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2014年5月

2014年5月 1日 (木)

子どもから父親とその不倫相手に慰謝料請求できる?

 

 中学2年生です。お父さんが同じ職場の女性と不倫(ふりん)して,家を出て,その女性といっしょに暮らしています。両親はまだ離婚してませんが,お父さんは私に全く会おうともしないし,大きな会社に勤めているのに生活費も払ってくれません。そんなお父さんと,不倫相手の女性に,子どもの私から,「慰謝料(いしゃりょう)を払って」と言えるんですか。

 

 父親が付き合っている相手の女性に,子どもから慰謝料を払えと言えるかどうか。


 今から35年前に,最高裁が,こんな判決を出しています
【★1】


 「父親が子どもに愛情を注(そそ)いだりすること。

 それは,他の女性といっしょに暮らすかどうかに関係なく,父親が自分で決めて,自分でできる。


 つまり,その女性は,関係ない。

 だから,子どもからその女性に,『慰謝料を払え』とは,言えない。

 たとえば,

 『父親自身は子どもに愛情を注ぎたいと思っているのに,その女性がじゃまをしている』,

 そのような,よほどのことがなければ,子どもはその女性に慰謝料を払えとは言えない。」



 最高裁は,同じ日に,同じようなもう一つの事件の判決も出しています。

 お母さんが,海外にいる他の男性と暮らすようになったケースでした。

 裁判所は,「住む場所が海外になっても関係ない」,と言いました。

 子どもに愛情を注ぐことは,他の男性といっしょに暮らすかどうかに関係なく,母親が自分で決めて,自分でできる。

 それは,海外に行っても,同じこと。


 だから,子どもからその男性に慰謝料を払えとは言えない,としたのです【★2】


 なんだか不思議なりくつですね。

 たしかに,「他の人と付き合い始めても,自分の子どもに変わらず愛情を注げる」,という親もいるでしょうし,

 「だれかと付き合い始めたというわけではないけれど,夫婦の仲が悪くなって別々に暮らしはじめ,離れた子どもに愛情を注がなくなる」,という親もいるでしょう。

 そのりくつからすると,親が付き合っている相手は,関係ないかもしれません。


 でも,親が他の人と付き合うようになって,

 家を出てその人と暮らすようになったからこそ,

 子どものことを見向きもしなくなっているのに,

 親が付き合っている相手が「関係ない」なんて言っていいのか,関係があるはずじゃないか。

 最高裁の判決を書いた4人の裁判官のうち,1人の裁判官は,そう言っています。

 その裁判官は,「親が付き合っている相手は,子どもに慰謝料を払うべきだ」と反対の意見を言っています
【★3】


 ただ,「親が付き合っている相手も関係がある」とはいっても,

 やはり,あなたに親としての責任を負うのは,お父さんです。

 他の人と付き合い始めていっしょに暮らそうと,そうでなかろうと,

 きちんと子どもと交流を続けて,生活費や学費を払うのが,親として当たり前のことです。


 だから,
お父さんの相手の女性よりも,まずは,お父さんと話をしていきましょう。

 そして,慰謝料よりも,まずは,交流や生活費・学費のことそのものについて,話をしていきましょう。

 あなたやお母さんから,お父さんに,「きちんと子どもと会ったり,連絡を取り合ったりしてほしい」「生活費や学費をきちんと払ってほしい」ということが,だいじです【★4】【★5】

 話し合いがうまくいかないようなら,裁判所で話し合ったり,裁判所に判断してもらったりすることもできます
【★6】


 お父さんが,交流や生活費・学費といった「親としての義務」を,きちんとはたさない。


 そのために,あなたが苦痛を受ける。

 その苦痛をやわらげるため「慰謝料」の話は,まず交流や生活費・学費の話をした後,その次にすることだろうと,私は思います【★7】


 「お父さんの相手の女性にもお金を払えと言うかどうか」,とか,

 「お父さんに求めるのを『慰謝料』にするのかどうか」,などの,

 「だれに何を求めるか」ということは弁護士に相談するとして,

 一番だいじなことは,

 お父さんが他の人と付き合い始めて家を出て行ったことへの怒りや,

 お父さんから自分が無視されることのさみしさ,かなしさについて,

 子どものあなた自身から声を上げていいんだ,ということなのです【★8】

 

