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2013年9月

2013年9月 1日 (日)

先生が体罰をやめない

 

 私立の高校に通ってます。授業に遅刻したら,先生から蹴(け)りを入れられました。この前は,ピアスの穴を開けた友だちが,その先生から殴られてました。先生は,「これが俺のやり方だ,このやり方をやめるつもりはない,学校の上の人たち(校長とか)も知っている」,とか言ってます。こんなの,許されるんですか。

 

 先生が生徒を殴ったり蹴ったりすることは,法律に反する,許されないことです。


 
殴ったり蹴ったりすることは,犯罪です【★1】

 ふつうの社会の中では犯罪なのに,学校の中では先生が生徒にしても許される,というのでは,おかしなことです。

 学校教育法という法律には,「体罰をしてはいけない」と,はっきり書かれています
【★2】【★3】

 体罰が許されないのは,公立の学校でも,私立の学校でも,かわりありません。



 悪いことをしたら,「罰」を受ける。

 そういう社会のしくみじたいは,もちろん必要です。

 私も,弁護士として,犯罪をしたと疑われている人たちの弁護活動をしている中で,「罰」の持つ重みを実感しています。



 でも,刑事裁判を終えて受ける「罰」でさえ,

 その内容は,お金を払わされたり,自由を奪(うば)われたりする,というものです
【★4】

 殴られたり蹴られたりする「罰」など,ありません
【★5】

 しかも,

 罰の前に,裁判などの場で,本人の言い分をきちんと聞かなければならないし,

 どういう時にどういう罰になるか,というルールが,きちんと決まっていなければなりません
【★6】


 それに,子どもが犯罪をした場合は,大人とちがって,「罰」を与えるのではなく,その子を「保護」して「教育」しよう,というのが,法律の基本的な考え方です。



 それなのに,学校では,

 犯罪ほど悪いことをしていなくても,「罰」として,先生から殴られたり蹴られたりする。

 しかも,

 生徒の言い分をちゃんと聞かないままだったり,

 「罰」のルールも決まっていなくて,先生の気分しだいで,勝手に行われている
【★7】

 これは,まったくおかしなことです。



 教育には体罰が必要だ,という人もいます。

 でも,「暴力」で相手を押さえつけるのは,「教育」ではありません。

 暴力を使うのは,たんなる「支配」です。



 たとえ,暴力を使って相手が素直になったように見えても,それは,怖(こわ)いから,いっときだけ,表面的に,そうするだけのことです。

 表面ではしたがっていても,心の中では反発したまま。

 「ルールの意味を理解してきちんと守る」という人間には育ちません
【★8】


 また,体罰がおこなわれるときは,先生のがわも,冷静ではありません。

 そのため,体罰がエスカレートして子どもがケガで死んでしまったり,心を深く傷つけて子どもが自殺してしまったりする,そのような痛ましい事件が,これまでにいくつも起きています。



 悪いことをしてしまった子どもに必要なのは,

 体罰という暴力の痛みや恐怖ではありません。

 必要なのは,「なぜそれをしてはいけないことなのか」ということを,きちんと考えさせることです。



 ルールを守らない子どもを教育するのに,

 その大人のがわが,「体罰をしてはいけない」という国のルールを破っていては,

 まったく説得力がありません。



 体罰をやめるように,その先生や学校に,あなたたち生徒の意見を伝えていきましょう。

 でも,その伝えかたには,工夫が必要です。



 とくに,あなたが体罰を受けたきっかけについて,あなた自身がきちんと整理する必要があります。

 今回であれば,授業に遅刻したことについて,

 どうして遅刻がダメなことなのか,

 どうして今回遅刻してしまったのか,

 これからどうしたら遅刻しないようにできるか,

 それらを,あなた自身がどう頭の中で整理しているか,それをどうやって先生に伝えるかが,だいじです。

 「体罰がなくても,きちんと話し合えば,自分はわかっていけるんだ」,ということを,示していきましょう。

 体罰をする先生に向かって「先生が法律に違反している」と言っていくときには,

 自分自身のルールへの向き合い方も,自分で見つめ直すことが大切なのです。



 「あと1,2年だけガマンすればいいから,声をあげるのもめんどうくさい」,

 きっと,そう考える子どもたちも多いと思います。

 でも,体罰について,ぜひ,先生や学校と,真剣に話し合いをしてみてください。

 そのことを通して,「ルールとはいったいなんなのか」という大切なことを,自分の身をもって,学んでいくことができるはずです。

 弁護士は,そのお手伝いをします。

 一緒に作戦会議をしましょう。

 

