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2016年12月 1日 (木)

既読スルーしてケンカになった

 

 友だちからのメッセージを読んだまま自分が返信しなかったのがきっかけでケンカになり,メッセージのやりとりも激しくなってしまいました。その流れで,自分が相手をかなりバカにしたメッセージを送ってしまい,相手が「訴える」と繰り返し言ってきています。「は?訴えるなら訴えてみれば?」と強気で返しているものの,本当に訴えられちゃうのか,訴えられたらどうなるのか,内心では不安です。

 


 自分でも,言い過ぎちゃったな,という思いがあるのですね。

 だからこそ,「訴える」という言葉に,不安になってしまいますよね。




 「訴える」という言葉で,法律的に考えられるのは,

 たとえば,民事(みんじ)という分野なら,

 傷ついたぶんのお金を払え,と裁判所に訴えることです。

 でも,こういった民事のことは,

 「友だちに貸したお金が返ってこない」の記事にも詳しく書いたように,

 未成年なら親がかかわらないといけなかったりなど,いろんなハードルがあります
【★1】

 また,刑事(けいじ)という分野なら,

 「被害を受けた」という被害届や,「処罰してほしい」という告訴状(こくそじょう)を警察に出して,捜査(そうさ)してもらうよう訴えるのですが
【★2】

 犯罪として取り締まるということは,とても重大な話なので,

 そんなに思うほど簡単には,警察は動きません。

 刑事事件は,民事事件よりもさらにハードルが高いのです。




 その友だちは,

 じっさいに法律的に訴えることの大変さまで考えてあなたに言っているのではなく,

 激しいメッセージのやりとりの中で,勢いで「訴える」と言ってしまっているのだと思います。




 ただ,上に書いたことは,あくまで一般的な話ですから,

 確かなアドバイスをするためには,あなたと相手のじっさいのやりとりを見る必要があります。

 今の不安な気持ちを落ち着けるために,弁護士に相談してみてください。

 相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見て下さい。





 あなたが相手をバカにしたメッセージを送ってしまったのは,

 ケンカでメッセージのやりとりが激しくなったからでしたね。




 私は,弁護士として,いろんな人間関係のトラブルの相談を受けています。



 「今,相手とこんなふうにやりとりしています」

 法律相談にやってきた人が,メールやアプリのメッセージのやりとりを印刷したものを,ごそっと見せてくれることが,よくあります。

 私は,まず,「この相手とのやりとりを,すぐにやめてください」とアドバイスします。




 インターネットでのやりとりは,

 淡々(たんたん)とした事務連絡や,おたがいに仲が良いときには,とても便利なのですが,

 トラブルになっているときは,おたがいを傷つける凶器になってしまうのです。




 トラブルになっているときは,頭に血が上っているので,

 ふだんよりも敏感になって,相手からのメールやメッセージが気に障(さわ)ることも多くなります。

 そして,こちらも感情的になって,反論したくなってしまいます。

 反論の文章を考えるのも,イライラします。

 書き終わって相手に送信すると,すぐに相手に届いてしまいます。

 即座(そくざ)に相手から反論が来れば,また気分が悪くなりますし,

 反論が来なければ来ないで,それもまたイライラします。

 やりとりが文字で残るので,おたがい,相手の言うことのほとんどに反論しようとして,

 細かい言葉の揚(あ)げ足とりや,メインのテーマからずれた話が,増えていきます。




 トラブルになったときは,メールやアプリのメッセージは,不向きなのです。




 深刻な法律トラブルのとき,弁護士が事件の依頼を受けたら,

 弁護士が連絡の窓口になるので,当事者どうしの直接のやりとりがなくなります。

 そのぶん,時間の余裕が生まれます。

 さらに,裁判所でトラブルを解決する場合は,

 民事の裁判なら,だいたい1か月~1か月半に1回というペースで開かれるので,もっと時間の余裕ができます。

 即座にやりとりするインターネットと比べて,とても時間がかかって不便だ,と思うかもしれません。

