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2014年3月

2014年3月 1日 (土)

親のクレジットカードを無断で使ったら

 

 友だちが,スマホのゲームでポイント(ゲームの中での通貨)を買うために,親の財布の中に入ってたクレジットカードの番号と有効期限をこっそり見て,入力しちゃったそうです。一気に何十万円ぶんか使ってしまったらしく,「ヤバいんじゃないの?」とその友だちに話してたんですが,実際,どうなるんですか。

 

 友だちの親と,その友だちが,お金を払わないといけなくなってしまいます。

 ただ,ポイント代の全額ではなく,一部ですむこともありえます。

 すぐに親に正直に話して,消費生活センターや弁護士に相談するように,友だちに伝えてください。


 クレジットカードの「クレジット」は,「信用」という意味です。


 何かモノを買いたいと思ったときに,

 お金が手もとになければ,あきらめないといけませんよね。


 でも,たまたま,そのときに手もとにお金がなくても,

 あとできちんとお金を払うことができる,たしかなお客さんなら,

 その場で買い物ができて,お金はあとで払う,ということができたほうが,

 お客さんにとって便利ですし,お店にとっても売り上げにつながります。

 代金を分割で払うこともできれば,高いものでも買えるので,なおのこと便利ですね。

 とはいっても,「そのお客さんがきちんとお金を払える人なのかどうか」,「信用できる人なのか」を,そのたびにいちいちお店が調べるわけにもいきません。


 そのために,クレジットカードのしくみがあります。


 「この人は,あとできちんとお金を払える人だ」「信用できる人だ」と,カード会社が認める人に,クレジットカードが作られます。

 お客さんが買い物をするときに,お店にそのカードを出せば,

 代金は,カード会社が,立て替えて,お店に払ってくれます。

 そして,立て替えてもらったお金は,あとで,お客さんが,カード会社に返していくのです【★1】


 このクレジットカードの制度は,お客さんも,商売をしている人も,よりよい生活・人生を送ることにつながる,すてきなしくみです。

 そして,このしくみは,文字どおり,「信用」で成り立っています。

 だから,お金を自分でかせぐことのできない,まだ「信用」のない子どものうちは,クレジットカードを作ることができないことが多いです。


 クレジットカードは,その持ち主に「信用」があるから,作られるものです。

 だから,そのカードを,持ち主以外の人が勝手に使うことは,許されません。

 持ち主のふりをして,自分に「信用」があるようにウソをつき,

 カード会社やお店をだましてモノを手に入れるのですから,りっぱな犯罪です【★2】【★3】


 もし,クレジットカードが勝手に他の人に使われてしまったら,カードの持ち主は,損(そん)をするのでしょうか。

 カード会社のルールでは,だいたい,つぎのようになっています。

 「『カードをなくした,盗まれた』とすぐにカード会社に連絡をすれば,だれかに勝手に使われてしまったぶんのお金は,払わなくてもいいから,カードの持ち主は損をしない。」

 「だけど,勝手に使った人が家族だったら,そのぶんは払わないといけないので,カードの持ち主は損をする。」



 だから,カード会社のルールからすれば,あなたの友だちのケースでは,その親が,何十万円ものお金を払わなければいけなくなりそうです。


 もし,友だちの親が,カード会社にその代金をずっと払えないままだったりすると,

 その親の「信用」がなくなってしまい,

 いわゆる「ブラックリスト」に載ってしまって【★4】

 しばらくの間,新しいキャッシュカードが作れなかったり,家や車などを買うときにローンを組めなかったりします。


 クレジットカードを使っているのが,きちんと持ち主本人なのか,他の人が使っているのかは,

 ふつうは,サインや暗証番号で,チェックすることできます。

 ましてや,お店に子どもがカードを持ってきていれば,店員さんも,お客の見た目で,「カードの持ち主ではない」と,すぐにわかるでしょう。



 でも,最近のインターネットでは,カードの表面に書いてある数字を入力するだけで,カードが使えてしまうことが多いです。

 本人しかできないサインもいらないし,

 本人しか知らない暗証番号もいらないし,

 顔も見えません。

 だから,持ち主本人でなくても,かんたんにカードが使えてしまいます。


 たとえ「家族が使ったぶんは,持ち主が払わないといけない」というカード会社のルールがあったとしても,

 「持ち主本人かどうか」をカード会社のがわできちんとチェックしていないなら,

 持ち主が全額を払わないといけないというのは,やはりおかしなことです。

 「カードの表面の情報をインターネットに入力するだけで使えてしまうのは,本人かどうかのチェックがあまい。だから,家族が使ったとしても,カードの持ち主がお金を払う必要はない」,とした判決もあります【★5】


