特別養子縁組って何?
両親と自分に血のつながりがないことは,小学生の低学年くらいの時から親が時々話していたので知ってはいたけど,くわしいことまではわかってませんでした。最近,両親と私は「特別養子縁組」をしてると聞いたんですが,「特別養子縁組」ってどういうことですか?
特別養子縁組は,育てられる子どものことを一番に考えた,養子縁組のしくみです。
特別養子縁組をすると,育てる親と,育てられる子どもは,
実(じつ)の親子とまったく変わらない,法律上の親子になります。
もとの親,血のつながっているほうの親とは,法律上は他人になります。
子どものためにしっかりした新しい家族ができる,まさに「特別」な養子縁組です。
養子縁組というしくみは,民法という法律ができた明治時代からありました。
でも,むかしは,「子どものため」のしくみではありませんでした。
跡取り(あととり)がいない家を継(つ)いでもらうためのもの,「家のため」のしくみでした【★1】【★2】。
その後,日本が大きな戦争に負け,社会が大きく変わりました。
そのとき,養子縁組のしくみは,「子どものため」に,少しだけ前に進みました。
未成年の子どもと養子縁組をするときは,その子にとってマイナスでないかどうかを,裁判所がきちんとチェックする,ということになりました【★3】【★4】。
でも,むかしの「家のため」のしくみというイメージも残ったままで,
家を継ぐために大人どうしで養子縁組をすることも,あいかわらず多くありました。
特に,男性が女性と結婚するときに,その女性の親と養子縁組をする「婿(むこ)養子」が,多くありました【★5】。
ほかにも,
相続にかかる税金を安くするためだったり【★6】,
今はまだ日本で結婚できない同性カップルが,法律上の家族になるためだったりと【★7】,
養子縁組は,いろんな目的で使われていて,
必ずしも「子どものため」のしくみというわけではありませんでした【★8】。
このむかしからある養子縁組のことを,この記事では,
「特別養子縁組」と区別して,
「ふつうの養子縁組」と言うことにしましょう。
ふつうの養子縁組は,
縁組をした先の親が,子どもを育てる「親権者」になりますが【★9】,
もとの親,血のつながった親とも,法律上は親子のままです【★10】。
戸籍(こせき)という,家族の情報を役所が管理しているものには,
縁組をした先の親(養親)の名前だけでなく,
縁組をする前のもとの親(実親)の名前も,はっきり書かれています。
結婚したあと,離婚することができるのと同じように,
ふつうの養子縁組も,やめることができます【★11】。
養子縁組をやめることを,「離縁(りえん)」と言います。
「親子の縁を切る」「戸籍から抜く」と言われた,の記事にも書いたように,
実の親子だったら,親子の関係をやめることは,できません。
ところが,ふつうの養子縁組だったら,離縁をして親子の関係をやめ,他人どうしにもどることができてしまいます。
養子縁組をしても,
もとの親と法律上つながったままだったり,
縁組をやめることができたりするのは,
育てられる子どものがわから見ると,育ててくれる親とのあいだでしっかりした関係にまでならない,不安定さが残るものでした。
1959年(昭和34年)ころ,
「もっと子どものための養子縁組のしくみを作るべきではないか」,という議論もあったのですが,
新しいしくみは,なかなか作られませんでした【★12】。
そうしたところ,1973年(昭和48年)に,ある大きな事件が起きました【★13】【★14】。
妊娠したけれど,いろんな理由で,子どもを育てることができない。
だから,子どもを産まずに,中絶したい。
そう考える女性に,命の大切さを話し,中絶を思いとどまるよう説得していた,ある産婦人科のお医者さんがいました。
他方で,「子どもをもうけたくてもなかなか授(さず)からないので,子どもを引き取って自分の子どもとして育てたい」,と考える夫婦もいました。
なので,そのお医者さんは,生まれてきた子どもを,引き取って育ててくれる夫婦に,バトンタッチしていました。
その時に,お医者さんは,「その夫婦の妻が産んだ子どもです」という,ウソの出生証明書を作っていたのです。
命を守るという善意からしていたこととはいえ,
そのお医者さんがウソの証明書を作ることは,犯罪でした。
それに,ふつうの養子縁組でも,未成年の子どもの縁組のときは,その子にとってマイナスでないかどうかを裁判所がきちんとチェックするのに,
ウソの届け出がされてしまったら,裁判所のチェックがないまま,子どもが引き取られてしまいます。
しかも,もとの親が誰だったのかも,書類からは,わからなくなってしまいます。
そこで,その事件をきっかけに議論がふたたび始まり,
1987年(昭和62年)に新しく作られたのが,特別養子縁組のしくみです。
