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2014年11月

2014年11月 1日 (土)

在日コリアンの身分証と通称

 

 在日コリアンです。「16歳以上になったら,外を出歩くときには身分証のカードを持っていないといけない」,と聞いていたんですが,最近法律が変わったとネットで見ました。今は,身分証のカードを持たなくてもいいんですか。あと,別のサイトでは,「法律が変わって,在日コリアンは日本名の通称が使えなくなった」とも書かれているんですが,本当ですか。

 

 法律が変わって,在日コリアンの人は,身分証のカードを持ち歩かなくてもOKになりました。


 また,「日本名の通称が使えなくなった」というのは,まちがいです。

 あなたが日本名の通称を使っているのなら,引き続きその名前を使うことができます。



 外国の人が,旅行や仕事などで,ちょっとのあいだだけ日本に来ているときは,

 「自分は,どこの国から来た,何という名前の人か」がわかるものをいつも持っていないと,

 何かトラブルがあったときに,本人も,まわりの人たちも,てがかりがなくて,こまってしまいます。

 だから,「外国の人は,出歩いたりするときに,いつもパスポートを持っていないといけない」,と法律で決まっています
【★1】

 パスポートを持っていないと,そのことじたいが犯罪になってしまいます
【★2】


 ただ,小さい子どものうちは,書類の大切さがよくわからないし,きちんとなくさないように持っていることも難しいですね。

 だから,パスポートを持ち歩かないといけないのは,16歳以上の人,とされています
【★3】【★4】


 でも,旅行などでちょっとだけ来たのではなく,日本で暮らしているという外国の人まで,いつもパスポートを持っていないといけないのでは,不便です。

 なので,いままでは,そういう人は,市役所や区役所で受け取る「外国人登録証明書」という小さいカードを持っていればOK,ということになっていました
【★5】

 しかし,そのカードを持ち歩かなければ,16歳以上なら,やはり犯罪になってしまいます。



 あなたやあなたの家族のような,在日コリアン(在日韓国・朝鮮人)の人も,以前は,そうでした。


 でも,在日コリアンの人たちには,他の外国の人たちとは,ちがった背景があります。


 今から100年あまり前の,1910年(明治43年),日本は,朝鮮半島(今の韓国と北朝鮮)を,自分の国にして,支配するようになりました【★6】

 これを,「韓国併合(かんこくへいごう)」と言います。

 朝鮮半島の人々は,日本国籍になりました。

 それから35年後の1945年(昭和20年),日本は大きな戦争に負けました。

 そして,朝鮮半島は,日本から独立しました
【★7】

 しかし,日本はそのとき,「朝鮮半島の人々の国籍がどうなるか」について,きちんと法律を作りませんでした。

 憲法では,「国籍のことは法律できちんと決めないといけない」としているのに
【★8】

 国会で議員たちが話し合って法律を作らずに,

 日本の役所が,「もともと朝鮮半島の人は,日本の国籍を失(うしな)う」,としてしまったのです
【★9】【★10】

 当時,すでにたくさんの人々が朝鮮半島からやってきて,日本の中で暮らしていました。

 日本が敗戦し,朝鮮が独立したとき,多くの人たちが朝鮮半島に帰りましたが,

 数十万人の人たちが,いろんな事情で,朝鮮半島に帰ることができませんでした
【★11】

 そうして日本にとどまったのが,在日コリアンの人たちです。

 韓国併合で,一方的に国籍を日本にされ,

 その日本にやってきたのに,

 こんどは,日本の敗戦・朝鮮の独立で,一方的に日本の国籍を奪(うば)われたのです。

 そういう背景があるのに,在日コリアンの人たちは,「外国人だから」という理由で,日本の中で,いろんな差別を受けてきました。



 国籍が日本の人は,身分証を持ち歩く必要はありません。

 免許証や「住基カード」などを持っていれば,いざというときに自分が誰かを証明できて便利ですが
【★12】

 だからといって,「それらを持ち歩かなければ犯罪」ということにはなりません。

 日本で暮らしているなら,外を歩いているその時に身分証がなくても,その人が誰なのかは,すぐにきちんとわかります。



 同じように,日本でずっと長く暮らしてきた在日コリアンの人たちだって,身分証を持ち歩かなくても,その人が誰なのかは,すぐにきちんとわかります。

 だから,「身分証を持ち歩かないといけない,そうでないと犯罪になる」,という法律には,とても強い批判がありました
【★13】

 そして,1999年(平成11年)に法律が変わって,「在日コリアンの人は,カードを持ち歩かなければいけないけど,持ち歩かなくても犯罪にまではならない」ということになり
【★14】

