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2014年4月 1日 (火)

義務教育の「義務」って?

 

 中学生です。授業も面白くないし,友だちもあんまりいないから,ほんとは学校に行きたくないんだけど,親が僕に,「義務教育なんだから,学校に行かなきゃいけない義務がある」って言ってます。学校に行くのって,「義務」なんですか?

 

 ちがいます。

 義務教育の「義務」は,「子どもが学校に行かないといけない義務」ではありません。

 
「子どもたちのために,学ぶための時間と場所を,きちんとつくらないといけない」という,大人の義務です。


 「小学校と中学校は義務教育なんだから,きちんと学校に通わないといけない」。

 ときどき聞く話ですね。

 でも,それはまちがいです。多くの人たちが,誤解しています。

 教育は,「受けることができる」ものです。

 教育を受ける「権利」がある,ということです。

 「教育を受けなければいけない」という「義務」ではありません。

 憲法や,世界のルールである条約に,教育は「権利」だと,はっきり書かれています【★1~4】


 むかし,子どもたちは,小さいころから働かなければなりませんでした。

 学ぶことができたのは,ごく一部の,豊かな家の子どもだけでした。

 今でも,世界の中には,そういう地域が残っているところもあります。



 でも,


 文字を読んだり書いたりできるようになりたい,とか,

 計算ができるようになりたい,とか,

 自然のしくみや,社会のしくみを知りたい,

 そういう気持ちは,だれもがもっている,自然な気持ちです。

 そして,そうやって学んだことは,人が人として生きていくうえで,とても大切な支えになります。


 だから,一部の子どもだけではなく,すべての子どもたちが学べるようにするために,

 私たち大人が,子どもが学ぶための時間と場所を,きちんと作らないといけない。

 それが,「義務教育」という言葉の意味です。


 国は,きちんと学校のしくみを作らないといけない。

 子どもを育てている親や,子どもを働かせている職場は,子どもをその学校にきちんと通わせないといけない。

 そういう「義務」が,大人のがわにあるのです【★5~7】


 だから,たとえば,

 子どものあなたは「学校に行きたい」と思っているのに,

 親があなたに,働かせたり,家事をさせたり,下のきょうだいの世話をさせたりして,学校に行かせない,ということは,許されません【★8】


 でも,ぎゃくに,

 子どものあなた自身が,学校にどうしても行きたくない,行けないということであれば,

 無理をして学校に行かなくても,かまいません。

 クラスでいじめがあるとか,

 先生が体罰をしてきたりひどいことを言ってくるとか,

 勉強についていけないのにほったらかしにされているとか,

 そんなふうに毎日の学校生活を安心して過ごせない,学校に居場所がないと感じているなら,

 あなた自身を守るために,学校に無理をして行かなくてよいのです。

 そして,「自分が安心して学ぶことができる場所を,きちんと作ってほしい」と,大人たちに求めることができます。


 ひょっとしたら,みなさんの中には,こんなふうに考える人もいるかもしれません。

 「いじめや体罰があるわけじゃないけど,勉強がめんどうくさくて疲れるから,学校に行きたくない。学校に行くのが義務じゃないんだったら,行かないで遊んでいたい」。


 そんなあなたが,今,学校の勉強以外で,一生懸命取り組んでいるものは,なんでしょう。

 サッカーやバスケットボールなどのスポーツでも,

 バンドやダンスでも,

 カードゲームや,オンラインゲームでも,

 そのほかどんなものでも,

 自分のレベルが上がると楽しいし,

 みんなといっしょに力を合わせることの充実感があれば,なおのこと楽しいですよね。

 だから,繰り返し練習することや,それに何時間も取り組むことや,上のレベルにチャレンジすることが,

 まったく苦痛に感じなかったり,


 多少めんどうで疲れても,続けようという気持ちに自然になったりします。


 勉強も,同じことだと思います。


 新しいことを知ったり,わかったりしたときの喜びや,

 みんなといっしょに何かに取り組むことのすばらしさを感じることができるなら,

 多少めんどうで疲れるとしても,スポーツや音楽・ダンスやゲームと同じように,勉強も,一生懸命取り組めるものになるでしょう。

 学校での勉強は,ほんらい,そういうものでなければいけません。



 私たち大人は,子どもたちに,「義務だから行きなさい」とおどしながら学校に通わせるのではなく,

 学校で学ぶことの,楽しさ,おもしろさ,大切さが,子どもたちに実感できて,

 自分から「学校に行きたい」と思えるような,そんな場所にすることが必要だと思います。


 あなたが今,「義務教育の『義務』はどんな意味だろう」と疑問をもち,インターネットで検索して,私のブログにたどりついたように,


 どんな人でも,「ものごとを知りたい,わかるようになりたい」という,人として大切な気持ちを持っています。

 子どもたちみんながもっているその気持ちにこたえられるように,

 そして,学校が,子どもたちにとって自分から「行きたい」と思えるような大切な居場所になるように,

 私たち大人が,取り組まなければいけない。

 そういう「義務」が,学校や親はもちろんのこと,この社会を支えているすべての大人たちに,あるのです。


 だから,もし,「学校に行きたくない」というあなたの気持ちを,親に受け止めてもらえていないなら,

 学校の中のあなたが信頼できる大人や,私たち弁護士に,話してみてください。

 

