万引きがバレて私立中学を退学するように言われてる
私立の中学校に通っています。友だちと一緒にやってしまった万引きが見つかって,学校から,「自主退学するように。自主退学しなければ退学処分にする」と言われています。友だちは,親が自主退学の手続をとってしまったみたいです。僕も退学しないといけないですか。
あなたが「退学はおかしい」と感じているなら,自主退学をする必要はありません。
万引きがやってはいけないこと,りっぱな犯罪であることは,あなた自身も分かっていることだと思います【★1】。
警察は,犯罪をとりしまるのが役割ですから,あなたに注意をし【★2】,時には事件として扱います【★3】。
学校も,あなたを立派な人間に育てるのが役割ですから,やはりあなたに注意をし,そして,時には処分をします。
やってしまった万引きについては,あなた自身も,きちんと反省をしなければなりません。
でも,だからこそ,警察や学校からの注意や処分は,あなたのやってしまったことの重大さや,あなたの反省の深さとつり合う内容でなければいけません。
やってしまったことがあまりにもひどかったり,あなたがきちんと反省していなかったりしたら。
そうであれば,少年院に行かなければならないこともあるでしょうし,学校をやめなければならないときもあるでしょう。
反対に,一回かぎりのあやまちで,被害(ひがい)も大きくなく,あなたがきちんと反省しているのだとしたら。
そうであれば,警察官からの注意ですむこともあるでしょうし,学校からも先生からの注意や自宅謹慎(きんしん)程度ですむこともあるでしょう。
だけど,一回かぎりのあやまちで,被害も大きくなく,あなたがきちんと反省しているのに,少年院に行かないといけない,学校をやめなければいけない,としたら。
それは,いくらあなたの間違ったおこないがきっかけだとしても,おかしなことです。
長い人生の中で,学校に通っている時間は,かぎられた,そして,とても大切な時期です。
どこの学校に通うかということは,とても大事なことです。
退学というのは,その大事なことを奪(うば)ってしまう,とても重い処分です。
本当にそのような重い処分まで必要なのか,とあなたが疑問に思うのはもっともです。
学校が注意をしても本人が立ち直る見込みがなくて,これ以上学校に置いておけない,というよっぽどのことがないかぎり,退学の話になるのはおかしいはずです【★4】。
退学は,ふつう,生徒のほうから「学校をやめます」と言う,「自主退学」がほとんどです。
未成年なので,親が自主退学の書面を書いて学校に出します。
あなたの友だちは,親が出してしまったのですね。
あなたは今,学校から自主退学をうながされている,勧(すす)められている立場です。
自主退学するかどうかは,あくまで,あなたとあなたの親が決めてよいのです。
ですから,納得できなければ,自主退学の書面を出さないでください【★5】。
そして,きちんと反省していることをしっかりと学校に伝えて,学校に通いたいということを学校とのあいだでよく話し合うことが大切です。
こちらが自主退学の手続を取らなければ,学校が,あなたを退学させることをあきらめる,ということも,けっこうあります。
反対に,学校があきらめずに,「退学処分」をしてしまうときもあります。
学校には,「懲戒(ちょうかい)処分」の規定があります。
学校によってルールの名前はまちまちですが,「校則」「学則」などの名前で,生徒手帳に書かれていることが多いです。
そこに書かれている規定に沿(そ)って,「何月何日をもって退学を命ずる」という文書が出されます。
(逆にいえば,その文書がなければ,まだ退学処分はされていないということ,自主退学をうながされているだけということです)。
その退学処分にあなたが納得ができなければ,裁判所で争(あらそ)う方法があります。
ほんとうに退学しなければならないのかどうかを,裁判官に判断してもらうのです。
難しい言葉ですが,「地位保全(ちいほぜん)仮処分命令(かりしょぶんめいれい)の申立(もうしたて)」という手続です。
ふつうの裁判はとても時間がかかりますが,このような事件では,だいたい1,2ヶ月程度で裁判所の判断がなされます。
裁判でもダメで退学となっても,地元の公立中学校できちんと受け入れてもらえますから,安心してください。
自主退学を断(ことわ)るとどうなるか,
自主退学をどうやって断ったらよいか,
学校とどうやって話し合いを進めていけばよいか,
退学処分になったときに,裁判所の仮処分の申立がどうやって進むか,費用がどうなるか,
など,あなたが,親と,そして弁護士と一緒に,よく話し合うことが大切です。
短い時間であまり考えずにあわてて自主退学をしてしまい,一生の後悔(こうかい)が残ることだけは,してほしくありません。
学校が自主退学を勧(すす)めるとき,「退学処分ではお子さんに傷がつきますよ,自主退学であれば傷が小さくてすみますよ」と言うことが多いです。
でも,実際には,ほんとうは退学する必要なんてないし納得もしていないのに追い出された,という思いを将来ずっと引きずる傷のほうが,はるかに大きいと思います。
あなた自身が親や弁護士など大人たちと一緒に一生懸命考え,そして自分で選んだ道であれば,たとえその結果がどんなものであれ,自信をもってこの先の人生を歩んでいくことができます。
私は,最近の学校が,教育することを軽々とあきらめて,退学処分を出してしまうことが,とても気になります。
でも,今回のことをきっかけに,あなたが自分自身を振り返り,これからの自分の道を自分で考えて,選び,動いていくことこそが,あなた自身のなによりの「教育」になると確信しています。
自分の都道府県の弁護士会か,最寄り(もより)の弁護士会の相談窓口に連絡してみてください(弁護士会の相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見て下さい)。
【★1】 窃盗(せっとう)罪です。刑法第235条「他人の財物(ざいぶつ)を窃取(せっしゅ)した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役(ちょうえき)又は50万円以下の罰金に処(しょ)する」
【★2】 「補導(ほどう)」といいます。警察から注意を受け,場合によっては親や学校,職場に連絡がいきます。この「補導」は,法律(国会で決めたルール)や条例(都道府県や市区町村で決めたルール)ではなく,警察の内部で決めたやりかたです
少年警察活動規則2条「この規則において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。…六 不良行為少年 非行少年には該当しないが,飲酒,喫煙,深夜はいかいその他自己又は他人の徳性を害する行為…をしている少年をいう」
少年警察活動規則14条「不良行為少年を発見したときは,当該不良行為についての注意,その後の非行を防止するための助言又は指導その他の補導を行い,必要に応じ,保護者(学校又は職場の関係者に連絡することが特に必要であると認めるときは,保護者及び当該関係者)に連絡するものとする」
【★3】 その後,家庭裁判所に呼び出されて裁判官から注意を受けたり,場合によっては少年院に行きなさいと言われることもあります。
【★4】 「退学処分は,生徒の身分を剥奪(はくだつ)する重大な措置(そち)であるから,当該(とうがい)生徒に改善の見込みが無く,これを学外に排除(はいじょ)することが社会通念からいって教育上やむをえないと認められる場合に限(かぎ)って選択すべきものである」(東京高裁平成4年3月19日判決,判例時報1417号40頁)。そして,その判断要素として,「校則違反の態様,反省の状況,平素(へいそ)の行状(ぎょうじょう),従前(じゅうぜん)の学校の指導及び措置,並(なら)びに処分に至(いた)る経過等」の諸事情があります(最高裁平成8年7月1日判決,判例時報1599号53頁)。
【★5】 一度書面を出してしまうと,それをなかったことにする(撤回(てっかい)する)ことはとても大変です。ただし,場合によっては撤回することができることもありますので,弁護士に相談してください。
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