 さらに法律が変わって,2012年(平成24年)7月からは,「在日コリアンの人は,カードを持ち歩かなくてもOK」ということになりました
【★15】

 (カードのタイトルは,それまでの「外国人登録証明書」から,「特別永住者証明書」に変わりました)。

 なので,あなたも,身分証のカードを持ち歩く必要は,ありません。



 そのほかの外国籍の人は,今も,身分証を持ち歩かなければ,犯罪になってしまいます。

 でも,よく考えてみれば,在日コリアン以外の外国籍の人も,

 ずっと長く日本に暮らしているのであれば,

 身分証のカードを持ち歩かなくても,その人が誰なのかは,すぐにきちんとわかります。

 ましてや,子どもは,親を選んで生まれてくることはできません。

 だから,日本で生まれて,ずっと暮らしてきている外国籍の人なら,

 在日コリアンの人たちと同じように,身分証のカードを持ち歩かなくてもよいようにしていくべきだと,私は思います
【★16】【★17】


 在日コリアンの人は,

 韓国/朝鮮の名前で暮らしている人もいますし,

 日本名で暮らしている人もいます。

 在日コリアンの人が使っている日本名を,法律では,「通称(つうしょう)」と言います。

 韓国併合で,朝鮮半島の人たちの国籍が日本になった,ということは,さっき書きましたが,

 その30年後の1940年(昭和15年)には,そのほとんどの人が,日本名を持つことになりました
【★18】

 今,在日コリアンの人で日本名の通称を使っている人がいるのは,そういう歴史的な背景があります。



 今までのカード(外国人登録証明書)には,韓国/朝鮮の名前といっしょに,通称も書かれていました。

 今回,法律が変わり,在日コリアンの人に渡される新しいカード(特別永住者証明書)には,通称は書かれません。

 そのことから,インターネットでは,「通称が使えなくなった」というコメントを見ることがあります。

 でも,「通称が使えなくなった」というのは,まちがいです。

 通称を使う必要がある,と認められた外国籍の人は,

 住民票に通称を載せることができますし
【★19】

 「住基カード」にも,通称を載せることができます
【★20】


 そもそも,通称を住民票や住基カードに載せることができるのは,在日コリアンの人に限(かぎ)った話ではありません。

 通称が必要な外国籍の人は,在日コリアンの人でなくても,使うことができます。

 実際,日本名の通称を使っている外国籍の人は,在日コリアンの人以外にも,たくさんいます。



 自分はいったい,どんな人間なのか。

 そのことを,「アイデンティティ」と言います。

 アイデンティティは,人が人であるために欠かせないものです。

 特に,子どもから大人になるころは,自分がどんな人間なのかを考える,自分さがしをする大切な時期です。

 そして,国籍,民族,自分の名前は,アイデンティティにかかわる重要なことがらです。

 韓国/朝鮮の名前で暮らすか,日本名で暮らすかは,

 「こうしなければいけない」,という答えはありません。

 自分自身の気持ちや,まわりの状況,いろんなことをふまえて,

 自分で考え,自分らしい生き方を選んでいってください
【★21】【★22】


 今,インターネットでは,在日コリアンの人々を攻撃したり,この社会から除(の)け者にしようとする「ヘイトスピーチ」が,多くあふれています。

 「在日特権」などという言葉で,在日コリアンの人たちが何か特別な利益(りえき)を得(え)ているかのような,でたらめなデマが,多く流れています
【★23】

 実際には,在日コリアンの人たちが特別な利益を得ていることなど,ありません。

 むしろ,さまざまな不利益を受け続けてきたのです。



 どんな人であっても,一人ひとりが,大切な存在として扱(あつか)われ,尊重(そんちょう)されること。

 法律は,そのことを一番大切にしています。

 それは,民族や国籍がどのようであっても,同じです
【★24】


 人種差別撤廃(てっぱい)条約という,ヘイトスピーチをなくすための世界の国々との約束の輪の中には,日本も入っています
【★25】

 ヘイトスピーチをなくしていくことは,

 差別されている人々を守るだけでなく,

 「一人ひとりがお互いを尊重し合う」という,私たちの公正な社会を守ることにつながります。


 在日コリアンの子どもたちや,そのほかの外国籍の子どもたちが,

 子どものときも,これから先,大人になっても,

 差別されることのない社会であること。

 そのために,この社会を築(きず)いている私たち一人ひとりが,

 みんなでしっかり取り組んでいかなければいけません
【★26】。

 そして,実際に今,「ヘイトスピーチをなくそう」と一生懸命取り組んでいる人たちが,この社会の中にたくさんいる,ということを,

 ぜひ知っておいてほしいと思います。

 

