18歳になった高校生の深夜アルバイト
高校3年生です。先月,18歳になりました。コンビニでバイトしているんですが,店長から,「夜10時以降もシフトに入ってほしい」と言われてます。「高校生は深夜にバイトできないんじゃないんですか?」って聞いたら,「18歳になれば大丈夫」って店長が言ってます。この前他の人が辞めて人手不足になってて,店もこまってるし,僕も深夜に働けば時給が高くてバイト代をかせげるから,深夜のシフトに入りたいと思ってるんですが,親は「高校生だからダメだ」と,許可してくれません。やっぱり深夜バイトはできないんですか?
法律上は,18歳になっていれば,深夜に働いてもよいことになっています。
しかし,親が,あなたのことを考えて,深夜に働くことに反対しているのなら,親とよく話し合うことが大切です。
むかし,子どもは,小さなときから,大人と同じように働かなければなりませんでした。
今でも,世界の中には,そういう地域が残っています。
「小さな子どものうちは,仕事をさせないで,教育を受けられるようにしよう」。
日本をふくむ,世界の国々が,そう約束しています【★1】。
だから,義務教育を受け終えなければ,働くことはできません。
日本の法律は,以前は,「15歳になっていない子どもを働かせてはいけない」としてましたが【★2】,
これでは,「15歳になれば,中学校を卒業していなくても,働かせてよい」とも,読めてしまいますね。
なので,1998(平成10)年に,法律が直されました。
「15歳になったあとに最初にくる3月31日」,つまり,中学校3年生の年度末までは,働かせてはいけない,となりました【★3】。
でも,義務教育を終えたら働いていい,とはいっても,
18歳になるまでは,大人とはちがったルールがあります。
まだ体も心も成長を続けている時期なので,
法律は,働く子どもたちを,いろんなルールで守っています。
「18歳になるまでは,深夜に働かせてはいけない」,というのも,そのひとつです【★4】。
18歳になっていない子どもを,夜10時から朝5時までの間に働かせると,雇(やと)っているがわが,犯罪として処罰(しょばつ)されてしまいます【★5】。
(子どもを守るためのルールですから,深夜に働いた子どもが処罰されるのではありません。)
ただ,このルールは,「18歳になったあとに最初にくる3月31日」までは深夜に働かせてはいけない,という書き方はしていません。
だから,高校を卒業していなくても,18歳になっていれば,深夜に働くことはできます。
言いかえれば,「18歳になったあなたが深夜に働いても,店長は処罰されない」,ということです。
これまでは,18歳になったとしても,親が,「そういう職場で働くのはダメだ」と反対したら,深夜に働くことはできませんでした。
働き始めるときに,お店との間で,「働きます」「給料をもらいます」という約束をしますね【★6】。
こういった法律的な約束のことを,契約(けいやく)と言います。
何ヶ月間働くか,1週間に何日働くか,何時から何時まで働くか,給料はいくらか,どんな内容の仕事をするか。
そういったことを,契約を結ぶときに決めます。
この契約をお店と結ぶのは,あなたの親ではなく,あなた自身です【★7】。
でも,未成年のときは,契約のなかみを,親が納得して,親がOKしなければなりません【★8】。
この,親が「OKすること」を,「同意(どうい)」と言います。
いままでは大人になる年齢が20歳でしたから,18歳・19歳の人が夜10時以降も働くことにするなら,
契約の内容が変わるのですから,
あらためて,親からOK(=同意)をもらわなければいけませんでした。
親がOKしないまま,あなたが契約のなかみを変えたら,
親は,その新しい取り決めを,ナシにする(=取り消す)ことができますし【★9】,
それだけでなく,
「そんな職場で働くことは,あなたにとってよくない」,と親が考えたら,
あなたがその店で働くことそのものを,やめさせることもできました【★10】。
しかし,2022(令和4)年4月に,成人年齢が18歳に下がることになったので【★11】,
18歳になれば,これまで必要だった親のOKが,今後はなくても,夜10以降働くことは法律的にはできるようになりました。
ただ,それでも私は,深夜に仕事をするのを反対する親の話を,あなたにしっかりと受け止めて欲しいと思います。
あなたの親が,「高校生だから深夜に仕事をするのはダメだ」と考える理由を,よく聞いてみましょう。
「卒業するまでは,勉強のほうにきちんと力をそそいでほしい。深夜に働いて昼の勉強がおろそかになるのは本末転倒(ほんまつてんとう)だ」,とか,
「深夜だと,事件・事故に巻き込まれてしまう危険があって不安だ」,など,
きっと,あなたのことを心配してくれているはずです【★12】。
だから,あなたも,そういう親の気持ちを受け止めて,
「定期試験が終わって卒業が確実になるまで待つ」,とか,
「仕事が終わったらすぐに親に連絡をして,寄り道せずにまっすぐ帰る」,など,
そういった前向きな提案をすることも必要だと思います。
私からは,勉強・卒業のことや,事件・事故の心配のほかに,もう一つ,だいじな話をしようと思います。
夜という時間の大切さです。
夜という時間は,子どもにとって,体が成長するための,だいじな時間です。
子どもが18歳になるまで深夜に働かせてはいけないのは,そのためです【★13】。
18歳になったあとだって,体の中では,まだまだ成長を続けています。
お金は,将来大人になってからでも,かせいでいくことができます。
でも,体が成長するのは,今の時期しかありません。
お金に代えることのできない,そのだいじな時期にある自分を,ぜひ,大切にしてほしいと思います。
そして,それだけなく,これから先の,大人になってからの自分の働き方についても,
今,じっくりと考えてみてほしいと思います。
たしかに18歳以上になれば,深夜に働いてもよくなりますし,深夜に働けば,給料も高いので,よりかせぐことができます。
深夜の仕事の給料が必ず高いのは,「昼間とくらべて高くしないといけない」と,法律がきびしく決めているからです【★14】。
夜という時間は,ほんらい,家でゆっくりくつろいで,一日の疲れをとり,明日のためのエネルギーを貯める,だいじな時間です。
だから,法律は,なるべく深夜に人を働かせないようにするために,
高い給料を,雇うがわから従業員に払わせるように,きびしく決めているのです。
日本は,世界の他の国とくらべて,働く時間がとても長い国です。
働きすぎで突然命を失う「過労死(かろうし)」が,たくさん起きています。
そのまま「karoshi」という言葉で,世界に通じてしまうほどです。
毎日遅くまで仕事に追われて,体も心も,とても疲れ切ってしまう。
ゆっくり寝る時間もなくて,その疲れがとれないまま,また仕事に出かける。
