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2015年1月

2015年1月 1日 (木)

子どもの選挙運動が犯罪なのが納得いかない

 

 選挙期間中に,がんばってほしい候補者のことを,みんなにも知ってもらいたくて,ツイッターでリツイートしました。そしたら,「大人はいいけど,子どもがそういうことをしたら犯罪になる」ってツイートが回ってきました。納得いかないんですが,なんで子どもだと犯罪になるんですか?

 

 子どもは,選挙で投票をする権利がありません【★1】

 公職選挙法という法律には,

 「投票をする権利がない子どものうちは,選挙運動をしてはいけない。選挙運動をすると犯罪になる」,と書かれています【★2】

 子どもが,候補者の事務所で,コピー取りやお茶くみなどを手伝うことは,「選挙運動」ではないので,OKです【★3】

 子どもが,インターネットで,政治のテーマについて自分の意見を書くことも,「選挙運動」ではないので,OKです。

 ところが,

 子どもが,「みんなにこの候補者や政党のことを知ってもらいたい,投票してほしい」と,がんばることは,

 街を通行中の人々に呼びかけるのでも,インターネットでの書き込みでも,

 「選挙運動」だからダメだ,とされています【★4】

 大人が子どもを選挙運動に使ったら,大人が,犯罪として処罰されます。

 それだけでなく,

 子どもが選挙運動をしたら,

 大人に使われたのではなくて,子どもが自分からすすんでやっていたときでも,

 その子ども自身まで,犯罪として処罰されてしまうことになっています【★5】


 どうして,子どもが選挙運動をしてはいけないのでしょうか。


 子どもを選挙運動に使った大人を処罰する理由は,

 裁判所が,次のように説明しています【★6】

 「選挙では,いろんな議論が飛び交(か)うし,人々もいろんな動きをする。

 そこに,投票する権利のない,社会的にもまだ未熟(みじゅく)な子どもを,巻き込ませてはいけない。

 だから,子どもに選挙運動させないように,法律で決めている。」


 でも,ほんとうに子どもを「巻き込ませないように」守るためのルールなら,

 子どもが自分からすすんで選挙運動をしているときにまで,

 その子ども本人を,犯罪として処罰するのは,おかしなことです。


 じつは,このルールを作った当時の国会議員たちに,「子どもを守る」という考えは,ありませんでした。


 日本は,昭和20年(1945年),大きな戦争に負けました。

 そして,これから新しい社会を築いていくための,きちんとした選挙のルールとして,

 「公職選挙法」という法律を,昭和25年(1950年)に作りました。


 ところが,そのわずか2年後の昭和27年(1952年),

 「人々の選挙運動のやり方がおかしい。きびしくルールを決めて,いろいろ取り締まっていくべきだ」という意見が出てくるようになりました。

 一軒一軒の家を回る「戸別訪問(こべつほうもん)」は,おかしなやり方だから,ぜんぶ禁止するべきだ,とか
【★7】

 選挙のときに署名運動をするのも,おかしなやり方だから,禁止するべきだ,とか,

 選挙運動のときに使えるスピーカーの数を減らそう,とか,

 そういう選挙運動の「おかしなやり方」についての話し合いの中で,

 「多くの子どもたちが選挙運動に入ってくることも問題だ」,という意見もありました。


 そして,「大人を取り締まっているだけではダメだ。選挙運動をしている子どもを,直接,警察が取り締まれるようにするべきだ」と,国会議員たちが話し合いました。

