ケータイを持ちたいのに親が保証人になってくれない
【2022年4月の成人年齢の引下げのため,記事を修正しました。修正後の記事は★こちら★】
ケータイかスマホを持ちたいんだけど,親が保証人(ほしょうにん)になってくれません。ケータイ代・スマホ代はアルバイトで自分で出すつもりで,親には迷惑かけないのに…。親が保証人になってくれなければケータイやスマホを持つことはできないんですか。
ケータイやスマホを持つときに,親のハンコがいる,ということは知ってますよね。
子どもも大人もよくまちがえているんですが,親がハンコを押すのは,「親が保証人になる」ということではなくて,「子どもがケータイやスマホを持つことを親がOKする」ということです。
「保証人」というのは,ある人がお金を払えなくなったときに,肩代わり(かたがわり)してお金を払う人のことです【★1】。
たとえば,住む部屋を借りる契約(けいやく)を大家さんとの間でするときには,必ずといっていいほど,「保証人」が必要です。
家賃が払えなくなったり,部屋をこわしてしまって弁償(べんしょう)するお金がなかったりしたときに,自分の代わりに,大家さんに払ってもらう人のことです。
家を買うために銀行から住宅ローンでお金を借りるとき。
自分で立ち上げた会社が銀行から事業資金を借りるとき。
そんなときなどにも,万が一のときのために,保証人がもとめられたりします。
でも,ケータイやスマホを子どもが自分の名義で持つときに,親が保証人になるわけではありません。
ケータイやスマホの申し込みの用紙をよく読んでみて下さい。
「保証」という言葉は書かれていません。
それでも心配ならば,「自分が払えなくなったときに親が払わなくてはいけなくなるんですか?」とケータイショップの人に聞いてみて下さい。
「そういうことではありません」と答えが返ってきます。
親がハンコを押すのは,「本人が払えなくなったときに親が肩代わりして払います」ということではありません。
親がハンコを押すのは,「本人がケータイやスマホを持つことをOKします」ということです。
法律のことばで,「同意(どうい)」といいます【★2】。
人は,「どんな人と,どんな約束をしてもいい」という自由があります【★3】。
お互いが納得していれば,まわりの人がとやかく口をはさむことはできません。
だから,ある人が,ケータイ会社との間で,「料金を払うのでケータイやスマホのサービスを使います」という約束をするのは,ほんらい,自由です。
(このような法律的な約束を,「契約」(けいやく)といいます)
でも,お互いの力に差があったら,弱いほうに一方的におかしな約束を押しつけられてしまう危険があります。
だから,法律では,お互いの力に差があるときに,弱いほうがこまることのないよう,いろんなルールを作っています。
お年寄り【★4】,消費者(しょうひしゃ)【★5】,働く人【★6】,アパートなどの借り手【★7】など,いろんな人を,いろんな特別のルールで守っています。
そして,子どももそうです。
おかしな約束をほかから押しつけられて子どもがこまることのないように,親が約束の内容を前もってチェックし,大丈夫であれば「同意」する(=OKする)ことが,ルールとして決まっているのです。
そもそも必要のないことではないか,金額や料金プランは高すぎないか,など,子ども自身がこまらないかどうかを,親がチェックしなければいけないのです。
もし,親の「同意」がないのに子どもが約束してしまったら。
そのときは,「親がOKしていなかった」という理由で,約束をはじめからなかったことにしてしまうことができます【★8】。
ただし,「約束をなかったことにする」とはいっても,すでに使ってしまったケータイやスマホの料金ぜんぶを払わなくてすむわけではありません。
本人が「むだづかい」をして高い料金になった部分は払わなくてもすみますが,必要だったと思われる料金の部分は払わないといけません【★9】。
親が「同意」しなければ,子どもはケータイやスマホを持つことはできません。
だからといって,ウソをついて,申込書に親の名前を勝手に書いてハンコをつくことは,やってはいけません。
他の人の名前を書いてハンコを押したり,その文書を使ったりすることは,りっぱな犯罪です【★10】。
それに,「親からOKをもらいました」とウソをついて相手をだますと,「本当は親がOKしていなかったんです」といって約束をナシにすることが,できなくなってしまいます【★11】。
そうすると,こまるのは,あなた自身です。
「むだづかい」をして高い料金になった部分であっても,あなたが払わなくてはなりません。
そういうことのないように,前もって親がきちんとチェックして「同意」しましょう,というルールになっているのです。
だから,親が「同意」してくれないときには,親ときちんと話し合って納得してもらう,ということが,なにより大切です。
親がハンコを押すのは,「OKすること(同意)」であって,「親が肩代わりして払う(保証)」のではないことを,きちんとわかってもらいましょう。
そして,自分がこまることにはならないと親に安心してもらえるように,料金プランや,ケータイ・スマホの使い方を,きちんと説明してみましょう。
やがて,20歳になったとき,成人し,大人になったとき(※),そのとたんに法律では一人前とされて,いろんな約束ごとを自分で判断していかなければならなくなります【★12】。
【※2022年4月,成人年齢が20歳から18歳に引下げ】
これは,けっこう大変なことです。
未成年のうちは,約束ごとのしかたを,親のサポートを受けながら学んでいくことのできる,大事な時期なのです。
【★1】 民法446条1項「保証人は,主(しゅ)たる債務者(さいむしゃ)がその債務を履行(りこう)しないときに,その履行をする責任を負う」
【★2】 民法5条1項「未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない」
【★3】 難しいことばで,「私的自治(してきじち)の原則」といいます。
【★4】 認知症などで判断能力が弱くなった人などのための,成年後見(せいねんこうけん)制度があります(民法7条~,民法838条~,任意後見契約に関する法律)。
【★5】 消費者契約法などで,モノやサービスを買うがわである消費者が保護されています。
【★6】 労働基準法,労働契約法などで,会社などでやとわれて働いている人が保護されています。
【★7】 借地借家法で,アパートや建物,土地の借り手のがわが保護されています。
【★8】 これを,「取消権(とりけしけん)」といいます。民法5条2項「前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる」
【★9】 民法121条「取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす。ただし,制限行為能力者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。」
【★10】 私文書偽造罪(しぶんしょぎぞうざい)という犯罪と,偽造私文書行使罪(ぎぞうしぶんしょこうしざい)という犯罪になります。
刑法159条「行使の目的で,他人の印章若(も)しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書…を偽造…した者は,3月以上5年以下の懲役に処する」
刑法161条「前2条の文書…を行使した者は,その文書…を偽造…した者と同一の刑に処する」
【★11】 民法21条「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術(さじゅつ)を用(もち)いたときは,その行為を取り消すことができない。」この条文は,自分が「大人だ」とウソをついたときのことしか書かれていませんが,「親がOKした」とウソをついたときも同じように取り消せない,と読むのが一般的です(内田貴「民法Ⅰ」)。
【★12】 民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則1条 「この法律は,平成34年4月1日から施行する」
民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)附則2条2項 「この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(略)は,施行日において成年に達するものとする」
改正前の民法4条 「年齢20歳をもって,成年とする」
改正後の民法4条 「年齢18歳をもって,成年とする」