【★1】 出入国管理及び難民認定法23条1項 「本邦(ほんぽう)に在留(ざいりゅう)する外国人は,常(つね)に旅券…を携帯していなければならない。(略)」
 「旅券」というのは,パスポートのことです。
【★2】 出入国管理及び難民認定法76項 「次の各号のいずれかに該当(がいとう)する者は,10万円以下の罰金に処(しょ)する。 一 第23条第1項の規定に違反した者 (略)」
【★3】 出入国管理及び難民認定法23条5項 「16歳に満たない外国人は,第1項本文及び第2項の規定にかかわらず,旅券等を携帯することを要(よう)しない。」
【★4】 坂中英徳・齋藤利男著「出入国管理及び難民認定法逐条解説・改訂第三版」462頁 「本邦に在留する外国人の在留管理をくまなく行うという立場からすると,すべての在留外国人に対して旅券…の携帯義務を課すことも考えられるが,年少者の事理(じり)の弁識(べんしき)能力や旅券等の管理・保管能力を考慮すると,年齢のいかんに関わらず一律(いちりつ)に携帯義務を課すのは適当ではない。そこで,本項は,一定の年齢を基準として携帯義務を課することとし,本人の事理弁識能力,刑法における責任能力,外国人登録証明書の携帯義務年齢,義務教育終了年齢等を勘案(かんあん)して,その年齢を16歳以上と定めたものである。」
【★5】 改正前の出入国管理及び難民認定法23条1項但書 「ただし,外国人登録法による外国人登録証明書を携帯する場合は,この限りでない。」
【★6】 韓国併合に関する条約1条 「韓国皇帝陛下は韓国全部に関する一切の統治権を完全且(かつ)永久に日本国皇帝陛下に譲与(じょうよ)す」
同条約2条 「日本国皇帝陛下は前条に掲(かか)げたる譲与を受諾(じゅだく)し且全然韓国を日本帝国に併合することを承諾(しょうだく)す」
【★7】 6年後の1951年(昭和26年),日本が連合国との間で結んだ「サンフランシスコ平和条約」に,そのように書かれています。「連合国」というのは,第二次世界大戦で,日本・ドイツ・イタリアなどの「枢軸国」(すうじくこく)を相手に戦った,アメリカ・イギリス・フランス・ソビエト連邦・中華民国を中心に連合した国々のことです。
 サンフランシスコ平和条約2条(a) 「日本国は,朝鮮の独立を承認して,済州(さいしゅう/チェジュ)島,巨文(きょぶん/コムン)島及び欝陵(うつりょう/ウルルン)島を含む朝鮮に対するすべての権利,権原(けんげん)及(およ)び請求権を放棄(ほうき)する。」
【★8】 憲法10条 「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」
【★9】 「平和条約の発効に伴う朝鮮人台湾人等に関する国籍及び戸籍事務の処理について」(昭和27年4月19日,法務府・民事甲第438号民事局長通達) 「第一 朝鮮及び台湾関係」「(一) 朝鮮及び台湾は,条約の発効の日から日本国の領土から分離することとなるので,これに伴(ともな)い,朝鮮人及び台湾人は,内地(ないち)に在住している者を含(ふく)めてすべて日本の国籍を喪失(そうしつ)する。」
【★10】 最高裁判所大法廷昭和36年4月5日判決(民集15巻4号657頁)は,法律がなくても,平和条約によって「朝鮮に属すべき人に対する主権を放棄した」からかまわない,としました。
 しかし,それまでの国際法上の慣例(かんれい)として,戦争が終わったときに,定住外国人が国籍を選ぶ自由がありました。そういったことを理由として,日本の対応や最高裁の考え方は間違っている,という,強い批判があります(大沼保昭「在日韓国・朝鮮人の国籍と人権」)。
【★11】 菊池嘉晃さんは,1946年9月のGHQ参謀第2部調査報告が,在日コリアンの人々が朝鮮半島への帰国を見合わせた理由を,(1)帰還を思いとどまらせる制限(GHQの定めた持帰金制限など),(2)帰還を思いとどまらせる朝鮮の状況,(3)在日コリアンが日本での生活に融合(ゆうごう)していること,と報告していることを指摘し,次のように述べています(菊池嘉晃「北朝鮮帰国事業」中公新書23頁)。
