母親の再婚相手と養子縁組したくない
中学3年生です。だいぶ前に両親が離婚して,母と二人で暮らしてきました。最近,母に新しい彼氏ができて,先日,母から,子どもを妊娠したこと,その男の人と再婚すること,そして,その男の人と自分とが養子縁組をすることになるということを聞きました。正直言って,母の彼氏のことは嫌いで,自分の父親にはなってほしくありません。最近,家にいるのがつらくて,親戚のところにいさせてもらうことが多いです。私は,その男の人と養子縁組をしないといけないんですか。
いままで,お母さんと二人でがんばって暮らしてきたんですね。
大切なお母さんに新しいパートナーができてよかった,
でもそのパートナーのことを自分は好きになれない,
新しい家族が増えてきて家に自分の居場所がなくなるようでさみしい,
いろんな複雑な気持ちをかかえながら過ごしているのではないかと思います。
お母さんが再婚しても,それだけでは,お母さんの相手の男性と,あなたとは,自動的には親子にはなりません。
養子縁組をして,はじめて,その男性とも法律上の親子になります。
養子縁組は,役所に届出を出すことで成り立ちます【★1】。
あなたが15歳以上なら,養子縁組の届出にサインをするのは,あなたとその男性です【★2】。
お母さんとその男性の二人だけで,あなたにないしょで勝手に決めて養子縁組の手続をすることはできません。
だから,あなたが養子縁組をしたくないのであれば,断ってよいのです。
養子縁組をすると,養父(ようふ)となった男性は,親として,あなたを育てるためのいろんな義務を負うことになります【★3】。
あなたの生活をきちんと見守ることはもちろん,
生活費や進学費用などのお金も,養父はきちんと出さないといけません。
男性は,そういう負担のあることをわかったうえで,「あなたと養子縁組をしたい,みんなで家族になりたい」と思っているのが,ふつうだろうと思います。
そういったこと,つまり,その男性の思いや生活費・進学費用の負担などについて,あなたのほうでも,よく考えてみてください。
そして,よく考えてみても,「それでも,やっぱりその人と親子になるのはいやだ」,ということであれば,その真剣なあなたの思いは大切なものです。
お母さんやその男性に,あなたのその気持ちを伝えてください。
そして,養子縁組を断ってよいのです【★4】。
あなたが14歳以下なら,養子縁組の届出にサインをするのは,お母さんとその男性です【★2】。
だけれど,そうであったとしても,養子になる本人のあなたの気持ちが,ないがしろにされるのでは,おかしなことです。
あなたが養子縁組をしたくないのであれば,あなたのその気持ちを,きちんとお母さんとその男性に伝えることが大切です。
もし,あなたが養子縁組をしたくないのに,お母さんが養子縁組の届出をしてしまったら。
そのあと,あなたが15歳になれば,お母さんの気持ちがたとえどのようであっても,あなた自身の考えで,養子縁組をやめるために動くことができます【★5】。
養子縁組をやめることを,「離縁(りえん)」と言います。
離縁をするときは,その男性(養父)と話し合って,一緒に離縁の届出をするのがふつうです【★6】。
話し合いがまとまらなければ,裁判所で話し合いをします(「調停(ちょうてい)」といいます)【★7】。
それでも話し合いがまとまらなければ,離縁のための裁判をする方法もあります【★8】。
これらのどの方法であっても,あなた自身で考え,動くことができます。
その男性と養子縁組をしないからといって,あなたが家を出ないといけないわけではありません。
養子縁組をしなくても(つまり,その男性と法律上の親子にならなくても),みんなで一緒に暮らすことは,とくに問題ありません。
でも,あなたが,「どうしても,その男性や新しく生まれてくる子どもと一緒に暮らしたくない,暮らせない」,ということもあると思います。
あなたの場合,今よく行く親戚のところがあるのですよね。
その親戚と,よく話をしてみてください。
もしその親戚がOKしてくれれば,その親戚とあなたが養子縁組をする,という方法もあります。
あなたが,その親戚の家の子どもになる,という養子縁組です。
あなたが14歳以下なら,お母さんからOKをもらえば,養子縁組の手続きをとることができます。
15歳以上であれば,養子縁組は,お母さんがOKしなくても,自分で考えて動くことができます。
(ただし,誰とでも自由に養子縁組ができるというわけではありません。原則として,未成年のうちは,「その人と養子縁組をして大丈夫かどうか」を,家庭裁判所がチェックすることになっています【★9】)
誰が自分の親になるのか,ということは,人生の中で,とてもだいじなことです。
それなのに,親の再婚の場面で,子どもの気持ちが大切にされていないことが,とても多いです。
私は,虐待や非行のケースを多く見る中で,そう感じています。
自分の人生は,自分が主人公です。