【★1】 暴行罪(ぼうこうざい),傷害罪(しょうがいざい),過失傷害罪(かしつしょうがいざい)などにあたります。
 刑法208条 「暴行を加えた者が人を傷害するに至(いた)らなかったときは,2年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは30万円以下の罰金又(また)は拘留(こうりゅう)若しくは科料(かりょう)に処(しょ)する」
 刑法204条 「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」
 刑法209条1項 「過失により人を傷害した者は,30万円以下の罰金又は科料に処する」
 大阪高裁昭和30年5月16日判決(高裁刑集8巻4号545頁) 「基本的人権尊重を基調とし暴力を否定する日本国憲法の趣旨…に鑑(かんが)みるときは,殴打(おうだ)のような暴行行為は,たとえ教育上必要があるとする懲戒行為(ちょうかいこうい)としてでも,その理由によって犯罪の成立上違法性を阻却(そきゃく)せしめるというような法意(ほうい)であるとは,とうてい解されない」
 最高裁第1小法廷昭和33年4月3日判決(最高裁判所裁判集刑事124号31頁)  「原判決が殴打のような暴行行為はたとえ教育上必要な懲戒行為としてでも犯罪の成立上違法性を阻却せしめるとは解されないとしたこと,並びに,所論(しょろん)学校教育法11条違反行為が他面において刑罰法規に触れることあるものとしたことは,いずれも,正当として是認(ぜにん)することができる」
【★2】 学校教育法11条 「校長及(およ)び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない」
【★3】 このことは,「先生が生徒にどんな時であっても力をまったく使ってはいけない」,という意味ではありません。生徒が先生に暴力をふるおうとしてくるときには先生も自分の身を守るために力を使うことは認められますし,生徒が他の人に暴力をふるおうとしているときにはその人を助けるために力を使うことも認められます(正当防衛)。また,生徒が悪いことをしていないときでも,先生が自分を守るため,または,先生が他の人を守るために,どうしても必要なときには,その生徒に対して力を使うことが認められる場合もあります(緊急避難)。
 刑法36条1項 「急迫不正(きゅうはくふせい)の侵害(しんがい)に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない」
 刑法37条1項 「自己又は他人の生命,身体,自由又は財産に対する現在の危難を避けるため,やむを得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り,罰しない。…」
 民法720条1項 「他人の不法行為に対し,自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため,やむを得ず加害行為をした者は,損害賠償の責任を負わない。…」
 また,先生が力を使うことが体罰にあたるかどうか,判断が難しいものもあります。他の子や先生を蹴った小学2年生を,先生が追いかけてつかまえ,その子の胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ」と叱った,というケースについて,一審の熊本地裁平成19年6月15日判決は,体罰であるとして約65万円の損害賠償を認め,二審の福岡高裁平成20年2月26日判決は,体罰であるとしながらも損害賠償は約21万円に減額し,さらに,最高裁第3小法廷平成21年4月28日判決(民集63巻4号904頁)は,以下のように述べて,体罰にあたらないと判断し,損害賠償を認めませんでした。
「本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという〔児童〕の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように〔児童〕を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として〔児童〕に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。〔先生〕は,自分自身も〔児童〕による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当(おんとう)を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱(いつだつ)するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当(がいとう)するものではないというべきである」
【★4】 刑法9条 「死刑,懲役,禁錮(きんこ),罰金,拘留及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」
【★5】 憲法36条 「公務員による拷問(ごうもん)及び残虐な刑罰は,絶対にこれを禁ずる」
【★6】 罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ)と言います。
 憲法31条 「何人(なんぴと)も,法律の定める手続きによらなければ,その生命若しくは自由を奪は(うばわ)れ,又はその他の刑罰を科せられない」
【★7】 他の国(アメリカの州)では,教育上,体罰をすることは認めるけれども,「どういう場合に,誰が,どんな方法で体罰を加えるか」,というルールが決まっている,というところもあります。
【★8】 先生から体罰を受けた小学生が,1時間後に自殺した事件で,神戸地裁姫路支部平成12年1月31日判決(判例時報1713号84頁)は,このように言っています。「学校教育法11条ただし書が体罰の禁止を規定した趣旨は,いかに懲戒の目的が正当なものであり,その必要性が高かったとしても,それが体罰としてなされた場合,その教育的効果の不測性は高く,仮に,被懲戒者の行動が一時的に改善されたように見えても,それは表面的であることが多く,かえって当該生徒に屈辱感を与え,いたずらに反発・反抗心をつのらせ,教師に対する不信感を助長することにつながるなど,人格形成に悪影響を与える恐れが高いことや,体罰は現場興奮的になされがちでありその制御が困難であることを考慮して,これを絶対的に禁止するというところにある」

