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2019年9月 1日 (日)

児童ポルノの単純所持


 中学3年です。2ヶ月前,ネットで誰でも見られる掲示板にあった,小学生が大人と(セックスを)やってる画像をスマホに保存しちゃったんですが,1週間くらい後に「そういう画像を持ってたら犯罪」って知って,あわててスマホの保存データから消しました。このことで逮捕されるんじゃないかと毎日不安で寝られなくて,だけど恥ずかしくて誰にも相談できません。




 毎日寝られないほど不安だったのは,つらかったですね。



 子どもが,セックスやセックスっぽいことをしているのを写した画像や動画,

 子どもの性的な部分が強調されている,裸(はだか)の画像や動画などを,

 「児童ポルノ」と言います【★1】

 法律は,児童ポルノを持つことを,犯罪として禁止しています【★2】


 あなたが,小学生が大人とセックスをしている画像をスマホに保存したのは,犯罪にあたります。



 13歳以下の子どもが犯罪をしても,逮捕されることは100%ありませんが【★3】

 14歳以上の子どもが犯罪をすると,逮捕されることは確かにあります【★4】


 でも,「犯罪をしたら必ず逮捕される」ということではありません。

 例えば,万引きも「窃盗罪(せっとうざい)」というりっぱな犯罪ですが【★5】

 万引きをした子どもが必ず全員逮捕されているわけではないのと,同じです。


 逮捕されるかどうかは,

 犯罪をした(と疑われている)人が何歳で,どんな暮らしをしているか,

 事件が重い犯罪かどうか,など,

 いろんな事情によります【★6】


 そして,子どもはなるべく逮捕しないことになっています。

 子どもの権利条約という日本と世界との約束では,

 子どもの逮捕は「最後の解決手段」とされていますし【★7】

 日本の警察の内部ルールにも,

 子どもの逮捕はできるかぎりしないように,と書かれています【★8】


 大人でも,児童ポルノをただ持っているだけで逮捕されることは,

 まったくないわけではないですが,きわめて数が少なく【★9】

 ほぼすべてが,逮捕されない状態で,捜査や裁判を受けています。


 あなたの場合,

 あなたがまだ中学生であること。

 画像に写っている子どもを,あなた自身が直接苦しめた犯罪ではないこと。

 今回初めてのことで,あなたが犯罪を何度も繰り返してはいないこと。

 会員制サイトに登録してお金を払ったというような情報が残るわけではなく,

 誰でもアクセスできるサイトから画像を保存しただけだったこと。

 保存したのは2ヶ月も前のことで,

 わずか1週間でスマホから画像を消したこと。

 それらのいろんな事情を考えれば,あなたが逮捕される可能性は,かぎりなく低いと思います。


 不安であれば,弁護士に詳しい事情を話して相談してください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。




