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2019年4月 1日 (月)

警察の職務質問にむかついた


 自転車で予備校から帰る途中,警察に呼び止められました。「なんすか?」って聞いたら「サドルがずいぶん高いけど,本当に君の自転車?」って言われて,別にそんなに高くないじゃんと思いながら防犯登録を確認したのに,今度は「カバンの中を見せろ」って言われて,あんまり他の人に見られたくないものを持ってたんで,「どうしても見せなきゃいけないんすか?」って聞いたら,「何もやましくないなら見せられるだろ。見せないなら警察署まで来てもらう」って迫(せま)られて,結局見せました。犯罪者扱いしてくる警察の態度にまじむかついたんですけど,これって警察を訴えることはできますか?

 


 まるで犯罪をしたかのように警察に疑われたのは,本当に気分が悪いことですよね。



 警察の職務質問は,私たちの社会を犯罪から守るために,重要な役割を果たしています。


 たとえば,2017年(平成29年)には,

 殺人75件,

 強盗183件,

 放火82件,

 強制性交等31件,というように,

 職務質問がきっかけで凶悪な事件の犯人(と思われる人)の検挙につながった件数が,一定程度あります【★1】


 しかし,だからといって,

 犯罪とは無縁に暮らしている市民に対しても,

 警察が,思うままに呼び止めて質問し,しかも犯罪者扱いするような態度なのは,

 まったくおかしなことです。



 今から140年以上もむかし,1875年(明治8年)に作られたルールでは,

 警察が「怪(あや)しいやつだ」と思いさえすれば,

 質問に答えさせたり,むりやり警察署に連れて行ったりすることができました【★2】

 警察が,とても大きな力を持っていたのです。



 でも,その後,日本が大きな戦争に負け,

 一人ひとりを大切にする社会に変わったのをきっかけにして【★3】

 職務質問のルールも,大きく変わりました【★4】



 職務質問のルールは,「警察官職務執行(しっこう)法」という法律が決めています。


 その法律には,「警察はだれでも呼び止めて質問していい」とは,書かれていません。


 警察が職務質問できるのは,

 その人がなにか犯罪をしてそうだとか,

 その人がこれからなにか犯罪をしそうだとか,

 その人が他の人の犯罪についてなにか知ってそうだ,

 という時だけです【★5】



 警察官が,「警察がそう思えば職務質問していいんだ」などと言うことがあります。

 しかし,その警察官の言うことは,まちがいです。

 警察の人たちが仕事で読む本を,たくさん作っている出版社があります。

 その出版社が出している,警察官職務執行法をくわしく解説した本にも,

 「警察がそう思ったというだけではダメだ」と,はっきりと書かれています【★6】



 犯罪をしてそうだ,とか,これからしそうだ,ということは,

 異常な動きをしているとか,時間・場所など周囲の事情(じじょう)から,「合理的に判断」するものだと,法律に書かれています【★7】【★8】

 「合理的に判断」するというのは,「きちんとした理由やりくつがある」ということです。



 あなたの自転車のサドルの高さが何センチだったのか,正確な情報がわかりませんが,

 「そんなに高くないのに」とあなた自身が思うくらいの,ふつうの高さだったのですよね。

 今回,警察があなたに職務質問をした理由,

 言い換えれば,

 あなたがなにか犯罪をしてそうだとか,これからしそうだ,と警察が思った理由が,

 単にサドルの高さだけだったのなら,

 警察の判断が「合理的」だとは言えません。

 その警察があなたに職務質問をするのは,おかしなことです。



 きちんとした職務質問であっても,あなたが答えるか答えないかは,あなたの自由です。

 警察官職務執行法にも,「むりやり答えさせられない」と,はっきり書かれています【★9】


 ましてや,今回のように,職務質問をするのがおかしい時なら,

 なおのこと,あなたが答える必要はありません。



 でも,職務質問をするのがおかしい時でも,

 あなたが自発的に答えてしまえば,

 警察がしていることは,違法ではなくなってしまいます【★10】



 職務質問に答えるか答えないかはほんらい自由なはずなのに,

