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2014年2月 1日 (土)

「ゲイだとバラす」とおどされている

 

 高校2年生の男子です。興味があるのは女性ではなく男性のほうなんですが,そのことはまだ誰にも言えません。この前,スマホのアプリで20代の男の人と知り合い,何度か会いました。でも,その人がしつこいので,この前,「もうかかわりたくない」と話したら,「そんなこと言うなら,ゲイだということを家族や学校にバラす,今まで食事で俺が払った分の金も返せ」とメールがたくさんくるようになって,こわくて毎日落ち着きません。

 

 

 すぐに弁護士に相談してください。

 そして,弁護士からその相手に,やめるように警告してもらってください。



 親や学校にバラすぞとおどすのは,脅迫罪(きょうはくざい)という犯罪です【★1】

 人との付き合いというものは,相手からむりやり強制されることではありません。

 おどしながら,「いやなことをされたくなかったら付き合え」というのは,強要罪(きょうようざい)です
【★2】

 「いやなことをされたくなかったら金を払え」というのも,恐喝罪(きょうかつざい)という犯罪です
【★3】

 大人が,子どもにすごんだり,子どもをとまどわせたりして,セックスをさせていたなら,それも犯罪です
【★4】

 いやがらせの内容によっては,ストーカー規制法という法律にも違反します
【★5】


 子どもが誰かから被害を受けているときは,親が,加害者や警察などと対応するのが,ふつうです。

 「でも,ゲイであることを親に知られたくない」。

 そのために,誰にも相談できないでいると,状況はどんどん悪くなっていきます。

 そのようなことは,絶対に避(さ)けなければいけません。



 すぐに弁護士に相談し,弁護士から相手に連絡を入れてもらってください。

 今すぐ脅迫をやめること。

 今後一切かかわりをもたないこと。

 それが約束できないなら,法律的な手続をとるつもりであること。

 そういったことを,弁護士から相手に通知します。

 そのような通知を出すことで,おどしが止まることがほとんどです。

 それでもおどしが止まらなければ,実際にいろんな法律の手続きをとって,あなたを守ります。



 子ども本人からの依頼(いらい)を受けて,弁護士が相手に警告をしていくことはできます。

 でも,深刻なケースのときには,きちんと親にも相談して,みんなで協力しながら相手とのやりとりを進めていかなければいけない,ということもあるかもしれません。

 親との関係もふくめて,これからどうやって進めていくのがよいのか,

 それを,まずは弁護士と一緒に考えていきましょう。

 各地の相談窓口の電話番号は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。



 私は,ゲイ(男性のことが好きな男性)やレズビアン(女性のことが好きな女性)の人たちの法律トラブルを,多く扱(あつか)っています。


 ゲイやレズビアンが,社会から差別や偏見(へんけん)を受けて,裁判になったケースもありますが【★6】

 実際には,そういった社会からの差別・偏見のトラブルよりも,

 あなたのケースのように,「ゲイどうし・レズビアンどうし」で,「バラすぞ」と,おどし・おどされる,というトラブルのほうが,じつは多いのです。



 おどされている人は,おどしてくる相手のことを,とてもこわがっています。

 でも,おどされている人がほんとうにこわがっているのは,「バラされたときの,自分のまわりの家族・学校・職場のこと」のほうです。

 家では,

 「孫の顔が早く見たい」と夢見ている親に,

 子どもの自分がゲイ・レズビアンだと知られたら,

 家にいられなくなるかもしれない,

 家を追い出されないとしても,親を悲しませるかもしれない。

 学校や職場では,

 「ホモ」「おかま」「レズ」などで友だちや先生や同僚が笑い合っている,

 そんな中で,自分がゲイ・レズビアンだとわかったら,

