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2018年1月 1日 (月)

誕生日が4月1日だと学年が早生まれなのはなぜ?

 

 

 僕は4月1日生まれなんですが,どうして学校では「早生まれ」で1月~3月生まれの人と同じ学年になるんですか? 姉は10月23日生まれで,この前の10月22日の選挙のときにはまだ17歳で18歳じゃなかったのに,投票のハガキが届いたんですが,誕生日って法律で一体どうなってるんですか?

 

 

 

 学校の年度は4月1日から3月31日までなのに【★1】

 4月1日生まれの人は「早生まれ」で一つ上の学年になり,

 4月2日以降に生まれた人と学年がちがう,というのは,なんだかおかしな感じがしますね。




 年齢の数え方は,法律で決まっています
【★2】

 みなさんが考えるとおり,誕生日の午前0時に1つ,歳を取ります。




 むかしは,今とちがう「数え年」という数え方をしていました。

 数え年は,生まれた時が1歳で,その後正月が来るたびに1つ歳をとります。

 今でも,七五三や厄年(やくどし),高齢の方のお祝いなど,

 むかしながらの習慣には数え年が使われることが多いです。


 「数え年」ではなく,今の年齢の数え方の法律は,116年前の1902年(明治35年)に作られていたのですが,

 その後も多くの人たちが数え年を使い続けるので,社会が混乱していました。

 日本が大きな戦争に負けた後の1949年(昭和24年),「数え年を使うのはやめましょう」という内容の法律が,わざわざ作られたほどでした
【★3】



 民法という法律では,

 1年という期間を計算するとき,

 最初の日をカウントしないで,その次の日を1日目としてカウントする,

 というのが基本ルールになっています
【★4】


 でも,その基本ルールをそのまま年齢の数え方にあてはめてしまうと,

 たとえば,4月1日に生まれた赤ちゃんは,

 翌日の4月2日から1年のカウントを始めますから,

 1年の最後の日の4月1日が終わるまで(夜12時になる直前まで)まだ0歳のままで,

 4月2日午前0時にやっと1歳になる,という,おかしなことになってしまいます
【★5】


 なので,年齢の数え方の法律では,

 「基本ルールとはちがって,最初の日を1日目としてカウントする」,としています
【★2】

 4月1日に生まれた赤ちゃんは,

 1年後の3月31日が終わるまで(夜12時になる直前まで)まだ0歳のままで,

 4月1日午前0時に1歳になります。

 私たちの感覚と合いますね。




 今までずっと,「誕生日の午前0時に1つ歳をとる」,という書き方をしてきました。

 それは事実としてはまちがっていないのですが,

 でも,
法律的には,「誕生日の前日が終わる夜12時に」1つ歳をとるというのが,正確な言い方です

 「誕生日の午前0時」と「誕生日の前日の夜12時」は同じ時間のことなのですが,

 法律は,1年間が終わったとき,つまり「誕生日の前日の夜12時」に1つ歳をとる,という考え方をします
【★6】【★7】



 そのことが,4月1日生まれのあなたの学年に関係しています。




 学校教育法という法律では,

 「満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年」から小学校に通う,としています
【★8】

 ちょっとわかりづらい表現ですね。


 たとえば,2000年5月に生まれた人なら,

 2006年5月に6歳になるので,

 それ以後の最初の学年,つまり,2007年4月から小学校に通います。


 いわゆる「早生まれ」の人,たとえば,2000年3月に生まれた人なら,

 2006年3月に6歳になるので,

 それ以後の最初の学年である,2006年4月から小学校に通います。




 では,2000年4月1日生まれの人はどうでしょうか。




 「満6歳に達した日」というのは,誕生日の4月1日のことではありません。

 さっき書いたように,「誕生日の前日の夜12時」に歳をとるので,

 
2006年3月31日が,「満6歳に達した日」なのです【★9】

