裸の画像を元彼にネットに流された
元彼と付き合ってたとき,「裸(はだか)の画像がほしい」と言われてスマホで自分で撮って送ったり,エッチのときに元彼が私の写真を撮ったりしてました。最近別れたんですが,元彼が私の画像をLINEに流して嫌がらせをしてきます。やめてと言うと,今度はツイッターに流されました。これ以上やめるように言っても,余計に画像を流されそうだし,大人に相談してもどうにもならなさそうで,このままがまんするしかないのかなと思ってます。
別れた腹いせに,付き合っていたときの性的な写真をばらまくことなどを,
「リベンジポルノ」と言います【★1】。
2013年(平成25年),ある女子高校生が,別れようとした男性に「リベンジポルノ」を流され,殺される,という事件が起きました【★2】。
その事件がきっかけになって,
翌年の2014年(平成26年),新しく法律が作られました【★3】。
他の人に見せるつもりのなかった性的な写真を【★4】,
勝手に知り合いに見せたり,ネットに流したりすることが【★5】,
犯罪として,取り締まられやすくなったのです【★6】。
ネットに流された性的な画像を,通信業者(プロバイダ)に消してもらうための手続きは,前からありましたが【★7】,
新しい法律では,性的な画像を消すためのその手続も,早く,スピーディーになりました【★8】。
場合によっては,その手続を,警察が手伝ってくれます【★9】。
ツイッターも,
画像を消してほしいというあなたの声に,
対応してくれるようになっています【★10】。
そして,YAHOOなどいくつかの会社で作った「SIA」というところが運営している「セーフライン」も,
あなたに代わって,すぐに画像を消すために,動いてくれます【★11】。
http://www.safe-line.jp/
エスカレートしかねない相手だからこそ,
警察の強い力を借りて,相手をおさえることが大切です。
また,あなたが相手の処罰まで望んでいなくても,
画像を消す手続きをとって,
あなた自身を守る必要があります。
こういった問題に,社会はまだ取り組みを始めたばかりですが,
ぜひ,がまんせずに,大人に相談してください。
親や警察などに自分から相談するのが難しければ【★12】,
私たち弁護士が,力になります。
相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。
「なんで画像を相手に送ったの」
「どうして撮らせたの」
大人に相談したら,そう言われるかもしれない。
そう思うと,なかなか,大人に相談する気持ちには,なれませんよね。
「画像を送ったほうが悪い」,「撮らせたほうが悪い」と,
まるで自分が責められているように感じると思います。
でも,悪いのは,あなたではありません。
悪いのは,LINEやツイッターに画像を流した,元彼のほうです【★13】。
今の大人たちは,子どものころに,スマホもネットもありませんでした。
だから,大人たちは,自分が10代のときに,パートナーに裸の画像を送ったり,セックスの写真を撮らせたりしていません。
でも,そんな大人たちだって,例えば,
誰にも話せない自分の「秘密の話」をパートナーだけには話す,ということは,
あたりまえにあることです。
そして,もし別れたあと,相手が腹いせにその「秘密の話」を他の人にしゃべったり,ネットに書いたりしたら,
悪いのは明らかに,信頼を裏切った相手のほうでしょう。
信頼しているパートナーだからこそ,
他の人には知られたくないことを,二人のあいだだけでシェア(共有)する。
そして,別れた後も,相手の秘密は守る。
そういうことは,誰にだって,ふつうにあることです。
なにも,若い人たちの性的な画像にかぎった話ではないのです。
今の10代のみなさんには,最初からスマホとネットがありました。
大人たちが,そのスマホとネットの世界に,子どもたちを無防備に巻き込んでおきながら,
トラブルが起きたとたん,「送ったあなたが悪い」「撮らせたあなたが悪い」と,その大人たちが言うのは,
フェアではない,ひきょうなことだと,私は思います。
「性」は,セックスのことだけではありません。
自分の体と心を大切にし,相手の体と心を大切にすること。
それが,本当の意味の「性」です。
あなたが,自分の体と心を,もっともっと大切にできていたなら,
元彼に裸の画像を送ったり,セックスの写真を撮らせたりしていなかったかもしれませんね。
大人たちに必要なのは,
今,あなたが,自分の体と心を大切にできているかを,
