親が離婚して自分の名字が変わるのがいや
中学1年生です。親が離婚の話し合いをしていて,これからはお母さんと一緒に暮らすことになりそうです。名字(みょうじ)は,いままで「鈴木」でしたが,これからは私もお母さんも「斉藤」になる,と言われました。でも,クラスの友だちの渡辺さんは,親が離婚してお母さんと一緒に暮らしているけど,名字は変わっていません。どうして私は名字が変わっちゃうんですか。
親が離婚してあなたの名字が変わるかどうかは,一緒に暮らすことになるほうの親が考えて決めていることがほとんどです。
でも,あなた自身の名字のことですから,あなたの気持ちをお母さんにきちんと伝え,話し合うことが大切です。
結婚するとき,二人の名字がいっしょになる,ということは知っていますよね。
夫(おっと)の名字か,妻(つま)の名字の,どちらか一つを選んで,二人の名字をいっしょにすることになっています【★1】【★2】。
たぶん,あなたの場合,お父さんの名字が「鈴木」で,お母さんの名字が「斉藤」だったのですね。
そして結婚して,お父さんの名字である「鈴木」に合わせた,ということだと思います。
その2人のあいだに生まれた子ども,つまりあなたの名字も,「鈴木」になります【★3】。
お父さんとお母さんが離婚したときに,2人の名字がどうなるか。
離婚すると,「結婚のときに名字を変えた人が,もとの名字にもどる」,ということになっています【★4】。
だから,あなたの場合,両親が離婚すると,お母さんの名字が,結婚前の「斉藤」にもどります。
親が離婚するとき,「子どもはどちらの親と暮らすか」,ということも決めます【★5】。
あなたの場合,お母さんのほうになりそうなのですね。
ところが,子どもの名字は,親が離婚しただけでは,変わりません。
いっしょに暮らす親の名字が変わったとしても,そうなのです。
お母さんの「斉藤」さんと,子どもの「鈴木」さんがいっしょに暮らすのでも,本人たちがそれでよいのならかまわない,というのが法律のたてまえです。
親と子どもの名字がちがうのがいやであれば,子どもの名字を親の名字に合わせることができます【★6】。
15歳以上であれば,自分でその手続きをします。
14歳以下であれば,親が代わりにその手続きをします【★7】。
家庭裁判所に手続きを取りますが,大変なことではありません。
すぐに終わります。
あなたの場合,まだ15歳になっていないので,あなたの名字をお母さんの「斉藤」に合わせたいのであれば,お母さんが手続きをとることになります。
友だちの渡辺さんは,あなたと同じように両親が離婚して,お母さんと一緒に暮らしているけれども,名字が変わっていないのですね。
さっき,「結婚のときに名字を変えた人が,離婚したときに,もとの名字にもどる」,と書きました。
でも,「離婚したあとも,結婚していたときの名字をそのまま使いたい」と思えば,そうすることもできるのです【★8】。
渡辺さんのお母さんは,「もとは別の名字だったけど,離婚しても,もとの名字にもどさずに,そのまま渡辺でいたい」,と思って,役所にその手続きをとったのだろうと思います【★9】。
子どもの名字は,親が離婚しただけでは変わらないので,そのまま「渡辺」なのです。
お母さんが,もとの名字に戻るか,結婚していたときの名字をそのまま使うかは,いろんなことを悩んで,決めています。
「新しい気持ちと名前で今後の人生を生きていきたい」,とか,
「別れた人と同じ名字を使い続ける気持ちになれない」,という理由で,
もとの名字にもどす,ということもあるでしょう。
「この名前でずっと暮らしてきたので,離婚でまた名字が変わると,役所,銀行,職場など,いろんな手続きが大変だ」,とか,
「名字が変わって,離婚したことがほかの人たちに分かるのがいやだ」,という理由で,
離婚したあとも結婚していたときの名字を使う,ということもあるでしょう。
お母さんは,自分自身のことを,一生懸命に考えているのです。
そして,お母さんが「もとの名字にもどす」と決めたときには,「一緒に暮らすこどもたちと名字がちがうのでは,子どもたちがかわいそうだ」と考えて,名字を合わせる手続きをとることが多いと思います。
お母さんは,子どものことも,一生懸命に考えているのです。
でも,子どものがわから見たら,両親が離婚することじたいで傷つき,悲しい思いをしています。
それなのに,自分の名字まで変わってしまうことは,さらにつらく,悲しいことです。
友だちは親が離婚しても名字が変わっていないのに,自分は大人から何の説明もないままに「名字が変わる」と言われたら,なおのこと,つらいですよね。
大人の中には,「名前が変わっても,あなたという人そのものが変わるわけではないんだから,大人の言うとおりがまんしなさい」,という人もいるかもしれません。
でも,名前は,「自分が誰なのか」,という,人間としてとても大事なことがらにかかわる,重要なものです【★10】。
だから,その名字を使うあなた自身の気持ちが,大切にされなければなりません。
「ずっと使ってきた名前でこれからも暮らして生きたい」,とか,
「名字が変わって親が離婚したことを他の人に知られたくない」,とか,
あなたなりの気持ちがあると思います。
お母さんがあなたをどんなふうに一生懸命考えてくれているのか,そして,自分がどう考えているのか,それを,お母さんとよく話し合ってみてください。
その結果,あなたが納得して,お母さんと同じ「斉藤」になるのでもいいですし,
お母さんのほうの気持ちが変わって,お母さんが「鈴木」の名前を使い続けようということになるかもしれません。