 「この時点で残留していた在日コリアンの多くは日本滞在歴が比較的長い人々であり,日本に生活基盤を置いていた人々が多かった。故郷での生活基盤が脆弱(ぜいじゃく)ないし皆無(かいむ)で,なおかつ朝鮮南部が混乱状態では,生活者として帰国をためらうのは当然だったのである。日本生まれの子どもを持つ家庭では,母国語に習熟していない子どもの問題もネックであった」
【★12】 「住基カード」は,正式には「住民基本台帳カード」と言います。市区町村で発行してもらうことができます。
【★13】 1993年(平成5年)11月4日国連自由権規約委員会の最終見解第9項 「当委員会は,在日韓国・朝鮮人,部落民及びアイヌ少数民族のような社会集団に対する差別的な取扱いが日本に存続していることについて懸念を表明するものである。永住的外国人であっても,証明書を常時携帯しなければならず,また刑罰の適用対象とされ,同様のことが,日本国籍を有する者には適用されないことは,規約に反するものである。」
【★14】 当時の出入国管理及び難民認定法76条 「次の各号のいずれかに該当する者は,10万円以下の罰金に処する。 一 第23条第1項の規定に違反して旅券又は許可証を携帯しなかった者(特別永住者を除く)。」
 「特別永住者」は,そのほとんどが在日コリアンの人々です。
 このときの法律改正で,在日コリアンの人たちが外国人登録証を持っていないことは,犯罪でなくなり,刑罰はなくなりましたが,「過料(かりょう)」という行政罰(ぎょうせいばつ)は残っていました。
 当時の出入国管理及び難民認定法77条の2 「特別永住者が第23条第1項の規定に違反して旅券又は許可書を携帯しなかったときは,10万円以下の過料に処する。」
【★15】 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法17条4項 「特別永住者については,入管法第23条第1項本文の規定(これに係(かか)る罰則を含む。)は,適用しない。」
【★16】 かつて,外国の国籍の人が日本で暮らすときには,役所で指紋を取られていました(指紋押捺(おうなつ)制度)。このことに対して大きな反対運動があり,平成4年にまず在留資格が永住・特別永住の人たち(主に在日コリアンの人たち)の指紋押捺制度が廃止されました。そして,平成12年に,すべての外国の人の指紋押捺が廃止になりました。身分証の携帯義務も,同じように変わっていくことが必要だと思います。
【★17】 特別永住者以外の人の身分証のタイトルは,それまでの「外国人登録証明書」から,「在留カード」に変わりました。
【★18】 「創氏改名(そうしかいめい)」と言います。
 1939年(昭和14年)11月7日政令「朝鮮民事令中を改正す(壻(むこ)養子制度創設及(および)之(これ)と関係する氏(うじ)に関する規定)」 「朝鮮民事令中左の通(とおり)改正す 第11条第1項中『但(ただ)し』の下に『氏,』を…加え同条に左の一項を加(くわ)う 氏は戸主(こしゅ)…之(これ)を定む」
 (改正後の朝鮮民事令第11条第1項 「朝鮮人の親族及(および)相続に関しては別段の規定あるものを除くの外(ほか)第1条の法律に依(よ)らず慣習に依(よ)る但(ただ)し氏(うじ),婚姻年齢,裁判上の離婚,…(略)…に関する規定はこの限(かぎり)に在(あ)らず」
 同制令附則 「(略)朝鮮人戸主…は本令施行後6月以内に新(あらた)に氏を定め之(これ)を府尹(ふいん)又は邑(ゆう)面(めん)長に届出づることを要す (略)」
 1939年(昭和14年)11月7日政令「朝鮮人の氏名に関する件」 1条 「御歴代御諱(いみな)又は御名は之を氏名又は名に用(もち)うることを得ず 自己の姓(せい)以外の姓は氏(うじ)として之(これ)を用(もち)うることを得(え)ず但(ただ)し一家創立の場合に於(おい)ては此(こ)の限(かぎり)に在(あ)らず」
 同2条 「氏名は之を変更する事を得ず但し正当の事由ある場合に於(おい)て朝鮮総督の定むる所に依(よ)り許可を受けたる時は此(こ)の限(かぎり)に在(あ)らず」
【★19】 住民基本台帳法7条 「住民票には,次に掲げる事項について記載…をする。 (略) 十四  前各号に掲げる事項のほか,政令で定める事項」
 住民基本台帳法施行令30条の25 「外国人住民に係る住民票の法第7条第14号 に規定する政令で定める事項は,第6条の2に定めるもののほか,次に掲げる事項とする。 一  次条第一項に規定する通称」