 

自分の男の体がいやで性別を変えたい

 

 中学1年生です。ずっと前から,自分は女の子だと思っていて,自分の体が男なのがいやでした。最近は声が低くなったりしてきていて,いままで以上につらいです。親や先生からは「もっと男らしくしなさい」と言われるし,クラスでは「おかま」とからかわれたりするので,誰にも相談できません。性別を変える法律があるってテレビで聞いたことがあるんですが,どうやったら変えられるんですか。

 

 性別の取扱いを変える法律が,今から10年前にできました。

 しかし,20歳以上でないとその法律は使えませんし,いろいろな条件があります。

 でも,法律で性別を変えていなくても,あなたらしく暮らし,あなたらしく生きていくために,まわりと話し合いをしていくことができます。



 子どもが生まれると,お父さん・お母さんなどが,役所に,「生まれました」という届出をします【★1】

 その届出に,「男の子か,女の子か」が書かれます
【★2】

 どちらの性別かは,赤ちゃんの体,特に外性器を見て,判断されています
【★3】

 そして,その届出をもとに,「戸籍(こせき)」に,生まれてきた子どもの性別が書かれます
【★4】

 「戸籍」は,一人ひとりの情報を,家族単位で,役所が管理しているものです。

 生まれてから亡くなるまでの間,この「戸籍」に書かれた性別で,社会生活を送っていきます。


 でも,赤ちゃんがだんだんと成長し,物心がついてきたときに,

 体が男の子でも,「自分は女の子だ,女の子として暮らしたい」という強い気持ちがずっと続く子どもや,

 体が女の子でも,「自分は男の子だ,男の子として暮らしたい」という強い気持ちがずっと続く子ども,

 そして,「自分の体の性別にずっと違和感(いわかん)がある,自分の体がいやでたまらない」という苦しさを抱える子ども,

 そういう子どもたちが,必ずいます。

 10代になると,体が大人の仲間入りを始めたり,社会の中で性別による役割の違いを実感し始めたりします。

 そのころになると,苦しさは,ますます大きくなっていきます。



 「女の子として暮らしたいのにそうできない」,

 「自分の男の子の体に違和感がある」。

 そういうあなたも,これまで,苦しい思いをしてきたと思います。

 そのことだけでもつらいのに,

 家族にも先生にも相談できず,友だちからからかわれたりもしていて,

 一人ぼっちに感じる,二重に苦しい毎日を送っているのですよね。



 あなたのように,心と体の性別のちがいのために苦しさをかかえている人を,「トランスジェンダー」といいます【★5】

 また,「性同一性障害(せいどういつせいしょうがい)」という言葉も,聞いたことがあるかもしれません。

 これは,医学の言葉です。

 世界中のお医者さんが使っている共通の基準があります。

 その基準を満たしていると,「性同一性障害」と診断されます
【★6】


 あなたが質問した,「性別を変える法律」は,10年前(平成15年)にできました【★7】

 お医者さんから「性同一性障害」と診断されている人で,一定の条件を満たしていれば,この法律で,戸籍に書かれている性別の取扱いを変えることができるようになりました。

 社会生活のあらゆる場面で,その人にとっての「自分ほんらいの性別」として,生きることができるようになったのです
【★8】

 これまで,この家庭裁判所の手続をとって,認められた人は,2847人います
【★9】


 ただ,この手続を使えるのは,20歳になってから後です【★10】

 性別は,その人の存在そのものと深くかかわっていることだし,一度変えたら元にもどすことはできません。