 3月31日は,午前0時から夜12時の直前まではまだ5歳ですが,

 その日の夜12時に6歳に「達した」,だから3月31日が「満6歳に達した日」,というわけです。


 そして,
その翌日である4月1日以後の最初の学年から小学校に通うことになりますが,

 「以後」というのは,その日自体も含みますから,

 ちょうど2006年4月1日に新しく始まるその学年が,その人にとって「最初の学年」になります。


 なので,2006年4月1日から小学校に通うことになり,1~3月生まれの学年と同じ「早生まれ」の扱いになるのです【★10】【★11】



 でも,やっぱりおかしな感じがしますね。



 「満6歳に達した日の翌日」ではなく,

 「満6歳に達した日の翌々日」(2日後),とすれば,

 4月1日生まれも4月2日以降の生まれの人と同じ学年になれるのに,

 どうして「翌日」なのでしょうか。




 学校に通う年齢がしっかりとルールで決められたのは,

 今から118年前,1900年(明治33年)のことでした。

 年齢の数え方の法律ができる2年前です。

 この時のルールでは,「満6歳に達した翌月」から学校に通う,とされました
【★12】



 「翌月」という言葉を入れたのは,子どもを守るためだった,と言われています。

 当時,村会議員や県会議員などが,自分の子どもに早くから学校の教育を受けさせようとして,

 6歳になっていない子どもの歳をごまかして入学させることが起きていました。

 なので,子どもたちがきちんと6歳になってから学校に通うようにするために,「翌月」という言葉を入れたのです
【★13】

 当時はまだ,年齢は,1日単位までは細かく考えずに,○歳○月くらいにおおざっぱにとらえていました
【★14】



 そして2年後,年齢の数え方の法律ができて,1日単位できちんと考えるようになったのに合わせて,

 1903年(明治36年),学校に入学する年齢のルールも,6歳に達した「翌月」から「翌日」に変わり
【★12】

 それが今に引き継がれてきました。


 とても有名な民法の学者の我妻榮は,1897年(明治30年)4月1日生まれでした。

 ちょうどこの新しいルールで早生まれとして小学校に入学することになった,と,自分の民法の本で書いています
【★15】



 しかし,「6歳になっていない子どもを入学させない,きちんと6歳になった子が学校に行けるようにする」,という理由からすれば,

 4月1日生まれの人を,どうしても早生まれの扱いにする必要までは,ないはずです。

 むしろ,学年を1年遅らせて,6歳をしっかり1年間過ごしてから学校に通い始めるほうが,りくつに合っています。

 実際,4月1日生まれが早生まれの扱いになってとまどう人が多いのですから,

 年度の始まりに揃(そろ)えて,4月1日生まれも4月2日以降の生まれと同じ学年になるように,法律を変えたほうが良いと,私は思います。




 それから,あなたのお姉さんは,18歳の誕生日が選挙の次の日だったのに,投票のハガキが届いたということでしたね。



 公職選挙法は,「年齢満18年以上の者」が選挙権をもつ,としています
【★16】

 素直に読めば,選挙当日,投票箱に投票用紙を入れる時点で18歳になっていなければダメのようにも思えます。

 お姉さんは,誕生日の前日,つまり,その選挙の日の,夜の12時に18歳になるのですから,

 夜12時より前に投票箱に投票用紙を入れる時点では,まだ17歳です。


 でも,選挙では,投票する時点よりも,「日にち」自体がとても大事にされています。

 なので,
その選挙の日が終わる夜12時に18歳になる人,つまり誕生日が翌日の人も選挙権を持つ,と解釈され

 実際の選挙でも,裁判所の判決でも,そうなっています
【★17】

 だから,あなたのお姉さんにも,投票のハガキが来たのです。





 法律は,人を年齢で区切ってルールを作っていることが,多くあります。

 そして,わずか1日のちがいが,年齢のちがいになり,

 人生そのものが大きく変わることもあります。

 あなたも,4月1日生まれだったからこそ,

 今の学年の友だちや先生と巡りあったのですよね。

 そう考えると,法律はとても不思議なものだと,改めて思います。

 

 

 

