« 2016年9月 | トップページ | 2016年11月 »

2016年10月

2016年10月 1日 (土)

義務教育ってタダのはずじゃないの?

 

 「義務教育はタダだ」って聞いたことがあるんですが,でも,給食費,副教材費,制服代,修学旅行代,卒業アルバム代とか,どうして実際にはいろいろお金がかかってるんですか?

 


 憲法という,日本の国のおおもとのルールには,

 「義務教育はタダです」と,はっきり書いてあります
【★1】


 そのまま素直に読めば,小学校や中学校ではお金がいっさいかからないように読めますよね。

 私立の学校は別ですが,少なくとも公立の学校ではいっさいお金がかからないように読めます。


 
ところが,教育基本法という法律では,

 「タダなのは授業料のことです」と,タダの範囲がせばめられています
【★2】



 今でこそ,小学校や中学校の教科書はタダでもらえますが,

 実は,むかしは教科書ですら,お金を出して買わなければいけなかったのです。

 「憲法に義務教育はタダだと書いてあるのに,どうして教科書を買わないといけないのか。国がお金を出すべきだ」という裁判も起きました。

 そのときの裁判所は,「憲法が言っているのは『授業料がタダ』ということ。教科書にお金がかかっても憲法違反ではない」と,訴えを認めませんでした
【★3】

 ただ,
その裁判のあいだに新しく法律が作られ,教科書もタダになりました【★4】

 1969年(昭和44年),ようやく全国の子ども全員が教科書をタダでもらえるようになったのです
【★5】



 けれど,授業料と教科書代以外のお金は,結局親が出さないといけません。


 1年間にかかる給食費は,公立の小学校は約4万3000円,中学校は約3万8000円です。

 給食費以外に1年間にかかる,副教材や修学旅行や制服などのお金も,公立の小学校では約5万2000円,中学校では約12万9000円あります
【★6】

 つまり,授業料と教科書代がタダでも,それ以外に1年間に約10万円~17万円近くもお金がかかる計算になります。

 これがとても負担になっている家庭が,たくさんあります
【★7】



 お金に余裕がない家庭のために,「就学援助(しゅうがくえんじょ)」という制度があります
【★8】

 市区町村が,給食費,副教材費,制服代,修学旅行代,卒業アルバム代などを出してくれます。

 もっとも,援助の内容は市区町村によって少しちがっています。




 「就学援助があるなら,それでいいじゃないか」と言う人もいるかもしれません。

 でも,私はそれはおかしいと思います。

 就学援助は,使う人と使わない人がいたり,内容が市区町村によってちがったりします。

 他方で,憲法は「義務教育はタダです」と言い切っています。

 お金のある・なしや,住んでいる場所によって,書き分けていません。



 義務教育は,「子どもたちのために,学ぶための時間と場所を,きちんとつくらないといけない」という,大人たちの義務です。


 家で親が子どもを育てるのに必要なお金は,当然,親が出しますね。

 それと同じように,

 
私たちの社会が用意した小学校・中学校という義務教育の場で,その学校生活に必要なものならば,

 私たちの社会が,そのお金を出さなければいけません
【★9】

 そうすることで,どの家の子も,どの地域の子も,すべてが安心してしっかりと学ぶことができ,

 そうやって子どもたちが育つことが,私たちの社会にとってもプラスになります。




 世界も,「小学校や中学校のような基本的なことを学ぶ場は,タダで通えるようにしよう」と確認し,約束しています
【★10】~【★12】

 そして,日本でさっき書いたような「教科書代がタダかどうか」が裁判で争われていた50年近くむかし,

 すでに他の国々では,学校に必要なものは全部タダにしようという動きが始まっていました
【★13】


 実は今,日本の中でも,学校にかかるお金が完全にタダなところが,いくつかあります【★14】

 でもそれは子どもの数が少ない地域で,「住む人が減るのを止めたい」という理由から,タダにしているものです。


 どこの家に生まれ育つか,そこにお金の余裕があるかどうか,それを子どもが選べないのと同じように,

 どこに暮らすか,義務教育のお金が全部タダな地域かどうかも,子どもは選ぶことはできません。



 だれであっても,どこであっても,公立の小学校・中学校では,お金の心配なく,安心してしっかり学べること。

 そういう社会を作ることが,私たち大人に課せられている義務だと,私は強く思っています。

 

 