特別養子縁組は,
いろんな事情で子どもを育てることができない親のもとから【★15】【★16】,
「自分たちの実の子どもと同じように育てたい」という夫婦に,子どもをバトンタッチするしくみです【★17~19】。
そのバトンタッチのあいだに入るのは,
児童相談所という,子どもを守るための役所が担当することもあれば【★20】,
子どものために動いている民間の団体がすることもあります【★21】。
ふつうの養子縁組は,子どもが未成年のとき,裁判所が「子どもにとってマイナスにならないかどうか」をチェックします,と書きました。
でも,特別養子縁組では,裁判所は,さらにもっとふみこんでチェックします。
「もとの親からこの夫婦にバトンタッチするのが,この子にとってプラスになる」。
裁判所がそう認めて,はじめて特別養子縁組が成り立ちます【★22】。
特別養子縁組は,
「養子縁組」という名前がついてはいますが,
法律上は,まるで実の親子のようになります。
そして,もとの親,血のつながっているほうの親とは,法律上は他人になります【★23】。
それが,ふつうの養子縁組との,大きなちがいです。
戸籍を見ても,
「養子」とは書かれていませんし,もとの親の名前も書かれていません。
一見しただけでは,育ての親の,実の子どものように書かれています。
そして,実の親子が,親子の関係をやめることができないのと同じように,
特別養子縁組は,ふつうの養子縁組のようにかんたんに離縁をすることはできません。
よっぽどの事情があるときで,裁判所がOKしたときにしか,特別養子縁組をやめることはできません【★24】。
子どものために,しっかりした新しい家族ができるためのしくみが,特別養子縁組です。
あなたは,小学生のときから,血のつながりのないことを,親から教えてもらっていたのですね。
子どもが成長するとき,
「自分がどんな人間なのか」ということを知るのは,とても大切なことです。
難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。
自分が特別養子縁組というしくみで今の親に育てられているということ,
それをきちんと教えてもらうのも,とてもだいじなことです【★25】【★26】。
そして,もとの親のことを知りたい,と思ったら,あなたの前の戸籍をさかのぼれば,知ることができます。
今,日本では約4万5000人の子どもたちが,親と暮らせず,
児童福祉のしくみの中で生活しています(「社会的養護」と言います)。
そしてそのうちの多くが,施設の中で暮らしています【★27】【★28】。
2016年(平成28年),「できるだけ施設よりも家庭的な暮らしが送れるようにしよう」と法律に書き加えられ【★29】,
児童相談所が養子縁組によりいっそう取り組むことになりました【★20】。
特別養子縁組は,これまで毎年300件くらい行われていたのが,
最近は400~500件くらいに,少しずつ増えています【★30】。
特別養子縁組がさらにもっと増えていくことが,期待されています。
実の親のもとで暮らすことができない子どもにも,
しっかりとした新しい家族があって,
その子どもと家族を,私たち社会全体で支えていくこと。
そういう特別養子縁組の大切な役割を,
もっと広くいろんな人たちに知ってもらいたいと,私は願っています。
【★1】 「明治民法における養子制度は,家の後継者を求めることに重要な役割があったといえます。家の制度は祖先から子孫につないでいくことが重要でありますから,家の後継者がいないことには家がつぶれることになり,致命的なことであります。そこで,養子を迎えて家を承継させること,つまり家を連続させていくことが,重視されたのであります。このように家の後継者を得るための親子関係,すなわち,養子制度が必要だったといえるのです。家のための養子制度ということであります」(米倉明,細川清編「民法等の改正と特別養子縁組制度」中川淳『親子法の理念と特別養子縁組制度』4頁)
【★2】 ただし,明治民法の養子制度でも,家督(かとく)相続以外に様々な目的の養子があった,という指摘もあります。
「容易に想像できるのは『家』の承継のための養子であるが,明治民法下で行われた養子は,家督相続のためのものばかりではなく,様々な目的の養子が存在した。分家をさせるためとか,婚姻につき女子の家格を引き上げるためとか,家族の労働力を補充するためとか,さらには芸妓にするための養子もあり,孤児を収養するためのものもあった。このように,極めて多様な目的のために養子が行われたということが日本の養子の特色といえる。その意味で,明治民法の養子制度には確固たる目的がなかったといえる」(内田貴「民法Ⅳ」248頁)
