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2013年9月 1日 (日)

先生が体罰をやめない

 

 私立の高校に通ってます。授業に遅刻したら,先生から蹴(け)りを入れられました。この前は,ピアスの穴を開けた友だちが,その先生から殴られてました。先生は,「これが俺のやり方だ,このやり方をやめるつもりはない,学校の上の人たち(校長とか)も知っている」,とか言ってます。こんなの,許されるんですか。

 

 先生が生徒を殴ったり蹴ったりすることは,法律に反する,許されないことです。


 
殴ったり蹴ったりすることは,犯罪です【★1】

 ふつうの社会の中では犯罪なのに,学校の中では先生が生徒にしても許される,というのでは,おかしなことです。

 学校教育法という法律には,「体罰をしてはいけない」と,はっきり書かれています
【★2】【★3】

 体罰が許されないのは,公立の学校でも,私立の学校でも,かわりありません。



 悪いことをしたら,「罰」を受ける。

 そういう社会のしくみじたいは,もちろん必要です。

 私も,弁護士として,犯罪をしたと疑われている人たちの弁護活動をしている中で,「罰」の持つ重みを実感しています。



 でも,刑事裁判を終えて受ける「罰」でさえ,

 その内容は,お金を払わされたり,自由を奪(うば)われたりする,というものです
【★4】

 殴られたり蹴られたりする「罰」など,ありません
【★5】

 しかも,

 罰の前に,裁判などの場で,本人の言い分をきちんと聞かなければならないし,

 どういう時にどういう罰になるか,というルールが,きちんと決まっていなければなりません
【★6】


 それに,子どもが犯罪をした場合は,大人とちがって,「罰」を与えるのではなく,その子を「保護」して「教育」しよう,というのが,法律の基本的な考え方です。



 それなのに,学校では,

 犯罪ほど悪いことをしていなくても,「罰」として,先生から殴られたり蹴られたりする。

 しかも,

 生徒の言い分をちゃんと聞かないままだったり,

 「罰」のルールも決まっていなくて,先生の気分しだいで,勝手に行われている
【★7】

 これは,まったくおかしなことです。



 教育には体罰が必要だ,という人もいます。

 でも,「暴力」で相手を押さえつけるのは,「教育」ではありません。

 暴力を使うのは,たんなる「支配」です。



 たとえ,暴力を使って相手が素直になったように見えても,それは,怖(こわ)いから,いっときだけ,表面的に,そうするだけのことです。

 表面ではしたがっていても,心の中では反発したまま。

 「ルールの意味を理解してきちんと守る」という人間には育ちません
【★8】


 また,体罰がおこなわれるときは,先生のがわも,冷静ではありません。

 そのため,体罰がエスカレートして子どもがケガで死んでしまったり,心を深く傷つけて子どもが自殺してしまったりする,そのような痛ましい事件が,これまでにいくつも起きています。



 悪いことをしてしまった子どもに必要なのは,

 体罰という暴力の痛みや恐怖ではありません。

 必要なのは,「なぜそれをしてはいけないことなのか」ということを,きちんと考えさせることです。



 ルールを守らない子どもを教育するのに,

 その大人のがわが,「体罰をしてはいけない」という国のルールを破っていては,

 まったく説得力がありません。



 体罰をやめるように,その先生や学校に,あなたたち生徒の意見を伝えていきましょう。

 でも,その伝えかたには,工夫が必要です。



 とくに,あなたが体罰を受けたきっかけについて,あなた自身がきちんと整理する必要があります。

 今回であれば,授業に遅刻したことについて,

 どうして遅刻がダメなことなのか,

 どうして今回遅刻してしまったのか,

 これからどうしたら遅刻しないようにできるか,

 それらを,あなた自身がどう頭の中で整理しているか,それをどうやって先生に伝えるかが,だいじです。

 「体罰がなくても,きちんと話し合えば,自分はわかっていけるんだ」,ということを,示していきましょう。

 体罰をする先生に向かって「先生が法律に違反している」と言っていくときには,

 自分自身のルールへの向き合い方も,自分で見つめ直すことが大切なのです。



 「あと1,2年だけガマンすればいいから,声をあげるのもめんどうくさい」,

 きっと,そう考える子どもたちも多いと思います。

 でも,体罰について,ぜひ,先生や学校と,真剣に話し合いをしてみてください。

 そのことを通して,「ルールとはいったいなんなのか」という大切なことを,自分の身をもって,学んでいくことができるはずです。

 弁護士は,そのお手伝いをします。

 一緒に作戦会議をしましょう。

 

