまりあなたの名字も,「鈴木」になります
【★3】


 お父さんとお母さんが離婚したときに,2人の名字がどうなるか。

 離婚すると,「結婚のときに名字を変えた人が,もとの名字にもどる」,ということになっています
【★4】

 だから,あなたの場合,両親が離婚すると,お母さんの名字が,結婚前の「斉藤」にもどります。



 親が離婚するとき,「子どもはどちらの親と暮らすか」,ということも決めます【★5】

 あなたの場合,お母さんのほうになりそうなのですね。



 ところが,子どもの名字は,親が離婚しただけでは,変わりません。

 いっしょに暮らす親の名字が変わったとしても,そうなのです。

 お母さんの「斉藤」さんと,子どもの「鈴木」さんがいっしょに暮らすのでも,本人たちがそれでよいのならかまわない,というのが法律のたてまえです。



 親と子どもの名字がちがうのがいやであれば,子どもの名字を親の名字に合わせることができます【★6】

 15歳以上であれば,自分でその手続きをします。

 14歳以下であれば,親が代わりにその手続きをします
【★7】

 家庭裁判所に手続きを取りますが,大変なことではありません。

 すぐに終わります。

 あなたの場合,まだ15歳になっていないので,あなたの名字をお母さんの「斉藤」に合わせたいのであれば,お母さんが手続きをとることになります。



 友だちの渡辺さんは,あなたと同じように両親が離婚して,お母さんと一緒に暮らしているけれども,名字が変わっていないのですね。


 さっき,「結婚のときに名字を変えた人が,離婚したときに,もとの名字にもどる」,と書きました。

 でも,「離婚したあとも,結婚していたときの名字をそのまま使いたい」と思えば,そうすることもできるのです
【★8】

 渡辺さんのお母さんは,「もとは別の名字だったけど,離婚しても,もとの名字にもどさずに,そのまま渡辺でいたい」,と思って,役所にその手続きをとったのだろうと思います
【★9】

 子どもの名字は,親が離婚しただけでは変わらないので,そのまま「渡辺」なのです。



 お母さんが,もとの名字に戻るか,結婚していたときの名字をそのまま使うかは,いろんなことを悩んで,決めています。

 「新しい気持ちと名前で今後の人生を生きていきたい」,とか,

 「別れた人と同じ名字を使い続ける気持ちになれない」,という理由で,

 もとの名字にもどす,ということもあるでしょう。

 「この名前でずっと暮らしてきたので,離婚でまた名字が変わると,役所,銀行,職場など,いろんな手続きが大変だ」,とか,

 「名字が変わって,離婚したことがほかの人たちに分かるのがいやだ」,という理由で,

 離婚したあとも結婚していたときの名字を使う,ということもあるでしょう。

 お母さんは,自分自身のことを,一生懸命に考えているのです。



 そして,お母さんが「もとの名字にもどす」と決めたときには,「一緒に暮らすこどもたちと名字がちがうのでは,子どもたちがかわいそうだ」と考えて,名字を合わせる手続きをとることが多いと思います。

 お母さんは,子どものことも,一生懸命に考えているのです。



 でも,子どものがわから見たら,両親が離婚することじたいで傷つき,悲しい思いをしています。

 それなのに,自分の名字まで変わってしまうことは,さらにつらく,悲しいことです。

 友だちは親が離婚しても名字が変わっていないのに,自分は大人から何の説明もないままに「名字が変わる」と言われたら,なおのこと,つらいですよね。

 大人の中には,「名前が変わっても,あなたという人そのものが変わるわけではないんだから,大人の言うとおりがまんしなさい」,という人もいるかもしれません。

 でも,名前は,「自分が誰なのか」,という,人間としてとても大事なことがらにかかわる,重要なものです
【★10】

 だから,その名字を使うあなた自身の気持ちが,大切にされなければなりません。



 「ずっと使ってきた名前でこれからも暮らして生きたい」,とか,

 「名字が変わって親が離婚したことを他の人に知られたくない」,とか,

 あなたなりの気持ちがあると思います。

 お母さんがあなたをどんなふうに一生懸命考えてくれているのか,そして,自分がどう考えているのか,それを,お母さんとよく話し合ってみてください。



 その結果,あなたが納得して,お母さんと同じ「斉藤」になるのでもいいですし,

 お母さんのほうの気持ちが変わって,お母さんが「鈴木」の名前を使い続けようということになるかもしれません。

 実際には少ないですが,お母さんとあなたが納得すれば,お母さんが「斉藤」,あなたが「鈴木」で,いっしょに暮らしていくこともありえます。

 あるいは,あなたの法律上の名前が「斉藤」に変わっても,日常生活の中では,できるかぎり「鈴木」のままで暮らせるように,学校にお願いをする,ということも考えられます。