【★3】 民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者(はいぐうしゃ)の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限(かぎ)りでない」
この但書きは,例えば,おじいちゃんやおばあちゃんと養子縁組をするときや,離婚した親の再婚相手と養子縁組をするときには,家庭裁判所のチェックがいらない(役所に届け出るだけで養子縁組ができる)ということです。私は,この規定はおかしい,この場合でも家庭裁判所がチェックするべきだと思います。
「母親の再婚相手と養子縁組したくない」の記事も,あわせて読んでみてください。
【★4】 「戦後の民法改正で,未成年養子につき家庭裁判所の許可を要求する規定が入り,これによって,子のための養子法にも配慮を示したとはいえる。しかし,婚外子や孤児救済のための養子制度という観点から見れば,不徹底なものであった」(内田貴「民法Ⅳ」249頁)
【★5】 「1982年の法務省の調査によると…養子となる男女比率は男7割,女3割であり,とくに20代男性が結婚を機に配偶者の親と婿養子縁組を結んでいるケースが多い」(棚村政行「子どもと法」273頁)
【★6】 このような目的での養子縁組もただちに無効とはいえないと最高裁が判断しています。
最高裁第三小法廷平成29年1月31日判決(民集71巻1号48頁) 「養子縁組は,嫡出(ちゃくしゅつ)親子関係を創設するものであり。養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴(ともな)い,遺産に係る基礎控除(こうじょ)額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存(へいぞん)し得るものである。したがって,専(もっぱ)ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」
【★7】 「同性婚 だれもが自由に結婚する権利」(同性婚人権救済弁護団編,明石書店)136頁
【★8】 養子縁組の届出は,毎年8万件~9万件もありますが,そのうち,裁判所がチェックしているのは700件~1000件しかありません。しかも,この700件~1000件は,未成年の養子縁組のチェックだけではなく,後見人が被後見人を養子にする場合の許可(民法794条)も含んでいるので,未成年の養子縁組のチェックはこれよりも少ない数です。また,【★3】で書いたように,おじいちゃんやおばあちゃんと養子縁組をするときや,離婚した親の再婚相手と養子縁組をするときには,家庭裁判所のチェックがいらないので,この700件~1000件という数だけでは,結局,未成年の子どもの養子縁組がどのくらいの数で行われているのかがわかりません。それでもこの統計からは,ふつうの養子縁組が,「子どものため」以外のものが圧倒的に多いということ,家庭裁判所がチェックしているものがとても少ないということがわかります。
(養子縁組総数は法務省の戸籍統計(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001159203),養子をするについての許可の数は裁判所の司法統計(http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search))
養子縁組総数 家裁の許可
2006年(平成18年) 8万9597件 1007件
2007年(平成19年) 9万0145件 1045件
2008年(平成20年) 8万9116件 973件
2009年(平成21年) 8万5094件 964件
2010年(平成22年) 8万3228件 926件
2011年(平成23年) 8万1556件 790件
2012年(平成24年) 8万1383件 790件
2013年(平成25年) 8万3647件 749件
2014年(平成26年) 8万3611件 710件
2015年(平成27年) 8万2592件 728件
【★9】 民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服(ふく)する」
【★10】 法律上の親子関係が続くので,将来,親が年を重ねたとき子どもが親を養(やしな)う立場になりますし(これを扶養(ふよう)といいます),親子としてどちらかが亡(な)くなれば,財産を引き継ぐこと(相続)も起きます。例えば,養子は,養親が亡くなったときに養親の遺産を相続するだけでなく,もとの親が亡くなったときもそのもとの親の遺産を相続します。
【★11】 民法811条1項 「縁組の当事者は,その協議で,離縁をすることができる」
離縁の協議が整わない場合は,裁判で離縁をすることもできます。
