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2014年7月

2014年7月 1日 (火)

子どもの犯罪の裁判に国選の弁護士は付くの?


 大人の犯罪の裁判のときには「国選(こくせん)弁護人」が付くって話を聞いたことがあるんですが,子どもにも国選で弁護士は付くんですか?


 先月(2014年6月)から,子どもの裁判でも,多くの事件で,国選で弁護士が付くようになりました【★1】


 「弁護士が必要だけど,弁護士の知り合いもいないし,お金もない。

 そういう人に,国が弁護士を選んだり,その費用(ひよう)を国が出したりする」。

 それが,「国選」のしくみです。



 「弁護士の知り合いがいてお金もある」,という人は,自分で弁護士を選んで,費用も自分で出します。

 そのときは,「私選(しせん)」と言います。


 大人が犯罪をしたときの裁判では,ほとんどの事件で,「弁護士がいなければ,裁判じたいを開いてはいけない」,ということになっています【★2】【★3】

 だから,うったえられた被告人(ひこくにん)に,国選で弁護士が付くことが,とても多いです【★4】


 ところが,子どもが犯罪をしたときの裁判は,大人の裁判とはちがいます。

 家庭裁判所で開かれる,「少年審判(しょうねんしんぱん)」という裁判です。


 じつは,この少年審判は,基本的に,「弁護士がいなくても開いていい」という裁判なのです。


 大人よりも子どものほうが,弁護士のサポートが必要なはずなのに,ちぐはぐで,おかしなことですよね。


 大人の裁判では,「この人は犯罪をした」とうったえる「検察官(けんさつかん)」という法律家がいます。

 ふつうの人が,その検察官を相手にしながら,自分の言い分を裁判官にわかってもらうのは,とても難しいことです。

 しかも,大人の裁判では,もし「犯罪をした」と判断されたら,マイナスがあります。

 判決で言いわたされるのは,

 命をうばわれる「死刑」や,

 刑務所に閉じ込められて働く「懲役(ちょうえき)」や,

 お金を払う「罰金(ばっきん)」などの,

 「刑罰(けいばつ)」というマイナスです。


 検察官もいるし,刑罰というマイナスもあるから,

 裁判をフェアなものにするために,

 うったえられたがわにも,弁護士という法律家が,必ず付かないといけない。

 それが,大人の裁判のしくみです。



 子どもの裁判である「少年審判」は,大人の裁判とはちがいます。

 検察官は,部屋にいません。


 裁判官が子どもに言いわたす「審判」も,大人のときの「判決」とはちがいます。

 「少年院に行きなさい」「地元の保護司(ほごし)さんのところに通いなさい」という処分(しょぶん)です。


 「そういう処分は,子どもにとって,マイナスなものでなく,子どもを守る(保護する)プラスのもの」。

 法律は,そう考えています。


 だから,「子どもの裁判では,検察官もいないし,プラスなことをするのだから,弁護士がいなくても特にかまわないでしょう」,というたてまえになっています。


 でも,私たち弁護士は,「それはおかしい」と考えてきました。

 子どもが,自分の気持ちをまとめて,裁判官や親などの大人たちに伝えること。

 どうやって被害者(ひがいしゃ)に謝り,反省したらいいかを,考えること。

 そのためには,弁護士のサポートが必要です。

 そして,

 その子が,これまで,家や学校や地域の中で,大切な存在として扱(あつか)われてこなかったこと。

 居場所がどこにもなく,一人ぼっちだったこと。

 そんないままでのことをいっしょにふりかえり,これからのことをいっしょに考えていくこと。

 そのためにも,弁護士のサポートが必要なのです【★5】


 少年審判で弁護士が子どもに付くことじたいは,むかしから,できることにはなっていました【★6】

 少年審判の中では,弁護士は,「付添人(つきそいにん)」という名前で活動します。


 でも,「弁護士を付けられる」とはいっても,

 子どもが,自分で付添人になってくれる弁護士を探してくることはできないし,ましてや,費用を払うことなどできません。



 だから,弁護士会は,これまで,裁判所に,「子どもに弁護士が付けられることをきちんと説明してほしい」と,はたらきかけてきました【★7】

 全国の弁護士全員でお金を出し合って,付添人になる弁護士に,費用を出すようにも,してきました【★8】

 そして,「はやく,きちんと国選のしくみをつくるべきだ」と,国にうったえてきました。


 しかし,国選の制度は,なかなかできませんでした。


 むしろ,今から14年前の2000年(平成12年),法律が厳(きび)しくなりました。

 「少年法が甘(あま)いから,ひどい少年事件が増えている。だから,法律を厳しくするべきだ」,と,社会が考えるようになったからでした。

 このときに,「重い犯罪のケースでは,検察官が裁判にくわわることもある」,ということが決められました【★9】

 そうすると,大人のときと同じように,弁護士も付かなければ,フェアな裁判とはいえません。

 だから,「検察官が裁判にくわわるときは,国選で弁護士の付添人を付けなければいけない」,というルールになりました【★10】

 でも,検察官が裁判にくわわるケースはとても少ないので,国選で弁護士の付添人が付くケースは,ほとんどない,と言ってもいいほどでした。

 私が弁護士になったのは,11年前の2003年(平成15年)です。

 その年に,国選で弁護士の付添人がついたケースは,たったの9件しかありませんでした。

 その年,裁判所から「少年院に行きなさい」と言われた子どもは,ぜんぶで5241人いました。

 そのうち,裁判で弁護士がついていた子どもは,私選・国選あわせて,たった1413人しかいなかったのです【★11】

