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2018年6月

2018年6月 1日 (金)

ネット予約をキャンセルしたのにお金を請求されてる

 

 高3です。友だち8人のGW旅行の計画で,4月初めに旅館をネット予約しました。サイトには住所と名前と電話番号を入力しました。親には後で言おうと思ってたら,数日後には旅行が取りやめになったんで,結局話しませんでした。旅館には直接キャンセルの電話をかけて,「わかりました,大丈夫です」って言われてたんですが,GWの夜に旅館から「まだ来ないのか」って電話がきて,僕が「え?前に電話でキャンセルしましたよ」って言っても,「そんな連絡は来てない。ネット予約はキャンセルもネットですることになっている。無断キャンセルのお金を払え」って言われました。納得できないでいたら,最近,5万円払えって手紙が届いたんですけど,どうすればいいですか?

 

 

 ちゃんとキャンセルしたはずなのに,お金を請求されて,びっくりしましたよね。


 「キャンセルもネットですることになっている」,と旅館が言っているのですね。

 でも,たとえそういうルールがあったとしても,

 あなたの話のとおり,電話で連絡して旅館の人が「わかりました,大丈夫です」と答えたのなら,

 キャンセルはきちんとできています
【★1】


 問題は,

 あなたと旅館の人との,その電話のやりとりを,

 あなたが証明しなければいけない,ということです
【★2】



 電話の履歴が残っていたり,

 旅館の人の名前を覚えていたりしていればプラスではあるものの,

 「その時に電話でその人と話をした」ということの証明まではできても,

 「キャンセルの話をした」ことまでの証明は,難しいかもしれません。




 旅館の予約も,そのキャンセルも,どちらも法律的なことがらです。


 法律的なこと,お金がからむ話のときには,

 いつも,手紙やメールなどでやりとりが残るようにして,

 あとでトラブルになったときに証明できるようにあらかじめ備えておくことが,だいじなのです
【★3】




 では,キャンセルの電話をしたことを証明できなければ,

 お金を払わないといけないのでしょうか。



 あなたの場合,

 キャンセルの電話をしたことを証明できなくても,

 未成年だという理由で,お金を払わずに済むことができます。





 未成年の子どもが,法律的な約束をするときには,

 親のOKが必要です
【★4】

 そのOKのことを,「同意(どうい)」と言います。




 あなたは,親には後で言うつもりだったのですよね。



 なので,「親のOKのないまま,旅館の予約をしていた」という理由で,

 予約そのものを取り消して,初めからなかったことにすることができます
【★5】【★6】

 そうすれば,キャンセル料を払う必要はありません。




 あなたが「自分は成人だ」とウソをついていたら,取り消すことはできません
【★7】

 でも,あなたが予約したサイトには,生年月日や年齢を入力するところがなかったのですから,

 ウソをついてはいないので,予約を取り消すことができます。





 キャンセルの連絡をきちんとしていたこと,

 そうでなくても,未成年の自分が親のOKなしにした予約だったので,取り消すこと,

 それらを手紙に書いて,旅館に送ってください
【★8】


 そして,その手紙のコピーも,忘れずに持っていてください。


 手紙は,あなた自身で書くのでも,あなたの親が書くのでも,どちらでもOKです【★9】

 書き方がわからなければ,弁護士に相談してください。






 経済や法律のしくみには,難しいことがたくさんあります。



 だから,そのしくみを学んでいる子どものときには,

 おかしな約束を押しつけられたり,手順を失敗したりして,困ったことにならないよう,

 親が子どもを守ることになっています。




 今回も,5万円という大きなお金がからむ法律の話だったのに,

 「キャンセルするときにやりとりを残す」という手順を,ふんでいなかったのですよね。



 大人だったら,お金を払わないといけなくなるところでした。


 子どもは,そういう手順を学ぶだいじな時期にあるからこそ,

 法律は「親からOKをもらわなければいけない」としていますし,

 親のOKをもらわないまま手順を失敗した子どもも,守られているのです。




 「キャンセル料が払われないのは,旅館にとって厳しいんじゃないか」,と思う人もいるかもしれません。

 でも,私はそう思いません。

 予約サイトに,お客さんの生年月日や年齢を入力してもらい,

 未成年であれば親にも確認する,というしくみにすれば済むことです。

 それは,子どもと比べて経済や法律を知っているべき業者にとっては,難しいことではありません。




 あなたは今高校3年生ということでしたね。

 高校3年生には,17歳の人もいれば,18歳以上の人もいます。

 今,成人年齢を20歳から18歳に引き下げる法律の改正が議論されています。

 法改正後は,もし18歳になっていたなら,

 今回のようなケースでは,未成年を理由に取り消せなくなります。




 インターネットでは,今回のケースのようなトラブルだけでなく,

 例えば,とても高いキャンセル料が一方的に決められていて,そのことが小さい字でしか説明されていなかったり
【★10】

 アダルトサイトなどで,その気がないのにいつの間にか何かを申し込んだことにされて,お金を請求されたりなど
【★11】

 子どもたちが経済や法律を知らないことにつけ込んだ悪質な業者による被害のトラブルが,たくさんあります。