民法814条1項 「縁組の当事者の一方は,次に掲(かか)げる場合に限り,離縁の訴えを提起することができる。
一 他の一方から悪意で遺棄(いき)されたとき
二 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
三 その他縁組を継続し難(がた)い重大な事由があるとき」
【★12】 「特別養子制度というものが,最初に立法課題となりましたのは,昭和34年6月の『仮決定・留保事項』と呼んでいるものにおいてであります。…これは,第一次・第二次世界大戦をとおして発展してきましたヨーロッパの養子制度の影響を受けたもの,それをかなり参考にしたものと思われます。…この時期には,特別養子制度の構想を積極的に推進するという機運は生じなかったように思います」(米倉明,細川清編「民法等の改正と特別養子縁組制度」中川淳『親子法の理念と特別養子縁組制度』10頁)
【★13】 一般的に,菊田医師事件と言われています。
「宮城県石巻市の産婦人科医師である菊田昇医師が,自分の経営する産院を訪れる堕胎(だたい)希望の女性に対して,生命がいかに尊いものであるかを説得し,堕胎を思いとどまらせる活動をしていた。…しかし,堕胎を思いとどまっても,生まれた子を母親が育てることはできない。そこで,誰か育ててくれる親を探す必要がある。養子はそのための制度でもあるが,『私生児』であることが周囲に知られると,その子はいろいろな局面で差別の目に曝(さら)されて生きなければならなくなる。反面,子を貰(もら)い受けて育てたいという親としては,実の子として育てたいという希望が強い。せっかく育てても養子だとわかると子の方から離れていくのではないかという危惧(きぐ)があったからである。そこで菊田医師は,子供を貰いたいという人に産まれた子を斡旋(あっせん)し,その親の嫡出子(ちゃくしゅつし)として出生届をするということを行なっていた。これは虚偽(きょぎ)の出生届であるし,その届書には医師の出生証明書が添付(てんぷ)されるが,菊田医師は虚偽の証明書を作成していたわけで,これは犯罪行為であった。このため,この事実が明るみに出たときその是非(ぜひ)をめぐり大きな論争になったのである」(内田貴「民法Ⅳ」250頁)
【★14】 菊田医師事件以前から,「藁(わら)の上の養子」といって,同じようなことが行われていました。裁判所は,そのようなケースで,「ウソの出生届では,養子縁組届の代わりにもならない」と判断しています。
最高裁第三小法廷昭和50年4月8日判決(民集29巻4号401頁) 「原審の適法に確定したところによれば,被上告人とその夫Aは,大正11年1月ころ訴外B・C夫婦間の子として出生した上告人を同年3月13日引き取って実子同様に養育し,Aから戸籍上の届出手続の依頼を受けた訴外某が同年9月22日上告人をA・被上告人間の嫡出子として出生届をして,それが受理されたというのである。所論は,右の場合には嫡出子出生届は養子縁組届として有効と解すべきであるというが,右届出当時施行の民法847条,775条によれば,養子縁組届は法定の届出によって効力を生ずるものであり,嫡出子出生届をもって養子縁組届とみなすことは許されないと解すべきである」
【★15】 民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著(いちじる)しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」
【★16】 特別養子縁組はもとの親がOKがなければできませんが,例外的に,もとの親のOKがなくてもできる場合もあります。
民法817条の6 「特別養子縁組の成立には,養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし,父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待,悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は,この限りでない」
【★17】 これまで,特別養子縁組の対象になる子どもの年齢は,基本的には6歳になる前,例外的に6歳になる前から引き続き養親候補に育てられているなら8歳になる前まで,とされていました。小学校に入る前までに決まっていることが望ましいからです。
しかし,小学生・中学生の子どもでも特別養子縁組ができることが必要だという社会の意識が高まりを受けて,この記事を書いた後に法律が改正されて,2020(令和2)年4月からは,基本的に15歳になる前,例外的に18歳になる前まで特別養子縁組が可能になりました。
