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2013年11月 1日 (金)

「親子の縁を切る」「戸籍から抜く」と言われた

【2022年4月の成人年齢の引下げのため,記事を修正しました。修正後の記事は★こちら★

 親から,「お前とは親子の縁(えん)を切る,戸籍(こせき)から抜(ぬ)く」と言われました。親子の縁を切られたり,戸籍から抜かれたりすると,いったいどうなるんですか。

 

 親から,「親子の縁を切る」とか,「戸籍から抜く」と言われるのは,とてもさみしい,悲しいことですよね。


 でも,法律的に親子の関係を切ったり,子どもを戸籍から抜いたりすることは,よほど特別なことがないかぎり,できません。

 あなたの親が言っていることは,ほとんど無理なことだと思ってもらって,まちがいありません。



 そもそも,「親子の縁を切る」というのは,法律の世界にはない言葉です。


 子どもが生まれると,役所に,「生まれました」という届出をします【★1】

 このときに,父親がだれで,母親がだれか,ということも届け出ます
【★2】

 いったんこの届出をしたら,後になって「やっぱり親子の関係をやめます」ということはできません。

 「この人が親で,この人が子どもだ」,ということ。

 「法律上の親子のつながりがある」,ということ。

 そのことは,これから先も,ずっと変わらないのです
【★3~5】

 将来あなたが結婚して,その家を出ても,

 あなたがどこかに養子に行って,その家を出ても,

 あなたか,親の,どちらかが死んだとしても,

 法律上親子のつながりがあるということは,ずっと変わりません。

 親子の関係を切ることは,できないのです。



 あなたが20歳に大人になるまでの間,親としてあなたに責任をもつ人のことを,「親権者(しんけんしゃ)」と言います【★6】【★7】
【※2022年4月,成人年齢が20歳から18歳に引下げ】

 この「親権者」をやめます,ということも,裁判所が認めなければ,できません
【★8】

 裁判所は,よほどの事情がなければ,勝手に「親権者」をやめることなど,認めないのです
【★9】

 もし,いろんな事情で親が「親権者」でなくなっても
【★10】,上に書いたとおり,法律上親子のつながりがあるということじたいは,やはり変わりません。


 「戸籍」は,一人ひとりの情報を,家族単位で,役所が管理しているものです。

 お父さん・お母さん,そして子どももいっしょに,戸籍にまとめて載っています。

 子どもが親の戸籍から抜けるのは,ふつうは,子どもが,だれかと結婚したときか,どこかの家に養子に行ったときです。

 でも,結婚にしても,養子にしても,相手のいることですから,親だけで勝手にすることはできません。



 結婚や養子縁組をしなくても,大人になれば,親の戸籍から抜けて,一人で新しい戸籍を作ることができます。

 これを「分籍(ぶんせき)」と言います。

 でも,子どものときには,分籍はできません
【★11】


 戸籍は,一人ひとりの情報を管理するための,単なる道具にすぎません。

 だから,たとえ,戸籍が別々になったとしても,法律上の親子のつながりは,まったく切れないのです。

 あなたが親の戸籍から抜けたとしても,

 親の戸籍では「子どものあなたがいる」という情報がわかるようになっていますし,

 あなたの戸籍には「親がだれか」という情報が書かれます。




 これまで書いてきたとおり,法律では,「親子の縁を切る」ということも,戸籍から抜くことも,ほとんどできません。



 あなたの親は,「それが法律でできるのかどうか」ということまで,きちんと考えて言っているのではありません。

 「あなたをこれ以上自分の子どもとして育てていくことがいやになった」,

 親は,そんな気持ちになって,その時のいきおいで,「縁を切る」「戸籍を抜く」と言ってしまっているのだと思います。



 だから,あなたのほうは,

 「親子の縁を切ったり,戸籍から抜かれたりしたら,どうなるか」ということを心配するよりも,

 「どうして親は,私のことを,自分の子どもとして育てていくのがいやになっているのだろう」ということを,考えてみてください。

 それを考えていく中で,親がほんとうはあなたを大切に思ってくれている,ということに,あなた自身が気づくかもしれません。

 「大切なあなたに,きちんとした人に育っていってもらいたい。それなのに,あなたにそうしてもらえない」。

 親は,そういうことへの怒(いか)りから,いきおいで言ってしまっていることも多いと思います。

 本当は,大人のがわも,子どものことを大切に思っているなら,たとえ怒っているときであっても,「縁を切る」,「戸籍を抜く」という言葉で,子どもにさみしく悲しい気持ちにさせるようなことは,してはいけない,と私は思います。