実際には少ないですが,お母さんとあなたが納得すれば,お母さんが「斉藤」,あなたが「鈴木」で,いっしょに暮らしていくこともありえます。
あるいは,あなたの法律上の名前が「斉藤」に変わっても,日常生活の中では,できるかぎり「鈴木」のままで暮らせるように,学校にお願いをする,ということも考えられます。
どんな結論になるにしても,あなたがお母さんときちんと話をし,一生懸命考えることが大切です。
あなたの名字をここで「斉藤」に変えたとしても,大人になってから「鈴木」にもどすことができます。
大人になって1年以内に役所に手続きをすれば,また「鈴木」にもどることができます【★11】。
もしその手続きをしていなくても,「鈴木」の名字で何年もずっと日常生活を続けていて,裁判所がOKしてくれれば,「鈴木」に変えられる場合もあります【★12】。
また,将来,あなた自身が誰かと結婚してパートナーのほうの名字を選んだり,誰かの養子になったりしたら,名字が変わります。
名字は,あなた自身の生き方に深く結びついている,大事なものです。
でも,誰もが自由気ままに自分の名字を変えられるとしたら,誰が誰だかわからなくなって,社会が混乱(こんらん)してしまいます。
だから,人生の大事な節目(ふしめ)のときに,その人自身の気持ちを第一に,そしてまわりの人のことも考えて,名字が変わったり,変わらなかったりしているのです。
あなたがどう考え,お母さんがどう思っているのかを,この機会に,よく話し合ってみてください。
【★1】 民法750条 「夫婦は,婚姻(こんいん)の際(さい)に定(さだ)めるところに従(したが)い,夫又(また)は妻の氏(うじ)を称(しょう)する」
「婚姻」は結婚のこと,「氏」は名字のことです。
【★2】 「結婚するときに名字をかならずいっしょにしないといけないのか,名字が変わらないまま結婚したい夫婦はそれでもいいじゃないか」という反対意見もあります。選択的夫婦別姓(せんたくてきふうふべっせい)という意見です。結婚して名字が変わるかどうかは,国によって決まりが違います。今の日本の法律では,結婚すると名字は一緒になります。
【★3】 民法790条1項 「嫡出(ちゃくしゅつ)である子は,父母の氏を称する…」
「嫡出」は,結婚している夫婦のあいだに生まれた子どものことです。
【★4】 民法767条 「婚姻によって氏を改(あらた)めた夫又は妻は,協議上(きょうぎじょう)の離婚によって婚姻前の氏に復(ふく)する」
【★5】 民法819条1項 「父母が協議上の離婚をするときは,その協議で,その一方を親権者(しんけんしゃ)と定めなければならない」
【★6】 民法791条1項 「子が父又は母と氏を異(こと)にする場合には,子は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その父又は母の氏を称することができる」
【★7】 民法791条3項 「子が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,前2項の行為(こうい)をすることができる」
【★8】 民法767条2項 「前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は,離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離婚の際に称していた氏を称することができる」
戸籍法77条の2 「民法第767条2項…の規定によって離婚の際に称していた氏を称しようとする者は,離婚の年月日を届書に記載(きさい)して,その旨(むね)を届け出なければならない」
【★9】 ひょっとしたら,両親が結婚したときに,お父さんのほうがお母さんの名字に合わせて変えていたのかもしれません。そうであれば,離婚のときに,渡辺さんのお母さんが何も手続きをとらなくても,お母さんも友だちも「渡辺」のままです。だから,本文で書いたことは,あくまで推測(すいそく)です。
【★10】 「自分がどういう人間なのか」ということを,難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。アイデンティティは,人が人として生きていくために大切なものです。子どもの時期は,そのアイデンティティをかたちづくっていくための,特に大切な時期です。
【★11】 民法791条4項 「前3項の規定により氏を改めた未成年の子は,成年に達した時から1年以内に,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,従前(じゅうぜん)の氏に復することができる。」
民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★12】 あなたが20歳になったあと,お母さんの戸籍から抜けて(分籍(ぶんせき)と言います),自分ひとりの戸籍を作ったうえで,「氏の変更」という裁判所での手続きをとります。
戸籍法21条1項 「成年に達した者は,分籍をすることができる…」
戸籍法107条1項 「やむを得ない事由(じゆう)によって氏を変更しようとするときは,戸籍の筆頭(ひっとう)に記載(きさい)した者及びその配偶者(はいぐうしゃ)は,家庭裁判所の許可を得て,その旨(むね)を届け出なければならない」
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