成人年齢の引下げで少年法はどうなったの?
成人年齢の引下げで,少年法はどうなったんですか? 18歳・19歳も,犯罪をしたら大人と同じように処罰されることになったんですか?
成人年齢が18歳に引き下げられましたが,
犯罪をした18歳・19歳は,引き続き少年法の対象のままとなりました。
なので,18歳・19歳の人が刑務所ではなく少年院に行くことがあるのは,変わりません。
ただ,これまでとちがって,18歳・19歳が大人の扱いに近づいたことが,いくつかあります。
大人になる歳(成人年齢)は,「民法」という法律で決められています。
その民法は,いままでずっと「20歳で大人」としていました。
それが改正されて,2022(令和4)年4月1日から,「18歳で大人」になりました【★1】。
民法で大人として扱われるというのは,「法律的なことを自分一人でする」という意味です。
くわしくは,「成人年齢が18歳になると何が変わるの?」の記事に書いていますので,読んでみてください。
犯罪をした子どもの裁判の手続は,「少年法」という法律で決められています。
その手続は,大人とは大きくちがいます。
大人の刑事裁判は,公開の手続です【★2】。
裁判所が判決で言い渡すのは「罰金を払いなさい」「刑務所に行きなさい」などの刑罰です【★3】。
これに対して,子どもの裁判は,少年審判という非公開の手続です【★4】。
裁判所が言い渡すのも,「保護司さんのところに通いなさい」「少年院に行って教育を受けなさい」という処分です【★5】。
ただ,重い犯罪の場合には,子どもであっても,大人と同じ裁判で刑罰を受けることがあります(あとでお話しする「逆送(ぎゃくそう)」)【★6】。
そして,犯罪をしたときに18歳以上だと,死刑が言い渡されることもあります【★7】。
少年審判,少年院,死刑については,それぞれ次の記事にくわしく書いていますので,読んでみてください。
「子どもの犯罪の裁判に国選の弁護士は付くの?」
「少年院ってどんなところ?」
「子どもでも死刑になるの?」
少年法という名前のとおり,犯罪をした人の裁判の手続は,「大人かどうか」で大きくちがいます。
そして,民法が「18歳で大人」と変わるのに合わせて,少年法についても,
「大人でなくなるのだから,少年法の対象から外すべきではないか」
「悪いことをした18歳・19歳を子ども扱いせず,厳しく責任を負わせるべきではないか」
と,ずっと議論されてきました。
しかし,「少年院ってどんなところ?」の記事に書いたように,
これまで実際に少年院に入るのは,18歳・19歳の人がとても多く【★8】,
家・学校・地域できちんと大切にされず,居場所のなかった18歳・19歳にとって,少年院が最後の「育て直し」のチャンスになってきました。
たとえ犯罪自体は軽くても,少年院で育て直しを受けることがありましたし,
犯罪をしていなくても,(あとでお話しする,このままでは犯罪をするかもしれない「ぐ犯」として)少年院で育て直しを受けることもありました。
もし,少年法の対象の年齢が下がり,18歳・19歳が少年院に入れなくなってしまうと,
犯罪をしても,軽い犯罪だと裁判にかけられないままだったり【★9】,
「執行猶予(しっこうゆうよ)」の判決だと,裁判さえ終わればあとはそのまま社会に放り出されるだけだったり【★10】,
刑務所で刑罰を押しつけられるだけだったりします。
それでは,最後の「育て直し」のチャンスがなくなってしまいます。
それは,その人自身にとっても,社会にとっても,マイナスです。
だから,民法で「18歳で大人」となったあとも,
犯罪をした18歳・19歳は,引き続き少年法の対象のままで,少年院で「育て直し」が受けられることになりました【★11】。
もっとも,少年法が全く変わらなかったわけではありません。
2022(令和4)年4月に民法が「18歳で大人」にするのに合わせて,
少年法も,18歳・19歳の人の扱いを変えました。
18歳・19歳を「特定少年」と呼んで,17歳以下の子どもと区別し,大人の扱いに近づけられたことが,いくつかできたのです【★12】。
たとえば,18歳・19歳が大人の扱いに近づけられたことの1つめに,大人と同じ刑事裁判を受けて刑罰を受ける事件の範囲が広くなったことがあります。
子どものときにした犯罪でも,大人と同じ刑事裁判を受けることは,これまでもありました。
これを,「逆送」と言います。
「この子には,保護や教育よりも刑罰が必要だ」と家庭裁判所が考えると,そうなります。
逆送は,やってしまったことの中身や,その子の反省の深さ・浅さ,性格や年齢,その子の周りのことなど,いろんなことをもとに判断されます。
なかでも,16歳以上の子どもで,故意に(わざと)人を死なせた非常に重い犯罪のときには,逆送して,大人と同じ刑事裁判に「しなければならない」ということになっています。例えば,殺人罪や傷害致死(しょうがいちし)罪などです【★6】。
これに加えて,18歳・19歳の特定少年は,「逆送しなければならない」範囲が広がりました。
18歳・19歳は,故意に人を死なせた非常に重い犯罪だけでなく,強盗(ごうとう)罪や強制性交等罪,放火罪などの一定の重い犯罪も,「逆送して,大人と同じ刑事裁判にしなければならない」ということになったのです【★13】。
