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2020年5月 1日 (金)

長時間のゲームが法律で禁止された?


 スマホのゲームを「今日はここらへんでそろそろ終わりにしようかな」と自分で思ってるときに限って,親が「やめろ」と言ってくるのがむかつくんですが,最近,「1日1時間以上のゲームは法律で禁止された」と親が言い出してます。ニュースで見たような気もするけど,それってほんとですか? 違反したら罰があったりするんですか? ゲームの時間を法律で決めるのって,なんかおかしくないですか?




 長時間のゲームを禁止する「法律」は,ありません。


 法律という国のルールではなく,条例という地方のルールで,

 「子どもたちに長時間ゲームをさせないようにしよう」と決めた県が,最近あります。


 でも,その県の条例も,

 長時間のゲームを禁止したのではありません。

 長時間ゲームをした子どもが処罰されることも,ありません。




 人は,他の人の迷惑にならないかぎり何をしてもいい,という自由があります。


 みんなが静かに過ごす場所で大きな音を出してゲームをしている,とか,

 親のクレジットカードを勝手に使って課金した,など【★1】

 よっぽどのことがあれば別ですが,

 そうでもないかぎり,ネットのゲームは他の人の迷惑にはなりません。

 だから,ゲームに熱中するのは,ほんらい自由なことです。



 他方で,子どもは,心と体が成長するとても大切な時期にあります。

 私たちの社会は,子どもたちのことを大切に思っています。

 子どもたちに自分自身を大切にしてもらいたい,

 その子の「自由」の結果で,その子の心と体が傷つかないようにしてほしい,

 そう願っています。


 だから,その子の心や体を傷つけてしまうことは,

 まったく自由のままにしないで,できるだけ防いでいこう。

 私たちの社会は,そういう考えから法律や条例のルールを作ることがあります。



 例えば,

 たばこを吸ったり,お酒を飲んだりしても,他の人の迷惑にはなりません。

 でも,たばこやお酒は,体の成長にマイナスです。

 なので,法律という国のルールで,「子どもは吸ったり飲んだりしてはいけない」と,はっきり禁止しています【★2】

 子どもを守るためのルールですから,

 子どもに吸わせたり飲ませたりした大人は処罰されますが,

 子どもは処罰されません(補導はされます)【★3】


 アダルトサイトを見ることも,他の人の迷惑にはなりません。

 でも,心と体が大人の仲間入りを始める子どものときには,

 性についてきちんと学び,アダルトものが作り物だと理解できるまで距離をおくことが必要です。

 なので,条例という地方のルールで,「大人は,子どもたちに『アダルトもの』を見せないようにしよう」と決めています【★4】

 たばこやお酒の法律には,「子どもは吸ったり飲んだりしてはいけない」と禁止する条文がありますが,

 東京都のアダルトサイトの条例には,「子どもは見てはいけない」という禁止は,ありません【★5】




 ネットのゲームは,どうでしょうか。



 世の中にあるさまざまな遊び・娯楽(ごらく)・趣味と同じように,

 ネットのゲームも,

 適度に楽しむぶんには,

 プレイヤーの心や体を傷つけるものではありませんし,

 むしろ,生活や人生を豊かなものにしてくれます。



 ところが,ネットのゲームは,

 どんどんとハマってしまった結果,

 その人の心や体を傷つけ,

 生活や人生にマイナスになってしまうことがあります。


 夜遅くまで寝ずに熱中し,朝が起きられなくなって,

 体のバランスがおかしくなってしまったり,

 ゲームのことで頭の中がいっぱいになって,ゲームが最優先の生活になり,

 学校や仕事が続けられなくなったり,

 注意してくる家族とトラブルになって,暴力を振るうことさえあったりします【★6】



 「合法だって聞いてるクスリで捕まる?」の記事にも書きましたが,

 何かにハマって生活がおかしくなることを,「依存(いぞん)」と言います。


 依存は,

 薬物やお酒のような,物にハマるものだけではありません。

 例えば,パチンコやカジノなど,賭(か)けごと・ギャンブルに依存するということもあります。

 そして,ゲームの依存も,以前からずっと社会的な問題になっていました。



 ICDという,世界中で使われている病気のリストがあります【★7】

 薬物・お酒・ギャンブルなどの依存も,このリストに載っています。

 2019(令和元)年,新しいICDが発表され,

 そこに,「ゲーム障害」という病気が加えられました【★8】


 いままでもゲーム依存を治す取り組みをしている病院はありましたが,

 今回,ICDに病気の名前が載ったことで,

 今後よりいっそう,世界中で研究や調査が進んでいきます。



 そのような社会の流れの中で,2020(令和2)年,

 香川県が「子どもたちがネットのゲームにハマりすぎないようにしよう」という条例を作り【★9】

 マスコミにも大きく取り上げられて,話題になりました。


 さっき書いたように,