改正後の民法817条の5第1項 「第817条の2に規定する請求のときに15歳に達している者は,養子となることができない。特別養子縁組が成立するまでに18歳に達した者についても,同様とする。」
同条2項 「前項前段の規定は,養子となる者が15歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合において,15歳に達するまでに第817条の2に規定する請求がなされなかったことについてやむを得ない事由があるときは,適用しない」
この改正法によって,18歳になる直前に特別養子縁組が成立した事案を山下が担当しました。
東京新聞2020年7月20日「民法改正で実現 18歳直前に特別養子縁組 『ぎりぎり間に合った』実親と縁切り『重荷減り前向きに』」
【★18】 ふつうの養子縁組は,養親が一人でもすることができます(ただし,結婚している人が,未成年を養子にする場合には,夫婦でいっしょに養親にならないといけません)。これに対して,特別養子縁組は,養親は必ず結婚している夫婦でなければなりません。
〔ふつうの養子縁組〕
民法795条 「配偶者のある者が未成年者を養子とするには,配偶者とともにしなければならない。…」
〔特別養子縁組〕
民法817条の3第1項 「養親となる者は,配偶者のある者でなければならない」
【★19】 ふつうの養子縁組は,養親が20歳以上であればよく,養子との歳の差がたった1日でもOKです。これに対して,特別養子縁組は,【★15】に書いたように子どもが15歳未満(例外的に18歳未満)であることだけでなく,養親は夫婦の片方が25歳以上でなければなりません。
〔ふつうの養子縁組〕
民法792条 「成年に達した者は,養子をすることができる」
民法793条 「尊属(そんぞく)又は年長者は,これを養子とすることができない」
〔特別養子縁組〕
民法817条の4 「25歳に達しない者は,養親となることができない。ただし,養親となる夫婦の一方が25歳に達していない場合においても,その者が20歳に達しているときは,この限りでない」
【★20】 これまでも児童相談所は特別養子縁組で子どもを新しい親にバトンタッチする業務をしてきていますが,2016年(平成28年)の児童福祉法改正で,その業務がはっきりと条文に書かれるようになりました。
平成28年改正児童福祉法11条1項 「都道府県は,この法律の施行に関し,次に掲げる業務を行わなければならない。 (略) ト 養子縁組により養子となる児童,その父母及び当該養子となる児童の里親となる者,養子縁組により養子となった児童,その養親となった者及び当該養子となった児童の父母(民法第817条の2第1項に規定する特別養子縁組により親族関係が終了した当該養子となった児童の実方の父母を含む。)その他の児童を養子とする養子縁組に関する者につき,その相談に応じ,必要な情報の提供,助言その他の援助を行うこと」
【★21】 2016年(平成28年),「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」という法律ができました。人身売買のように子どもをバトンタッチする悪質な団体が活動することを防ぐため,役所がきちんとした団体かどうかをチェックし,OKした団体をバックアップするしくみになりました。
【★22】 民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方(じっかた)の血族(けつぞく)との親族関係が終了する縁組(以下この款(かん)において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる」
民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著(いちじる)しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」
民法817条の8第1項 「特別養子縁組を成立させるには,養親となる者が養子となる者を6箇月(かげつ)以上の期間監護した状況を考慮しなければならない」
【★23】 民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方(じっかた)の血族(けつぞく)との親族関係が終了する縁組(以下この款(かん)において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる」
【★24】 特別養子縁組の離縁は,次の条文のとおりとてもハードルが高く,また,養親から請求することは認められていません。
民法817条の10第1項 「次の各号のいずれにも該当する場合において,養子の利益のために特に必要があると認めるときは,家庭裁判所は,養子,実父母又は検察官の請求により,特別養子縁組の当事者を離縁させることができる。
