部活動の連帯責任
野球部の合宿で,自分の知らない間に,他の部員4人が,たばこを万引きして,吸っていたそうです。そのことがバレて,「今年の大会の出場を辞退する」と学校が決めてしまいました。いままで大会に向けてきつい練習をがんばってきたのに,なんで事件と関係ない自分たちが,試合に出られなくなるのをガマンしないといけないんですか。
「ガマンしなければいけない」などということはありません。
大会に出られるよう,部活の顧問の先生や校長先生に,みんなでいっしょに話してください。
人は,他の人に迷惑をかけないかぎり,好きなことをしていいという自由があります。
だからこそ,自分がしたことで他の人に迷惑をかけてしまったのなら,
その責任は,自分自身できちんと取らなければいけません。
でも,他の人がしたことにまで,自分が責任を取らされるのは,
よほどのことがないかぎり,あってはならないことです。
悪いことをしたら,処罰されますね。
他の人がやった犯罪なのに,あなたまで処罰されることがあるとしたら,
それは,
じつはあなたがその人とグルになっていて,犯罪のときに,あなた自身は手を汚さないやり方だっただけ,とか【★1】,
あなたがその人をそそのかしていたなど【★2】,
あなたがその犯罪に関(かか)わっていたときだけです。
そういう関わりがまったくないのに,
たとえば,単に「その人と家族だから」とか,
「その人と同じ職場だから」とか,
「その人と同じ学校・クラス・部活だから」とか,
そんな理由だけで,あなたまで巻き添えになって処罰されるのは,
ありえませんし,あってはならないことです。
わざと,または,うっかり,やってはいけないことをして,誰かに迷惑をかけてしまったら,「損害賠償(そんがいばいしょう)」というお金を払わないといけません【★3】。
他の人がやったことなのに,あなたまで損害賠償を払わされることがあるとしたら,
あなたもグルだったとか,あなたがその人をそそのかしていたなどのほかに【★4】,
あなたがその人の雇(やと)い主(ぬし)だとか【★5】,
その人がまだ幼い子どもで,あなたがその子を育てている親だとか【★6】,
その人の肩代わりをしてお金を払う約束をあらかじめしていたとか【★7】,
そういう関わりがあるときだけです。
そういう関わりがまったくないのに,
「家族だから,同じ職場だから,同じ学校・クラス・部活だから」,
そんな理由だけで,あなたまで巻き添えになってお金を払わされるのは,
やはり,ありえませんし,あってはならないことです。
法律は,一人ひとりをそれぞれ大切な存在として扱っています。
だから,よほどのことがないかぎり,他の人のしたことで自分が責任を負うことは,ないのです。
このことは,学校の部活動だって,同じです。
あなたの知らない間に,他の部員たちが万引きをしてたばこを吸っていたのは,
あなたに何の関わりも,何の責任もないことです。
それなのに,大会のために一生懸命がんばってきたあなたが,ほかの部員のせいで大会に出られなくなることは,ありえませんし,あってはならないことです。
ひょっとしたら,顧問の先生や,校長先生は,
「処罰や損害賠償は,法律の話。学校での教育は,話がちがう」,
そう言うかもしれません。
でも,それは,明らかにまちがいです。
学校での教育も,法律にのっとって行われています【★8】。
そして,教育基本法という,教育の一番ベースになる法律には,
「一人ひとりをだいじにする」というメッセージが,はっきりと書かれています【★9】。
処罰や損害賠償という,大人の社会での責任の取り方ですら,
「自分で自分の責任を取る,他の人のせいで責任を負わされない」のです。
ましてや,大人になるために学んでいる学校の中なら,
自由と責任の意味を,子どもたちがきちんと学べるよう,
よりいっそうていねいに守られなければならないのです。
部活動は,「連帯感」を育てるためのだいじな場所だ,と言われます【★10】。
たしかに,みんなでいっしょに力を合わせ,支え合うことで,連帯感を育てることは,だいじでしょう。
しかし,誰かが悪いことをしてしまったときに,関係のない部員までいっしょに罰を受けても,連帯感が育つはずがありません。
「とばっちりを受けた」という不満がくすぶったり,
罰を避けるためにおたがいを監視し合わなければいけない窮屈(きゅうくつ)な人間関係になったりするだけです。
それは,教育ではありません【★11】。
万引きをした部員は,
被害を受けたお店にきちんと謝らなければいけないし,
万引きについて,学校の先生や,警察などから,注意・指導も受けなければいけないでしょう。
たばこを吸うことは犯罪ではないですが,
「たばことお酒はなんでダメなの?」の記事にも書いたように,
自分で自分のことを大切にしているか,それをよく話し合って,その子に見つめ直させることも必要です。