 法律が改正されたら,18歳・19歳の人たちの被害が増えてしまうのではないかと,私たち弁護士は心配しています
【★12】



 成人するまでの今のだいじな時期に,

 親に守られながら,経済や法律のしくみを学んでいってください。


 そして,子どものときはもちろん,大人になってからも,

 法律のことやお金のことで困ったら,

 大きなトラブルになる前に,早めに弁護士に相談するようにしてください。

 

 

【★1】 電話で宿泊する契約をナシにすることをあなたがお願いし(法律の言葉で「申込(もうしこみ)」といいます),それを旅館がOKしたのですから(「承諾(しょうだく)」といいます),合意解除(ごういかいじょ)が成り立っています。旅館が承諾したのなら,申込がネットだったのか電話だったのかにかかわらず,合意解除は成立しています。
【★2】 証明責任(しょうめいせきにん)と言います。「証明責任とは,法令適用の前提として必要な事実について,訴訟上(そしょうじょう)真偽(しんぎ)不明の状態が生じたときに,その法令適用にもとづく法律効果が発生しないとされる当事者の負担をいう」(伊藤眞「民事訴訟法第4版補訂版」356頁)
【★3】 ただし,トラブルになったあとは,メールでやりとりするのは,かえってトラブルが大きくなることになるので,避けたほうがよいです。「既読スルーしてケンカになった」の記事も読んでみてください。
【★4】 民法5条1項 「未成年者が法律行為(こうい)をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
【★5】 民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★6】 民法121条 「取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす」
【★7】 民法21条 「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術(さじゅつ)を用(もち)いたときは,その行為を取り消すことができない。」
【★8】 旅館が「受け取っていない」と言わないように,書留や特定郵便(受取のサインはありませんが,相手のポストに入れたことは郵便局が記録してくれます)など,受け取ったことが証明できる手紙で送りましょう。内容証明郵便であれば「手紙は受け取ったけれど中身がちがっている」と言われることも防げますが,書式にルールがありますし,費用もかかります。
【★9】 民法120条1項 「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,制限行為能力者又はその代理人,承継人若(も)しくは同意をすることができる者に限り,取り消すことができる」
【★10】 社会の中での一般的なキャンセル料と比べて高いなら,消費者契約法という法律で,そのキャンセル料のルールが無効だと主張できます。
 消費者契約法9条 「次の各号に掲げる消費者契約の条項は,当該各号に定める部分について,無効とする。 一 当該消費者契約の解除に伴(ともな)う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分」
【★11】 いわゆる「ワンクリック詐欺」を防ぐために,ネットでは,本人が間違いなく契約することを確認できるように画面表示していなければ,「その気がなかったのにうっかり入力してしまっていた」という理由(錯誤(さくご)と言います)で,無効にすることができます。民法では,「うっかり」の度合いがひどければ無効にすることはできない,と決まっているのですが,ネットの契約では,たとえ「うっかり」の度合いがひどくても,業者の側がきちんと確認の表示をしていなければ,無効にできる特別な法律が作られています。
 電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律3条 「民法第95条ただし書の規定は,消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について,その電子消費者契約の要素に錯誤(さくご)があった場合であって,当該錯誤が次のいずれかに該当するときは,適用しない。ただし,当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が,当該申込み又はその承諾の意思表示に際して,電磁的方法によりその映像面を介して,その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置(そち)を講(こう)じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は,この限りでない。
 一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
 二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。」
 民法95条 「意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自(みずか)らその無効を主張することができない」
【★12】 日本弁護士連合会2017年2月16日「民法の成年年齢引下げに伴う消費者被害に関する意見書」https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2017/opinion_170216_06.pdf 

 

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