あなたといっしょに考えることです。
元彼が,あなたの体と心を,もっともっと大切にできる人だったなら,
あなたに裸の画像を求めたり,セックスの写真を撮ったりしてはいけない,と自分で考えたかもしれません。
大人たちに必要なのは,
相手の体と心を大切にするつきあい方が,どういうものなのかを,
元彼のような人たちに,しっかりと伝えていくことです。
そして,そういった,「二人がどんなつきあい方をしていたか,するべきだったか」という話とはちがって,
元彼が,あなたの信頼を裏切って勝手に画像をネットに流した,ということは,
たとえどんな理由があっても,
明らかにまちがっていること,いちばん許されないことなのです。
新しく法律ができたのは,
信頼を裏切って性的な画像を流す,ということを取り締まり,
被害を受けたあなたのような立場の人を守るためです【★14】。
あなたが悪いのではありません。
あなたが,がまんすることはありません。
ぜひ,すぐに相談してください。
【★1】 メディアジャーナリストの渡辺真由子さんは,「リベンジポルノは,その言葉上,『復讐(ふくしゅう)のために,性的な興奮(こうふん)を引き起こす(相手の)表現物を利用する』行為(こうい)と解釈(かいしゃく)できよう。日本でリベンジポルノという言葉が使われる場合,『恋人や配偶者(はいぐうしゃ)と別れた腹いせに,交際中に撮影した相手の性的な画像や動画をインターネット上に公開し,拡散(かくさん)する』との意味合いであることが多い」,としながらも,「取材を進めるうちに,一口にリベンジポルノといっても,様々な形態が存在する事実が明らかになった」として,リベンジポルノを,「恋愛(プライベートな関係)に起因(きいん)するもの」と「性産業(ビジネスでの関係)に起因するもの」の2つに分けて論じています(「リベンジポルノ―性を拡散される若者たち」3頁)。私のブログ記事本文では「恋愛に起因するもの」についてだけ書いていますが,渡辺さんの指摘するように,性産業に起因するリベンジポルノの問題も,とても重要です。
【★2】 2013年(平成25年)10月8日,東京都三鷹市で高校3年生の女子生徒が元交際相手の21歳男性に殺された事件。
平成26年8月1日,東京地方裁判所立川支部は,犯人に懲役(ちょうえき)22年の判決を言い渡しました。この判決では,刑を重くした理由として,リベンジポルノについて次のように行っています。
「被告人(ひこくにん)は,本件犯行後,インターネット上の掲示板に画像の投稿先URLを書き込んで,広く閲覧,ダウンロードできる状態にしており,その後被害者の裸の画像等は広く拡散(かくさん)し,インターネット上から完全に削除(さくじょ)することが極(きわ)めて困難な状況になっている。被告人が,被害者の生命を奪うのみでは飽(あ)き足(た)らず,社会的存在としても手ひどく傷つけたことは極めて卑劣(ひれつ)というほかなく,この点は,殺害行為に密接に関連し,被告人に対する非難を高める事情として考慮する必要がある」
しかし,平成27年2月6日,東京高等裁判所は,裁判のやり直しを命じました(破棄差戻し)。リベンジポルノは裁判のテーマになっていなかったのにもかかわらず,リベンジポルノも含めて重く処罰したのが,裁判のやりかたとしておかしい,というのが理由でした。
今行われているやり直しの裁判では,リベンジポルノについも改めて裁判のテーマに加えられています(児童ポルノ法違反で追起訴)。
【★3】 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(以下「リベンジポルノ法」と言います)
2014年(平成26年)11月27日成立・施行(罰則は12月17日,プロバイダ責任制限法の特例規定は同月27日施行)
【★4】 リベンジポルノ法2条1項 「この法律において『私事性的画像記録』とは,次の各号のいずれかに掲(かか)げる人の姿態(したい)が撮影された画像…その他の記録をいう。
一 性交又(また)は性交類似(るいじ)行為に係る人の姿態
二 他人が人の性器等(性器,肛門又は乳首をいう。…)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって,殊更(ことさら)に人の性的な部位(性器等若(も)しくはその周辺部,臀部(でんぶ)又は胸部(きょうぶ)をいう。)が露出(ろしゅつ)され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」