【★1】 最高裁第二小法廷昭和54年3月30日判決・民集33巻2号303頁。「妻及(およ)び未成年の子のある男性と肉体関係を持った女性が妻子(さいし)のもとを去った右男性と同棲(どうせい)するに至(いた)った結果,その子が日常生活において父親から愛情を注がれ,その監護(かんご),教育を受けることができなくなったとしても,その女性が害意(がいい)をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止(そし)するなど特段の事情のない限(かぎ)り,右女性の行為(こうい)は未成年の子に対して不法行為(ふほうこうい)を構成するものではないと解(かい)するのが相当である。けだし,父親が未成年の子に対し愛情を注ぎ,監護,教育を行うことは,他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく,父親自らの意思によって行うことができるのであるから,他の女性との同棲の結果,未成年の子が事実上父親の愛情,監護,教育を受けることができず,そのため不利益を被(こうむ)ったとしても,そのことと右女性の行為との間には相当因果関係(そうとういんがかんけい)がないものといわなければならないからである。」
【★2】 最高裁第二小法廷昭和54年3月30日判決・判例時報922号8頁。「・・・このことは,同棲の場所が外国であっても,国内であっても差異(さい)はない。」
【★3】 本林譲裁判官反対意見「私は,未成年の子を持つ男性と肉体関係を持ち,その者の子供を出産し,妻子のもとを去った右男性と同棲するに至った女性がたとえ,自(みずか)らその同棲を望んだものでもなく,同棲後も,男性が妻子のものに戻ることに敢(あ)えて反対しないのであっても,同棲の結果,男性がその未成年の子に対して全(まった)く,監護,教育を行わなくなったのであれば,それによって被る子の不利益は,その女性の男性との同棲という行為によって生じたものというべきであり,その間には相当因果関係があるとするのが相当であると考えるのである。けだし,不法行為における行為とその結果との間に相当因果関係があるかどうかの判断は,そのような行為があれば,通常はそのような結果が生ずるであろうと認められるかどうかの基準によってされるべきところ,妻子のもとを去って他の女性と同棲した男性が後に残して来た未成年の子に対して事実上監護及び教育を行うことをしなくなり,そのため子が不利益を被ることは,通常のことであると考えられ,したがって,その女性が同棲を拒(こば)まない限り,その同棲行為と子の被る右不利益との間には相当因果関係があるというべきだからである。更(さら)に,日常の父子の共同生活の上で子が父親から日々,享受(きょうじゅ)することのできる愛情は,父親が他の女性と同棲すれば,必ず奪われることになることはいうまでもないのであり,右女性の同棲行為と子が父親の愛情を享受することができなくなったことによって被る不利益との間には,相当因果関係があるということができるのである。」
【★4】 民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又(また)は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない」
【★5】 面会交流は,ふつう,離れている親のほうが,「子どもに会いたい」と求めるケースがほとんどです。しかし,私は,子どものほうから離れている親に「会いたい」と求める話し合いや,裁判所での手続が,もっと行われるべきだと思います。
【★6】 家庭裁判所で「調停(ちょうてい)」という話し合いをし,それでもまとまらなければ,裁判所に「審判(しんぱん)」というかたちで判断してもらいます。これらの手続は,離婚する前であってもすることができます。
【★7】 りくつから言えば,お父さんに対する慰謝料請求は認められる可能性があります。本文で書いた最高裁の判決の中でも,裁判官の個別の意見で,そのような可能性を指摘しているものがあります。
 大塚喜一郎裁判官補足意見「なお,本件のような事案において,子が父親に対しては損害賠償の請求を行わず,その同棲の相手方となった女性に対してだけ損害賠償の請求をする事例が一般的であるところ,その請求者の態度は心情的に理解できないわけではないが,この一般的事実及び背景にある法解釈論は,本件相当因果関係の判断に関する考慮要素とすることができる。」
 本林譲裁判官反対意見「民法820条は,親権を行う者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負うと規定する。…(略)…少なくとも親が故意(こい)又は過失(かしつ)によって右義務を懈怠(けたい)し,その結果,子が不利益を被ったとすれば,親は,子に対して不法行為法上の損害賠償義務を負うものというべきであるから,右不利益は,不法行為法によって保護されるべき法益(ほうえき)となり得ると考えられるのである。」
【★8】児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)12条1項「締約国(ていやくこく)は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項(じこう)について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度(せいじゅくど)に従(したが)って相応(そうおう)に考慮されるものとする。」
 同条2項「このため,児童は,特に,自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において,国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若(も)しくは適当な団体を通じて聴取(ちょうしゅ)される機会を与えられる。」
 

 

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