【★1】 学校教育法施行規則59条 「小学校の学年は,4月1日に始まり,翌年3月31日に終わる」
 同79条 「…第54条から第68条までの規定は,中学校に準用する。…」
【★2】 年齢計算に関する法律。わずか3項の法律です。
「1 年齢ハ出生ノ日ヨリ之(これ)ヲ起算ス
 2 民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス
 3 明治六年第三十六号布告ハ之ヲ廃止ス」
【★3】 年齢のとなえ方に関する法律。わずか2項の法律です。
「1 この法律施行の日以後,国民は,年齢を数え年によって言い表わす従来(じゅうらい)のならわしを改めて,年齢計算に関する法律の規定により算定した年数(1年に達しないときは,月数)によってこれを言い表わすのを常とするように心がけなければならない。
 2 この法律施行の日以後,国又は地方公共団体の機関が年齢を言い表わす場合においては,当該機関は,前項に規定する年数又は月数によってこれを言い表わさなければならない。但(ただ)し,特にやむを得ない事由により数え年によって年齢を言い表わす場合においては,特にその旨(むね)を明示しなければならない。」
【★4】 初日不算入の原則と言います。ただし,初日が午前0時からスタートするときは,初日からカウントします。
 民法140条 「日,週,月又は年によって期間を定めたときは,期間の初日は,算入しない。ただし,その期間が午前零(れい)時から始まるときは,この限りでない。」
【★5】 「年齢計算に関する例外については,出生した日にたとえ短時間でも生命を有したのであるから,これを本条(注:140条,初日不算入の規定)のように切り棄(す)てるのは適当でないという考えに基づく」(「我妻・有泉コンメンタール民法-総則・物権・債権-第4版」292頁)
【★6】 民法141条 「前条の場合には,期間は,その末日(まつじつ)の終了をもって満了する」
 「例えば,7月15日から10日間という場合,7月15日の午前0時から起算する場合は7月24日,それ以外の場合は7月25日の夜中の12時に終了する」(内田貴「民法Ⅰ」256頁)
【★7】 4年に1度のうるう年の2月29日に生まれた人の場合,平年は民法143条2項但書により,2月28日が1年間の満了日なので,3月1日に1つ歳を取ります。うるう年のときは2月29日に1つ歳を取ります。
 民法143条1項 「週,月又は年によって期間を定めたときは,その期間は,暦に従って計算する」
 同条2項 「週,月又は年の初めから期間を起算しないときは,その期間は,最後の週,月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし,月又は年によって期間を定めた場合において,最後の月に応当する日がないときは,その月の末日に満了する」
 「年齢計算の場合には初日を算入するので,閏(うるう)年の2月29日に生まれた者は,その日が起算日となり,平年である翌年の2月28日が本条ただし書による1年の満期日で,それが満了した時,すなわち3月1日に1歳になる(20歳になる年は当然閏年であるので,2月28日の満了日,すなわち2月29日に20歳になる)。」(「我妻・有泉コンメンタール民法-総則・物権・債権-第4版」295頁)
【★8】 学校教育法17条1項 「保護者は,子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満12歳に達した日の属する学年の終わりまで,これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。…」
【★9】 東京高裁昭和53年1月30日判決(判例タイムズ369号193頁) 「明治45年4月1日生れの者が満60才に達するのは,右の出生日を起算日とし,60年目のこれに応当する日の前日の終了時点である昭和47年3月31日午後12時であるところ(年令計算に関する法律・民法第143条第2項),日を単位とする計算の場合には,右単位の始点から終了点までを1日と数えるべきであるから,右終了時点を含む昭和47年3月31日が右の者の満60才に達する日と解することができる」
【★10】 「4月1日生まれの者の就学年度について」(昭和26年2月5日 島根県教育委員会教育長あて 文部省地方連絡課長回答)
 「照会 学校教育法第22条(現行法17条)に『…子女が満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初から…云々(うんぬん)』と保護者がその子女を就学させる義務を負うていますが,この満年齢の算定について4月1日生れの者は翌年3月31日をもって満1か年に達したと解すべきか,あるいは4月1日をもって満に達したと解すべきか,右の見解いかんによって4月1日生れの子女の就学年度が異なることになりますので御教示(ごきょうじ)いただきたい。」
 「回答 御照会の年齢計算については,年齢計算ニ関スル法律により出生の日より起算して翌年の出生の前日までをもって満1年とすることになっております。すなわち4月1日生れの者は翌年3月31日をもって満1歳になるわけであります」
【★11】 文部科学省ウェブサイト「4月1日生まれの児童生徒の学年について」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shugaku/detail/1309966.htm
