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2016年6月

2016年6月 1日 (水)

生活保護を受けている家でも奨学金で大学に行ける?

 

 高校2年生です。母と二人暮らしで,生活保護を受けています。卒業後の進路に悩んでるんですが,家が生活保護を受けていても,大学に行けるんですか。もし行けるとしたら,奨学金を使うことになると思うんですが,奨学金を借りたら後で返すのが大変だと聞いていて,それも心配です。

 

 大丈夫です。

 家が生活保護を受けていても,大学に行くことはできます。




 「お金のことは,あきらめなければ,大変だけど,最後はなんとかなるよ!」



 私が,進路とお金に悩んでいたある高校生にそう話すと,

 その子も,それを聞いていた周りの大人も,びっくりした顔をしていました。

 そしてその次に,「それなら,がんばってみよう」と,みんな明るい顔になったのが,とても印象的でした。

 「自分も大学に行けるんだ」。

 そういう前向きな気持ちを,ぜひ持ってください。




 生活保護のお金は,生活するのにぎりぎりの額なので
【★1】

 そこから大学に行く費用を出すのは難しい,とあきらめていませんでしたか。



 生活保護だと,役所から「働ける人は働きましょう」と言われるから,

 高校を卒業したら,大学に行かずに働かないといけない,とあきらめていませんでしたか。

 あるいは,働きながら通える夜間大学しか選べない,とあきらめていませんでしたか
【★2】



 役所のケースワーカーさんに,早めに相談をしてください。

 あなたが高校を卒業するときに,「世帯分離(せたいぶんり)」という手続をとってもらえば,

 あなたが大学に行くことができます
【★3】



 生活保護のお金は,一人一人の個人に払われるのではありません。

 世帯に払われます
【★4】

 世帯というのは,「家計を一緒(いっしょ)にしている家族」のことです。

 あなたの場合は,今,あなたとお母さんの2人分の生活保護のお金が,お母さんに払われています。



 その世帯を分けて,別々にするのが,「世帯分離」です。

 あなたの場合,世帯分離をすると,

 お母さん一人の世帯と,あなた一人の世帯の,2つの世帯ができます。

 「世帯分離」は,書類の上の手続きなので,

 実際にお母さんと離れて暮らす必要まではありません。

 お母さんと一緒に暮らし続けることができます。



 お母さんは,引き続き生活保護を受けることができます。

 ただし,世帯からあなたが抜けるので,

 生活保護のお金は,お母さん一人分に減ります。



 あなたのほうは,生活保護を止めます。

 そして,奨学金や,アルバイトで稼いだお金で,学費と生活費をまかなうのです。

 もし,離婚したお父さんがいるなら,お父さんにも学費や生活費を負担してもらうように,話をしてみてください
【★5】


 あなたがお母さんと世帯が一緒のままだと,

 あなたがかせいだお金や,他から受け取ったお金は,役所に返さないといけません。

 (その理由は,「アルバイトをしたら生活保護の不正受給と言われた」の記事を見てください)

 でも,世帯分離をすれば,その必要がなくなります。

 あなたがかせいだお金や,奨学金,お父さんからのお金を,あなたが自分のために使えます。


 また,入学の時に必要になるお金を,今のうちから,生活保護のお金の中からやりくりして貯めておくこともできますから,ケースワーカーに相談してください【★6】



 「奨学金を借りたら,後で返すのが大変だ」と,よく言われますね。



 「奨学金」と聞いて多くの人がイメージするのは,

 「日本学生支援機構」という,国の奨学金です
【★7】

 むかしは,「日本育英会」という名前でした。



 大学を卒業した時点で,返さないといけない奨学金は,何百万円にもなります。

 日本学生支援機構の奨学金は,利子がつかないものもあるのですが,それを利用するのはハードルが高く,

 利子がつく奨学金を利用すれば,返さないといけない金額がふくらみます。

 そういった奨学金を,10年や20年もの長い時間をかけて,返し続けていかなければなりません。

 大学を卒業したあと,暮らしが厳しくなって,奨学金を返すのが難しくなっても,

 日本学生支援機構は,支払いを待ってくれたり,免除してくれたりを,なかなか簡単には,してくれません
【★8】【★9】

 むしろ最近はとても取り立てが厳しくなっていて,大きな問題になっています
【★10】

 裁判所の力で,奨学金などの借金を返さなくてもよいようにしてもらう「自己破産」の手続きがありますが,

 破産をすると,今度は保証人になっている親や親族が払うことになるので,

 「迷惑をかけられない」と,手続きをためらう人も,多くいます。

 (ただ,破産をしなくても,本人が払えなくなれば,いずれ保証人が払わないといけなません。正確なことを知るためにも,こまったら早めに弁護士に相談してください。)