一 養親による虐待,悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること
二 実父母が相当の監護をすることができること」
同条2項 「離縁は,前項の規定による場合のほか,これをすることができない」
【★25】 「真実告知は血のつながりがない事実だけを強調して子どもに伝えることではありません。『血のつながりはないけれども,家族であることに変わりはない。あなたは私たちが強く望んで迎えた大事な子ども』であると子どもに伝えることが真実告知です。真実告知という言葉の替わりに,テリング(telling)という言葉が使われることもあります。子どもには自分のルーツを知る権利があり,子どものルーツを隠すことは親子の信頼関係を損ねるという考え方が里親養親の間で周知されるようになりました。…真実告知の時期や方法については,正解がありません。…私が先輩の里親養親さんからいただいたアドバイスには次のような共通点がありました。
・近所の大人や子どもなど,家族ではない第三者から事実を知らされることほど,子どもの気持ちが深く傷つくことはない。事実は必ず養親から子どもに伝える
・自分のアイデンティティに目覚め,情緒的に不安定になる思春期は真実告知を避ける
・家に迎えた時の子どもの事情,年齢,性格を考慮し,家族関係がよい時に真実告知をする
・生みの親については肯定的に伝え,ネガティブは発言をしない」(吉田奈穂子「子どものいない夫婦のための養子縁組ガイド」199頁)
【★26】 児童に関する条約(子どもの権利条約)7条1項 「児童は…できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する」
【★27】 厚生労働省「社会的養護の現状について(参考資料) 平成29年3月」(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000154060.pdf) 里親委託児童4973人,ファミリーホーム(養育者の住居において家庭養護を行う(定員5~6名))1261人の合計6234人に対し,乳児院2901人,児童養護施設2万7288人,情緒障害児短期治療施設1264人,児童自立支援施設1395人,母子生活支援施設5479人,自立援助ホーム516人の合計は3万8843人です。
【★28】 児童福祉のしくみでは,施設ではなく,里親に預けるということもあります。里親は,養子縁組のように法律上の親子になるのではありません(もとの親が法律上の親のままで,親権をもっているのも,もとの親のほうです)。施設とちがって家庭的な雰囲気の中で育つことができるので,養子縁組だけでなく,里親のしくみも,もっと広がることが期待されています。「児童養護施設にイヤな職員がいる」の記事もあわせて読んでみてください。
【★29】 平成28年改正児童福祉法3条の2 「国及び地方公共団体は,児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう,児童の保護者を支援しなければならない。ただし,児童及びその保護者の心身の状況,これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案(かんあん)し,児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合にあっては児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう,児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合にあっては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう,必要な措置を講じなければならない」
【★30】 裁判所司法統計(http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search)「特別養子縁組の成立及びその離縁に関する処分」の件数から「うち離縁に関する処分」の件数を除いた数
2006年(平成18年) 313件
2007年(平成19年) 289件
2008年(平成20年) 309件
2009年(平成21年) 326件
2010年(平成22年) 325件
2011年(平成23年) 374件
2012年(平成24年) 339件
2013年(平成25年) 474件
2014年(平成26年) 513件
2015年(平成27年) 544件
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