 同施行令30条の26第1項 「外国人住民は,住民票に通称(氏名以外の呼称であって,国内における社会生活上通用していることその他の事由により居住関係の公証のために住民票に記載することが必要であると認められるものをいう。…)の記載を求めようとするときは,その者が記録されている住民基本台帳を備える市町村の市町村長…に,通称として記載を求める呼称その他総務省令で定める事項を記載した申出書を提出するとともに,当該呼称が居住関係の公証のために住民票に記載されることが必要であることを証するに足りる資料を提示しなければならない。」
 同条2項 「住所地市町村長は,前項の規定による申出書の提出があった場合において,同項に規定する当該呼称を住民票に記載することが居住関係の公証のために必要であると認められるときは,これを当該外国人住民に係る住民票に通称として記載しなければならない。」
【★20】 住民基本台帳法30条の44 「住民基本台帳に記録されている者は,その者が記録されている住民基本台帳を備える市町村の市町村長…に対し,自己に係る住民基本台帳カード(その者に係る住民票に記載された氏名その他政令で定める事項…が記載され,かつ,当該住民票に記載された住民票コードが記録された半導体集積回路…が組み込まれたカードをいう。…)の交付を求めることができる。
 住民基本台帳法施行令30条の12 「法第30条の44第1項に規定する政令で定める事項は,住民基本台帳カードの交付を受けようとする者(次条及び第30条の15において「交付申請者」という。)がその者に係る住民票に記載された出生の年月日,男女の別及び住所が記載された住民基本台帳カードの交付を求める場合においては,住民票に記載された出生の年月日,男女の別及び住所とする。」
 同施行令30条の26第7項 「外国人住民に係る住民票に通称が記載されている場合における法及びこの政令の規定の適用については,次の表の上欄に掲げる規定中同表の中欄に掲げる字句は,それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。 (略) (上欄)第30条の12 (中欄)次条及び第30条の15において「交付申請者」という。)がその者 (下欄)以下「交付申請者」という。)に係る住民票に記載された通称のほか,交付申請者がその者」
【★21】 今から40年ほど前,在日コリアンの人が,履歴書(りれきしょ)の「本籍」のところに日本での出生地,「氏名」のところに日本名を書いて会社に就職したところ,会社側がその人を解雇(かいこ)した,という事件で,横浜地方裁判所昭和49年6月19日判決(判例時報744号29頁。日立製作所事件)は,次のように述べて,解雇は無効だとしました。
 「戦後も現在に至るまで,在日朝鮮人は,就職に関して日本人と差別され,大企業にほとんど就職することができず,多くは零細(れいさい)企業や個人経営者の下に働き,その職種も肉体労働や店員が主で,一般に労働条件も劣悪(れつあく)の場所で働くことを余儀(よぎ)なくされている。また在日朝鮮人が朝鮮人であることを公示して大企業等に就職しようとしても受験の機会さえ与えられない場合もあり,そのため在日朝鮮人のなかには,本名を使わず日本名のみを使い,朝鮮人であることを秘匿(ひとく)して就職しているものも多い。右のような現状は,在日朝鮮人の間では,広く知れわたっている事実であり,いわば常識化していることである。そして,又,我国の一流と目(もく)される大企業の間においても,特殊(とくしゅ)の例外を除き,在日朝鮮人であるというだけの理由で,これが採用を拒(こば)み続けているという事実も,公式に或(あるい)は積極的な表現こそ避(さ)けてはいるものの,当然のこととし常識化しているところである。原告は,右の多くの在日朝鮮人と同じように,生れたときから,日本名『△△』を命名され,以後日本の小,中,高等学校でも終始,右日本名のみを使い,同僚(どうりょう)や教師からも同様に呼ばれており(卒業証書等における氏名も同様である。),本名の『○○』は自ら使用した生活場面もなく,ただ外国人登録証明書や運転免許証などのわずかの公文書のうえで見かけたに過ぎない縁遠い名前となっていた。