18歳・19歳が大人の扱いに近づけられたことの2つめに,実名報道があります。
少年法は,犯罪をした子どもについて,「それがだれかわかるような記事や写真を載せてはいけない」と決めています【★14】。
なぜそう決めているかは,「少年事件で実名報道されないのはどうして」の記事を読んでみてください。
これが,これからは,18歳・19歳の特定少年は,逆送されて大人と同じ刑事裁判が始まった後は,実名報道が認められることになりました【★15】。
18歳・19歳が大人の扱いに近づけられたことの3つめに,「ぐ犯」がなくなったことがあります。
少年法は,子どもが犯罪をしていなくても,「このままでは犯罪をするかもしれない」という理由で警察から家庭裁判所に送られ,少年審判を受け,場合によっては少年院に送られることもあります。
これを,「ぐ犯」と言います。
保護者の正しい指示に従わない,無断外泊をくりかえす,悪い人たちと付き合っている,そういう子どもたちに,犯罪を犯さない人に育ってもらいたい。
少年法はそういう考えから,「ぐ犯」も対象としています【★16】。
しかしこれからは,18歳・19歳の特定少年は,「ぐ犯」では,家庭裁判所で送られて少年審判を受けたり,少年院に送られたりすることはなくなりました【★17】。
いままで挙げた3つのほかにも,18歳・19歳の特定少年の扱いがいろいろと変えられました。
18歳・19歳も少年法の対象のままとなったのは,とても良かったと私は思います。
しかし,「特定少年」として扱いを変えたところの議論は不十分なままでしたし,
大人の扱いに近づけられたことで,本人の育て直し・立ち直りの機会が奪われ,社会にとってもマイナスにならないかと心配しています。
そして,一番問題なのは,「少年法は,10代の人たちのルールの話なのに,そのルールをどう変えるかについて,当の10代の人たちときちんと話をしていないこと」だと,私は思っています。
新しい少年法は,5年後に見直すことになっています【★18】。
そのときには,きちんと10代の人たちと一緒に,法律がどうあるべきかを話し合うべきだと思います。
【★1】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★2】 憲法82条1項 「裁判の対審(たいしん)及び判決は,公開法廷でこれを行ふ(う)」
【★3】 刑法9条 「死刑,懲役(ちょうえき),禁錮(きんこ),罰金,拘留(こうりゅう)及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
同法12条2項 「懲役は,刑事施設に拘置(こうち)して所定(しょてい)の作業を行わせる」
同法13条2項 「禁錮は,刑事施設に拘置する」
【★4】 少年法22条2項 「審判は,これを公開しない」
【★5】 少年法24条1項 「家庭裁判所は,…審判を開始した事件につき,決定をもつて,次に掲げる保護処分をしなければならない。…
一 保護観察所の保護観察に付すること。
二 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
三 少年院に送致すること。」
【★6】 少年法20条1項 「家庭裁判所は,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」
同条2項 「前項の規定にかかわらず,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係(かか)るものについては,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない」
少年法45条 「家庭裁判所が,第20条の規定によって事件を検察官に送致したときは,次の例による。…… 五 検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,公訴(こうそ)を提起(ていき)するに足りる犯罪の嫌疑(けんぎ)があると思料(しりょう)するときは,公訴を提起しなければならない。…(以下略)」
【★7】 少年法51条1項「罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては,死刑をもって処断(しょだん)すべきときは,無期刑(むきけい)を科する」
国際人権規約B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)6条5項 「死刑は,18歳未満の者が行った犯罪について科しては……ならない」
子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)37条 「締約国(ていやくこく)は,次のことを確保する。(a)いかなる児童も,拷問(ごうもん)又は他の残虐(ざんぎゃく)な,非人道的な若(も)しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けないこと。死刑又は釈放(しゃくほう)の可能性がない終身刑は,18歳未満の者が行った犯罪について科さないこと。(以下略)」