もともと他の人に見られることが分かっていて撮られることをOKしたものは対象外です(同項柱書)。
【★5】 LINEやツイッター,フェイスブックなどに投稿して大勢の人に見られるようにしたら「公表罪」という犯罪になります。自分で投稿しなくても,他の人に投稿させるつもりでその人に画像を送ったら,「公表目的提供罪」という犯罪になります。
ブログ記事本文では,別れた腹いせで画像を流したケースについて書いていますが,この新しい法律では,腹いせで相手を困らせるためのものでなくても,他の人に見せるつもりのなかった性的な画像を流せば,やはり犯罪になります。
リベンジポルノ法3条1項 「第三者が撮影対象者を特定することができる方法で,電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処(しょ)する」
同条2項 「前項の方法で,私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し,又は公然と陳列した者も,同項と同様とする」
同条3項 「前2項の行為をさせる目的で,電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し,又は私事性的画像記録物を提供した者は,1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」
【★6】 「既存(きぞん)の法律でリベンジポルノに対処することは可能であるが,対処しきれない場合-いわゆる『法の隙間(すきま)』-が存在する。リベンジポルノ事案でインターネット上に公開された性的な画像等がわいせつなものであれば,わいせつ物頒布(はんぷ)罪(刑法175条)を適用して取り締まることができる。しかし,必ずしも全ての画像がわいせつなものではなく,同罪が適用できるとは限らない。また,児童ポルノ禁止法は,わいせつ物頒布罪よりも処罰対象が広いものの,被害者は18歳未満の者に限られる。また,被害者を特定できる情報が添えられていない,画像のみがインターネット上に公開された場合,名誉毀損(めいよきそん)罪(刑法230条)が適用可能なのか明確ではない」(日本比較法研究所嘱託研究所員・井部ちふみ「オンライン青少年保護を巡る問題-我が国におけるリベンジポルノ対策の現状と課題」203頁)
【★7】 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」と言います)
この法律では,インターネットの通信業者(プロバイダ)が,投稿をした人に「他の人の権利を傷つけているので投稿を消してよいか」と聞いてから7日経っても,投稿した人から特に反対意見がなければ,消してしまって構わない,としています(プロバイダ責任制限法3条2項)。
リベンジポルノは,インターネットで広がるスピードが速いので,この「7日間」を「2日間」と早めました。
【★8】 リベンジポルノ法4条 「〔プロバイダ責任制限法〕第3条第2項及び第3条の2第一号の場合のほか,特定電気通信役務提供者…は,特定電気通信…による情報の送信を防止する措置(そち)を講(こう)じた場合において,当該(とうがい)措置により送信を防止された情報の発信者…に生じた損害については,当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって,次の各号のいずれにも該当するときは,賠償の責(せ)めに任じない。 (略) 三 当該発信者が当該照会を受けた日から2日を経過しても当該発信者から当該私事性的画像侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき」
【★9】 平成26年11月27日警察庁生活安全局長・警察庁刑事局長「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律の施行について(通達)」
「第3 運用上の留意事項」「2 公表された私事性的画像記録の削除」「私事性的画像記録がインターネットを通じて公表された場合の被害者の要望は,まずもって当該画像の削除である場合が多いと考えられることから,警察としても,被害の継続・拡大を防止するため,私事性的画像記録に係る相談を受理した場合には,捜査上の支障等がない限り,速やかに,当該画像の削除申出方法等を教示し,警察が直接削除依頼を行うことが適当と認められる場合には,サイト管理者等に対する迅速な削除依頼を実施するなど,当該画像の流通・閲覧防止のための措置を執ること。また,同種行為の再発を防止する観点から,証拠物件の還付等の際には加害者の手元に当該私事性的画像記録等が残らないようにすること」