 でも,トラブルを大きくしないで解決するためには,

 一呼吸を置いてクールダウンする時間があることが,じつは,とても大切なのです。





 私は,弁護士の仕事をするうえで,

 自分の依頼者や,事件の相手方との間で,メールを使いません。

 プライベートでも,メールやアプリのメッセージを使うのは,他の人と比べると,とても少ないです。

 直接会って話をするか,

 電話で話をするか,

 手紙やFAXなどの文書で,やりとりをします。




 メールや,アプリのメッセージは,

 どんなに表現を一生懸命に工夫し,絵文字やスタンプをたくさん使っても,

 自分が送った内容が相手に誤解されたり,

 相手から受け取った内容を自分が誤解したりが,起きやすくなります。




 電話なら,

 声の強さや弱さ,速さや遅さ,高さや低さなどが伝わりますし,

 会って話をすれば,

 さらに,どんな顔の表情をしているか,どんなしぐさをしているかも伝わります。

 文字だけでやりとりするよりも,気持ちが分かり合えますし,

 わからないことも,その場ですぐに確かめ合うことができるので,

 メールやアプリのメッセージで起きるような誤解も,防ぎやすくなります。




 やりとりを文書で残したいときも,

 手紙なら,どんな便せんや封筒を使うかを選び,

 伝えたいことを,紙に手書きで書いたり,パソコンからプリントアウトしたりし,

 それを折って封筒に入れてのり付けし,

 宛先を書いて,切手を貼って,ポストに出しに行く時間,

 FAXでも,文書を書いて送信機にセットし,

 番号を押して相手に送るまでの時間があります。

 その面倒と思われる時間こそ,自分と相手のことを考えるための,大切な時間なのです。




 虐待から逃げてきた子どもを守るシェルターは,場所が絶対に秘密なので,

 親などに居場所がバレないようにするために,ケータイやスマホを預かります。

 ケータイやスマホを肌身離さず持っていた子どもたちにとっては,辛いことです。

 でも,担当の弁護士やシェルターのスタッフと,顔を合わせて話をしていく中で,

 おたがいのコミュニケーションが深まり,自分自身の気持ちを整理していくことができます。

 私から子どもたちに手紙を書いて送ると,「郵便の手紙を初めて受け取った」とびっくりされます。

 そして,私の勧めで,その子が親や私に宛てて手紙を書くと,

 その子が相手の気持ちを考えながら,自分自身の気持ちをよりいっそう整理できることが多いです。




 メールやアプリのメッセージはとても便利ですが,

 トラブルになったときは,止めましょう。

 そして,だいじな話のときこそ,

 会って直接話したり,電話で話したり,手紙にまとめたりしてみてください。





 それから,今回のケンカのきっかけは,

 あなたが相手のメッセージ読んだまま,返信をしなかったからということでしたね。




 最近のアプリでは,「既読(きどく)」という,メッセージが読まれたという表示が出るしくみになっています。

 読んだことが相手に伝わるので,すぐに返事をしなければ無視したと思われる,だからすぐに急いで返事をする,という人がとても多いです。

 実際,「既読」したのに無視されたということがきっかけになって,いじめや残酷な犯罪が起きています
【★3】



 ある有名なアプリを作った会社は,既読の表示を出すしくみを作ったを理由を,こう説明しています。

 「震災などで相手が返事を出す余裕がなくても,読んだことが分かれば,無事に生きているんだと安心できる」
【★4】【★5】



 でも私は,それはおかしな説明だと思います。

 震災などの非常事態ではない,毎日のふだんの暮らしの中で,

 「相手が生きているとわかって安心する」ことなど,必要ありません。




 「既読になったのに返事がないことにイライラする」のも,

 その会社が言うように,「既読の表示が出れば相手が生きているとわかって安心する」のも,

 結局そのどちらにしても,メッセージを送ったがわの一方的で勝手な気持ちの話です。

 メッセージを受け取ったがわの気持ちが,置き去りになっています。




 コミュニケーションは,

 自分の気持ちを一方的に押しつけるのではなく,

 相手の立場に立って考えてやりとりすることが,とてもだいじなのです。

 (「おこづかいの値上げ交渉」の記事にも,同じようなことを書きました。)




