タレント活動を親がやめさせてくれない
中学2年生です。小学生のときから子役タレントをやってきたんですが,最近は,夜遅くまでかかったり,引き受けたくない仕事もあったりして,つらくなってきました。そんな自分の気持ちがほっとかれて,親が活動に熱心になってしまってます。できればタレント活動をやめて,学校の友達と過ごす時間を作りたいんですが,所属事務所も,親も,「最初に自分からやりたいと言い出したんでしょ」と言って,やめさせてくれません。
学校の先生や,弁護士に相談してみてください。
あなたらしい生活を送れるように,大人の私たちが力になります。
むかし,子どもは,小さなときから,大人と同じように働かなければなりませんでした。
今でも,世界の中には,そういう地域が残っています。
「小さな子どものうちは,仕事をさせないで,教育を受けられるようにしよう」。
日本をふくむ,世界の国々が,そう約束しています【★1】。
だから,義務教育を受け終えていない子どもを,働かせてはいけないことになっています【★2】。
でも,子役タレントは,子どもの時にしかできない仕事です。
なので,そういう特別な仕事なら,中学校を卒業していなくても,「仕事をしてOK」と認められることがあります。
OKするのは,労働基準監督署という,国の役所です【★3】。
略して,「労基署(ろうきしょ)」と呼びます。
たとえ仕事をするとしても,
その子が,きちんと教育を受けられるようにしなければいけません。
だから,学校の校長先生が,
「この仕事をしても学校生活にマイナスはありません」と認めなければ,
労基署は,子どもが働くことをOKしません【★4】【★5】。
労基署がOKした場合でも,
学校を休んだりせず,学校生活の時間以外で仕事をすることが必要です【★6】。
憲法には,「子どもを酷使(こくし)してはいけない」と,はっきり書かれています【★7】。
映画や演劇の子役だけは,小さな子でも認められますが【★8】,
それ以外の仕事は,13歳以上でなければなりません。
しかもその仕事は,健康や生活・人生に悪い影響がない,簡単なものでなければいけない,と法律で決まっています【★3】。
法律が,子どもの皆さんを,酷使されないように,守っているのです。
あなたの仕事は,夜遅くまでかかっているのですね。
雇(やと)うがわは,中学校卒業前の子どもを,夜8時を過ぎて働かせてはいけないことになっています【★9】。
演劇の子役は,もう少し遅くまで働かせることができますが,
それでも,夜9時までです【★10】【★11】。
夜遅くまで子どもを働かせている職場は,犯罪として処罰されます【★12】。
(子どもを守るためのルールですから,あなたが罰せられるのではありません。)
仕事の時間が夜遅いだけでも問題なのに,
あなたが引き受けたくない仕事までしなければいけないのは,
まさに,憲法が禁止する「酷使」にあたります。
日本は,世界とのあいだで,
「子どもは,休んだり,遊んだりすることができる」と約束しています【★13】。
あなたが,学校の友達と一緒に過ごす時間がほしいと思うことは,
けっしてわがままなどではなく,とても大切なことです。
あなたにとってふさわしくない仕事のとき,
ほんらいは,
親が,子どものあなたを守るために,
事務所と話し合いをしたり,
事務所との間の契約(けいやく)をナシにするために動かなければいけません【★14】。
けれど,あなたの親は,あなたのタレント活動にかかわることに熱心になっていて,
「やめたい」というあなたの気持ちに,寄り添ってくれないのですね。
子どもは,親の人形ではありません。
10代という大事な時期をどう過ごすかは,
人生の主人公であるあなた自身の気持ちが,大切にされなければなりません。
あなたが小学生のときに自分から「やりたい」と言い出したからといって,
中学生のあなたが今その仕事をやめられないことの理由には,全くなりません。
大人だって,自分で始めた仕事を,自分で自由にやめられます。
ましてや,ものごとをまだよく知らない小学生のときに始めた仕事を,
成長した今では「やめたい」と思うしっかりした理由もあるのに,
「子どもだからやめられない,親の言うことに従って続けないといけない」,というのは,まったくおかしなことです。
まずは,学校の先生に相談してみましょう。
学校の友達と過ごす時間を作りたい,というあなたの気持ちは,きっと,学校も応援してくれるはずです。
学校があなたの親と話し合っても変わらないようなら,
学校から労基署に,「仕事のせいで学校生活にマイナスがあります」と連絡してもらう方法や,
学校から児童相談所に,「親があなたを守っていない」と連絡してもらう方法もあります。
いろんなところが,あなたを守るために動いてくれます。
学校に相談しやすい先生がいなかったり,
労基署や児童相談所まで巻き込むことに心配だったりするかもしれません。
そのときは,私たち弁護士に相談してみてください。
相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。
あなたが自分らしく毎日の暮らしを送れるように,
私たち大人が,あなたの味方になります。
【★1】 ILO(国際労働機関)就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)2条1項 「この条約を批准(ひじゅん)する加盟国(かめいこく)は,その批准に際(さい)して付する宣言において,自国の領域(りょういき)内…における就業(しゅうぎょう)が認められるための最低年齢を明示する。…」
同条3項 「1の規定に従(したが)って明示する最低年齢は,義務教育が終了する年齢を下回ってはならず…」
【★2】 労働基準法56条1項 「使用者は,児童が満15才に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで,これを使用してはならない」