【★1】 憲法26条2項 「すべて国民は,法律の定(さだ)めるところにより,その保護する子女(しじょ)に普通教育を受けさせる義務を負ふ(おう)。義務教育は,これを無償(むしょう)とする」
【★2】 教育基本法5条4項 「国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については,授業料を徴収(ちょうしゅう)しない」
【★3】 最高裁判所大法廷昭和39年2月26日判決(民集18巻2号343頁) 「憲法26条は,すべての国民に対して教育を受ける機会均等の権利を保障すると共(とも)に子女の保護者に対し子女をして最少限度の普通教育を受けさせる義務教育の制度と義務教育の無償制度を定めている。しかし,普通教育の義務制ということが,必然的にそのための子女就学に要する一切の費用を無償としなければならないものと速断することは許されない。けだし,憲法がかように保護者に子女を就学せしむべき義務を課しているのは,単に普通教育が民主国家の存立,繁栄のため必要であるという国家的要請だけによるものではなくして,それがまた子女の人格の完成に必要欠くべからざるものであるということから,親の本来有している子女を教育すべき責務を完(まっと)うせしめんとする趣旨に出たものでもあるから,義務教育に要する一切の費用は,当然に国がこれを負担しなければならないものとはいえないからである。
 憲法26条2項後段の『義務教育は,これを無償とする。』という意義は,国が義務教育を提供するにつき有償としないこと,換言(かんげん)すれば,子女の保護者に対しその子女に普通教育を受けさせるにつき,その対価を徴収(ちょうしゅう)しないことを定めたものであり,教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから,同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である。そして,かく解することは,従来一般に国または公共団体の設置にかかる学校における義務教育には月謝を無料として来た沿革(えんかく)にも合致するものである。また,教育基本法4条2項および学校教育法6条但書において,義務教育については授業料はこれを徴収しない旨規定している所以(ゆえん)も,右の憲法の趣旨を確認したものであると解(かい)することができる。それ故(ゆえ),憲法の義務教育は無償とするとの規定は,授業料のほかに,教科書,学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものと解することはできない。
 もとより,憲法はすべての国民に対しその保護する子女をして普通教育を受けさせることを義務として強制しているのであるから,国が保護者の教科書等の費用の負担についても,これをできるだけ軽減するよう配慮,努力することは望ましいところであるが,それは,国の財政等の事情を考慮て立法政策の問題として解決すべき事柄(ことがら)であつて,憲法の前記法条の規定するところではないというべきである。」
【★4】 義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律(昭和37年3月31日公布,同年4月1日施行),義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和38年12月21日公布,同日施行)
【★5】 文部科学省ウェブサイト http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyou/990301m.htm
【★6】 文部科学省「平成26年度子供の学習費調査」http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/12/24/1364721_3.pdf
【★7】 本文でその後に述べている就学援助は,生活保護を受けている「要保護者(児童)」と,市区町村の教育委員会が要保護者に準ずる程度に困窮していると認める「準要保護者(児童)」が対象ですが,平成25年度の調査では要保護と準要保護児童生徒は151万4515人で,6人に1人は就学援助を受けている計算になります。
 文部科学省平成27年10月6日「『平成25年度就学援助実施状況等調査』等の結果について」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/10/1362524.htm
【★8】 学校教育法19条 「経済的理由によって,就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては,市町村は,必要な援助を与えなければならない」
【★9】 「一律に強制的に徴収(ちょうしゅう)されている費目(ひもく)(教材費・給食費・制服代等)については,それが義務教育にとって必要なものならば無償の対象とすべきであり,必要がなければ強制すること自体が問題とされなければならないであろう」(日本教育法学会「教育法の現代的争点」62頁)。
【★10】 世界人権宣言26条1項 「すべて人は,教育を受ける権利を有する。教育は,少なくとも初等の及び基礎的の段階においては,無償でなければならない。初等教育は,義務的でなければならない。(略)」
【★11】 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)第13条1項 「この規約の締約国(ていやくこく)は,教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は,教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並(なら)びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更(さら)に,締約国は,教育が,すべての者に対し,自由な社会に効果的に参加すること,諸国民の間及び人種的,種族的又は宗教的集団の間の理解,寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する」
 同条2項 「この規約の締約国は,1の権利の完全な実現を達成するため,次のことを認める。(a) 初等教育は,義務的なものとし,すべての者に対して無償のものとすること。(略)」
 14条 「この規約の締約国となる時にその本土地域又はその管轄(かんかつ)の下にある他の地域において無償の初等義務教育を確保するに至(いた)っていない各締約国は,すべての者に対する無償の義務教育の原則をその計画中に定める合理的な期間内に漸進的(ぜんしんてき)に実施するための詳細な行動計画を2年以内に作成しかつ採用することを約束する」
【★12】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)28条1項 「締約国は,教育についての児童の権利を認めるものとし,この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため,特に,(a)初等教育を義務的なものとし,すべての者に対して無償のものとする。(略)」
【★13】 「目を世界に向けるならば各国とも無償の範囲を拡大する傾向にある。それは教育費の私費負担の増大と教育内容の豊富化,教育活動領域の拡大に加え,権利としての教育理念の確立および,教育の機会均等の保障に伴う国家の義務という思想が,教育に浸透してきたためである。だから義務教育の無償は授業料という範囲に留まらず,教科書,学用品,給食,通学費,被服といった就学に要するすべての費用を生徒・保護者に負担させない方向に進んでいるのである。しかも非義務教育の無償化の拡大さえある現実の世界の動向を注目しなければならない」(小笠原正「憲法理念と教育法-判例評釈を中心として-113頁,昭和55年。注釈としてユネスコの「World Survey of Education II,1958」を摘示。http://unesdoc.unesco.org/images/0013/001364/136495eo.pdf
【★14】 朝日新聞2016年9月9日記事「義務教育 給食も教材費も… 『完全無償化』じわり拡大 子育て世帯の流出防ぐ」

« 2016年9月 | トップページ | 2016年11月 »