でも,合宿中のできごとだからといって,野球部まるごと大会を辞退することは,
問題を起こした部員たちの責任の取らせ方として,いきすぎです。
ましてや,あなたのように関係のない他の部員にまで大きなマイナスになるものなのですから,
学校の対応は,おかしなことです。
他の部員ともいっしょに,顧問の先生や校長先生と,大会に出られるように,よく話をしてみてください。
もし,話がうまく進まないようなら,弁護士に相談してください。
(相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。)
大人たちは,何か問題が起きると,
「一人ひとりが大切な存在だ」ということを忘れて,
問題を起こした人だけでなく,そのまわりの人まで,
「同じグループだから」とひとくくりにして,厳しく処分したり,取り締まったりしてしまいがちです。
時には,「同じグループだから」と,根拠のない偏見をもとに,してはならない差別をすることまであります。
これは,ほんとうにおかしなことです。
責任とはなにか,そして,一人ひとりを大切にするということがどういうことか。
今回のことをきっかけにして,
あなたがそれをしっかりと身につけた大人になるよう願っています。
【★1】 刑法60条 「2人以上共同して犯罪を実行したものは,すべて正犯(せいはん)とする」
もし,実際に何人かで犯罪をいっしょにやっていたのなら,共犯として処罰されることは当たり前ですね。そういうのとはちがって,記事本文で書いたような,実際に犯罪を分担していない人が,それでも「グルになっていた」ということで共犯として処罰する,という考え方を,「共謀共同正犯(きょうぼうきょうどうせいはん)」と言います。共犯の範囲が拡がってしまうのは危険ではないかという批判もありますが,裁判所は,一定の条件をつけたうえで,この共謀共同正犯を認めています(最高裁大法廷昭和33年5月28日判決・刑集12巻8号1718頁など)。
【★2】 刑法61条1項 「人を教唆(きょうさ)して犯罪を実行させた者には,正犯の刑を科する」
同法62条1項 「正犯を幇助(ほうじょ)した者は,従犯(じゅうはん)とする」
「教唆」はそそのかしたこと,「幇助」は犯罪をさせやすくしたことです。
【★3】 民法709条 「故意(こい)又(また)は過失(かしつ)によって他人の権利又は法律上保護される権利を侵害(しんがい)した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
【★4】 民法719条1項 「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う(以下略)」
同条2項 「行為者を教唆した者及び幇助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する」
【★5】 民法715条1項 「ある事業のために他人を使用する者は,被用者(ひようしゃ)がその事業の執行(しっこう)について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。(略)」
【★6】 民法712条 「未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識(べんしき)するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない」
同法714条1項 「前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,監督義務者がその義務を怠(おこた)らなかったとき,又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,この限(かぎ)りでない」
民法712条で子ども本人が責任を負うか負わないかのさかいめは,12歳前後が基準です(内田貴「民法Ⅱ」367頁)。子ども本人が責任を負わない場合,民法714条1項によってほとんど無条件に親が責任を負っていました。もっとも,最近,最高裁は,11歳の子どもが校庭でサッカーゴールに向けてボールを蹴ったところ,ボールが校庭を飛び越えてしまい,それをよけようとした高齢者が倒れてその後亡くなったケースについて,親に責任はないと判断しています(最高裁第一小法廷平成27年4月9日判決。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/032/085032_hanrei.pdf)
【★7】 民法446条1項 「保証人は,主(しゅ)たる債務者がその債務を履行(りこう)しないときに,その履行をする責任を負う」
