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2016年9月 1日 (木)

バイト先でミスすると給料から引かれてしまう

 

 高校生です。飲食店でバイトしてます。注文を間違えて作っちゃった商品がムダになったり,うっかり皿やグラスを割ったりすると,そのぶんが給料から引かれちゃうんですが,そんなにしょっちゅうミスしているわけでもないのに,これっておかしくないですか?

 


 はい。おかしいです。




 たしかに,法律の基本的なルールは,こうなっています。


 「わざと,または,うっかり,してはいけないことや約束違反をして,相手に迷惑(めいわく)をかけてしまったら,相手が損をしたぶんのお金を,払わないといけない」【★1】

 そのお金のことを,「損害賠償(そんがいばいしょう)」と言います。



 でも,雇(やと)われている人が,仕事でミスをして職場に迷惑をかけてしまったとき,

 何でもかんでも職場に損害賠償を払わないといけない,というわけではありません。




 職場には,他の人間関係とは,ちょっとちがうところがあります。

 「人を雇って働かせることで,職場には,お金をもうけられるというプラスがある」,ということです。



 そういう関係なのですから,

 雇っている人がふつうに働いている中でミスをしてしまったのなら,

 そのぶん起きたマイナスの損も,職場がかぶるべきなのです。

 人を雇って働かせることで,職場がプラスを得ているのに,

 マイナスのほうは働いている人に負わせる,というのでは,おかしなことです。



 いつもは正確に動く機械やロボットだって,故障したり動かなくなったりします。

 ましてや,人間は,機械やロボットではありませんから,

 どんなに気をつけていても,小さなミスをしてしまうことは,誰だってあります。



 職場が,できるだけ損をしたくないのなら,

 働いている人ができるだけミスを起こさないように,

 みんなの仕事のしくみを工夫しなくてはいけません。

 職場がそういう努力をしないで,何でもかんでも働いている人のほうに責任を負わせてはいけないのです。




 注文を間違えてしまったり,

 皿やグラスを割ってしまったり,

 おつりを間違えて客に渡してしまったりということは,

 どんなに気をつけていても,起きてしまうことのあるミスです。



 そういうミスなら,そのぶんは,

 職場があなたにお金を払えと求めることはできませんし,

 あなたも職場にお金を払わなくてよいのです
【★2】



 もちろん,物やお金を盗んだりするなど,従業員がわざと職場に損をさせたのなら,損害賠償を払わなければいけません。

 また,わざとではなくても,従業員のうっかりの度合いがあまりにもひどければ,やはり損害賠償を払わなければいけないことがありえます
【★3】



 でも,そんなふうに職場に損害賠償を払う必要がある場合でも,

 
職場が従業員の給料から一方的に差し引くことは,許されません【★4】【★5】

 一方的に給料から差し引いたら,そのようなことをした職場が,犯罪として処罰されます
【★6】


 職場がいったん給料の全額を払ってから,従業員が職場に損害賠償を払うか,

 あらかじめ従業員がOKしたうえで,給料から差し引くことにするか,

 そのどちらかでなければいけないのです。




 あなたの場合,

 ふつうのミスなのですから,損害賠償を職場に払わなくてもよいのに,

 さらに,一方的に給料からお金が差し引かれてしまっているので,

 職場がしていることは,二重におかしいのです。




 勝手に差し引かれてしまっている分のお金は,払ってもらうように,職場に求めることができます。




 弁護士をつけて話し合いをしたり,裁判をしたりして払わせることもできますが,

 労働基準監督署(ろうどうきじゅんかんとくしょ)という国の役所や,各都道府県の労政事務所(ろうせいじむしょ)に解決を求めるのが,費用もかからず,スムーズなことも多いです。




 一人ひとりが安心して働くことができるよう,

 法律がいろんなルールで働く人を守っているということを,

 ぜひ知っておいて欲しいと思います。

 

 

【★1】 民法415条 「債務者(さいむしゃ)がその債務の本旨(ほんし)に従(したが)った履行(りこう)をしないときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責(せ)めに帰(き)すべき事由(じゆう)によって履行をすることができなくなったときも,同様とする」
 民法709条 「故意(こい)又(また)は過失(かしつ)によって他人の権利又は法律上保護される権利を侵害(しんがい)した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
【★2】 そもそも労働過程において通常求められる注意義務を尽(つ)くしているとして損害賠償が否定されているケースとして,大阪地方裁判所平成10年1月23日判決(労働判例731号14頁。上司への報告や関係部署との打合わせを十分行わない等の職務上の不始末により会社に損害を与えたとしてなされた元労働者への損害賠償請求が退けられた事例),大阪地方裁判所平成11年9月8日判決(労働判例775号43頁。病院が雇用するリハビリ治療者の過失によって入院患者を負傷させ治療費の支払を余儀なくされたとして病院が労働者に対して行った損害賠償請求が,同人に過失は認められないとして棄却された事例)等。
 また,軽過失の場合には労働者に損害賠償義務が生じない(当該事案としては使用者が労働者に求償権を行使できないという結論)と判示したものとして,名古屋地方裁判所昭和62年7月27日判決(労働判例505号66頁)。「原告〔注:会社〕は被告〔注:従業員〕の労働過程上の(軽)過失に基づく事故については労働関係における公平の原則に照らして,損害賠償請求権を行使できないものと解するのが相当である」
【★3】 ただし,従業員が損害賠償を払わないといけない場合でも,必ず全額を払わないといけないのではなく,いろんな状況をもとに,金額が制限されます。
 最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決(民集30巻7号689頁) 「使用者が,その事業の執行(しっこう)につきなされた被用者(ひようしゃ)の加害行為により,直接損害を被(こうむ)り又(また)は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若(も)しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般(しょはん)の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し右損害の賠償又は求償(きゅうしょう)の請求をすることができるものと解すべきである」(この事案の結論として,従業員が払う額を4分の1に制限)
【★4】 給料は,全額を労働者に払わなければいけません。これを,「全額払いの原則」と言います。
 労働基準法24条1項 「賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない。(略)」
【★5】 最高裁判所第二小法廷昭和31年11月2日判決(民集10巻11号1413頁 ) 「労働基準法24条1項は,賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨(むね)を規定し,これによれば,賃金債権(さいけん)に対しては損害賠償債権をもって相殺(そうさい)をすることも許されないと解するのが相当である。」
【★6】 労働基準法120条 「次の各号の一に該当する者は,30万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 …第23条から第27条まで…の規定に違反した者 (略)」

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