 3828人,つまり7割以上もの子どもたちが,弁護士がいないまま裁判を受けて,少年院に行かされていたのは,ほんとうにおかしなことでした。


 少年法は,その後も,いろいろと厳しく変えられてきました。

 ただ,その中で,2007年(平成19年)に,国選で弁護士の付添人が付くことができるケースが,少し増えました。

 「殺人や強盗などの重い犯罪のときには,検察官が裁判にくわわっていなくても,国選で弁護士に付添人を付けることができる」,ということになったのです【★12】

 それでもやはり,国選で弁護士の付添人がついたケースは少ないままでした。

 2年前の2012年(平成24年),国選で弁護士の付添人がついたケースは,319件しかありませんでした。

 この年,裁判所から「少年院に行きなさい」と言われた子どもは3229人いました。

 このうち弁護士がついた子どもの数は,弁護士たちのとりくみによって増えたので,国選・私選あわせて2727人になりましたが,

 それでもやはり,502人もの子どもたちが,弁護士がいないまま裁判を受けて,少年院に行きました【★13】【★14】


 そして今年,また少年法が変わり,国選で弁護士の付添人が付くケースが大きく増えました【★15】

 これからは,8割くらいの子どもたちに,国選で弁護士の付添人が付くだろうと考えられています。

 でも,同時に,法律が変えられたことで,検察官が裁判にくわわることができるようになる事件も,広がってしまいました。

 子どもの裁判が,どんどん厳しくなって,大人の裁判に近づいているのです。



 子どもに,弁護士の付添人がつくことは,とてもプラスです。

 でも,少年法は,全体として,どんどんと厳しい方向に変えられていっています。

 どうして厳しくなっていくのか,ほんとうに「少年法が甘い」のか,

 そのことも,とてもだいじなことなので,また別の記事で書こうと思います。


 なお,すべての事件で国選で弁護士の付添人が付く,というわけではありません。

 裁判所が「必要ない」と考えると,国選では弁護士は付きません。

 また,軽い犯罪の裁判や,「犯罪はしていないけれどもこのままだと犯罪をしそうだ」という「ぐ犯(ぐはん)」の裁判のときにも,国選では弁護士は付きません。

 でも,そういう時でも,やはり,子どもに弁護士のサポートは必要です。

 国選ではなくても,上に書いたように,弁護士全員で出し合っているお金で,弁護士が付くことができますから,すぐに弁護士会に連絡してください。


【★1】 少年法 平成26年4月18日改正,同年6月18日施行
 附則(ふそく)(平成26年4月18日法律第23号)1条但書(ただしがき)「第22条の2第1項及(およ)び第22条の3第2項の改正規定は,公布の日から起算して2月を経過した日から施行する。」
【★2】 刑事訴訟法289条1項「死刑又(また)は無期若(も)しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮(きんこ)にあたる事件を審理する場合には,弁護人がなければ開廷することはできない。」
【★3】 子どもでも,大人と同じ裁判を受けることがあります。家庭裁判所が事件を検察官に送るので,「検察官送致(けんさつかんそうち)」と言います。事件はもともと検察官から家庭裁判所に来ていたもので,それを家庭裁判所が検察官に戻すため,「逆送(ぎゃくそう)」という言い方もします。そして,逆送を受けた検察官が,裁判を起こします。そうして起こされる裁判は,大人の裁判と同じですから,弁護士がついていなければ裁判は開けません。
 少年法20条1項「家庭裁判所は,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない」
 同条2項「前項の規定にかかわらず,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係(かか)るものについては,同項の決定をしなければならない。ただし,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでない」
 少年法45条「家庭裁判所が,第20条の規定によって事件を検察官に送致したときは,次の例による。…… 五 検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,公訴(こうそ)を提起(ていき)するに足りる犯罪の嫌疑(けんぎ)があると思料(しりょう)するときは,公訴を提起しなければならない。…(以下略)」
【★4】 たとえば,平成24年に地方裁判所でおこなわれた大人の裁判は5万6734件ありましたが,このうち5万6393件に弁護士がついていて(弁護士がついていないのは341件,わずか0.6%です),うち,国選弁護人は4万8275件もありました。
 司法統計 刑事事件 第23表 通常第一審事件の終局総人員,弁護関係別,地方裁判所管内全地方裁判所別 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B24DKEI23~24.pdf
【★5】 そのことは,日本を含む世界の国々が,子どもの権利条約で確認しています。
 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)37条「締約国(ていやくこく)は,次のことを確保する。 …(d) 自由を奪(うば)われたすべての児童は,弁護人その他適当な援助を行う者と速(すみ)やかに接触する権利を有(ゆう)し,裁判所その他の権限のある,独立の,かつ,公平な当局においてその自由の剥奪(はくだつ)の合法性を争(あらそ)い並(なら)びにこれについての決定を速やかに受ける権利を有すること。」