また,原告は,親兄弟や周囲の同胞(どうほう)の体験を知って行く中で,前記の在日朝鮮人に対する就職差別の現実を知り,被告のような大企業に就職しようとする際,履歴書の本籍欄に『本籍なし』とか『慶尚北道(けいしょうほくどう/キョンサンプクト)……』」(外国人登録証明書中の国籍の属する国における住所,又は居所)と記載することは,とりもなおさず原告が在日朝鮮人であることを公示することとなり,そうなれば就職はおろか受験の機会すら奪われる心配があると思うようになった。そのため,原告は,履歴書,身上書および身上調書の氏名欄に通名となっている『△△』を記載し,履歴書の本籍欄には自己の出生地(両親の現住所と同じ)を記載して,被告に提出した。なお,原告は,学校の成績も良く,簿記一級,珠算三級の資格を有していたので,採用された後被告に朝鮮人であることが判明されたとしても,真面目に働いてさえいれば,解雇されることはないものと予測していた。」…(略)…
 「原告が履歴書等に本名,本籍について真実の記載をせず,採用試験受験に当って真実を申告しなかった点について検討すると,前記…のとおり,在日朝鮮人である原告にとって日本名『△△』は,出生以来ごく日常的に用いて来た通用名であり,これを『偽名』とすることはできないばかりでなく,原告が氏名に本名『○○』を使用し,本籍につき真実を申告することはとりもなおさず原告が在日朝鮮人であることを公示することになるのであるから,原告が被告会社に就職したい一心から,自己が在日朝鮮人であることを秘匿して,日本人らしく見せるために氏名に通用名を記載し,本籍に出生地を記載して申告したとしても,前記のように,原告を含む在日朝鮮人が置かれていた状況の歴史的社会的背景,特に,我が国の大企業が特殊の例外を除き,在日朝鮮人を朝鮮人であるというだけの理由で,これが採用を拒みつづけているという現実や,原告の生活環境等から考慮すると,原告が右詐称(さしょう)等に至(いた)った動機には極めて同情すべき点が多い。一般に,私企業者には契約締結(ていけつ)の自由があるから,立法,行政による措置や民法90条の解釈による制約がない限り労働者の国籍によってその採用を拒否することも,必ずしも違法とはいえないのである。しかし,被告は表面上,又本件訴訟における主張としても,原告が在日朝鮮人であることを採用拒否の理由としていない…ほどであるから,原告が前記のように『氏名』,『本籍』を詐称したとしても(その結果,被告会社は原告が在日朝鮮人であることを知ることができなかったとしても),これをもって被告会社の企業内に留めておくことができないほどの不信義性があり,とすることはできないものといわなければならない。」
【★22】 最近では,在日コリアンの人が職場で日本名の通称を使うよう求められたことについて訴えた裁判があり,大阪高等裁判所平成25年11月26日判決(訟務月報60巻6号1239頁)は,本人が韓国/朝鮮の名前を使うようはっきりと求めている場合には,そのように正確に韓国/朝鮮の名前で呼ばれることは,保護を受けられる人格的な利益がある,としました。
 「氏名の呼称(こしょう)については,最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁の事案において,『氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するものというべきであり,人は,その氏名を正確に表示し,他人から正確に呼称されることについて,不法行為上の保護を受けうる人格的な利益を有する』ものであるとされている。この事案における『氏名の正確な呼称』とは,在日韓国人の本名について,『日本語音読み』ではなく『民族語音読み』による呼称のことをいうものであって,本名の呼称と通名の呼称が問題となる本件とは事案を異(こと)にするものである。しかし,本件のように個人を他人から識別し特定する機能を有するという意味では『本名』と『通名』があるものの,当該本人において,『本名』が『アイデンティティを守るための個人の人格の象徴である。』と認識する場合には,『本名による呼称』を尊重すべきである。以上によれば,控訴人(こうそにん)が『本名による呼称』を明示的に求める場合には,『本名の正確な呼称』について,不法行為上の保護を受けうる人格的な利益を有するものと解される。」