 警察は,「答えるのを嫌がる人は絶対に何かあるので,必ず説得してパトカーで警察署に同行させるように」,と教育されています【★11】

 警察は,答えずに帰ろうとする人を,止めようとしてきます【★12】

 そして,警察が止めるのをむりに振り切ろうとすると,

 「警察に暴力をふるった」という理由をつけて,公務執行妨害罪(こうむしっこうぼうがいざい)で現行犯逮捕する,ということさえあります【★13】




 あなたは,警察からカバンの中を見せるようにも言われたのですね。


 憲法という,国のおおもとのルールは,

 「警察が持ち物を勝手に調べてはいけない,

 裁判所がOKした場合か,その人を逮捕する時にしか,持ち物を勝手に調べられない」,

 として,一人ひとりの自由を守っています【★14】【★15】


 それなのに,

 警察は,職務質問で持ち物のチェックを嫌がる人も,「必ず何かあるので警察署に同行させる」,と教育されています【★16】

 そして,

 「警察が勝手に持ち物をチェックしたんじゃない,本人が見せることをOKしたんだ」

 という形を作るために,

 「やましくないなら見せられるだろう」

 などと言って,あなたを説得するのです。


 でも,持ち物を見せなくていいのが憲法の原則なのですから,

 警察の言うことは,考え方が逆さまです。

 ましてや,「むりやり警察署に連れて行かせることはできない」と法律にはっきり書いてあるのに【★17】

 「見せないなら警察署に来てもらう」などと脅(おど)してまで持ち物をチェックするのは,あってはならないことです。




 おかしいことにおかしいと声を上げることは大切です。


 誰でも裁判を受ける権利がありますから【★18】

 「訴えることはできますか」という質問には,YESという答えになります。


 ただ,

 裁判で勝つハードルはけっして低くないですし,

 職務質問のときの様子を残した証拠がないことが多いので,

 費用と時間と労力をかけて裁判所に訴えるかどうかは,弁護士とよく相談してください。


 特に,あなたが未成年であれば,裁判を起こすには親の協力が必要ですから,

 親ともよく話し合うことが必要です。



 「できるかぎりのことをやってみる」という姿勢からは,

 裁判のほかに,都道府県の公安委員会に連絡する方法があります。


 公安委員会というのは,警察の上にある,警察を管理する組織のことです【★19】

 この公安委員会に「苦情申出」をすると,

 公安委員会が警察に調査をし,その結果をあなたに通知してくれます【★20】



 裁判にしても,苦情申出にしても,

 その警察官が誰で,どういう職務質問だったかが,わかるようにしておくと良いです。

 「おかしな職務質問だ」と感じて,後で裁判や苦情申出をすることがありえるなら,

 警察官に警察手帳を出すように求めて,名前を確認してください。

 そういう場合には,警察は手帳を出さないといけないことになっています【★21】【★22】


 また,相手が公務員でも,むやみやたらに写真や動画を撮影してよいわけではありませんが,

 警察の仕事として道ばたでやっている職務質問で,

 しかも後で証拠にしておく必要があるのなら,

 その様子を動画撮影することは,法律上,問題ありません【★23】


 こういった身分確認や動画撮影は,

 後の裁判や苦情申出の証拠として役立つだけでなく,

 おかしな職務質問が行われるのを防ぐことにもつながります。

 あなたに「やましいことがないなら持ち物を見せられるはずだ」と警察官が言ったのと同じように,

 警察官も,やましいことがないのなら,身分証を見せたり,動画撮影をされたりすることを,断れないのです。



 職務質問は,

 私たちの社会を犯罪から守ることと,

 私たち一人ひとりの自由,人として大切に扱われること,

 そのどちらもだいじなことを両立させるための,難しいバランスの上に成り立っています。


 警察官職務執行法の一番最初には,警察がすることは必要最小限にして,むやみやたらにしないように,と書かれています【★24】

 そして,警察の偉(えら)い人が作った文章にも,質問上手・締(し)めくくり上手な職務質問には苦情がない,ということが書かれています【★25】


 あなたのような嫌な思いをする人が出ないようにしながら,

 私たちの社会を犯罪からきちんと守る。

 警察の職務質問は,そういうものでなければいけません。
 

 


