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2015年6月 1日 (月)

大学に行かないなら予備校代を返せと言われてる

 

 高校3年生です。親から「大学に行け」と言われて,高1のときから予備校に通わされてきました。でも,勉強が好きではなく,成績もよくありません。ほんとは,小さい頃から美容師になりたいと思っていて,今はその夢がどんどん強くなっています。親に,「大学に行きたくない。専門学校に行って美容師の資格を取りたい」と言ったんですが,認めてくれず,「大学に行かないなら,これまで払った予備校代を返せ」と言われています。私は,予備校代を親に返さないといけないんですか。

 

 いいえ。

 予備校代について,「返す・返さない」の話になることじたいが,おかしなことです。



 お金を借りたのなら,

 貸してくれた人に,返さなくてはいけません
【★1】

 自分でどこかに払わないといけないお金を,ほかの人に立て替えてもらったなら,

 立て替えてくれた人に,返さなくてはいけません
【★2】


 でも,あなたの予備校代は,

 親から借りたものでもなければ,

 立て替えてもらったものでもありません。

 あなたが親に返すものではありません。



 法律は,「家族をきちんと養(やしな)わないといけない」,としています【★3】

 法律の言葉で,「扶養(ふよう)」と言います。

 特に,親には,子どもを育てる義務があります
【★4】

 いろんなことを学んで成長している子どものうちは,

 自分で働いてかせぐことができないのですから,

 そういう子どもを育てるためのお金は,

 親が自分で出さなければいけません
【★5】

 着ること,食べること,住むことにかかるお金はもちろん,

 子どもが学ぶためのお金だって,そうです。



 あなたの親は,「大学に行くことがあなたが育つために必要だ」と考えて,予備校に通わせていたのですから,

 その予備校代は,そう考えた親が,自分で出すものです。

 あとで,いろんな事情で,子どもが大学に行かない,行けないことになったからといって,

 予備校代を子どもに払わせるのは,おかしなことです。



 親が子どもに,

 「大学に行かなかったら,予備校代を親に返します」,と,

 はっきり約束までさせてしまっているケースを見かけます。



 おこづかい程度の小さな金額であれば【★6】

 友だちや,きょうだいとのあいだで,貸し借りなどをすることもあるでしょうし,

 その約束をきちんと守ることも,大切でしょう。



 法律は,

 「子どもがお金の貸し借りなどをするときには,

 親がきちんとチェックしないといけない」,としています
【★7】

 子どもがお金の話をするときには,

 その子が自分に不利な約束をしてしまわないよう,

 親が子どもを守らなければいけないのです。



 ところが,

 お金の貸し借りの相手が親だと,

 親が,子どもに不利な内容を押し付けてきたとき,

 子どもを守る立場の人がいません。



 こういう場面を,法律の言葉で,「利益相反(りえきそうはん)」と言います。


 利益相反のときには,子どもを親から守るために,

 裁判所が「特別代理人」という別の人を選んで,子どもにつけなければいけないことになっています
【★8】

 特別代理人に選ばれた人は,

 子どもに不利にならないかどうかをきちんと考えて,

 親とのあいだで貸し借りなどの約束をするのです。



 特別代理人がいないままの約束を,子どもが守る必要はありません。

 20歳になったあとで,自分できちんと納得してその約束をOKしたら,払わなければいけませんが
【★9】

 そうでないかぎり,払う必要はありません。


 予備校代は,

 遊びや趣味のためのお金ではなく,教育にかかわるお金です。

 金額だって,おこづかい程度のレベルではなく,何十万円やそれ以上という,とても大きなお金です。

 もともとあなた自身が積極的に望んで行きたいと思っていたわけでもない,その予備校のお金を,

 「大学に行かないなら親に返せ」などというのは,法律からみて,明らかにまちがっています。


 「大学に進むよう,子どもに考え直させるために,

 法律的にどうなのかはともかく,子どもの教育のためにそう言ったんだ。

 弁護士が『払わなくていい』などと子どもに吹き込むのは迷惑だ」。

 そう言う親もいます。

 しかし,

 法律的にまちがったウソをついて子どもを騙(だま)し,

 「大学に行かないなら金を払え」と子どもを脅(おど)し,

 子ども本人が望んでいない,親の思うとおりの道に進ませようと,子どもを支配することなど,

 「教育」だとは,到底(とうてい)言えません。


 「こういうことを学びたい,こういう仕事に就きたい」。

 子どもの夢がはっきりしてくると,

 その意見が,親と衝突(しょうとつ)することもあるでしょう。

 一度決めた夢が途中で変わることだって,ふつうにあることですが,

 そういうときもやはり,親と衝突するかもしれません。


 でも,あなたの人生は,親のものではありません。