 日本学生支援機構の奨学金,つまり,国の奨学金には,いろんな問題があって,

 弁護士会も,改善を求めて意見を出しています
【★11】

 でも,あなたの進学のために必要であれば,デメリットをふまえてもなお,利用したほうがよい,ということもあるでしょう。



 奨学金は,国のものだけではありません。

 都道府県や市区町村の,利子がつかない奨学金もあります。

 民間の団体や企業には,「給付型」といって,返さなくてよい奨学金もあります。

 入学先の大学にも奨学金の制度があって,入学前から申し込めるところもあります
【★12】


 奨学金のしくみは,たくさんあって,しかも複雑なので,

 自分に合ったものがどういうものかを知るのも一苦労ですし,

 提出書類をそろえたりするのも,大変です。

 めんどうだからと,最初からあきらめてしまう人も,多くいます。



 でも,最初に書いたように,

 お金のことは,あきらめなければ,大変だけど,最後はなんとかなります。

 ケースワーカー,学校の先生,地域の人を巻き込んでください。

 あなたが,「大学で学びたい」という強い気持ちをもって,あなた自身が動けば,

 あなたを支えて一緒に動く大人は,必ずいます。

 弁護士も,その大人の中の一人です。



 自分で自分の人生を選んで進んでいけること。

 一人ぼっちではなく,支えてくれる人がいるということ。

 それが,とてもだいじなことなのです。





 この社会には,「大学で学びたいなら,そのメリットを受ける人が自分でお金を負担するのは当然だ」,などと考える人が,多くいます。

 でも,他の国では,大学がタダで通えるところも,多くあります。

 世界は,「みんなが大学にタダで通えるように,少しずつ取り組んでいこう」と約束しているのですが
【★13】

 日本は,つい最近の2012年まで,それをずっと認めてきませんでした
【★14】

 その間に,大学の学費は,逆にどんどんと上がっていきました。



 多くの国では,返さなくてよい「給付型」の奨学金が充実していますが,

 日本では,「返す奨学金」のほうがメインです。

 先進国の中で,大学がタダでないのに,「返す奨学金」に頼らないといけない国は,日本だけだと言われています
【★15】


 「返す奨学金」には,利子がつくものと,つかないものがあります。

 2003年に,日本育英会が日本学生支援機構に変わる法律ができたとき,

 国会は,「利子のつかない奨学金を基本にしよう」とメッセージを出しました
【★16】

 それなのに,実際には,利子のつく奨学金のほうが増えてしまっています。



 学びたいという気持ちと,学ぶ力があるのに,

 どの家に生まれ育ったか,お金のある家か,そうでないかで,

 大学に行ける/行けないが決まってしまうのは,まったくおかしなことです。



 どんな人も,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利がある。

 憲法は,はっきりとそう言っています
【★17】


 「お金がなければ学べない」,

 子どもたちが,そんなふうにあきらめてしまうような社会は,

 絶対に,変えていかなければいけません。



 そして,あなたもぜひあきらめずに,

 いろんな大人を巻き込み,いろんな制度を使って,

 自分の道を切り開いていってください。

 

