健康保険証の裏にある「臓器提供」って何?
健康保険証の裏に,臓器提供(ぞうきていきょう)に丸をつけるところがあるんですが,これって子どもの私にも関係があることですか?
はい。あなたにも,とても関係があります。
健康保険証の裏を見ると,こう書いてあります。
以下の欄(らん)に記入することにより,臓器提供に関する意思(いし)を表示することができます。記入する場合は,1から3までのいずれかの番号を○で囲んで下さい。
1 私は,脳死後及(およ)び心臓が停止した死後のいずれでも,移植のために臓器を提供します。
2 私は,心臓が停止した死後に限(かぎ)り,移植のために臓器を提供します。
3 私は,臓器を提供しません。
<1又は2を選んだ方で,提供したくない臓器があれば,×をつけてください。>
【心臓・肺(はい)・肝臓(かんぞう)・腎臓(じんぞう)・膵臓(すいぞう)・小腸・眼球】
以前は,「臓器提供意思表示カード」しかありませんでしたが,
2010年(平成22年)から,健康保険証や運転免許証の裏にも,このように書かれています【★1】。
想像してみましょう。
あなたは突然,事故に遭(あ)って,脳が大きなダメージを受けました。
あなたは救急車で運ばれます。
病院で,お医者さんが一生懸命がんばって,あなたの治療をしました【★2】。
でも,あなたの脳は回復しませんでした。
周囲が呼びかけても,あなたからの反応は全くありません【★3】。
あなたは,脳の一部が働いていて自分で息ができる「植物状態」とは違い【★4】,
脳のほとんどすべてが,働いていません。
人工呼吸器でかろうじて息が続けられている,「脳死」の状態です【★5】。
おそらく,あと1週間も心臓は動き続けられません【★6】。
病院があなたの家族に,それを説明します。
そして,あなたの臓器が,病気で苦しんでいる人たちの役に立つことなども説明します。
あなたの家族は,突然の事故であなたが脳死になったことに,気持ちが混乱しています【★7】。
家族はとても悩んだすえ,あなたが他の人の体の中で生き続けられるならと,臓器を取り出すことをOKしました【★8】。
まだあなたの心臓は止まっていませんし,体も温かいままですが,
あなたは死んだものとして扱われます【★9】。
そして,麻酔をかけたうえで【★10】,
あなたの体から,心臓や肝臓(かんぞう),肺(はい)など,いろんな臓器が取り出されます。
病気で苦しんでいる人たちに,あなたの臓器が移されます。
その人々がどこの誰なのかは,あなたの家族には知らされません。
あなたの臓器を移してもらった人たちは,そのおかげで,
命を落とさずにすんだり,つらさや苦しさを大きく減らしたりすることができました【★11】。
…健康保険証の裏の「1」にある,脳死後の臓器提供というのは,上に書いたようなことです。
目や腎臓(じんぞう)は,心臓が止まった人の体から移すことができます【★12】。
でも,ほかの臓器は,それができません。
止まってしまった心臓を他の人に移しても意味がありませんし,
その他の臓器も,心臓が止まってそこに血が行き渡らなくなってしまったものは,他の人に移せないのです。
だから,目や腎臓以外の臓器を移すなら,心臓が止まっていない人の体から取り出さないといけません【★13】。
それで,脳死の人の体から臓器を移すことが考えられたのです。
でも,
たとえ脳が働かなくなっていても,
心臓が止まっていないなら,まだ死んでいないじゃないか,
生きているなら,その人の体から臓器を取り出すのは,殺人という犯罪ではないか。
そういう問題がありました【★14】。
実際,臓器移植の法律ができるよりもだいぶ前の1968年(昭和43年),
ずさんな臓器移植が行われて,
そのお医者さんが殺人罪の疑いで調べられる,という事件も起きました【★15】。
臓器移植を必要としている人たちは,たくさんいます。
今の医療では治すことが難しい病気で,
長く生きられなかったり,生活や人生でとてもつらく苦しい思いをしています。
他の人から臓器を移し替えてもらうことによって,
命を失わずにすんだり,つらさや苦しさを大きく減らせる場合があるのです【★16】。
しかし,日本ではずっと,心臓などの移植ができなかったので,