 いじめられたり,いやがらせをされたりして,

 自分の居場所がなくなるかもしれない。

 そう想像すると,とてもつらい。

 だから,自分がゲイ・レズビアンであることをまわりに言えなくて一人ぼっちに感じるし,

 バラされたらどうしようと不安に感じるのですよね。


 だからこそ,私は,このような「バラす」というケースに接するたびに,「やはり,社会の差別や偏見が,事件の根っこにある」と,いつも思います。



 国によっては,ゲイやレズビアンに,あからさまな差別や偏見のあるところもあります。

 「死ね」「殺す」とまで言う「憎悪(ぞうお)表現」(ヘイトスピーチ)や,

 暴力などをふるう「憎悪犯罪」(ヘイトクライム)。

 そういったことが,いつも問題になります。



 それとくらべると,日本では,ゲイやレズビアンに対する,それほどまでにあからさまな「憎悪」は,少ないかもしれません。

 たしかに,まわりの人たちが,「ホモ」「おかま」「レズ」などと笑いあっているのは,「憎悪」と言うほどの,強いものではないかもしれません。

 でも,まわりの人たち一人ひとりが持っている,少しずつのマイナスの気持ちが,

 何十,何百,何千,何万と集まって,たった一人のゲイ・レズビアンにのしかかったとき,

 その不安と恐怖は,ゲイ・レズビアンの生活・人生そのものを,押しつぶしていきます。

 そのことを,私は,顔が真っ青になっている当事者を目の前にするたびに,実感します。



 あなたが「親や学校に知られたくない」と思うのと同じように,

 多くのゲイ・レズビアンの人たちも,「家族や学校,職場などに知られてしまったら,自分の居場所がなくなってしまうのではないか」と不安をかかえています。

 だから,「バラすぞ」ということが,「おどし」として,成り立ってしまうのです。



 ゲイやレズビアンについての理解が進んで,

 ゲイやレズビアンの人たちが,自分らしく,生活と人生を送ることができる社会。

 「バラすぞ」ということが,おどしにならない社会。

 そのような社会になることが必要だと,強く思います。



 最近では,ゲイ・レズビアンであることをオープンにする人たちが,増えてきました。

 家,学校,職場も,きちんと受け止めてくれるところが,増えています
【★7】

 ゲイ・レズビアンの法律トラブルに取り組む弁護士も,この数年間で,増えてきています
【★8】

 ずっと仲良く,生活・人生をともにしている同性カップルも,とても多くなりました。

 日本では,同性どうしでは,法律上の結婚はできませんが
【★9】

 世界では,同性婚(どうせいこん)を認める国々も,増えてきています
【★10】。

 あなたが大人になる頃には,日本でも,法律や,社会の理解が,もっと進んでいるかもしれません。


 どんな人も,一人ひとりが大切にされること。

 一人ではないと実感できること。

 そして,安心した毎日,幸せな人生を送ることができること。

 それが,法律が,いちばん大事にしていることなのです。


 なお,子どもと大人との出会い系サイトなどでのつながりは,いろんなトラブルが起きることが多いです。

 今回のようなトラブルに巻き込まれないようにするためにも,

 心と体が大人の仲間入りを始めたばかりの自分自身を大切にして,

 誰とどのような関係をつくっていくかについて,急がずに,ゆっくりと考えていってください。

 10代のゲイ・レズビアンの子どもたちが安心して集まれる居場所も,少しずつできています。

 同じ世代の仲間たちと一緒に,悩みと夢とを,共有できると良いと思います。

    (東京)特定非営利活動法人ピアフレンズ http://www.peerfriends.org/


    (横浜)特定非営利活動法人SHIP http://www2.ship-web.com/Top.html

    (愛媛)Haatえひめ http://www.haat-ehime.com/

    (福岡)FRENS「にじだまり」 http://blog.canpan.info/frens/

 

 