【★10】 ツイッター社「Twitterへの個人情報の投稿」(https://support.twitter.com/articles/20170308#)
「 他者の個人情報や機密情報を投稿することはTwitterルールで禁止されています。個人情報や機密情報の例を以下に示します。 (略) 撮影されている人物の同意なく撮影または配布された,私的な画像や動画」
【★11】 「SIA」は,一般社団法人セーファーインターネット協会のことです(正会員:ヤフー株式会社,アルプスシステムインテグレーション株式会社,ピットクルー株式会社,賛助会員:株式会社ミクシィ,グリー株式会社,株式会社サイバーエージェント,さくらインターネット株式会社,GMOグローバルサイン株式会社,アマゾンジャパン株式会社)。
なお,検索サイトのヤフーは,リベンジポルノが検索結果に表示されないようにする取り組みもしています。
2015年3月30日ヤフー株式会社「検索結果の非表示措置の申告を受けた場合のヤフー株式会社の対応方針について」(http://i.yimg.jp/i/docs/publicpolicy/blog/20150330/Policy.pdf)
「 被害申告者から上記判決(又は決定)の提出がない場合でも,リンク先ページの記載から権利侵害の明白性並びに当該侵害の重大性又は非表示措置の緊急性があるとヤフーにおいて認められる場合は,例外的に非表示措置を講じます(検索キーワードの限定は行いません)。権利侵害の明白性,重大性,緊急性の有無についても個別の事案ごとに判断をすることになりますが,以下に挙げるような場合は,権利侵害の重大性,緊急性が認められる可能性が高いと考えます。 (略) 第三者の閲覧(えつらん)を前提としていない私的な性的動画像が掲載されている場合」
【★12】 リベンジポルノ法の公表罪・公表目的提供罪〔★5〕は,「親告罪(しんこくざい)」と言って,被害を受けた人やその家族が「犯人を処罰してほしい」と警察などに「告訴(こくそ)」(刑事訴訟法230条)をしないと,処罰することができません。
リベンジポルノ法3条4項 「前3項の罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない」
この告訴は,中学2年生くらいの子どもでも,自分でできます(最一小決昭和32年9月26日刑集11巻9号2376頁)。
【★13】 メディアジャーナリストの渡辺真由子さんは,次のとおり,リベンジポルノの責任を被害者に押し付けるのではなく,拡散する側の問題である,という,とても重要な指摘をしています。
「『撮らせた』という言葉は,リベンジポルノの責任を被害者に押し付けるものだ。私たち大人は,つい被害者を責めたくなる。あなたがあんな画像を撮らせさせしなければ,と。だが,リベンジポルノの問題の本質はそこではない。恋愛に起因する場合でも,性産業に起因する場合でも,自(みずか)らの意思に反して拡散されるために,進んで撮影に応じる被害者などいない。リベンジポルノとは,被害者の信頼を裏切った,『拡散する側』の問題なのだ。私たちは,『撮らせるな』という被害者に対するメッセージではなく,『拡散するな』という加害者に対するメッセージを広げていかなければならない。リベンジポルノが生まれる背景について,1人1人の大人が理解を深め,被害者の心情に思いを馳(は)せてみよう。そうすることが,被害にあった若者が安心して声を上げられる社会へとつながっていくのだ」(「リベンジポルノ―性を拡散される若者たち」202頁)
【★14】 リベンジポルノ法1条 「この法律は,私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏(へいおん)を侵害(しんがい)する行為(こうい)を処罰するとともに,私的私的画像記録に係(かか)る情報の流通によって名誉または私生活の平穏の侵害があった場合における…特例及び当該提供等による被害者に対する支援体制の整備等について定めることにより,個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生又はその拡大を防止することを目的とする」
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