命を落とす人が多くいました。
臓器移植をしてもらいたいと思ったら,
莫大(ばくだい)なお金を集め,とても大きな負担をかけて,
海外に行かなければならなかったのです。
日本では,「脳死は人の死なのか」など,激しい議論が長く続いて,
1997年(平成9年)に,臓器移植の法律ができました。
その時にできた法律では,
「万一,自分が脳死になったら,他の人に臓器をあげてもOK」と考える人は,
あらかじめカードに丸をつけ,サインをしておく,ということになりました。
そして,家族から特に反対がなければ,
その人の体から臓器を取り出して,他の人に移すことができるようになりました【★17】。
逆に言えば,
カードに丸をつけていない人や,カードを持っていない人からは,
臓器を取り出すことは認められませんでした。
カードに丸やサインをできる年齢は,
その法律にはっきり書かれてはいませんでしたが,
15歳以上とされていました【★18】。
15歳は,自分が亡くなったときのことを書いておく「遺言(いごん)」を作れる年齢です【★19】。
でも,法律ができても,
カードを持っている人が多くはなかったので,
実際には,臓器移植はあまり進みませんでした【★20】。
また,臓器提供の意味がわからない小さな子どもは,カードに丸やサインをできませんから,
その時の法律では,脳死になった子どもから臓器を取り出していませんでした。
だから,子どもの大きさの臓器が必要な病気の子どもは,
やはり,海外に行かなければなりませんでした。
しかし,世界では,「臓器移植のために海外に行くのはやめて,自分の国の中でやるべきだ」という意見が高まっていました【★21】。
そこで,2010年(平成22年)に,法律が変わりました。
それまでは,カードに「臓器提供OK」と書いてある人からしか臓器を取り出せなかったのですが,
法律が変わって,カードなどに何も書かれていなくても,家族がOKすれば,臓器を取り出せることになりました【★22】【★23】。
あなたが,「脳死の時に臓器を取られるのはいやだな」と思っているのに,
「3」や「2」に丸をつけないままでいると,
家族がOKすれば,あなたの気持ちに反して,臓器が取り出されてしまうことになってしまいます。
また,もしあなたが,脳死の時に臓器をあげてもいい,誰かに使ってもらいたい,と思っていても,
あらかじめ「1」に丸をしておかないと,あなたのその考えが家族にわからないので,
突然の出来事で混乱している家族だけで,思い悩まなくてはいけません。
脳死のときに臓器提供をするかどうかについて,
正しいとか,まちがっているという答えはありません。
それぞれが自分で考えて,決めることです。
だいじなのは,どんな結論であっても,あなたのその考えを,しっかりとみんなにわかる形にしておくことです【★24】。
あなたが15歳以上でも,14歳以下でも,自分の考えをはっきりさせておくことが大切なのです【★25】。
法律が変わった2010年(平成22年)からは,
自分で丸やサインをできない小さな子どもからも,
家族のOKで,臓器を取り出すことができるようになりました。
脳死となった子どもの親や家族は,本当に苦しい思いを抱えながら,臓器提供をするかどうかを決めています【★26】。
ただ,もし,子どもが脳死になった原因が,親からの虐待だったなら,臓器提供はできません。
加害者である親が,被害者である子どもの臓器を取り出すのにOKするのは,
子どもを二度も傷つける,まったくおかしなことだからです。
だから,虐待がなかったことをきちんと調べてからでなければ,臓器を取り出すことは,認められません【★27】。
子どもたちは,よく冗談で,「死ね」「殺す」という言葉を使いますね。
子どものときは,生きるエネルギーにあふれ,体も成長していくので,
死ぬということの実感がなく,命を軽くあつかう言い方を,つい,してしまうのだと思います。
でも,
今この時も,死と向き合っている人たちが,この社会の中で,私たちといっしょにいるということ,
そして,
子どものあなたも,いつか突然,事故や病気で脳死になるかもしれないし,
