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2013年8月 1日 (木)

援助交際で子どもが捕まることがあるの

 

 高校2年生の女子です。時々援助交際してます。最近,友だちが援助交際で警察に捕まったみたいですが,くわしいことは分かりません。援助交際って,「大人は捕まるけど,子どもは犯罪にならないから捕まらない」って聞いていたけど,ちがうんですか。



 援助交際は,犯罪として,大人が捕まることがあります【★1~3】。

 ぎゃくに,たしかに,援助交際をした子どものがわが犯罪になるとは,法律には書かれていません
【★4】


 けれど,援助交際そのものではなく,援助交際に関係した犯罪で,子どもが逮捕されることはあります

 たとえば,援助交際をした大人のがわが犯罪になることにかこつけて,「警察にばらされたくなかったら金を払え」などとおどせば,恐喝罪(きょうかつざい)です
【★5】

 また,出会い系サイトに子どもが書き込みをするのも犯罪で,それを理由に実際に逮捕された子どももいます
【★6】

 出会い系サイトの書き込みだけでなく,みんなに見えるやりかたで売春の相手をさがすことなども,むかしから犯罪とされています
【★7】


 ただ,援助交際をした子どもが,警察から家に帰れなくなるのは,「犯罪をしたから逮捕」というのではないことのほうが多いです。


 17歳までの子どもだと,警察から児童相談所にそのまま移されて,保護されることがあります【★8】

 これを,「身柄(みがら)付き通告(つうこく)」と言います。

 通告がされると,一時保護所というところに保護されます。

 そして,児童相談所が,あなたがどんな子どもかを見きわめ,家に帰せるかどうかを考えます。

 どうして援助交際をしていたのか,そのことについて今どう考えているのか,これからどうしていきたいのか。

 自分自身のことを大切にしているか,まわりから大切にされているか。

 そういったことを見ていきます。

 その結果,家に帰った後も児童相談所があなたや家族のサポートを続ける,ということもあります。

 「家に帰すのはあなたにとって良くない」と判断されて,施設で暮らしていく,ということもあります。

 施設としては,児童養護施設や,児童自立支援施設
【★9】などがあります。


 また,「このままでは犯罪をするかもしれない」という理由で,警察から家庭裁判所に送られることもあります

 これを「ぐ犯(ぐはん)」と言います
【★10】

 家庭裁判所での判断をするまでの間,「あなたがどういう人かを見きわめる必要がある」,と裁判官が考えると,少年鑑別所(かんべつしょ)というところにとめおかれます。

 これを,「観護措置(かんごそち)」と言います
【★11】

 そして,家庭裁判所の調査官と裁判官が,あなたがどんな子かを見きわめ,家に帰せるかどうかを考えます。

 どうして援助交際をしていたのか,そのことについて今どう考えているのか,これからどうしていきたいのか。

 自分自身のことを大切にしているか,まわりから大切にされているか。

 やはり,そういったことを見ていきます。

 その結果,「審判(しんぱん)」で,「家に帰っていい」,と言われることもあれば,「施設に行きなさい」,と言われることもあります。

 施設としては,少年院や,児童自立支援施設
【★9】などがあります。



 援助交際じたいは子どものがわは犯罪ではないのに,家に帰れない法律の手続があるのは,

 大人の私たちが,子どもたちのことを大切に思っているから,

 援助交際をしている子どもたちに,自分自身を大切にしてもらいたいからです