 それで,警察が直接,子どもに選挙運動をやめさせることができるようにするために,

 「子どもの選挙運動を犯罪にする」ということが,公職選挙法に付け加えられてしまったのです
【★8~10】

 そこに,「子どもを守る」という考えは,ありませんでした。


 子どもには,投票する権利がありません。

 でも,投票する権利がない今も,この社会の中の,だいじなメンバーです。

 そして,これからの先の未来の社会を築いていく,だいじなメンバーです。

 投票する権利がないからこそ,

 今,投票する権利を持っている大人たちに向かって,

 「子どものことと,これからの社会のことを,きちんと考えている候補者や政党に投票してほしい」,

 子どもからそう一生懸命働きかけるのは,とても大切なことだと思います。


 どんな人でも,一人ひとりがだいじな存在として扱われ,尊重(そんちょう)されること。

 法律は,そのことを,一番だいじにしています【★11】

 一人ひとりがだいじな存在として扱われ,尊重されるためには,

 どんな人も,自分の言いたいことを言うことができて,

 どんな人も,他の人の意見をきちんと聞くことができる,

 そういうことが,絶対に必要です。


 だから,「言いたいことを言える自由,他の人に伝える自由」は,

 大人だけでなく,子どもにも,もちろんあります【★12】

 そして,この自由は,

 民主主義というこの社会のしくみの,その土台となる,とても大切な自由なので,

 「よっぽどの理由」がなければ,法律で制限してはいけないのです【★13】

 子どもの選挙運動を禁止して犯罪にまですることの理由を,いくら後付けで考えてみたところで,

 それは,「言いたいことを言える自由」を制限していいほどの,「よっぽどの理由」にまではなりません。


 教育基本法や,学校教育法という,「教育」についての法律には,

 「子どもたちが,この社会のメンバーとして積極的にかかわっていくことができるように,育てていこう」,

 そう,はっきり書いてあります【★14】

 それなのに,この社会を作る一番だいじな選挙という場面で,子どもが積極的にかかわることを禁止するのは,まったくちぐはぐなことです。


 「かかわってはいけない」と言われたら,選挙に関心を持てるわけがないし,

 それでいて,大人になったとたんに,「政治に関心を持ちなさい」,「投票に行きなさい」と言われても,とまどうに決まっている。

 まだ投票権のない人が,ツイッターにそう書いていました。

 私も,そのとおりだと思います。


 「社会人」という言葉は,

 「生徒・学生ではない人」,「働いている大人」,という意味で使われることが,多いですね。

 でも,最近の選挙では,その「社会人」の半分近くが,投票に行っていません。

 投票する権利を持っているのに,投票に行かない大人たちと,

 投票する権利はまだなくても,政治に関心を持って,候補者や政党を応援したいと思う子どもたち。

 それを比(くら)べれば,その子どもたちのほうが,社会のことを考え,社会のメンバーとして自覚のある,りっぱな「社会人」だと,私は思います。


 「子どもの選挙運動は犯罪になる」,という条文は,学者も,裁判官も,問題があると言っています【★15~17】

 この条文は,なくすべきだと思います。

 あなたがこれから大人になって,投票する権利を持ったら,

 ぜひ,子どものため,これからの社会のために,一生懸命考え,動いてくれる候補者に,投票してください。

 

