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2017年10月 1日 (日)

先生の指導を受けて死にたいほどつらい

 

 高校3年生です。定期テストでどうしても覚えきれない教科があったので,あせって昨日徹夜でカンニングペーパーを作り,それを試験中に見ていたのが先生に見つかってしまいました。試験終了後に先生たちから長時間の指導を受け,「まさかお前がこんなことをするとは思っていなかった」「カンニングした以上,今回のテストは全教科0点の扱いになる」「明日,親を学校に呼んで話をする」と厳しく言われ,今,絶望的な気持ちで,死んでしまいたいほどつらいです。

 

 

 絶対に,自殺はしないでください。

 そして,一人きりにならずに,

 すぐに誰かに,今のつらい気持ちを聞いてもらってください。




 今,あなたがまだ学校の中にいるなら,

 すぐに保健室に行って,養護の先生に話を聞いてもらってください。




 今,あなたが下校の途中なら,

 あなたが信頼できる大人のところに,すぐに行ってください。



 ほんとうは,自分の親に話を聞いてもらえるのが一番よいのですが,

 これから学校から連絡が入ってしまうから親には話しづらい,ということであれば,

 親以外の誰であってもかまいません。



 おじいちゃんやおばあちゃん,親戚のおじさんやおばさんのところでも,

 むかしお世話になった保育園・幼稚園,小学校,中学校の先生でも,

 塾や習い事の先生,地域の子ども会や自治会でお世話になった人でも,

 よく知っている近所のお知り合いの大人でもかまいません。




 もし,そういう大人がすぐに思い付かなければ,

 次のところに電話をかけてみてください(名乗らなくてもかまいません)。



 ●チャイルドライン(特定非営利活動法人チャイルドライン支援センター)

 0120-99-7777(フリーダイヤルです。通話料はかかりません)

 
http://www.childline.or.jp/


 ●いのちの電話(一般社団法人日本いのちの電話連盟)

 東京 03-3264-4343 (24時間つながります)

 東京以外の全国各地の電話番号は 
https://www.inochinodenwa.org/lifeline.php を見てください。


 私たち弁護士も,あなたの話に耳に傾けます。

 弁護士会の電話相談窓口は,地域によっては,弁護士とすぐに直接話をすることができます。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。





 今,死にたくなるほどつらい気持ちなのですよね。


 自分が悪いことしたからこうなってしまった,という後悔や恥ずかしさ,

 これから自分の人生がどうなってしまうのか,という不安や恐怖や絶望感,

 親に迷惑をかけてしまう,という罪悪感,

 先生が言うことへの,戸惑(とまど)いや怒り,

 いろんな思いで,とても混乱していると思います。

 徹夜で寝不足の状態であればなおのこと,落ち着いて考えるのは難しいですよね。




 でも,自殺で自分の命を失うことは,決してしないでください。

 そのような事件で実際に子どもが亡くなってしまった裁判を担当してきた私からの,心からのお願いです
【★1】




 学校の先生の指導が原因で,子どもが自殺で亡くなってしまうことが,

 これまでもたくさん繰り返されてきました
【★2】【★3】



 しかし,私たちの社会は,子どもの自殺に正面から向き合ってきませんでした。


 まちがったことをした子どもを先生が指導した,という場面だと,

 そこに体罰という暴力があれば,大きな問題になりますが,

 体罰がない指導では,子どもが亡くなっても,問題にされることが少なかったのです。




 そのような中,子どもを亡くした家族の皆さんが,

 「先生の指導が原因で子どもが亡くなるのはおかしい」,

 「真実を知りたい」,

 「同じような不幸な事件が二度と起きてほしくない」,

 そういう強い思いで,学校側と裁判で戦ってきました
【★4】



 学校側は裁判で,

 「まちがったことをした子どもに対する,適切な指導だった」

 「まさか自殺するとは思えなかったから,防ぎようがなかった」

 「自殺の原因は,子ども本人や家庭にある」

と反論し,

 「自分たちに責任はない」などと弁解します。




 自殺の事件の裁判で遺族側が勝つには,とても高いハードルがありますし,

 仮に裁判に勝ったとしても,亡くなった人の命は返ってきません。




 そういう事件の裁判を担当してきた私は,

 これ以上,先生の指導が原因で子どもたちが死んでしまうことがないようにしたいと,強く思っています。




 学校は,これからの人生を幸せに送ることができるようにするために,いろいろなことを学ぶ場所です。

 そのはずの学校で,人生そのものが奪われてしまうことは,絶対にあってはならないのです。




 もちろん,子どもが何かまちがったことをしてしまった時,

 その子がきちんとした大人になれるように,

 先生がその子を指導するのは,当たり前のことです。



 でも,その子が大人になっていくどころか,

 逆に,命を失い,人生が終わってしまうような「指導」,

 それほどまでに子どもを追い詰めるような「指導」は,

 ほんとうの指導ではありません。



 「あなたは大切な存在なんだよ」,

 「あなたのことを心配しているんだよ」,

 そういうメッセージが子どもに伝わらなければ,ほんとうの指導ではないのです
【★5】【★6】



 そして,多くの事件が,

 指導の最中や,指導の直後,子どもが一人ぼっちになった時に起きています
【★7】

 だから,指導を受けて気持ちが混乱しているその子を,

 先生がきちんと見守り,一人ぼっちにさせないことが,ほんらい,必要なのです
【★8】



 でも,あなたは,

 先生たちから「大切な存在だよ」「心配しているよ」というメッセージもなく,

 ただ追い詰められて,

 一人で苦しんでいるのですね。




 今,死にたくなるほどつらい思いをしているあなたも,とても大切な存在です
【★9】

 たとえ,まちがったことをしてしまったとしても,

 あなたが大切な存在であることは,まったく変わりありません。



 そして,あなたは一人ぼっちではありません。

 あなたの声に耳に傾け,寄り添う大人が,必ずいます。

 決して一人で思い詰めずに,

 すぐに誰かに,今のつらい気持ちを聞いてもらってください。





 同じようなケースで子どもを亡くした家族の皆さんは,今から10年前,

 先生の指導が原因で子どもが自殺で亡くなることを,「指導死」と名付けました
【★10】

 そして,

 指導死が子どもの側の問題ではなく大人の側の問題だ,ということと,

 指導死をなくしていくためにみんなで取り組む必要がある,ということを
【★11】

 ずっと社会に訴え続けています。


 そういう家族の皆さんの切実な思いが,

 今まさに死にたいほどつらいあなたに届くようにと,心から願っています。

 