 だから,大人になってから慎重に自分で考えて手続をとる必要がある。

 そういうことなどが,「20歳にならなければできない」とされる理由です
【★11】

 なので,あなたが今,この法律を使って,性別の取扱いを変える手続をとることはできません。



 また,今の日本の法律では,この家庭裁判所での手続をするには,性別を変える手術をすることが,条件になっています【★12】【★13】

 この手術も,「20歳以上の人に対してする」ということになっているので,子どものときにはできません
【★14】


 なお,トランスジェンダーの人すべてが,生きていくうえで「性別を変える手術が絶対に必要」というわけではありません【★15】

 性別を変える手術をせず,法律で性別の取扱いを変えなくても,自分らしく暮らしている,

 そういうトランスジェンダーの人たちも,たくさんいます。

 そして,そういう人たちに配慮した取り組みも,この社会の中で広がり始めています
【★16】

 そういうことも,知っていてください。

 将来,あなたが手術まで必要とするかどうかは,これからじっくりと,お医者さんとよく相談していってください。

 あなたが大人になるまでの間に,法律もまた,変わっているかもしれません
【★17】


 法律で性別の取扱いを変えられなくても,

 自分らしく,暮らしていき,生きていくこと。

 これは,とても大切なことです。

 大人だけでなく,大人になる前の子どものときだって,同じです。



 学校では,トランスジェンダーの子どもたちに,きめ細やかな対応をするようになってきました。

 3年前には,文部科学省が,「こういう子どもたちにきちんと配慮するように」という通知を出しています
【★18】

 学校の中で,呼び方をどうするか,服装をどうするか,男女別の活動をどうするか,トイレや着替えはどうするか,他の生徒たちへの説明はどうするか。

 そういったこと一つひとつを,あなたの気持ちをだいじにしながら,学校や教育委員会と話し合っていく取り組みが,実際に,少しずつ始まっています
【★19】


 ただ,そうはいっても,あなたがすぐに親や先生に相談することは,なかなか難しいかもしれません。

 「もっと男らしくしなさい」などと言われていたら,その親や先生が,自分の苦しみをきちんと聞いて受け止めてもらえるかどうか,不安ですよね。



 でも,性別は,自分が一体何者なのかということと深く結びついている,そして,あなたの人生にかかわってくる,とてもだいじなことです【★20】

 最近は,大人たちに対して,トランスジェンダーについての理解を深めるための情報も,増えてきています。


 だから,あなたのその苦しみを,親や先生に伝えていきましょう。

 直接言いづらければ,まず最初に,保健室の養護の先生やスクールカウンセラーの人に相談してみるのも,一つの方法です。

 養護の先生やスクールカウンセラーへの相談をきっかけにして,親や担任,そしてトランスジェンダーにくわしいお医者さんにも,つながっていけると思います。

 もし,親や学校,教育委員会などの話し合いがスムーズにいかないようであれば,私たち弁護士が,そのお手伝いをすることもできます。



 あなたは,一人ではありません。

 あなたと同じような苦しみをかかえている仲間や,乗り越えてきた先輩たちが,たくさんいます。

 あなたが,あなたらしく暮らし,あなたらしく生きていけるように,サポートしたい,そう考えている大人たちも,たくさんいます。



 あなたが一人ぼっちではないと実感できること,

 そして,

 あなたがあなたらしく生きていけること。

 それが,法律がだいじにしていることなのです。

 