逆に,臓器を他の人からもらわなければ命を落とす病気にかかるかもしれないということ,
そういう,とてもだいじな命の問題を,
ケガや病気を治すために使うその健康保険証の裏を見る時に,しっかり考えてみてほしいと思います。
健康保険証の裏のうち,「1」から「3」のどれであったとしても,
あなたがいろんな人の話を聞き,自分なりに一生懸命考えたうえで,丸をつけることができたなら【★28】,
命の重さと向き合ったあなたは,
「死ね」「殺す」と軽く冗談を言うこともせず,他の人がそう言うのも聞き流さない,そんな素敵な人になれるはずです。
【★1】 平成22年5月12日「健康保険法施行規則等の一部を改正する省令」(厚生労働省令第70号)
平成22年6月11日「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令」(平成22年内閣府令第31号)
【★2】 交通事故被害者遺族の井手渉さん・井手政子さんは,救急医療体制がおざなりであって,臓器移植を進める前に救急医療体制を整えるべきことなどを述べています(井手渉・井手政子「突然『脳死』と宣告されて -交通事故被害者遺族の思い」,臓器移植法改正を考える国会議員勉強会編「脳死議論ふたたび 改正案が投げかけるもの」63頁)。日弁連も,臓器移植にあたって,最善の医療が尽(つ)くされているのが前提であるべきなのに現状に不備があることなどを指摘しています(2006年(平成18年)3月14日「『臓器の移植に関する法律』の見直しに関する意見書」12頁 http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/060314_000.pdf ,特に小児救急医療体制の整備について,2010年(平成22年)5月7日「改正臓器移植法に対する意見書」15頁 http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2010/100507.html )
【★3】 もっとも,脳死になってもまったく体が動かないというわけではなく,脊髄(せきずい)反射は起きます。また,「ラザロ兆候(ちょうこう)」という現象があることも報告されています。ラザロ兆候とは,脳死の人が人工呼吸器を取り外されたあと,両手が上がってきて,胸の前で合わさり,まるで祈りを捧げるかのように握りあわせて,またベッドの所に戻り,このとき足は自転車を漕(こ)ぐような動きを見せることが,何の刺激もないのに数日間繰り返されるという現象です(小松美彦「脳死・臓器移植を検証する」,臓器移植法改正を考える国会議員勉強会編「脳死議論ふたたび 改正案が投げかけるもの」156頁)。
【★4】 ただし,植物状態(遷延性意識障害)と脳死の違いははっきりと分けられないものではないとの指摘もあります(臓器移植法を問い直す市民ネットワーク編著「脳死・臓器移植Q&A50 ドナーの立場で”いのち”を考える」44頁)。
【★5】 法律では,「脳死した者の身体」を,次のように定義しています。
改正「臓器の移植に関する法律(以下「臓器移植法」)6条2項 「…脳死した者の身体とは,脳幹を含む全脳の機能が不可逆的(ふかぎゃくてき)に停止するに至ったと判定された者の身体をいう」
【★6】 もっとも,脳死と判断されても1週間以上心臓が動き続ける場合もあり,特に,小さな子どもは何年も,場合によっては10年・20年以上も長い期間続く(しかも第二次性徴も迎える)ケースがあります。また,脳死となった女性が出産した事例もあります(日本弁護士連合会2010年(平成22年)5月7日「改正臓器移植法に対する意見書」11頁,小松美彦「脳死・臓器移植を検証する」臓器移植法改正を考える国会議員勉強会編「脳死議論ふたたび 改正案が投げかけるもの」159頁,臓器移植法を問い直す市民ネットワーク編著「脳死・臓器移植Q&A50 ドナーの立場で”いのち”を考える」9頁,26頁,32頁)。
【★7】 社団法人日本臓器移植ネットワークで臓器移植コーディネーターを務めている朝居朋子さんは,脳死と判定された人の家族の苦しみと決断に寄り添う現場の姿を,「いのちに寄り添って 臓器移植の現場から」(毎日新聞社)に詳しく記しています。
