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2021年6月 1日 (火)

父親が日本人なので日本国籍をとりたい

 

 高校生です。母は外国籍です。でも,父が日本国籍で,私も生まれてからずっと日本で育ってきたし,自分の名前も日本風なので,自分の国籍は日本だと,ずっと思ってました。だけど,最近になって,じつは,両親が結婚していなかったこと,そして,自分の国籍が日本ではなく,本名もいままでずっと使ってきた名前とはちがっていたということを知りました。私が日本国籍になることはできますか。



 あなたがお父さんから認知(にんち)されていれば,届出をすることで,日本国籍になることができます。



 自分の国籍や名前がちがっていたと知って,とてもおどろきましたよね。


 自分が一体どんな人間なのか。

 そのことを,難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。

 アイデンティティは,人が人であるために欠かせないものです。

 特に,子どもから大人になるころは,自分がどんな人間なのかを考える,自分さがしをする時期です。

 そして,国籍や名前は,アイデンティティをかたちづくるうえで,大切なものの中の一つです。


 本当のことを知っておどろき,自分のアイデンティティがゆらぐことは,苦しいことだと思います。

 そして,大人から本当のことをきちんと教えてもらえていなかったことに対する,悲しさやさみしさも,きっと感じたのではないかと思います。


 日本の国籍になるのは,お父さんかお母さんが日本国籍であることが,基本的な条件です。


 「お母さんがだれか」ということは,産んだ人がだれかで決まるので,わかりやすいですよね【★1】

 それにくらべて,「お父さんがだれか」ということは,わかりづらいときがあります。

 お父さんとお母さんが結婚しているなら,法律上は,自動的に,「夫が,その子のお父さん」,となります
【★2】

 あなたのお父さんとお母さんは,結婚していないのですよね。

 こういうときには,お父さんが,役所に,「この子は自分の子です」と届出をします。

 これを,「認知(にんち)」と言います
【★3】

 日本国籍を持っている人についての情報は,市役所や区役所が,「戸籍(こせき)」というもので管理しています。

 お父さんの戸籍を取り寄せてみてください。

 お父さんがあなたを「認知」していれば,お父さんの戸籍の情報の中に,そのことが書かれています。


 あなたがお父さんから「認知」されていれば,成人する前に法務局に届出をすれば,日本国籍をとることができます【★4】【★5】【★6】

 あなたは高校生で,15歳以上ですから,自分で届出をします
【★7】

 14歳以下の子どもであれば,お母さんに代わりに届出をしてもらいます。

 成人した後でも日本国籍を取るための手続はありますが,成人する前に届出をするほうが確実です
【★8】

 届出が受け付けられれば,日本国民として,あなたの戸籍ができます。

 その戸籍に,あなたがいままで使っていた名前を載せてもらうことで,これからはその名前をあなたの「本名」として使っていくことができます。


 「認知」されていなければ,お父さんに,「認知」をするよう話をしてください。

 お父さんが応じてくれなければ,裁判所でお父さんと話し合います(「調停(ちょうてい)」と言います)。

 それでもお父さんが応じてくれなければ,裁判をして判決を出してもらいます(「認知の訴え」と言います)
【★9】

 そして,「認知」されたうえで,上に書いた届出の手続をします。


 国籍が日本かどうかは,

 選挙権があるか,

 どこの国のパスポートを使うのか,

 就職のときに公務員になれるか,

 これからやがて出会う人と家族になるときに,家族内の問題にどこの国の法律があてはまることになるか,など,

 人生のいろんなところにかかわってくる,法律的にとてもだいじなことです。


 いままで自分のことをきちんと大人から教えてもらえていなかったことを知って,つらかったと思います。

 これからのあなたの人生は
,ぜひ,あなた自身で切り開いていってください。




【★1】母と子の関係は,認知は必要なく,「分娩(ぶんべん)の事実」,つまり出産したということで,当然に認められる,とされています(最高裁昭和37年4月27日判決・民集16巻7号1247頁)。
【★2】民法772条1項「妻が婚姻(こんいん)中に懐胎(かいたい)した子は,夫の子と推定(すいてい)する」
【★3】民法779条「嫡出(ちゃくしゅつ)でない子は,その父…がこれを認知することができる」
 「嫡出」というのは,法律的に結婚している男女の間の子ども,という意味です。
【★4】国籍法2条「子は,次の場合には,日本国民とする。
 一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。…」
 改正後の国籍法3条1項 「父又は母が認知した子で18歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる」
【★5】じつは,つい最近まで,お父さんとお母さんが結婚しなければ日本国籍はとれない,認知だけでは日本国籍がとれない,ということになっていました。でも,最近では,法律的に結婚していない,いろんな家族の形が増えてきています。両親が結婚しているからその子が日本との結びつきが強くて,両親が結婚していないからその子が日本との結びつきが弱い,などというのは,もう現在では通用しない考え方です。最高裁判所は,そのような考え方に立って,以前の法律が「法の下(もと)の平等」を定(さだ)めている憲法にてらしてまちがっている,とする違憲判決(いけんはんけつ)を出しました(最高裁大法廷平成20年6月4日判決・民集62巻6号1367頁)。この判決をふまえて平成21年から新しくなった法律が,記事の本文で説明したものです。
 憲法14条1項「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条(しんじょう),性別,社会的身分又は門地(もんち)により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」
【★6】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★7】戸籍法18条「第3条第1項…による国籍取得の届出…は,国籍の取得…をしようとする者が15歳未満のときは,法定代理人が代わってする」
【★8】成人すると,「帰化(きか)」という手続になり,帰化は法務大臣が「許可することができる」,つまり,「許可しないこともできる」ということにもなるので,成人する前に届出をしたほうがよいのです(国籍法8条)。
【★9】民法787条「子…は,認知の訴えを提起(ていき)することができる」
 もしお父さんが亡くなっている場合は,3年以内に,検察官を相手に,認知の訴えをおこす必要があります。
 民法787条但書「ただし,父…の死亡の日から3年を経過したときは,この限りではない」
 人事訴訟法42条1項「認知の訴えにおいては…その者が死亡した後は,検察官を被告とする」

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