 ただ,他方で,カードの管理をしっかりしていなかった持ち主(親)が,まったく1円も払わないでよいというのも変だ,とか,

 勝手に親のカード番号を盗み見て,本人になりすまして入力した子どもが,まったく責任を負わないのも変だ,と感じる人も,多いと思います。

 カード会社かお店(今回の友だちのケースで言えばゲーム会社)と話し合いをして,たがいにおりあいのつく金額でまとまるのが,のぞましいと思います【★6】【★7】

 消費生活センターに相談することで解決することもありますし【★8】

 金額があまりに大きかったり,カード会社やお店との交渉がうまくいかないときには,裁判になってしまうことも考えて,早めに弁護士に相談してください。


 クレジットカードの「クレジット」は,お金についての「信用」ですが,

 私たちのこの社会,

  私たちの安心できる生活と幸せな人生は,

 お金というせまい意味だけにかぎらず,いろんな意味で,

 おたがいに「信用」し,「信用」されることで,成り立っています。

 だから,「信用」を裏切るようなことは,これからは絶対にしないように,

 あなたの友だちに伝えてください。

 

【★1】 クレジットカードのしくみは,代金の支払いが2ヶ月以上の期間になるときは,割賦販売法(かっぷはんばいほう)という法律の2条3項「包括信用購入(ほうかつしんようこうにゅう)あっせん」にあてはまります。代金を翌月に一括(いっかつ)で払う場合には,割賦販売法があてはまらないので,ルールは,もっぱら,カード会社の規約(きやく)がどうなっているかを中心に,見ることになります。
【★2】 詐欺罪(さぎざい)という犯罪です。
刑法246条1項 「人を欺(あざむ)いて財物(ざいぶつ)を交付(こうふ)させた者は,10年以下の懲役(ちょうえき)に処(しょ)する。」
刑法246条2項 「前項(ぜんこう)の方法により,財産上不法の利益を得(え),又(また)は他人にこれを得させた者も,同項(どうこう)と同様とする。」
刑法246条の2 「前条(ぜんじょう)に規定するもののほか,人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽(きょぎ)の情報若(も)しくは不正な指令を与えて財産権の得喪(とくそう)若しくは変更に係(かか)る不実(ふじつ)の電磁的記録を作り,又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録(でんじてききろく)を人の事務処理の用に供(きょう)して,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者は,10年以下の懲役に処する。」
【★3】 最高裁判所第二小法廷平成16年2月9日判決・刑集58巻2号89頁 「被告人は,本件クレジットカードの名義人本人に成(な)り済(す)まし,同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装(よそお)い,その旨(むね)従業員を誤信(ごしん)させてガソリンの交付を受けたことが認められるから,被告人の行為(こうい)は詐欺罪を構成する。仮に,被告人が,本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており,かつ,自(みずか)らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従(したが)い名義人において決済(けっさい)されるものと誤信(ごしん)していたという事情があったとしても,本件詐欺罪の成立は左右されない。」
【★4】 「ブラックリスト」といわれているものは,お金を貸したり,立て替えたりする銀行や会社などが,「この人はお金をきちんと返せないことがあった」という情報を共有するものです。全国銀行個人信用情報センター,CIC,日本信用情報機構などがあります。
【★5】 子どもが親の財布の中のクレジットカードから番号と有効期限をメモして,アダルトサイトにアクセスして入力し,285万円も使ってしまった,という事件で,カード会社が親に「代金を支払え」と求めたケースで,長崎地方裁判所佐世保支部平成20年4月24日判決・金融商事判例1300号71頁は,次のように述(の)べて,「親は支払わなくてもよい」としました。
 「カード識別情報を利用したなりすまし等の不正使用及びそれにより会員が被(こうむ)る損害を防止するには,カード識別情報の入力による利用方法を提供する〔カード会社〕において,カード識別情報に加えて,暗証番号など本人確認に適(てき)した何らかの追加情報の入力を要求するなど,可能な限り会員本人以外の不正使用を排除(はいじょ)する利用方法を構築することが要求されていたというべきである。入力作業の手間が少ない方が会員の利便性が向上するとともに,カードの利用が促進(そくしん)されて〔カード会社〕の利益にもつながることや,暗証番号等の本人確認情報も含めたインターネット上での与信(よしん)判断プロセスの構築に多額の費用がかかり得ることなどを考慮しても,決済システムとしての基本的な安全性を確保しないまま,事後的に補償規約(ほしょうきやく)の運用のみによって個別に会員の損害を回避(かいひ)しようとするだけでは不十分というほかない。」