同法447条1項 「保証債務は,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従(じゅう)たるすべてのものを包含(ほうがん)する」
【★8】 学校の先生の立場から部活動を見ると,部活動の指導が,毎日遅い時間まで,土日祝日も長い時間,部活動に時間を割かれ,それなのに超過勤務手当(いわゆる残業手当)もつかず,過労死の原因にもなっているという法律上の問題があります。学校の先生は,昭和23年に超過勤務手当が支給されないこととなりました(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項「教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない」)。ただ,学校の先生には,(1)生徒の実習に関する業務(2)学校行事に関する業務(3)教職員会議に関する業務(4)非常災害等のやむを得ない場合の業務があるため,このことを考慮して,昭和47年から,4%の教職調整額が支給されることになりました(同条1項)。しかし,この4項目の中に「部活動」は入っていませんから,結局,部活動には超過勤務手当に相当するものが出るわけではないのです(文部科学省「教職調整額の経緯等について」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/07012219/007.htm)。それなのに,あたかも当然のように,校長から部活動の顧問をするように(=時間外労働をするように)命令されている,問題のある実態になっています(名古屋地裁平成23年6月29日判決,名古屋高裁平成24年10月26日判決)。
学校教育の中で大切だとされている部活動なのですから,法律できちんと枠組みを作って,先生と子どもたちを守らなくてはいけません。
【★9】 教育基本法2条 「教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,次に掲(かか)げる目標を達成するよう行われるものとする。 … 二 個人の価値を尊重して,…自主及(およ)び自律(じりつ)の精神を養(やしな)う…」
【★10】 学習指導要領「第1章 総則」「第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」(13) 「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養(かんよう)等に資(し)するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること(略)」
【★11】 すでに,今から28年前(昭和62年)に,日本教育法学会理事(当時)の坂本秀夫氏が,連帯罰について次のように指摘しています(「生活指導の法的問題」25頁)。
「団体の誰かの違反行為があった場合,連帯責任を負わせて成員全体に罰を課することは昔から圧制者の人民支配の手段として用いられてきたし,軍隊でも日常的に行われてきた。今日学校では体育クラブなどで行われることが少なくない。例えば,クラブ部員のミスで試合に負けた時の罰としての,クラブ全員に対するハードトレーニングや静座,体罰などの,或(ある)いは野球部員の誰かが万引きや暴力事件を起こしたのでクラブとして甲子園出場を辞退させる,などという罰がある。罪を犯した生徒にとってみれば,自分のことで自分の仲間達が制裁を受けることは,仲間に対する友情が厚ければ厚いほど堪(た)え難(がた)いことであろう。何かあれば仲間に迷惑がかかるということは行動をつねに制約するに違いない。いわば友情を質(しち)にとるもので,一種の人質の論理と同じである。個人の尊厳とは全く相(あい)容(い)れないものが連帯罰の中に含まれていることに注意しよう。…懲戒は純粋に個人の責任に対してのみなされるべきである。…同じクラブの部員がどこかで万引をしたり,けんかをしたことにどうして責任を持たねばならないのか,到底(とうてい)理解できないだろう。…もちろん教育上のマイナス面も見過ごせない。個人の自覚が多少ともあるかぎり,連帯罰を受けてやり場のないふんまんを感じるのが普通である。当然仲間不信におちいるし,いつ自分に災(わざわ)いをふりかけるかわからない仲間の行動を監視するようになる。相互検索的な体勢が知らず知らずのうちに整えられるわけで,本当の民主的連帯は破壊されていく。だからこそ圧制者は連帯罰を好んで使ったのである。連帯罰が何の反省もなく日常的に使われているような集団の存在が問題となるであろう」
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