【★1】 暴行罪(ぼうこうざい),傷害罪(しょうがいざい),過失傷害罪(かしつしょうがいざい)などにあたります。
 刑法208条 「暴行を加えた者が人を傷害するに至(いた)らなかったときは,2年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは30万円以下の罰金又(また)は拘留(こうりゅう)若しくは科料(かりょう)に処(しょ)する」
 刑法204条 「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」
 刑法209条1項 「過失により人を傷害した者は,30万円以下の罰金又は科料に処する」
 大阪高裁昭和30年5月16日判決(高裁刑集8巻4号545頁) 「基本的人権尊重を基調とし暴力を否定する日本国憲法の趣旨…に鑑(かんが)みるときは,殴打(おうだ)のような暴行行為は,たとえ教育上必要があるとする懲戒行為(ちょうかいこうい)としてでも,その理由によって犯罪の成立上違法性を阻却(そきゃく)せしめるというような法意(ほうい)であるとは,とうてい解されない」
 最高裁第1小法廷昭和33年4月3日判決(最高裁判所裁判集刑事124号31頁)  「原判決が殴打のような暴行行為はたとえ教育上必要な懲戒行為としてでも犯罪の成立上違法性を阻却せしめるとは解されないとしたこと,並びに,所論(しょろん)学校教育法11条違反行為が他面において刑罰法規に触れることあるものとしたことは,いずれも,正当として是認(ぜにん)することができる」
【★2】 学校教育法11条 「校長及(およ)び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない」
【★3】 このことは,「先生が生徒にどんな時であっても力をまったく使ってはいけない」,という意味ではありません。生徒が先生に暴力をふるおうとしてくるときには先生も自分の身を守るために力を使うことは認められますし,生徒が他の人に暴力をふるおうとしているときにはその人を助けるために力を使うことも認められます(正当防衛)。また,生徒が悪いことをしていないときでも,先生が自分を守るため,または,先生が他の人を守るために,どうしても必要なときには,その生徒に対して力を使うことが認められる場合もあります(緊急避難)。
 刑法36条1項 「急迫不正(きゅうはくふせい)の侵害(しんがい)に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない」
 刑法37条1項 「自己又は他人の生命,身体,自由又は財産に対する現在の危難を避けるため,やむを得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り,罰しない。…」
 民法720条1項 「他人の不法行為に対し,自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため,やむを得ず加害行為をした者は,損害賠償の責任を負わない。…」
 また,先生が力を使うことが体罰にあたるかどうか,判断が難しいものもあります。他の子や先生を蹴った小学2年生を,先生が追いかけてつかまえ,その子の胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ」と叱った,というケースについて,一審の熊本地裁平成19年6月15日判決は,体罰であるとして約65万円の損害賠償を認め,二審の福岡高裁平成20年2月26日判決は,体罰であるとしながらも損害賠償は約21万円に減額し,さらに,最高裁第3小法廷平成21年4月28日判決(民集63巻4号904頁)は,以下のように述べて,体罰にあたらないと判断し,損害賠償を認めませんでした。
「本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという〔児童〕の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように〔児童〕を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として〔児童〕に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。〔先生〕は,自分自身も〔児童〕による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当(おんとう)を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱(いつだつ)するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当(がいとう)するものではないというべきである」
【★4】 刑法9条 「死刑,懲役,禁錮(きんこ),罰金,拘留及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
【★5】 憲法36条 「公務員による拷問(ごうもん)及び残虐な刑罰は,絶対にこれを禁ずる」
【★6】 罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ)と言います。
 憲法31条 「何人(なんぴと)も,法律の定める手続きによらなければ,その生命若しくは自由を奪は(うばわ)れ,又はその他の刑罰を科せられない」
【★7】 他の国(アメリカの州)では,教育上,体罰をすることは認めるけれども,「どういう場合に,誰が,どんな方法で体罰を加えるか」,というルールが決まっている,というところもあります。
【★8】 先生から体罰を受けた小学生が,1時間後に自殺した事件で,神戸地裁姫路支部平成12年1月31日判決(判例時報1713号84頁)は,このように言っています。「学校教育法11条ただし書が体罰の禁止を規定した趣旨は,いかに懲戒の目的が正当なものであり,その必要性が高かったとしても,それが体罰としてなされた場合,その教育的効果の不測性は高く,仮に,被懲戒者の行動が一時的に改善されたように見えても,それは表面的であることが多く,かえって当該生徒に屈辱感を与え,いたずらに反発・反抗心をつのらせ,教師に対する不信感を助長することにつながるなど,人格形成に悪影響を与える恐れが高いことや,体罰は現場興奮的になされがちでありその制御が困難であることを考慮して,これを絶対的に禁止するというところにある」

 

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