 10代は,体と心が,大人の仲間入りをします。

 そして,「性」を意識するようになります。



 あなたの体と,あなたの心。

 これは,これからずっと,あなた自身が付き合っていくものです。

 その付き合いは,死ぬまでの何十年という間,ずっと続きます。

 だから,最初のころは,

 大人の仲間入りを始めたばかりの自分の体と心との付き合い方を,じっくりと身につけていってほしいのです。

 あなた自身を,大切にしてほしいのです。



 「性」と聞くと,セックスのことをイメージする人が多いと思います。

 でも,それは,「性」のうちの一部にすぎません。

 自分の心と体を大切にし,そして,相手の心と体を大切にすること。

 それが,本当の意味での「性」です。

 そして,「性」は,自分と相手の命そのもの,さらに,新しく生まれてくる命そのものとも,深く結びついています。

 「性」は,人が人として生きていくうえで,とてもだいじなことなのです。



 一人一人が,大切な存在,大切な人間として扱われること。

 法律は,そのことを一番だいじにしています
【★12】

 だから,法律は,人間にとってだいじな「性」を守るために,いろいろなルールを作っています。

 「性」が人にとってだいじなことだからこそ,「性」についての法律上のトラブルも社会の中では多く起きていますし,

 実際,私たち弁護士も,仕事でそのような事件に多くかかわっています。



 援助交際をする大人は,表面上,あなたに優しく接しているように見えるのかもしれません。

 でも,その大人は,自分の欲望のためにお金を使っています。

 自分の体と心との付き合い方を身につけるための時期にあるあなたのことを,

 まるで,「物」のように,「人形」のように,あるいは「奴隷(どれい)」のように,買って使っているのと同じです。

 あなたを,大切な一人の「人間」として扱(あつか)ってはいないのです
【★13】


 「自分が,そんな大人とかかわっていたって,別にかまわない」。

 心の中でそう思っている子どもたちには,

 自分自身を大切にすることのできない,理由や背景があります。



 援助交際をする理由や背景は,子どもによってまちまちです。


 「援助交際の相手の大人が,自分の話を聞いてくれ,受け止めてくれる」。

 相手の表面上の優しさをそんなふうに感じるほど,

 普段の生活の中で,自分の話を聞いて受け止めてくれる大人がいない,というさみしさをかかえている子どもたちがいます。

 また,援助交際で受け取ったお金で高い物を買うことで,心のすきまを埋(う)めている子どもたちがいます。

 さらには,家族からの虐待,特に,性的な虐待を受けてきたつらさが背景にあって,そのつらさを打ち消すために援助交際をしている子どもたちも,多くいます。



 だからこそ,そのさみしさや,心のすきま,つらさについて,私たち大人といっしょに話し合ってほしいのです。


 私たちは,子どもたちのことを,大切に思っています。

 子どもたちに,自分自身のことを大切にしてほしい。

 これから死ぬまでずっと付き合う,自分の体と心,自分の「性」に,今はじっくりと向き合ってほしい。

 そう思っています。



 そして,私たち大人は,そのメッセージを,

 逮捕や保護,施設への措置(そち)という,法律のわくぐみを使わなければならない子どもたちに向かってはもちろんのこと,

 警察に捕まらずに,今,普通に暮らしながら援助交際をしている子どもたちに向かっても,

 きちんと伝えていかなければならない責任がある,と,私は思っています。

 

 

 

 