【★1】 戸籍法49条1項 「出生の届出は,14日以内(国外で出生があったときは,3箇月以内)にこれをしなければならない」
【★2】 戸籍法49条2項 「届書には,次の事項(じこう)を記載しなければならない。 一 子の男女の別…(以下略)」
【★3】 外性器からは男の子か女の子かがすぐにわからないケースも,一定程度あります。「性分化疾患(せいぶんかしっかん)」,「インターセクシュアル」と言います。この場合は,血液検査などをして,男の子か女の子かを判断します。この性分化疾患についても,だいじなことですから,別の記事で書こうと思います。
【★4】 戸籍には,「男/女」と書く部分はなく,「長男」「二男」「長女」「二女」・・・などの書き方で,性別がわかるようにしています。
 戸籍法13条 「戸籍には,本籍の外(ほか),戸籍内の各人について,左の事項を記載しなければならない。 …四  実父母の氏名及び実父母との続柄…(以下略)」
【★5】 「トランス」というのは,「超える」,「別のがわへ」,という意味です。「ジェンダー」というのは,性別のことです。「生物としての男/女」という意味よりももっと広く,「社会の中での男とは/女とは」というイメージです。
 「トランスジェンダー」に似た言葉で,「トランスセクシュアル」という言葉もあります。「トランスセクシュアル」は,もともと医学の世界の言葉です。人によって「トランスジェンダー」と「トランスセクシュアル」の言葉の使い分けがちがうので難しいのですが,体を変える手術まで必要とする人のことを「トランスセクシュアル」ということが多いです。
【★6】 WHO(世界保健機関)が作っている「ICD-10」という基準と,アメリカ精神医学会が作っている「DSM-IV-TR」という基準があり,それぞれの中に,性同一性障害の診断基準が載っています。
【★7】 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「性同一性障害者特例法」といいます)。平成15年7月に国会で成立し,翌平成16年7月から施行されました。
【★8】 性同一性障害者特例法4条1項 「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法…その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす」
【★9】 裁判所の司法統計「家事審判事件の受理,記載,未済手続別事件別件数-全家庭裁判所」の平成16年度から平成23年度までの認容件数の合計。
 http://www.courts.go.jp/search/jtsp0010?
【★10】 性同一性障害者特例法3条 「家庭裁判所は,性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて,その者の請求により,性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 … 一 20歳以上であること」
【★11】 南野千恵子監修「解説 性同一性障害者性別取扱特例法」129頁「『20歳以上であること』を要件としたのは,①民法上,人の自然的精神能力が十分に備わる年齢は20歳以上とされていること,②性別はその人の人格そのものにかかわる重大な事柄であり,また,その変更は不可逆的なものとなることから,本人に慎重に判断させる必要があること,③日本精神神経学会がまとめた『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン』でも第3段階の治療(性器に関する手術)へ移行するための条件として20歳以上であることが求められていること,などが考慮されたものです」
【★12】 「性別適合手術」と言います。一般的に「性転換手術」と言われることもあります。
【★13】 性同一性障害者特例法3条 「家庭裁判所は,性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて,その者の請求により,性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 … 四  生殖腺(せいしょくせん)がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。 五  その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」
【★14】 性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版)14頁。
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/gid_guideline/files/journal_114_11_gid_guideline_no4.pdf
【★15】 「トランスジェンダーなら性別適合手術をしなければいけない」「トランスジェンダーなら性別適合手術をしたほうがよい」という誤解が,時々みられます(トランスジェンダーの当事者でない人に,その誤解が多いようです)。
 でも,トランスジェンダーの人たちが,どうやって心と体とのバランスをとるかは,人によってまちまちです。