 「子どもたちが自由の結果で心と体を傷つけることのないように」という考えでルールを作ることじたいは,ありうることです。

 香川県の条例も,子どもを守るための「大人たちの責任」を取り決めたものです。

 子どもたちに向かって直接「ゲームをやりすぎてはダメ」と禁止する規定はありませんし,

 ゲームをしすぎた子どもを処罰する規定もありません。



 ただ,香川県の条例は,その中身や作り方に問題があって,多くの批判があります。


 特に一番大きな問題は,

 その条例が,ゲームの時間を「1日60分まで(休みの日は90分まで)」としたことです【★10】



 ゲームの時間を何十分・何時間にするかは,それぞれの家が,それぞれの事情をもとに決めればよいことです。

 「箸(はし)の上げ下ろし」という慣用句がありますが,

 議会が多数決でそれぞれの家の「箸の上げ下ろし」のようなことまで口を出すのは,

 いくら「子どもの心と体を傷つけないため」という目的があったとしても,

 それぞれが持っているだいじな自由に対して,あきらかに踏み込みすぎです。

 ましてや,60分や90分という時間数に,きちんとした科学的根拠もありません【★11】


 なので,あなたが「おかしい」と感じるのは,法律的な考え方からして,もっともなことです。




 親が子どもに注意するとき,

 「法律だから/ルールで決まっているから」,「こうしなさい/やめなさい」

 という言い方をすることが,多くありますね。


 でも,私は,そういう注意のしかたはおかしいと,いつも思います。


 なぜ法律やルールがそうなっているのか,という理由をいっしょに考え,話し合うことのほうがとてもだいじです。

 もし,おかしなルールがあったとして,

 その理由も考えずに,「上がそう決めたから」とそのまま黙(だま)って従うとしたら,

 それは,上の人から奴隷(どれい)のように支配されているのといっしょです。



 自分の人生は,自分が主人公です。


 ネットのゲームの中には,主人公のキャラクターを動かして進んでいくものが,多くありますね。

 人生も,ネットのゲームと同じように,あるいはそれ以上に,

 自分が主人公として,自分自身で考え,選び,進んでいくものです。



 だから,

 「条例でそう決まった」という理由を持ち出してゲームの時間を制限しようとする親に,

 そのまま黙って従わないあなたの姿勢は,だいじだと思います。


 自分の頭でよく考え,親ときちんとよく話し合って,ゲームの時間を決めていくこと。

 それが,自分の人生を自分が主人公として歩んでいくことそのものなのです。




 そして,私はあなたに,

 「時間を制限しようとしてくる条例や親」に対してしっかり向き合うのと同じように,

 「ゲームの依存がどういうものか」についても,しっかり向き合ってほしいと,強く願っています。



 ネットのゲームは,他の遊び・娯楽・趣味とは,ちがう点があります。

 ゲームの作り手が,プレイヤーをゲームに引き込むために,いろんな刺激(しげき)の強い戦略を使っている,という点です【★12】



 自分の人生は自分が主人公だと書きましたが,

 ネットのゲームは,「自分がしたいからしている」もののように見えて,

 実際は,「ゲームをしたい気持ちにさせられている」ことが多くあります。

 ネットのゲームに,人が支配され,コントロールされてしまう。

 自分で自分自身をコントロールできなくなるのが,依存なのです。



 あなたも,

 親が注意してくるほどゲームを長い時間していて,

 「そろそろやめようかな」と思っても,親が注意するまで,まだやめていなかったことが多いのですよね。


 あなたがゲームをコントロールしているのではなく,

 ゲームがあなたをコントロールしている,

 あなたがゲームにコントロールされている,ということはありませんか。



 自分の人生を,自分で生きていくこと。

 力を持った他の人に,おかしな支配やコントロールをされないこと。

 そして,薬物やギャンブル・ゲームなどに,依存せずに暮らせること。

 それらは,すべてがつながっている,とてもだいじなことです。



 条例の問題をきっかけにして,

 自分が自分の主人公として生きること,

 そして,楽しいゲームとのうまい付き合い方を,

 ぜひ,考えてみてください。





【★1】 「親のクレジットカードを無断で使ったら」の記事を見てください。
【★2】 未成年者喫煙禁止法1条「満20年に至(いた)らざる者は煙草を喫することを得ず」,未成年者飲酒禁止法1条「満20年に至(いた)らざる者は酒類を飲用することを得ず」。なお,成人年齢が18歳に引き上げられても,たばこ・お酒の禁止の年齢は20歳のままで変わりません。法律の名前は「20歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」「20歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」に変わります。
【★3】 「たばことお酒はなんでダメなの?」「補導って何?」の記事を見てください。
【★4】 「アダルトサイトの年齢確認」の記事を見てください。