 同条約40条1項「締約国は,刑法を犯(おか)したと申し立てられ,訴追(そつい)され又は認定(にんてい)されたすべての児童が尊厳(そんげん)及び価値についての当該(とうがい)児童の意識を促進(そくしん)させるような方法であって,当該児童が他の者の人権及び基本的自由を尊重することを強化し,かつ,当該児童の年齢を考慮し,更(さら)に,当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める。」
 同条2項「このため,締約国は,国際文書の関連する規定を考慮して,特に次のことを確保する。
(略)
(b) 刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたされたすべての児童は,少なくとも次の保障を受けること。
(略)
(ii) …防御(ぼうぎょ)の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと。
(iii) 事案が権限のある,独立の,かつ,公平な当局又は司法機関により法律に基(もと)づく公正な審理において,弁護人その他適当な援助を行う者の立会い…の下(もと)に遅滞(ちたい)なく決定されること。」
【★6】 少年法10条1項「少年及び保護者は,家庭裁判所の許可を受けて,付添人を選任することができる。ただし,弁護士を付添人に選任するには,家庭裁判所の許可を要しない。」
【★7】 福岡県弁護士会がさきがけて「すべての子どもに弁護士をつける」という取り組みを始め,それが全国に広がりました(「少年審判制度が変わる-全件付添人制度の実証的研究-」福岡県弁護士会子どもの権利委員会編,商事法務)。
【★8】 日本弁護士連合会(日弁連)が行っている,少年保護事件付添援助制度です。
【★9】 旧少年法22の2第1項「家庭裁判所は,…次に掲げる罪のものにおいて,その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは,決定をもって,審判に検察官を出席させることができる。
 1 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪
 2 前号に掲げるもののほか,死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」
【★10】 少年法22の3第1項「家庭裁判所は,前条第1項の決定をした場合において,少年に弁護士である付添人がいないときは,弁護士である付添人を付(ふ)さなければならない。」
【★11】 司法統計 平成15年 少年事件 第32表 一般保護事件の終局総人員,付添人の種類別終局決定別,全家庭裁判所 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/E5C3DA6C309BF50149256ED9002C7D45.pdf
【★12】 少年法22条の3第2項「家庭裁判所は,…前条第1項各号に掲げる罪のもの…について,…事案の内容,保護者の有無その他の事情を考慮し,審判の手続に弁護士である付添人が関与する必要があると認めるときは,弁護士である付添人を付することができる。」
 「前条第1項各号」というのは,【★9】にある,旧少年法22の2第1項の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」「死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」のことです。
【★13】 司法統計 平成24年 少年事件 第29表 一般保護事件の終局総人員,付添人の種類別終局決定別,全家庭裁判所 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B24DSYO28~29.pdf
【★14】 大人の事件でも,つい最近まで,「国選」の弁護士は,裁判になってから後しか付いていませんでした。でも,逮捕・勾留(こうりゅう)されて警察などから取り調べを受けているとき,つまり,裁判になる前のときも,弁護士のサポートは必要です。弁護士たちのはらたきかけの結果,ようやく,2006年(平成18年)に,この裁判になる前の時期にも,国選弁護として国がきちんと費用を出すということが決まりました。これを「被疑者国選(ひぎしゃこくせん)」と言います。それでも,スタートしたときは,殺人や強盗などにしか被疑者国選は付きませんでした。2009年(平成21年)から,長期3年を超える懲役若しくは禁固(きんこ)にあたる事件も対象となり,窃盗事件や傷害事件など,多くの事件で被疑者国選が付くようになりました。子どもの犯罪の事件でも,裁判所に事件が行く前の,逮捕・勾留されて警察などから取り調べを受ける期間の手続の流れは同じです。2009年(平成21年)からは,ほとんどの事件で,裁判になる前は,子どもにも国選の弁護士が付くようになり,弁護士費用も国から出るようになりました。ところが,記事本文で書いたように,先月までは,子どもの事件では裁判(少年審判)になったとたんに弁護士は国選ではなくなってしまう(=弁護士全員で出し合っているお金の中から弁護士費用を出さないといけない)という,まったくおかしなことが続いていたのです。
【★15】 少年法22の2第1項「家庭裁判所は,第3条第1項第1号に掲げる少年に係る事件であって,死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪のものにおいて,その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは,決定をもって,審判に検察官を出席させることができる。」
 検察官関与の対象の事件がこのように広がったうえで,国選付添人の対象の事件がこれと同じになっています(【★12】の少年法22条の3第2項)。
    

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