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2018年11月 1日 (木)

SNSでなりすましアカウントを作られた

 

 

 ツイッターやインスタで私になりすましたアカウントが作られてて,私の友だちをフォローして,他の人をバカにしたり性的なことを書いたりした投稿を繰り返されてます。3ヶ月くらい前から始まってて,ちょうどその直前に別れた元彼が嫌がらせでやってるんじゃないかと思うけど,はっきりした証拠もないし,このままずっとがまんするしかないですか。

 

 

 

 あなたが「他人の悪口を投稿したりするようなひどい人だ」と周りから誤解されてしまうのは,ほんとうにくやしいですよね。



 現実の世界でも,「なりすまし」は,大きな問題です。

 他の人になりすまして裁判をすることの問題は,むかしからありましたし,

 家族になりすました振り込め詐欺・オレオレ詐欺の被害も,なかなかなくなりません。

(今,少年院には,振り込め詐欺・オレオレ詐欺にかかわった子どもたちが,多く入所しています)



 そういう現実の世界と比べて,人間の姿かたちが見えづらいインターネットは,

 なりすましがもっと簡単にできてしまいますし,

 情報が一気に広がってしまうので,被害も大きくなります。




 SNSの運営会社は,なりすましの問題に取り組んでいます。

 
そこに被害を報告して,対応するように求めてみてください【★1】



 SNSの運営会社がきちんと対応してくれない場合は,どうすればよいでしょうか。




 国の役所である,法務局というところがあります。

 その
法務局が,インターネットの通信業者やSNSの運営会社に,書き込みやアカウントを削除するように連絡してくれる場合があります【★2】

 相談先の電話番号は, 0570-003-110 です。





 そして
裁判所も,「なりすまし」の被害を受けている人たちを守る判断をしています。



 昨年(2017年),裁判所は,

 ツイッターの運営会社に対して,なりすましアカウントそのものを消すように命じたり
【★3】

 なりすましをした人に対して,損害賠償(そんがいばいしょう)を被害者に払えと命じたりしました
【★4】


 損害賠償が命じられた裁判は,こういうケースでした。


 SNSで,Aさんの顔写真を使ってAさんになりすまし,他の人たちの悪口を書いていたBさんがいました。


 裁判所は,

 「Aさんは他人の悪口を言ったりするひどい人だ」,と周りに思わせて,Aさんの評価を下げたことと
【★5】

 Aさんの顔写真を使ったこと
【★6】

 Bさんがしたそれらのことは違法だ,と言いました。

 そして,

 Aさんの心を傷つけたぶんの慰謝料(いしゃりょう)と,

 誰がなりすましていたのかを調べるための裁判所の手続
【★7】にかかった弁護士費用など,

 あわせて約130万円を,BさんからAさんに払うよう命じました。



 なりすましの被害を受けたAさんを,裁判所が守ったのです。



 ただ,裁判所のその理屈(りくつ)だと,

 もしBさんが,Aさんになりすましたアカウントで,

 他の人の悪口を書かなかったり,

 Aさんの顔写真を使わなかったりしたら,

 違法とは言えないかのようにも思えますね。



 でも,たとえ悪口がなかったり,顔写真が使われていなかったりしても,

 他の人になりすますこと自体,あってはならないことです。



 法律は,一人ひとりを大切な存在として扱っています。

 「自分がどういう人間なのか」ということを,他の人がなりすまして混乱させるのは,

 一人ひとりが大切に扱われることとまったく真逆で,けっして許されないことです。

 それは,現実の世界だけでなく,インターネットの中でも,同じです。




 「自分がどんな人間なのか」ということを,難しい言葉で,アイデンティティと言います。



 Aさんは,悪口や顔写真のことだけでなく,

 なりすましそのものがAさんを傷つけている,として,

 「アイデンティティ権」という新しい考え方を,裁判で主張しました。



 裁判所は,Aさんの言い分を全部までは認めませんでしたが,

 アイデンティティ権という考え方そのものは認めました
【★8】

 そうやって一歩一歩,

 インターネットでの被害をなくしていくために,

 社会は前に進んでいます。



 これから先も,私たちみんなで,被害を受けている人たちといっしょに声を上げて,

 裁判所の考え方をもっと前に進めさせたり,

 国会で法律が作られるようにしたり,

 SNSの運営会社にもっときちんと対応するように求めたりして,

 なりすましを許さず,一人ひとりが大切にされるネット社会を築いていくことが必要だと,私は思います。



 ぜひあきらめずに,

 あなたの親や信頼できる大人,そして私たち弁護士に,相談してください。




 なお,誰がなりすましをしているのかが分からないときには,

 さっきのAさんのように,

 なりすましているのが誰かを調べるための裁判所の手続を取る必要がありますし,その費用や労力もかかります。

 未成年なら,法律的な手続をとるためには,親の協力も必要です。



 しかし,ケースによっては,裁判所の手続を取らなくても,なりすましている人を特定して,解決に結びつく場合もあります。

 あなたも,なりすましているのが元彼なのかどうかという点も含めて,一度弁護士に相談してみてください。

 

 

 