【★8】 少年矯正統計少年院2020年「9 少年院別 新収容者の年齢」 2020(令和2)年の総数1624人のうち,12歳以下:1人,13歳:2人,14歳:42人,15歳:96人,16歳:218人,17歳:365人,18歳:407人,19歳:492人,20歳以上:1人
【★9】 検察官は,必ず犯人を裁判にかけなければいけないわけではありません。これを「起訴便宜主義(きそべんぎしゅぎ)」と言います。
刑事訴訟法248条 「犯人の性格,年齢及(およ)び境遇(きょうぐう),犯罪の軽重(けいちょう)及び情状並(なら)びに犯罪後の情況により訴追(そつい)を必要としないときは,公訴を提起しないことができる」
本文のような不起訴処分を,「起訴猶予(きそゆうよ)」と言います。
【★10】 大人の刑事裁判では,「執行猶予(しっこうゆうよ)」と言って,「本来は刑務所に行かないといけないが,ある期間中,何も犯罪をしなければ刑務所に行かなくて良い。逆に,その期間に新しい犯罪をしたら,今回の事件の分と,新しい犯罪の事件の分を合わせて刑務所に行かないといけない」,という判決が言い渡されることがあります。少年審判では,少年院に行かない子でも,「保護観察」といって,一定の期間,保護司さんのサポートを受けることになります。大人の刑事裁判の「執行猶予」にも「保護観察」をつけることができますが,保護観察がつく実際の数は少ないです。
刑法25条1項 「次に掲げる者が3年以下の懲役若(も)しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」
同条2項 「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。ただし,次条第1項の規定により保護観察に付せられ,その期間内に更に罪を犯した者については,この限りでない。」
同法25条の2第1項 「前条第1項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第2項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する」
【★11】 少年法2条 「この法律において「少年」とは,20歳に満たない者をいう。」
【★12】 少年法第5章「特定少年の特例」。同法62条1項に「特定少年(18歳以上の少年をいう」)と定義されています。
【★13】 少年法62条2項 「…家庭裁判所は,特定少年に係る次に掲げる事件については,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機,態様及び結果,犯行後の情況,特定少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない。
一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの
二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて,その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)」
【★14】 少年法61条 「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」
【★15】 少年法68条 「第61条の規定は,特定少年のとき犯した罪により公訴を提起された場合における同条の記事又は写真については,適用しない。…」
【★16】 少年法3条1項「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。…
三 次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞(おそれ)のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附かないこと
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」
【★17】 少年法65条1項 「第3条第1項(第三号に係る部分に限る。)の規定は,特定少年については,適用しない」
【★18】 少年法附則(令和3年5月28日法律第47号)8条 「政府は,この法律の施行後5年を経過した場合において,この法律による改正後の規定及び民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)による改正後の規定の施行の状況並びにこれらの規定の施行後の社会情勢及び国民の意識の変化等を踏まえ,罪を犯した18歳以上20歳未満の者に係る事件の手続及び処分並びにその者に対する処遇に関する制度の在り方等について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」
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