 カウンセリングを通して人間関係や環境を変えることで苦しみがやわらぐ人もいますし,ホルモン療法で体つきを変えることで苦しみがやわらぐ人もいます。
 顔つきを変える手術を受けたり,法律上の名前を変える手続きを取ったりすることで,苦しみがやわらぐという人もいるでしょう。
 性別適合手術は,体にも負担をかけるし,お金もかかります。そのような手術をすることで苦しみをやわらげる必要のある人もいれば,そこまでする必要のない人もいる,ということです。
 「法律で性別の取扱いを変えるために,手術をする」と考えるのではなく,「自分が心と体のバランスをとるために手術が必要かどうか」ということをお医者さんと相談しながら考えることが大切です。
【★16】 たとえば,身分証明としても使われる国民健康保険の保険証には,表面に性別が書かれます。性別の取扱いの変更をしていない人について,表面の性別欄に「裏面参照」と書いて,裏面に「戸籍上の性別は男(又は女)」と書くなどの工夫をすることが認められるようになったことなどがあります(厚生労働省保険局国民健康保険課長平成24年9月21日保国発0921第1号「国民健康保険被保険者証の性別表記について(回答)」)。
【★17】 性同一性障害者特例法附則2条で,「性同一性障害者の範囲…については,この法律の施行後3年を目途(めど)として,この法律の施行の状況,性同一性障害者等を取り巻く社会的環境の変化等を勘案(かんあん)して検討が加えられ,必要があると認めるときは,その結果に基(もと)づいて所要(しょよう)の措置(そち)が講(こう)ぜられるものとする」とされていました。
 実際に,平成20年に,法律が一部改正されています(3条三号「現に子がいないこと」が「現に未成年の子がいないこと」に改められて,性別の取扱いの変更が認められる人が広がりました)。
 その平成20年の改正のときにも,附則3条で,今後も法律の改善について検討するように,と書かれています。
 日本の法律で,性別の取り扱いを変えるために性別適合手術をすることが条件になっているのはおかしい,という意見もあります。他の国では,性別の取り扱いを変えるために手術をすることまでは必要ない,というところもあります(たとえばイギリスなど。山下敏雅・田巻帝子「性同一性障がい者の婚姻と嫡出推定」ジェンダー法学会『ジェンダーと法No10』126頁「イギリス法の主たる要件は,出生時の性と自身が信じる性とが食い違っていて,自分が信じる性で一生生きていくという本人の意思確認が大前提となっている。その意思があることの証明として,身体の特徴をその性に近づけるための手術を要求していない」)。
【★18】 平成22年4月23日初等中等教育局児童生徒課,スポーツ・青少年局学校健康教育課事務連絡「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について(通知)」
http://www.pref.osaka.jp/attach/4475/00051736/220426kyouikusoudantaisei.pdf (大阪府ウェブサイト)
 「先日,性同一性障害のある児童生徒に係(かか)る対応も報道等で取り上げられました。性同一性障害のある児童生徒は,生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず,心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち,かつ,自己(じこ)を身体的及(およ)び社会的に他の性別に適合させようとする意思(いし)を有(ゆう)する者であり,学校での活動を含め日常の活動に悩みを抱え,心身への負担が過大なものとなることが懸念(けねん)されます。こうした問題に関しては,個別の事案に応じたきめ細やかな対応が必要であり,学校関係者においては,児童生徒の不安や悩みをしっかり受け止め,児童生徒の立場から教育相談を行うことが求められております。
 したがって,各学校においては,学級担任や管理職を始めとして,養護教諭,スクールカウンセラーなど教職員等が協力して,保護者の意向にも配慮しつつ,児童生徒の実情を把握した上で相談に応じるとともに,必要に応じて関係医療機関とも連携するなど,児童生徒の心情に十分配慮した対応をお願いいたします。
 また,都道府県・指定都市教育委員会にあっては所管(しょかん)の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対して,都道府県知事にあっては所轄の私立学校に対して,この趣旨について周知徹底を図るとともに,性同一性障害を始めとする新たな課題についても学校において適切に対応ができるよう,必要な情報提供を行うことを含め指導・助言をお願いします」
【★19】 NHK・Eテレ「ハートネットTV シリーズ 多様な“性”と生きている」第2回「セクシュアルマイノリティーの子どもたち~成長を支える~」(2013年6月4日)で,その具体的な取り組みが紹介されています。
【★20】 自分がいったい何者なのか,ということを,難しい言葉で,「アイデンティティ」と言います。特に子どものときは,このアイデンティティをかたちづくっていくための,とてもだいじな時期です。

 

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