【★8】 「この世から物体としての存在がなくなるという死から,臓器だけがこの世に,別の人のからだのなかに残り,その人に新しい生を与える。そのことが,最愛の身内を亡くすという最大の悲しみのなかにいる家族の決断で行われる。そして,臓器移植を受ける人が臓器を受け取って,その思いが完結する。あるドナーファミリーの言った言葉です。『息子を亡くすという絶望のなかで,臓器移植で命をつなぐという希望を見いだせた』」(朝居朋子「いのちに寄り添って 臓器移植の現場から」89頁)
【★9】 「脳死の状態での臓器提供では,法律に定められた脳死判定を2回行い,2回目の判定が終わったら『死亡』と宣告されます。脳死で死亡とされた患者の状態は,人工呼吸器がついていて,心電図のモニターも波形が出ていて,肌は温かく,お小水(しょうすい)も出ています。脳死判定前後でなんら見かけが変わるわけではなく,家族にとって『ご遺体』として受け止められるかというと,正直,本音の部分ではなかなか難しいところがあるかもしれません」(朝居朋子「いのちに寄り添って 臓器移植の現場から」44頁)
【★10】 「高知赤十字病院での臓器摘出(てきしゅつ)の時に,法的に脳死が確定して臓器摘出のためにメスを入れた途端,それまで120だった血圧が140から150に上がりました。…救急部長はあわててガス麻酔と静脈麻酔を投与したわけです。こうしたことは決して例外ではなく,イギリスやアメリカの論文には普通のこととして書かれています。…イギリスの…麻酔医は…こう述べています。『看護婦たちは心底動転していますよ。脳死者にメスを入れた途端,脈拍と血圧が上昇するんですから。そして,そのまま何もしなければ,患者は動き出し,のたうち回り始めます。摘出どころではないんです。ですから移植医は私たち麻酔医にきまってこう言います。ドナー患者に麻酔をかけてくれ,と』。脳死者からの臓器摘出の時に麻酔や筋弛緩剤(きんしかんざい)を投与することは,日本でも半(なか)ば常識になっているといえます。というのは,「臓器移植法」施行後の29件(2004年5月26日現在)の臓器摘出のうち,すでに医学論文で公表されたものだけでも約半数はそうした方法を採っているのですから」(小松美彦「脳死・臓器移植を検証する」,臓器移植法改正を考える国会議員勉強会編「脳死議論ふたたび 改正案が投げかけるもの」155頁)
【★11】 国際移植者組織トリオ・ジャパン編「生きたい! 生かしたい! 早期移植医療の真実」(はる書房)では,臓器移植を必要としている人たちの苦悩と,移植を受けて生きられるようになった喜びが,詳しく記されています。
【★12】 1958年(昭和33年)に「角膜の移植に関する法律」ができて,亡くなった人から目を取り出すことができるようになり,その後,1979年(昭和54年)には腎臓(じんぞう)も対象になりました(「角膜及び腎臓の移植に関する法律」)。
腎臓は,体にとって毒になる尿素(にょうそ)を取り除いたり,要(い)らなくなったものをおしっことして外に出したりする,フィルターの役割をもった臓器です。腎臓がうまく働かないと,「人工透析(じんこうとうせき)」といって,機械を使わなければいけません。腎臓がうまく働かない病気は,他の臓器移植を必要とする病気と違って,すぐに命を落とすというわけではないものの,人工透析は,何度も繰り返し病院に通い,1回に何時間もかかるので,とても大変です。他の人から腎臓をもらうことで,生活はとても楽になります。
【★13】 2つある腎臓の1つや,1つしかない肝臓(かんぞう)の一部を,生きている人から取り出して移す「生体移植」という方法があります。この生体移植についての法律は,特にありません。日本移植学会の倫理指針では,生体移植を親族間に限定しています(http://www.asas.or.jp/jst/pdf/info_20120920.pdf)。