【★1】刑法222条1項「生命,身体,自由,名誉(めいよ)又(また)は財産に対し害を加える旨(むね)を告知して人を脅迫した者は,1年以下の懲役(ちょうえき)又は30万円以下の罰金に処(しょ)する」
【★2】刑法223条1項「生命,身体,自由,名誉若(も)しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し,又は暴行を用(もち)いて,人に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害した者は,3年以下の懲役に処する」
【★3】刑法249条「人を恐喝(きょうかつ)して財物(ざいぶつ)を交付させた者は,10年以下の懲役に処する」
【★4】都道府県の条例に,処罰の規定があります。
東京都青少年の健全な育成に関する条例18条の6「何人(なんぴと)も,青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない」
同条例24条の3「第18条の6の規定に違反した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」
【★5】ストーカー行為等の規制等に関する法律第2条1項「この法律において『つきまとい等』とは,特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨(えんこん)の感情を充足(じゅうそく)する目的で,当該(とうがい)特定の者又はその配偶者(はいぐうしゃ),直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し,次の各号のいずれかに掲(かか)げる行為をすることをいう。
 一  つきまとい,待ち伏(ぶ)せし,進路に立ちふさがり,住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし,又は住居等に押し掛(か)けること。
 二  その行動を監視していると思わせるような事項(じこう)を告げ,又はその知り得る状態に置くこと。
 三  面会,交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
 四  著(いちじる)しく粗野(そや)又は乱暴な言動をすること。
 五  電話をかけて何も告げず,又は拒(こば)まれたにもかかわらず,連続して,電話をかけ,ファクシミリ装置を用いて送信し,若しくは電子メールを送信すること。
 六  汚物,動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催(もよお)させるような物を送付し,又はその知り得る状態に置くこと。
 七  その名誉を害する事項を告げ,又はその知り得る状態に置くこと。
 八  その性的羞恥心(せいてきしゅうちしん)を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き,又はその性的羞恥心を害する文書,図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。」
 同法2条2項「この法律において『ストーカー行為』とは,同一の者に対し,つきまとい等(前項第一号から第四号までに掲げる行為については,身体の安全,住居等の平穏(へいおん)若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限(かぎ)る。)を反復してすることをいう」
 同法3条「何人も,つきまとい等をして,その相手方に身体の安全,住居等の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。」
【★6】 平成2年2月に,同性愛者の団体(動くゲイとレズビアンの会。旧名称アカー)が,東京都の施設の利用を申し込んだところ,東京都は,「同じ部屋に男性同性愛者どうしが泊まったら,性行為が行われる」という理由で利用を認めませんでした。そのため,団体側が東京都を相手に裁判を起こしたのが「府中青年の家事件」です。一審の東京地方裁判所でも,二審の東京高等裁判所でも,東京都の対応が不当な差別的取扱いだったと認められて,原告の団体側が勝訴しています(東京地裁平成6年3月30日判決・判例時報1509号80頁,東京高裁平成9年9月16日判決・判例タイムズ986号206頁)。
【★7】 クラスに1~2人は必ず,ゲイ・レズビアン・トランスジェンダーなどの「セクシュアルマイノリティ」がいます。そのことを,学校の先生にきちんと知ってもらい,そして,そのような子どもたちに先生がかける言葉が人生を変えるんだということわかってもらうための取り組みも進んでいます。
 「子どもの”人生を変える”先生の言葉があります。」http://health-issue.jp/teachers_lgbt_survey.pdf
【★8】 2007年に「LGBT支援法律家ネットワーク」ができたり,2012年ころからは,東京や関西の弁護会も,セクシュアルマイノリティの法律問題についていろんな取り組みを始めるようになりました。 
【★9】 民法という法律には,「結婚は男女でしかできない」とは,はっきりは書かれていません(民法731条以降参照)。学者の人たちは,同性カップルでは子どもができないから結婚できないのだ,と言っています(内田貴「民法Ⅳ親族・相続」75頁,大村敦志「家族法」267頁など)。しかし,男女のカップルでも子どもをもうけない人はたくさんいますし,性同一性障害のために性別の取扱いを変えた人は,結婚した相手との間の血のつながりのある子どもをもうけることはできませんが,それでも,結婚することができます。さらには,他の国では,男性どうしや女性どうしのカップルで,養子を引き取って育てているところも多いです。ですから,「子どもができないから結婚できない」というのは,理由にはなっていない,と私は思います。
 憲法24条1項は,「婚姻(こんいん)は,両性の合意のみに基(もと)づいて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互(そうご)の協力により,維持(いじ)されなければならない」としています。この条文に「両性の合意」と書かれているから,同性どうしでは結婚できないのだ,という人もいます。でも,憲法がそのように書いたのは,それまでの,結婚を家どうしで決めて,結婚する本人たちの気持ちが置き去りにされていた,ということをやめて,「個人の気持ちを大切にしましょう」というのが,一番大切なメッセージだったのです。ですから,憲法が同性婚を禁止している,と読むのは,まちがっています(角田由紀子「性の法律学」210頁参照)。
【★10】 国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA:International Lesbian, Gay, bisexual, trans and intersex Association)が作成している地図を見ると,アフリカや中東では,死刑などの重い刑罰が科されるところもありますが,ヨーロッパを中心として,同性婚が認められている国々が多いことがわかります。
 http://old.ilga.org/Statehomophobia/ILGA_Japanese_map_2013_A4.pdf

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