 でも,大人でも,自分の気持ちを相手に伝えるのが,ちょっとうまくないときもあります。

 おたがいが気持ちを分かりあえるように,話ができるとよいと思います。



 一方で,親が,子どものことを大切に思っていないケース,自分の子どもとして育てるのが本当にいやだと思っているケースも,残念ながら,やはりあります。

 私がこれまでかかわってきた虐待のケースでも,親から心ない言葉を言われて傷ついてきた子どもたちが,何人もいました
【★12】

 もし,あなたが親の言葉で深く傷つき,家の中にまったく居場所がない,と感じているようなら,ぜひ,まわりの大人や,私たち弁護士に相談してください。

 

 

 

【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法49条2項 「届出には,次の事項(じこう)を記載しなければならない。
(略)
 三 父母の氏名及び本籍,父又は母が外国人であるときは,その氏名及び国籍」
【★3】 「ほんとうは最初から親子ではなかった」という,かなり特別な場合に親子関係がなくなることはありますが,これも,裁判所が判断します。
 お母さんは,「出産した人イコール母親」です(最高裁昭和37年4月27日判決・民集16巻7号1247頁)。出生の届出のときには,出産の証明書が付けられますから,ウソの届出を作って出さないかぎり,「最初から母親ではありませんでした」ということはありえません(ウソの届出を作って出すのは犯罪です)。
 お父さんは,「自分の子どもではない」「血のつながりがない」と思ったら,1年以内に裁判所に言わなければなりません(これを「嫡出否認(ちゃくしゅつひにん)」と言います)。1年を過ぎれば,たとえ血のつながりがなくても,父親と子どもの関係をやめることは許されません。
民法772条1項 「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する」
民法774条 「第772条の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる」
民法775条 「前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。…」
 とても例外的に,1年を過ぎても「最初から父親ではありませんでした」ということが認められることもあります。しかし,「親子関係不存在確認訴訟」という裁判を起こして,親子の血のつながりがないということと,子どもが生まれるときに夫婦としての見かけがなかったということ,というかなり高いハードルをクリアしなければ,裁判所は「親子でない」とは認めません(「外観説」と言います。最高裁第一小法廷昭和44年5月29日判決・民集23巻6号1064頁,最高裁第三小法廷平成12年3月14日判決・家月52巻9号85頁,最高裁第二小法廷平成10年8月31日判決・家月51巻4号75頁)。
【★4】 法律上の親子の関係が終わるものとして,特別養子縁組という,とても特殊な手続があります。
 特別養子縁組は,子どもを生んだけれども育てられないとか,子どもを虐待してしまう,という親と関係を切って,養子に行った先の家で,養子というよりもほんとうの子どものように親子関係を作るための,特別な養子縁組です。ふつうの養子縁組では,この記事の本文で書いたように,もとの親との関係は切れませんが,特別養子縁組では,もとの親との関係が切れることになります。
 この特別養子縁組は,家庭裁判所がとても慎重に判断しますし,子どもが6歳以上ならできません(例外的に,すでに引き取られる先にずっと育てられてきていれば8歳まで)。
民法817条の2第1項 「家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方(じっかた)との血族関係が終了する縁組(以下この款(かん)において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる」
民法817条の5 「第817条の2に規定する請求の時に6歳に達している者は,養子となることができない。ただし,その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は,この限りでない」
民法817条の7 「特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする」
民法817条の9 「養子と実方の父母及びその血族との親族関係は,特別養子縁組によって終了する。…」
【★5】 法律上の親子関係が続くので,将来,親が年を重ねたとき子どもが親を養(やしな)う立場になりますし(これを扶養(ふよう)といいます),親子としてどちらかが亡(な)くなれば,財産を引き継ぐこと(相続)も起きます。
民法877条1項 「直系血族(ちょっけいけつぞく)及び兄弟姉妹は,互(たが)いに扶養をする義務がある」
(直系血族とは,親・おじいちゃん・おばあちゃん・ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん…という直接の上の世代の人と,子・孫・ひ孫…という直接の下の世代の人のことです)
民法887条1項 「被相続人の子は,相続人となる」