【★5】 東京都青少年の健全な育成に関する条例7条 「図書類の発行,販売又は貸付けを業(ぎょう)とする者並びに映画等を主催する者及び興行場…を経営する者は,図書類又は映画等の内容が,次の各号のいずれかに該当(がいとう)すると認めるときは,相互(そうご)に協力し,緊密(きんみつ)な連絡の下に,当該図書類又は映画等を青少年に販売し,頒布(はんぷ)し,若(も)しくは貸し付け,又は観覧させないように努めなければならない。
一 青少年に対し,性的感情を刺激し,残虐性(ざんぎゃくせい)を助長(じょちょう)し,又は自殺若しくは犯罪を誘発し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
二 漫画,アニメーションその他の画像(実写を除く。)で,刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を,不当に賛美(さんび)し又は誇張(こちょう)するように,描写(びょうしゃ)し又は表現することにより,青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨(さまた)げ,青少年の健全な成長を阻害(そがい)するおそれがあるもの」
 同条例8条1項 「知事は,次に掲(かか)げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。
一 販売され,若しくは頒布され,又は閲覧若しくは観覧に供(きょう)されている図書類又は映画等で,その内容が,青少年に対し,著しく性的感情を刺激し,甚(はなは)だしく残虐性を助長し,又は著(いちじる)しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして,東京都規則で定める基準に該当し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
二 販売され,若しくは頒布され,又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で,その内容が,第7条第二号に該当するもののうち,強姦(ごうかん)等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を,著しく不当に賛美し又は誇張するように,描写し又は表現することにより,青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げるものとして,東京都規則で定める基準に該当し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの (略)」
 同条例9条1項 「図書類の販売又は貸付けを業とする者及びその代理人,使用人その他の従業者並びに営業に関して図書類を頒布する者及びその代理人,使用人その他の従業者(以下「図書類販売業者等」という。)は,前条第1項第一号又は第二号の規定により知事が指定した図書類(以下「指定図書類」という。)を青少年に販売し,頒布し,又は貸し付けてはならない。」
 同条2項 「図書類の販売又は貸付けを業とする者及び営業に関して図書類を頒布する者は,指定図書類を陳列するとき…は,青少年が閲覧できないように東京都規則で定める方法により包装(ほうそう)しなければならない。」
 同条3項 「図書類販売業者等は,指定図書類を陳列(ちんれつ)するときは,東京都規則で定めるところにより当該指定図書類を他の図書類と明確に区分し,営業の場所の容易に監視することのできる場所に置かなければならない。」
 同条4項 「何人(なんぴと)も,青少年に指定図書類を閲覧(えつらん)させ,又は観覧させないように努めなければならない。
【★6】 「ゲーム障害にはさまざまな問題が発生します。久里浜医療センターを受診したゲーム障害患者の場合は次の通りです(複数回答あり)。欠席・欠勤(58%),成績低下・仕事のパフォーマンス低下(43%),引きこもり(42%),物に当たる・壊す(48%),家族に対する暴力(22%),朝起きられない(76%),昼夜逆転(54%),食事をとらない(27%)。以上は,受診前1ヶ月の状況です。その結果,12%が退学・放校となり,7%が失職しています。また,体を動かさないために,体力の低下は著しく,足の骨の骨密度低下や低栄養状態の者も少なからず認められています」(樋口進「Q&Aでわかる 子どものネット依存とゲーム障害」35頁)
【★7】 WHO(世界保健機関)が作っている国際疾病分類です。これまでは1992(平成4)年に作られた第10版が用いられていましたが,2019(令和元)年5月に第11版が採択されました。発効は2022(令和4)年1月です。日本でICD11が導入されるまでには時間がかかり,この記事を書いている時点では,日本ではまだ導入されていません。
【★8】 日本語訳は後日公表されます。https://icd.who.int/browse11/l-m/en#/http://id.who.int/icd/entity/1448597234
6C51 Gaming disorder
Description