いろんな人の意見を聞きながら,
いろんな人と話し合いながら,
自分で自分の人生を選んでいってください。
【★1】 民法799条 「民法…第739条の規定は,縁組について準用(じゅんよう)する」
民法739条1項 「婚姻は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる」
戸籍法66条 「縁組をしようとする者は,その旨(むね)を届け出なければならない」
【★2】 民法797条1項 「養子となる者が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,縁組の承諾(しょうだく)をすることができる」
これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても養子縁組をするかどうかは自分で決める,ということです。
【★3】 民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」
【★4】 あなたとその男性が養子縁組をしないのであれば,生活費や進学費用などの養育費は,あなたの実の父親にきちんと負担してもらう必要があります。
民法877条 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養(ふよう)をする義務がある」
あなたとその男性が養子縁組をしても,あなたの実の父親の義務がまったくなくなるわけではありません。しかし,養父となる男性がメインであなたの生活を見ることになるので,実の父親は養育費の支払いを免除されたり,減額されたりします。
【★5】 民法811条2項 「養子が15歳未満であるときは,その離縁は,養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする」
これは,逆に言うと,15歳以上ならば,未成年であっても自分で離縁の手続きが取れる,ということです。
【★6】 民法811条1項 「縁組の当事者は,その協議で,離縁をすることができる」
【★7】 家事事件手続法257条 「第244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は,まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない」
同法244条 「家庭裁判所は,人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか,この編の定めるところにより審判をする」
人事訴訟法2条 「この法律において『人事訴訟』とは,次に掲(かか)げる訴えその他の身分関係の形成又は存否(そんぴ)の確認を目的とする訴え…に係(かか)る訴訟をいう。
(略)
三 …離縁の訴え…(略)」
【★8】 民法814条 「縁組の当事者の一方は,次に掲げる場合に限り,離縁の訴えを提起(ていき)することができる。
一 他の一方から悪意で遺棄(いき)されたとき。
二 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき。
三 その他縁組を継続し難(がた)い重大な事由があるとき。」
【★9】 民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない」
例外として,あなたのお母さんとその男性が結婚した場合で,男性とあなたが養子縁組をするときは,家庭裁判所の許可はいらない,とされています。私は,この例外の規定はおかしいと思っています。再婚の場合の養子縁組でも,家庭裁判所がチェックするべきだと思っています。再婚・養子縁組で,子どもたちといい家族をつくっていこう,と,がんばっているお父さん・お母さんは多いです。でも,他方で,虐待や不適切養育が,再婚家庭の養父・養母からされているというケースも,残念ながら,多くあるのが現状です。ですから,こういった再婚家庭での養子縁組のときにも,虐待や不適切養育のおそれがないかどうかを,家庭裁判所がきちんとチェックするしくみが必要だと思います。また,虐待や不適切養育のおそれがないとしても,子ども自身の気持ちを,家庭裁判所がきちんと確かめる手続きがなければいけない,と,強く思っています。
なお,あなたがこれから養子縁組をしようと思っている親戚が,あなたの祖父・祖母の場合にも,家庭裁判所の許可は必要ありません。
同条但書 「ただし,自己又は配偶者(はいぐうしゃ)の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」(「自己」は自分のこと,「配偶者」は,夫から見た妻,妻から見た夫のこと,「直系卑属」は,子ども・孫・ひ孫・・・のことです。)
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