 日本をふくむ世界の国々は,子どもの権利条約で,

 「子どもたちが性的に傷つけられないようにしよう」と約束しています【★10】



 幼い子どもは,まだ性的なことの意味がわかりません。

 また,10代の子どもは,心と体が大人の仲間入りをしたばかりで,

 自分自身との付き合い方を身につけるための,大事な時期にあります。

 そういう子どもたちに,セックスやセックスっぽいことをさせて画像・動画を作ったり,

 そういう子どもたちの,性的な部分を強調した裸の画像・動画を作ったりすることは,

 子どもを性的に傷つける,決して許されないことです。



 日本は,世界中から「日本が児童ポルノの発信源になっている」と強く非難されて【★11】

 1999(平成11)年に児童ポルノを禁止する法律を作り,さらに5年後の2004(平成16)年に改正して,

 児童ポルノを,作ったり,売ったり,配ったりすることを,犯罪として取り締まるようになりました【★12】



 ただ,

 児童ポルノをただ持っているだけの,いわゆる「単純所持」は,

 犯罪とはされていませんでした。



 でも,世界では,

 「児童ポルノを作ったり,売ったり,配ったりすることを禁止するだけでは,子どもを守るには足りない。

 ただ持っているというだけでもダメだ」

 と,単純所持も禁止する国々がどんどん増えていきました【★13】


 そして日本も,

 最初に法律を作ってから15年後の2014(平成26)年に,

 児童ポルノの単純所持も,犯罪として取り締まるよう,法律を改正しました。



 ただこのとき,

 「どうしてただ持っているだけで犯罪になってしまうのか」という大事な議論が,

 十分にはされていませんでした。



 児童ポルノを禁止するのは,

 ポルノに使われる/使われた子どもたちを守るためです。


 ところが,児童ポルノの議論は,よく気をつけなければ,

 本来の「子どもを守るため」という目的がそっちのけになり,

 「社会にとって好ましくないから禁止する」という考え方に傾いてしまいがちです。


 「社会にとって好ましくないから禁止する」という考え方が強くなってしまうと,

 児童ポルノにかぎらず,そのほかにもいろんなものが,

 「社会にとって好ましくないから」という理由で,どんどん禁止されていくことになりかねません【★14】

 しかも,それが犯罪として,警察に捜査されたり,刑務所に入れられたりすることになれば,

 一人ひとりが自由に生きられない,とても窮屈(きゅうくつ)な社会になってしまう危険があります。


 だから,児童ポルノの単純所持は,

 犯罪にしてまで取り締まるのではなく,別の手続で没収するなどの他の方法をとるべきだ,とか【★15】

 犯罪にするにしても,りくつをもっときちんと考えて条文を工夫するべきだ,など【★16】

 そういう大事な指摘や批判が,とても多くあります。




 児童ポルノの単純所持の規制のあり方は,社会がこれからも議論をしっかり続けていく必要があります。

 そして,あなたにも今,しっかりと考えてほしいことがあります。



 あなたは今回,自分が逮捕されるのではないかと,2ヶ月間も眠れない不安な日々を送っていたのですよね。



 想像してみてください。

 もしあなたが,その児童ポルノに写されている子どものほうだったら。


 まだ性的なことをよく知らない幼いときに,

 あなたが大切な一人の人間として扱われず,まるで物や人形や奴隷(どれい)のように扱われて,

 性的な写真を作られること。

 そして,そうやって作られた写真が,何年も何十年も,ネットを通して世界中のあちこちに拡散し,

 見ず知らずの人たちに性的に消費され続けること。

 その不安,悲しさ,悔しさ,怒り,恥ずかしさ,絶望感を,

 2ヶ月だけでなく,生涯(しょうがい)ずっと抱えて生きていかなければいけないこと。



 あなたが今回感じた不安より,もっと大きな苦しみを抱える子どもがいることに,ぜひ思いをめぐらせてください。

 そしてこれからは,児童ポルノを持たないようにするのはもちろんのこと,

 児童ポルノをなくそうと取り組むこの社会の素敵なメンバーの一人になってほしいと,私は強く願っています。



 なお,18歳になる前は,

 児童ポルノにかぎらず,性的な画像・動画には接しないで,

 今のうちから,性についてきちんと学んで欲しいと思います。

 「アダルトサイトの年齢確認」の記事も,ぜひあわせて読んでください。

 

 