 「しかし他方,控訴人にとっては,通名により呼称されることが自己の朝鮮民族としての人間的な誇りを根幹(こんかん)から奪い去り人間性を破壊しアイデンティティを否定する著(いちじる)しい人格侵害行為であると認識されるようなものであるとしても,本件当時の外国人登録証には控訴人の本名とともに通名が併記(へいき)されていたように,在日韓国人に関する通名による呼称は,社会的には当該個人を他人から識別し特定する氏名としての機能を有し,我が国の社会一般の認識として是認されてきたものである。そうすると,通名の呼称や通名の使用に関連する全(すべ)ての行為が当然に不法行為となるものではなく,在日韓国人が『本名による正確な呼称』を明示的に求めている場合に,そのことを認識しながら,在日韓国人に対して,害意をもって,ことさらに通名の呼称をするなどの特段の事情がない限り,通名による呼称や通名の使用を求める行為は違法性のないものとして容認されるべきである。」
【★23】 「『在日特権』の虚構(きょこう)」(野間易通著,河出書房新社)という本で,いわゆる「在日特権」がデマであることが,詳しく書かれています。
【★24】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重(そんちょう)される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉(ふくし)に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」
 憲法14条1項 「すべて国民は,法の下(もと)に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地(もんち)により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」
 憲法では「国民は」という言葉が使われていて,外国の人にはあてはまらないようにも読めますが,芦部信喜教授は,「人権が前国家的・前憲法的な性格を有するものであり,また,憲法が国際主義の立場から条約および確立された国際法規の遵守(じゅんしゅ)を定め(98条),かつ,国際人権規約等にみられるように人権の国際化の傾向が顕著(けんちょ)に見られるようになったことを考慮するならば,外国人にも,権利の性質上適用可能な人権規定は,すべて及ぶと考えるのが妥当(だとう)である。通説及び判例も,そう解(かい)する。」と述べています(「憲法 第4版」90頁)。
 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)2条2項 「この規約の締約国は,この規約に規定する権利が人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若(も)しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。」
 市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)2条1項 「この規約の各締約国は,その領域内にあり,かつ,その管轄(かんかつ)の下にあるすべての個人に対し,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。」
 同規約26条 「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若(も)しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障(ほしょう)する。」
【★25】 あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)2条1項 「締約国(ていやくこく)は,人種差別を非難(ひなん)し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進(そくしん)する政策をすべての適当な方法により遅滞(ちたい)なくとることを約束する。このため, (略) (d)各締約国は,すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む。)により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる。」