Gaming disorder is characterized by a pattern of persistent or recurrent gaming behaviour ('digital gaming' or 'video-gaming'), which may be online (i.e., over the internet) or offline, manifested by:
1.impaired control over gaming (e.g., onset, frequency, intensity, duration, termination, context);
2.increasing priority given to gaming to the extent that gaming takes precedence over other life interests and daily activities; and
3.continuation or escalation of gaming despite the occurrence of negative consequences. The behaviour pattern is of sufficient severity to result in significant impairment in personal, family, social, educational, occupational or other important areas of functioning.
The pattern of gaming behaviour may be continuous or episodic and recurrent. The gaming behaviour and other features are normally evident over a period of at least 12 months in order for a diagnosis to be assigned, although the required duration may be shortened if all diagnostic requirements are met and symptoms are severe.
【★9】 香川県ネット・ゲーム依存症対策条例 https://www.pref.kagawa.lg.jp/somugakuji/kenpo/2020index/2020/0324gj24.pdf
【★10】 香川県ネット・ゲーム依存症対策条例18条1項 「保護者は,子どもにスマートフォン等を使用させるに当たっては,子どもの年齢,各家庭の実情等を考慮の上,その使用に伴(ともな)う危険性及び過度の使用による弊害(へいがい)について,子どもと話し合い,使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする」
 同条2項 「保護者は,前項の場合においては,子どもが睡眠時間を確保し,規則正しい生活習慣を身につけられるよう,子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては,1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあたっては,90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては,義務教育修了前の子どもについては午後9時までに,それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに,前項のルールを遵守(じゅんしゅ)させるよう努めなければならない」
 同条3項 「保護者は,子どもがネット・ゲーム依存症に陥(おちい)る危険性があると感じた場合には,速やかに,学校等又はネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等に相談し,子どもがネット・ゲーム依存症にならないよう努めなければならない」
【★11】 ハフポスト2020年2月10日記事「科学的根拠やエビデンスはない」香川県のゲーム依存対策条例案に専門家が疑問符 https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e40e157c5b6bb0ffc14333a
【★12】 「Q オンラインゲームはどうしてやめられないの?」「A ゲーム側のしくみと,プレイヤーが得る対人関係の2つの要素が,やめられない原因です。ゲーム側のしくみとは,メーカー側がプレイヤーを楽しませて,ゲームをさせるための戦略で,ゲームに引き込み,得点が得られるお得感やクリアしていく達成感などを利用したものです。(略)対人関係の要素とは,1人でのゲームとは違い,ネットを介(かい)した仲間と一緒に行うので,それぞれの役割が決まっているため,勝手に抜けられないのです。そして,活躍するとヒーローになれて,たくさんの人が自分を認めてくれます。(略)無料から課金へとかけた時間とお金によって必ず成果がついてくるしくみになっています」(樋口進「Q&Aでわかる 子どものネット依存とゲーム障害」26頁)

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