【★1】児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ禁止法」)2条3項
 「この法律において『児童ポルノ』とは,写真,電磁的記録…に係る記録媒体(ばいたい)その他の物であって,次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態(したい)を視覚により認識することができる方法により描写(びょうしゃ)したものをいう。
 一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似(るいじ)行為(こうい)に係る児童の姿態
 二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
 三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更(ことさら)に児童の性的な部位(性器等若(も)しくはその周辺部,臀(でん)部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」
【★2】 児童ポルノ禁止法7条1項 「自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至(いた)った者であり,かつ,当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は,1年以下の懲役(ちょうえき)又は100万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で,第2条第3項各号のいずれかに掲(かか)げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり,かつ,当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も,同様とする」
【★3】 13歳以下が逮捕されないことについては,「小学生も刑務所や少年院に行くの?」の記事も見てください。
【★4】 逮捕された場合にどうなるかは,「逮捕された!早く外に出たい」の記事を見てください。
【★5】 刑法235条 「他人の財物(ざいぶつ)を窃取(せっしゅ)した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役(ちょうえき)又は50万円以下の罰金に処(しょ)する」
【★6】 刑事訴訟法199条1項 「検察官,検察事務官又は司法警察職員は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,これを逮捕することができる。ただし,30万円(刑法,暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については,当分の間,2万円)以下の罰金,拘留(こうりゅう)又は科料(かりょう)に当たる罪については,被疑者が定まった住居を有(ゆう)しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る」
 同条2項 「裁判官は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは,検察官又は司法警察員…の請求により,前項の逮捕状を発する。但(ただ)し,明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,この限りでない」
 刑事訴訟規則143条 「逮捕状を請求するには,逮捕の理由…及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を提供しなければならない」
 同規則143条の3 「逮捕状の請求を受けた裁判官は,逮捕の理由があると認める場合においても,被疑者の年齢及び境遇並(なら)びに犯罪の軽重(けいちょう)及び態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞(おそれ)がなく,かつ,罪証を隠滅(いんめつ)する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,逮捕状の請求を却下しなければならない」
【★7】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)37条 「締約国(ていやくこく)は,次のことを確保する。… (b) いかなる児童も,不法に又は恣意的(しいてき)にその自由を奪われないこと。児童の逮捕,抑留(よくりゅう)又は拘禁(こうきん)は,法律に従って行うものとし,最後の解決手段として最も短い適当な期間のみ用いること」
【★8】 犯罪捜査規範208条 「少年の被疑者については,なるべく身柄の拘束を避け,やむを得ず,逮捕,連行又は護送する場合には,その時期及び方法について特に慎重な注意をしなければならない」
【★9】 大人が児童ポルノの単純所持で逮捕されたケースとして,「児童ポルノDVD 海保職員所持疑い」(読売新聞2017年11月23日記事),「保育士が児童ポルノ所持 容疑の29歳逮捕 自宅や携帯に画像 千葉・流山」(産経新聞2018年2月8日記事)などがありますが,きわめて少ないです。
【★10】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)34条 「締約国は,あらゆる形態の性的搾取(さくしゅ)及び性的虐待から児童を保護することを約束する。このため,締約国は,特に,次のことを防止するためのすべての適当な国内,二国間及び多数国間の措置をとる。… (c) わいせつな演技及び物において児童を搾取的に使用すること」
 同条約「子どもの売買,子ども売春および子どもポルノグラフィーに関する選択議定書」(2002年1月発効,2005年1月日本批准)
【★11】 1996(平成8)年,「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」(ストックホルム会議)で,日本が児童ポルノについて何も規制していないことが世界中から批判されました。
 「この会議で…無策の日本に対する批判と早急な対応を求める声が強く出されたのです。特に批判されたのは,日本で製造,販売されていた児童ポルノです。1970年代には,米国製の児童ポルノが大きな社会問題となり法改正により規制が厳しくなりました。1980年代になると,児童ポルノの主な輸出国であった欧州諸国が法律による規制を強化して児童ポルノの製造は減少していきました。そのために,児童ポルノの規制のない日本が世界の製造拠点になってきました」(森山眞弓・野田聖子「よくわかる改正児童売春・児童ポルノ禁止法」10頁)
 「会議の場では日本人男性による東南アジア諸国で行われる買春(かいしゅん)ツアーの横行(おうこう),諸外国に代わって日本が児童ポルノの国際的な発信源と化していることに批判が集中した。このような国際的批判を受けた結果,日本政府は,児童買春とともに,児童ポルノを規制するための国内法整備を取締りの強化を約束する」(西垣真知子「子どもの性的保護と刑事規制-児童ポルノ単純所持規制条例の意義と課題-」龍谷大学大学院法学研究15号,72頁)