【★1】 警察庁「平成29年の犯罪」「24 罪種別 主たる被疑者特定の端緒別 検挙件数(警察活動)」http://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/h29/excel/H29_024.xls
 職務質問がきっかけで検挙につながるのは,全体の約1割です。刑法犯総数(交通業過を除く)総数31万6142件のうち職務質問によるものは4万0083件,凶悪犯総数4007件のうち職務質問によるものは371件です(殺人事件75件/846件,強盗事件183件/1500件,放火事件82件/684件,強制性交等事件31件/977件)。
 もっとも,4万0083件のうち,「乗り物盗」が7499件,占有離脱物横領(せんゆうりだつぶつおうりょう)が1万4741件です。職務質問で検挙される刑法犯の半分近くは,「自転車泥棒」と考えられます(刑法犯だけの統計ですので,薬物犯罪などは含まれていません)。
【★2】 太政官達「行政警察規則」第3章24条 「怪しき者(夜中無提灯にて大なる荷物を擔(かつ)ぐ等風体(ふうてい)宜(よろ)しからざるか或(ある)いは人家の軒下等に彳(たたず)むか等)を見認(みとむ)る時は取糺(とりただ)して様子により(愈(いよいよ)怪しき者と認(みとめ)且(かつ)少人数制し易(やす)き等)持区内出張所に連れ行き或いは(事(こと)曖昧(あいまい)にして認めて犯則となし難(がた)きか或は多人数及び持兇器(きょうきをもつ)等にて制しがたきとき)掛官員に密報(みっぽう)し差圖(さしず)を受(うく)べし倉卒(そうそつ)の取計(とりはからい)あるべからず」
【★3】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★4】 「明治8年,太政官達(たっし)として発せられた『行政警察規則』は,挙動不審な者の取糺(ただ)しを巡査の職務とし,いわゆる不審訊問(じんもん)に法制上の根拠を与えた。また,この規則は,不審者の『連行』をも認めた。そのほか,旧憲法のもとでは,治安警察法,行政執行法などがあって,警察権は強力に行使されていた。現行の警察官職務執行法は,日本国憲法に適合するよう旧法令を全面的に修正し,アメリカ法をも参考にして制定されたものである。職務質問については,『連行』を任意の同行に改めるとともに(2条2項),身柄の拘束や意に反する連行や答弁の強要がありえないことを明らかにして,かつての『不審訊問』との断絶をはかっている(同3項)」(松尾浩也「刑事訴訟法・上・新版43頁)
【★5】 警察官職務執行法2条1項 「警察官は,異常な挙動(きょどう)その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若(も)しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既(すで)に行われた犯罪について,若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる」
【★6】 「『合理的に判断して』とは,この職務を行う警察官が,主観的に,独断的にそう考えただけでは不十分で,普通の社会人がその場合に臨(のぞ)んだら当然そう考えたであろうと思われるような客観性が必要であるという意味である」(警察制度研究会「注解警察官職務執行法」立花書房41頁)
 「不審者に当たるか否(いな)かは,異常な挙動その他周囲の事情から『合理的に判断』しなければならない。判断が『合理的』であるというためには,警察官の主観的又は恣意的(しいてき)な判断ではなく,社会通念に照らして客観的に合理的があると認められる判断がなされなければならない。しかし,これは,一般人の知識や経験のレベルに立って判断することを意味するものではなく,推論の過程について客観的な合理性があれば,その過程で警察官の職業的な専門知識や経験を反映させることが当然に認められる」(古谷洋一(長崎県警察本部長)ほか「注釈警察官職務執行法四訂版」立花書房61頁)
【★7】 警察官職務執行法2条1項 「警察官は,異常な挙動(きょどう)その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若(も)しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既(すで)に行われた犯罪について,若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる」
【★8】 「異常な挙動その他周囲の事情からみて,犯罪を犯し又は犯そうとしている者とは,例えば,深夜におおきなふろしき包みを持って急ぎ足で路地から出て来た者,警察官の姿を見てコソコソと隠れようとする者,服に血痕(けっこん)のようなものが付いている者,夜中に出刃包丁を携帯している者,家人のいない家をこっそりのぞき込んでいる者,選挙の演説会場に凶器のようなものを持って入ろうとする者等である」(警察制度研究会「注解警察官職務執行法」立花書房40頁)
 「『異常な挙動』とは,その者の言語,動作,態度,着衣,携行品等が,通常ではなく,不自然であることをいう。例えば,人目につかない場所に潜(ひそ)む,血痕の付いた服を着ている,同じ場所を何度も往復して屋内をのぞく,警察官の姿を見て急に反転する,こん棒を携行している等がこれに当たるが,ある挙動が異常であるか否(いな)かは,場所や時間帯によっても異なり得る」(古谷洋一(長崎県警察本部長)ほか「注釈警察官職務執行法四訂版」立花書房58頁)
【★9】 警察官職務執行法2条3項 「前2項に規定する者は,刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り,身柄(みがら)を拘束(こうそく)され,又はその意に反して警察署,派出所若しくは駐在所に連行され,若しくは答弁を強要されることはない
【★10】 東京高裁1992年(平成4年)6月23日判決・判例タイムズ799号157頁 「警職法2条1項の職務質問の要件を欠く場合であっても,相手方が任意(にんい)に応じている場合には,職務質問が当然に違法になるものではない」