【★1】 憲法15条3項 「公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する。」
 この記事を書いた2015年(平成27年)1月の時点では,選挙ができるのは20歳以上でしたが,2015年(平成27年)6月,18歳・19歳も選挙権を持てるようにする法律ができました。2016年(平成28年)の夏から実施される見込みです。
 (改正後の)公職選挙法9条1項 「日本国民で年齢満18年以上の者は,衆議院議員及(およ)び参議院議員の選挙権を有(ゆう)する」
 同条2項 「日本国民たる年齢満18年以上の者で引き続き3箇(か)月以上地町村の区域内に住所を有する者は,その属(ぞく)する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する」
【★2】 (改正後の)公職選挙法137条の2第1項 「年齢満18年未満の者は,選挙運動をすることができない」
【★3】 (改正後の)公職選挙法137条の2第2項 「何人(なんぴと)も,年齢満18年未満の者を使用して選挙運動をすることができない。ただし,選挙運動のための労務に使用する場合は,この限(かぎ)りでない」
 労務提供と選挙運動の区別(昭和28,3国警質疑集)「問 未成年者は選挙運動のための労務に従事(じゅうじ)することができるか。その場合における労務と選挙運動との区別如何(いかん)。 答 法第137条の2の規定により,未成年者について禁止されているのは,『選挙運動』に限られているのであって,労務を提供することは差支(さしつかえ)ない。この場合における『選挙運動のための労務』というのは,例えば,選挙事務所においての文書の発送,接受(せつじゅ)にあたるとか,湯茶の接待にあたるとか,物品の運搬に従事する如(ごと)き機械的労務をいうのであって,連呼行為(れんここうい)や街頭演説を行ったり,個人演説会において弁士として演説する如く,選挙人に直接働きかける行為は,たとえ,それが与えられた原稿をそのまま読み上げ,或(ある)いは丸暗記して単純に機械的にこれを繰返すにすぎないものであっても,『選挙運動』と解(かい)すべきものである。」(選挙制度研究会編「選挙関係実例判例集 第16次改訂版」1060頁)
【★4】 総務省ウェブサイト http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/popup-chirashi02.html
【★5】 公職選挙法239条1項 「次の各号の一に該当(がいとう)する者は,1年以下の禁錮(きんこ)又(また)は30万円以下の罰金に処(しょ)する 一 …第137条の2…の規定に違反して選挙運動をした者 (以下略)」
【★6】 大阪高等裁判所平成4年6月26日判決(判例タイムズ822号283頁) 「公職選挙法137条の2第2項は,有権者の投票を獲得(かくとく)するため,政策,政治的主張あるいは候補者の力量の優劣(ゆうれつ)について,多種多様な議論と行動が衝突(しょうとつ)する選挙運動に,投票権がなく社会性も未熟な未成年者を巻き込ませないことが望ましいとする考え方と背景とし,選挙運動のあり方に一定の自制的(じせいてき)ルールを設定した立法であると解(かい)される」
【★7】 この戸別訪問の禁止は,表現の自由を保障(ほしょう)している憲法に違反している,という裁判が,とても多く起こされてきました。中には,地方裁判所と,その上の高等裁判所が,「戸別訪問を一切禁止しているこの条文は,憲法に違反している」とはっきり判決を言い渡したケースもあります(松江地方裁判所出雲支部昭和54年1月24日判決・判例時報923号141頁,広島高等裁判所松江支部昭和55年4月28日・判例時報964号134頁)。ただし,そのさらに上の最高裁判所は,憲法に違反していない,と判断しています(多くの判例がありますが,地裁・高裁の違憲判決を破棄したものは最高裁判所第二小法廷昭和56年6月15日判決・刑集35巻4号205頁)。
【★8】 昭和27年8月16日法律第307号「公職選挙法の一部を改正する法律」
【★9】 第13回国会公職選挙法改正に関する調査特別委員会第4号(昭和27年6月4日)
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/013/0145/01306040145004a.html
「○三浦法制局参事 …未成年者が自発的にやる場合については,この法律で制限する範囲ではない,かように考えております。
○河野(金)委員 今の三浦さんのような解釈をするならば,こんな法律をつくる必要がなくなってしまう。未成年者は選挙運動に携(たずさ)わることはできぬ,選挙運動とは,もちろんある程度先ほど言うメガホンなりマイクでやることも選挙運動なんだから,こういうことも禁止する,未成年者を禁止するということでないと,ただ使用者だけ罰してかってにやるというのは……。
○小澤委員長 結論だけを載せるようにして……。ちょっと速記をとめてください。
 〔速記中止〕
○小澤委員長 速記を始めて……。ただいまの未成年者の問題は,法制局の方では,少年法等の関係で,自発的に未成年者がやった場合には罰しない趣旨で規定ができておったのだそうでありますけれども,しかし今皆さんの御意向等を承(うけたまわ)れば,かりに警察官がこれを取締ることが可能であるということだけでも相当の効果があるという趣旨で,必ずしも罰金は科さないで体刑に処するという趣旨でなく,取締りの可能という意味から,多少理論的には変であるけれども,未成年者も罰する,取締るということで進むことにしていかがですか。使用者も罰する。
 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕」
【★10】 佐藤幸治教授は,【★9】の議論にも触れて,次のように書いています。
 「以上の審議の模様(もよう)から,未成年者が大量に選挙過程に参入(さんにゅう)してくると思われた事情があり,それを阻(はば)む必要が感じ取られ,それでまず未成年者を『選挙運動』に使用することの禁止が考え出され,その禁止を実効(じっこう)あらしめ,実際の取締上の便宜(べんぎ)も考慮されて,未成年者自身の『選挙運動』を禁止し,理論上多少問題があることが自覚されながらも,その禁止違反行為に対して罰金,禁錮に処するという道が選択された,ということがいえるようである。とすると,当該規制は,未成年者自身を保護するというパターナリスティックな制約といった趣旨のものではなく,むしろ選挙運動一般のあり方が問題とされ,それに付随(ふずい)して未成年者の行為の取締りが浮上してきた,というのが,制定過程に即してみた場合の事情だったようである。」(有斐閣「現代国家と人権」「子どもと参政権利」247頁)