【★1】 生活保護法8条2項 「前項の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮(こうりょ)した最低限度の生活の需要(じゅよう)を満(み)たすに十分なものであって,且(か)つ,これをこえないものでなければならない。」
 昭和38年厚生省告示第158号「生活保護法による保護の基準」
 生活保護の基準がおかしい,人間らしい生活をするための金額として低い,と争われた裁判として,朝日訴訟(最高裁大法廷昭和42年5月24日判決・民集21巻5号1043頁)があります。
【★2】 働きながら夜間大学に通う場合には,世帯分離をせず,生活保護を受けたままでもOKなことがあります。
 昭和36年4月1日付厚生省社会局長通知「生活保護法による保護の実施要領について」「第1」「4」「次の各要件のいずれにも該当(がいとう)する者については,夜間大学等で就学(しゅうがく)しながら,保護を受けることができるものとして差しつかえないこと。(1)その者の能力,経歴,健康状態,世帯の事情等を総合的に勘案(かんあん)の上,稼働(かどう)能力を有(ゆう)する場合には十分それを活用していると認められること。(2)就学が世帯の自立助長(じょちょう)に効果的であること。」
【★3】 昭和36年4月1日付厚生省社会局長通知「生活保護法による保護の実施要領について」「第1」「5」「次のいずれかに該当する場合は,世帯分離して差しつかえないこと。…(略)…(2)次の貸与金(たいよきん)を受けて大学で就学する場合 ア 独立行政法人日本学生支援機構法による貸与金 イ 国の補助を受けて行われる就学資金貸与事業による貸与金であってアに準ずるもの ウ 地方公共団体が実施する就学資金貸与事業による貸与金(イに該当するものを除く。)であってアに準ずるもの」
【★4】 生活保護法10条「保護は,世帯(せたい)を単位としてその要否(ようひ)及(およ)び程度を定めるものとする。但(ただ)し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる。」
【★5】 実の親ならば,子を扶養(ふよう)する義務があり,大学に進学して20歳になったあとであっても,学費や生活費を負担すべき場合があります。
 東京高裁平成12年2月5日決定・家月53巻5号187頁 「4年制大学への進学率が相当高い割合に達しており,かつ,大学における高等教育を受けたか否(いな)かが就職の類型的な差異につながっている現状においては,子が義務教育に続き高等学校,そして引き続いて4年制の大学に進学している場合,20歳に達した後も当該大学の学業を続けるため,その生活時間を優先的に勉学に充(あ)てることは必要であり,その結果,その学費・生活費に不足を生ずることがあり得るのはやむを得ないことというべきである。このような不足が現実に生じた場合,当該子が,卒業すべき年齢時まで,その不足する学費・生活費をどのように調達すべきかについては,その不足する額,不足するに至った経緯,受けることができる奨学金(給与金のみならず貸与金を含む。以下に同じ。)の種類,その金額,支給(貸与)の時期,方法等,いわゆるアルバイトによる収入の有無,見込み,その金額等,奨学団体以外からその学費の貸与を受ける可能性の有無,親の資力,親の当該子の4年制大学進学に関する意向その他の当該子の学業継続に関連する諸般(しょはん)の事情を考慮した上で,その調達の方法ひいては親からの扶養の要否を論ずるべきものであって,その子が成人に達し,かつ,健康であることの一事をもって直ちに,その子が要扶養状態にないと断定することは相当でない」
【★6】 厚生省社会局保護課長通知「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」
「問第3の18-2 高等学校等に就学中の者がいる被保護世帯において,当該者が高等学校等卒業後,専修学校,各種学校又は大学に就学するために必要な経費に充てるため,保護費のやり繰りにより預貯金等をすることは認められるか。
答 保護費のやり繰りによって生じた預貯金等については,その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合については,活用すべき資産には当たらないものとして保有を容認して差しつかえない取り扱いとしている。…(略)…次のいずれにも該当する場合,保護費のやり繰りによって生じた預貯金等は,その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められるものとして,保有を容認して差しつかえない。…(略)… 1 具体的な就労自立に関する本人の希望や意思が明らかであり,また,生活態度等から卒業時の資格取得が見込めるなど特に自立助長に効果的であると認められること。 2 就労に資する資格を取得することが可能な専修学校,各種学校又は大学に就学すること。 3 当該預貯金等の使用目的が,高等学校等卒業後,専修学校,各種学校又は大学に就学するために必要な経費(事前に必要な入学料等に限る。)に充てるものであること。 4 やり繰りで生じる預貯金等で対応する経費の内容や金額が,具体的かつ明確になっているものであって,原則として,やり繰りを行う前に保護の実施機関の承認を得ていること。」