 どんな結論になるにしても,あなたがお母さんときちんと話をし,一生懸命考えることが大切です。



 あなたの名字をここで「斉藤」に変えたとしても,大人になってから「鈴木」にもどすことができます。

 20歳になって1年以内に役所に手続きをすれば,また「鈴木」にもどることができます
【★11】

 もしその手続きをしていなくても,「鈴木」の名字で何年もずっと日常生活を続けていて,裁判所がOKしてくれれば,「鈴木」に変えられる場合もあります
【★12】

 また,将来,あなた自身が誰かと結婚してパートナーのほうの名字を選んだり,誰かの養子になったりしたら,名字が変わります。



 名字は,あなた自身の生き方に深く結びついている,大事なものです。

 でも,誰もが自由気ままに自分の名字を変えられるとしたら,誰が誰だかわからなくなって,社会が混乱(こんらん)してしまいます。

 だから,人生の大事な節目(ふしめ)のときに,その人自身の気持ちを第一に,そしてまわりの人のことも考えて,名字が変わったり,変わらなかったりしているのです。



 あなたがどう考え,お母さんがどう思っているのかを,この機会に,よく話し合ってみてください。

 

【★1】 民法750条 「夫婦は,婚姻(こんいん)の際(さい)に定(さだ)めるところに従(したが)い,夫又(また)は妻の氏(うじ)を称(しょう)する」
 「婚姻」は結婚のこと,「氏」は名字のことです。
【★2】 「結婚するときに名字をかならずいっしょにしないといけないのか,名字が変わらないまま結婚したい夫婦はそれでもいいじゃないか」という反対意見もあります。選択的夫婦別姓(せんたくてきふうふべっせい)という意見です。結婚して名字が変わるかどうかは,国によって決まりが違います。今の日本の法律では,結婚すると名字は一緒になります。
【★3】 民法790条1項 「嫡出(ちゃくしゅつ)である子は,父母の氏を称する…」
 「嫡出」は,結婚している夫婦のあいだに生まれた子どものことです。
【★4】 民法767条 「婚姻によって氏を改(あらた)めた夫又は妻は,協議上(きょうぎじょう)の離婚によって婚姻前の氏に復(ふく)する」
【★5】 民法819条1項 「父母が協議上の離婚をするときは,その協議で,その一方を親権者(しんけんしゃ)と定めなければならない」
【★6】 民法791条1項 「子が父又は母と氏を異(こと)にする場合には,子は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その父又は母の氏を称することができる」
【★7】 民法791条3項 「子が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,前2項の行為(こうい)をすることができる」
【★8】 民法767条2項 「前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は,離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離婚の際に称していた氏を称することができる」
戸籍法77条の2 「民法第767条2項…の規定によって離婚の際に称していた氏を称しようとする者は,離婚の年月日を届書に記載(きさい)して,その旨(むね)を届け出なければならない」
【★9】 ひょっとしたら,両親が結婚したときに,お父さんのほうがお母さんの名字に合わせて変えていたのかもしれません。そうであれば,離婚のときに,渡辺さんのお母さんが何も手続きをとらなくても,お母さんも友だちも「渡辺」のままです。だから,本文で書いたことは,あくまで推測(すいそく)です。
【★10】 「自分がどういう人間なのか」ということを,難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。アイデンティティは,人が人として生きていくために大切なものです。子どもの時期は,そのアイデンティティをかたちづくっていくための,特に大切な時期です。
【★11】 民法791条4項 「前3項の規定により氏を改めた未成年の子は,成年に達した時から1年以内に,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,従前(じゅうぜん)の氏に復することができる。」
【★12】 あなたが20歳になったあと,お母さんの戸籍から抜けて(分籍(ぶんせき)と言います),自分ひとりの戸籍を作ったうえで,「氏の変更」という裁判所での手続きをとります。
戸籍法21条1項 「成年に達した者は,分籍をすることができる…」
戸籍法107条1項 「やむを得ない事由(じゆう)によって氏を変更しようとするときは,戸籍の筆頭(ひっとう)に記載(きさい)した者及びその配偶者(はいぐうしゃ)は,家庭裁判所の許可を得て,その旨(むね)を届け出なければならない」