【★11】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★12】 憲法21条1項 「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。」
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)12条1項 「締約国(ていやくこく)は,自己(じこ)の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及(およ)ぼすすべての事項(じこう)について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その意見の年齢及び成熟度に従(したが)って相応(そうおう)に考慮されるものとする」
 同条約13条1項 「児童は,表現の自由についての権利を有する。この権利には,口頭,手書き若(も)しくは印刷,芸術の形態又は自ら選択する他の方法により,国境とのかかわりなく,あらゆる種類の情報及び考えを求め,受け及び伝える自由を含む。」
 同条2項 「1の権利の行使については,一定の制限を課することができる。ただし,その制限は,法律によって定められ,かつ,次の目的のために必要とされるものに限る。(a)他の者の権利又は信用の尊重 (b)国の安全,公(おおやけ)の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」
【★13】 「『二重の基準』,すなわち,表現の自由を中心とする精神的自由を規制する立法の合憲性は,経済的自由を規制する立法よりも,とくに厳しい基準によって審査されなければならない」(略)「経済的自由も人間の自由と生存にとってきわめて重要な人権であるが,それに関する不当な立法は,民主政の過程が正常に機能しているかぎり,議会でこれを是正(ぜせい)することが可能であり,それがまた適当でもある。これに対して,民主政の過程を支える精神的自由は『これわ易(やす)く傷つき易い』権利であり,それが不当に制限されている場合には,国民の知る権利が十全(じゅうぜん)に保障されず,民主政の過程そのものが傷つけられているために,裁判所が積極的に介入して民主政の過程の正常な運営を回復することが必要である。精神的自由を規制する立法の合憲性を裁判所が厳格に審査しなければならないというのは,その意味である」(芦部信喜「憲法 第4版」181頁)
【★14】 教育基本法2条 「教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,次に掲(かか)げる目標を達成するよう行われるものとする。 (略) 三 正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずるとともに,公共の精神に基づき,主体的に社会の形成に参画(さんかく)し,その発展に寄与(きよ)する態度を養(やしな)うこと。」
 学校教育法5条2項 「義務教育として行われる普通教育は,各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培(つちか)い,また,国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。」
 同法21条 「義務教育として行われる普通教育は,教育基本法…第5条第2項に規定する目的を実現するため,次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。 一 学校内外における社会的活動を促進(そくしん)し,自主,自律及び協同の精神,規範意識,公正な判断力並(なら)びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する態度を養うこと。」
【★15】 「第1項の規定は,心身未成熟な未成年者を保護するためにもうけられたものであろうが,その違反に対する法第239条第1項の処罰規定は,他の法令にも例をみないものである。少年法…においては,未成年者を対象として罰金刑を課すことはできないのみならず,未成年者を刑事処分に付することは少年法の精神より考えれば例外的な措置(そち)であるし,また,いわゆる行政犯としか考えられない本条の違反は,家庭裁判所の保護処分にも親しまないものであるから,処罰規定を置くことはいささか疑問であるといえよう」(安田充・荒川敦編著「逐条解説 公職選挙法(下)」1016頁)
【★16】 佐藤幸治教授は,次のように言っています。
 「…未成年者も主権者を構成するものとして考えるべきであること,ならびに,未成年者の生への規制的介入は,成人の場合と同様他者加害に及ぶとき,および,成熟した判断を欠く行動の結果,長期的にみて未成年者自身の目的達成諸能力を重大かつ永続的に弱化せしめる見込みのあるときに限って容認されると考えるべきこと,をみた。かかる観点に立って公職選挙法137条の2および239条1項1号をみると,その合憲性について相当強い疑問が生じる。」(略)「特に未成年者だけについて,他害性を理由とし,あるいはパターナリズムを理由として,その『選挙運動』を1年以下の禁錮または10万円〔現在は30万円〕以下の罰金をもって禁圧することを憲法上正当化することは困難であるといわなければならないように思う。」(有斐閣「現代国家と人権」「子どもと参政権利」241~251頁)
【★17】 大阪高等裁判所平成4年6月26日判決(判例タイムズ822号283頁)は,未成年者を選挙運動に使った大人のがわを処罰することが争われたケースでした。裁判所は,大人を処罰する公職選挙法137条の2第2項については,憲法には違反していない,と判断しましたが,子ども自身を処罰する第1項のほうについては,「未成年者が選挙運動にかかわることを一律(いちりつ)に禁止し,しかも未成年者自身を処罰する同法137条の2第1項の合理性には疑問が残るといわなければならない」と言っています。
 

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