 ただし,裁判所が必ずいつもこう判断するとはかぎりませんから(下村信江「クレジットカードの不正利用とカード会社の責任」判例タイムズ1291号55頁),注意が必要です。
【★6】 上の,長崎地方裁判所佐世保支部の事件では,カード会社が,子どもを相手に,損害賠償を払うよう求める別の裁判も起こしていました。結局,子どもがカード会社にお金を支払うという和解(わかい)がまとまって,裁判は終わりました(福崎博孝「有料サイトの利用とクレジットカードの支払いをめぐる訴訟における未成年の子の親の責任」現代消費者法3号44頁)。
【★7】 カード会社との話し合いではなく,お店のがわ(あなたの友だちの場合でいえばゲーム会社)と話し合いをして解決する,ということもありえます。
 お金を払ってゲームをするというのも,法律的な約束ごと(契約(けいやく))です。子どものうちは,いったんはしてしまった契約を,「親がOKしていなかった」という理由で,最初からなかったことにできます(「取消し」といいます)。
 ただ,子どもがお店に,「自分は親からOKをもらっている」とウソを言ったり,自分が親になりすましたりしていたら,取消しはできず,契約どおりにお金を払わないといけません。だとすると,インターネットで親のクレジットカードの番号を入力することは,ウソや「なりすまし」だから契約が取り消せない,ということになってしまいそうです。
民法5条1項 「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。ただし,単に権利を得(え),又は義務を免(まぬが)れる法律行為については,この限りでない。」
民法5条2項 「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる。」
民法21条 「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術(さじゅつ)を用(もち)いたときは,その行為を取り消すことができない。」
 でも,カードの表面の番号などが入力されているだけで,「親のOKがあった」と信じてしまうお店のがわにも,問題があるでしょう。それが,子どもがよく使うゲームで,かつ,金額が多ければ,なおのこと,「本当に親がOKしているのかな?」と,お店がきちんとチェックするシステムがなければ,おかしいはずです。
 法律は,「子どもを複雑な経済のしくみから守る」,ということと,「親がOKしていると信じてだまされてしまったがわを守る」ということとのバランスをとっています。そういう考えかたのわくぐみからすると,子どもを相手に商売をしてもうけていて,経済のしくみにもくわしくて,力をもっている,それなのに,カードの持ち主のチェックのシステムをきちんとつくらない,そんなお店のほうが守られて,子どもがお金を払わないといけない,というのでは,おかしなことです。
 ましてや,ゲームの中の通貨は,現実の世界の商品とちがって,材料のお金が量や質に応じてかかるものではないので,契約が取り消されたときのじっさいのゲーム会社の「損」は,ポイント代の金額と比べるととても安いはずです。オンラインゲーム内の仮想通貨を不正に作って他の人に売っていた犯人に,ゲーム会社が7400万円近くの損害賠償を請求したという事件で,裁判所は,330万円の損害しか認めていないことも参考になります(東京地方裁判所平成19年10月23日判例時報2008号109頁)。そう考えるとなおのこと,未成年者の取消しを認めないで,ゲーム会社に契約どおりの高いお金をもらわせるのは,おかしいと思います。
 もし未成年者の取消しが認められれば,「現(げん)に利益を受けている限度において,返還の義務を負う」だけなので(民法121条ただし書き),ゲームの場合には,子どもに残っている利益がなく,ゲーム会社にお金を払う必要はないはずです。また,未成年取消しをしたときには,お店から子どもに対する損害賠償請求は認めないという裁判例もあります(京都地方裁判所平成25年5月23日判決・判例時報2199号52頁は,「もし,未成年者取消しは許されるが,未成年者は,取り消した契約に関して相手方や第三者に損害が生じた場合,民法709条に基づく賠償責任を負うとの法解釈を採用した場合,未成年者取消しが困難となる事例が続発することになると思われる。このような解釈は,民法が未成年者の行為能力を制限し,未成年者取消しを広く認めたことと著(いちじる)しく矛盾する。結局,未成年者取消しによって発生する財貨(ざいか)の偏在(へんざい)は,不法行為法理によってではなく,不当利得法理によって清算されると解するのが,民法の解釈として正しいというべきである。」と言っています)。
 ただ,まだいろんな考え方があって判例も固まっていませんし,個別のケースごとに事情もちがいますから,かんたんに考えずに,弁護士に相談してください。
【★8】 独立行政法人国民生活センターのウェブサイトで,全国の消費生活センターを調べることができます。http://www.kokusen.go.jp/map/index.html   

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