 あなたが自分で選んで,進んでいくべきものです。


 いままできちんと育ててくれたこと,

 自分のためを思ってくれているからこそ,安くはない予備校代を出してくれていたことについて,

 親への感謝の気持ちを,きちんと伝えてみてください。

 そのうえで,「美容師になりたい」という自分の強い気持ちを,親に受け止めてもらえるように,じっくりと話し合ってください。


 結局,親が理解してくれず,

 これから必要になる専門学校のお金は,

 アルバイトや奨学金などで,自分で工面(くめん)しなければいけないかもしれません。

 でも,これまでかかった予備校代は,あなたが親に返す必要は,ないのです。


 自分の人生を自分で選んで進んでいくときには,お金の問題は,とても重要です。

 お金のことについての,まちがった情報や,情報不足のせいで,

 将来後悔するような選択をしないためにも,

 親との話し合いがうまく進まないときには,

 ぜひ,周りの大人や,私たち弁護士に相談してください。

 

【★1】 お金の貸し借りのことを,法律の言葉では,「金銭消費貸借(きんせんしょうひたいしゃく)」と言います。
 民法587条 「消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及(およ)び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生(しょう)ずる」
【★2】 「立替払(たてかえばらい)契約」と言います。
【★3】 民法877条1項 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及(およ)び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養(ふよう)をする義務がある」
【★4】 民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う」
【★5】 内田貴「民法Ⅳ」294頁 「親族扶養の中の最も重要な類型のひとつである親の子に対する扶養に関してはどこに規定があるのだろうか。…実定法上の根拠としては,文言からも877条1項に含まれていると解してよいだろう」
 同295頁 「828条但書は,子の財産の収益を養育費に充(あ)ててよい旨(むね)規定している。言い換えれば,子の財産の元本(がんぽん)を養育費に充当(じゅうとう)することは原則として許されないのである。したがって,収益で不足する限(かぎ)り,親は自(みずか)らの資産・労力で子を養育しなければならない」
【★6】 民法5条3項 「…法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未成年者が自由に処分することができる。…」
【★7】 民法5条1項 「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない…」
 民法824条 「親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する」
【★8】 民法826条1項 「親権を行う父又は母とその子との利益が相反(そうはん)する行為(こうい)については,親権を行う者は,その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」
 「親権者が,その親権に服する子どもとの間で直接契約を行う行為は,一般に契約が『相対立する契約当事者間』で行われることから,民法826条の利益相反行為に該当(がいとう)するのが通常です。もっとも,民法826条は未成年者の保護を目的とするものですので,例えば単純贈与のように,単に未成年者が利益のみを享受(きょうじゅ)し,債務その他の負担を一切負わないような場合には利益相反には該当しません」(新日本法規「Q&A子どもをめぐる法律相談」503頁)
【★9】 内田貴「民法Ⅳ」233頁 「利益相反行為は無権代理と同じであり,その効果は本人に帰属(きぞく)しない。ただし,子が能力者となった後に追認(ついにん)する余地はある」
 民法113条1項 「代理権を有(ゆう)しない者が他人の代理人としてした契約は,本人がその追認をしなければ,本人に対してその効力を生じない」
 最高裁判所第三小法廷昭和46年4月20日判決(最高裁判所裁判集民事102号519頁) 「上告人〔注:未成年者,のち成人〕…は,…事件の係属中,被上告人またはその訴訟代理人に対し,上告人〔親権者〕…による本件土地の売買予約に関する無権代理行為を追認したものであり,これにより,右売買予約中右4名の共有持分に関する部分は,その成立の時に遡(さかのぼ)って効力を生じたものである旨,および親権者が民法826条に違反して,親権者と子の利益相反行為につき法定代理人としてなした行為は民法113条所定の無権代理行為にあたる旨の原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯(しゅこう)できる」

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