【★1】 児童買春(かいしゅん),児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条1項「この法律において『児童』とは,18歳に満たない者をいう」
同条2項「この法律において『児童買春』とは,次の各号に掲(かか)げる者に対し,対償(たいしょう)を供与(きょうよ)し,又はその供与の約束をして,当該(とうがい)児童に対し,性交等…をすることをいう」
同法4条「児童買春をした者は,5年以下の懲役(ちょうえき)又(また)は300万円以下の罰金に処(しょ)する」
【★2】 児童福祉法34条1項「何人(なんぴと)も,次に掲げる行為(こうい)をしてはならない。
(略)
六  児童に淫行(いんこう)をさせる行為」
同法60条1項「第34条第1項第六号の規定に違反した者は,10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科(へいか)する」
【★3】 都道府県の条例でも処罰の規定があります。
東京都青少年の健全な育成に関する条例18条の6 「何人も,青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない」
同条例24条の3「第18条の6の規定に違反した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」
【★4】 売春(ばいしゅん)防止法は,2条で,「この法律で『売春』とは,対償(たいしょう)を受け,又は受ける約束で,不特定の相手方と性交することをいう」とし,3条は,「何人も,売春をし,又はその相手方となってはならない」として,お金をもらってセックスすることを禁止してはいますが,その人に刑罰を科すことにはなっていません(ただし,売春そのものではなく,売春のために人を誘うやりかたなどについては,刑罰があります)。
【★5】 刑法249条1項「人を恐喝(きょうかつ)して財物を交付(こうふ)させた者は,10年以下の懲役に処する」
同条2項「前項の方法により,財産上不法の利益を得(え),又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする」
【★6】 出会い系サイト規制法(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律)6条「何人も,インターネット異性紹介事業を利用して,次に掲げる行為…をしてはならない。
(略)
二  人(児童を除く…)を児童との性交等の相手方となるように誘引すること。
(略)
四  対償を受けることを示して,人を児童との異性交際の相手方となるように誘引すること」
同法33条「第6条…の規定に違反した者は,100万円以下の罰金に処する」
【★7】 売春防止法5条「売春をする目的で,次の各号の一に該当する行為をした者は,6月以下の懲役又は1万円以下の罰金に処する。
一  公衆の目にふれるような方法で,人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二  売春の相手方となるように勧誘するため,道路その他公共の場所で,人の身辺に立ちふさがり,又はつきまとうこと。
三  公衆の目にふれるような方法で客待ちをし,又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。」
【★8】 児童福祉法25条「要保護児童を発見した者は,これを市町村,都道府県の設置する…児童相談所…に通告しなければならない。…」
 同法26条1項「児童相談所長は,第25条の規定による通告を受けた児童…,その保護者…について,必要があると認めたときは,次の各号のいずれかの措置(そち)を採(と)らなければならない。(略)」
 同法33条1項「児童相談所長は,必要があると認めるときは,第26条第1項の措置をとるに至るまで,児童に一時保護を加え,又は適当な者に委託して,一時保護を加えさせることができる」
【★9】 児童福祉法44条「児童自立支援施設は,不良行為をなし,又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ,又は保護者の下から通わせて,個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い,その自立を支援し,あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする」
 児童自立支援施設は厚生労働省,少年院は法務省がかかわる,というちがいがあります。
【★10】 子どもの場合は,犯罪をしていなくても,「犯罪をするかもしれない」というときには,裁判になることもあるのです。
少年法3条「次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。…
3.次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞(おそれ)のある少年
 イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
 ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附かないこと
 ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること
 ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」
【★11】 少年法17条1項「家庭裁判所は,審判を行うため必要があるときは,決定をもって,次に掲(かか)げる観護の措置をとることができる。
1.家庭裁判所調査官の観護に付すること
2.少年鑑別所に送致すること」
【★12】 憲法13条「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及(およ)び幸福追求(ついきゅう)に対する国民の権利については,公共の福祉(ふくし)に反(はん)しない限(かぎ)り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★13】 もちろん,10代の子どもであっても,自分の「性」のありよう(自分がだれとどんな心と体の関係をつくるか)について,自分で決めることができる自由(性的自由,性的自己決定権)があります。記事本文で書いたいろいろな法律は,10代の子どもの性的な自由と,10代の子どもの「性」を守る必要性とのバランスをとったものなのです。
 最高裁も,このバランスについて,「子どもを,さそったり,すごんだり,だましたり,とまどわせたりして,心や体がまだ成長を続けている途中だということにつけいった不当なやり方」や,「子どもを単に自分の性欲を満足させるための対象として扱っているとしかいえないようなもの」についてはその大人を処罰する,というところでバランスをとる,としています。援助交際は,まさにここに言う,大人が,「子どもを単に自分の性欲を満足させるための対象として扱っているとしかいえないようなもの」にあたります。
 最高裁大法廷昭和60年10月23日判決・刑集39巻6号413頁(福岡県青少年保護育成条例違反事件)「本件各規定…の趣旨は,一般に青少年が,その心身の未成熟や発育程度の不均衡(ふきんこう)から,精神的に未(いま)だ十分に安定していないため,性行為等によって精神的な痛手を受け易(やす)く,また,その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ,青少年の健全な育成を図るため,青少年を対象としてなされる性行為等のうち,その育成を阻害(そがい)するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであって,右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴(ちょう)すると,本条例10条1項の規定にいう『淫行』とは,広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく,青少年を誘惑し,威迫(いはく)し,欺罔(ぎもう)し又は困惑(こんわく)させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である」

Part2

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