【★1】 Twitter :https://help.twitter.com/ja/safety-and-security/report-twitter-impersonation
 Instagram:https://help.instagram.com/446663175382270/?helpref=hc_fnav
 Facebook:https://www.facebook.com/help/contact/169486816475808
【★2】 「平成29年における『人権侵犯事件』の状況について(概要)」http://www.moj.go.jp/content/001253506.pdf
「[事例3]インターネット上のプライバシー侵害 インターネット上のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)において,なりすましアカウントにより被害者の上半身裸の画像が掲載されていたところ,被害者自身でSNSの運営会社に対し,アカウントの削除を依頼したが応じてもらえなかったとして,法務局へ相談がされた事案である。法務局で調査した結果,当該画像は被害者のプライバシーを侵害するものと認められたため,法務局からSNSの運営会社に対し削除要請を行ったところ,本件アカウントは削除されるに至った。(措置:「要請」)」
【★3】 さいたま地裁平成29年10月3日決定・D1-Law.com判例体系・投稿記事削除仮処分命令申立事件 「外形的にみても,本件アカウントは,アカウント全体が,どの構成部分をとってみても,債権者の人格権を侵害することのみを目的として,明らかな不法行為を行う内容の表現である。このようなアカウント全体が不法行為を目的とすることが明白であり,これにより重大な権利侵害がされている場合には,権利救済のためにアカウント全体の削除をすることが真にやむを得ないものというべきであり,例外的にアカウント全体の削除を求めることができると解するのが相当である。このような不法行為のみを目的として他人を偽(いつわ)るアカウントが削除されたとしても,本件アカウントの保有者としては,別に正当な…アカウントを開設することが何ら妨(さまた)げられるものではない」
【★4】 大阪地裁平成29年8月30日判決・判例時報2364号58頁
【★5】 名誉毀損(めいよきそん)と言います。
 大阪地裁平成29年8月30日判決・判例時報2364号58頁 「〔Bによる〕これらの投稿は,いずれも他者を侮辱(ぶじょく)や罵倒(ばとう)する内容であると認められ,…原告〔=A〕による投稿であると誤認(ごにん)されるものであることと併(あわ)せ考えれば,第三者に対し,原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒して本件掲示板の場を乱す人間であるかのような誤解を与えるものであるといえるから,原告の社会的評価を低下させ,その名誉権を侵害しているというべきである。…したがって,被告〔=B〕による本件投稿によって,原告〔=A〕の名誉権が侵害されたと認められる」
【★6】 肖像権(しょうぞうけん)侵害と言います。
 大阪地裁平成29年8月30日判決・判例時報2364号58頁 「肖像は,個人の人格の象徴(しょうちょう)であるから,当該(とうがい)個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有(ゆう)すると解(かい)される(最高裁平成24年2月2日判決・民集66巻2号89頁参照)。他方,他人の肖像の使用が正当な表現行為等として許容されるべき場合もあるというべきであるから,他人の肖像の使用が違法となるかどうかは,使用の目的,被侵害利益の程度や侵害行為の態様等を総合考慮して,その侵害が社会生活上受忍(じゅにん)の限度を超えるかどうかを判断して決すべきである(最高裁平成17年11月10日判決・民集59巻9号2428頁参照)。…被告〔=B〕は,原告〔=A〕の顔写真を本件アカウントのプロフィール画像として使用し,原告の社会的評価を低下させるような投稿を行ったことが認められ,被告による原告の肖像の使用について,その目的に正当性を認めることはできない。そして,…被告が,原告の社会的評価を低下させる投稿をするために原告の肖像を使用するとともに,『わたしの顔どうですか?w』…,『こんな顔で●●さんを罵っていました。ごめんなさい』…などと投稿したことは,原告を侮辱し,原告の肖像権に結びつけられた利益のうち名誉感情に関する利益を侵害したと認めるのが相当である。そうすると,被告〔=B〕による原告〔=A〕の肖像の使用は,その目的や原告に生じた不利益等に照らし,社会生活上受忍すべき限度を超えて,原告の肖像権を違法に侵害したものと認められる。…したがって,…原告の肖像権が違法に侵害されたことを認めることができる」
【★7】 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条1項 「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,次の各号のいずれにも該当するときに限り,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し,当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」
【★8】 大阪地裁平成29年8月30日判決・判例時報2364号58頁 「原告〔=A〕は,権利性が認められている氏名や肖像を冒用(ぼうよう)されない利益の根源が他者から見た人格の同一性を保持する必要性にあるとすれば,憲法13条後段の幸福追求権又は人格権から他者との関係において人格的同一性を保持する利益であるアイデンティティ権が導き出され,被告〔=B〕が原告になりすまして本件投稿を行ったことは原告のアイデンティティ権を侵害した旨主張する。…個人が,自己同一性を保持することは人格的生存の前提となる行為であり,社会生活の中で自己実現を図ることも人格的生存の重要な要素であるから,他者との関係における人格的同一性を保持することも,人格的生存に不可欠というべきである。したがって,他者から見た人格の同一性に関する利益も不法行為法上保護される人格的な利益になり得ると解される。もっとも,他者から見た人格の同一性に関する利益の内容,外延は必ずしも明確ではなく,氏名や肖像を冒用されない権利・利益とは異なり,その性質上不法行為法上の利益として十分に強固なものとはいえないから,他者から見た人格の同一性が偽られたからといって直ちに不法行為が成立すると解すべきではなく,なりすましの意図・動機,なりすましの方法・態様,なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して,その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断して,当該行為が違法性を有するか否かを決すべきである」
 ただし,裁判所は,Aさんのケースへのあてはめでは,Bさんによるなりすましが正当な意図,動機によるものとは認められないとしながら,なりすましの方法・態様と,なりすましによって受けた不利益の程度から,名誉権侵害と肖像権侵害以外のなりすまし行為についてはAさんの人格的な利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものとまでは認められない,としました。

Part2_1

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