 「日本では1999年に児童ポルノ禁止法が成立した。成立の背景には,1996年にストックホルムで開催された『児童の商業的性的搾取に反対する世界会議』にて,児童ポルノ問題について,日本が他の先進諸国に比べて認識・対策ともに遅れており,そのため児童ポルノが大量に製作・販売されていると世界中から非難を浴び,早急な対応が求められたことにある」(池間愛梨「近年の日本における児童ポルノ事犯の発生状況と防犯対策」東洋大学大学院紀要54巻,109頁)
【★12】 1999(平成11)年制定当時は,禁止・処罰されるのは,頒布(はんぷ),販売,業としての貸与でしたが,2004(平成16)年の改正で,提供(それまでの頒布・販売・業としての貸与をすべて含む),提供目的の製造・所持,単純製造,輸入・輸出が禁止されるようになりました。しかし,本文に書いたとおり,単純所持は禁止・処罰の対象外でした。
【★13】 ※2014年改正の直前の論文 「我が国は,児童ポルノの単純所持を処罰する規定を有しないが,こうした規定を有しない国家は,次第に少数派となりつつある。特に,欧米諸国においては,(アンドラやサンマリノといった)一部の例外を除いて,ほぼ全ての国家が単純所持処罰規定を有するため,こうした規定を有しない日本に対する『風当たり』は非常に強いものとなっている」(深町晋也「児童ポルノの単純所持規定について-刑事立法学による点検・整備-」「刑事法・医事法の新たな展開 上巻 町野朔先生古稀記念」453頁)
【★14】 「児童ポルノ規制の保護法益として考えられるのは,①被害児童の福祉,②一般児童の安全,③社会の性道徳である。…単純所持の保護法益はどれに該当するのだろうか。単純所持規制が実在する被害児童の保護を目的とするのであれば,…①が該当するだろう。しかし…改正前のように提供目的の所持のみを禁止する場合には,児童ポルノの流通によって被害児童に損害が生じると考えることになる。一方,改正後の場合,単純所持も規制されるので,児童ポルノが流通するおそれがある前の段階,すなわち児童ポルノの作成または所持の時点から損害が生じると考えることになる。その場合,被害その存在に気づいていなくても損害が生じているということになるから,それが損害発生といえるためにはその存在自体が絶対悪だという道徳的価値観が内在していることになり,②や③の要素が含まれることになろう」「単純所持規制は,自宅における個人の思考過程や私的行動を制約するものであり,国家による私的領域への強度な介入をもたらすものである。また,所持概念が事実上の支配という曖昧(あいまい)な概念であることから,所持の対象も広がる可能性を秘めており,規制を広範に及ぼすこともできる。…単純所持規制が一定の社会道徳的見地から特定の情報を制約する性質を帯びるとき,私的介入性や広範性とあいまって,表現の自由に対する制約となろう」(大林啓吾「第3章 単純所持規制の憲法上の論点」「改正児童ポルノ禁止法を考える」50頁,61頁)
 「児童ポルノは児童を性的な対象として見る風潮を助長するものであるから禁圧すべきだという主張も根強く,裁判例の中にも,このような立場を採用するものがある。だが,…『風潮』によって児童に対する性的加害が増加するわけではない。これはホラー映画やミステリー小説が殺人を肯定する風潮を助長するわけではないのと同様である。…より根強いのは,実在児童そのものではなく,社会感情を保護するとする考え方である。これはすでにその立ち位置からして,現行法の基本的な発想と異なっているのだが,『社会的法益』に対する罪を広く処罰しようとすることは,①被害者であるはずの児童を加害者とする倒錯した帰結を招き,②創作表現を広範に禁圧する契機を有するので,問題にしておく必要がある」「倫理の強調によって,科学的には児童保護の効果がない『イメージ保護』が主張され,児童を犯人扱いするなど多くの問題を生んでいる。『自己の性的好奇心を満たす目的』での所持・保管の処罰は,憲法上の権利を過度に制約するばかりでなく,児童保護のために逆効果となるおそれがある。この処罰の擁護者は,自分たちこそが児童への被害を助長している可能性を胸に手を当てて考えるべきである」(高山佳奈子「第4章 所持規制の刑法上の論点」「改正児童ポルノ禁止法を考える」73頁,78頁)
【★15】 「現行法の児童ポルノの定義を限定かつ明確化したうえで,児童ポルノの単純所持を禁止すべきである。ただし,犯罪化することには,反対する」 「児童ポルノの定義を改正して,この定義が客観的に明確化し,かつ限定的にしたうえで,児童ポルノの単純所持を,違法行為であることを法律上明文で宣言し,これを禁止することが必要であると考える。…ただし,児童ポルノの『取得』という外部的な行為と離れて,個人がいかなる情報を所持するかどうかは,個人の内心にも通じる私的領域に属するものである。そのような私的領域に対して違法の宣言をすることや公的権力の介入を認めることは,極めて慎重でなければならない。したがって,児童ポルノの単純所持を禁止し,それが違法であると宣言することの効果は,社会全体の認識の変化により起こる個々人の自発的な行為(所持するに至ってしまった児童ポルノを廃棄する等)に待つべきであって,公権力の私的領域への介入を招くものであってはならないことに留意すべきである」(日本弁護士連合会2010年(平成22年)3月18日「『児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律』の見直し(児童ポルノの単純所持の犯罪化)に関する意見書」(https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/100318_3.pdf
 「児童ポルノ私的所持の行為規範のレベルでは,…規制することは許されると考えている。…しかし,制裁規範のレベルでは,私的所持が侵害する性的自己決定権は観念的なものと受けとめられ得るものであり,見た目上も所持は静的な状態であることが問題となる。そのような場合,制裁賦課によって発せられる非難のメッセージは,私的所持という非難に値する行為に対するものではなく,児童性愛者という所持者の属性に対する非難として誤解される可能性が非常に高い。また,非難を伴わない行政的な没収措置等(制裁としての没収ではない)によっても,<児童ポルノは所持してはならない>というメッセージは発せられ得ると考えられる。…私的所持に対して制裁を科すことは避けられるべきであり,私的所持の規制については,刑罰ではなく,行為者への非難を伴わない行政上の没収措置等を規定すべきであるというのが私見である」(上田正基「第3章 児童ポルノの所持を本当に処罰しますか-立法批判枠組の具体的適用」「その行為,本当に処罰しますか-憲法的刑事立法論序説」205頁)
【★16】 「児童ポルノ法には他の法制度とより整合的であり,かつ個人の自由保障をより十全に図りつつも,児童ポルノの所持も含めて児童ポルノ罪の刑事規制を的確に実施可能な,よりスマートな刑事法制があるのではないかとの強い疑念がある。この疑念は,児童ポルノ法が,立法者のいわば感情的な(しかも諸外国からのものを含む)処罰要求に応えた合理性を欠く立法であり,抜本的に改められるべきであるとの問題提起を行うものである」(石井徹哉「個人の尊重に基づく児童ポルノの刑事規制」「川端博先生古稀記念論文集[下巻]」379頁)



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