【★7】 独立行政法人日本学生支援機構(http://www.jasso.go.jp/
【★8】 1回あたりの返す額を半額にして,返す期間を長くする「減額返還」,返すのをいったん止めて先延ばしにする(その間利息は発生しない)「返還期限猶予(ゆうよ)」,亡くなったり,障害を負ったりしたときに,返すのを免除される「返還免除」があります(http://www.jasso.go.jp/shogakukin/henkan_konnan/index.html)。昔は学校の先生になれば奨学金の返済を免除される制度がありましたが,その制度は1998年に廃止されています。
【★9】 日本弁護士連合会は,「返済困難者に対する各種救済制度につき,返済困難者の実情に合わない制度上・運用上の利用制限をやめ,利用しやすい救済制度に改めるべきである」と意見を出しています(2015年3月19日「給付型奨学金制度の早急な導入と拡充,貸与型奨学金における適切な所得連動型返済制度の創設及び返済困難者に対する柔軟な対応を求める意見書」http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2015/opinion_150319_2.pdf
【★10】 「奨学金を返したくても返せない人が増え続けている現状に逆行し,追い打ちをかけているのが,機構における金融(きんゆう)的手法の導入と回収強化策です。2004年に,それまでの日本育英会が廃止され,同奨学金事業が機構に引き継がれると,奨学金は『金融事業』と位置づけられ,金融的手法が強まりました」(奨学金問題対策全国会議編「日本の奨学金はこれでいいのか!奨学金という名の貧困ビジネス」113頁)
 「機構の債権回収においては,借り手の返済能力を無視した,無理な支払いを求められることが多いのが特徴である。延滞金のカットなどはほとんど認められず,月々の返済についても,柔軟な対応をしてくれないことが多い。これは,制度内の救済手段が極めて不十分なものであることとも関係がある」(日本弁護士連合会貧困問題対策本部アメリカ奨学金制度調査団編「アメリカ奨学金制度調査報告書-我が国の奨学金制度に対する提言-」34頁)
【★11】 日本弁護士連合会2013年6月20日「奨学金制度の充実を求める意見書」http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opinion_130620_5.pdf
 日本弁護士連合会2015年3月19日「給付型奨学金制度の早急な導入と拡充,貸与型奨学金における適切な所得連動型返済制度の創設及び返済困難者に対する柔軟な対応を求める意見書」http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2015/opinion_150319_2.pdf
【★12】 奨学金アドバイザーの久米忠史さんの「ここが知りたかった107のQ&A 奨学金借りる?借りない?見極めガイド」(合同出版)は,日本学生支援機構の奨学金のことはもちろん,それ以外の奨学金についてもわかりやすく説明しています。
【★13】 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)13条2項 「この規約の締約国(ていやくこく)は,1の権利の完全な実現を達成するため,次のことを認める。…(略)… (c)高等教育は,すべての適当な方法により,特に,無償教育の漸進的(ぜんしんてき)な導入により,能力に応じ,すべての者に対して均等(きんとう)に機会が与えられるものとすること」
【★14】 【★13】のうち,「特に,無償教育の漸進的な導入により」の部分を,日本はずっと留保していました。2012年9月11日に日本が留保を撤回(てっかい)するまで,この条項を留保していた国は,日本とマダガスカルのたった2つだけでした。
 外務省「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html
【★15】 「OECD加盟国中,大学の学費が有償であるにもかかわらずほとんどを貸与型奨学金に頼っているのは日本だけであり,これは,我が国の奨学金制度の最も根本的な問題です」(奨学金問題対策全国会議編「日本の奨学金はこれでいいのか!奨学金という名の貧困ビジネス」142頁)
【★16】 衆議院文部科学委員会2003年6月6日附帯決議「政府及び関係者は,本法の施行に当たっては,次の事項について特段の配慮をすべきである。…(略)… 三 …憲法,教育基本法の精神にのっとり,教育の機会均等の実現のため,無利子奨学金を基本としつつ…有利子貸与については,将来にわたって,奨学生の過度の負担にならないよう努めること」http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/156/0096/15606060096017.pdf
【★17】 憲法26条1項 「すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する」
   

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