【★1】 憲法26条1項「すべて国民は,法律の定(さだ)めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する。」
【★2】 むかし,この憲法26条は,「だれもが学ぶことができるよう,『お金がないから学べない』ということがないように,国などに求めることができる権利」という意味だ,と考えられていました。しかし,今は,お金のことだけではなく,人間としてもっとだいじなこと,つまり「学ぶことで人間として成長していく権利」のことだ,と,とらえられています(学習権といいます)。裁判所も同じように考えています。
 旭川学テ事件最高裁判決(最高裁大法廷昭和51年5月21日判決・刑集30巻5号615頁)「憲法中教育そのものについて直接の定めをしている規定は憲法26条であるが,…この規定の背後には,国民各自が,一個の人間として,また,一市民として,成長,発達し,自己の人格を完成,実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること,特に,みずから学習することのできない子どもは,その学習要求を充足(じゅうそく)するための教育を自己に施(ほどこ)すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられる。」
【★3】 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)13条1項「この規約の締約国(ていやくこく)は,教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は,教育が人格の完成及び人格の尊厳(そんげん)についての意識の十分な発達を指向(しこう)し並(なら)びに人権及(およ)び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更(さら)に,締約国は,教育が,すべての者に対し,自由な社会に効果的に参加すること,諸国民の間及び人種的,種族的又は宗教的集団の間の理解,寛容(かんよう)及び友好を促進(そくしん)すること並びに平和の維持(いじ)のための国際連合の活動を助長(じょちょう)することを可能にすべきことに同意する。」
【★4】 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)28条1項「締約国は,教育についての児童の権利を認める…(略)」
【★5】 憲法26条2項「すべて国民は,法律の定めるところにより,その保護する子女(しじょ)に普通教育を受けさせる義務を負(お)う。義務教育は,これを無償(むしょう)とする。」
【★6】 教育基本法5条1項「国民は,その保護する子に,別に法律で定めるところにより,普通教育を受けさせる義務を負う。」
同条2項「義務教育として行われる普通教育は,各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎(きそ)を培(つちか)い,また,国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質(ししつ)を養(やしな)うことを目的として行われるものとする。」
同条3項「国及び地方公共団体は,義務教育の機会を保障(ほしょう)し,その水準(すいじゅん)を確保するため,適切な役割分担及び相互(そうご)の協力の下(もと),その実施に責任を負う。」
【★7】 学校教育法16条「保護者…は,次条(じじょう)に定(さだ)めるところにより,子に9年の普通教育を受けさせる義務を負う。」
同17条1項「保護者は,子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満12歳に達した日の属する学年の終わりまで,これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学(しゅうがく)させる義務を負う。(略)」
同条2項「保護者は,子が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満15歳に達した日の属する学年の終わりまで,これを中学校,中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。」
【★8】 きちんとした理由もないのに,親が子どもを学校に行かせないときには,学校から催促(さいそく)があり,それでも学校に行かせないときには,親に刑事罰が科される規定になっています。また,「教育ネグレクト」という児童虐待(じどうぎゃくたい)にもあたりうるので,場合によっては子どもが児童相談所に保護されることにもなります。
学校教育法17条3項「前2項の義務の履行(りこう)の督促(とくそく)その他これらの義務の履行に関し必要な事項(じこう)は,政令(せいれい)で定める。」
同法144条1項「第17条第1項又は第2項の義務の履行の督促を受け,なお履行しない者は,10万円以下の罰金に処(しょ)する。」
同法20条「学齢児童又は学齢生徒を使用する者は,その使用によつて,当該学齢児童又は学齢生徒が,義務教育を受けることを妨(さま)げてはならない。」
同法145条「第20条の規定に違反した者は,10万円以下の罰金に処する。」
学校教育法施行令20条「小学校,中学校…の校長は,当該学校に在学する学齢(がくれい)児童又は学齢生徒が,休業日を除(のぞ)き引き続き7日間出席せず,その他その出席状況が良好でない場合において,その出席させないことについて保護者に正当な事由がないと認められるときは,速(すみ)やかに,その旨(むね)を…市町村の教育委員会に通知しなければならない。」
同21条「市町村の教育委員会は,前条の通知を受けたときその他当該市町村に住所を有する学齢児童又は学齢生徒の保護者が法第17条第1項又は第2項に規定する義務を怠(おこた)っていると認められるときは,その保護者に対して,当該学齢児童又は学齢生徒の出席を督促(とくそく)しなければならない。」

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