【★14】 「これまで人の死は,心臓の拍動(はくどう)と,肺臓の呼吸の不可逆的停止,および瞳孔(どうこう)反応の消失という3つの兆候によって判定されることで,全く異論なく安定していたのであるが(三兆候説),最近の医学・医療の発達,とくに人工蘇生術(じんこうそせいじゅつ)の発達によって,放置すれば停止するはずの心臓や肺をかなり長く人工的に動かし続けることが可能になったことに由来する。…もしこの『脳死状態』(厳密には,超重症脳不全)を『人の死』とみることができるとすれば,一方では,人工呼吸器を外すことも,他方では,脳死状態でなお動いている心臓や肺を移植のために摘出することも,どちらも殺人とはならず,『死体』に対する処理として許される可能性が開けることになる」(中山研一「臓器移植と脳死 日本法の特色と背景」165頁)
【★15】 和田移植事件。1968年(昭和43年)8月8日,札幌医科大学の教授が,日本で初めて,世界で30例目の心臓移植を行いました。しかし,無理矢理実験的に心臓移植をしたのではないかと批判があり,殺人罪で告発されました(結果は不起訴処分でした)。
【★16】 ES細胞という,人の体を作るすべての細胞に分化することができる細胞の研究が進み,これを使った再生医療が実現すれば,将来的には臓器移植は不要になるだろうと言われています(加藤高志「日弁連からの提言 -臓器移植の人権救済申し立て」,臓器移植法改正を考える国会議員勉強会編「脳死議論ふたたび 改正案が投げかけるもの」132頁)。
「『私たち患者は,ドナーが現れるのを待ちながら日々過ごしているわけではないのです。本当は,薬で病気が治ったり,たとえ病気が治らなくても薬で現状を維持できること,つまり移植以外の方法でなんとかなることを『待って』いるのです』 この言葉を聞いたときに,私は『目からうろこ』状態でした。レシピエント自身は,臓器移植を第一の選択肢とせざるをえない状況だから臓器移植を治療法として選択するけれども,本当はそれを最も望んでいるわけではないのです。私自身,他者から臓器をもらって救命する臓器移植という治療法は,何十年も先にはなくなってしまうといいな,早くそんな時代が来るといいな,と正直思っています。『昔は,死んだ人から提供された臓器で移植を受けてたんだって』みたいなことが言われる時代が来るくらい,そのくらい,再生医療や人工臓器,薬の開発が進んでいくといいな,と思っています。その意味では,他者から臓器をもらう移植医療は,そういう時代が来るまでの間は,ほかに選択肢のない,最善の架(か)け橋としての医療なのだと考えています」(朝居朋子「いのちに寄り添って 臓器移植の現場から」117頁)
【★17】 旧臓器移植法6条1項 「医師は,死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって,その旨(むね)の告知を受けた遺族が当該(とうがい)臓器の摘出を拒(こば)まないとき又は遺族がないときは,この法律に基(もと)づき,移植術に使用されるための臓器を,死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる」
【★18】 平成9年10月8日厚生労働省「『臓器の移植に関する法律』の運用に関する指針(ガイドライン)」 「年齢等により画一的に判断することは難しいと考えるが,民法上の遺言可能年齢等を参考として,法の運用に当たっては,15歳以上の者の意思表示を有効なものとして取り扱うこと」
【★19】 民法961条 「15歳に達した者は,遺言をすることができる」
【★20】 法律ができて初めて脳死の人からの臓器移植が行われたのは1999年(平成11年)で,その年は合計4件でした。法律が改正されるまでの約10年間は,毎年,10件を超えるか超えないかの件数しかありませんでした。法律が改正され,2010年(平成22年)は32件となり,その後件数は増えていて,2015年(平成27年)は58件でした(一般社団法人日本移植学会「臓器移植ファクトブック2016」http://www.asas.or.jp/jst/pdf/factbook/factbook2016.pdf)
【★21】 2008年5月2日国際移植学会「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」。WHO(世界保健機関)でも,2009年3月26日,臓器移植のための海外渡航を自粛する勧告案が出され,総会で採択される見込みとなっていました(採択は2010年5月22日)。