民法889条1項 「次に掲(かか)げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従(したが)って相続人となる。 一 被相続人の直系尊属(ちょっけいそんぞく)。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする」
(直系尊属とは,親・おじいちゃん・おばあちゃん・ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん…という直接の上の世代の人のことです)
【★6】 民法818条1項 「成年に達しない子は,父母の親権に服する」
民法820条 「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育する権利を有し,義務を負う」
【★7】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
 改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
 改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」
【★8】 親権の辞任(じにん)と言います。
民法837条1項 「親権を行う父又は母は,やむを得ない事由(じゆう)があるときは,家庭裁判所の許可を得て,親権又は管理権を辞(じ)することができる」
【★9】 親権の辞任が認められる「やむを得ない事由」とは,たとえば,親が重病になったり,刑務所に行ったり,長い間いなくなったりなどして,親として責任を果たせないというときです(中川淳「改訂親族法逐条解説」486頁参照)。
【★10】 あなたが20歳大人になるまでの間に,「親権辞任」以外の方法で,あなたの親が「親権者」でなくなるのは,次の方法しかありません。
(1)あなたが養子としてほかの家に行く。
(2)あなたが結婚する。(結婚すると,20歳になっていなくても,法律上は大人と同じになり,親の親権から外れます。これを,成年擬制(せいねんぎせい)と言います。)
【★2022年4月,成人年齢の引き下げにともない,結婚できる年齢も男女ともに18歳になりました】
(3)あなたの両親が離婚していたなら,別れていたもう一人の親に親権者を変える。
(4)親権が喪失(そうしつ)させられたり,停止されたりする。
 でも,(1)の養子縁組,(2)の結婚,(3)の親権者の変更,のどれにしても,相手がいる話ですから,親が一人で勝手に決めることは,結局できません。(1)の養子縁組は,おじいちゃん・おばあちゃん以外の人の家に行くなら,家庭裁判所の許可が必要です。(2)の結婚は,男なら18歳,女なら16歳にならなければ,できません。(3)の親権者変更も,裁判所が認めなければできません。また,(4)の親権喪失や親権停止は,親以外の誰かが,「親としてふさわしくない」と裁判所に訴えることが必要ですし,それが認められるためのハードルはとても高いです。
 結局,どの方法も,簡単でないどころか,とても大変なのです。
(1)養子縁組
民法818条2項 「子が養子であるときは,養親の親権に服する」
民法798条 「未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者の直系卑属(ちょっけいひぞく)を養子とする場合は,この限りでない」
(直系卑属とは,子・孫・ひ孫…という直接の下の世代の人のことです)
(2)結婚
民法753条 「未成年者が婚姻をしたときは,これによって成年に達したものとみなす」
民法731条 「男は,18歳に,女は,16歳にならなければ,婚姻をすることができない」
(3)親権者変更
民法819条6項 「子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができる」
(4)親権喪失・親権停止
民法834条 「父又は母による虐待又は悪意の遺棄(いき)があるときその他父又は母による親権の行使が著(いちじる)しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでない」
民法834条の2第1項 「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,…その父又は母について,親権停止の審判をすることができる」
【★11】 戸籍法21条1項 「成年に達した者は,分籍をすることができる…」
【★12】 「心理的虐待」という児童虐待にあたる場合もあります。
児童虐待の防止等に関する法律2条 「この法律において,『児童虐待』とは,保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,児童を現に監護するものをいう。…)がその監護する児童(18歳に満たない者という。…)について行う次に掲げる行為(こうい)をいう。
(略)
 四 児童に対する著(いちじる)しい暴言又は著しく拒絶的(きょぜつてき)な対応…その他の児童に著しい心理的外傷(しんりてきがいしょう)を与(あた)える言動を行うこと」

Part1_2

 

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