【★11】 「職質を拒否する者…は要注意」「絶対に何かあるので,必ず粘(ねば)り強く説得し,パトカーで本署に任意同行する」(警察実務研究会「クローズアップ実務Ⅰ 職務質問」立花書房55頁)
【★12】 裁判所は,職務質問で警察が腕に手をかけて引きとめるなどの「有形力(ゆうけいりょく)」を使うことを,一定程度認めています(最高裁第一小法廷1954年(昭和29年)7月15日決定・刑集8巻7号1137頁など)。
【★13】 刑法95条1項 「公務員が職務を執行(しっこう)するに当たり,これに対して暴行又は脅迫(きょうはく)を加えた者は,3年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは禁錮(きんこ)又は50万円以下の罰金に処(しょ)する」
【★14】 憲法35条1項 「何人(なんぴと)も,その住居,書類及び所持品について,侵入,捜索(そうさく)及び押収(おうしゅう)を受けることのない権利は,第33条の場合を除いては,正当な理由に基(もとづ)いて発せられ,且(か)つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ,侵されない」
 同条2項 「捜索及び押収は,権限を有する司法官憲が発する各別の令状により,これを行ふ(う)」
 「『第33条の場合』とは,判例によれば,『第33条による不逮捕の保障の存しない場合』の意である(最大判昭和30・4・27刑集9巻5号924頁。なお刑訴220条参照)。したがって,33条による適法な逮捕の場合には,現行犯であると否とにかかわりなく,逮捕にともなう合理的な範囲内であれば,本条による令状を必要とせずに,住居等の侵入等を行うことが許される」(芦部信喜著・高橋和之補訂「憲法第6版」248頁)
【★15】 最高裁は,職務質問に付随(ふずい)して行う所持品検査は,捜索(そうさく)に至(いた)らない程度の行為は,強制にわたらない限り,必要性,緊急性,個人の法益と公共の利益の権衡(けんこう)などを考慮して,具体的状況のもとで相当を認められる限度で認められるとしています。具体的には,銀行強盗の疑いが強い人のバックのチャックを開けて中をちらっと見たケースをOK,覚せい剤所持の疑いが強い人の服のポケットに手を入れて所持品を取り出したケースをNGとしています。
 最高裁判所第三小法廷1978年(昭和53年)6月20日判決・刑集32巻4号670頁 「警職法は,その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで,所持品の検査については明文の規定を設けていないが,所持品の検査は,口頭による質問と密接に関連し,かつ,職務質問の効果をあげるうえで必要性,有効性の認められる行為(こうい)であるから,同条項による職務質問に附随(ふずい)してこれを行うことができる場合があると解するのが,相当である。所持品検査は,任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから,所持人の承諾(しょうだく)を得て,その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しかしながら,職務質問ないし所持品検査は,犯罪の予防,鎮圧(ちんあつ)等を目的とする行政警察上の作用であって,流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは,所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解(かい)するのは相当でなく,捜索に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り,所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。もっとも,所持品検査には種々の態様のものがあるので,その許容限度を一般的に定めることは困難であるが,所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法35条の保障するところであり,捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するものであるから,状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであって,かかる行為は,限定的な場合において,所持品検査の必要性,緊急性,これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ,許容されるものと解すべきである」「これを本件についてみると,所論(しょろん)のB巡査長の行為は,猟銃及び登山用ナイフを使用しての銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において,深夜に検問の現場を通りかかったA及び被告人の両名が,右犯人としての濃厚な容疑が存在し,かつ,兇器(きょうき)を所持している疑いもあったのに,警察官の職務質問に対し黙秘(もくひ)したうえ再三(さいさん)にわたる所持品の開披(かいひ)要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため,右両名の容疑を確める緊急の必要上されたものであって,所持品検査の緊急性,必要性が強かった反面,所持品検査の態様は携行(けいこう)中の所持品であるバッグの施錠されていないチャックを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから,これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく,上述の経過に照らせば相当と認めうる行為であるから,これを警職法2条1項の職務質問に附随する行為として許容されるとした原判決の判断は正当である」