【★12】 「今日の就学の始期として厳密にされるのは,1900(明治33)年の第三次小学校令,1941(昭和16)年の国民学校令を経過してからである。明治33年の第三次小学校令は『児童満六歳ニ達シタル翌月ヨリ満十四歳ニ至ル八箇年ヲ以テ学齢トス』とされた。1903(明治36)年3月,年齢計算が年月日に改正されて『月』が『日』になる。」(近藤幹生「明治20・30年代における就学年齢の根拠に関する研究-三島通良の所論をめぐって-」16頁)
【★13】 「第三次小学校令では,『児童満六歳に達したる翌月より,十四歳に至る八ヵ年をもって学齢とす』とされた。就学年齢6歳がより厳密化された。この経緯について,三島は以下のように説明している。『此(こ)の翌月ということは余程意味のあることでござります。満六歳以上というものを就学させるのでござりますから,六歳に達した月ではいけませぬ。児童を保護するためにやったのであります。』『此れまでは,学齢未満の者を小学校に入れるということが沢山あります。種々の名を付けて,父兄が入れたがるのです。それですから,まあ教員もそれを入れるというので,甚(はなは)だしきは,学籍簿を調べると,年齢に合うているけれども,学校に行って,直に子供を捉へ(え)て,お前幾(いく)つだというと,五つですなどというのがござります。誤魔化(ごまか)してやって居(お)ったのでござります。』『どういうものの子かといえば,村会議員でござるとか,県会議員でござるとかいう者の子供です。なかなかこう言う人達が幅が利くから学齢未満の児を無理に就学させるのです』『今度は,一切知事がやるので,教員もこれからの人たちの前でブルブルしなくてよろしい』だから今後は,6歳未満で就学することを厳禁せねばならないと,主張しているのである。」(近藤幹生「明治20・30年代における就学年齢の根拠に関する研究-三島通良の所論をめぐって-」80頁)
【★14】 【★2】の年齢計算に関する法律の3項で廃止された「明治6年第36号布告」
 「自今年齢ヲ計算候儀幾歳幾月ト可相数事 但舊(旧)暦中ノ儀ハ一干支ヲ以テ一年トシ其生年ノ月数ハ本年ノ月数ト通算シ一二ケ月ヲ以テ一年ト可致事」
【★15】 「私は,戸籍簿によると,明治30年4月1日生まれである。『早生まれ』か,『遅生まれ』か。」「(仮に,午前6時に生まれたとすると,)もちろん,明治36年4月1日午前6時に満6歳に達する,といえば,正確であろうが,それでは厄介(やっかい)だから,日を単位にして計算する。そうすると,私が18時間しかこの世に存在しなかった明治30年4月1日というハンパな日は,これを繰り上げて1日とするか,切りすてて0とするか。民法の原則によると,切りすてられる(139条・140条)。だから,私は,明治36年の4月1日の夜の12時に漸(ようや)く満6歳に達することになり,翌37年の4月1日でないと,小学校に入れない。」「ところが,私の入学が問題になる前年,明治35年12月に,『年齢計算ニ関スル法律』というものが施行され,『年齢ハ出生ノ日ヨリ起算ス』ということになった。ハンパな日も繰り上げて1日とされたわけである。おかげで,私は満6歳に物理的?には6時間不足しながら,明治36年4月1日に1年生となった。クラスに私より年の少ない者はいなかった。4月2日生まれの者の入学は1年遅れるからである」(我妻榮著・幾代通・川井健補訂「民法案内 2民法総則 第2版」314頁)
【★16】 公職選挙法9条1項 「日本国民で年齢満18年以上の者は,衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有(ゆう)する」
 同条2項 「日本国民たる年齢満18年以上の者で引き続き3箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は,その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する」
【★17】 大阪高裁昭和54年11月22日判決(判例タイムズ407号118頁)※選挙権が20歳以上だった時代の判例 「地方自治法18条,公職選挙法9条2項によれば,日本国民たる『年令満20年以上の者』で引続き3箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は,その属する地方公共団体の議会の議員の選挙権を有するものとされ,年令の計算については,年令計算に関する法律により,出生の日から起算し,民法143条を準用するものとされている。したがって,一般的には満20年の始期については出生の日を1日として計算し,終期は20年後の出生の日に応当する日の前日の終了(正確には午后(ごご)12時の満了)をいうのであるが,被選挙権に関する公職選挙法10条2項において,年令は選挙の『期日』により算定すると規定されており,この被選挙権に関する規定は選挙権についても類推適用されると解すべきであり,また特例政令3条によれば,『選挙人の年令については選挙の期日現在により』算定する旨定められている。これらの規定の趣旨によれば,選挙権に関する公職選挙法9条2項にいう『満20年以上』というのは…満20年に達する日が終了したことを要せず,満20年に達する日を含むと解すべく,また別の見方をすれば,前示公職選挙法9条2項の『年令満20年以上』とは,選挙権取得の始期を定めるものであり,…満20年に達する日をもって選挙権取得の始期と定めた趣旨であるとみられるから,満20年に達する前示出生応当日の前日の午後12時を含む同日午前0時以降の全部が右選挙権取得の日に当るものと解することができる」

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