仕事に追われる生活で,家族や友だちと楽しく過ごしたり,趣味にあてたりする時間もない。
そして,ある日突然亡くなり,人生そのものが終わってしまう【★15】。
残された家族も,だいじな人を突然なくした悲しみと,生活するためのお金がなくなる苦しさに,こまりはててしまう。
私たちは,生きるために仕事をしてお金を得ているのに,
仕事のせいで,生きることそのものが奪(うば)われてしまうことは,絶対にあってはならないことです【★16】。
過労死の事件に,私が弁護士として多く取り組んでいる中で,
その1件1件のケースを通して,
「夜に仕事をすることが,体にどれほど負担になるか」を,いつも実感します。
夜に働くということがどういうことなのか,
どうして18歳になるまで深夜に仕事をしてはいけないことになっていて,
どうして深夜の仕事の給料が高くなっているのか,
そのことを,今回のことをきっかけに,
ぜひ,親といっしょに考え,話し合ってみてください。
【★1】 ILO(国際労働機関)就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)2条1項 「この条約を批准(ひじゅん)する加盟国(かめいこく)は,その批准に際(さい)して付する宣言において,自国の領域(りょういき)内…における就業(しゅうぎょう)が認められるための最低年齢を明示する。…」
同条3項 「1の規定に従(したが)って明示する最低年齢は,義務教育が終了する年齢を下回ってはならず…」
【★2】 労働基準法旧56条1項 「満15才に満たない児童は,労働者として使用してはならない」
【★3】 労働基準法現56条1項(平成10年改正) 「使用者は,児童が満15才に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで,これを使用してはならない」
【★4】 労働基準法61条1項 「使用者は,満18才に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない」
【★5】 労働基準法109条 「次の各号の一に該当(がいとう)する者は,これを6箇月以下の懲役(ちょうえき)又は30万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 …第61条…の規定に違反した者」
【★6】 民法623条 「雇用は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事(じゅうじ)することを約(やく)し,相手方がこれに対してその報酬(ほうしゅう)を与えることを約することによって,その効力を生(しょう)ずる」
労働契約法6条 「労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金(ちんぎん)を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する」
【★7】 労働基準法58条1項 「親権者(しんけんしゃ)又は後見人は,未成年者に代つて労働契約を締結(ていけつ)してはならない」
【★8】 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
「未成年者が労働契約を締結するには法定代理人の同意を要する。」(菅野和夫「労働法第10版」421頁)
【★9】 民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★10】 労働基準法58条2項 「親権者若(も)しくは後見人又は行政官庁は,労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては,将来に向(むか)ってこれを解除(かいじょ)することができる」
【★11】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★12】 親権(しんけん)は,子どものために使われなければなりません。
民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護(かんご)及(およ)び教育をする権利を有(ゆう)し,義務を負う」
親が,雇い主のことを嫌いだからとか,子どもやその友だちと考え方がちがうから,という親の都合で,子どもが働くのをやめさせた(=【★10】の解除をした)というケースで,裁判所は,「子どものためにしたものではないから,親権の濫用(らんよう)で,解除は無効だ」としたものがあります(名古屋地方裁判所昭和37年2月12日判決・労働関係民事裁判例集13巻1号76頁)。
【★13】 大阪高等裁判所昭和33年12月2日判決(判例時報179号24頁) 「労働基準法62条は年少労働者…の健康の保護向上をはかるためにこれ等(ら)の者を一日のうち健康に有害な労働時間である同条所定(しょてい)の時間に使用すること(いわゆる深夜業)を禁止し,もって年少…労働者の各自の福祉を保障しようとする規定である」
【★14】 労働基準法37条4項 「使用者が,午後10時から午前5時まで…の間において労働させた場合においては,その時間の労働については,通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
「2割5分」というのは,25%のことです。たとえば,もし昼の時給が1000円ならば,深夜は1250円以上にしなければいけません。
ちなみに,昼に仕事をする人が残業で深夜まで働いたら,雇っているがわは,残業ぶんの割増し(25%やそれ以上)に加えて,さらにこの深夜ぶんの割増しも払わなければなりません。
なお,18歳未満の子どもに対しては,残業をさせること自体が禁止されています。
労働基準法60条1項 「…第36条…の規定は,満18才に満たない者については,これを適用しない」(36条は残業についての条文です。)
【★15】 過労死は,脳や心臓の病気で突然亡くなるケースや,うつ病などの精神的な病気から自殺で突然亡くなるケースが多いですが(「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発第1063号),「心理的負荷による精神疾患の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第1号)),それ以外の病気で亡くなるケースもあります。
【★16】 一件でも不幸な過労死事件をなくそうと,過労死遺族(いぞく)の人たちが国会に対して一生懸命はたらきかけました。その結果,2014(平成26)年6月20日に「過労死等防止対策基本法」という法律ができ,11月1日から施行されています。
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