 最高裁第一小法廷1978年(昭和53年)9月7日判決・刑集32巻6号1672頁 「b巡査が被告人に対し,被告人の上衣左側内ポケットの所持品の提示を要求した段階においては,被告人に覚せい剤の使用ないし所持の容疑がかなり濃厚に認められ,また,同巡査らの職務質問に妨害が入りかねない状況もあったから,右所持品を検査する必要性ないし緊急性はこれを肯認(こうにん)しうるところであるが,被告人の承諾がないのに,その上衣左側内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した同巡査の行為は,一般にプライバシー侵害の程度の高い行為であり,かつ,その態様において捜索に類するものであるから,上記のような本件の具体的な状況のもとにおいては,相当な行為とは認めがたいところであって,職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱(いつだつ)したものと解(かい)するのが相当である」
【★16】 「所持品検査を頑(かたく)なに拒否する者…は『ブツ』を持つ可能性大」「職質現場で所持品検査,身体検査を頑なに拒否する者は,必ず何かあるので本署に同行する」(警察実務研究会「クローズアップ実務Ⅰ 職務質問」立花書房24頁)
【★17】 警察官職務執行法2条3項 「前2項に規定する者は,刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り,身柄(みがら)を拘束(こうそく)され,又はその意に反して警察署,派出所若しくは駐在所に連行され,若しくは答弁を強要されることはない
【★18】 憲法32条 「何人(なんぴと)も,裁判所において裁判を受ける権利を奪は(わ)れない」
【★19】 地方自治法180条の9第1項 「公安委員会は,別に法律の定めるところにより,都道府県警察を管理する」
 警察法38条1項 「都道府県知事の所轄(しょかつ)の下に,都道府県公安委員会を置く」
 同条3項 「都道府県公安委員会は,都道府県警察を管理する」
【★20】 警察法79条1項 「都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は,都道府県公安委員会に対し,国家公安委員会規則で定める手続に従い,文書により苦情の申出をすることができる」
 同条2項 「都道府県公安委員会は,前項の申出があったときは,法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し,処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない。(略)」
【★21】 警視庁警察職員服務規程18条 「職員は,相手方から身分の表示を求められた場合は,職務上支障があると認められるときを除き,所属,階級,職及び氏名を告げなければならない」
 警察手帳規則5条 「職務の執行に当たり,警察官,皇宮護衛官又は交通巡視員であることを示す必要があるときは,証票及び記章を呈示(ていじ)しなければならない」
【★22】 東京高裁1993年(平成5年)4月26日判決・判例時報1461号68頁 「警察手帳規則…5条は,職務の執行に当たり,警察官であることを示す必要があるときは,…呈示しなければならない,と規定しており…警察手帳を提示しなければならないのは,職務の執行に当たり,警察官であることを示す必要があるときである。そして,警察官が職務質問を行うに当たって相手から警察手帳の提示を求められた場合,常に右にいう警察官であることを示す必要があるときに当たるとは解されない。そこで,例えば,一般人と変わらない服装をしていて一見警察官であることが明らかであるとはいえない場合,警察官の服装をしていても挙動に不審な点がある等警察官であることを疑わせるような具体的な徴憑(ちょうひょう)がある場合,警察官であることを疑わせる事情はなくても正当な職務の執行であるか疑わしい行動に出たため,責任の所在を明らかにし,かつ後日責任を追及するために必要と考えられる場合等には,警察手帳の提示を求める実質的な理由があ(る)」
【★23】 最高裁第一小法廷2005年(平成17年)11月10日判決・民集59巻9号2428頁 「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有(ゆう)する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾(しょうだく)なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍(じゅにん)の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」
【★24】 警察官職務執行法1条1項 「この法律は,警察官が警察法…に規定する個人の生命,身体及び財産の保護,犯罪の予防,公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行(すいこう)するために,必要な手段を定めることを目的とする」
 同条2項 「この法律に規定する手段は,前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであって,いやしくもその濫用(らんよう)にわたるようなことがあってはならない」
【★25】 「職務質問のプロと呼ぶに相応(ふさわ)しい警察官達は,新宿の街を目的なくブラ付き,たむろする者達をはじめとする人の中から,鋭い観察によって不審点を発見し,素早く接近して,気軽いに声を掛け,質問に入っていた。…後日等に,これらの職務質問に対する苦情がない。なぜか? プロ達は,職務質問の打ち切りが上手であった。職務質問を実施したこと(質問を受けたこと)を,相手方に十分に説明し,納得を得て質問を打ち切っていた。プロはいずれも『質問上手で,締めくくり上手』であった。『新宿の治安を守りたいんです。ご理解ありがとうございました』『今後とも,ご協力をお願いします』職務質問の目的を果たして,対象者を送り出す,プロ達のさわやかな声が耳に残る」(黒木正一郎「吾,勁草たり得ず」第5回「職務質問(下)~”正義の武器”を活かす勇気~」捜査研究650号123頁) 

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