 同条約4条 「締約国は,・・・このような差別のあらゆる扇動(せんどう)又は行為(こうい)を根絶(こんぜつ)することを目的とする迅速(じんそく)かつ積極的な措置(そち)をとることを約束する。このため,締約国は,世界人権宣言に具現(ぐげん)された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って,特に次のことを行う。
(a)人種的優越(ゆうえつ)又は憎悪(ぞうお)に基(もと)づく思想のあらゆる流布(るふ),人種差別の扇動,いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異(こと)にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も,法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。
(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし,このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。
(c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長(じょちょう)し又は扇動することを認めないこと。」
 日本は,この4条のうち,(a)と(b)について,「日本国憲法の下における集会,結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において,これらの規定に基づく義務を履行(りこう)する」という留保(りゅうほ)を付けています。
【★26】 京都の朝鮮学校が,在日特権をなくすことを目的とする団体などに対して,学校近辺などでされた示威(じい)活動や,その映像をインターネットで公開したことについて,損害賠償(そんがいばいしょう)などを求めた事件で,京都地方裁判所は,次のように述べて,高額の慰謝料(いしゃりょう)を団体側が学校に払うよう,判決を言い渡しました(京都地方裁判所平成25年10月7日判決・判例時報2208号74頁。東京高等裁判所平成26年7月8日判決も地裁判決を維持(いじ))。
 「日本政府は,昭和63年,人種差別撤廃条約に基づき設立された国連の人種差別撤廃委員会において,日本の刑事法廷が『人種的動機(racial motivation)』を考慮しないのかとの質問に対し,『レイシズムの事件においては,裁判官がしばしばその悪意の観点から参照し,それが量刑の重さに反映される』と答弁したこと,これを受けて人種差別撤廃委員会は,日本政府に対し『憎悪的及びレイシズム的表明に対処する追加的な措置,とりわけ…関連する憲法,民法,刑法の規定を効果的に実施することを確保すること』を求めた事実が認められる。すなわち,刑事事件の量刑の場面では,犯罪の動機が人種差別にあったことは量刑を加重(かじゅう)させる要因となるのであって,人種差別撤廃条約が法の解釈適用に直接的に影響することは当然のこととして承認されている。同様に,名誉毀損(めいよきそん)等の不法行為が同時に人種差別にも該当(がいとう)する場合,あるいは不法行為が人種差別を動機としている場合も,人種差別撤廃条約が民事法の解釈適用に直接的に影響し,無形損害の認定を加重させる要因となることを否定(ひてい)することはできない。また,前記のとおり,原告に対する業務妨害や名誉毀損が人種差別として行われた本件の場合,わが国の裁判所に対し,人種差別撤廃条約2条1項及び6条から,同条約の定めに適合する法の解釈適用が義務付けられる結果,裁判所が行う無形損害の金銭評価についても高額なものとならざるを得ない。」

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