【★3】 労働基準法56条2項 「前項の規定にかかわらず,別表第一第一号から第五号までに掲(かか)げる事業以外の事業に係(かか)る職業で,児童の健康及び福祉に有害でなく,かつ,その労働が軽易なものについては,行政官庁の許可を受けて,満13歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については,満13歳に満たない児童についても,同様とする」
年少者労働基準規則2条1項 「所轄労働基準監督署長は,…使用許可の申請について許否の決定をしたときは,申請をした使用者にその旨を通知(し),…許可しないときは,当該申請にかかる児童にその旨を通知しなければならない」
【★4】 年少者労働基準規則1条 「使用者は,労働基準法…第56条第2項の規定による許可を受けようとする場合においては,使用しようとする児童の年令を証明する戸籍証明書,その者の修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書を…使用許可申請書に添えて,これをその事業場の所在地を管轄(かんかつ)する労働基準監督署長…に提出しなければならない」
【★5】 昭和63年3月14日労働省労働基準局長・労働省婦人局長「労働基準法関係解釈例規について」(基発第150号,婦発第47号) 「<児童の使用許可> 使用許可にあたって (1) 児童の心身の状況を直接調査した上で決定すること。 (2) 児童福祉法の規定に違反することのないよう充分注意すること。 (3) 児童の教育上の要求について充分考慮すること。殊(こと)に就業した後学校長よりの要求があった場合速(すみや)かに実情を調査した上で適当な措置を講じられたいこと。…(以下略)[昭和22・11・11発婦第2号]」
【★6】 労働基準法56条2項(【★3】)に「修学時間外に使用することができる」と書かれています。
【★7】 憲法27条3項 「児童は,これを酷使(こくし)してはならない。」
【★8】 労働基準法56条2項(【★3】)の但書(ただしがき)
【★9】 労働基準法61条1項 「使用者は,満18歳に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない。…」
同条5項 「第1項…の時刻は,第56条第2項の規定によって使用する児童については,第1項の時刻は,午後8時及び午前5時と(する)…」
【★10】 労働基準法61条2項 「厚生労働大臣は,必要であると認める場合においては,前項の時刻を,地域又は期間を限って,午後11時及び午前6時とすることができる」
同条5項 「…第2項の時刻は,第56条第2項の規定によって使用する児童については,…第2項の時刻は,午後9時及び午前6時とする」
平成16年11月22日「労働基準法第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する厚生労働大臣が必要であると認める場合及び期間」(厚生労働省告示第407号) 「労働基準法…第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する厚生労働大臣が必要であると認める場合は,同法第56条第2項の規定によって演劇の事業に使用される児童が演技を行う業務に従事する場合とし,同法第61条第5項の規定により読み替えられた同条第2項に規定する期間は,当分の間とする。」
【★11】 記事本文は,事務所に雇(やと)われている雇用(こよう)契約について書いていますが,雇われているのでなければ(=労働者でなければ),午後8時や午後9時という制限がかかりません。どのような場合に「労働者でない」と判断されるかについて,国は,次のように言っています(これによって当時のアイドルグループ「光GENJI」が夜9時以降の生放送のテレビ番組に出演できるようになったことから,「光GENJI通達」と呼ばれています)。
昭和63年7月30日基収第355号 「問 当局管内には劇団あるいはいわゆる芸能プロダクション等が多く,それら事業場から労働基準法第56条に基づく児童の使用許可申請がなされることが少なくないところである。当局においては,これら申請に係る子役あるいはタレントについては,一般にその所属する劇団あるいは事務所との間に労働契約関係があるものと考えるが,なかには,その人気の程度,就業の実態,収入の形態等からみて,労働契約関係ありとみるには疑問なしとしない事例が散見されるところである。そこで,これらの事例については,下記の通り取り扱ってよろしいか,お伺いする。 記 次のいずれにも該当する場合には,労働基準法第9条の労働者ではない。 一 当人の提供する歌唱,演技等が基本的に他人によって代替できず,芸術性,人気等当人の個性が重要な要素となっていること。 二 当人に対する報酬は,稼働時間に応じて定められるものではないこと。 三 リハーサル,出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても,プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。 四 契約形態が雇用契約ではないこと。」「答 貴見のとおり。」
【★12】 労働基準法第119条1項 「次の各号の一に該当(がいとう)する者は,これを6箇月以下の懲役(ちょうえき)又は30万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 …第61条…の規定に違反した者 (以下略)」
【★13】 児童の権利に関する条約31条1項 「締約国(ていやくこく)は,休息及び余暇(よか)についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める」
【★14】 労働基準法58条2項 「親権者若(も)しくは後見人又は行政官庁は,労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては,将来に向(むか)ってこれを解除(かいじょ)することができる」
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