【★22】 改正臓器移植法6条 「医師は,次の各号のいずれかに該当する場合には,移植術に使用されるための臓器を,死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。 … 二 死亡した者が生存中に当該臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって,遺族が当該臓器の摘出について書面により承諾しているとき」
【★23】 ヨーロッパの多くの国や中国も,同じように,本人があらかじめ何も意思表示をしていないときに,家族の同意で臓器提供を認めています。家族の同意がなくても臓器摘出できるとする国も最近では増えていますが(スペインなど),家族の役割が大きい日本では,家族の同意なく臓器提供を認めることは難しいと言われています(甲斐克則「臓器移植と刑法」201頁)。
【★24】 日弁連は,2010年(平成22年)5月7日,「改正臓器移植法に対する意見書」で,「自己決定権の保障を遵守しなければならない」という観点から意見を出しています。
【★25】 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)12条1項 「締約国(ていやくこく)は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項(じこう)について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする」
【★26】 2016年(平成28年),インフルエンザ脳症で脳死となった6歳未満の女の子のご両親が,日本臓器移植ネットワークを通じて思いをつづった手紙を公表しました(全文は朝日新聞2016年2月26日記事で読むことができます。http://www.asahi.com/articles/ASJ2V2RNPJ2VUBQU00C.html)。
「Aちゃんが体調を崩してからお父さんとお母さん辛(つら)くてね。毎日毎日神様にお願いしました。…でもね…もう長くは一緒にいられないんだって。お父さんとお母さんは辛くて辛くて,寂しくて寂しくて泣いてばかりいたけれど,そんな時に先生からの説明でAちゃんが今のお父さんやお母さんみたいに涙にくれて生きる希望を失っている人の,臓器提供を受けなければ生きていけない人の希望になれることを知りました。…もしAちゃんが人を救うことができたり,その周りの皆さんの希望になれるとしたら,そんなにも素晴らしいことはないと思ったの。こんなにも誇らしいことはないと思ったの。Aちゃんが生きた証(あかし)じゃないかって思ったの。…命は繋(つな)ぐもの。お父さんとお母さんがAちゃんに繋いだようにAちゃんも困っている人に命をつないでくれるかな? 願わくば,お父さんとお母さんがAちゃんにそうしたように,AちゃんもAちゃんが繋いだその命にありったけの愛を天国から注いでくれると嬉(うれ)しいな」
【★27】 臓器移植法附則(平成21年7月17日法律第83号)5条 「政府は,虐待を受けた児童が死亡した場合に当該児童から臓器…が提供されることのないよう,移植医療に係る業務に従事する者がその業務に係る児童について虐待が行われた疑いがあるかどうかを確認し,及びその疑いがある場合に適切に対応するための方策に関し検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」
【★28】 臓器移植について,公益社団法人日本臓器移植ネットワークのウェブサイトで詳しい情報を見ることができます(https://www.jotnw.or.jp/)。また,臓器移植の問題点をわかりやすくまとめている本として,臓器移植法を問い直す市民ネットワーク編著「脳死・臓器移植Q&A50 ドナーの立場で”いのち”を考える」(海鳴社)があります。
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