 スマホの画面の「既読」の2文字に,あなたも相手も振り回されることなく,

 おたがいの気持ちがわかり合える,余裕を持ったコミュニケーションをしてほしいと思います。




 もし,「既読」したのに返事をしなかったことがきっかけでいじめが起き,あなたや周りの友達が悩んだら,

 「いじめを弁護士に相談するとどうなるの」

 「いじめは犯罪?どうして法律ではダメなのか」

 の記事も,あわせて読んでみてください
【★6】




 スマホのアプリは,私が子どものときには想像もつかなかったコミュニケーションの道具でした。

 これから数年・数十年先,みなさんが大人になって,次の世代の子どもたちを支えるころには,

 今では想像もつかない,さらに新しいコミュニケーションの道具ができているでしょう。

 でも,たとえどんな道具が生まれたとしても,

 その道具に私たち人間がふりまわされるのではなく,

 「自分の気持ちをうまく伝え,相手の気持ちを尊重する」というコミュニケーションの基本を,

 いつも忘れずに意識していてほしいと思います。

 それが,仕事で人間関係のトラブルにいつも接している弁護士から,子どものみなさんに一番伝えたいことです。

 

 

【★1】 民事訴訟法31条 「未成年者…は,法定代理人によらなければ,訴訟行為(そしょうこうい)をすることができない。…」
 民法824条 「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。…」
 民法818条1項 「成年に達しない子は,父母の親権に服する」
【★2】 刑事訴訟法230条 「犯罪により害を被(こうむ)った者は,告訴をすることができる」
 「捜査機関以外の者による捜査の端緒(たんしょ)としてとくに重要なのは,犯罪被害者による被害申告である。被害者の被害申告も,被害届にとどまる場合と告訴の形式をとる場合とがある(被害届は,被害申告のみで,告訴のような訴追(そつい)の意思表示のないものである。いずれも捜査の端緒となる)。」田口守一「刑事訴訟法 第二版」55頁
【★3】 2013年,LINEで連絡を絶ったことを理由に中学3年の女子生徒が,中高生の少女4人から殴られたり蹴られたりした事件や(読売新聞2013年9月12日記事),同じ年,LINEでの呼びかけを無視したことがきっかけで,男子生徒が少年4人から両足を縛られ,川に突き落とされ,足首をライターの火であぶられるなどの被害を受ける事件が起きました(読売新聞2013年10月4日記事)。
【★4】 朝日新聞2016年3月12日記事 「LINE既読は震災から生まれた 教訓生かした商品多数」 「今や国内で約6800万人が使う無料通信アプリ『LINE(ライン)』。誕生のきっかけは大震災だった。ラインの運営会社は,電話がつながりにくい中でも『大切な人と連絡を取れるサービスが必要だ』と判断。急ピッチで開発し,3カ月後にサービスを始めた。こだわりは,相手がメッセージを読んだか分かる『既読』機能をつけたこと。相手に返信する余裕がなくても,既読と分かれば安心する。そんな思いを込めた。」(http://www.asahi.com/articles/ASJ3C51T9J3CULFA019.html
【★5】 日経デジタルマーケティング2014年3月11日記事 「あれから3年,“震災生まれ”のLINEが命を救い,スマホが募金プラットフォームに」 「『(相手が自分のメッセージを読んだ際に付く)あの『既読』表示は,東日本大震災を経験して,安否(あんぴ)確認のためにあると便利だということで付けた機能なのです』。今年1月に新設したLINEの正しい活用を啓発(けいはつ)するCSR(企業の社会的責任)部門である政策企画室の江口清貴室長は,LINE開発の経緯をこのように説明する。」(http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmgp/20140310/260877/
【★6】 全国Webカウンセリング協議会理事長・安川雅史さんの「子どものスマホ・トラブル対応ガイド」(ぎょうせい,2016年)も参考になります。

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