 

 

【★1】 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」(高文研)には,先生による指導が原因で亡くなった7人の子どもたちの具体的なエピソードが掲載されています。このうち,「カンニングを疑われ長時間の事情聴取(埼玉県・高校)」(120頁)のケースと,「カンニングが発覚した指導の途中で(埼玉県・高校)」のケースの裁判を,私が担当していました。
【★2】 「私が1952年から2013年までの新聞や書籍等から指導死に該当するものを拾ったところ,68件にも上りました(5件の未遂を含む)。」(武田さち子「二度と『指導死』を起こさないために-事例から学ぶ」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」184頁)
 同書の巻末に,指導死の事件の一覧表が掲載されています。
【★3】 2014年以降も,警察庁の統計では,「教師との人間関係」で自殺した子ども(中学生・高校生)が,2014年(平成26年)に4人,2015年(平成27年)に2人,2016年(平成28年)に2人いました。
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H26/H26_jisatunojoukyou_02-2.pdf
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H27/H27_jisatunojoukyou_02.pdf
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H28/H28_jisatunojokyou_02.pdf
【★4】 裁判は,学校を設置している都道府県や市区町村,私立であれば学校法人を相手にするものが多いですが,「日本スポーツ振興センター」を相手にした裁判もあります。
 学校生活の中で病気や事故にあった場合に備えて,学校や家庭が,日本スポーツ振興センターの「災害共済」という保険に入っていることがふつうです。子どもが亡くなったときには,家族に「死亡見舞金」というお金が支払われますが,それだけでなく,事故の背景・原因を分析して,そのような痛ましい事故が学校で起きないように活かされています。いじめや先生の指導などが原因で自殺で亡くなった場合にはこの死亡見舞金が支払われていますが,高校生には支払われないというおかしなルールになっています。そのおかしなルールがあることも,学校現場が指導死にきちんと向き合わないことに繋がっています(なお,最近では日本スポーツ振興センターが運用を変えて高校生の指導死にも支給されたケースがあります)。
【★5】 「生徒指導とは,一人一人の児童生徒の人格を尊重し,個性の伸長を図りながら,社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のことです」(文部科学省「生徒指導提要」1頁)
【★6】 「もし,教師が子どもに対して,『君のことが大切だ』『あなたのことが心配なんだ』というメッセージを常に届けることができていたら,強く叱った際にも,この言葉をきちんと伝えていたら,子どもは死なずにすんだかもしれません。あるいは,子どもの言葉や気持ちをきちんと受け止めて,子ども自身が『先生は自分の気持ちを理解してくれている』『話せばわかってもらえる』と信じることができていたら,死なずにすんだと思います」(武田さち子「二度と『指導死』を起こさないために-事例から学ぶ」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」203頁)
【★7】 「原因となる出来事,あるいは指導から自殺までの間が極端に短いのが,指導死の特徴です。指導と自殺との時間的経過が不明の7事例を除く61件中,指導直前3件,指導中4件,直後9件,帰宅中あるいは帰宅後14件と,計30件,約半数がその日のうちに自殺しています」(武田さち子「二度と『指導死』を起こさないために-事例から学ぶ」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」190頁)
【★8】 「問題行動が見つかったり,叱られた児童生徒は強いショックを受けることがあります。…安全への配慮から,『指導中に一人にしない』『目を離さない』ことは,生徒指導の基本です。帰宅させる際にも,ケアにつながる言葉がけをしてください。落ち込み度合いによっては,保護者に引き渡すまで一緒にいる,保護者に対してもあまり強く叱らないよう要請するなど,フォローすることが必要です」(武田さち子「二度と『指導死』を起こさないために-事例から学ぶ」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」202頁)
【★9】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★10】 「生徒指導をきっかけとした子どもの自殺『指導死』の定義
 1 一般に『指導』と考えられている教員の行為により,子どもが精神的あるいは肉体的に追い詰められ,自殺すること。
 2 指導方法として妥当性(だとうせい)を欠くと思われるものでも,学校で一般的に行われる行為であれば『指導』と捉(とら)える(些細(ささい)な行為による停学,連帯責任,長時間の事情聴取・事実確認など)。
 3 自殺の原因が『指導そのもの』や『指導をきっかけとした』と想定できるもの(指導から自殺までの時間が短い場合や,他の要因を見いだすことがきわめて困難なもの)。
 4 暴力を用いた『指導』が日本では少なくない。本来『暴行・傷害』と考えるべきだが,これによる自殺を広義の『指導死』と捉える場合もある。」
(大貫隆志「はじめに-指導死とは」 大貫隆志編著「指導死 追い詰められ,死を選んだ7人の子どもたち」4頁)
【★11】 2006年(平成18年)に制定された自殺対策基本法も,「自殺が個人的な問題としてのみ捉えられるべきものではなく,その背景に様々な社会的な要因がある」として,自殺対策が社会的な取組として実施されなければならないとしています(2条2項)。

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